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日本銀行記者会見2011年11月28日白川方明, 総裁

総裁記者会見(2011年11月28日)要旨

全文

§1Question

東海地方の足許の景気は、東日本大震災後の自動車業界を中心とした落込みからは脱しつつあるものの、先行き見通しには不透明感があります。本日、地元財界との懇談で聞かれたお話を踏まえつつ、東海 3 県の景気見通しについて総裁のご見解を伺えればと思います。また、当地の今後を占う上では海外経済の動向が与える影響が大きく、地元の関心も非常に高いものがあります。海外経済の先行き見通しについても総裁のご見解を伺えればと思います。

§2Masaaki Shirakawa

1 つ目の質問についてですが、本日は当地の経済界、金融界を代表する方々から地域経済の現状に関する貴重なお話や金融政策運営に関する率直なご意見を数多く頂き、極めて有意義な意見交換ができました。まず、東海 3 県の景気については、輸出企業を中心に円高による収益への悪影響がみられているほか、足許ではタイの洪水の影響もみられるものの、全体としては、名古屋支店で判断している通り「持ち直している」とみています。これは東日本大震災を受けてサプライチェーン障害が発生した自動車関連が、一頃に比べその増加ペースは鈍化しているものの、供給制約の解消を受け、足許挽回生産局面に入っていることがその大きな背景として挙げられます。業種などによるばらつきはありますが、生産活動は全体として持ち直しており、繁忙度も総じて高めの状況にあります。当地の生産においては自動車産業のウエイトが高く関連業界への波及効果も大きいため、全国に比べ東日本大震災後のサプライチェーンの寸断による生産の落込みが深かった分、持ち直しのピッチは多少強めであると感じています。なお、一部でみられているタイの洪水の影響による部品等の供給制約についても、代替生産・代替調達といった企業努力の奏功から、比較的早い時期での正常化が見通せるようになってきていると思います。

§3Masaaki Shirakawa

そのうえで、東海 3 県の景気見通しについて申し上げると、自動車の挽回生産を背景に、暫くは高水準の生産活動が続くとみています。しかしながら、先行きについては、全国と同様、大幅な円高による価格競争力の低下や海外経済の下振れの影響等のリスク要因について注視していく必要があると思っています。なお、当地では、経済界として当地のモノづくりの歴史の中で育まれた技術をベースに、成長分野の振興に取り組む一方、金融機関もこれを強力に後押ししています。例えば、日本銀行の導入した「成長基盤強化を支援するための資金供給」制度についても、名古屋支店管内では、本店を上回る全国最多の地域金融機関が利用し、成長に資する事業を支援する取組みを続けています。このように、企業と金融機関とが息を合わせて成長基盤の強化に取り組んでおられることが窺われ、大変心強く感じたところです。私としては、そうした取組みによって東海地域の経済が今後とも益々発展し、ひいては日本経済全体の成長力強化につながっていくことを期待している次第です。次に海外経済の先行き見通しについてですが、海外経済の先行きについては様々なリスクが存在し、政策対応によって、その見通しが変化することが予想されます。そうした不確実な面があることをお断りした上で、国や地域別に、先行き見通しやリスクならびに課題について、ご説明させて頂きます。

§4Masaaki Shirakawa

まず、欧州経済についてみると、減速が明確となる中で、欧州ソブリン問題が欧州経済だけでなく世界経済にとっても最大のリスクになっています。ソブリン問題は、以下の 3 つのルートで欧州経済に影響を及ぼしています。第 1に、コンフィデンスの悪化を通じて、家計や企業の支出スタンスが慎重化しています。第 2 に、緊縮財政の強まりが景気を下押ししています。第 3 に、欧州各国の国債を多く保有する欧州金融機関では、資金調達面での不安から、貸出スタンスが厳しくなっており、金融面からの下押し圧力も強まっています。更に、その影響は、貿易取引や国際金融資本市場を通じて、グローバルにも波及しつつあります。特に、国際金融資本市場においては、投資家のリスク回避姿勢が強まることがあれば、新興国からの資金流出につながる可能性があります。また、欧州の金融機関では、ドルの資金調達環境が悪化し、ドル資産を圧縮する動き ――デレバレッジング――もみられています。先行き、新興国向け貸出が抑制される懸念もあります。このように、欧州危機への対応が遅れれば、世界経済に大きな影響を与える可能性があります。そうした事態は何としても防がなくてはなりません。欧州首脳会議で決定された対策を、強い意志で迅速に実行に移すことが不可欠となっています。

§5Masaaki Shirakawa

米国では、バランスシートの調整圧力が経済の重石となって作用し、雇用の改善テンポも鈍いことから、成長のペースはごく緩やかなものに止まっています。この間、議会の超党派特別委員会――スーパー委員会――では、財政赤字削減案の合意を得るには至りませんでした。年末に期限切れを迎える減税措置の延長を巡る協議も難航しており、財政政策に関する不確実性が高まっています。米国経済は、バランスシートの修復途上にあり、経済は下方に振れやすいということです。バーナンキ議長も述べているように、緊縮財政が短期的な景気の回復を抑制する可能性に配慮しつつ、財政健全化に着実に取り組む必要があると思います。新興国・資源国経済は、先進国経済の成長鈍化から幾分減速していますが、所得水準の向上を背景に、基調としては高めの成長を続けています。もっとも、物価安定と成長を両立する形でソフトランディングができるかどうか、不透明感が高いと思います。多くの新興国では、労働需給が逼迫しており、インフレ圧力の沈静化が進まない場合には、先行きの成長率が下振れるリスクがあります。新興国・資源国の中央銀行は、インフレを抑制し、持続的な成長を実現するためにしっかり取り組んでいく必要があると思います。

§6Question

前回の金融政策決定会合以降、あるいはその前に追加緩和を決定して以降、日本経済の下振れリスクが強まっているのか教えて下さい。特に、足許の債券市場をみると、少し長期金利の上昇ピッチが速いように感じます。日本の株価についても、本日は高止まっているようですが、年初来安値を更新するような局面がありました。円高についても前回の介入以降、それを上回るような円高にはなっていませんが、引き続き円高の水準にあると思います。こうした市場の動きについて総裁のご認識をお聞かせ下さい。

§7Masaaki Shirakawa

市場のことですので、毎日変動しますが、日々の変動とは別に、最近のマーケットの動きを全体としてみると、国際金融資本市場は緊張感の高い状態が続いていると思います。この背後にある欧州のソブリン問題への取組みが必要であるという状況認識に変わりはありません。

§8Question

欧州のソブリン問題を受けて上昇傾向にあるわが国の長期金利の動向についてもう少し詳しくお伺いしたいのですが、この上昇が一過性のものなのか、あるいは先進国で最悪といわれる日本の財政を背景にした金利の上昇の始まりなのか、総裁のご見解をお聞かせ下さい。

§9Masaaki Shirakawa

いつも申し上げている通り、金融市場の日々の動きについては、コメントを差し控えたいと思います。先ほどの質問に対する答えと多少重複しますが、現在の国内の金融市場の動きは、当然ながらその背後にある国際金融資本市場の影響を受けます。そしてその国際金融資本市場は、欧州ソブリン問題を背景に緊張の高い状態が続いています。長期金利について、日々の動きを離れて ──私がいつも強調していることですが──、市場参加者の予想は変化し得るものだということです。わが国の現在の財政の状況は大変厳しいわけですから、わが国が財政バランスの改善に向けてしっかり取組みを行っていくことが大事だと思っており、そのような大きな取組みがなされることを期待しているということです。

§10Question

本日の金融経済懇談会の挨拶の中でも、ソブリン債務危機という表現で財政、実体経済、それから金融システムの負の相乗作用について言及されていました。足許のイタリア国債の金利についてももちろんそうですが、他の欧州諸国の金利もかなり上昇しています。前回の金融政策決定会合の後、この欧州のソブリン債務危機がどの程度深刻になっていると認識されているのか、また、欧州の金融機関の破綻といったような今後起こりうるリスクについて、どのようなことを想定されているのか教えて下さい。

§11Masaaki Shirakawa

ご指摘の通り欧州諸国の国債の金利は上昇傾向にあります。これがどのような形で実体経済に影響を及ぼすのかについては、先程少し詳しく申し上げたところですが、欧州経済への影響についてみると、金融市場の緊張が金融機関の貸出行動を通じて域内の経済活動を抑制するという方向に作用することが一番大きなルートであろうと思います。それから世界経済へは、今申し上げた欧州の経済の下押しに加えて、金融市場を通じる様々なルートを通じて影響していくということです。どの程度深刻かということについては、なかなか数量的に評価することは難しいですが、私どもとして一番大事なことは、リーマン・ショックのような金融市場全体が大混乱するという事態は絶対に避けなければならないと思っています。そういう大きな条件が確保されるもとで、欧州の各国が、既に合意されている様々な取組みをしっかり進めていくことが必要だと思っています。「今後、どのようになるのか」というご質問でしたが、私どもは政策当局者であり、評論家ではありませんので、そうした深刻な事態に陥らないように取組みをしっかり進めていく必要があると思っています。

§12Question

新興国経済について、ソフトランディングが可能かどうか、不透明感が高いとのお答えでしたが、アジアの最近の動きを見ていますと、インドネシアで予想外に利下げがあるとか、中国やタイにしてもそろそろ緩和方向の微調整があるのではないかという話があります。一方、そういったアジアの国の通貨や株価をみると、欧州の債務問題の影響なのかもしれませんが、少し弱めに推移しています。こうした事象の入り繰りについて教えて下さい。

§13Masaaki Shirakawa

新興国といっても、地域・国によってかなり状況が違っていると思います。アジア、ラテンアメリカ、それから欧州の新興国の3 つを取り上げても、違いがあると思います。丁寧に説明しようとすれば、それぞれの地域毎に説明しなければなりませんが、まず一括して結論を申し上げると、不確実性はまだ高いと思っています。新興国の経済の減速の原因を考えてみると、1 つは中央銀行が安定成長を実現するために行ってきた金融引締めの効果が出てきているということです。また、もう 1 つの理由としては、既往の国際商品市況の上昇に伴って国内のインフレ圧力が高まり、それが実質的な購買力を下げ、減速をもたらしているということです。そこに、今度は欧州経済、世界経済の減速が加わってきているわけです。減速それ自体は、持続的な成長を確保する上では、必要なことですが、それが行き過ぎるかどうかという点については、現状では両方の可能性があると思います。行き過ぎて減速が強くなるという可能性もありますし、程良く減速する中で、新興国はまだ政策転換の余地がありますので、それを使って経済が成長するという可能性もあります。そういう意味では、両方の可能性を意識しながら経済を点検していきたいと思っています。

§14Masaaki Shirakawa

地域別にみた場合、先程申し上げた3 つの地域の中では、欧州の金融機関の影響を相対的に受けやすいのは欧州の新興国であると思いますので、欧州の新興国の動きと他の地域の新興国では、少しニュアンスが違うと思っています。

§15Question

東海地域の経済のことでお伺いします。先程の講演の中で、当地は企業家マインドが強く、新しい産業を興す期待があると言われました。ただ、確かに航空産業のような新しい産業がありますが、自動車産業に取って代わるというか、それに次ぐ産業になるには、なかなかまだ現実としては難しいかなと思いますが、新しい産業と従来からある自動車産業とがバランスを取りながら成長していくためのポイントについてお考えがあればお聞かせ下さい。

§16Masaaki Shirakawa

当地の産業構造に即して今のご質問に的確なお答えが出来るかどうか自信はありませんが、産業構造の変革というのは、誰かが中央で指令を発して、それに沿って進むというものではなく、色々と試行錯誤が行われ、振り返ってみると産業構造が変わっていき、経済の発展を支えたというのがこれまでの多くの国の歴史でみられたことだったと思います。私が日本銀行に入行したのは 1972年ですが、その翌年に第1次オイル・ショックが起き――その時のことは今でもよく覚えていますが――、日本経済は「お先真っ暗」という悲観論が広がりました。しかし、石油の値段が上がり、ガソリンの値段が上がり、その一方で環境規制が強まるという状況の中で、後から振り返ってみると、わが国の企業がその時期に色々な環境関連の技術を高めていったわけです。当時、誰かがオーケストラの指揮者のようにいたわけではないと思います。そのように考えると、ご質問の「ポイント」ということではありませんが、新しいビジネスに挑戦する人を社会がサポートしていくことが大切です。金銭的なサポートだけではなく、そういうチャレンジを受け入れていくことがまず大切であると思います。それから金融という側面では、そういう発展段階の企業を支えていくような仕組みが大事だと思います。日本銀行自身としては、ささやかな取組みですが、成長基盤強化を支援するための資金供給を行っています。

§17Masaaki Shirakawa

こうしたチャレンジに関する――表現は難しいのですが――、大きな意識を高めるうえで、何がしかそのお役に立てればという思いで行っています。金融経済懇談会の質疑応答時にお話しましたが、当地の伝統ある企業において、企業の名前から連想される製商品と実際に扱っておられる製商品が随分と異なる先もありますし、企業の名前そのものも随分と変わってきているように思います。そういうことが根付いている地域だと思いますので、そうした力を最大限に引き出していくために、皆が応援していくことが大切だと思います。

§18Question

欧州の債務問題の市場への影響が、イタリアという非常に大きな国にまで波及しており、欧州の金融機関の間でも資金が取りづらくなっているということは、もう一種の流動性の不安、更にはリーマン・ショックの時のような流動性の危機に発展する可能性が高まっているということだと思います。そうした中で、欧州だけでは問題が解決できず、IMFの金融面の支援が必要だという声も出ているようですが、これに対する総裁の見解をお聞かせ下さい。

§19Masaaki Shirakawa

欧州ソブリン問題について、欧州の当事者自身が「ユーロピアン・ソブリン・デット・クライシス」いう言葉で呼んでいるように、非常に緊張度を高めているということはその通りです。これに対し、何が必要かといえば、先般のEUあるいはユーロ圏の首脳の合意が得られていることを着実に実行していくことだと思います。その中に金融的な支援の強化ということも謳われています。この点については、まず何よりも当事者自身の取組みが必要です。当事者自身の努力と並行して、IMF等の欧州域外の資金の活用ももちろん考えられますし、G20の声明にも謳われている通り様々な検討がなされています。ポイントは、その両方が必要であるということと、単に資金を供給するだけでは十分ではなく、資金を受け入れた国が、しっかりとした経済・財政の構造改革に取り組まなければならないということです。金融の支援の話だけでは物事は解決しないと思っています。以上