総裁定例記者会見(2013年2月14日)要旨
全文
§1Question
本日の金融政策決定会合の結果とその背景について、ご説明をお願いします。
§2Masaaki Shirakawa
本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、ご説明します。まず、海外経済をみると、減速した状態が続いていますが、持ち直しに向けた動きもみられています。米国経済は、底堅さを増しつつ、緩やかな回復基調を続けています。すなわち、雇用環境が改善傾向をたどり、バランスシート問題の重石が徐々に和らぐ中で、個人消費は緩やかな増加を続け、住宅投資も持ち直しの動きが明確になっているほか、これまで抑制されていた設備投資にも持ち直しの兆しが窺われます。中国経済についても、輸出が一進一退の動きを続ける中、個人消費が堅調に推移し、インフラ投資が増加するなど、堅調な内需に支えられて減速局面を脱しつつあります。この間、欧州経済については、企業や家計のマインドの一段の悪化には歯止めがかかりつつあるものの、緊縮財政や銀行の厳しい融資スタンスの影響もあって設備投資、個人消費ともに減少するなど、緩やかな景気後退が続いています。
§3Masaaki Shirakawa
国際金融資本市場についてみると、欧州債務問題を巡って、ECBの国債買入れスキーム(OMTs)や欧州安定メカニズム(ESM)など各種の「安全弁」の整備が進む中、ECBの 3年物資金供給オペの期限前返済額が市場の予想を上回ったことが市場で好感されました。米国では、年初の「財政の崖」回避に続き、連邦債務上限の適用を一時見送る法案が可決されました。もちろん、今後の市場の展開を引き続き注意していく必要がありますが、投資家のリスク回避姿勢は後退してきており、その動きは、グローバルにみて様々な市場に表れてきています。為替市場では、これまで売られてきたユーロが買われる一方、安全通貨としての需要の高かった円が下落しており、株価は幅広い国・地域で上昇しています。また、新興国への資金フローにも回復の動きがみられます。次にわが国の景気ですが、エコカー補助金終了に伴う反動減や日中関係の影響など、一時的な下押し要因が剥落ないし減衰するもとで、海外経済に持ち直しの動きがみられることから、前回会合時点での見通しに沿った動きではありますが、「下げ止まりつつある」と景気判断を一歩前進させています。輸出は、先程申し上げた海外経済の状況を反映して、引き続き減少しているものの、そのペースは緩やかになってきています。設備投資は、非製造業に底堅さがみられるものの、全体として弱めとなっています。
§4Masaaki Shirakawa
一方、公共投資は増加を続けており、住宅投資も持ち直し傾向にあります。個人消費は、底堅さを維持しており、新車投入効果もあって、乗用車購入における需要刺激策の一部終了に伴う反動減の影響も剥落しています。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、下げ止まりつつあります。経済主体の支出・投資活動を支える金融環境は、緩和した状態が続いています。企業の資金調達コストは、新規の貸出約定平均金利が短期・長期ともに 1.0%程度となるなど、低水準で推移しています。CP・社債市場の発行環境も総じて良好な状態にあり、企業からみた金融機関の貸出態度や企業の資金繰りなどに関する指標も改善した状態が続いています。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、概ねゼロ%となっています。わが国経済の先行きについては、当面横ばい圏内となったあと、国内需要が各種経済対策の効果もあって底堅く推移し、海外経済が減速した状態から次第に脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、前年のエネルギー関連や耐久消費財の動きの反動からマイナスとなった後、再びゼロ%近傍で推移するとみられます。
§5Masaaki Shirakawa
リスク要因をみると、欧州債務問題の今後の展開や米国経済の回復力、新興国・資源国経済の持続的成長経路への円滑な移行の可能性、日中関係の影響など、日本経済を巡る不確実性は引き続き大きい情勢です。最近の金融市場の動きは、世界経済が減速した状態を脱し、持ち直していくことを織り込んでいく動きとみられますが、今後、世界景気を取り巻く幾つかの不透明要因が順調に払拭されていくかどうか、引き続きしっかりと点検していく必要があります。日本銀行は、先月決定した「物価安定の目標」のもと、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指します。その際、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していきます。日本銀行は、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」という日本銀行法に定められた理念のもと、物価安定の目標の実現を目指し、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置を、それぞれ必要と判断される時点まで継続することを通じて、強力に金融緩和を推進します。併せて、金融機関による成長基盤強化の取組みおよび貸出の増加を支援していきます。
§6Question
先程総裁もおっしゃったように、景気にはやや明るさもみられますが、足許の消費者物価については、2%の物価目標を大きく下回った状態が続いています。政府・日銀の共同声明では、金融緩和を推進し目標をできるだけ早期に実現することになっている中で、なぜ今回緩和を見送ったのでしょうか。
§7Masaaki Shirakawa
なぜ金融緩和を見送ったのかというご質問ですが、私どもとしては、金融緩和を見送ったという意識は全くなく、手綱を緩めることなく、強力な金融緩和を推進しているというのが、まず結論です。日本銀行は、今後 1年余りの間に、「資産買入等の基金」を通じた資産の買入れや「貸出支援基金」を通じて、残高ベースで 50 兆円超、GDP対比で 10%以上の増加という大規模な資金供給を行います。さらに、1月の金融政策決定会合では、物価上昇率が高まっていくと予想される局面の 2014年以降も、期限を定めず、毎月、長期国債 2 兆円程度を含む 13 兆円程度の資産買入れを続けていくことを決定しました。これは、「物価安定の目標」の実現を目指し、先程も申し上げた通り、手綱を緩めることなく、強力な金融緩和を推進していくことを約束するものです。この間、内外経済の動きをみると、先程もご説明した通り、海外経済は米国や中国を中心に持ち直しに向けた動きがみられており、最近の為替相場の動きも、次第にわが国の輸出の下支えに作用していくと考えられます。内需も、全体として底堅さを維持すると見込まれます。こうしたもとで、わが国経済は、年央頃にかけて緩やかな回復経路に復していくと予想しており、足許概ねゼロ%となっている消費者物価の前年比は、 2014年度中には消費税率引上げの影響を除いてみて+1%に達する可能性が拓けつつあります。
§8Masaaki Shirakawa
こうした見通しに沿って経済・物価情勢が改善していくにつれて、企業や家計の成長期待が高まり、物価上昇率をさらに高めることにつながっていきます。日本銀行が強力な金融緩和を推進します。これと並行して、幅広い主体による成長力強化に向けた取組みが進展し、企業や家計による緩和的な金融環境の活用が進んでいけば、金融緩和の効果は一層強まっていくと考えられます。日本銀行としては、このように、プラスの好循環、相乗作用が働く形で、今後、物価上昇率が高まることを想定し、また強く期待しています。こうした認識のもと、毎月の決定会合において、今申し上げたメカニズムが現実に作動しているか、先行きの経済・物価見通しとリスク要因を点検しつつ、物価安定の目標の実現を目指し、必要な政策を実施していくという考えです。なお、主要国の中央銀行をみても、目標を立てた上で柔軟に政策運営を行っているという点は、日本銀行と共通しています。例えばFRBは、雇用の最大化という使命に関連して、5.2~6.0%の失業率を目安として示しているわけですが、現在の失業率が 8%近傍であることをもって、毎回のFOMCで追加的な金融緩和を行っているわけではありません。BOEは、かなり長い期間にわたってインフレ率が目標の 2%を上回っていますが、金融引締めを行っているわけではありません。
§9Masaaki Shirakawa
いずれの中央銀行も、金融政策の効果が波及するまでには、相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡を含めた様々なリスクも点検しながら、最終的な目標である物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現を目指して金融政策を運営しており、この点、日本銀行も同様の考え方です。
§10Question
このところ海外では、 2%の物価目標と金融緩和が円安誘導を目的にしたものではないか、という指摘が出ています。一昨日のG7声明は、各国の財政・金融政策は為替レートを目標にはしないことを再確認しましたが、日本国内では、金融政策を通じて為替に働きかけるべきだという主張もあります。G7声明は、今後の日銀の金融政策運営を制約することにならないのでしょうか。さらに、この声明は、各国における日本の政策への懸念の強さを浮き彫りにしたとも言えますが、15日からモスクワで開かれるG20において、日本の政策は理解を得られるのでしょうか。
§11Masaaki Shirakawa
まず、今回のG20は、ロシアが議長国になって初めての会合です。ロシアは、世界経済の持続的な成長と雇用創出の促進を本年のテーマとして掲げており、9月のサミットに向けて、具体的にどのように議論を進めていくのか、まずは議長国から考え方が示されると思います。個別の論点に関しては、一部に明るい兆しもみられるものの、欧州債務問題の今後の展開や米国経済の回復力など引き続き不確実性が大きい世界経済の現状と先行きについて、議論が行われることになると考えられます。また、継続的に取り組んできた金融規制改革に関する議論の進捗状況などについて、金融安定理事会(FSB)などから報告がなされることになると思います。なお、為替相場については、先般、G7声明が発出され、G7としての統一的な考え方が示されたわけですが、新興国も交えたG20の場で議論になる場合には、こうした考え方を改めて説明していくことになると思います。私からは、日本経済の現状と先行きについて説明した上で、日本銀行の金融政策について、1月の決定会合で金融緩和を思い切って前進させたことを説明します。G7声明に関連したご指摘の点については、日本銀行は、日本経済がデフレから早期に脱却し、物価安定のもとでの持続的な経済成長を実現するという、国内経済の安定の目的のために金融政策を行っています。今後もこの目的に照らして、適切な金融政策運営を行っていく方針です。
§12Masaaki Shirakawa
この点を、G20において説明していきたいと考えています。
§13Question
先般のG7声明について、国内では、麻生大臣などが、日本の政策はデフレ脱却のためにやっているということの理解が得られた声明だ、と説明されています。ただし、海外のG7高官からは、日本への懸念が示された声明だというような分析もあって、二分しているような形なのですが、総裁はこのG7声明についてどうお考えでしょうか。
§14Masaaki Shirakawa
G7声明は、声明が全てです。 G7各国が、国内経済の安定を目指して、しっかり政策を行っていくということです。
§15Question
先程海外経済の話がありましたが、リーマンショックから約 5年が経過しているわけですが、そうした世界的な調整が終わりつつあるという大きな節目に、今経済の転換に位置しているのかどうか、その可能性について総裁のお考えをお聞かせ下さい。
§16Masaaki Shirakawa
おっしゃる通り、リーマンショックから 5年が経過しました。ごく足許の金融市場をみると、欧州、米国、中国それぞれについてテールリスク、最悪のシナリオが発生する確率が相当に低下してきたという見方が拡がっていると思います。そうしたことが、金融市場のポジティブな動きにつながっていると思います。私としては、こうした金融市場の変化が、経済実態の変化を反映したものであることを願っていますが、先程申し上げた通り、まだそこには不確実性があると思います。米国のバランスシート調整については、家計部門を中心にそれなりに調整が進んできていると思いますが、まだ終わったとは言えないと思います。欧州については、どこまでが今回のグローバル金融危機の結果であるのか、あるいはそれとも関連していますが、ユーロ導入に伴う様々な金融的な行き過ぎの結果であるのか、その辺りの区分の難しいところがありますが、まだその調整が終わったとは言えない状況だと思います。先程申し上げた通り、バックストップの整備が進んでいく、あるいはユーロ圏やEUのレベルで様々なガバナンスの改善も進んでいることはポジティブな動きですが、最終的に必要な経済・財政の改革、あるいは政治改革という点では、まだかなり課題を残しているように思います。そうしたことを少しずつ消化しながら、現実の経済は、少しずつ良い方向に向かっていると思っています。
§17Question
G20で、為替についての議論がありますが、アングロサクソンの国は、金融緩和政策による副次的な通貨安と介入のような直接的な為替政策とは違う、と峻別している国が多いですが、それ以外の国では、大陸欧州国、新興国を含めて、金融緩和政策が事実上の通貨切下げ政策だとみる国も多いと思うのですが、そのような国に対してはどのようにご説明するのかをお聞かせ下さい。
§18Masaaki Shirakawa
どの国に対しても同じ説明となりますし、日本銀行に限らずどの国でもそうですが、金融政策は自国の経済の安定を目的としてこれまでも運営していますし、今後の運営の理念としてもそうであるべきだというのが、今回のG7声明の意味するところです。もちろん、金融市場がグローバル化していますから、それぞれの国における金融政策が、為替相場にも相応の影響を与えることは事実ですが、為替誘導、為替相場に影響を与えることを目的としているのではありません。日本の文脈に引き直してみると、デフレから早期に脱却し、物価安定のもとでの持続的成長を実現するという、国内経済の安定に焦点を当てた政策です。この点においては、繰り返しになりますが、G7の各国とも同じ政策哲学に立っていると理解しています。
§19Question
2 点あります。先日、任期を残して辞任することを表明されましたが、少し気が早いのですが、心残りの点はありますでしょうか。もう 1 点、「物価安定の目途」という表現で事実上の物価目標を導入してから今日でちょうど丸1年になりますが、この間、物価は上がってきませんでした。この 1年間の評価についてお伺いします。
§20Masaaki Shirakawa
まず、最初の質問ですが、私は総裁、副総裁の新しい体制が同時にスタートすることが可能になるように、3月19日に前倒しで職を辞することを発表しました。3月19日までは私は日本銀行総裁として全力を傾けて職責を全うしたいと思っていますので、今のご質問の「心残り」とか過去を振り返ってということについてお答えするのは、不適切だと思っています。それから、「物価安定の目途」からちょうど 1年ということですが、いつも申し上げている通り、現在の物価上昇率が低いものにとどまっている点に関しては、短期的にはリーマンショック後の需給ギャップの拡大があったと思います。この点については、需給ギャップは着実に縮小し、消費者物価は一番下がったボトムではマイナス 2.4%でしたが、今はゼロ%近傍であり、着実な前進があるように思います。少し長めに先を展望した場合には、今回の「物価安定の目標」の文書にも書かれている通り、幅広い主体による競争力、成長力の強化に向けた取組みが進んでいくという認識に立って、私どもはこの目標を設定しました。日本銀行としては、強力な金融緩和と競争力、成長力の強化に向けた取組み、これらがプラスの相乗作用、好循環を生んでいくことを期待しています。
§21Question
2 点お願いします。1 つは、現行の量的緩和について、一部では国債償還との関係で量が不十分なのではないかとの見方もあると思うのですが、償還との関係のバランスを、総裁はどうお考えでしょうか。もう 1 点は、経済財政諮問会議で安倍首相から、2%の目標に向けた道筋を示すようにとの指示があったと思うのですが、政策委員の方々を含めて、この道筋とはどういうものとイメージされているのかを教えて下さい。
§22Masaaki Shirakawa
最初のご質問ですが、日本銀行の行っている資産買入等の基金による国債の買入れは、残存期間 3年以内の国債です。日本銀行として、本年末の基金残高を 101 兆円とすると発表しています。これは、満期が到来した分についてまた買うことも含めて、着実に残高を増やしていくということです。償還が到来するから残高が減るのではなく、償還が到来するけれども、それ以上に買入れを行って、残高を着実に増やしていくということです。次に、2%の物価安定目標に向けた道筋についてです。先程から申し上げていることの繰返しになりますが、改めて申し上げたいと思います。2014年度の消費者物価上昇率の前年比は、消費税率引上げの影響を除いたベースで+0.9%との見通しです。これは、海外経済の緩やかな回復を前提に、わが国経済も潜在成長率を上回る成長を続け、需給ギャップが徐々に縮小していくとの見通しに基づくものです。さらにその先の見通しですが、過去の物価と経済の関係が示すように、景気が良くなっていく、成長率が高くなっていく中で、時間を経て、物価が上がっていくわけです。従って、成長率をどう高めていくかが基本的な課題になってくると思います。もちろん、物価が先行して上がるケースも無いわけではありません。
§23Masaaki Shirakawa
しかしそれは、石油ショックのように対外的要因でコストが上がり、その結果、日本の実質購買力が下がり、結果的には景気を悪くする要因になります。従って、私どもが目指しているデフレ脱却とは、成長力をどう高めていき、物価を上げていくのか、そういう道筋を示していくことになります。今後、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組みの進展に伴い、持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくという認識に立って、物価安定の目標を消費者物価の前年比で 2%とするということを、先般発表したわけです。従って、現実に幅広い主体の取組みが行われ、日本経済の成長力の強化が図られていくことが重要です。この点、先行き経済が持続的に改善していけば、企業や家計の成長期待が高まり、物価上昇率をさらに高めることにつながっていきます。日本銀行は、強力な金融緩和を推進して参ります。これと併せて、今申し上げた幅広い主体による成長力強化に向けた取組みが進展し、企業や家計による緩和的な金融環境の活用が進んでいけば、金融緩和の効果は一層強まっていくと思います。そういう意味で、プラスの相乗作用、好循環を期待しています。
§24Question
その首相の指示というのは、これまで日銀が示してきた見通しとは別のものを、例えば金融政策との整合性で、もっと説明の仕方を変えて欲しいというような受け止め方ではないのでしょうか。
§25Masaaki Shirakawa
諮問会議での点検は、四半期に 1 回行います。次回どのような形で見通しを示していくかということは、その時点での政策委員会の議論を経て、ということになります。今、日本銀行の中で議論している基本的な物価安定目標に向けた道筋は、今申し上げた通りです。
§26Question
通貨安の関係ですが、総裁は先程、国内の経済の安定のためにやっていることで容認されるというお話でした。過去、日銀が量的緩和政策を導入した際には、事実上、その円安によって海外にバブルを引き起こしたという指摘もある中で、今後、2%という物価目標を目指して金融緩和を強化していくと、どこまでなら日銀の政策が容認されるのか、どの程度まで各国がこの政策を受け止められるのかという問題が起きてくる可能性もあると思います。その辺り、過去の量的緩和政策の時の弊害も含めて、日銀の金融政策がどう世界に受け止められるのかについて、お考えをお聞かせ下さい。
§27Masaaki Shirakawa
日本銀行に限らず、FRB にしてもECBにしても、どの中央銀行でも、グローバル化した金融市場を前提にすると、金融政策を行う際に、それが為替市場も含めたグローバルな金融市場に影響を与えていくという面は事実としてあります。しかし、そのことと、各国の中央銀行が何を目的にして政策運営を行っていくかは別物です。為替レートの影響が一切ない世界とは、完全に資本取引のない閉鎖経済です。現実的には閉鎖経済は無いので、為替レートへの影響があるわけですが、大事なことは、各国の政策が自国経済の安定を目指して運営されているということだと思います。その上で、世界経済全体としてお互いにどのような影響があるのかは、これまでも、IMFあるいはG20の場で相互評価するという枠組みがあり、そこで評価をしています。そうしたことを踏まえた上で、各国が自国経済の安定に取り組んでいくことが重要だと思います。
§28Question
G7声明、それに対する当局者の発言などが、最近色々出ているのですが、改めて、国内経済の安定のために外債の購入を行うということは、日銀による政策の選択肢としていまだにあるのか、それとももう排除されているのでしょうか。おそらくまた日銀法を引用されるかと思いますが、端的に、選択肢として排除しているかいないかをお聞かせ下さい。
§29Masaaki Shirakawa
G7声明との関係でのご質問でしたが、具体的な政策についてコメントすることは差し控えたいと思います。日本銀行は、再々申し上げている通り、日本経済がデフレから早期に脱却し、物価安定のもとでの持続的な経済成長を実現するという、国内経済の安定の目的のために金融政策を行っています。今後も、この目的に照らして金融政策運営を行っていく方針です。
§30Question
総裁は先程、海外要因ではなく日本の成長によって物価上昇を目指すとおっしゃいましたが、その場合、生鮮食品だけでなくエネルギー等も除いたコア・コアの消費者物価でみた方が、より実態に即した形になるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。また、公表文にある「実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置を、それぞれ必要と判断される時点まで継続する」ことと、その注書きにある「宮尾委員より、実質的なゼロ金利政策については、物価安定の目標の実現が見通せるようになるまで継続するとの議案が提出された」とあることの違いが分かりませんので教えて下さい。
§31Masaaki Shirakawa
まず、1 問目です。長い目でみると、消費者物価指数は、総合物価指数も、食料・エネルギーを除く物価指数も、同じような動きになります。しかし、短期的には両者に食い違いが出てくるわけです。よくエコノミストが、コア物価指数と呼ばれる指数をみるのは、先々の総合的な物価指数を予測していく、あるいは基調を捉えていく上で適切な物価指数を作りたいとの観点があるからです。どの指数が一番将来の予測力が高いか、あるいは基調を捉える力があるかは、先験的に決まるものではなく、その国の経済の状況に即して判断していく必要があると思います。この点、米国ではおっしゃる通り、食料・エネルギーを除くベースの消費者物価指数が、一番基調を捉える力が強いと実証的にも示されています。一方、日本の場合は、同じような方法で検証してみると、実は食料・エネルギーを除くベースではなく、現在の「除く生鮮食品」、あるいは「10%刈込み平均」という上下10%の極端に大きな動きをしている品目を取り除いたベースの消費者物価上昇率が、一番基調を捉える力が強いということが統計的に示されています。ただ、過去はそうですが、今後もそうであるかは、もちろん分かりません。日本銀行としては、現実のデータに即して、様々な指標をみながら物価の基調を判断していきたいと思っています。
§32Masaaki Shirakawa
最後に1つ、今、米国と日本の比較をしましたが、欧州は全体的に総合物価指数をみていく傾向が強いと言えます。そういう意味では、日本、米国、欧州それぞれの違いはありますが、いずれも、それぞれの国のおかれた経済状況の違いを反映しているのだろうと思います。2 問目の宮尾委員についてのご質問です。宮尾委員は、前回の決定会合と同じ趣旨ですが、新しい物価安定の目標のもと、一段と強力な金融緩和を推進するため、実質的なゼロ金利政策については、別途、継続期間を設けることが適当であるとし、公表文の注書きにある通り、「実質的なゼロ金利政策については、物価安定の目標の実現が見通せるようになるまで継続する」との議案を提出されました。詳しくは、次回の決定会合後に公表される議事要旨をご覧下さい。
§33Question
春の賃金交渉が始まったわけですが、政府は給与の引き上げを経済団体に促すという格好で、賃金の上昇を後押しする姿勢に出ているかと思います。そのことの評価についてお伺いしたいと思います。一般的に、デフレから脱却していく過程においての賃金および給与の上昇を、どのように捉えていらっしゃるのか。望むらくは、今の賃金交渉の動向も踏まえたお話をお伺いできれば幸いです。
§34Masaaki Shirakawa
最後におっしゃった「望むらくは」という、具体的な賃金交渉に即したお答えは、中央銀行総裁としてお答えすることは不適切だと思いますので、その部分についてはコメントしません。あくまでも一般論として、デフレ脱却と賃金の関係ということでお答えしたいと思います。ご質問の点は、デフレ脱却という意味を考える上で、非常に重要な論点を含んでいると思います。言うまでもなく、物価と賃金は密接な関係にあります。振り返ってみて、日本の物価上昇率が米国に比べてなぜ低いのかを考えてみた場合に、実は雇用慣行や賃金形成とも関連しているわけです。わが国では、成長期待が低下する中、雇用確保を優先しつつ、主として賃金の引下げによってコスト削減を図ってきました。その結果、日本の失業率の上昇は、米国に比べて緩やかなものにとどまっているわけですが、その反射効果として、賃金に対する低下圧力は、サービス部門を中心に緩やかな物価下落の要因として作用してきたと考えられます。今後の物価と賃金ですが、賃金だけが先行して上昇して販売価格が上がらなければ、企業収益が圧迫され、持続的な経済成長は実現しません。逆に、物価だけが上がって賃金が上がらなければ、家計の購買力が低下するということで、これもまた持続的な経済成長は実現しません。結局、この 2 つがバランス良く上昇することで、物価安定のもとでの持続的成長が実現できるということです。
§35Masaaki Shirakawa
いつも申し上げていますが、「デフレ克服」という言葉で私どもが望んでいる状況とは、経済をバランス良く改善し、その中で物価が緩やかに上がっていくということだと思います。日本銀行としては、そうした意味でのデフレ克服を、できるだけ早期に実現するように、強力な金融緩和を推進していきます。先だって開催された経済財政諮問会議で、この点についても議論が行われました。会議の議事要旨や説明資料が公表されていますが、私は、伊藤元重議員の発言内容を非常に共感を覚えて伺っていました。デフレ問題を考える際に、「物価や賃金などデフレに直接かかわる現象だけでなく、より深くにある雇用、投資、産業活力など、経済全体の動きに注目する必要がある」というご発言です。正に同感であると思いました。
§36Question
2 点お伺いします。先般の衆議院予算委員会で、安倍首相は「デフレは貨幣現象であり、金融政策で解決できる。2%の物価目標は、日銀の責任で達成して欲しい」と発言されました。政府側は、デフレは金融政策で解決できると思っているという点で、総裁の認識と多少ズレがあると思います。この点についてどのようにお考えですか。2 点目は、固定金利オペの札割れが続いて、なかなか資産買入等の基金が積み上がらない状況が続いています。付利引下げについて、総裁は何度も否定されていますが、これは、総裁が替わるまでの一時的なことか、それとも基金の枠組みに何か限界があるということなのか、お伺いします。
§37Masaaki Shirakawa
1 点目のご質問についてですが、ズレがあるとは考えていません。政府、日本銀行の考え方は、先般公表した共同声明に書かれている通りです。繰り返し説明することは省略しますが、日本銀行は、幅広い主体による競争力と成長力の強化に向けた取組みの進展に伴って、持続的な物価安定の目標が 2%であるということを発表しました。そうした物価目標を実現していくために、金融緩和を推進していくことを明らかにしました。政府は、大胆な規制・制度改革、税制の活用など思い切った政策を総動員して経済構造の変革を図るなど、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取組みを具体化し、これを強力に推進すると言われています。共同声明は、政府と日本銀行それぞれが果たすべき役割をしっかり認識し、それを強力に展開していくということです。私は、こうした政府と日本銀行のそれぞれの取組みがプラスの相乗作用を生み出していくこと、またそうしたもとで民間の経済主体が様々な取組みを進めていくことで、デフレ脱却が実現していくことを想定していますし、期待しています。2 点目については、資産買入等の基金における国債の買入れについては、金融市場の情勢、より具体的には国債市場の状況やそれを受けた金融機関の応札状況などを勘案して、買入れのタイミング、金額、対象銘柄などを、その都度決定しています。
§38Masaaki Shirakawa
金融市場は様々な要因で動きますので、オペの状況もその時々で変わってきます。いずれにせよ、日本銀行として、本年6月末および 12月末の基金の残高については対外的にコミットしているわけですから、そうした残高目標をしっかり達成していくということに全く変わりはありません。
§39Question
2 点お伺いします。先般発表された 1月の工作機械受注は約 720 億円とかなり低い数字で、これをよく分析すると、中国向けがかなり悪いようでした。中国経済は、先程総裁がおっしゃったように持ち直しの動きがあるとは言われていますが、設備投資等はまだかなり控えられていて、ストック調整がかなり長期化する可能性もあるのではないかと思われます。そう考えると、日本銀行は今般景況感を引き上げましたが、力強さという意味では、この先リスクもあるのではないかと思います。その点はいかがお考えですか。2 点目は、先程も質問にお答えになった賃金についてです。国税庁の調査によれば、一人当たり年間賃金が 1997年に 497 万円程度だったものが、2011年は 409 万円まで落ちています。こうしたことが日本のデフレに大きく影響していると思います。こうした下降トレンドをもう一度持ち上げるには、研究開発などに力を入れて企業の競争力を回復することが、遠回りのようで近道のような気もします。金融政策からは少し外れますが、賃金を押し上げるにはどうしたらいいか、総裁のお考えをお伺いします。
§40Masaaki Shirakawa
1 点目のご質問です。工作機械は機械の中の機械と言われていますが、最近の機械受注統計をみると、機械受注のうち外需は、幾分増加しています。そういう意味では、機械受注の外需の増加という点をみても、海外経済が持ち直してきている兆しが出ているのではないか、と読んでいます。ただ、ご指摘の中国との関係で申し上げると、日本企業が得意としているのは、機械も含めた資本財です。現在、中国の内需は堅調ですが、輸出は一進一退と申し上げました。最終的に中国の輸出のウエイトが高い、例えば欧州向けが増えていけば、中国の欧州向け輸出につながる日本企業の機械輸出、資本財輸出が増えていくということになります。そのためには、まだもう少し時間がかかるのかと考えています。そういう意味で、世界経済全体の回復、あるいは中国経済全体の回復と、その中で日本が得意としている資本財あるいは中間財とは若干の差があって、その差がどのように展開していくかだと思います。今回の公表文で、設備投資については、「非製造業に底堅さがみられるものの、全体として弱めとなっている」と判断しました。これは、今申し上げた判断があったことから、設備投資については上方修正していません。2 点目の賃金の話ですが、先程申し上げた通り、米国と比べた場合の日本の低インフレの 1 つの理由は、日本の雇用慣行あるいは賃金形成と関係しているということだと思います。
§41Masaaki Shirakawa
日本の社会においては、雇用の確保を優先していくことが日本の選択であったわけです。従って、このことと無関係には議論できないと思います。ただ、先程申し上げたように賃金だけを上げていくと、企業側からみると収益を圧迫されることになります。やはり、成長していくことが必要になってきます。物価に即して申し上げると、需要が拡大していく商品やサービスで値上げが実現していき易いということだと思います。そういう意味では、需要が拡大する分野における大胆な規制緩和が求められていると思います。
§42Question
2 点お伺いします。1 つは、カナダの中銀総裁――次期BOE総裁ですが――は、名目GDP成長率を金融政策の目標にしてはどうかと提唱されていて、先週の議会証言でもそれが話題になったようですが、この考え方について現時点で総裁はどう考えておられるのでしょうか。もう 1 つは、昨日だと思いますが、米国の次期財務長官が「強いドル政策を堅持する」という旨の発言をしたということですが、強いドル政策をこれまで採ってきたのかどうかという気がしないでもないですが、これについてのお考えをお聞かせ下さい。
§43Masaaki Shirakawa
まず、2 つ目の質問ですが、次期米国財務長官の発言について、コメントすることは差し控えたいと思います。また、1 つ目のカナダ中銀のカーニー総裁の名目GDPターゲティングに関するご質問ですが、英国の Treasury Committee(大蔵委員会)でのカーニー総裁の発言について、テキストを読んでいるわけではありませんから詳細を存じ上げているわけではありません。しかし、これまでカーニー総裁が講演で言われ、あるいはBIS等の場で議論したことを聞いていると、カーニー総裁は別にこれだけを推奨しているわけではなくて、幾つかの選択肢としてこのメリット・デメリットを考えていく必要があるとおっしゃっているように思います。今回の提案は英国の状況を踏まえてのものと思いますが、何を目的とするかが論点であるのではなく、どういう目標であれ、「その目標を達成する手段があるのか」という手段についての議論が、英国を含めて先進国における本質的な論点だと思います。
§44Question
日銀の正副総裁人事についてですが、総裁はかねがね、国会が決めることだとおっしゃっていますが、5年間勤め上げた総裁として何らかの意見を言うことはできると思います。それを前提にしてお聞きするのですが、この 5年間ではボードメンバーに 2 人、日銀の出身者がおられると思います。白川総裁と山口副総裁です。日銀の出身者がボードのメンバーであることにメリット・デメリットがあると思うのですが、総裁はこの点についてどのようにお考えになっているのか、この5年間の組織運営の経験を踏まえてお聞かせ下さい。
§45Masaaki Shirakawa
言うまでもないことですが、総裁も副総裁も、国会の両院の同意を得て内閣が任命するもので、私が具体的にコメントすることは不適当であり、差し控えたいと思います。そのことを申し上げた上で、一般論として申し上げたいと思いますが―─今のご質問は、日銀のプロパーということでしたが─―、プロパーとかプロパーではないということではなくて、中央銀行の総裁、副総裁あるいは審議委員としてふさわしい人がなるべきであるということです。プロパーかどうかに関連付けてのお答えは、これも差し控えたいと思います。このことを申し上げた上で、私自身、総裁ということを特に意識した場合、様々な意味でバランスのとれた方が望ましいと思っています。第 1 は、中央銀行の幅広い仕事について、十分な理解と知識を備えている必要があると思います。この席で質疑を行っていると、大半が金融政策に関する質疑ですが、中央銀行の仕事は金融政策だけではなく、金融システムの安定、決済システムの運行、国際金融も重要な仕事であり、さらにその背後には、中央銀行としての銀行業務、実務が存在します。第 2に、立場や意見の異なる様々な人の意見に耳を傾ける謙虚さが必要だと思います。中央銀行は、不確実性に満ちた現実の経済の中で多くの人の生活に影響を与える決定をしなくてはならないと思います。それだけに、謙虚さが重要であると思っています。
§46Masaaki Shirakawa
第 3 に、リーマンショック以降の経験が示すように、常にグローバルな視点を意識しながら中央銀行の仕事について判断し、行動する必要性がますます高まっていると思います。ご質問を変えて、このような形でお答えをしたいと思います。以上