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日本銀行記者会見2012年7月12日白川方明, 総裁

総裁定例記者会見(2012年7月12日)要旨

全文

§1Question

本日の決定会合の結果について、短観の評価、展望レポートの中間評価も含めてポイントをお聞かせ下さい。

§2Masaaki Shirakawa

本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、ご説明します。まず、海外経済をみると、NIEs やASEAN経済では、国内需要が堅調に推移しているほか、米国経済も、雇用者数の伸びがこの数か月間鈍化しているとはいえ、ガソリン価格の下落などを背景に個人消費が底堅い動きをみせ、住宅市場にも持ち直しの兆しがみられます。このように海外経済は、緩やかながら改善の動きもみられていますが、他方で欧州経済は停滞し、中国経済も減速した状態がやや長引くもとで、グローバルに企業マインドがやや慎重化しているなど、全体としてなお減速した状態から脱していません。ただ、こうした中にあっても、わが国の景気は、復興関連需要などから国内需要が堅調に推移していることから、「緩やかに持ち直しつつある」と判断しています。国内需要面では、まず公共投資が増加を続けています。また、設備投資は、企業収益が改善するもとで、緩やかな増加基調にあります。個人消費は、消費者マインドの改善傾向に加え、自動車に対する需要刺激策の効果もあって、緩やかな増加を続けているほか、住宅投資も持ち直し傾向にあります。この間、輸出についても、足許では持ち直しの動きがみられています。

§3Masaaki Shirakawa

以上の内外需要を反映して、生産は、振れを伴いながら、緩やかに持ち直しつつあります。先日公表した 6月短観の結果をみると、企業の業況感は、復興関連需要や堅調な個人消費の動向を反映して、内需関連業種を中心に緩やかに改善していることが確認されました。2012年度の事業計画についても、売上・収益が改善するもとで、全産業全規模の設備投資計画(ソフトウェアを含み、土地投資を除くベース)は、前年比+6.7%と、例年のこの時期の計画に比べて高めの伸びとなっています。わが国の金融環境は、緩和の動きが続いています。企業からみた金融機関の貸出態度や資金繰りなど企業を巡る金融環境指標は、2000年以降の平均を上回る水準まで改善しており、この点は6月短観でも確認されたところです。わが国経済の先行きについては、国内需要が引き続き堅調に推移し、海外経済が減速した状態から脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられます。4月の展望レポートで示した見通しと比較すると、内需はやや強め、外需はやや弱めと内外需のバランスは若干変化していますが、実質GDP成長率、消費者物価ともに概ね見通しに沿って推移すると見込んでいます。

§4Masaaki Shirakawa

すなわち、潜在成長率を上回る成長が続くもとで、消費者物価の前年比は、見通し期間後半にかけて 0%台後半となり、その後、1%に遠からず達する可能性が高い、とみています。以上のような見通しには、様々な不確実性が存在することは十分認識しています。欧州債務問題については、ギリシャにおける 6月17日の再選挙で、緊縮財政継続を公約している旧与党勢力が過半数を確保したほか、6月末の欧州首脳会議でも一定の前進がみられたことは事実です。しかし、財政・経済構造改革や金融システム面の対応を巡ってなお不透明感の高い状況が続く中、国際金融資本市場では神経質な動きが続いています。欧州債務問題の今後の展開と国際金融資本市場への影響については、引き続き、最も強く意識しておくべきリスク要因です。このほか、米国経済の回復力や、新興国・資源国経済が、物価安定と両立する形で成長の回復を実現していけるかどうかなど、世界経済を巡る不確実性は引き続き大きいと考えています。日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要な課題であると認識しています。この課題は、幅広い主体による成長力強化の努力と金融面からの後押しの両方が揃って初めて実現されていくものです。こうした認識のもとで、日本銀行は、成長基盤強化を支援するとともに、強力な金融緩和を推進しています。

§5Masaaki Shirakawa

日本銀行としては、引き続き適切な金融政策運営に努めていくとともに、欧州債務問題を背景に神経質な動きが続いている国際金融資本市場の状況を十分注視し、わが国の金融システムの安定確保に万全を期して参ります。なお、このところ、固定金利オペ等において応札額が資金供給予定額に満たない、いわゆる「札割れ」がみられています。「札割れ」は強力な金融緩和の効果が市場に浸透していることの表れではありますが、本日の決定会合では、こうした状況のもとでも、予定通り資産買入等の基金の積上げを着実に行っていくために、以下の対応を採ることにしました。第1 に、最も頻繁に札割れが発生している固定金利オペを5 兆円程度減額し、同じ短期の資産である短期国債の買入れに同額振り替えることにしました。第 2 に、増額した短期国債をより確実に買入れていくため、現在、年0.1%に設定している当該買入れの入札下限金利を撤廃することとしました。これにより、短期国債の市場実勢利回りが 0.1%を下回るような状況においても、短期国債の買入れを円滑に行うことができると考えています。なお、同じ短期の資産であるCPについても、入札下限金利を撤廃することとしました。第3 に、固定金利オペの「期間 3 か月」と「期間6 か月」の区分をなくして、「期間6 か月以下」とすることとしました。

§6Masaaki Shirakawa

これにより金融機関の資金需要によりきめ細かく応じることが可能になります。日本銀行は、現在、資産買入等の基金の残高を本年末に65 兆円程度、来年6月末には 70 兆円程度まで積み上げていくことで、強力な金融緩和を推進しています。今回の措置は、資産買入等の基金の着実な積上げを通じて、現在推進している金融緩和を今後も間断なく進めていくことに資すると考えています。

§7Question

本日の会合では、物価の見通しについても中間評価をしていますが、「中長期的な物価安定の目途」としている1%をより早期に実現する観点から、追加的に策を講じる考えはあるのでしょうか。

§8Masaaki Shirakawa

物価の上昇は、基本的には、景気が良くなり需給ギャップが改善することに伴って実現するわけです。物価が景気と関係なく上昇するケースもあり得ますが、それは、例えば原油等の輸入コストが上昇し、そのコスト転嫁から物価が上昇するような場合であって、そうした形での物価上昇を私どもが目指しているわけではありません。そうした認識のもと、日本銀行では、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進し、経済活動の水準の向上、ひいては需給ギャップの改善を促すことを通じて、「中長期的な物価安定の目途」の実現を目指しています。こうした金融緩和政策の効果が波及するまでには、かなり長い時間的ラグがありますが、日本銀行としては、強力な金融緩和がいずれ効果を発揮していくと考えています。本日決定した措置も、そうした強力な金融緩和を今後も間断なく進めていくためのものです。日本銀行の金融政策は、そうした経済物価の先行き見通しを踏まえて運営しています。加えて、日本経済がデフレから脱却するためには、成長力の強化が不可欠です。こうした問題意識は、昨日原案が公表された「日本再生戦略」においても、「デフレを生みやすい経済構造の変革」の必要性という形で示されており、私も全く同意見です。

§9Masaaki Shirakawa

今後、同戦略に掲げられている成長力強化のための取組みが着実に実行に移され、日本銀行も引き続き強力な金融緩和を推進していくもとで、物価を巡る環境はさらに改善していくと考えています。私どもとしては、金融緩和の最適なスピードを引き続き意識しながら、景気・物価の展開や金融政策の効果をじっくり見極めて、適切な政策運営を行って参りたいと考えています。

§10Question

欧州債務問題ですが、前回の決定会合以降、欧州主要国およびECBを含めて、色々な形の政策対応がなされました。ある程度リスクは後退したのではないかとの見方もありますが、欧州問題の現状および先行きについて、総裁の評価をお伺いします。

§11Masaaki Shirakawa

最近の国際金融市場の動向をみると、スペインの国債利回りが一時7%を上回るなど、依然として神経質な動きが続いています。ギリシャの新政権発足やスペインの金融システム支援などの懸案事項について、一定の前進がみられていることは事実ですが、財政・経済構造改革などを巡って、不透明感の高い状況が続いていると認識しています。この間、銀行間の資金調達市場は、総じて安定した状態が続いています。先週のECBの利下げは、適格担保基準の緩和と併せて、これを後押ししていくことが期待されると思います。欧州経済は、周縁国で貸出が減尐し、失業率が上昇するなど、停滞しています。かねて申し上げているように、欧州債務問題のリスクの本質は、財政、金融システム、実体経済、三者間の負の相乗作用です。これを遮断する有効な取組みが行われないと、周縁国を中心に欧州経済がさらに下振れるだけでなく、金融市場の不安定化を通じて、世界経済に極めて大きな影響を与える惧れがあります。財政と金融システムとの負の相乗作用を断ち切り、欧州発の世界金融危機を防ぐためには、第1 に財政健全化と構造改革、第 2 に金融システムの安定・強化、第3 に銀行同盟など欧州統合に向けた取組みの3 点において、明確な前進を図る必要があると思います。欧州当局者は、これらの課題に対し、取組みを進めています。

§12Masaaki Shirakawa

第1 の財政健全化と構造改革については、各国政府が追加の緊縮財政策や労働市場改革の具体化を図っています。第2 の金融システムの安定・強化では、スペイン政府が、金融機関の自己資本を増強する方針を明確化しています。こうした方針を支援するため、6月末の欧州首脳会合において、最大 1,000 億ユーロの金融支援を行い、将来的には、欧州安定メカニズム(ESM)を活用して、金融機関への直接資本注入を行うことで合意しています。第3 の銀行同盟など欧州統合の推進についても、その中長期的な課題を明示したことに加えて、先月末の首脳会合では、域内単一の金融監督メカニズムの創設を検討する方向で合意しています。もっとも、これらの課題は、法的、政治的、経済的な制約が複雑に入り組んでおり、実現に向けて解決すべき点が数多く存在しています。この点を巡る不確実性から、金融市場の神経質な地合いが続いていますが、私としては、欧州各国は、問題解決に向けた意思と能力を有していると信じています。欧州当局による迅速かつ着実な取組みを強く期待したいと思っています。

§13Question

3 つ伺います。1 つ目は内需です。復興需要とエコカー補助金があったと思いますが、復興需要に関しては、予算の執行が遅れているという問題もありますし、エコカー補助金ももうすぐ終わるということで、今後、内需がどうなっていくとみているのか伺います。2 つ目は、海外です。欧州問題や新興国経済の低迷が思ったより長引いているという見方をされているのか伺います。また、1 つ目と 2 つ目に関わりますが、これらが今後、回復シナリオにどういう影響を及ぼしていくのか、伺います。

§14Masaaki Shirakawa

先程申し上げた通り、4月の展望レポートとの比較でみると、内需はやや強め、外需はやや弱めということで、全体としては、構成は変わっていますが、概ね4月の見通し通りです。その意味で、今後の見通しを考えていく上では、内需の底堅さが今後とも維持されるのか、内需の堅調が維持されている間に、海外経済の減速が止まり外需が回復していくのかどうか、その辺がポイントになってくることは、ご指摘の通りです。まず、内需ですが、足許の内需が強いことは、6月短観でも示されていると考えられます。こうした堅調さの背景として、5 つほど考えられます。第 1 に、エコカー補助金などの政策効果です。第2 に、被災地における生活再建消費や、被災した設備の修復・建替え、耐震・事業継続体制の強化、メガソーラーなど新たな発電設備増強の動きなどを含めた広い意味での震災関連需要です。第3 に、企業収益の改善を背景とした企業マインドの改善と、それを受けた賃金・所得の下げ止まりです。第4 に、高齢化消費を中心とした潜在需要の掘り起こしが進捗していることです。第 5 に、円高メリットです。これら5 つの要因を考えてみた場合、今後は、エコカー補助金の反動などを念頭に置いておく必要はあると考えていますが、広い意味での震災関連需要や、企業収益・雇用者所得の改善基調、高齢者消費などは、ある程度、持続性を持ち得ると考えています。

§15Masaaki Shirakawa

次に海外経済や外需ですが、現在、減速が長引いていることをどう理解するかが出発点になると思います。色々な原因があると思いますが、一番大きい原因は、欧州債務問題が欧州経済の停滞をもたらし、そのことが、日本の輸出減尐――欧州に対する直接の輸出もありますが、特に中国等を通じた間接的な輸出の減尐――の影響が想定より大きかったということだと思います。加えて、この欧州債務問題に伴うテールリスク、不確実性を意識した企業が、世界的なレベルで様々な投資を当面見合わせることもあったのだろうと思います。そういう意味で、今後の世界経済を考えていく上では、やはり欧州債務問題がどのように展開していくのかが大きなファクターだと思います。一方、先程、海外経済については、持ち直しや改善に向けた動きもみられると申し上げましたが、例えば、米国では住宅バブルの崩壊から5年以上が経過する中で、住宅市場には、さすがに持ち直しの兆しがみられています。自動車販売を始め、個人消費も緩やかに増加しています。その背景を考えると、ガソリン価格が下落し、長期金利もかなり低下してきたことが挙げられるように思います。NIEs、ASEAN経済では、原油価格の下落等から物価上昇率が低下するもとで、金融緩和などの政策対応や実質購買力の回復等を背景に、個人消費や設備投資が堅調に推移しています。

§16Masaaki Shirakawa

今申し上げた、先行きの内需を巡る要因、それから、外需をみていく上での点検ポイントについて、これからも注意深くみていきたいと考えています。

§17Question

確認に近くなるのですが、今回の措置、資産買入等基金の色々な組換えについてですが、金融緩和の強化ではなく、残高を積んでいくための技術的な措置と捉えて良いのかお伺いします。2 つ目は、短期国債とCPの入札下限金利 0.1%の撤廃についてですが、これは、市場の実勢レートを受け入れるということだと思いますが、実際に今、市場ではどういう形になっていて、今回撤廃することによって、どのような効果が望めるのかをお聞かせ下さい。

§18Masaaki Shirakawa

まず、今回の措置の意味合いです。日本銀行は、資産買入等の基金の残高について、本年末には65 兆円程度、来年6月末には 70 兆円程度を達成すると申し上げています。この買入れを毎月行っていくことは、毎月毎月、金融緩和を強化しているということです。今回の措置は、そうした金融緩和の強化を予定通り着実に推進していくことを担保していく措置です。今、「技術的な措置」とおっしゃいましたが――「技術的」という言葉の定義にもよりますが――、そうした間断なく強化している金融緩和を着実に行っていくための措置ということです。次に、短期国債とCPの入札下限金利撤廃の効果です。短期国債の取引をみると、現在、0.1%を下回る金利水準で発行されているのがマーケットの状況です。そうしたもとで、日本銀行が 0.1%の入札下限金利を設定していると、短期国債の買入れが十分に行えないということが起こるわけです。そういう意味で、今回、この下限金利撤廃によって、短期国債の買入れをより確実に遂行できると思っています。

§19Question

審議委員の件です。国会で同意されたお二人が今回参加できませんでしたが、任命が遅れている理由をどのようにお聞きになっているかと、任命日の目処があれば、教えて下さい。

§20Masaaki Shirakawa

ご存じの通り、審議委員の任命については、日本銀行法において、「両議院の同意を得て、内閣が任命する」ということになっており、任命日は内閣がお決めになることです。従って、今のご質問について、私の立場からコメントすることは特にありません。

§21Question

任命が遅れている理由について、どのようにご説明を受けておられますか。

§22Masaaki Shirakawa

内閣が任命することであり、私どもとして、任命日について聞いているわけではありません。

§23Question

最近、ECB、中国、韓国を含む各国で追加的な金融緩和の動きが相次いでいますが、これらをどのようにご覧になっているか。こうした各国の動きは、為替相場に影響するということも、可能性としてはあると思いますが、各国中央銀行の緩和の動きは、今後の日銀の政策判断の中で考慮されていくのかどうか、お尋ねします。

§24Masaaki Shirakawa

まず、日本銀行の金融政策ですが、私どもは先々の資産買入等について予めコミットしています。それについて、新たなコミットメントを決めたのは本年の 2月、4月ですが、現在はそれに沿って間断なく金融緩和を強化しているわけです。ご質問は、「日本銀行は金融緩和を強化していない」という趣旨と受け取りましたが、今月も金融緩和を強化しているということをまず最初に申し上げたいと思います。その上で、各国の金融緩和政策、金融緩和措置ですが、それぞれの国あるいは地域における経済実態の弱さに対応した措置であろうと考えています。足許の経済成長率ということに限って言うと、既に統計が判明している1~3月期のGDP成長率は、G7の中では日本が一番高かったわけですし、多分、この 4~6月期の日本の成長率は、まだ数字は出ていませんが、年前半という意味では、先進国の中では非常に高い方であっただろうと思います。為替相場への影響ですが、昨年夏からの円相場の動きをみても、各国の為替相場の動きをみても分かる通り、この間における為替相場の動きを決定した一番大きな要因は、グローバル投資家のリスクテイク姿勢にあったと思います。欧州債務問題が緊迫化し、リスクをとりにくくなってくると、安全とみなされている通貨が上昇し、そうした緊張が尐し和らぐと、この安全通貨高という現象が幾分和らぐ、ということの繰り返しであったと思います。

§25Masaaki Shirakawa

日本銀行の金融政策は、各国の金融政策をみてやっていくのかということですが、日本銀行がみているのは、経済・物価の先行きの姿です。もちろん、各国の中央銀行が自国の経済の状況をみていく際に、世界経済は各国に影響してくる要因になります。そういう意味で、金融政策の向かう方向が結果として同じということは、ある程度発生するわけですが、日本銀行の金融政策は、各国中央銀行の金融政策に機械的にリンクして運営するわけではありません。

§26Question

本日決定した短国とCPの下限金利撤廃についてですが、今後、他の金融資産の短い金利への影響があり得るのか、ご見解をお願いします。

§27Masaaki Shirakawa

今回の措置は、資金供給のオペを確実に遂行していくために講じたものです。短期金利への影響がどの程度あるかについては、実際にやってみないと分かりませんが、日本銀行は、現在、当座預金の超過準備に 0.1%を付利していますので、コールレートが 0.07%や 0.08%で推移している現在の状況から大きく低下していくとは考えていません。

§28Question

先程の質問と尐し重なりますが、今回、固定金利オペの札割れが多いので減額したのは分かり易いのですが、一方で、短期国債を増やすところが尐し分かり難いです。むしろ、4月からは年限を延ばして長めの金利に働き掛けることを中心的にやっているかと思います。今回は短期国債の増額としたことについて、もう尐し説明して頂けますか。

§29Masaaki Shirakawa

まず、資産買入等の基金の目的として、長めの金利あるいはリスクプレミアムに働きかけるというのはご指摘の通りですが、これは、本年4月からではなく、一昨年10月に始めた時から、そういう目的で運営しています。そうした目的のもとで、固定金利オペ、短期の国債、長期の国債、ETF、REIT等を買うという思想自体は変わっていません。現在、札割れが最も頻繁に発生しているのは固定金利オペです。つまり、札割れが短期の固定金利オペで最も頻繁に発生しているということですから、同じ短期のオペという意味で、短期の国債に振替えるのが最も自然な対応と考えました。

§30Question

2 点伺います。まず、海外経済の見通しですが、本日の展望レポートを点検した内容でも、今のご説明でも、内需は強くて外需は弱いが、外需はじきに回復してくるだろうという話だと思います。一方、海外の中央銀行、政策当局の対応をみると、どんどん緩和してきており、おそらく予想よりも経済状況が悪いということで、そのような対応を採っているものと思います。その中で、日本銀行の海外経済の見通しは、比較的強気にみえますが、海外経済は、いつ頃に弱い状況を脱してくるとお考えですか。2 点目は、物価の見通しについて、改めて確認です。1%の目途に「遠からず」というのは14年度も含む、という見方は、4月の発表時と変わらないのかお伺いします。

§31Masaaki Shirakawa

まず、1 点目の海外経済に関する見方については、日本銀行が他の中央銀行に比べて楽観的であるというご指摘と理解しましたが、日本銀行の方が楽観的であるということは全くありません。日本銀行の見方という意味では、米国経済を例にとるのが最もふさわしいと思います。米国経済の見方は、FOMCの議事要旨、あるいはFOMCメンバーの経済見通しをみても、確かに下振れてきています。しかし、この間、日本銀行は、一貫して米国経済について慎重な見通しを立てていました。従って、米国当局あるいはエコノミストの見通しの方がやや振れており、逆に、私どもの見方に割合い近づいてきたというのが率直な印象です。米国経済を考えていく上で、私どものこれまでの判断が結果的に正しかったように思っていますが、それは、何と言っても、バブル崩壊後の日本の経験が私どもの判断に活きているためと思っています。バブル崩壊後の経験としては様々なものがありますが、今の経済見通しとの関係では、2 点あると思います。第 1 点目は、大きなバブルが崩壊した後の経済の調整には時間がかかり、その間、成長率は低いものになり易いということです。第2 点目は、経済活動が大きく落ち込むかどうかは、金融システムの安定が維持されるかどうかにかかっているということです。

§32Masaaki Shirakawa

そのような観点からみた場合、日本銀行では、米国経済について、経済活動が大きく落ち込むことはないだろうが、成長率が大きく高まることもないだろうという一貫した見方をしています――「上に弾みにくく、下に振れ易い」という言葉で表現していました――。その意味では、米国当局あるいはエコノミストの見方が、日本銀行の見方に割合い近づいてきたというのが、率直な印象です。2 点目の 2014年度の物価見通しは、今回数字を掲げているわけではありませんが、展望レポートにおける見通し期間を超えた先のイメージについては、4月の時点と今回で変わりはありません。

§33Question

中国では、中央銀行が2 回も利下げを行っており、経済の減速リスクが高まっているのではないかという点について、総裁のお考えをお聞かせ下さい。

§34Masaaki Shirakawa

中国経済については、まず、足許の減速が長引いていることをどう理解するかがポイントになります。先程も尐し触れましたが、中国の場合は日本以上に欧州向けの輸出比率が高く、この欧州向け輸出の減速の影響と、これまでの金融引締めや不動産取引抑制策から、不動産・インフラ投資などが減速していることが影響していると考えています。この影響は、鉄鋼など製造業の生産にも波及しています。中国経済の先行きについては、欧州債務問題を始め、不確実性に注意する必要があるほか、今は減速が長引いて回復の時期が尐しずれていますが、成長ペースは徐々に高まっていく――もちろん目覚ましく高い成長率になるわけではありませんが――、と判断しています。このように判断する根拠ですが、良好な雇用・所得環境は維持されており、最近のインフレの一段の低下も相俟って、先行き家計の実質購買力は改善していくとみられます。また、第2 に、金融緩和やインフラ投資の前倒しなど、中国当局による政策対応も強化されており、その効果が徐々に顕在化していくとみています。いずれにせよ、中国経済を考える時は、比較的短期の話と、中国経済が直面する尐し長めの課題を区別して考えたほうがいいと思っています。日本の高度成長が始まったのは 1950年代半ばから 15年間ですが、この間の成長率と、中国が高度成長に移行した1990年初頭から現在までの平均成長率はほぼ同じです。

§35Masaaki Shirakawa

しかし、どれほど高度成長を続ける経済も、いずれは安定成長に移行していくわけで、どのように、その安定成長への移行を図っていくかが課題です。従って、成長率が徐々に低下していくこと自体はむしろ望ましいことで、問題はそれをどのように安定的に行っていくか、ということです。私どもとしては、先程申し上げた2 つの要因から、当面の中国経済の見通しとして、経済が徐々に減速から脱していくということをメインシナリオにしています。いずれにしても、中国を巡っては、もちろん色々な不確実性があることは認識していますので、注意深くみていきたいと考えています。

§36Question

中国について、もう 1 点お聞きします。中国経済の減速は、いずれ回復するとおっしゃっているので、日本経済に対してあまり大きな打撃があるとは想定されていないと思いますが、個々の企業の決算発表等での設備投資の動向などをみると、予想外に慎重という感じもします。この点について、ご見解をお伺いします。また、需給ギャップといいますか、中国では今、短期的に需要が落ちているので、余っている製品が外国に出てしまい、それが日本だけでなく諸外国の物価を押し下げる方向に尐し働いている面もあると思いますが、その影響度合いについて、どのようにみているかお伺いします。

§37Masaaki Shirakawa

私も、企業経営者の方々から、中国経済の減速の影響について、記者の方がおっしゃったことと同じような感想を多く聞いています。中国のマクロの経済成長率と、日本企業の中国に対する輸出の間のギャップがどこからきているかということですが、日本企業が得意としている中国に対する輸出は、部品、生産財あるいは中間財が多いわけです。現在、中国で減尐している生産に関わる日本企業の輸出が多いことも、多尐、影響しているように思います。需給ギャップについてですが、確かに、記者の方がおっしゃったように、中国における需給ギャップの拡大から、物価が下がる方向に働くという議論もあると思います。同時に、最近は、中国における賃金の上昇が、色々な中国製品の価格下落圧力を抑えていくという議論もあります。現実に、日本の中国からの輸入をみると――例えば、衣料品等が典型ですが――、これまでの価格低下に尐し歯止めが掛かっている、物によっては上がっていくという動きが出てきています。そういう意味で、中国経済の動向が日本の物価に与える影響は両方あり得るのではないかと思います。

§38Question

昨日で、震災から1年4 か月が経ちました。前回の記者会見で、マネタリーベースの伸び率に関しては、昨年は震災があったから上がり、今年は下げているという説明がありました。まず、震災復興に関して、今後、日銀が中央銀行としてできることは、何があるのでしょうか。次に、マネタリーベースの平均残高が、昨年12月に115.5 兆円、今年6月に 119.9 兆円と、4.5 兆円しか上がっていないので、それ程金融緩和を強力にしているとはみられないのですが、どう解釈したら良いのでしょうか。

§39Masaaki Shirakawa

まず、日本銀行が震災復興に対してどういう形で貢献できるかということです。昨年4月、震災復興支援のための資金供給オペレーション(被災地金融機関を支援するための資金供給オペ)を始めました。これは、現在も行っています。現在、被災地の金融機関に、様々な資金が流入し、資金繰りは非常に好転していますが、日本銀行として資金面で金融機関の不安を取り除く趣旨から、このオペレーションを行っています。それから、日本銀行からの資金調達をし易いようにとの狙いで、被災地金融機関に関して担保要件も緩和しています。マネタリーベースは、銀行券と、日本銀行に預けられている当座預金ですが、両方とも、季節性が高いものです。例えば、銀行券については、年間で 12月が一番多く発行される月です。先程おっしゃったのは、12月と 6月の水準比較ですが、マネタリーベースの伸びをみる上では、一般的には、季節性を均す意味で「前年対比」が使われます。あるいは「名目GDP対比」でみると思います。マネタリーベースの伸びは、この 3月、4月は前年の震災時の資金供給の裏で、一旦、低下しましたが、先般発表した6月のマネタリーベースの前年比は、+6%弱(+5.9%)であったと思います。名目GDPとの比較でみたマネタリーベースは――いつもこの席で申し上げていますが――、先進国の中央銀行の中では最も高い水準です。

§40Masaaki Shirakawa

それから何よりも、金融緩和の度合いは、最終的にどういう金利で資金調達ができるのかということで測られるわけです。この面でみると、短期の金利にしても、あるいは長期の貸出金利にしても、日本は非常に低く、例えば、米国の住宅ローン、モーゲージ・ローンの借入金利と、日本の同じような借入金利を比べても、日本の方がインフレ率の格差を調整してもなお低いという形で、現に、非常に緩和的な状況を実現していると思います。その上で、日本銀行としては、今般の措置を含め、金融緩和をさらに着実に進めていく方針です。

§41Question

2 点伺います。1 点目は、今、英国バークレイズによるLIBORの不正操作が問題になっており、英国中銀の関与も疑われるような状況になっていますが、日銀の総裁として、この状況をどのようにご覧になっているか、率直な感想を伺います。LIBOR、日本のTIBORもそうですが、銀行の申告をベースに算出しているという仕組みですが、再発、不正ができないような仕組みに改めるべきなのかどうか、もしお考えがあればお伺いします。2 点目は、これだけ金融緩和が浸透し、邦銀は利鞘が非常に縮小しており、貸出が伸びない一方で金利が下がるということで、国内での収益基盤が非常に圧迫されている状態ですが、こういう状況をどのようにご覧になっているか、伺います。

§42Masaaki Shirakawa

まず、LIBORに関するご質問です。英国のバークレイズ銀行が、実勢と異なるレートを報告することによって、ドル L I B O R とEURIBORを不正に操作したとされ、今般、英米当局から処分を受けたことは承知しています。ただし、本件については、関係当局による調査が続けられている段階にあると理解しており、私の立場からコメントするのは適当ではないと思います。TIBORについては、一部の外資系金融機関において、一部の役職員が、レート呈示を行う銀行の職員に対し、自ら担当する取引に有利になるようなレートを呈示するよう継続的に働きかけていたことなどから、昨年12月、わが国の金融庁より、関係する外資系金融機関 4 社に対し、行政処分が発せられたところです。LIBORもTIBORも、金融市場における重要な金利指標であり、こうした不正操作は、金融市場の公正性に対する信頼を損ない、市場メカニズムの健全な発展を阻害しかねない大変深刻な問題です。金融機関においては、こうした不正を防止できるような体制を確保するとともに、金利指標の作成に関わる諸機関が、指標の信頼性を確保できる枠組みを整えることが、金融市場への信認確保にとって重要と考えています。次に、日本の金融機関の収益基盤の話です。

§43Masaaki Shirakawa

金融機関の経営内容、あるいは資産内容、収益内容は、金融が経済を支えるものである以上、日本の経済と離れているものとは考えていません。そういう意味で、まず大きく捉えると、日本経済全体の成長率、あるいは日本全体の企業・産業の収益率、収益動向、そうしたものと金融機関の動向は、基本的にはパラレルであろうと考えています。そう申し上げた上で、金融機関の収益基盤を考えてみると、基本的に短期で資金調達して長期で運用するという、期間のミスマッチというものがあるわけです。短期金利水準が低下してきて、今はゼロに近付いてくる一方、運用金利も着実に下がってくるということですから、金融機関の収益基盤は、方向としては、苦しくなってくるということはご指摘の通りです。それから、金融機関の中でも、地域金融機関については、それぞれの地域に営業基盤を持っているわけですから、人口の急速な高齢化、あるいは減尐という問題に直面している地域では、一般論として、金融機関の収益基盤がその分厳しくなり易いということが言えると思います。そういう中で、金融機関は収益力を高めていくための努力をしていますが、大手行については、日本の企業がアジアに進出していく中で、アジアでの営業基盤を強化していこうと努力しています。

§44Masaaki Shirakawa

また、大手行に限らず、他の金融機関を含めて、中小企業の様々なビジネス展開に対してソリューション――どうやってビジネスを改善させていくか――を提案していくことを通じて収益力を上げていく、あるいは手数料を上げていくというように、様々に取り組んでいます。いずれにしても、この問題は、金融と実体経済が相互にリンクしている以上、金融機関自身の努力と、日本経済全体の成長力を引き上げる努力の両方が必要と考えています。

§45Question

LIBORの不正操作問題についてです。米国の金融当局は、2007年当時に不正操作を把握していたとのことですが、日本銀行は不正操作を把握していたのでしょうか。また、不正操作を把握していないまでも、不自然な動きがあったという認識はあったのでしょうか。

§46Masaaki Shirakawa

米国、あるいは英国もそうですが、個々の金融機関の不正行為の有無を検証するのは規制監督当局だと思います。日本銀行は行政上の規制監督当局ではありませんので、個々の金融機関について不正行為があったかどうかを直接検証する立場ではありません。ただ、様々な金利の動向について、中央銀行の立場から注意深くみているということです。

§47Question

先程の金融機関の収益基盤の話ですが、メガバンクなどは海外で収益を上げていくこともできると思いますが、一方で、地域金融機関は、地元に貸出先もなく、国債運用に依存しており、しかも利鞘を稼ぐために長期国債を多く持っているため、金利リスクも高まっていると思います。国債依存の問題と地元貸出の低迷がある中で、地域金融機関は、今後どのように経営基盤を確立していくべきか、お考えをお聞かせ下さい。

§48Masaaki Shirakawa

金融機関の経営者は、それぞれ難しい状況の中、必死になって今の問題に対する解を見つけようと努力されていると思います。そう申し上げた上で、中央銀行という立場で感じることを幾つか申し上げたいと思います。まず、先程、実体経済の改善と金融機関の収益向上はパラレルだと申し上げました。日本経済の成長力を高めていく努力はやはり必要だと思います。この点では、先程も紹介した、政府による日本経済の再生戦略があり、そこに盛り込まれているような様々な規制改革等の取組み、企業の収益率が上がっていくような努力をしていく必要があると思っています。2 つ目に、金融機関自身も、経営努力が必要と思っています。金融機関の使命は、成長性のある企業を発掘し、リスクとリターンを適切に評価した上で貸出を行っていく努力をすることであり、そこに金融機関の本質があると思っています。金融機関自身がそうした技術を磨いていくことが、非常に大事だと思っています。これがなければ、金融機関は長い目でみて成長しないということだと思います。私どもとしては、金融機関のそうした取組みをできるだけサポートしていきたいという気持ちから、成長基盤強化の支援を行っているわけです。政府の取組みと個々の金融機関の取組みが相俟って、金融機関の経営基盤・収益基盤が改善していくことになると思います。そうしたことに取り組んでいくことが是非とも必要と考えています。

§49Question

今回、基金による緩和策の構成をやや組み替える形をとりましたが、これは、札割れが頻発していることとも相俟って、ある意味ではこの基金の資産買入れによる緩和はもはや限界に来ているのではないか、かなり技術的にも厳しいのではないかという見方もできると思いますが、そのことについてはどのようにご覧になっていますか。

§50Masaaki Shirakawa

札割れが発生しているということは、それだけ日本銀行が強力な金融緩和を行い、その効果が発揮されているということだと思います。今、「限界に来ている」というネガティブなトーンで言われましたが、金融緩和という面からすると、まさに効果が発揮されていることの証左でもあると思っています。この席でも度々申し上げている通り、中央銀行の金融緩和が経済を持ち上げて行くルートは、第1 に金融環境を改善していく、第2 に改善した金融環境を使って企業が投資を行っていく、という2 段階に分かれています。この第1 段階という意味では、まさに、この札割れが示す通り、金融緩和の効果が強力に浸透しているということだと思っています。私どもとしては、こうしたことを今後とも粘り強くやっていくと同時に、成長力を強化していくための様々な規制改革等を含めた取組みが不可欠と思っています。

§51Question

ECBが先日の決定会合で利下げを行い、それに伴って預金ファシリティー金利をゼロまで引き下げました。これを受けて、日本の市場でも、一部、日銀の付利金利引き下げを織り込んで金利が下がっていくような動きがありますが、その点について総裁はどうお考えですか。これまで、短期市場の機能低下ということで、それについては否定的にみていらっしゃったと思いますが、そのお考えに変化がないかどうか教えて下さい。

§52Masaaki Shirakawa

まず結論から申し上げると、その考えは全く変わりません。この席でも繰り返し申し上げたことですが、日本銀行としては、政策金利の引き下げによって得られる効果と副作用の双方を勘案した結果、「 0.1%の超過準備への付利金利と、0~0.1%程度の金利誘導目標」という組合せのもとで、金融緩和効果が最大限発揮されると考えており、付利金利の引下げは考えていません。誘導目標と切り離して付利金利の引下げという議論になるわけでありません。この点、わが国の無担保コールレート・オーバーナイト物は、足許は0.07%から 0.08%の水準で推移していますが、これを完全なゼロ金利とすることについては、市場機能や金融機関行動に与える副作用について、十分意識する必要があると考えています。短期金融市場の金利が極限的にゼロに近づくと、市場の流動性が著しく低下し、市場参加者が必要な時に市場から資金調達ができるという安心感を損なう惧れがあります。従って、短期金利が極限的にゼロに近づくことで、確かに、何がしか金利水準が下がる効果があるとは思いますが、それ以上に、今申し上げたマイナスの効果が大きいということであり、ご質問の点について、考えは全く変わっていません。以上