総裁定例記者会見(2011年10月27日)要旨
全文
§1Question
本日の金融政策決定会合の結果につきまして、公表された展望レポートの内容と追加緩和の内容を踏まえて、ポイントをご説明下さい。
§2Masaaki Shirakawa
日本銀行は、本日の金融政策決定会合において、金融緩和を一段と強化するために、資産買入等の基金を5 兆円程度増額し、55 兆円程度とすることとしました。次回会合までの金融市場調節方針については、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、展望レポートの内容に即して、ご説明します。最初に、わが国経済の先行きに影響を与える国際金融資本市場や海外経済の動向についてです。国際金融資本市場では、本年夏以降、欧州のソブリン問題に対する懸念などから、緊張が高まった状態が続いています。グローバルな投資家のリスク回避姿勢が強まっているため、世界的に株価は振れの大きい展開を続けており、欧米では社債などの信用スプレッドが拡大しています。海外経済については、このところ、先進国を中心に、成長ペースが鈍化しています。先行きについては、当面は、国際金融資本市場の緊張が残る中、先進国を中心に減速した状態が続くと考えられますが、その後は、新興国・資源国が、インフレ圧力の低下に伴って、高めの成長を実現することなどから、再び成長率を高めていくと考えられます。
§3Masaaki Shirakawa
次に、わが国の金融環境をみると、CPや社債の発行環境が良好な状態を続け、企業の資金調達コストも緩やかに低下するなど、緩和の動きが続いています。先行きについても、日本銀行による強力な金融緩和の効果が一段と浸透していく中で、緩和の動きが続き、国内民間需要が自律回復に向かう動きを支えていくと予想されます。こうした海外経済の動向と内外の金融情勢などを踏まえた上で、わが国の経済・物価の中心的な見通しについて述べます。わが国経済は、当面、海外経済の減速や円高の影響を受けるものの、その後は海外経済の成長率が再び高まることや、震災復興関連の需要が徐々に顕在化していくことなどから、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、当面はゼロ%近傍で推移すると見込まれますが、中長期的な予想物価上昇率が安定的に推移するとの想定のもとで、マクロ的な需給バランスが改善していくことなどから、見通し期間の後半にかけてゼロ%台半ばになっていくものと考えられます。こうした中心的な見通しに対し、経済の上振れ要因・下振れ要因としては、4 つの点を挙げました。第 1 に欧州ソブリン問題を中心とする国際金融資本市場を巡る動向、第 2 に、この点とも関連しますが、海外経済の動向、第 3 に復興需要の動向、第4 に企業や家計の中長期的な成長期待です。
§4Masaaki Shirakawa
物価の上振れ・下振れ要因としては、経済の上振れ・下振れから受ける影響に加え、物価固有のリスクとして、第 1 に企業や家計の中長期的な予想物価上昇率、第 2 に輸入物価の動向を挙げています。以上の経済・物価見通しについて、2 つの柱に基づいて整理すると、まず第1の柱については、わが国経済は、「中長期的な物価安定の理解」に基づいて物価の安定が展望できる情勢になったと判断されるにはなお時間を要するものの、やや長い目でみれば、物価安定のもとでの持続的成長経路に復していくと考えられます。次に、第 2 の柱に基づきリスク要因を点検すると、景気については、バランスシート調整が米国経済に与える影響には引き続き注意が必要です。また、欧州のソブリン問題については、今後、財政と金融システム、実体経済の負の相乗作用が、強まっていくことにならないかどうか、注視していくことが必要です。新興国・資源国では、物価安定と成長を両立することができるかどうか、なお不透明感が高いと考えています。こうした海外情勢を巡る不確実性や、それらに端を発する為替・金融資本市場の変動が、わが国経済に与える影響については、丹念に点検していく必要があります。物価面では、国際商品市況の先行きについては、上下双方向に不確実性が大きいと考えています。中長期的な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下振れるリスクもあるとみています。
§5Masaaki Shirakawa
以上の経済・物価見通しを検討する過程では、物価の安定が展望できる情勢になったと判断されるにはなお時間を要すると予想される上、国際金融資本市場や海外経済の動向次第で、見通しがさらに下振れするリスクにも注意が必要であるとの認識が共有されました。その上で、物価安定のもとでの持続的成長経路への移行をより確かなものとするためには、金融緩和を一段と強化することが必要と判断しました。その際、わが国の金融環境が緩和の動きを続けるもとで、企業の資金調達が基本的には円滑に行われている現状を踏まえ、資産買入等の基金を5 兆円程度増額する対象は長期国債とし、それを通じて金融市場全体に緩和効果のさらなる浸透を図ることが適当と判断しました。なお、日本銀行は、資産買入等の基金とは別に、銀行券需要の趨勢的な残高に見合うよう、安定的な資金供給を行うという観点から、現在、年間21.6 兆円の長期国債を買入れています。日本銀行は、包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進、金融市場の安定確保、成長基盤強化の支援という 3 つの措置を通じて、今後とも、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針です。こうした日本銀行の取り組みが、日本経済の中長期的な成長力の強化に結びつくためには、民間、政府を含め各方面が、極めて緩和的な現在の金融環境を活用しつつ、それぞれの役割に即した取り組みを続けていくことが重要と考えています。
§6Question
足許、歴史的な円高水準が続いていますが、このタイミングでの追加緩和の背景には、この歴史的な円高の水準の影響を強く意識した結果という理解でよろしいでしょうか。
§7Masaaki Shirakawa
今回の金融緩和は、先程申し上げた経済・物価情勢を踏まえて、決定したものです。もちろん、為替の円高は、経済・物価の見通しに影響を与える1 つの要因ですが、これだけではありません。欧州の経済情勢、欧州のソブリン問題が日本の経済に与える影響などを勘案しました。8月の緩和では、先々のリスクを相当程度、前広に織り込んで緩和を決定しましたが、そうしたリスクの一部が既に顕在化してきている上、先々の経済を考えた場合に、下振れリスクをより意識したほうが良いと考え、今回、緩和を決定しました。
§8Question
基金増額の規模について、今回、10 兆円という提案が委員の中からあったようですが、結果的に5 兆円という規模になりました。また、買入れの対象を長期国債にした理由と狙いについて、少し詳しくご説明頂けますか。
§9Masaaki Shirakawa
先程の説明とかなり重なりますが、今回、買入基金の増額を行う前に、枠の余裕が 10 兆円ありました。そのもとで買入れを行っているわけですが、今回、先程申し上げたような経済・物価情勢のもとで、私どもとしては金融緩和の強化が必要であるとして、さらに5 兆円を上乗せしたということです。昨年10月に包括緩和を始めた時に、リスク性資産を含めて幅広い資産を買って、長めの金利に働きかける、あるいはリスクプレミアムに働きかけることを行ってきました。現在の金融環境をみると、CP、社債の市場は非常に円滑に回っています。従って、このリスク性資産を強く意識して緩和を行わないといけないという情勢ではありません。従って、リスクフリーの金利である長期国債金利に働きかけて、それを通じて、満遍なく緩和の効果を及ぼしていくことが適当だと判断しました。
§10Question
欧州債務危機に関する対応の包括策について、大枠合意が決まったようですが、この件について総裁はどのように評価しておられるかご説明下さい。
§11Masaaki Shirakawa
23日、26日と開催された欧州サミットでは、欧州各国の政府債務や金融システムに対する潜在的な不安感を払拭するために、多岐に亘る合意がなされました。民間投資家の協力をもとに、ギリシャ政府の債務負担を大幅に削減することが合意されたほか、欧州各国への危機の波及を防止するために、欧州金融安定化基金(EFSF)の実質的な融資能力を拡大することも決定されました。また、欧州金融機関の財務基盤を一段と強化していくための自己資本充実の方向性も示されました。これらの一連の決定は、財政と金融、実体経済の負の相乗作用の強まりを防止する上で、意義が大きいと考えています。各国政府や関係者は、今回の合意に基づき、必要な取組みを着実に進めていくことが望まれます。もっとも、今回の合意だけで、欧州債務問題が解決するわけではありません。ソブリン問題を抱えた各国政府は、抜本的な歳入・歳出の見直しによって財政健全化を着実に実行するとともに、産業競争力強化など中長期的な成長力を高める構造改革に正面から取組む必要があります。さらに、欧州全体については、欧州の安定と持続的な成長を実現していくために、経済ガバナンスの強化にしっかり取組んで行くことが大切だと考えています。
§12Question
先程も一部質問に出ましたが、連日円が最高値を更新しているという状況ですが、この円高が日本経済に与える影響をどのようにみていらっしゃるか、この解決策というのは金融政策だけで歯止めが掛けられると思っていらっしゃるか、改めてお考えを聞かせて下さい。
§13Masaaki Shirakawa
円高の影響ですが――これまでこの席で申し上げたことの繰り返しになって恐縮ですが――、円高には、メリットもデメリットもあるほか、時間の経過とともに影響の表れ方も異なってきます。現時点での円高については、日本経済にとって企業のマインド、収益あるいは輸出等に与えるマイナスの影響が大きいと判断しています。このことは、私ども自身の景気の判断にも組み込んでいます。もちろん、円高に伴うプラスもあります。現在、日本の貿易収支はほぼバランスしている、ないしは若干の赤字です。電力の供給不足に伴って原油あるいはLNGの輸入が増えているので、輸入の金額は前年対比でかなり増えています。この円ベースでの支払金額は、円高によって軽減されているという面もあります。そういう意味で、先程申し上げたマイナスとプラスの面があり、加えて時間とともに影響の出方も違ってきますが、結論的には、先程申し上げたように、現時点での円高についてはマイナスの影響の方が大きいと判断しています。2 番目のご質問については、円高が生じている背景を申し上げることがお答えになると思います。欧州のソブリン問題が特にそうですが、世界経済全体としての不確実性が非常に高まっていることで、グローバルな投資家が一段と安全資産選好を強めているということだと思います。
§14Masaaki Shirakawa
そういう中で、相対的に安全であるとみられる通貨に買いが集まりやすい状況が、特にこの欧州問題が厳しさを増してから強まっていると思います。そういう意味で、欧州を中心とする世界経済の不確実性が低下していくための取組みが――円高対策という言い方が良いかどうか分かりませんが――、円相場に対して大きな影響があると考えています。
§15Question
今回決めた基金の 5 兆円増額が、今回の展望レポートで示された、今年度、来年度と下方修正になっている見通しについて、例えば、経済成長率をどのくらい押し上げるものなのか、その効果について総裁のお考えをお答え下さい。また、今回、長期国債の買入れが増額対象になるわけですが、これがマクロ経済へどのように影響していくのか、もう少し分かりやすくご説明下さい。
§16Masaaki Shirakawa
1 問目と 2 問目を、まとめてお答えしたいと思います。現在の包括緩和のもとで、長めの金利に働きかける、あるいはリスクプレミアムに働きかけることを通じて、全体としていわゆる金融環境――英語でファイナンシャル・コンディションズと呼びますが――、に働きかけて、それを通じて実体経済に対してプラスの影響をもたらしていこうというのが、基本的な考えです。今回、残存 1~2年の国債に限定して買入れるということは、このゾーンの長期金利をその分引き下げる、働きかけるという効果があるわけです。そのことが、そのゾーンに隣接したゾーンの金利にも影響を与えていくということです。それからさらに、民間企業の資金調達コストは、リスクフリー金利に信用スプレットが乗るわけですが、ベースとなる金利が下がることによって、それが企業にも均霑していくということです。これがコストを通ずる効果ですが、もう1 つ、現在のように不確実性が高い局面で、日本銀行が経済の下振れリスクに配慮して金融緩和措置を採ったということそれ自体が、やはり安心感に繋がっていくと考えています。量的な形でその効果をうまく検証できないかというお尋ねです。もちろん可能であればそうしたいわけですが、 FRBのQE2についてもそうであるように、なかなか定量的な評価をしにくいと思っています。
§17Masaaki Shirakawa
もちろんQE2についても、いわゆるイベントスタディ、つまり政策措置を発表したその日の金利の変化幅から効果を推測するという方法で若干の定量的な評価結果も出されています。ただこれは、その日のいわば瞬間的な効果だけを取り上げたものですから、少し長い目でみて、どれくらいの効果があるかを測ったものではありません。それから、ましてや金利の低下が実体経済にどれくらい影響を与えるかについては、今のところ私の知る限り、しっかりとした分析はないように思います。もちろんある程度データがまとまってくれば、そういう分析も可能かと思います。そういう意味で、私どもとしては定量的にはなかなか示しにくいところはありますが、先程申し上げたルートを通じて経済を下支えする効果はあると考えています。
§18Question
2 点お伺いします。1 点目は、来週、FRBがFOMCの開催を予定しており、市場でも金融緩和観測が出ていますが、このことが今回の政策決定に影響を与えたのでしょうか。2 点目は、今回の資産買入れは、2年物を中心としたゾーンに働きかける狙いがあるという話がありました。以前、総裁が 2年物の日米金利差と為替相場の連関性が比較的高いという趣旨の発言をされましたが、今回の措置が為替相場に働きかける影響を考慮したのかについて、お伺いします。
§19Masaaki Shirakawa
次回のFOMCでどのような金融政策上の決定がなされるのかについては、もちろんコメントすることは不適切ですが、どの国の中央銀行も世界経済全体の状況をみて自国の金融政策を決定しているわけです。その意味で、各中央銀行がみている対象は当然同じですので、ある意味で、FRBも――日本銀行の行った金融政策に影響を受けているという言い方が良いかどうか分かりませんが ――、基本的に同じデータ・情報をみているわけです。その意味で、日本銀行の金融政策は、FRBがみている金融経済情勢も含め、入念に点検しているということです。2年物金利については、この席で何回か申し上げたことが 2 点あります。1 点目は、日本の場合、企業の借入れの平均期間は米国と違い随分短いということです。米国の場合、企業は社債による調達が多いですし、住宅ローンについても固定金利30年という長い期間での借入れが多いわけです。従って、より長い金利に働きかけることが、米国経済を考えれば合理的な判断です。一方、日本の場合、統計上の制約があるので細かな部分までは分かりませんが、3年以下のゾーンの借入れが多いということです。2 点目は、いつもそうだと言うつもりはありませんが、最近、為替の面でも、分析結果からみれば、2年物の内外金利差との相関が相対的に高いということです。
§20Masaaki Shirakawa
ただ、先程、別の記者のご質問に答えた通り、為替相場を規定する大きな要因は、現在は安全資産選好、つまり世界経済全体を巡る不確実性が大きいということであると感じています。
§21Question
総裁は、8月に10 兆円の基金増額を実施した段階で、相当前広にリスクを織り込んで追加緩和を行ったと言われました。今回、5 兆円追加したわけですが、8月と今回を比較して、どのような点が大きく変わったのかについてご説明下さい。
§22Masaaki Shirakawa
8月の情勢と現在の情勢を比較して、何か大きな変化があったと思っているわけではありません。8月の段階で織り込んだリスクが、現実に顕在化してきているということです。ただ、問題となっている欧州の情勢について、8月の決定会合の段階から今日に至るまでのプロセスを考えてみると、やはりさらに厳しさを増してきたというのが、ごく直近までの変化だと思います。欧米の金融市場はやや緊張感を高めている一方、今のところ日本の金融市場は非常に安定していますが、先々の下振れリスクを考えた場合、ここでもう一段の追加緩和を行った方が良いという判断になりました。
§23Question
質問が重なってしまうかも知れませんが、そもそも論ですが、宮尾委員が本日、10 兆円の増額を提案されて否決されています。しかしながら、本日増額を決定した金額は、例えば 2 兆円でも 3 兆円でもなく、10 兆円でもなく、なぜ5 兆円だったのでしょうか。合理的な説明をお願いします。
§24Masaaki Shirakawa
多分、同じように、FRBのバーナンキ議長に、QE2は、6,000 億ドルですが、なぜ5,000 億ドルではないのか、なぜ7,000 億ドルではないのか、と聞いた場合に、正確に6,000 億ドルと、ピッタリと方程式で答えられるものではないと思います。ただ、従来、日本銀行は、増額する時に5 兆円の刻みで行いました。8月の段階では、先々相当リスクが高まるということで、それを思い切って 10 兆円にしたということです。今回もリスク認識としては引き続き厳しいものを持っていますが、前回増額した枠のもとでこれからまだまだ買入れを進めていくという段階ですから、そういう意味で5 兆円にしたということであって、なぜ4 兆円ではないのか、なぜ6 兆円ではないのか、というのは、なかなか表現するのが難しいところです。
§25Question
2 点伺います。買入基金では、国債の年限を残存 2年以下と限っていますが、その理由と、年限をもう少し延ばしても良いのではないかとの意見もあると思いますが、総裁のご意見をお聞かせ願います。また、展望レポートで2013年度の物価見通しを示されていますが、日銀が考える物価安定の理解と比べての評価をお聞かせ下さい。
§26Masaaki Shirakawa
期限についてのご質問は、先程のご質問でお答えしたことに尽きます。次に、2013年度の物価の見通しですが、私どもが「中長期的な物価安定の理解」で考える物価の安定を達成するにはなお時間がかかる、というのが私どもの評価です。従って、金融政策面からは今回緩和を強化して臨むと同時に、金融政策の範囲ではありませんが、日本経済全体として成長力をしっかり高めていくという努力が非常に大事だと思っています。長期にわたる低インフレの背景を考えてみると、将来に向けての成長期待がなかなか拓けてこない、つまり所得が増えていくという期待がなかなか強まらない、そのことが支出の低迷、物価がなかなか上がらないという状況につながっています。従って、金融政策もこのようにしっかり頑張っていきますし、様々な成長力強化に向けた取組みを行っていく、それらの結果として、物価上昇率がもう少し上がっていくということです。ただ一点、強調して申し上げたいことは、少し長い目でみた場合に、物価は確実にそれまでの下落から、現在は若干のプラス、展望レポートの見通し期間ではゼロ%台の半ばと、方向としては確実に上向いてきているわけです。こうした流れをしっかりと定着させていきたいと思っています。
§27Question
2 点質問があります。1 点目は、これまでは資産買入れ等の基金を増額するたびに、増額を完了する期限を半年ずつ延長してきたと思いますが、今回その期限を延長せず買入れのペースを速めることによる政策効果、あるいは狙いを分かりやすく教えて頂けますか。2 点目は、欧州ソブリンリスクの問題で、欧州系の銀行が新興国から融資を引き揚げるという影響が出ているとの指摘がありますが、現時点での欧州の問題が新興国経済にどのような影響を与えているのか、今後どのような見通しをお持ちなのか、ご見解をお聞かせ下さい。
§28Masaaki Shirakawa
1 問目ですが、ご質問にありましたように、買入れの期限を変更しないことによって月当たりの買入れを加速していくことが狙いです。長期国債について申し上げると、従来は1 か月当たりの買入れ額は 1,500 億円でした。今回の増額後は、1 か月当たり 5,000 億円の買入れということです。この金額が残存2年以内のゾーンで毎月加わってきます。さらに成長通貨オペで行っている月額 1.8 兆円の国債買入れに加わることになります。2 問目の欧州の債務問題が新興国に与える影響ですが、最初に新興国経済自体について申し上げます。新興国は、国内のインフラ需要の強さや所得水準の向上を背景に内需が増加し、全体としては高めの成長を続けていると思います。もっとも、欧州ソブリン問題などを背景とした先進国経済の減速の影響が、輸出に出始めていると認識しています。こうした貿易取引を通じたチャネルに加えて、金融市場を通じたチャネルでも、新興国に影響を及ぼす可能性があると考えています。新興国の金融資本市場をみると、欧州ソブリン問題を契機とする投資家のリスク回避的な動きから、今月の初めにかけては、新興国から株式・債券関連の資金が流出し、通貨や株価が下落する局面もみられました。
§29Masaaki Shirakawa
また、欧州各国の国債を多く保有する欧州金融機関は、資金を調達しにくい状況が続いており、資金確保を優先するために貸出などの資産を抑制する動き――いわゆるデレバレッジング――もみられています。欧州域内企業の資金調達には影響が出始めているほか、新興国のプロジェクトファイナンスなどにも影響が及ぶとの懸念も生じています。ただし足許は、こうした資金の流出はやや一服し、通貨や株価は総じて持ち直してきています。もっとも、仮に先行き欧州ソブリン問題の不透明感が払拭されず、投資家のリスク回避姿勢が再び強まるようなことがあれば、通貨や株価が一段と下落し、株式・債券関連の資金フローの巻き戻しにつながるほか、欧州金融機関の新興国向け貸出が抑制されることもあり得ます。新興国経済のファンダメンタルズはなお良好であり、外貨準備などの対外支払面でのバックストップについても、多くの国で相応の準備、備えを用意しています。そういうプラスもありますが、これまでの先進国から新興国への資金流入の規模が大きかっただけに、新興国の経済や金融システムに対して、相応の影響を与える可能性がある点には注意が必要だと思っています。
§30Question
近く開かれる国家戦略会議ですが、総裁がメンバーになっています。総裁の役割について、積極的に会議に関与されるのか、あるいはオブザーバーとして参加するという形になるのか、お考えをお聞かせ下さい。
§31Masaaki Shirakawa
国家戦略会議は、私は、オブザーバーではなくて、メンバーとして参加することになっています。これは、「関係機関の長」として参加します。日本銀行は、マクロ経済政策の一環である金融政策、あるいは金融システム面で責任を有していますが、そういうことを意識して、国家戦略会議での議論に貢献したいと思っています。少し具体的に申し上げると、日本経済が現在直面している最大の問題は、急速な高齢化や労働生産性の伸び悩みなどを背景として、経済成長率が趨勢的に低下していることだと思います。そこに加えて、震災からの復旧・復興という新たな課題にも直面しているわけです。特に、この成長力の強化という課題を克服して初めて、デフレの問題が解決していくと思っています。そのためには、もちろん日本銀行もそうですが、民間、政府を含め各方面が、それぞれの役割に即した取組みを続けていくことが必要だと思っています。日本銀行としては、そうした認識をしっかり伝えて、議論に貢献していきたいと思います。
§32Question
細かい点で恐縮ですが、今の包括緩和政策は、先程質問があったように、いわゆる基金の規模も然ることながら、その実施期限が相応の意味を持つ政策だと思うのであえてお聞きします。今回、宮尾委員が 10 兆円の増額を提案していますが、このご提案では、実施期限はどのようになっていたのでしょうか。宮尾委員は 10 兆円という額だけをご提案されたのでしょうか。
§33Masaaki Shirakawa
宮尾委員は 10 兆円というご提案をされました。議論の細かな内容については、議事要旨をみて頂きたいと思います。その上で、委員の頭の中で、今のご質問の点を含めて色々なお考えがあると思いますので、私から申し上げることは適当ではなく、宮尾委員にお尋ね頂きたいと思います。
§34Question
欧州のソブリン問題について、細かい話になるかも知れませんが、3つ程質問があります。1 つは、欧州首脳会議後のプレス・リリースで、民間の負担について50%ヘアカットと決まって、これがボランタリー(自主的)であるとのことでした。50%カットをボランタリーと言っても、量が達しない場合、今回の枠組みに影響が出てしまう可能性があり、それが金融市場等に影響して日本経済にも当然影響が出てしまうリスクがあると思います。その辺の見通しや情勢認識について、どのようにお考えになっていますか。2 点目は、先程のボランタリーという点と関係しますが、CDSがトリガーを引くか引かないかには関心があるかと思います。ボランタリーということだと、トリガーを引かないという理解で良いかと思いますが、引かないとすると、50%カットとなってギリシャに関してはCDSが事実上使えないということになってしまうと思います。これが、CDSマーケット全体を萎縮させて他の金融市場全体を縮小させるリスクが一応考えられると思いますが、このリスクについて、それ程強く思わなくていいのかということです。
§35Question
具体的には、イタリアとスペインの国債へのコンテージョン(伝播)・リスクが非常に強く意識されて今回のパッケージができていると思いますが、 CDSが使えないとなると、両国の現物債がリスクをケアできなくなってしまうので、売られやすくなってしまうこともあると思います。その点は、それ程心配しなくていいのでしょうか。3 つ目は、そういうことも踏まえて今回のパッケージができたことで、国際的な金融市場の緊張というか、国際的金融危機のリスクというのは大きな山を越したと判断して良いのか、それともまだ依然として注意深くみていかなくてはならないのかについてお聞かせ願いたいと思います。
§36Masaaki Shirakawa
まず、1 問目のPSI(民間部門の関与)のもとでの 50%の債務削減の件ですが、まだ今回の決定の詳細が公表されているわけではありませんので、今の点について細かくお答えすることは難しいと思います。ただ、細かい点は別として――G20の会合でも、今回の欧州サミットでもそうですが――、欧州の問題について、欧州の当事者がしっかり金融システムの安定に取組むという意思を表明し、現に取組んでいるわけです。そういう大きな決意のもとで、一連の施策がなされるということですから、私は、欧州の当事者を信頼しているということです。2 つ目のCDSの件で、今回発動されなかった場合、CDS市場に今後悪い影響があるのではないかという話ですが、ボランタリーに債務削減に応じるというのはデフォルトではありません。デフォルト・イベントが生じない以上、CDSは使われないという話です。従って、必ずしもご指摘のようなことではないのではないかと思います。3 つ目は、大きな山を越えたのかというご質問です。先程、どなたかのご質問にもお答えしましたが、今回の決定は非常に意義の大きい決定だと思いますが、細部の肉付けはこれから行っていくとのことです。また、欧州の債務問題は深い問題です。
§37Masaaki Shirakawa
当面の資金繰り、あるいは金融機関の資本強化という問題もありますし――これはこれで非常に大事な問題です――、財政の建て直しや、支援を行う場合にEUやユーロエリア各国の政府がどういう形で関与していくのかという問題もあります。それから、何よりも一番大きな問題として、競争力の問題があります。この競争力の問題が解決しない限り、財政赤字の問題、あるいはその国の対外的な国際収支の赤字という問題は解決しません。こういった問題は、もちろん、今回の決定だけで解決するわけではありません。ただ、そういう方向に向けての決意をしっかり示しているという意味で、望ましい方向へのステップだと評価しています。
§38Question
欧州の本日の決定について、もう 1 つご質問します。欧州のソブリン危機の緩和は、日本経済にもプラスになるというのが日銀の考え方であると思いますが、日銀は、EFSF債の購入を含めた欧州に対するさらなる支援拡大を検討されているのか、そして日銀だけではなく政府と一緒に、欧州に対する支援拡大の余地があるのか、総裁のお考えを伺えればと思います。
§39Masaaki Shirakawa
政府が欧州の問題に対してどのように関わっていくのかについて、私の立場からコメントするのは控えたいと思います。欧州の債務問題は、日本の金融市場・経済にも大きな影響を与え得る問題だと認識しています。中央銀行という立場でこの問題に最も貢献し得るのは、何よりも金融市場の安定をしっかり確保するというルートを通じてであると思っています。この面では、5 か国の中央銀行でドル資金供給のオペレーションを定例的にオファーしています。それから、このオペレーションを行うにあたっては密接な情報交換を行っており、その時々の状況をしっかりと把握しています。その中で、どのような方法で欧州を含む金融市場の安定に貢献できるかということを、常に考えているということです。以上