山口副総裁記者会見(2013年1月31日)要旨
全文
§1Question
3点質問させて頂きます。1点目ですが、本日の金融経済懇談会では、デフレ脱却に向けた日銀の金融緩和などの取組みについて説明されていましたが、それを含めて、懇談会でどのような議論があったのかお聞かせ下さい。2点目ですが、副総裁が冒頭挨拶の中でもおっしゃられた通り、県内経済は人口減少などの課題を抱えていますが、改めて、長崎県経済の現状認識と活性化に向けた課題について、お考えがあればお聞かせ下さい。3点目は、本日の冒頭挨拶の中でも、金融緩和策のツールなどについてご説明がありましたが、これを県内企業にどのように活用して貰いたいかについて、お聞かせ下さい。
§2Hirohide Yamaguchi
まず、最初のご質問についてお答えします。本日の懇談会では、当地の現状認識として、離島地域を中心に人口減少や高齢化の進展が続いていることや、県民所得の減少が続いていることなど、厳しい状況にあるというご発言がありました。一方、こうした厳しい状況の中でも、皆様に共通したキーワードとして、私自身が感じたのは 2 つあります。1 つは、「今が挑戦の時代である」ということ、もう 1 つは、「今がチャンスの時である」という、2 つのキーワードを伺いました。非常に前向きな表現ですし、率直に申し上げて、私自身、大変心強く感じました。少し具体的に申し上げると、製造業の方々からは、国内外のリソースを活用して海外の競合先に打ち勝つ体制を構築するには、「今が歴史的な転換点」となる時期と考えて、強みを活かす取組みを進めるといったご意見や、中堅・中小企業におかれても、財政政策面の後押しに期待する声もあるわけですが、それに加え、真の意味での自立を目指すには、補助金などに頼るだけではなく、自ら顧客開拓や販路拡大に力を注いでいくといった力強いご意見がありました。当地では、地域経済の活性化に向けて、「長崎サミット」において、産・学・官が一体となって、長崎経済の持続的な発展へ向けた経済基盤の構築へ向けて取組みを進めておられます。
§3Hirohide Yamaguchi
既に、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の世界遺産登録へ向けた活動や、九州新幹線の開業を展望した駅周辺や中心市街地の活性化策など、具体的な取組みが進んでいるようであり、大変心強く感じました。冒頭挨拶でも申し上げましたが、こうした取組みが、長崎県の将来の発展の礎となるだけでなく、わが国全体の発展に向けた貴重な財産になる、そしてまた同じような課題に早晩遭遇するであろうアジアの国々にとっても参考になると思っている次第です。私どもとしては、当地の皆様が今をチャンスと捉えて様々な挑戦をされることに強く期待し、中央銀行の立場から、地域経済の発展に向けた皆様の前向きな取組みに対して、今後とも出来る限りのサポートをして参りたいと考えています。次に、長崎県経済についてのご質問ですが、県経済については、昨年末にかけて、生産面を中心に海外経済減速の影響がみられており、足許は弱含んでいると思います。需要面では、設備投資や住宅投資については、低水準ではありますが持ち直しの動きが続いていますし、公共投資は下げ止まってきているようです。個人消費は横ばい圏内の動きとなっているほか、観光関連では、国内客を中心に持ち直しの動きもみられるなど、内需は、総じてみれば底堅く推移しています。
§4Hirohide Yamaguchi
もっとも、海外経済の減速等によって、造船の海外からの受注環境が厳しさを増しているようであり、このため、生産面では全体ではやや弱めの動きとなっています。長崎県の印象については、異文化交流、自然、食、文化などの様々な分野において、歴史を反映した特色ある観光資源を有する「観光県」であるほか、昨年、長崎市の夜景が「世界新三大夜景」に認定されたことや、「全国和牛能力共進会」において、長崎和牛が部門別 1 位となったということです。こうしたことは、長崎の観光資源のブランド力向上に繋がるものと認識しています。また、長崎県は、国内有数の造船業の集積地であり、近年は燃費効率や CO2 排出量削減に優れたエコシップの開発・製造に注力されておられるほか、本年は、大型客船の建造が本格化するとも伺っています。一方、長崎県は、若年層の県外流出を中心とした人口減少や高齢化が進展しており、この点が、今後の当地経済の活性化に向けた大きな課題となっています。しかしながら、当地では、この課題に対する危機意識の高まりを契機として、産・学・官が横断的に長崎都市圏の経済活性化策について議論する「長崎サミット」プロジェクトが始動していると伺っています。本日の懇談会でも、この点が随分話題になったところです。
§5Hirohide Yamaguchi
長崎サミットでは、「造船の町」、「国際観光の町」、「水産の町」、「アジアの学都」という 4 つの柱を掲げ、持続的な成長を可能にする経済基盤を構築するための具体論について議論されており、これもまた大変心強く感じたところです。そうした中で、長崎県では、中期的な大型プロジェクトである九州新幹線・西九州ルートについて、2012年に「諫早─長崎間」が着工し、2022年に開業する予定と伺っています。新たな交通インフラの拡充は、駅周辺の再開発などのハード面の整備はもとより、交流人口の増加による社会、経済、文化活動の活発化によるソフト面の充実も期待されると思います。2022年の新幹線開業まで 10年を切ったわけですが、長崎サミットを始めとした様々な取組みによって、当地の経済活性化に向けた基盤作りが進むことを期待しています。3 つ目のご質問は、私どもが先般決定した金融緩和策について、長崎として、どのように活用してもらうことを期待しているのかというご趣旨だったと思います。私どもが先般決定したのは、物価安定目標を 2%にすること、期限を定めない資産買入れという新しい方式の導入、政府との間での連携強化を図るという観点から「共同声明」を決定し、公表したことです。これら全体として、強力な金融緩和の推進に繋がっていくと考えています。この緩和の効果は、長崎県のみならず、全国に及んでいくと思っています。
§6Hirohide Yamaguchi
もう一つは、昨年10月に「貸出支援基金」という、基金を設けました。これは、金融機関が貸出を増加した分について、日本銀行がバックファイナンスをする制度で、本年初からスタートしています。長崎県内の金融機関がこの制度を使うことによって、企業あるいは消費者の資金需要を満たすことができるのであれば、これは長崎県経済の活性化に繋がっていくと思っています。このような形で、私どもが 1月に決めた金融緩和政策の効果が、長崎県経済の一層の活性化に繋がることを期待しています。
§7Question
午前中の懇談会での副総裁の冒頭挨拶の中で、「先行きの基金の運営については、経済・物価情勢を点検しながら、必要に応じてさらなる緩和を図っていくこともあり得る」とおっしゃったのですが、それについて、もう少し具体的に教えて下さい。
§8Hirohide Yamaguchi
「必要に応じてさらなる緩和を図っていくこともあり得る」というのは、あくまでも一般論として申し上げたものです。私どもは、2%という物価安定の目標を掲げ、それをできるだけ早期に実現するよう、強力に金融緩和を行っていくことを決定したわけです。そういう中で、経済・物価情勢の変化を見つつ、必要と判断すれば追加的な金融緩和を行っていく可能性があるということを一般論として述べたということです。
§9Question
2 点質問します。先々、「必要に応じてさらなる緩和を図っていくこともあり得る」というお話のところで、これまで、日銀が行ってきた追加緩和をみると、景気が後退しているとか、景気の先行きがある程度怪しくなっているとか、そういうときに、ある意味で、下支え的な効果を狙って追加緩和した例が多いかと思います。今回、物価安定目標 2%を決め、政府が経済財政諮問会議で定期的にチェックする枠組みができたことで、景気にはそれほど懸念はないが、物価が上がってこないということで、景気と物価を切り離し、物価だけをみて追加緩和をやらなければならない可能性が今後増えてくるのではないかと思われます。今後、追加緩和をやる際に、これまで以上に物価に重点を置いて考えていくのかどうか、という点が一つ目の質問です。もう 1 点は、先日 24日に経済財政諮問会議において金融政策に関する集中審議が始まり、これから 3 か月に 1 回やるということになっていますが、出席した方から、金融政策の具体的な中身についてかなり注文が付いています。「10 兆円で足りるのかどうか」など、色々なことが言われています。これらの結果として、日銀の金融政策の手段の自主性が奪われることになりはしないのか、そういう懸念はないのかどうか、副総裁の見解を伺います。
§10Hirohide Yamaguchi
私どもの金融政策は、景気と物価の両方をしっかりとみながら、時々に必要な政策を行っていくのが基本です。従って、2%の物価安定目標を掲げたわけですが、これから先の政策対応についても、景気の状況がどうなのか、物価の動きがどうなのかをバランスよく点検しながら政策対応を図っていくということに尽きます。これが 1 点目の質問に対するお答えです。2 点目ですが、経済財政諮問会議で金融政策について議論することは、かつて自民党の政権時代においても行われたことです。これから、当時と同じような形で、あるいはより踏み込んだ形で行われることになるのかもしれません。いずれにしても、金融政策運営は、あくまでも日本銀行の責任と判断に基づいて行われるものです。経済財政諮問会議で様々な議論が行われるからといって、日本銀行の自主的な判断が損なわれるものではない、と考えています。
§11Question
2 つお聞きします。1 つは、講演で「柔軟なインフレーション・ターゲティング」という、「こうした金融政策の枠組みのもとで、今後とも経済・物価の情勢をしっかり点検しながら、従来にも増して、果断な政策対応を講じていく」とおっしゃっています。「従来にも増して」ということですが、例えば、昨年から本年にかけての 5 か月の間に 4 回の追加緩和があり、1月は 2 回連続での追加緩和がありましたが、こういった「これまでの政策」にも増して、果断に、ということであるとすれば、やはり1 回 1 回の追加緩和の規模なりは従来よりも大きくなる、頻度も多くなると考えて良いのかどうか、お聞きします。また、この点について、さらに付け加えると、例えば、昨年2月、当面は 1%を目指して、それが見通せるまで強力な金融緩和を行うということであったので、金融市場等では、より頻繁に――例えば 2 回連続、3 回連続といった形で――、追加緩和があるのではないかという予想・期待が生まれたわけですが、それは実現しませんでした。今後は、これまでの 1年間の追加緩和よりも、更に頻度が多く、規模が大きい追加緩和が行われるのかどうか、お伺いします。2 点目は、政策の約束と言いますか、「いつまで今のような金融緩和を続けるか」というコミットメントについでです。
§12Question
昨年2月の「物価安定の目途」導入時には、消費者物価上昇率1%を見通せるまで、強力な金融緩和を推進していく、続けていく、とおっしゃっていました。しかし、今回は、「必要と判断されるまで」と変えられました。この強力な金融緩和継続の約束は、従来の「1%を見通せるまで」という約束に比べ、果たして強いのかどうか、より強化されたのかどうか。もし、より強化されたということであれば、具体的に何を指して強化されたと言うのかについてお伺いします。
§13Hirohide Yamaguchi
最初に、「従来にも増して、果断な政策対応を」という点についてのご質問ですが、「果断な」という言葉は、政策対応の「頻度」あるいは「規模」の変化をただちに意味するものではありません。私どもは、新たに 2%という物価安定の目標を掲げ、それを出来るだけ早期に実現するように強力に金融緩和を進めていくことを宣言しているわけです。そうした宣言に即して、私どもの政策対応を表現するとすれば、「従来にも増して、果断な政策対応を講じていく」という表現以外にはないと考えた次第です。昨年2月以降のマーケットの反応が、おっしゃったような状況であったことは、私も十分承知していますが、今回、私が申し上げたことが、昨年2月以降のマーケットの反応を期待している、あるいは、そうした反応を呼んでしまうことを想定している、ということは一切ありません。次に、「政策のコミットメント」についてです。もともとコミットメントの強弱を何で判断するかというのは難しいところがありますが、1 つは、金利のイールドカーブの動向です。私どもが、今回のコミットメントを発表して以降、金利のイールドカーブに大きな変動があったとは思っていません。従って、市場の反応としては、基本的には、これまでのコミットメントの強さと大きく変わるものではないと受け止められたものと思っています。
§14Hirohide Yamaguchi
ただ、私どもとしては、今回、2%という物価安定目標を出来るだけ早期に実現することを目指して強力に金融緩和を推進していく、しかも 2014年については、資産買入れ等の基金の残高を 10 兆円増やすように毎月の買入れを行っていき、それ以降は毎月の買入について期限を定めずに継続していく、という形で政策の方向感を約束しているわけです。この約束自体は、これまでの私どもの約束に比べて、やはり強いものだと私は思っています。
§15Question
自民党の方で日銀法改正に関する議連などができ、法改正検討の動きが出ています。こうした動きが政策判断にプレッシャーを与えないかどうかについて教えて下さい。
§16Hirohide Yamaguchi
私どもは、日本銀行法に基づいて政策を遂行し、組織運営も行っているわけですから、日本銀行法に関する議論については非常に強い関心を持ってみています。その上で、はっきり申し上げると、私どもの政策判断は、あくまでも、その時々の景気と物価に対する点検結果に基づいて、政策委員会の責任と判断に基づき行うものであるということです。
§17Question
先程からお話が出ている強力な金融緩和ということですが――この時期に質問するのはまだ早いかもしれませんが――、金融緩和が続けば続く程、累積的な緩和効果が強まって、経済物価への予想外の影響も生じるかと思います。現時点では、2%を超えて物価が上がっていくリスクはそれほど大きくないのかなと思いますが、そうしたリスクについての認識をお聞かせ下さい。次に、2%の物価目標を掲げていますが、これは、2%の物価上昇率が実現されるまで政策を変えないという意味なのか、お伺いします。
§18Hirohide Yamaguchi
日本経済は、長きに亘って消費者物価でみて前年割れの状態が続くというデフレの状態を続けてきているわけですが、ようやく、私ども政策委員見通しの中央値として、2014年度の物価上昇率が+0.9%までいくという段階です。そういう状況の中で、私どもとしては、新たに 2%を物価安定の目標として掲げるということですから、まずは、その実現を目指して、積極的に政策運営を行っていくということに尽きると思っています。2つ目のご質問は、2%の物価安定目標に向けて政策がどのように運営されていくのかという趣旨だと思いますが、私どもは、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するように強力に金融緩和を推進することを約束しています。今、私がお答えできることは、日本銀行は、強力に金融緩和を推進すると、はっきり約束している事実を踏まえて頂きたいということです。
§19Question
少し嫌な質問かもしれませんが、大きな政策転換があると、よく海外の投資家、あるいはBOJウォッチャーの方々から、「日銀は変わったのか」という質問があります。それに対して、副総裁はどうお答えになりますか。
§20Hirohide Yamaguchi
率直に言って、「変わったのか」と問われても、何の変化を意味しているのかよく分かりませんので、「変わった」とも「変わっていない」ともなかなか答え難いところです。私どもは、今回、金融緩和について、「思い切った前進を図った」と申し上げています。このことを海外の投資家や日銀ウォッチャーの方々が、どのように評価するかは分りませんし、私自身がそれについてあれこれいう立場でもありません。ともあれ、思い切った前進を図った措置であると受け止めて頂きたいと思います。
§21Question
2 点あります。1 点目は、日銀の金融緩和とか政府の財政支出に対して、海外から円安を志向したもので通貨安競争を招きかねないという、海外の中央銀行や財務大臣の方々から批判が出ているのですが、それに対して中央銀行の副総裁として、どう思われているか、感想を伺います。次に、今回の講演で、財政規律を維持しないと長期金利が上昇して金融緩和の効果を削ぎかねないとのご指摘があったのですが、その点について、日銀としては、政府にどう担保して欲しいのか。つまり、財政規律の必要性は、やはり政府もコミットするべきと思うのですが、どういう形でコミットされるのが、財政の信認を維持し、金融緩和の効果を削がずに済むのか、教えて下さい。
§22Hirohide Yamaguchi
最初に、通貨安競争という批判についてですが、日本銀行としては、為替相場の円安誘導を図ろうと考えて今回の金融緩和を行ったものではありません。かねて申し上げている通り、私どもの金融政策は、景気と物価の情勢をみながら――為替相場についても、景気と物価にどのように影響を与えるかを丹念に点検しながら――、運営していくということです。従って、かねてより、私どもは、直接的に為替相場に対して働き掛けることは考えていません。もちろん、金融緩和は、間接的な効果として為替相場に影響を及ぼし、方向感としては円安方向への影響を与える可能性を否定するものではありませんが、ダイレクトにその効果を狙って金融緩和を図るという考え方はとっておりません。次に、財政規律についてのご質問ですが、今回の政府との間で結んだ共同声明においても、政府は「持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する」ことを表明しておられます。その中に、財政規律に対する配慮がしっかりと埋め込まれていると、私自身は理解しています。以上