総裁定例記者会見(2012年1月24日)要旨
全文
§1Question
本日の金融政策決定会合の結果について、展望レポートの中間評価も含めて、ご説明頂ければと思います。
§2Masaaki Shirakawa
本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、ご説明します。まず、景気の現状については、「海外経済の減速や円高の影響などから、横ばい圏内の動きとなっている」と判断しています。国内需要をみると、設備投資は緩やかな増加基調にあるほか、個人消費についても底堅く推移しています。一方で、輸出や生産は、海外経済の減速や円高に加えて、タイの洪水の影響も残るもとで、横ばい圏内の動きとなっています。以上の状況は、先般の支店長会議でも確認されたところです。地域によって差はありますが、欧州ソブリン問題の影響などが輸出や生産に及んでいるという声があった一方、個人消費を中心に景気の腰が意外にしっかりしているという見方も少なくありませんでした。この背景としては、震災以降、いったん抑制されていた消費需要がここにきて顕在化しているとか、円高のプラス面が、内需に対して薄く広く及んできている可能性があるとの指摘が聞かれたところです。この間、国際金融資本市場をみると、資金市場では、短期のドル資金調達金利が低下するなど、幾分改善する動きもみられていますが、引き続き緊張度の高い状態が続いています。
§3Masaaki Shirakawa
そうした中にあっても、わが国の金融環境は、緩和の動きが続いています。すなわち、コールレートが極めて低い水準で推移する中で、企業の資金調達コストは、緩やかに低下しています。CP市場では、良好な発行環境が続いており、社債市場の発行環境も、総じてみれば、良好な状態が続いています。また、企業からみた金融機関の貸出態度は、改善傾向が続いており、企業の資金繰りも、総じてみれば、改善した状態にあります。このように、わが国の金融環境と米欧の金融環境との間には、引き続き違いがみられています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、概ねゼロ%となっています。わが国経済の先行きについては、当面、横ばい圏内の動きを続けるとみられますが、その後は、新興国・資源国に牽引される形で海外経済の成長率が再び高まることや、震災復興関連の需要が徐々に顕在化していくことなどから、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられます。次に、こうした判断を 10月の展望レポートで示した見通しとの比較でどう評価するかについて申し上げます。まず、成長率についてみると、2011年度については、10月時点に比べて下振れる見通しとなりました。
§4Masaaki Shirakawa
中央値でみて 0.7%の下振れですが、これには、海外経済の減速に加えて、過去の実績値の改定に伴い、2011年度への発射台――いわゆる統計上の「ゲタ」――が 0.5%下振れたことが影響しています。もっとも、2012年度以降を展望すると、わが国経済が緩やかな回復経路に復していくという展望レポートのシナリオは、維持されているとみています。このため、2012年度および 2013年度の成長率については、概ね見通しに沿って推移すると予想しています。物価面では、国内企業物価・消費者物価(除く生鮮食品)とも、概ね見通しに沿って推移すると予想しています。以上の中心的な見通しを巡っては、様々な不確実性が存在します。このうち、景気に関する最大のリスク要因は、引き続き、欧州ソブリン問題の今後の展開です。その影響は、直接・間接の貿易面のルートを通じて、既にわが国の輸出・生産にも及んでいます。今後も、国際金融資本市場を通じた影響を含めて、世界経済ひいては日本経済の下振れをもたらす可能性には注意が必要です。米国経済については、失業率が緩やかに低下しているほか、クリスマス商戦の結果や、最近の製造業や家計の景況感などに底堅い動きもみられていますが、バランスシートの調整圧力は引き続き経済の重石となっています。
§5Masaaki Shirakawa
世界経済の牽引役として期待される新興国・資源国では、例えば中国のインフレ率が低下してきていますが、物価安定と成長を両立する形で経済がソフトランディングできるかどうか、なお不透明感が高い状況が続いています。物価面をみると、国際商品市況の先行きについては、イランを巡る情勢などの地政学リスクの影響を含めて、不確実性が大きいと考えています。また、中長期的な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下振れるリスクもあるとみています。日本銀行は、かねてより申し上げている通り、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要な課題であると認識しています。そうした認識のもとで、「中長期的な物価安定の理解」に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質的なゼロ金利政策を継続していく方針です。また、日本銀行は、資産買入等の基金の規模を累次にわたって大幅に増額することで金融緩和を強化してきており、そのもとで、金融資産の買入れ等を着実に進めています。現在の基金の残高は、43 兆円弱となっており、基金の総額である 55 兆円程度に向けて、今後、さらに 12 兆円強、残高を積み上げていきます。
§6Masaaki Shirakawa
日本銀行としては、こうした包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進、さらには、金融市場の安定確保や成長基盤強化の支援を通じて、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するよう、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針です。
§7Question
欧州のソブリン問題に関して、フランスなどの国債格下げや、ギリシャの債務削減交渉がまだ難航しているとか、欧州金融機関の資産圧縮など、なかなか出口がみえにくい状況が続いていると思いますが、この欧州経済のダウンサイドリスクの評価についてお伺いしたいと思います。
§8Masaaki Shirakawa
欧州ソブリン問題について、最近の情勢をみると、ECBによる大量の資金供給や 6 か国の中銀によるドル資金供給オペにより、資金市場の緊張は幾分緩和する動きもみられていますが、全体としては不透明感が強い状況が続いています。これには、市場の混乱を封じ込めるための資金基盤――最近はよくファイヤーウォール(防火壁)という言葉が使われていますが――の拡充について、具体的な成案が得られていないことが背景となっています。また、各国は財政健全化策を発表しており、ユーロ圏各国の財政規律を強化していく方向性も打ち出されていますが、その具体化にはなお時間を要することもあって、財政の持続可能性について、市場の懸念が払拭されていないことも影響しているとみられます。こうした欧州ソブリン問題は、既に欧州経済の下押し要因となっていますが、今後の展開次第では欧州経済のさらなる下振れ要因となることも考えられます。すなわち、各国が、さらなる緊縮財政に迫られ、家計・企業の支出スタンスの慎重化などを通じて景気を下振れさせるリスクがあります。欧州各国の国債を多く保有する欧州の金融機関では、資金調達面での不安などから、資産圧縮――いわゆるデレバレッジング――の動きが強まり、金融面からの下押し圧力が高まるリスクもあります。また、こうした欧州の金融機関のデレバレッジングの影響は、グローバルに波及する可能性もあります。
§9Masaaki Shirakawa
現状、このデレバレッジングは、新興国経済への大きな下押し要因となっているわけではありませんが、特に欧州勢が高いシェアを持つ中東欧向けに加え、アジアなど他の地域向けでも、同じくプレゼンスの大きい貿易金融などの分野において、今後、デレバレッジングによるマイナス面が生じないかどうか、注意してみていく必要があると考えています。同時に、こうした下振れリスクは、わが国の景気の先行きを見通す上でも、最大のリスク要因となっていることは、かねて申し上げている通りです。わが国経済への波及ルートですが、まず、貿易面を通じた影響があります。わが国の輸出に占めるEU向けの割合は、1 割程度とそれ自体としては大きくはありませんが、昨年秋頃からEU向け輸出は減少しています。こうした直接の波及に加えて、 EUあるいはユーロ圏との結びつきが強い東アジアに対する日本の輸出も減少しています。また、為替や株価といった資産価格面を通じた影響もあります。最近では、ユーロが――ごく足許では若干違っていますが――売られやすい中で、為替が円高方向の動きとなっています。現在のように海外経済の先行きを巡る不確実性が大きい局面においては、円高が日本経済に対してマイナスの影響を及ぼす可能性に十分注意する必要があると考えています。さらに、金融面を通じた影響にも注意が必要と考えられます。
§10Masaaki Shirakawa
もっとも、先程申し上げた通り、わが国では、日本銀行が強力な金融緩和を推進していることや、金融機関のバランスシートの健全性が保たれていることなどを背景に、短期金融市場は極めて安定しています。国債金利に対する社債金利の上乗せ幅――いわゆる信用スプレッド――も低水準で推移しています。このように、国際金融資本市場の緊張度は引き続き高いものの、わが国の金融環境については緩和の動きが続いています。いずれにせよ、日本銀行としては、今後とも、今申し上げた点を踏まえながら、欧州の動向をしっかり把握しつつ、わが国経済への影響について注意深く点検していきたいと思っています。
§11Question
先般、税と社会保障の一体改革を巡って、消費税の税率を段階的に10%まで引き上げるという政府・与党の素案がまとまりましたが、この案に対する総裁の見解をお聞かせ下さい。
§12Masaaki Shirakawa
素案自体に対する具体的なコメントは差し控えたいと思います。あくまでも一般論として申し上げます。これまでも様々な場で申し上げてきている通り、わが国経済が直面する大きな課題は、内外の歴史に例をみない速いペースで少子高齢化が進む中で、持続性のある経済・社会を再構築していくことにあります。既に、大幅な財政赤字が続き、一般政府債務残高が極めて高い水準となっていることを踏まえると、財政や社会保障制度の持続性を確保するための取組みを着実に進めていくことが重要です。将来の財政や社会保障に関する不確実性を取り除くことは、人々がより前向きに消費や投資を行いやすい環境を整えることにもつながり、ひいては経済成長力の強化にも資すると考えています。
§13Question
ヨーロッパの問題が最大のリスクであるということは、前回も今回もそうだと思いますが、そのリスクは、小さくなっていると感じられるか、大きくなっていると感じられるか、ご説明下さい。
§14Masaaki Shirakawa
金融市場の中で資金市場に限ってみると、前回の記者会見の時と比べて幾分緊張が緩和していることは、先程申し上げた通りです。ただ、そうした望ましい方向への変化が若干はありますが、欧州ソブリン問題の基本的な構図はまだ変わっておらず、不確実性は高い状態が続いていると思っています。昨日もそうでしたが、本日も欧州の財務大臣の会合がありますし、1月末にかけて他にも重要な会議があります。こうした会議も含めて、ユーロ圏において、しっかりとした取組みがなされていくことを強く期待しています。
§15Question
ユーロ安が日本経済に与える影響について、ドル安との比較も踏まえて、もう一度詳しくご説明下さい。
§16Masaaki Shirakawa
欧州ソブリン問題を背景に、ユーロが円も含めて多くの通貨に対して下落しています。ドル安・円高との比較で、このユーロ安・円高をどう評価するかというご質問ですが、欧州向けあるいはユーロ圏向けの貿易ウエイトや取引通貨におけるユーロの比率などからみて、同じ変化率の円高であれば、ドル安・円高に比べて影響は大きくないと言えると思います。そう申し上げた上で、ユーロ安・円高は、対欧州企業での輸出競争力の低下や、収益やマインドへの下押しなどを通じて、日本経済にマイナスの影響を及ぼす可能性があることには、十分注意する必要があるとみています。
§17Question
2 点伺います。1 点目は、欧州の問題に絡んでIMFが 5,000 億ドル規模で資金基盤の強化を検討しています。欧州以外の日本やアメリカ、あるいは新興国がこれに対してどのような対応をすべきか、来月のG20でも議題になると思いますのでお考えをお聞きします。2 点目は、景気についてで、12年度前半に緩やかな回復経路に戻るだろうということですが、その際の国内でのリスク要因についてどうお考えか、例えば復興需要が遅れるとか、あるいは電力不足がかなり長引くなど、お考えを教えて下さい。
§18Masaaki Shirakawa
まず、IMFの資金基盤の強化に関するご質問です。昨年11月のカンヌサミットにおいて、G20の首脳は、「IMFが加盟国全体の利益となるよう、システム上の責任を果たすために十分な資金基盤を持ち続けることを確保する」と宣言しました。これを受けて現在、IMFやG20においてIMFの資金基盤の十分性について議論が進められていると認識しています。本件に関する日本の対応ですが、これは財務省の所掌なので、私からはグローバルな金融経済情勢を踏まえつつ、一般論として私の考え方を説明したいと思います。現在、先程来申し上げている通り、世界経済および日本経済にとっての最大のリスク要因は欧州ソブリン問題です。事態がさらに悪化した場合には、世界的に金融市場が収縮し、ユーロ圏内部だけでなく、エマージング市場を中心に域外の国に対しても深刻な影響が及ぶ可能性があります。こうした状況を回避する上で、IMFは 2 つの重要な役割を果たし得ると考えています。1 つは、スタンドバイと呼ばれる資金融資や、 FCL (フレキシブル・クレジット・ライン)などの融資枠の設定を通じて、当該国の資金繰りを安定させ、市場からの信認の維持・回復を支援することです。
§19Masaaki Shirakawa
2 つ目は、 IMFの持っているサーベイランス機能を活用し、資金支援の際に事前・事後に設定される条件、いわゆるコンディショナリティの遵守を支援国に求めることを通じて、財政再建や構造改革の実施に向けた規律付けを行うことです。欧州ソブリン問題に関しては、それを封じ込めるために、ユーロ圏を中心とした欧州諸国やECBが強固なファイヤーウォールの構築に向けた努力を続けています。現在の局面においては、IMFの資金基盤の十分性を評価し、必要に応じて強化することを検討する際には、こうした欧州における取組みの成果と併せて総合的に判断していく必要があると思います。今晩もまた議論がなされるでしょうが、欧州におけるしっかりとした取組みがまず前提になってくる、その上でG20のコミュニケに謳われた域外諸国と言いますか、ユーロ圏以外の国の協力があるということが、基本的な考え方であると思います。それから 2 番目の国内の景気下振れリスクについてです。繰り返しになりますが、欧州のソブリンリスクは最大のリスク要因ですから、このリスクが顕在化するということは、当然、国内経済にも影響してくるわけです。それから、記者の方のご指摘の通り、今年の夏を展望した場合の電力不足がどのように影響するかについても、本日の会合で議論されました。
§20Masaaki Shirakawa
復旧・復興についても、金額として、向こう 5年間で名目GDPの約 4%に相当する――震災の被害が大きかった4 県に限ってみると約 6 割に相当するという――多額の支出がなされるわけですが、これがもし、私どもの想定するペースに比べて遅れれば、それは下振れリスクとなってくると考えています。
§21Question
先程、支店長会議での声を引用される形で、円高差益が薄く広く及んでいる可能性があるという指摘が聞かれたとおっしゃいました。この点について白川総裁ご自身はどのようにお考えなのかをお聞かせ下さい。もうひとつ、ユーロ安・円高が日本経済にマイナスの影響を及ぼす可能性があるので十分注視するとおっしゃいましたが、足許のユーロ安・円高によるマイナスの影響と、支店長会議などで指摘された円高によるメリットのどちらが大きいかも含めてお考えをお聞かせ下さい。
§22Masaaki Shirakawa
足許の消費あるいは内需といってもいいと思いますが、支店長会議では、意外に底堅い、という報告があったことを先程紹介しました。これをどのように解釈したらよいかということで色々議論をしているわけですが、なかなか明快な解釈があるわけではありません。先程、円高の影響について申し上げましたが、私は、消費あるいは内需の底堅さの仮説として、3 つくらいの理由を想定しています。1 つ目は、震災後の広い意味での復旧・復興に伴う需要が顕在化してきているということです。公共投資だけではなく、消費あるいは設備投資の面でもこうした広い意味での復旧・復興関連での支出が増えてきている、これが 1 つ目の仮説です。2 つ目として、理屈の上では、先程申し上げた円高によるメリットが薄く広く拡がっているのではないかということが考えられます。しかし、これはなかなか定量的に証明することは難しいわけです。3 つ目は、高齢者層の拡大に伴う販売サイドの色々なビジネス戦略が功を奏して、これが売上げの増加につながっているということです。一応この3 つくらいの仮説が考えられると思います。ユーロ安も含めて円高が経済に対してマイナスの影響を及ぼすのは、これまでも申し上げている通り、収益または企業マインド、あるいは国内から海外への過度な生産拠点の移転等を通じてであり、この点はかねてより意識しているわけです。
§23Masaaki Shirakawa
円高については、時間の経過とともに影響の出方も違ってきますし、従って短期と長期でもその影響は異なってくるわけですが、日本銀行の判断としては、現在の局面では、円高によるマイナスの影響をより注意してみていく必要があると考えていることは従来と変わっていません。
§24Question
2 点お伺いします。1 点目は、1月20日に日本銀行が発表した、銀行から買入れた株式の売却延期についてです。銀行保有株式の買入れ分の売却時期が今年の 3月末以降だったものを、2年間先延ばしして 2014年3月末以降に変更されましたが、その狙いはどのようなところにあるのでしょうか。株式市場に対する一種の時間軸のようなものを考えているのかどうかお伺いします。2 点目は、24~25日にFRBがFOMCを開催しますが、今回から参加メンバーの金利見通しのプロジェクションを示すことになったと思います。このようなマーケットとのコミュニケーション手段について、総裁がどのような評価をしているのか、あるいは日本銀行がFRBのような手段を将来採用するつもりがあるのかどうかについてお伺いします。
§25Masaaki Shirakawa
まず、1 点目の日本銀行による株式の売却に関するご質問についてです。日本銀行が株式の買入れを行う時も売却する時もそうですが、公的な機関としてどのような方針で株式を買い入れる、あるいは売却するかについて、スケジュールも含めて示すことは、市場の透明性、安定的な価格形成の観点からも望ましく、必要となります。先程、「時間軸」という質問がありましたが、先々の私どものスケジュールを示すことが必要となるわけです。日本銀行が金融機関から買い入れた株式については、2009年に買入れ再開を決定した際、本年3月末までは原則として売却しない扱いを定めていましたが、今般、その期限を2年間延長し、2014年3月末とすることを決定しました。あわせて、従来と同じ売却期間を確保する観点から、売却を完了する期限についても、2017年9月末から 2019年9月末まで 2年間延長することを決定しました。こうした決定は、足許の内外金融資本市場の状況等を踏まえると、日本銀行による保有株式の売却は市場に及ぼし得る影響が大きい、と判断したことによるものです。2 点目のFRBの新しいコミュニケーションについてのご質問です。ご存じの方が多いと思いますが、FRBは、本年1月以降、経済見通しにおいて、FOMCメンバーが適切と考える先行き数年間の予想政策金利の水準と、最初の利上げ時期の見通しを公表することを明らかにしています。
§26Masaaki Shirakawa
一般論として申し上げれば、中央銀行が情報発信を通じて金融政策の透明性を高めることは、2 つの観点から重要です。第 1 に、独立性を与えられている中央銀行は、国民あるいは市場参加者への説明責任を果たす必要があります。第2 に、金融市場における期待の安定を通じて、金融政策の有効性を高めることにつながります。ただし、具体的にどのような情報発信が真に政策の透明性や有効性の向上につながるかは、経済や金融市場の状況、制度的・歴史的な背景などにより、国によって様々であり、各国の中央銀行は、それぞれが置かれた環境の中で最適なコミュニケーション戦略を追求していると理解しています。この点、日本銀行でも、展望レポートや議事要旨の公表、政策委員会メンバーの講演や本日のような記者会見など、様々な手段で金融政策の透明性向上に努めています。そうした中で、政策金利を巡る時間軸に関しては、日本銀行は「中長期的な物価安定の理解」 ──つまり消費者物価指数の前年比で2%以下のプラスの領域にあり、中心は 1%程度──に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していく方針を明らかにしています。
§27Masaaki Shirakawa
ご質問は、 FRBの新しい方式をどのように評価するかということも含んでいましたが、今申し上げたように、各国の中央銀行は、それぞれが置かれた環境の中で最適な方法を模索していますので、私がFRBの新しい方法について論評することは差し控えたいと思います。日本銀行としては、私どもが現在行っている説明の仕方、コミュニケーションの方法が、金融政策の透明性や有効性の観点から最も適切であると考えています。しかし、日本銀行自身も、この十数年間、情報発信の面で様々な工夫、努力をしてきているように、これからも不断に点検していきたいという気持ちで臨んでいます。
§28Question
ボルカー・ルールについて、金融庁とともに日本銀行も意見書を出されたと思います。日本国債市場への影響等について懸念されているようですが、この点について具体的に見解をお聞かせ下さい。
§29Masaaki Shirakawa
ボルカー・ルールは、米国で活動する銀行グループに対する、短期の自己勘定取引の禁止や、PE(プライベート・エクイティ)ファンド、ヘッジファンドへの投資の禁止、およびこれらに関する法令遵守体制の整備などを求めるものです。本年7月の施行に向けて、現在、米国において市中協議が行われており――この市中協議のコメントは世界中だれでも出せます――、日本銀行は金融庁と連名でコメントを提出したところです。日本銀行として主に懸念している点は、第 1 に、米国債以外の国債市場の流動性が低下する懸念があることです。ボルカー・ルールでは、米国債などの主要米国債券は規制の対象外とされていますが、これは、まさに、米国当局が、これらの債券にかかるマーケット・メイキングや円滑な市場取引の確保が重要と認識していることが背景にあると思います。この点、米国債以外の国債取引においても、円滑な市場取引の確保、流動性の確保は重要ですが、日本国債や欧州国債などは規制の対象から除外されていません。わが国においては、国債の取引高の2 割程度を米国系金融機関が占める状況であるだけに、このルールが厳格に適用されると、日本国債の市場流動性に相応の影響を及ぼす可能性があると考えています。
§30Masaaki Shirakawa
第 2 に、このボルカー・ルールでは、短期の為替スワップ取引が規制の対象になっているため、こうした取引を通じたドル資金の供給が減少し、金融機関のドル資金繰りに影響が及ぶ可能性があります。金融庁と連名で出したレターについてはホームページにも公表していますが、私自身も国際会議の場で問題提起することなどを通じて、米国当局等にこうした懸念を表明しているところです。
§31Question
中国の外貨準備を 9月末と 12月末で比べると、200 億ドル以上減っていると思いますが、マネーを含めて一体何が起きていると総裁はみていらっしゃるのか、それは欧州で起きていることが新興国に波及していると先程ご説明があったことと関連があるのか。つまり、中国経済のリスクを忌避した足の速い海外マネーが中国市場から流失していることが現実に起きているため、外貨準備のデータに反映されているのか、ご見解をお聞かせ下さい。
§32Masaaki Shirakawa
ご質問の趣旨は、中国に対するリスクを意識して資本流入が減っているために外貨準備が減っているのではないかということと思いますが、私自身はそのようには考えていません。もちろん、欧州ソブリン問題によって、全体としてリスクを取りにくくなってくる流れの中で、新興国への資本流入が細っていくことがないかは注目点の 1 つですが、現在、中国でそれが起きているとはみていません。中国の貿易収支をみると、全体として貿易収支の黒字が以前に比べて随分と縮まってきており、月によっては赤字もあったと思います。加えて、中国の場合――足許の数字は詳細まで記憶していませんが――、国際収支統計上は誤差脱漏という形での短期の資本流入もありますので、詳細な分析はなかなか難しいわけですが、結論的には、先程のご質問については、そのようにはみていないということです。
§33Question
貿易収支が 30年振りに赤字に転落することが確実になり、これを受けてエコノミストの間では、早ければ 2010年代半ばに、経常収支も赤字に転落するのではないかという指摘が相次いでいます。総裁は、貿易収支、所得移転収支、経常収支が 2010年代半ばに向けて、どのように推移するとお考えでしょうか。
§34Masaaki Shirakawa
国際収支が経済の発展段階に応じてその構成を変えていくことは、国際収支の発展段階説でも言われていることです。ただ、現在の貿易収支の赤字については、原発事故に伴う代替的な発電源である火力発電の増加、さらにそれに伴い原油やLNGの輸入が量的にも増えていますし、価格的にも上がっていることの影響が大きいと思います。また、生産能力自体が短期的には減少したので、貿易収支の赤字要因となっていると思います。ただ、この傾向が2010年代半ばを展望して定着していくのかという点では、私自身はそうはみていません。足許の要因は、やはり一時的な要因であると考えています。過去の経常収支、貿易収支の黒字の結果として対外資産を蓄積しており、そこからの利益――金利収入あるいは配当収入――はかなりの金額に上っています。当面、こうした所得収支の黒字は拡大する方向にあるので、2015年を展望して経常収支の赤字基調が定着するというご質問ですと、私自身はそのようにはみていません。現在の赤字は、原発事故という予想されていなかった状況が発生したことによるものであることを考えると、先々も色々な要因が発生し得ると思います。これはプラス方向にもマイナス方向にも発生すると思いますが、現在、標準的な見通しとして赤字基調が定着するとはみていません。いずれにせよ、先々の貿易収支の動向については、注意してみていきたいと思っています。
§35Question
1 点目は、展望レポートの中間評価についてですが、成長見通しを 11年度、12年度それぞれ多少下げられましたが、景気回復のパスは変わっていないという認識だと思います。ただ、景気が回復してくる時期については、多少後ずれしたとみているのか、例えば春先から夏以降なのか、審議委員にも色々な見方があると思いますが、総裁ご自身としては、当初みていたよりも多少時期が遅れるとみているのか、確認させて下さい。2 点目ですが、今回の決定会合の結果の中で、物価に対する地政学リスクをご指摘と思いますが、今後、物価に対する影響が出る点について、足許では原油価格の上昇があり、将来的には消費税が上がるということ、これは今のところ政権の方針として必ずやると言っているので、当然影響してくると思います。これらにより物価が上がることによって、金融政策にどのような影響があるのか、それらに縛られるなどといった影響が出るのかどうか、確認させて下さい。
§36Masaaki Shirakawa
まず、最初の回復時期についてですが、私も、また政策委員会のどの委員もそうですが、回復の時期が多少後ずれしたとみています。発表文で書いている通り、今回の中間評価では、回復の時期について 2012年度の前半と書いており、そういう意味では若干後ずれしたとみています。ただ、いずれにしても経済の見通しについては、欧州のソブリンリスク問題が典型ですが、不確実性が非常に高いということを意識しながら、注意してみていきたいと思います。2 つ目のご質問の消費税ですが、今回の物価の見通しに織り込んでいるわけではありません。ただ、消費税率は、物価にも景気にも影響を与え得る1 つの要因だとは思っています。しかし、経済は、様々な要因によって規定されるわけで、私どもとしては、このことも含めて経済の見通しを立て政策運営を考えていく、ということだと思います。
§37Question
米国経済について、本日の公表資料をみると、若干昨今の良い指標を反映した見方になっていると思いますが、先行きについても回復が持続すると期待できるものなのか、偽りの回復なのかも知れないがとりあえず期待しましょうということなのか、先行きについての見方を教えて下さい。2 つ目ですが、地政学リスクについてです。イランで有事が起こった際には、物価への影響のみならず長期金利などへの影響があり得るかについての見方と、政策対応についての総裁のご見解を、コンティンジェンシー・プラン的なもので構いませんのでお願いします。
§38Masaaki Shirakawa
まず米国経済ですが、最近、良好な企業収益を背景に設備投資が増加を続けているほか、個人消費についても、自動車販売が増加し、クリスマス商戦が堅調に推移するなど、明るい面もみられています。さらに、雇用環境が緩やかながらも改善していることが後押しして、マインド面をみても、消費者コンフィデンスは昨年夏前の水準を回復するなど、一頃の悲観的な見方は後退しているようです。先行きについては、プラス材料として、緩和的な金融環境が、引き続き景気の回復を後押しすることを挙げることができます。さらに、雇用が緩やかながらも増加を続けていること、インフレ率が低下しつつあることも、所得面から経済を下支えするとみられます。一方、マイナス材料としては、住宅市場の低迷は続いており、家計のバランスシート調整にはなお時間を要する点が気がかりです。このような状況のもとで、家計の支出スタンスは慎重で、経済の成長ペースは緩やかなものにとどまる可能性があると思います。これまで繰り返し申し上げている通り、米国経済は、リーマンショック後の回復過程で、何回かの楽観と何回かの悲観を繰り返しています。日本のバブル崩壊以降と同じようなことを繰り返してきています。その背後にはやはり、バランスシート調整の重石が大きいと基本的には思っています。
§39Masaaki Shirakawa
ただ、このところ米国の株価は大きな流れでみると確実に上昇してきており、その背後には企業収益の改善があるわけです。家計におけるバランスシート調整と、企業の相対的な好調をどのように理解するのかということが、大事な点だと思っています。2 つ目の地政学リスクですが、この問題については政治的・軍事的にも不確実性が高く、今、私が影響について具体的に申し上げることは必ずしも適切ではないと思います。ただ、この地政学リスクは、原油価格を通じた物価の上振れ要因であると思います。私どもとしては、様々なコンティンジェンシーを想定して、どのような対応が必要かをいつも考えていますが、そのようなものの性格として、ここで全部を申し上げるのは差し控えさせて頂きたいと思います。以上