総裁定例記者会見(2013年1月22日)要旨
全文
§1Question
本日の決定会合の結果について、ご説明をお願いします。
§2Masaaki Shirakawa
日本銀行は、本日の金融政策決定会合において、金融緩和を思い切って前進させることとし、以下の 2点について決定しました。第 1 に、持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率として、「物価安定の目標」を導入することを賛成多数(賛成 7反対 2)で決定しました。今後、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組みの進展に伴い、持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識しています。この認識に立って、日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で 2%としました。なお、物価安定に関する検討の詳細については、明日公表される背景説明資料をご覧頂きたいと思います。様々な数値、事実等についても書いてありますので、是非ご覧頂きたいと思います。第 2 に、「期限を定めない資産買入れ方式」を導入することを全員一致で決定しました。日本銀行は、物価安定の目標の実現を目指し、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置を、それぞれ必要と判断される時点まで継続することを通じて、強力に金融緩和を推進します。その際、資産買入等の基金の運営について、現行方式での買入れが完了した後、2014年初から、期限を定めず毎月一定額の金融資産を買入れる方式を導入します。
§3Masaaki Shirakawa
中間評価にある通り、消費者物価の前年比上昇率が 1%を超えることを見通せない状況を踏まえ、2014年初から当分の間は、毎月、長期国債 2 兆円程度を含む 13 兆円程度の金融資産の買入れを行うこととします。これにより、資産買入等の基金の残高は、2014年中に 10 兆円程度増加し、それ以降残高は維持されると見込まれます。こうした形での強力な金融緩和の推進に当たっては、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していきます。また、今回の会合では、政府と共同して、「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」という共同声明を公表することを、賛成多数(賛成 7 反対 2)で決定しました。次回会合までの金融市場調節方針については、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの方針を維持することを全員一致で決定しました。次に、経済・物価情勢について説明します。まず、海外経済は、減速した状態が続いています。米国経済については、企業部門に弱めの動きがみられますが、個人消費は緩やかな増加を続け住宅投資も持ち直しの動きが明確になってくるなど、家計部門を中心に緩やかな回復基調を続けています。
§4Masaaki Shirakawa
中国経済をみると、減速した状態がなお続いていますが、個人消費が堅調に推移し、固定資産投資の増勢鈍化に歯止めがかかる中、輸出や生産にも安定化の動きがみられています。この間、欧州経済については、輸出が伸び悩んでいるほか、家計や企業のマインドが悪化した状態にあることを背景に、個人消費は弱い動きとなっており、設備投資や生産も減少しているなど、緩やかな景気後退が続いています。国際金融資本市場についてみると、まず、欧州債務問題は、欧州中央銀行による国債買入れスキーム(OMT)や欧州安定メカニズム(ESM)など各種の安全弁が整備されるもとで、単一の銀行監督メカニズム(SSM)の構築についても合意に達するなど、一定の進展がみられています。また、米国では「財政の崖」が回避されました。こうしたもとで、今後の市場の展開を引き続き注意していく必要がありますが、投資家のリスク回避姿勢は後退してきています。そのことが世界的に、為替市場や株式・債券市場の動きにも反映されています。次に、わが国の景気ですが、「弱めに推移している」と判断しています。先月の金融経済月報では、先行きについて、「当面弱めに推移するとみられる」と判断していましたが、現状は、その時点で想定していた通りに推移していると考えています。
§5Masaaki Shirakawa
すなわち、海外経済の減速した状態が続いていることなどから、輸出や鉱工業生産は減少し、設備投資も、非製造業に底堅さがみられるものの、全体として弱めとなっています。一方、公共投資は増加を続けており、住宅投資も持ち直し傾向にあります。個人消費は、底堅さを維持しており、乗用車購入における需要刺激策の一部終了に伴う反動減の影響も減衰しています。経済主体の支出・投資活動を支える金融環境は、日本銀行の強力な金融緩和を反映して、金利面でも、アベイラビリティの面でも、緩和した状態にあります。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、概ねゼロ%となっています。先行きは、当面、前年のエネルギー関連や耐久消費財の動きの反動からマイナスとなった後、再びゼロ%近傍で推移するとみられます。先行きのわが国経済については、当面横ばい圏内となった後、国内需要が各種経済対策の効果もあって底堅く推移し、海外経済が減速した状態から次第に脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。昨年10月の展望レポートにおける見通しと比べると、成長率は、2012年度については幾分下振れるものの、2013年度は各種経済対策の効果などから上振れ、2014年度は概ね見通しに沿って推移するとみられます。この間、消費者物価(除く生鮮食品)は、概ね見通しに沿って推移すると予想されます。
§6Masaaki Shirakawa
2014年度は、中央値でみて、+0.9%(除く消費税率引上げの影響)という見通しです。リスク要因をみると、欧州債務問題の今後の展開や米国経済の回復力、新興国・資源国経済の持続的成長経路への円滑な移行の可能性、日中関係の影響など、日本経済を巡る不確実性は引き続き大きい情勢です。日本銀行は、日本経済がデフレから早期に脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要な課題であると認識しています。この課題は、かねて申し上げている通り、幅広い主体による成長力強化の努力と金融面からの後押しが相俟って実現されていくものです。日本銀行は、今ご説明した通り、強力な金融緩和を推進していきます。日本銀行としては、大胆な規制・制度改革など「共同声明」に記載された政府の取組みがしっかりと実行されることや、持続可能な財政構造の確立に向けた取組みが着実に推進されることを、期待しています。
§7Question
本日、政府とデフレ脱却に向けた共同声明を取りまとめられましたが、この取りまとめに至った理由と背景をご説明下さい。
§8Masaaki Shirakawa
ご質問は、理由と背景ということですが、まずは趣旨から説明したいと思います。多少、発表した文書の繰返しになりますが――発表した文書を、全ての方が読まれるとは限らないので――、多少の重複はお許し下さい。その上で、理由についてもお話をしたいと思います。まず、本日公表した政府と日本銀行の共同声明は、デフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現に向け、政府と日本銀行の政策連携を強化し、一体となって取り組むことを文書で明確にしたものです。日本銀行としては、日本経済が現在置かれている状況に照らして、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」という日本銀行法に定められた理念のもとで、日本銀行の使命を果たしていくために、政府との連携強化が必要と判断しました。そこで示しているように、日本銀行は、今後、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組みの進展に伴い、持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識しています。この認識に立って、日本銀行は、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率で 2%とし、この目標のもと、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指すとしています。
§9Masaaki Shirakawa
その際、日本銀行は、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していくということです。同時に、政府は、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取組みを具体化し、これを強力に推進すると共に、さらに、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組みを着実に推進することを表明しています。先程も説明した通り、日本銀行は、強力な金融緩和を推進していきます。また、大胆な規制・制度改革など「共同声明」に記載された政府の取組みがしっかり実行されることや、持続可能な財政構造の確立に向けた取組みが着実に推進されることを期待しています。ご質問の趣旨というか、理由について、もう少し噛み砕いて申し上げたいと思います。まず、今回の連携強化ということになりますが、そもそも政府と日本銀行との連携自体は、日本銀行法のもとで、日本銀行は、政府と十分な意思疎通を図ることが謳われており、実際、常日頃からそうした十分な意思疎通を図っています。そうした一般論に加えて、現在の日本経済の置かれた状況を考えてみる必要があると思います。日本銀行は、強力な金融緩和を推進し、金融環境は非常に緩和しています。
§10Masaaki Shirakawa
この緩和された金融環境、例えば、今、上場企業の 43%位が実質無借金で、手元現預金も非常に多く積み上っていますが、日本銀行の作り出しているこの緩和的な金融環境がもっと活用されれば、もっと大きな金融緩和の効果が生まれてくると思います。この点で、政府の様々な競争力あるいは成長力強化は、日本銀行の金融緩和と並んで必要な取組みです。今、成長力強化のことを申し上げましたが、成長力強化によって金融緩和の効果がさらに引き出されてくるということです。また、日本銀行は、現在、強力な金融緩和を行っており、国債を大量に買い入れているわけですが、もしこの国債の買入れが、内外の市場で、中央銀行による財政ファイナンスであると受け取られると、長期金利が上がり、却って金融緩和の効果が削がれてしまいますし、金融機関経営に対する悪影響を通じて、金融が経済を支える力にも悪影響が出てくることになります。その面では、持続可能な財政構造をしっかりと作っていくことも大事であり、そういう面で政府との連携も必要になってくるわけです。これは大きな流れです。それから、このごく足許の 2013年~14年という経済の見通しを見ると、物価安定のもとでの緩やかな経済、景気の回復という見通しの実現の蓋然性が少しずつ高まってきていると思います。2013年度の経済成長の見通しは、そのようになっています。
§11Masaaki Shirakawa
そういう局面をとらえて、政府と日本銀行が連携を強化するということは、先程申し上げた大きな状況認識の中でも、適切であると判断しました。
§12Question
2%の目標に関してですが、これまで日銀は、「当面 1%を目指して金融緩和を続ける」と言ってきており、その 1%という数字がまだ現時点で必ずしも見通せていない段階で、1%という数字を無くして 2%という目標を置かれたわけですが、その 2%の数字の根拠と、その実現可能性を日銀としてどうみておられるのかについて、総裁の見解をお聞かせ下さい。
§13Masaaki Shirakawa
日本銀行は、従来、「物価安定の目途」として、2%以下のプラスの領域であるとし、その上で、当面は 1%を目指すと言っていました。また、成長力強化の取組みが実を結んでいくと、これは徐々に上がっていくという認識をかねて示していました。ご質問は、実現可能性ということですが、これは過去を振り返ってみると、1980年代後半のバブル期の 5年間の平均が+1.3%、それから 1985年以降2011年までの平均が、確か+0.5%だと思います。そういう意味で、この「2%」という数字を達成していくためには、相当思い切った努力が必要だと思います。日本銀行自身は、こういう形で、強力な金融緩和を推進するということですが、同時に、様々な主体による成長力強化の取組みは非常に重要であり、様々な主体による相当な努力を必要とすると思います。もちろん、そうした努力なしに成長力が上がっていくというわけではありません。そうしたことに向けて、政府も、民間も、それから日本銀行も、それぞれの立場で努力をしていくことは大事だと思います。その上で、実際にどの程度成長力の強化が図れていくのか、あるいは、エコノミストの言葉で言うと、予想インフレ率がどの程度上がっていくのかということは、これもまたしっかり点検をし、金融政策運営を行っていきたいと思います。
§14Question
2 点お伺いします。先程の質問に対して、2%という数字を達成するためには、「相当思い切った努力が必要だ」と総裁はおっしゃいました。現在、日本銀行は、その 2%に到達するための手段を持っているのかどうか、それをさらに検討していく余地はないのかどうか、その点をお伺いします。もう 1 点は、本日、「無期限」という新たな緩和の枠組みを打ち出したわけですが、なぜ「包括緩和」という、期限を明示してストックを積み上げていく方式ではなく、このような「無期限」という方式に切り替えたのか、既存の制度の限界があるとお考えだからなのか、この辺りを整理して頂けると助かります。
§15Masaaki Shirakawa
まず、日本銀行として、どのような手段があるのかということですが、今回、日本銀行は「包括緩和」を始めて以来、資産の買入れ、あるいは別途の政策手段ですが、成長基盤強化支援、貸出増加支援を行ってきました。中央銀行の金融政策は、基本的に、金融市場から資産を買い入れるということ、あるいは貸し付けるということですから、そうした手段を使っていくことになります。今回、こうした資産買入れについて、期限を定めない方式に改めたのは、これはもちろんそれぞれにメリット・デメリットはあると思いますが、先程申し上げた「物価安定の目標」のできるだけ早い実現ということを意識した場合、予め期限を定めるよりも、期限を定めない形で買入れを行っていくことを発表した方が、効果的であると判断しました。記者の方のご質問は、金融緩和政策だけで物価上昇率 2%が実現できるのかというお尋ねだと思いますが、これは、今回併せて公表した、私どもの物価安定の考え方のペーパーにも書いてある通り、強力な金融緩和と成長力の強化に向けた取組み、この 2 つが揃って初めて実現していくものです。その意味で、私どもとしては、中央銀行としてできることはしっかりやっていくということです。
§16Question
2 点お伺いします。1 点目は、物価目標を 2%に上げたこと、これ自体の効果や、市場でどう受け止められるかなどを、どう分析されるかお聞かせ下さい。2 点目は、1 点目と関連しますが、そもそもインフレターゲティングというのは、割と物価が高いところから抑えるのが基本だと思うのですが、今回の場合は低いところから上に引き上げるということで、これは日本銀行としては、フロントランナーというか、あまり前例がないようなことだと思いますが、その辺りの見解をお聞かせ下さい。
§17Masaaki Shirakawa
物価目標を 2%に引き上げたこと自体の効果ですが、日本銀行が 2%という物価目標を掲げることが、様々な経済主体の予想物価上昇率に対してプラスに働く場合には、それは 1 つの効果だと思います。ただ、同時に──先程もご質問があったように──、具体的にどのような手段で物価目標を実現していくかということと密接に関連しますが、単に目標を掲げるだけで実現できるというわけではありません。しかし、目標を掲げることが何がしか予想物価上昇率に作用すれば、これは 1 つの効果だと思います。それから、今、成長力強化の取組みが成功した場合には、少しずつ予想物価上昇率も上がってくると申し上げました。仮に、成長力強化の取組み以外の要因で物価が上がっていく場合には、今度は、この 2%という上限が、予想物価上昇率を大きく高めることを防ぐ効果もあるわけです。そういう意味で、繰り返しになりますが、ご質問の 2%の物価上昇それ自体の効果という意味では、予想物価上昇率を引き上げていく効果と、予想物価上昇率の上限を画するという効果もあると思っています。2 点目については、先程お答えしたと思います。金融面からの後押しと成長力強化の努力の両方が必要であるということです。
§18Question
2 点伺います。総裁は、先程、2%の実現可能性について、「相当な努力が必要だ」とおっしゃいましたが、昨年までは、過去に経験していない物価を目標に掲げると、長期金利の上昇などがあって、非常に経済に悪影響が及ぶというように、かなり 1%に固執してご説明されていました。これが、相当な努力をすれば実現できるのだと変わった理由は何なのか、もう一度詳しくご説明願います。もう 1 点は、今回、諮問会議で金融政策についても説明責任が求められるような文章になっていますが、これは日本銀行の独立性という観点で影響は及ばないのか、あるいはその先にある、総裁が大事にされている通貨の信認について悪影響が及ぶことはないのか、お考えをお聞かせ下さい。
§19Masaaki Shirakawa
まず、2%の話です。今回、2014年度の消費者物価上昇率の見通しは中央値で+0.9%になっています。従って、本日、数字は出していませんが、2015年度以降の経済・物価情勢を考えた場合、どういう姿になるのだろうかということは、当然皆さん関心があるわけです。そうだとすると、その先の世界について、私どもがどのように考えているのかは、やはり示す必要があると思いました。先程来、繰り返し申し上げていますが、2%については、成長力強化の取組みの進展に伴い、それに応じて上がっていくという意味で 2%を設定しています。しかし、今、現実にそうした取組みが直ちに効果を表しているわけではありません。従って、金融政策の運営に当たっては、そうした取組みのもとで形成される国民の物価観、予想物価上昇率を点検していくことになります。今回、共同声明にも、日本銀行の金融政策の目的をはっきりと書いています。これは、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」ことであり、物価だけをみて機械的に金融政策を運営するわけではないこと、金融政策は柔軟性が大事であるということを、私は先程も明確に申し上げたつもりです。究極の目的は、とにかく物価だけを上げていくということではなく、あくまでもバランスのとれた経済の姿を実現していくということです。
§20Masaaki Shirakawa
私が度々紹介している、国民の物価上昇に対する受止め方ですが、8 割以上の国民は、物価上昇については「どちらかと言えば、困ったことだ」と答えていると同時に、デフレ克服もして欲しいと願っています。それは、バランスのとれた経済の姿をできるだけ早く実現して欲しいということです。そうしたことをしっかり点検しながら、行っていくということです。2 つ目の独立性に関するご質問です。今回の共同声明は、日本銀行の独立性にもしっかり配慮がなされたものと理解しています。この共同文書のタイトルは「政策連携」です。つまり、連携ということは、政府と日本銀行それぞれが、お互いの役割を明確に認識した上でまとめられているということであり、何か一方的な関係があるというわけでなく、それぞれが明確に役割を理解して、行うべき政策に取り組んでいくということだと思います。それから、物価安定あるいは金融政策の運営について、前回のこの席で申し上げた様々な日本銀行の考え方も、十分に反映されていると思います。1 つ目は、物価の安定は、持続可能なものでなければならないことが謳われています。2 つ目は、物価上昇率が高まっていくためには、成長力強化の取組みが必要であることも書かれています。3 つ目のポイントは、金融政策運営の柔軟性を確保することの重要性についても明記されていることです。
§21Masaaki Shirakawa
加えて、中央銀行の独立性という考え方は、世界的に確立された考え方であり、政府においても十分な理解を頂いていると考えています。とりわけ、わが国の厳しい財政状況を踏まえると、デフレからの早期脱却を目指した日本銀行の強力な金融緩和が、仮に財政ファイナンスと受け止められたり、あるいは日本銀行の独立性が損なわれているという見方が拡がると、不測の影響を及ぼす可能性があるわけです。そうしたことは、政府自身も十分に認識されていると思います。日本銀行としては、日本銀行法の定めである「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」ことを目指して、自らの判断と責任において、適切な金融政策運営をこれからも行っていきます。
§22Question
2 つお聞きします。先程、できるだけ早く 2%を実現することを意識した場合に、期限を定めない買入れ方式に変えたことについて、より効果的だと判断されたとおっしゃいました。今までの時間軸といいますかコミットメントは、物価上昇率 1%を見通せるようになるまでゼロ金利と資産買入れを続けるというものでした。今回は、1%が消えて 2%という目標になった一方、時間軸の約束については、いつまでか全く分からない、より裁量的になったとも言えるのではないかと思います。そうした状況にもかかわらず、買入れ方法の見た目を変えただけで、どのような効果があるのでしょうか。コミットメントは、中央銀行の行動を制約することによって金利に影響を及ぼすものと思いますが、そういう制約が曖昧になったとすると、どのような効果が見込まれるのか。これが、1 つ目の質問です。もう 1 つ、先程、成長力強化以外で予想物価上昇率が上がった場合に、物価上昇率 2%という上限がそうしたことを防ぐ効果があるとおっしゃいました。今回、2%というピンポイントで目標を掲げたわけですが、中央銀行がピンポイントで物価上昇率を目標として掲げる場合、だいたいプラスマイナス1%前後のレンジが意識されているのが基本的な常識ではないかと思います。
§23Question
2%をピンポイントで挙げたことで、今おっしゃったように 2%以上はよろしくない、つまり 2%が上限でありそれ以上は看過できないという認識をお持ちなのでしょうか。安倍首相は、首相になる前ですが 2~3%が望ましいという見方もされていました。白川総裁は、2%は上限でありそれ以上は容認できない、そういうお考えなのかどうか教えて下さい。
§24Masaaki Shirakawa
1 つ目のご質問の趣旨を必ずしも明確に理解したわけではありませんが、日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で 2%とし、これをできるだけ早期に実現することを目指すという方針です。この方針のもとで、消費者物価の前年比上昇率が 1%を超えることを見通せない現状においては、2014年初以降、当分の間、毎月13 兆円程度の買入れをしていくという考え方です。先程も申し上げた通り、物価の上昇率は長らく低い状態が続いてきたわけです。この物価上昇率が、現実に上がって、例えば、1%を超えてくる見通しになってきたその時に、どの様な予想物価上昇率の変化が起きてくるのか。あるいは、成長力強化の取組みが実を結んでくる時に、今これだけの金融緩和を行っているわけですから、その時にどういう影響が出てくるのか。これを、今の段階で正確に見通すことができれば、もちろんそういうコミットメントあるいはガイダンスもできるでしょうが、そういう見通しをすることが現時点では難しいということだと思います。そうした状況の中で、私どもが将来の金融政策運営について、一定のガイダンスを与えることを考えると、先程申し上げた方式が最適と判断しました。2 問目ですが、日本銀行は、従来、物価の安定について 2%以下のプラスの領域と判断し、その上で、当面 1%を目指すと申し上げていました。
§25Masaaki Shirakawa
2%以下のプラスであるという考え方は、今回の決定会合の議論でも、変わっていません。海外の常識についてですが、色々な中央銀行があり、例えば、比較的数字をピンポイントで挙げているECBは「2%」、正確には「below, but closeto, 2%」として 2%以上を容認しない、2%が上限であるという趣旨の表現をしています。もちろん、現実の物価上昇率は、様々な要因でオーバーシュートすることがありますが、中央銀行の考えという意味では、例えばECBがあるということです。
§26Question
共同声明の件ですが、物価目標を掲げている主要国では、どちらかというと達成期限を中期もしくは長期とするケースが多いと思います。今回、敢えて日本銀行が「できるだけ早期に」という言葉を選ばれた理由をお聞かせ下さい。次に、先々の金融政策運営については、ゼロ金利と資産買入れの措置の継続期間を「必要と判断される時点」という言葉で表現されていますが、それは具体的にどういうことを想定されているのかを教えて下さい。もう 1 点、今回の金融緩和では、14年以降の資産買入れについて緩和しているわけですが、13年中の資産買入れペースを維持したまま、14年を追加緩和するという方式を選ばれた背景をお聞かせ下さい。
§27Masaaki Shirakawa
まず 1 問目ですが、今回、日本銀行の「物価安定の目標」は「持続可能な物価の安定」であるということを謳っています。持続可能とは、ある瞬間にその数字が実現するのではなく、その数字が持続するということです。海外の中央銀行において、「長期」または「中期」と表現しているのは、そういう「持続する」という意味を表しているわけです。物価は、原油価格の変動など様々な要因で瞬間的に上昇することもありますが、そうではなく、「持続可能な」という意味で、海外では「中長期」、「長期」、あるいは「中期」と言っています。もともと、物価安定の趣旨は、どこの国でもそういうものです。仮に、機械的に物価上昇率だけをみると、例えば 2008年には日本の消費者物価上昇率は 2%を超えましたが、あの時に日本銀行は引締めを行った方がよかったのかということになります。繰り返しになりますが、そういう意味で海外中央銀行と日本銀行は、表現の仕方は違うと思いますが、基本的に全く同じ考え方に立っています。2 問目ですが、先程お答えした通り、先行きの経済・物価情勢については、先になればなるほど不確実性が大きいと考えます。これは、一般論として言えるというだけではなく、例えば、成長力強化の取組みがどのような効果をもたらすのか、あるいは物価上昇率が少し上がって来た場合に、そのモメンタムはどういうものかについても、不確実性が大きいわけです。
§28Masaaki Shirakawa
日本銀行の最終的な目的は、物価安定のもとでの持続的な成長を実現することですから、そうした観点に立って、どのような政策対応が望ましいかを、経済・物価見通しとリスク要因を点検しながら判断していきたいと思っています。その判断の根拠、どのように判断をしたかについては、毎回の決定会合、あるいは展望レポートでしっかり説明していきます。3 問目の資産買入れのペースについてですが、本日発表した数字は、現在の買入資産の平均的な残存期間等を前提に計算したもので、その場合には、2014年中のフローの買入金額は、2013年中のフローの平均買入金額よりも大きくなるというのが今の想定です。
§29Question
2%の物価目標について、佐藤委員と木内委員が反対されていますが、その理由について教えて下さい。もう 1 点、宮尾委員から、ゼロ金利政策を 2%の物価上昇が見通せるまでという提案があり、これも否決されています。これは先程の総裁のお答えと重なるかもしれませんが、ゼロ金利政策だけ、景気の状況によっては先に解除することがあり得るということなのでしょうか。その2 点をお願いします。
§30Masaaki Shirakawa
まず、佐藤委員と木内委員の反対の理由です。両委員は、第 1 に、消費者物価の上昇率 2%は、現状、持続可能な物価の安定と整合的であると判断される物価上昇率を大きく上回ること、第2に、2%の目標値を掲げる上では、成長力強化に向けた幅広い主体の取組みが進む必要があるが、現に取組みが進む前に 2%の目標値を掲げると、金融政策の信認を毀損する惧れがあること、などから物価安定の目標の導入に反対されました。詳しくは、次回の金融政策決定会合後に公表される議事要旨をご覧下さい。それから宮尾委員ですが、新たに導入した物価安定の目標の実現を目指して、強力に金融緩和を推進するにあたっては、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置のそれぞれについて、継続期間を設定することが適当であるとして反対をされました。これも同じく、詳しくは次回の決定会合後に公表される議事要旨をご覧頂きたいと思います。
§31Question
先程、共同声明について、独立性に様々な配慮がなされているというお話がありました。確かに、非常に工夫の凝らされた、妥協というか合意が盛られていると思いますが、安倍首相は、就任前から、あるいは衆院選の前から、日銀法改正をちらつかせながら非常に厳しい要求を突きつけてこられた。一連の経緯を全てみると、世の中では、日銀の独立性は侵されたのではないか、あるいは、政治の介入を招いたという印象が非常に強いと思います。改めて、一連の経緯も含めて、総裁は、独立性は維持されているとお考えになっているのか、お聞かせ頂きたい。また、一連の交渉あるいは状況の中で大変厳しい立場に立たれてご苦労されたのではないかと思いますが、独立性を守るために辞任しようという思いがよぎられたことがなかったのかどうか、伺います。
§32Masaaki Shirakawa
独立性についてのご質問ですが、先程、別の方にお答えした通り、中央銀行の独立性は国際的に確立された考え方です。中央銀行に独立性を付与し、持続的な経済・物価の安定を図る観点から中央銀行が金融政策を行うという事態が仮に崩れると、そのこと自体が国民経済に相当大きな悪影響を与えるわけです。そうした独立性の重要性は、政府においても十分認識されていると思いますし、また、十分認識するインセンティブがあります。もし独立性を尊重しないということになると、これは、結局は国債の金利に跳ね返ってきて、直ちに財政にも響いてくるわけです。そういう意味で、私は、独立性は尊重され、十分な配慮がなされていると思っています。中央銀行として、独立性をもって運営しているかどうか、最終的にどのような金融政策を運営しているかということは、金融市場の参加者あるいは皆さんが判断することなので、この場では、私の考えを申し上げたいと思います。日本銀行に定められた使命、つまり、長い目でみた経済の安定を図っていくという 1点に照らして、金融政策を運営していくということです。そうした思いは一貫して変わっていませんし、そういう思いでこの数か月も臨んで参りました。
§33Question
「できる限り早く」という時間設定についてですが、期限がないということは、責任をとることができないと思いますが、仮に「できる限り早く」できなかった場合はどのような責任があるかお伺いします。また、参考 1 の「政策委員の大勢見通し」では、14年度の消費者物価指数が+2.5~+3.0%、消費税引上げの影響を除くと+0.5~+1.0%となっていて、ほとんど上昇しないのではないかと思います。要は消費税を上げない限り、物価は上昇しないのではないかともみられますが、この辺りはどう判断すればよいですか。
§34Masaaki Shirakawa
後の質問からお答えします。消費者物価の上昇率(中央値)は、2013年度は+0.4%、2014年度は+0.9%です。足許はゼロ%近傍ですから、そういう意味で、方向として着実に少しずつ上がっていくという姿を想定しています。これは、消費税率引上げの影響を控除した後の姿です。その背後には、需給ギャップが徐々に解消していくということが基本的なメカニズムとして想定されています。次に、「できるだけ早期に」ということですが、先程来、再三申し上げていますが、金融政策の運営については日本銀行法で規定されています。これは、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」ということです。この日本銀行法に定められた理念が、私どもの金融政策を規定しているわけです。もちろん、物価上昇率ができるだけ早く上がっていくことが望ましいわけですが、それはあくまでも、経済の持続的な発展と整合的でないといけません。そういう日本銀行法に定められた理念のもとで、できるだけ早く達成していきたいということです。私どもが金融政策をどのように運営していくのかは、毎回、しっかりと金融政策決定会合での議論を経て決定していきますし、その経緯については、議事要旨あるいはこの記者会見等で説明します。なぜ、物価上昇率がこのような水準になっていくのかについて、しっかり説明し、そのことを通じて責任を果たしていくということです。
§35Masaaki Shirakawa
こうした金融政策運営における責任の果たし方は、日本銀行に限らずどの中央銀行でも同じです。
§36Question
国民の物価観に関する質問です。仮に 2%の物価上昇が実現したとして、これまでの経験則からいって、給料は上がらないのではないか、もしくは生活に直結する品目が上がって生活が苦しくなるのではないか、という声が不安としてかなり出ています。その辺について、総裁のご所見をお尋ねします。
§37Masaaki Shirakawa
物価だけが上がっていくことを国民は望んでいるわけではないということは、先程申し上げた通りです。先程のご質問と同じ答えになりますが、国民の皆さんは、自分の給料が増えていく、雇用が増えていく、あるいは自分の勤めている、経営している会社の収益が改善していく、そういう状態を望んでいるわけです。そういう状況が実現すれば、それは物価が緩やかに上がっていくということです。景気と物価の関係、これは今度発表する背景説明資料でも詳しく書いていますが、需給ギャップが改善して、それで初めて物価が変わってくる、物価だけがまず上がって、景気が改善するということはありません。そういう意味で、バランスのとれた経済の改善を実現していきたいと思っています。それからもう 1 つ、今のお話にはありませんでしたが、物価だけが上がっていくのではないかという予想が高まってきた場合、つまり、経済の実態は改善せずに先行きの物価予想だけが上がってくる場合は、長期金利が上がってくるわけです。現在の日本の財政状況は極めて厳しく、金利が低い状況の中で、今このようなバランスになっているわけです。長期金利だけ上がってくると、これは財政に影響していきます。そうすると、国家財政にも悪影響が出ますし、国債を大量に保有している金融機関にも影響が出てくるということです。そうしたことも意識しないといけません。
§38Masaaki Shirakawa
要は、先程、金融的な不均衡の点検を行っていくと申し上げましたが、私どもが目指すことは、物価の安定を通じて国民経済の健全な発展に資する、つまり、持続的な成長、あるいは金融システムの安定を意識して政策運営をしていく、そういう中で「できるだけ早く」ということです。
§39Question
先程の「辞任について考えなかったか」という質問に答えて頂いていないので、答えて頂けるならお答え下さい。
§40Masaaki Shirakawa
私は、総裁に就任して以来、総裁としての責任をしっかり果たしていくのが私の務めだと、一貫して思っています。
§41Question
総裁は、ずっと以前から、金融政策の運営に関しては、柔軟性や機動性を強調されていたと思います。今回、2%の物価上昇を目指すことは、政府と共有されているということですが、日銀が発表した文章には「柔軟に運営していく必要がある」という文が入っているのですが、共同声明には、金融面の不均衡は点検すると書かれているけれども、「柔軟な政策運営」に関しては述べられていません。もちろん、金融面の不均衡等が生じれば、消費者物価指数が 2%上昇する前であっても引締めが必要な場合もあると思うのですが、そもそも 2%の物価目標だけではなく、他の要因も加味しながら日銀が柔軟に金融政策を運営することに関して、政府は容認しているということなのか、そこはまだ合意していないのか、お伺いします。
§42Masaaki Shirakawa
共同声明においては、日本銀行法を引用する形で、日本銀行の金融政策の運営の理念が書かれています。その上で、今、記者の方がおっしゃったように、効果波及のラグあるいは金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検していくことが、はっきり書かれています。それから、政府においては、日本銀行の金融政策運営は日本銀行が決めるものであると、これは繰り返しおっしゃっているわけです。そういう意味で、日本銀行がどのような金融政策運営をするかは、日本銀行が責任を持って行うべきものだということは、ご理解頂いていると思っています。
§43Question
各国の中央銀行をみると、「期待に働き掛ける政策」が様々に行われています。市場の中には、日本銀行はその辺があまり上手くないのではないか、という声がありました。本日決定した 2%のインフレターゲット導入は、そうした「期待に働き掛ける政策」に舵を切ったということなのでしょうか。もう1つは、この5か月で4回の金融緩和が行われています。これは、中央銀行としてなかなかないことだと思うのですが、何か転換点にあるのでしょうか。総裁のお考えをお願いします。
§44Masaaki Shirakawa
1 つ目のご質問ですが、「期待に働き掛ける」という言葉の意味がかなり多義的という感じがします。最も大事な期待は、「中央銀行は物価の安定のもとでの持続的な成長に向けて政策を行っていくことについて、しっかり信認が得られている」、ということです。日本銀行はそうした運営を心掛けています。これは、中央銀行にとって、最も大事な信認そのものだと思っています。その上で、今おっしゃった「期待に働き掛ける」という言葉について申し上げると、これは、いわゆる「時間軸」のことを指していると思いますが、今回の政策の中でも、例えば、2014年以降の資産の買入れについて――これは 1年以上先のことですが――、日本銀行は買入れの金額、あるいは方針をはっきり述べています。これは、ここにきて何か転換したのではなく、従来からそうした時間軸の効果も使っています。むしろ時間軸を使うという意味においては、日本銀行は、最も先にトライしてきたと思っています。次に、昨年の 9月、10月、12月、本年の 1月と、半年弱の間に 4 回の金融緩和を行ったことは、異例だと思います。昨年の夏場以降、世界経済の減速が長引く中で、また日中関係の影響もあり、日本経済が弱含む状況になり、この状況に日本銀行として果断に対応した結果が、この 4 回の緩和の大きな要因だと思います。
§45Masaaki Shirakawa
また、今回の緩和は、先々の経済・物価見通しを展望した上で、私どもからみて望ましい見通しが実現する確度を高めていくという思いを込めて、措置を採ったということです。
§46Question
先程の質問と重なるところがあると思いますが、民主党政権時代から2%の物価目標が言われてきて、この 4 か月で 2%の物価上昇というところに到達した理由を教えて下さい。また、今回、共同声明を出した率直な感想をお伺いします。
§47Masaaki Shirakawa
1 問目については、先程お答えしたことと完全に重複していますので、回答を省略したいと思います。また、2 問目の共同声明についての感想ですが、デフレから早期に脱却し、物価安定のもとでの持続的な成長を実現するという大きな目的のために政府と日本銀行それぞれが果たすべき役割を明確に認識して、連携していくということだと思います。先程申し上げたことの繰返しになりますが、ゼロ金利環境のもとで、かつ、日本の潜在成長率が低下してきている状況のもとで、経済をしっかり立て直していくためには、こうした連携強化が必要と判断しました。
§48Question
2 つ伺います。1 つ目は、繰返しになるかもしれないですが、物価上昇率 1%から 2%へは、日本の現状を鑑みて、相当な飛躍があると思います。本日の段階では、それなりの経済主体の努力があれば、今打ち出された日銀のスキームで 2%が到達できるとみているのでしょうか。それは例えば、2015、16年度のようなイメージなのか、あるいは遥か先であるのかについても教えて下さい。2つ目は、昨今、円安批判が海外からかまびすしくなっています。特に、昨日は、ECBのバイドマン氏も、日本の場合、中央銀行の独立性が脅かされているということで、今後、結果的に為替レートの問題がますます政治問題化する可能性もあると警鐘を鳴らしていますが、これについての総裁のご所見を伺います。
§49Masaaki Shirakawa
まず、2014年度までの見通しは、先程発表した通り+0.9%です。その先どのようになっていくかは、まさに様々な主体による成長力強化に向けた取組みに依存してきます。これは、皆さんもそうでしょうし、私どももそうですが、是非そうした取組みが進んで欲しいと期待しています。金融政策を運営していく時には、そうした取組みがどのようになっていくかを、しっかり点検していきたいと思っています。2つ目の為替に関する海外の要人の発言ですが、それぞれの具体的な発言について、私の立場からコメントすることは差し控えたいと思います。為替相場の動きや、それが日本経済に与える影響については、今後とも注意深くみていく方針です。
§50Question
共同声明を結んだ結果、来月以降の決定会合では、その内容について、総理や大臣に報告や説明を行う形はとられるのでしょうか。
§51Masaaki Shirakawa
本日の共同声明の最後にも書かれていますが、日本銀行の金融政策あるいは政府の様々な取組み、マクロ経済政策、こうしたものは経済財政諮問会議で議論していくことが決まっています。毎回の決定会合に合わせて諮問会議を開催するわけではありませんが――諮問会議がどういうサイクルで開かれるかは政府が決める話です――、諮問会議の場は、政府との間でそうした意見交換をしていく場になります。日本銀行も金融政策の状況について説明し、政府も様々な成長力強化の取組みについても説明していくということで、これは双方にとって意思疎通を図る 1つの場になってくると思います。
§52Question
これまでの日銀のデフレ脱却に対する取組みは、十分だったのでしょうか。不十分だったとすればどういった点が不十分だったのか、また物価の動向について、今まで楽観的に見過ぎた点があったのかどうか、この点についてお伺いします。
§53Masaaki Shirakawa
日本銀行だけではなく、どの組織もそうだと思いますが、その組織の政策についての評価は、もちろん自分たちの内部的な自己評価も大事ではありますが、最終的には、日本銀行の外の人が行っていくと思います。中央銀行の場合、その評価というのは、その時点の評価と、時間を経た 5年後、10年後の評価とでは大きく変わってきます。だからこそ、中央銀行に独立性を与え、中長期的な観点から経済の安定を図るということです。この 20年ぐらいの日本経済を振り返ってみるだけでも、バブル期の金融政策、あの時の議論、それからバブルが崩壊した直後の議論、それからごく最近の議論もそうですが、少なくともバブルの時、あるいはバブル崩壊後の議論は、今、読み返してみると「こんなにも議論は変わったのか」と驚かされます。また、そこまで昔に遡らなくても、2000年代半ばの主要先進国の金融政策についての評価も、ある意味で一変したと言ってもいいように思います。そういう意味で、日本銀行は、その時その時に与えられた環境のもとで、「物価安定のもとでの持続的成長の実現」に向けて、最大限の努力を行ってきたと思っていますが、その評価は第三者が時間をかけて行っていくものだと思っています。
§54Question
今回の会合の前に、市場の一部では付利の引下げを見込む動きがありました。かねて白川総裁は付利の引下げに否定的な見方をしていると思いますが、その考えは変わっていないのでしょうか。
§55Masaaki Shirakawa
付利については、この記者会見の席でも、本当に何回答えたかというぐらいです。全く同じことを、もう 1回ここで申し上げたいと思います。金融政策は、金融市場や金融機関を通じて、企業や家計の金融環境に働き掛ける政策であるため、金利水準が低下するもとでの金融市場の機能や、金融機関が貸出を行うインセンティブ如何で、経済に働き掛ける力は変わってきます。例えば、金利がゼロに近づくと、短期資金市場の流動性が著しく低下し、市場参加者が必要な時に市場から資金調達できるという安心感を損なう惧れがあります。また、預金金利をこれ以上引き下げることが難しい中で、資産運用金利の低下は金融機関の収益に悪影響を与えます。その場合、結果として、金融面から経済に働き掛ける力はかえって低下する可能性があります。各国の中央銀行では、それぞれが置かれた状況に応じて、金融政策の効果が最大限発揮されるよう、金利水準を選択しています。そうした判断の結果として、付利金利は各国毎に異なっています。例えばユーロ圏では、当座預金への付利金利は現在ゼロ%となっています。これは、短期資金の取引において、中央銀行に依存する度合いが高く、短期資金市場が事実上機能していない、存在していないということから、付利金利をゼロ%としても、追加的な副作用が限られると判断された結果だと認識しています。
§56Masaaki Shirakawa
一方、その他の主要国では、短期資金市場が引続き機能しており、日本は 0.1%、米国は 0.25%、英国は 0.5%と、完全なゼロ金利にはしないことで、市場機能の維持と金融緩和との両立を図っています。わが国の場合、2000年代前半の量的緩和期の経験等を踏まえ、「超過準備への 0.1%の付利と、0~0.1%程度の金利誘導目標」という組合せのもとで、金融緩和効果は最大に発揮されると考えています。以上