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日本銀行記者会見2012年10月5日白川方明, 総裁

総裁定例記者会見(2012年10月5日)要旨

全文

§1Question

本日の決定会合の結果について、9月短観や、中国と日本との関係悪化という新しい要素も加わっていると思いますが、どのような議論がなされて、この結果になったのかご説明をお願いします。

§2Masaaki Shirakawa

本日の金融政策決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、ご説明します。まず、海外経済をみると、減速した状態がやや強まっています。欧州経済については、債務問題の悪影響が周縁国からコア国へと波及するもとで、設備投資は減少し、個人消費も耐久消費財を中心に弱めの動きとなるなど、景気は緩やかに後退しています。また、中国経済は、ウエイトの高い欧州向けの輸出が落ち込んでいることに加え、素材産業など幅広い分野で在庫調整圧力が増していることなどから、減速感の強い状況が長引いています。この間、米国経済は、企業マインドの慎重化を反映して設備投資や生産の増勢が鈍化する一方、個人消費は緩やかに増加し、住宅投資にも持ち直しの兆しがみられるなど、全体としては緩やかな回復基調を続けています。国際金融資本市場では、欧州債務問題を背景とする投資家のリスク回避姿勢は、ECBがユーロ圏国債市場の「安全弁」として新たな国債買入れスキームを整備したこともあって、一頃に比べればやや後退した状態が続いています。

§3Masaaki Shirakawa

もっとも、ギリシャの財政・経済構造改革の進展や、スペインの支援要請の有無、「銀行同盟」成立に向けた取組み等を巡って不透明感の強い状況が続く中、今後の国際金融資本市場の展開には十分注意していく必要があると考えています。次に、わが国の景気ですが、「横ばい圏内の動きとなっている」と判断しています。前月は「持ち直しの動きが一服している」としていましたが、その延長線上で時間の経過を踏まえた表現としました。輸出や鉱工業生産は、海外経済の減速した状態がやや強まるもとで、弱めとなっています。一方、国内需要は、復興関連需要などから底堅く推移しています。すなわち、公共投資は増加を続けているほか、住宅投資も持ち直し傾向にあります。個人消費は、エコカー補助金の終了に伴う乗用車購入の反動減が見込まれていますが、雇用環境が改善傾向にある中で、底堅く推移しています。設備投資は、企業収益が総じて改善するもとで、緩やかな増加基調にあります。もっとも、9月短観の結果をみると、企業の景況感は、海外経済減速の影響などを背景に、幾分慎重化しています。2012年度の事業計画についても、経常利益は増益が見込まれていますが、製造業を中心に 6月短観対比で下方修正されています。

§4Masaaki Shirakawa

この間、 2012年度の設備投資計画は、GDPの概念に近い「ソフトウェアを含み、土地投資を除く」名目ベースでみると、前年比+7.2%と、例年のこの時期の計画に比べて高い伸びとなっていますが、海外経済減速の影響などによって、今後投資見送りの動きが出てくることがないかどうか、注意してみていく必要があると考えています。経済主体の支出・投資行動を支える金融環境は、日本銀行の強力な金融緩和を反映して、緩和した状態にあります。すなわち、企業の資金調達コストは、新規の貸出約定平均金利が短期・長期とも 1%程度となるなど、低水準で推移しています。CP・社債市場の発行環境についてみると、業績悪化が懸念される一部の銘柄でスプレッドが拡大していますが、投資家の需要が引き続き底堅い中で、総じてみれば良好な状態が続いています。また、企業からみた金融機関の貸出態度や企業の資金繰りなどに関する指標は、2000年以降の平均を上回る水準で改善した状態が続いており、この点は 9月短観でも確認されたところです。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、既往の原油価格の下落が下押し要因となっている中、概ねゼロ%となっています。

§5Masaaki Shirakawa

わが国経済の先行きについては、当面横ばい圏内の動きにとどまるとみられますが、国内需要が底堅さを維持し、海外経済が減速した状態から次第に脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられます。リスク要因をみると、欧州債務問題、米国経済の回復力、新興国・資源国の物価安定と成長の両立の可能性など、世界経済を巡る不確実性が引き続き大きいほか、金融・為替市場動向が景気・物価に及ぼす影響には、注意が必要と考えています。とりわけ、欧州債務問題がさらに深刻化し、国際金融資本市場の動揺、ひいては世界経済の一段の下振れにつながるリスクについては、一頃よりやや後退したとはいえ、引き続き強く意識しておくべきと考えています。中国経済についても、インフラ投資や不動産販売など内需の一部で改善の兆しがみられ始めていますが、過剰設備の問題を克服し、持続可能な成長経路に順調に移行できるかどうか、引き続き注視していく必要があります。また、米国経済については、いわゆる「財政の崖(fiscal cliff)」の問題など財政政策の先行き不透明感が強い状態が続いており、その回復力に注意が必要です。日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要な課題であると認識しています。

§6Masaaki Shirakawa

この課題は、幅広い主体による成長力強化の努力と金融面からの後押しの両方が揃って初めて実現されていくものです。こうした認識のもとで、成長基盤強化を支援するとともに、強力な金融緩和を推進しています。今後とも、資産買入等の基金の着実な積上げを通じて間断なく金融緩和を進めていきます。日本銀行としては、引き続き適切な金融政策運営に努めるとともに、国際金融資本市場の状況を十分注視し、わが国の金融システムの安定確保に万全を期していく方針です。

§7Question

10月5日で、包括緩和を創設してからちょうど 2年になります。この間、基金は 35 兆円から 80兆円に増え、その効果もあって各種の市場金利も下がりました。ただ一方で、なかなか消費者物価が上向かないという状況もあると思うのですが、この 2年の評価をお願いします。

§8Masaaki Shirakawa

日本銀行は、多様な金融資産の買入れや、実質的なゼロ金利政策等の継続期間に関する約束、いわゆる時間軸政策を通じて、長めの市場金利の低下と各種リスク・プレミアムの縮小を促すことを目的に、2010年10月に「包括的な金融緩和政策」の枠組みを導入しました。この枠組みのもとで、日本銀行は、様々な形で、金融緩和の一段の強化に取り組んできました。資産買入等の基金に関して定めている上限や期限については、累次にわたって拡大・延長してきており、当初は 35 兆円程度、期限 2011年末として開始したものを、現在は 80 兆円程度で期限 2013年末と、当初の設定をはるかに上回る大規模かつ長期の緩和政策としています。いつも申し上げていることですが、こうした金融緩和政策が実体経済に及ぼす影響経路のうち、第 1 段階が中央銀行の行動、金融政策から金融環境への波及、第 2 段階がその金融環境から実体経済への波及です。そうした 2 段階に分けて考えてみると、第 1 段階については、十分緩和した金融環境が実現しています。まず、この第 1 段階の効果について、米国との比較も意識しながら述べます。日米の中央銀行とも、大規模な資産買入れを行っていますが、重要な点は、それによって実際に企業や家計の資金調達環境がどの程度緩和的となっているかということです。

§9Masaaki Shirakawa

この点、具体的に日米における企業や家計の資金調達コストをみると、例えば、QE3で対象としている米国の住宅市場のローン金利は、低下してきており、30年固定物で 3.4%となっています。一方、わが国ではさらに低く、35年固定物でも足許 1.9%です。もちろん、日米ではインフレ格差がありますが、それを調整した実質ベースでも、日本は米国と同じか、それよりも低くなっています。また、AA 格の社債流通利回りについて、国債金利に上乗せされるプレミアムを日米で比較してみると、米国では、昨年後半は欧州情勢を巡る緊張の高まりもあって、2%を超える水準まで上昇する局面もみられましたが、足許では 0.7%程度の水準にあります。一方、わが国では、震災以降も含め、0.3%程度の低水準で概ね安定的に推移しています。さらに、金融機関の貸出態度に関するサーベイ・データをみると、米国では、昨年末から今年初にかけて、金融機関の貸出姿勢が慎重化する動きが顕著にみられましたが、わが国では一貫して積極化方向の動きが続いています。今月初に公表された短観をみても、わが国の企業は、資金のアベイラビリティに関する安心感が確保されている様子が確認できます。

§10Masaaki Shirakawa

このように、わが国では、包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進により、企業の資金調達コストは低水準にあり、資金のアベイラビリティに関する安心感もしっかり確保されるなど、国際的にみても、極めて緩和した金融環境が実現しています。次に、第 2 段階、すなわち実体経済に及ぼす影響をみると、わが国の緩和的な金融環境は、リーマンショック後の落込みから持ち直す過程にあった経済を金融面から強力に下支えし、経済活動の水準回復と、それに伴う物価の下落幅縮小を後押ししてきました。ただ、こうした極めて緩和的な金融環境を利用して、活発に投資や支出が行われているかと言うと、残念ながら、そうした状況にはなっていません。日本経済にとっての最大の課題は、国内で魅力ある投資や支出の機会を創出する努力です。この点では、何よりも民間企業の積極的なチャレンジが重要ですが、同時に、思い切った規制緩和を始めとする、政府による成長力強化のための環境整備も不可欠です。いずれにしても、日本銀行としては、引き続き、包括的な金融緩和政策により、金融面から経済をしっかりと後押ししつつ、成長基盤強化の支援を通じて、企業および金融機関における成長力強化に向けた取組みをサポートしていく考えです。

§11Question

本日、前原大臣が初めて会合に参加されたと思います。前原大臣は、かねてから、デフレ脱却に向けて、政府・日銀がさらに連携していかなければならないと発言されています。政府と日銀が連携を深めなければならないということについては、総裁も同じ意識でいらっしゃるのか、また、前原大臣はアコード、政策協定を結ぶことについても言及をされているのですが、これについて前向きかどうかについて、教えて頂けますか。

§12Masaaki Shirakawa

まず、日本銀行は、先程申し上げた通り、デフレから脱却し物価安定のもとでの持続的な成長経路に復することが極めて重要であるという認識のもとに、強力な金融緩和政策を推進しています。そうした日本銀行の考え方は、政府からの理解も得られていると思っています。今、ご質問で、「アコード」という言葉をお使いになりました。本日の金融政策決定会合での発言ということではなく、一般論としてのご質問ということで、お答えしたいと思います。日本銀行は、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図る必要があると認識しており、実際、様々な場を通じて、また様々なレベルで、政府と十分な意思疎通を図ってきています。ご承知の通り、私自身も、例えば、総理大臣とは、ほぼ定期的に直接お会いし、率直な意見交換をさせて頂いており、経済・物価情勢に関する認識についてご理解を頂いていると思っています。また、「連携」ということでは、先程のご質問でお答えした、日本銀行の金融緩和の第 1 段階と第 2 段階も関連してきます。まず、第 1 段階の金融緩和による緩和的な金融環境の実現という点では、相当の効果が上がってきていると思っています。第 2 段階である、この金融環境を使って企業が大いに投資をして欲しいという部分については、やはり先程申し上げた通り、企業自身のチャレンジと、それを可能にするための政府による様々な規制緩和等の取組みが不可欠です。

§13Masaaki Shirakawa

そういう意味で、日本銀行の金融環境を整備する努力と、政府による成長力強化との連携が非常に大事だと思っています。

§14Question

念のためですが、本日の会合で、前原大臣からどういう発言があったのかご紹介ができるのであれば、教えて頂けますか。また、前原大臣は、アコードについての発言もありますが、外債購入について、「デフレ脱却に向けた有力な材料の 1 つ」とおっしゃっています。改めて、外債購入について総裁のお考えを伺います。

§15Masaaki Shirakawa

まず、前原大臣のご発言ですが、決定会合での各参加者の発言については、議事要旨、議事録という形で公表する扱いになっています。前原大臣のご発言については、来月に議事要旨を公表するので、それをご参照頂きたいと思います。次に、本日の決定会合から離れて、一般的に、日本銀行による外債購入についてどう考えているかとのご質問にお答えします。あくまでも一般論として申し上げると、現在聞かれている日本銀行による外債購入議論は、為替相場を円安に誘導することを目的として論じられていると理解しています。こうした為替介入と同等の効果を狙った外国為替の売買については、日本銀行法上、日本銀行は「国の事務の取扱いをする者」――これは法律の用語ですが――として行うこととされており、為替介入は財務大臣の所管となっています。これは、現在の日銀法を議論した時における、国会での政府の答弁にも示されていますが、為替の問題は常に相手国が存在するので、通貨外交の面で一元的に対応すべきであるという考え方に基づくものと認識しています。こうした点については、先般の国会において、安住前財務大臣も、為替介入は「財務大臣が一元的に対応すべきであって、日銀が為替介入に代わるものとして外貨建て資産の購入を行うことは適切ではない」と説明しておられます。

§16Masaaki Shirakawa

また、藤村官房長官や城島新財務大臣も、日本銀行による外債購入については、慎重な検討が必要と述べておられ、政府の法律解釈は以上のようなものであると理解しています。もちろん、為替相場の動向は、家計や企業の購買力やマインド面への影響等を通じて、日本経済や物価に大きな影響を及ぼし得るものであることは言うまでもありません。こうした観点から、日本銀行は、為替相場の動向や、その経済・物価への影響を常に点検し、金融政策運営に当たってしっかりと考慮に入れてきています。今後とも、先行きの金融経済動向を丹念に分析しながら、適切な金融政策運営に努めて参りたいと思っています。

§17Question

わが国の景気は「横ばい圏内の動き」ということで、日本経済の停滞感が強まっているわけですが、物価の持ち直しの動きも、これに伴って遅れが生じているという認識をお持ちかどうかお聞かせ下さい。

§18Masaaki Shirakawa

私どもは、前回の金融政策決定会合で、景気・物価の基本的なシナリオを明確に下方修正しました。物価を規定する1つの大きな要因は、需給ギャップです。その需給ギャップのマイナス幅が解消するスピードが、この景気の下方修正のもとで、その分緩やかになってくるわけですから、その分、物価の上昇圧力が低下することになってくるわけです。定性的には、そうした整理になります。そうしたことは、既に前回の決定会合で定性的に織り込んで対応を採ったわけですが、現在、数量的あるいは時期的にどういうイメージになるのかという点検作業を進めています。今月末の展望レポートで、その辺を入念に点検した上でお示ししたいと思っていますが、定性的にはそうしたことだと思います。その際、物価の短期の動きには足許の景気動向が影響しますが、物価がどういう大きな方向へ向かっているかが、非常に大事であると思っています。現在、日本の潜在成長率はゼロ%台半ばであり、それを上回る成長率であれば、概念的には、需給ギャップが縮小していくわけですから、経済がそうした方向に向かっているかどうかが、物価をみる上では非常に大事だと思っています。

§19Question

来週、IMF・世銀総会が東京で開かれます。その期間中にG7の開催予定もあると思うのですが、白川総裁は、どのようなご主張、訴えをされていくのでしょうか。また、この間、各国の中央銀行がかなり機動的に対応してきている一方で、政治の側といいますか、財政改革等がなかなか進まないという状況は、先進国共通であるかと思うのですが、こういった状況についての総裁のご認識、あるいはこういった点は、来週の会合の中で話し合いになることがあるのかどうか、お伺いします。

§20Masaaki Shirakawa

まず、1 問目のG7会合(G7財務大臣・中央銀行総裁会議)では、いつものことですが、世界経済の現状と先行きや国際金融情勢について、率直な議論が行われると思います。G7は、G20が主要な国際会議となった時から、より率直な意見交換に力点を置く形で運営されています。従って、最初から、何か固定した議題があるわけではなく、非常に自由に率直に意見交換するということです。私も、日本の経済情勢あるいは日本銀行の金融政策運営について説明したいと思っていますが、それと同時に、世界経済が非常に厳しい局面にある中で、世界経済全体の持続的な発展のためにはどういうことに気をつけるべきなのかについて、発言をしたいと思っています。それから、今のご質問とも関連しますが、2 問目として、財政改革が遅れている中で、来週の一連の国際会議において、こうした状況についてどう思うか、どう対応すべきかという議論が行われるのかという問いです。来週のG7以外にも様々な会合があります。IMFC(IMF国際通貨金融委員会)と言われる会議もありますし、バイラテラルの――個別での――面談もあります。そうした会議で出てくる 1 つの問題意識は、今まさに記者の方がお尋ねになったような点だと思います。世界経済を長い目でみた場合にどういったことになっているかを少し申し上げたいと思います。

§21Masaaki Shirakawa

米国の住宅価格がピークをつけたのが 2006年の第 2 四半期ですから、それから既に 6年以上経過しています。また、国際金融危機が、いわゆるパリバショックという形で顕在化してからも、もう 5年以上が経過しています。この間の先進国経済の回復の度合いについて、例えば、米国をみると、住宅バブルのピークから 6年経っていますが、アグレッシブと言われることの多い金融政策のもとでも、米国経済は、実は、日本のバブル崩壊後の 6年間のGDPの経路よりも低い経路で走っているわけです。それくらいに、2000年代の半ばにかけて拡大した世界的な信用バブルの巻き戻しの影響が大きいということだと思います。そういう中で、リーマンショック後、大規模に展開した財政政策についても、大なり小なり、これ以上活用することはなかなか難しい状況にあるほか、金融政策についても、先進国は、概ねゼロ金利であり、中央銀行のバランスシートも非常に拡大しています。そういう中で、政策運営はどうあるべきなのかということですが、私が考えている1つの論点は、この新しいバブル崩壊後の債務調整プロセスにおける低成長自体は、ある程度は不可避であると思っています。そういう中で、各国の対応自体がまた次の新たな問題を引き起こし、結果として世界経済全体の安定を脅かすことになると、これは言わば「二次災害」になってきます。

§22Masaaki Shirakawa

例えば、かつて 1930年代に保護貿易主義が台頭し、それ自体が世界経済の落込みをもたらしたわけですが、そういう意味で、世界経済全体の安定という観点から、先進国も新興国も適切な政策運営をしていくことが大事だと思っています。これは、私が、これまでも国際会議で繰り返し主張している点でもありますが、そうした点も含めて、今回、議論してみる必要がある、してみたいと思っています。

§23Question

3 点お伺いします。1 点目は、先程、前回の金融政策決定会合で景気見通しを明確に下方修正したとおっしゃいましたが、その時に、景気だけでなく物価シナリオも明確に下方修正したとおっしゃったのかどうかお伺いします。2 点目は、もともと日本銀行は、14年度以降、遠からず消費者物価指数の前年比が 1%に達する可能性が高いという大きな「旗」を掲げてきたと思うのですが、物価見通しも下方修正したということであれば、この見通しも撤回されたのかどうかお伺いします。3 点目に、もしまだ撤回されていないのであれば、展望レポートで、改めてこの見通しがやはり達成できない、遅れてしまうということであれば、もともと 1%を目指して強力な金融緩和を推進してきているとおっしゃっている手前、やはり追加的な対応が新たに必要になってくるのではないかと思いますが、その点についてお聞かせ下さい。

§24Masaaki Shirakawa

まず1問目については、先程の問いに対する答えで申し上げたつもりですが、景気、成長率について下方修正するということは、その分、需給ギャップについて下方修正するということになります。そのため、物価についても、定性的には、下方修正することになってくるわけです。近年、需給ギャップに対する物価の感応度が低下しているため、短期的に非常にビビッドに影響するということではないかも知れませんが、先程申し上げた通り、定性的には修正を行ったということです。その数字や時期については、展望レポートでお示ししたいと思いますが、これは「旗」ということではなく、「見通し」を再度点検していきたいということです。それから、政策対応ですが、9月は、日本銀行が望ましいと考えているパスから踏み外すことがないように、強力な金融緩和をさらに追加したということです。大事なことは、1%という物価上昇率に向けて経済が向かっているか、ということです。これは、物価に限らず、FRBの場合でいえば、米国の失業率についてもそうだと思いますが、ある政策的な目標を考えていく場合に、それを追求する上での「最適なスピード」が常にあると思います。

§25Masaaki Shirakawa

最適なスピードを無視して、例えば、今、どんどん国債を買い入れるということをすれば、確かに、一時的には長期金利が下がるかもしれませんが、そのことによって、何かのきっかけでまた反転上昇していくようになると、却って金融機関の経営にもマイナスの影響が出てくるわけです。従って、私どもとしては、常に、最適なスピードを考えながら政策を運営していくことが必要です。そうした意味で、物価の見通しと政策対応が機械的に1 対 1 に対応しているわけではありません。いつも申し上げている通り、様々なリスクも含めて点検をし、最適なスピードで行っていきたいということです。

§26Question

最近、鉱工業生産で悪い方向の数字が相次いで出ていますが、4~6月と比べた 7~9月以降の生産のイメージについて、現在、どのような方向感でみていらっしゃるか、お伺いします。

§27Masaaki Shirakawa

9月の鉱工業生産の数字はまだ出ていませんが、4~6月に比べた 7~9月の鉱工業生産についてのご質問です。ご存じの通り、鉱工業生産は、通常、前月比あるいは前期比で議論しますが、現在、季節調整が難しくなっています。すなわち、リーマンショックの影響に関して、どの程度を季節要因として考えるのかによって、季節調整した数値が随分と変わってきます。このため、現在、私どもは、公表されている季節調整ではなく、独自に、リーマンショックによる落込みを調整した季節調整を行い、それをベースに実勢としての鉱工業生産を把握しています。また、別途、企業に対してかなり包括的かつインテンシブなヒアリングも行っています。そうしたことを踏まえたイメージで考えると、7~9月の鉱工業生産は、実勢ベースでみてマイナスという感じになっています。このマイナスについては、海外経済の減速が長引いていることの影響が出てきていると思っています。

§28Question

2 点お伺いします。先程、外債について、質問とお答えがありました。これまで、基本的には介入と同じ効果ということで、先程もそういうお答えでしたが、前原大臣は、先般、「円安誘導ではなく、資金供給の手段の一環として外債購入を考えたらどうか」という主張をされています。要は、為替云々ではなく、あくまで資金供給手段として考えてはどうかというお話をされていますが、そういった政策としては、総裁はどのようにお考えになるのかが 1 点目です。次に、先程の質問にも多少ありましたが、現在の中央銀行が置かれている状況について、欧州も米国も日本も、財政再建であったり、欧州債務問題であったり、政治の対応がなかなか進まない中で、中央銀行のバランスシートがどんどん拡大する、いわば各国の緩和競争のような状況に陥っているわけです。そういった状況に陥っていることについて、総裁はどのようにお考えなのか、マーケットからも緩和を催促されるような状況がずっと続いているわけですが、そういった現状に関するご認識を伺えればと思います。

§29Masaaki Shirakawa

まず 1 問目についてです。日本銀行は、金融市場における需要を十分満たす潤沢な資金供給を行ってきており、現在のところ、円資金の供給について、何ら問題は生じていません。そうした中で出てきている、日本銀行による外債購入の議論については、為替相場を円安に誘導することを目的として論じられているように思います。繰り返しになりますが、そのような為替相場の安定を目的とする外国為替の売買は、先程申し上げた通り、法律上、財務大臣が一元的に管理・対応することになっています。2 つ目のご質問ですが、これも、この席でいつも強調して申し上げていることですが、中央銀行によるバランスシートの拡大、流動性の供給、あるいは様々な資産の買入れは、中央銀行として自らに課された使命を遂行していく上で、どういう方法があり得るかを真剣に考えて行っているものです。実は、今、先月の米国FRBのQE3後のバーナンキ議長の記者会見のことを思い出しながらご質問をお聞きしていました。そこでは記者の方が繰り返し、バーナンキ議長に「これだけモーゲージ金利が下がってきている中で、モーゲージ債を買うことによって、一体どの程度追加的な景気刺激効果があるのか」と何度も聞いていました。

§30Masaaki Shirakawa

それに対するバーナンキ議長の答えは、「確かに金利水準は相当低下してきているが、FRBは、中央銀行として、自分たちが持っている手段として、どういう形で貢献できるかを考えた結果、こういう方法を選んでいる」というものでした。また、バーナンキ議長は、「金融政策は panacea(万能薬)ではない。しかし、自分たちの責任は果たしていく」ということを言っていました。日本銀行も全く同じ思いであり、確かに金利水準は低下してきていますが、日本銀行が現実に持っている手段でどのように貢献していくかを考えているわけです。こうした様々な中央銀行による方策は、色々な痛みを緩和していくという一定の意味はありますが、これには直面している様々な問題を解決していくための「時間を買う」政策としての側面があるように思います。従って、その間に――先程、金融緩和政策の第 2 段階の話を申し上げましたが――、日本銀行としては、しっかりと第 1 段階の緩和した金融環境を維持し、今後とも工夫していきたいと思っています。同時に、第 2 段階に対応した真剣な努力がなければ、なかなか経済全体に効果が浸みわたっていかないということです。

§31Masaaki Shirakawa

そういう意味で、この席で何度も申し上げていますが――ややしつこいかなと思いますが――、そうした努力が必要であることについて、私自身、これからも主張していきたいと思いますし、是非そうした取組みを世の中全体として進めて頂きたいという思いです。

§32Question

2 つ質問します。1 点目は、中国経済の調整について、先程もご説明がありましたが、だいたいどの程度で終了しそうだというイメージをお持ちでしょうか。日本の自動車メーカーが減産するという話も出ていますが、中国経済の減速が日本経済や日本企業に与える影響について、どういう分析をされているのでしょうか。2 点目は、短観の結果と関連するのですが、製造業のマインドがやや悪化しているのですが、日本経済全体をみた場合、この製造業のマインドの悪化が非製造業に波及するリスクについて――非常に詳しく点検されていると思いますが――、現在、どのようにみておられるかお伺いします。

§33Masaaki Shirakawa

まず 1 問目ですが、いつ頃、どの程度でと、定量的にお答えするのは難しいように思います。お答えになるかどうか分かりませんが、こう考えています。中国経済は、なお高めの成長を続けながらも、成長ペースが鈍化し、減速局面が長引いていますが、その要因を整理すると 2 つあると思います。第 1は、欧州景気が緩やかに後退するもとで、輸出の 2 割を占める欧州向けが落ち込んでいることです。第 2 は、素材を中心に在庫が積み上がる中でも、生産の抑制が進んでいないために、生産調整に時間が掛かっていることです。先行きを展望した場合、当面は成長ペースが鈍化した状態が続くとみられます。もっとも、その後は、良好な雇用・所得環境のもとで、堅調な消費が見込まれる上に、金融緩和やインフラ投資の前倒しなど財政面からの刺激効果も加わるため、徐々に成長ペースは高まっていくと考えています。ただ、そう申し上げた上で――前回の会見の時も申し上げましたが――、やや長い目でみると、かつての日本と同様、中国も、いずれかの段階で、高成長から中成長に移行してくことが避けられないと思います。むしろ、中成長への移行自体は望ましいものであり、重要なことは、そうした移行を円滑に進められるかどうかという点にあると考えています。中国の当局者と議論していると、日本の安定成長への移行期の経験などを含めて大変良く研究されていると感じることが多いです。

§34Masaaki Shirakawa

5月以降の金融緩和やインフラ投資の前倒しなどの一連の政策は、中国景気の減速局面がやや長引いていることへの対応であると同時に、経済を持続可能な成長経路に円滑に移行させることも意識しているように思われます。ご質問は、具体的に自動車メーカーへの影響ということでしたが、いずれにせよ、不確実性が大きいので、中国経済が抱えるこれらの点についても、引き続き注意を払ってみていく必要があると考えています。2 番目のご質問ですが、記者の方の問題意識は、本日の決定会合でも議論されたテーマです。これまで、相対的に内需は堅調であり、内需が堅調なうちに外需がどのように回復してくるのかが重要とみていたわけですが、外需の背後にある海外経済の減速がやや長引いている状況です。その影響は、現在、製造業の輸出あるいは生産という形で現れてきていますが、そのことが徐々に、経済の他の部門にも波及してくることは、当然、考えられます。例えば、雇用面をみると、所定外労働時間が、製造業を中心に弱めとなっています。あるいは、新規の求人倍率も、多少そういう感じが出てきています。そうなると、消費を支える雇用・所得環境という点で変化が出てくるわけですから、当然、財の消費、サービスの消費にも影響が出てくるということで、非製造業に波及することにもなってくると思います。

§35Masaaki Shirakawa

今回の短観でも、総じてみると、非製造業はまだ底堅さを維持していますが、そうした可能性が顕在化していくことがないかは重要なポイントだと認識しています。

§36Question

2 点質問します。1 問目は、本日の前原大臣の出席についてです。現職の経済財政担当大臣が出席するのは 9年半振りということです。もちろん、法律には大臣が出席すると書いてありますし、政府・日銀の意見交換の場としては貴重だと思います。一方、これが政府による緩和の圧力だと解釈する向きもあります。総裁は、本日の大臣自らのご出席を、どのように受け止められたのでしょうか。もう 1 点は、中国の尖閣問題に関連して、経済的な影響が大きいのではないかという懸念が特に広まっています。このことについて、本日の決定会合において議論がされたかどうか、もし議論があったのであれば、差し支えない範囲でご紹介頂きたいと思います。

§37Masaaki Shirakawa

まず第 1 問目です。記者の方がおっしゃった通り、日銀法上、財務大臣と並んで経済財政政策担当大臣は金融政策決定会合に出席できる扱いとなっており、事実、過去にも出席された例があります。大臣には、私どもの真剣な議論を聞いて頂き、また大臣も自らの考え方を披瀝され、私も大臣のお考えとして受け止めさせて頂きました。私どもの真剣な議論を直接聞いて頂くことは、意義があることと考えています。次に、2 つ目のご質問です。最近の日中関係の悪化が日本経済の現状および先行きに対して影響を与えるのではないかという観点、問題意識での議論は、昨日の執行部からの報告、それから本日の会合における政策委員間の議論でもありました。貿易面において、言うまでもなく中国は日本最大の輸出先で、中国にとっても日本は米国に次ぐ大きな輸出先です。国際的な分業体制のもとで、日本から中国には資本財・部品や中間財が輸出され、中国はこれらを加工した最終財を、日本を含めた各国・各地域に輸出しています。このように、日中両国の経済はグローバル・サプライチェーンのもとで、重層的な相互依存関係にあります。このように日中経済の相互依存関係が高いだけに、今後の展開や経済面の影響を注意深くみていく必要がある、という議論でした。

§38Question

2 問伺います。今月末に展望レポートが出ますが、先程、数字についてはこれから検討していくとおっしゃいました。もし、2014年度に 1%という数字に達しないとの結論が出た場合、日銀のインフレーション・ゴールである1%がある中で、さらなる緩和をする必要があるとお考えなのか。それとも、物価というのは大きな動きが重要であり、最適なスピードを考えると、1%に届かなくても緩和する必要はないとお考えなのか。2 点目は、新しく自民党総裁になった安倍総裁が「3%のインフレーションを目指すべきではないか」とおっしゃっています。2月に 1%のインフレーション・ゴールを掲げた後、インフレ期待は上がったと考えていらっしゃるのでしょうか。もしインフレ期待が上がっていないとしたら、それ以外に、日銀として何ができるとお考えでしょうか。

§39Masaaki Shirakawa

まず 1 問目です。どの国の中央銀行も、目指すべき姿を意識しながら金融政策を展開しています。常にコストとベネフィット、あるいは最適なスピードを意識して運営しています。1 つの例を挙げると、先般のFRBのQE3です。これをみると、向こう 3年半位の間に、FRBのデュアル・マンデートの 1 つである雇用という面で、望ましい姿は達成されないことが見通しとして出されています。また、その点について、よく記者会見で本日と同じように質問が出ています。私のみるところでは、FRBの答えは、政策の最適なスピードを意識している、望ましい方向に着実に向かっている、そういう軌道にあるのかどうかをみているように思います。日本銀行の場合も、物価の見通しがどのようになるかは、これから点検することになりますが、望ましい方向から軌道を踏み外していないかどうか、踏み外さないようにしなくてはならない、という意識で 9月も政策対応を採りました。9月の会合後も、毎月毎月、私どもは会合を行い、新しいデータが加わりますので、常にそういう長い目でみた軌道を点検しながら、政策運営をしていきます。その中で、どのような政策が良いかをまっすぐに考えていきたいと思っています。次に、望ましい物価上昇率についてです。安倍総裁のご発言そのものについてのコメントではありません。一般論としてお答えしたいと思います。

§40Masaaki Shirakawa

3%という議論もあるでしょうが、よくある議論は、2%です。改めて、日本の消費者物価の動向を振り返ると、デフレが言われ始めた 1998年以前から、日本の消費者物価上昇率は、海外主要国に比べて一貫して低い状態が続いています。例えば、未曾有の好景気であったバブル期に相当する 1980年代後半(1986~1990年)の 5年間の平均は+1.3%です。年によっては 0%もあります。あの未曾有の好景気の期間でも、物価上昇率は、実は+1.3%だということです。こうした日本の現実を離れて、例えば、一気に 2%を目指すことにした場合、これは今まで何十年と経験したことのない姿を、いきなり日本銀行は目指すということになります。そうすると不確実性が生まれてきます。そうなると、今の日本の厳しい財政状況を考えると、例えば長期金利が上がってしまうことにもなりかねない惧れもあります。その場合には、もちろん実体経済にも影響が出ますが、国債を抱える金融機関にも悪影響が出てきます。経済の安定的な成長という面でみても、必ずしも好ましくないということです。従って、私どもとしては、1%を当面の目途とし、これを目指してしっかり政策運営をしていくということを申し上げているわけです。それからインフレ期待についてです。

§41Masaaki Shirakawa

インフレ予想をどのように測定するかは、なかなか難しいわけですが、各国の中央銀行が重視している中長期の予想インフレ率に対応する日本の様々なデータをみると、日本の場合、中長期のインフレ率は、私どもが目途としている 1%にアンカーされていると思います。そういう意味では、私どもの中長期の「物価安定の目途」は、それなりに信頼して頂いていると思っています。

§42Question

先程のご発言の中で、「前原大臣のお考えを受け止めた」とおっしゃったと思うのですが、大臣の「金融緩和を一段と強化すべき」というお考えを受け止めた、ということでよろしいでしょうか。もう 1 点ですが、先程も質問がありましたが、前原大臣と自民党の安倍総裁も、日銀に対して、一段と金融緩和を強化すべきという発言を繰り返されていますが、総裁は、「既に十分やっている」というご認識であるのか聞かせて下さい。

§43Masaaki Shirakawa

先程、正確に申し上げたつもりですが、大臣には、私どもの真剣な議論を聞いて頂き、また、大臣も自らの考え方を披瀝され、私も大臣のお考えとして受け止めさせて頂いたと申し上げています。日本銀行は、様々な方々の色々なご意見をいつも聞いており、前原大臣のお考えとして、受け止めさせて頂いたということです。2つ目のご質問ですが、金融政策決定会合では、毎回、前回の会合以降、様々なデータが蓄積され、それに照らして先々の経済・物価見通しを点検していくわけです。経済は静止しているわけではありませんので、常に変化する経済の見通しを前提にして、その時点その時点で、最適な政策を行っていると思っています。従って、現時点で私どもが採用している政策は、私どもとして考えた最適な政策であるということです。繰り返しになりますが、これは、毎回毎回点検をしていくということです。それから、物価について、望ましい姿を実現していくことは、政府と日本銀行がともに努力をして初めて実現するものであり、日本銀行だけの努力で実現するものではありません。まさに、そういう意味での連携、政府の成長力強化と日本銀行の金融緩和による下支えという連携が不可欠だと思っています。以上