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日本銀行記者会見2011年6月23日森本宜久, 審議委員

森本審議委員記者会見(2011年6月23日)要旨

全文

§1Question

2点お伺いします。1つ目は、本日、地元の経済界の方と懇談をされましたが、改めて長崎県の経済についての所感をお尋ねします。2つ目は、懇談の冒頭挨拶で言及された上海航路についてですが、インバウンド(訪日)観光の拡大に物流が加わってくれば、日本経済が活性化するというような期待感を示していらっしゃいますが、この点についてもう少し詳しくお聞かせ下さい。

§2Yoshihisa Morimoto

長崎県経済については、色々な立場で活性化に向けて積極的な取り組みがなされているとの印象でした。懇談会の中でも長崎県の経済について触れられていましたので、まずは長崎県の経済についてお話したいと思います。長崎県の経済は昨年来、持ち直しの動きが続いていましたが、東日本大震災の発生に伴い部品調達が困難となり、精密機械の一部が操業を停止したほか、自粛ムードや原発事故の影響等から消費手控え、また、観光客の予約キャンセルの動きが広範にみられたとの話もありました。ただ、当地主力の造船や一般機械が全体として高操業を続けているほか、電子部品等でも東日本大震災に伴う代替生産の実施の動きがみられており、自動車産業のウエイトが当地は低いといったこともあって、生産面への影響は比較的軽微なものに止まっている状況だと思います。また、外国人観光客は引き続き大幅に減少しているとのお話がありました。ただ、修学旅行の増加等もあり、国内観光客は回復してきているほか、消費手控えの動きも次第に和らいできているということが全般的な話としてありました。こうした中で、本日の懇談会では、造船関係では、「円高の影響等から採算を確保しづらい」とか、観光業界からは、「大震災の影響から外国人観光客が激減している」といった実感のこもったお話があり、収益環境の厳しさを指摘する声が随所で聞かれました。

§3Yoshihisa Morimoto

また、中小企業の業況の先行き不透明感が増していく中で、資金繰りがやや窮屈化しているといったお話もありました。加えて、離島の人口減少・高齢化、経済の低迷といった現状を踏まえ、離島振興の必要性に関する指摘が行政・産業界を問わず聞かれました。ただ、そうした中でも、「当地の造船所では、大型客船の受注に向けた商談が進行している」とか、新アジア軸の構築に向けた長崎県の優位性──これはいわば、歴史的、地理的優位性ということですが──、これをより強固にすべく、「“上海航路復活プロジェクト”といった観光の活性化策を着実に推し進めていく」という、中長期的にみて地元経済の活性化に大きく結び付くような官民を挙げた取組みが進められているとの前向きな話が多方面から聞かれました。冒頭申し上げたとおり、歴史資源や観光資源等に恵まれた当地ですが、こうしたことを活かしながら、地域の活性化に役立てていきたいとの力強い話が聞かれました。そうした中で、ご質問にありました上海航路についてです。先程も少し触れましたが、古い昔の上海航路という懐かしい思い出を再現して、 “アジア国際戦略”のもと「アジア全体の活力を長崎県経済全体に取り込んで、さらに大きく周辺にも拡げていきたい」という“夢”を官民挙げて実現していこうとの話が聞かれました。

§4Yoshihisa Morimoto

特にこれを推進しておられる民間の方では、上海航路は、船便であり航空便に比べても低価格で、移動時間がある程度あるため、その道中で色々なイベントをするなど、大勢の方に喜んでもらえるような新たな航路として、長崎県の活性化に結び付けていく“夢”の第一歩を是非実現し、これを定期航路化して発展させていきたいとのお話がありました。

§5Question

冒頭挨拶の中で、米国経済の減速、あるいはギリシャ国債の流通利回りが 15%に達していることを挙げて、海外のリスクがこれまでより大きくなっているとの認識を示されたと思います。これは足許、金融政策において、より緩和的な方向に進まなければいけないのではないかとの懸念を示されているとの認識でよろしいでしょうか。

§6Yoshihisa Morimoto

海外経済の状況について、まず米国についてみると、FOMCの報告も出ていましたが、最近の主要な経済指標では市場予想を下回るものが多くなっており、米国経済についても慎重な見方が多くなっているかと思います。もともと、米国経済については、家計のバランスシート問題が引き続き非常に重石になっている中で、国際商品市況の影響でガソリン価格が高騰している状況も受け、個人消費の伸びが足許鈍化しています。また、生産も日本のサプライチェーン障害の下押し要因もあり、足許減速している状況があったと思います。FOMCでも、そうした状況について一時的ではないかとの見方がなされたと思います。いずれにしても、そうした状況は時間とともにある程度緩和されていく方向にあり、また、緩和的な金融環境はさらに継続するため、これに支えられ、成長テンポを再び回復させていくのではないか── 年後半から緩やかではあるが回復軌道に復していく── との見方がありましたが、概ね私どもの展望レポートでもそうした方向で考えています。ただ、下振れリスクの要因が少し大きくなってきていますので、引き続きこうした面については注目していきたいと考えています。欧州経済については、ドイツなどコア国は好調な一方、周縁国は債務問題により低調な動きを続けており、全体としては、ばらつきを伴いながらも緩やかに改善している状況だと思います。

§7Yoshihisa Morimoto

ただ、ご質問の趣旨もおそらくそういうことだと思いますが、金融面でもソブリンリスク懸念が非常に重くのしかかってきていると思います。特にギリシャの債務問題に対する不透明感が非常に強く残る中で、周縁国の国債利回りの対独スプレッドは、既往ピーク圏にあります。こうした中で、いわゆる周縁国全体の景気の下振れという問題に直面しており、債務問題の解決がさらに困難になっている面があり、 EU全体で対応が急がれている状況と思います。ギリシャについても、当面の資金繰りについては、何とか目途をつけたのではないかと思いますが、いずれにしても、周縁国が、政府部門の過剰債務を圧縮していく道筋を何としても付けることが大変重要なことだと思います。緊縮財政、あるいは民営化プログラムなど、産業競争力の強化に向けた構造改革が必要であることを、国と国民が危機感をもって共有して、着実に必要な政策を採っていかなければならない状況にあると思います。そうした意味で、現状から判断すると、予断を許さない状況でもありますので、海外のリスクがやや大きくなっているのではないかということで、そのような表現にしました。

§8Question

先日の金融政策決定会合で導入したABL(動産・債権担保融資)に対する支援について伺います。全銀協の会長が、米国と違って日本では、ABLで融資した際、担保について第三者から権利を主張された時にそれに対抗できるだけの条件が整っていないので、日本で導入するのは難しいとの見解を示されています。この点について、日銀として、どのようにしてこれが拡大していくとみているのか、何が必要かということについて教えて下さい。

§9Yoshihisa Morimoto

ABLは、米国では40 兆円以上の市場があるのですが、日本ではまだ3~5 千億円程度の規模かと思います。この意味で、十分に普及していると言える状況ではありませんが、これから成長を目指す企業── 中小企業や、色々と前向きに取り組みたいとする企業──が多くあると思います。しかし、出資等の資本性の資金が不足するケースがある、あるいは十分な不動産や人的保証等の担保を持たないために十分な資金を受けられないケースがあるとの声があります。こうした状況をみて、私どもとしては、是非、後押ししていきたい、潜在的な成長の芽を掘り起こしていきたい、企業のこうした前向きな活動を引き出す方向で金融機関の成長基盤の強化に貢献する力を後押ししていきたい、との趣旨で導入を決めました。ご質問にあるとおり、ABLについては、日本ではなかなか手法が確立されているわけではないということは事実だと思います。ただ、こうした成長を目指す企業が、そういう制約要因がある中で、新たに将来を拓いていける、道筋をつけていけることが非常に大事ではないかと思っています。日本銀行として、こうした金融手法があることについて情報発信・情報提供を進めていくことにより、この市場の認知度が向上し、ABLが少しでも拡がっていくことを強く希望しているところです。

§10Question

挨拶の最後に述べられた、被災地向け支援についてお伺いします。被災地の再生さらには成長のため、復興支援の枠組みについてどのような措置が考えられるかを今後検討していくと述べられましたが、これは、今あるものに加えて新たな被災地向けの支援策を検討している、あるいは、今後検討していくことを示唆されているということでよろしいでしょうか。

§11Yoshihisa Morimoto

被災地では、当面、運転資金や復旧資金が色々な面で必要になってきますので、ご承知のとおり、初期的な対応ということで、迅速に資金を供給していく目的から、被災地金融機関を支援するための資金供給を開始しました。5月、6月と併せて、2 千億円程度の資金供給になっています。一方で、これから復興に向けた色々な青写真が描かれ、その道筋に沿って進められていくと思うのですが、現段階では復興需要がどの段階で、どの程度の規模で出てくるかということがなかなか見えませんし、国としても具体的にどのような支援をされていくのか、また、金融機関がどういった対応を採られるのかもこれからです。そうした全体感をみながら、私どもとして、初期対応として迅速に実施した被災地金融機関向けの資金供給の状況もみつつ、さらに何か貢献できることがあるのかどうか、しっかり検討していきたいと考えています。

§12Question

長崎県では、離島における人口減少が大きな問題となっていますが、この点に関し、本日の懇談会ではどのようなお考え、またはアドバイスをされたのでしょうか。また、上海航路に関しては、懇談会の挨拶の中でも少し触れていらっしゃいますが、成功のためにどのような対策が必要になってくるのかという点について、詳しく教えてください。

§13Yoshihisa Morimoto

離島の現状につきましては、以前より非常に大きな問題だと思っていましたが、長崎に来て、私の想像していた以上に、直面している問題は大きいと感じました。「長崎県の人口減少の相当大きい部分は離島である」という話ですとか、「離島は一次産業が中心であるため、魚価の低迷や燃料価格の高騰など、非常に厳しい状況に直面している」というお話がありました。そうした面について、行政としては、補助金やハード面での色々な支援に加え、通信インフラといったソフト面も支援しながら、何とか活性化に繋げていきたいといったお話もありました。そうした中で、アジアの活力をというお話がありましたが、東アジア全体の中で、特にクルージング客船の受注に結び付けることができれば良いといったお話もありました。そうした新たな需要を模索するとか、離島の中にはキリスト教関係の文化遺産などが色々とありますので、これらを総合的に、皆さんが魅力を感じるようなかたちで情報発信していかれることで、長崎県が持つ歴史資源や観光資源をトータルとして活かされるような工夫をしていかれると良いのではないか、といったお話をさせて頂きました。上海航路につきましては、非常に大きなプロジェクトだと思います。

§14Yoshihisa Morimoto

昔の上海航路は、こちらから向こうへということであったと思いますが、今度は向こうの人も積極的に呼ばないといけないということですので、そういう中で、来て頂いた時の受け皿作りとして、「言葉の問題も含めた人材育成などを色々としていかなければならない」とか、「全体として相当強い取り組みをしていかないとなかなか成功に結び付かない」ということで、そういう意味で官民を挙げた取り組みになっていると思います。行政および民間の方は、上海プロジェクトにかける“夢”というものを、非常に強く語っておられましたが、長崎だけではなく、佐世保などの周辺地域を含め、相当に広範囲での経済波及効果があると思います。こうした全体での取り組みとして是非とも成功させるという強いお気持ちがありました。新しい取り組みでもあるため、時間はかかるかと思いますが、皆さんの強い意志の表れとして、着実に前進されることを願ったところであります。

§15Question

森本審議委員は東京電力のご出身ですので、電力業界については、非常にお詳しいかと思います。浜岡原発の運転停止をきっかけとして、全国的に現在休止中の原発の運転再開ができないのではないかとの懸念が出てきています。来年夏には、現在停止中の原発が運転できない、また、現在運転中の原発が点検に入って運転できなくなるということになると、全国の原発が止まってしまうリスクを指摘する声が増えています。そうした点について、どの程度の可能性があるとご認識されていらっしゃるのでしょうか。また、仮に全国的に原発が全て停止した場合、電力料金や生産など経済活動に対する様々な影響があると思いますが、具体的にどのような影響が予想されるのか、ご意見を頂ければと思います。

§16Yoshihisa Morimoto

浜岡原発の停止に伴い、停止中の原子力発電所の再稼働問題と、これによる電力の安定供給については、やや長い目でみて不確実性が増してきており、先行きについては順調に運転再開されるかどうか、来年春以降、全原発が止まってしまうという事態も最悪は考えられるわけですが、予断を許さない状況だと思います。国や原発立地県等の関係者の皆さんの間で、今後、安全確認等に関する色々な議論が尽くされるかと思いますので、状況を見守ってまいりたいと思います。また、原発が全て停止した場合の影響についてですが、これは私が申し上げるまでもなく、先行きの日本経済に大変大きな影響を与えるかと思います。具体的にとのお話ですが、エネルギー需給、エネルギーコスト等を含めて、これは全般に大きく関わる話ですので、細かく触れることは控えさせて頂きたいと思います。

§17Question

先程の質問に関連して、原発の代替で火力発電シフトが進んだ場合、コスト増が考えられるかと思いますが、企業収益や個人消費といった内需に与える影響について、どのようになるとお考えでしょうか。

§18Yoshihisa Morimoto

定期点検で休止した原子力発電所の再開がこれからどうなるか、先行きはなかなか不確実だと思います。そのようにならないよう、現在、関係者の間で全力の努力がなれているかと思いますので、これからも状況を見極めていきたいと思います。ただ、そうした事態に至った場合の火力発電による代替等の問題については、供給力の問題もありますし、コストが上がってくることは間違いない事実だと思います。繰り返しとなりますが、そのような事態を招かないよう、安全確認といった面で色々と議論され努力が尽くされることを願っているところです。

§19Question

電力会社の資金調達についてお伺いします。震災後、東京電力の社債のスプレッドがかなり拡大していますし、格付けも投機的水準まで引き下げられています。そうしたスプレッドの拡大は、他の電力会社の社債にも及んでおり、関西電力は今月起債を見送りました。こうした電力会社の資金調達、また、東京電力の資金繰り状況が金融市場に与える影響について、どのようにお考えでしょうか。

§20Yoshihisa Morimoto

電力債のお話が出ましたが、一般的に現在の社債市場をみると、全体として落ち着きを取り戻しており、色々な事業法人による起債の動きが拡がっていると思います。総じてみれば、発行環境は改善しているのではないかと評価しているところです。ただし、そうした中にあっても、一部を除く電力債については、発行体と投資家の希望する条件になお開きがあるケースもみられているところです。個々の発行体に対するコメントは控えさせて頂ければと思いますが、いずれにしても、わが国の社債市場に占める電力債のプレゼンスは相当大きいので、しっかりと状況を注視して参りたいと思います。また、東京電力の資金調達についてのお話もありました。この点も個別企業に関するコメントは控えたいと思いますが、いずれにしても、東京電力の資金調達というより、今回の原発事故の被害者の方に迅速且つ確実に損害賠償が行われ、また、電力の安定供給がしっかりと図られていく、こうした視点からみていく中で、金融市場が安定し、東京電力にも資金が行き渡るような仕組みがこれから色々と検討、議論されていくのではないかと思っています。以上