森本審議委員記者会見(2013年2月20日)要旨
全文
§1Question
本日の金融経済懇談会の出席者からどのようなご意見があったのでしょうか。
§2Yoshihisa Morimoto
本日の金融経済懇談会では、当地の行政、経済界、金融界を代表する方々から、地域経済の現状や日本銀行の金融政策運営に関する貴重なお話、率直なご意見などを数多く頂き、極めて有意義な意見交換を行うことができました。まず、その点について感謝申し上げたいと思います。懇談会の場で頂いたご意見は多岐にわたるため、全てを紹介することはできませんが、席上での話題を整理して申し上げます。1 点目は、当地の景気は、製造業の生産活動が弱めの動きとなっている中で、その影響が雇用・所得面や個人消費にも及ぶなど、全体として弱めに推移しているが、足もとでは、県外の取引先に明るさもみられているとのお話がありました。2 点目は、当地の経済が直面する厳しさや課題について、様々なお話を伺いました。具体的には、製造業では、海外経済の減速長期化やこれまでの為替円高の影響等から、受注環境や事業採算が悪化しており、足もとの円安傾向の定着を期待しているとのご意見がありました。また、非製造業も含めて、全国を上回る急速な少子高齢化をはじめとする構造的な課題に直面し、後継者の確保を含めた企業経営を巡る環境は厳しさを増しているとのことでした。3 点目は、そうした中で、産業、金融、行政、教育機関等が一体となり、地域経済の活性化や発展に向けた様々な取り組みが行われているというお話を伺い、大変心強く感じた次第です。
§3Yoshihisa Morimoto
2009年から取り組まれている「高知県産業振興計画」では、当地の強みを見極めた上で明確な成長戦略を描き、高知ブランドを大都市圏や海外に売り込んでいく、いわゆる「地産外商」等で具体的な成果が着実に出ていることを伺いました。また、生活基盤の整備等を通じた中心市街地の活性化への取り組みや、「日本一の幸福実感県」の魅力を発信し、今後、当県への移住促進にも力を入れていくといったお話も伺ったところです。さらに、金融政策面では、全国の景気回復に遅れがちな地域経済の実態も注視した上で政策判断を行って欲しいとのご要望も頂きました。私どもとしては、高知支店を通じて、高知県内の金融経済情勢についてきめ細やかなモニタリングを継続するとともに、地元経済の持続的成長の実現、金融システムの安定確保など、高知県経済を支える関係者のご努力がより大きな成果へとつながっていくよう、しっかりとサポートして参りたいと考えています。
§4Question
将来の展望を含めて、高知県経済の印象について教えて下さい。
§5Yoshihisa Morimoto
高知県経済の認識ということですが、まず全国に誇ることができる魅力的な観光資源が数多く存在するということです。四万十川や室戸ジオパークをはじめとする豊かな自然、自由で楽しく、分け隔てなく人をもてなす食文化、伝統ある歴史など、非常に恵まれた観光資源が豊富にあります。こうした観光資源をブラッシュアップしながら、官民が一体となり、創意工夫を凝らした観光客誘致に向けた取り組みを継続的に行っていることが、当地観光の底上げにつながっていると思います。また、観光資源にも通じることではありますが、高い生産技術に基づく良質な食材の宝庫であるという印象も強く受けました。高知県には、全国的に高いシェアを誇る1次産品とか、その素材の良さを活かした農産物加工品が多く、成長分野としての大きな潜在力を感じたところです。そして、地元の皆様が非常に誇りとされているところですが、独創的な発想で日本の歴史を大きく動かした人材を数多く輩出したように、時代の変化を先取りする創造性豊かな気風が脈々と受け継がれていることを強く印象づけられたところです。最近では、本県の強みを活かした木質バイオマスを含めた再生可能エネルギーや防災関連産業など、将来に大きな可能性を秘めている成長分野に果敢に挑戦する動きが拡がっており、この点については大変勇気づけられたところです。
§6Yoshihisa Morimoto
最後に、今後、高知県経済がさらに発展を遂げるためのポイントを申し上げると、地域間の競争が一段と激化していくことが予想される中で、当地ならではの強みを持つ分野での差別化をより一層図っていくことが、持続的な成長を実現させていく上での大きな鍵になると思います。懇談の席でも少し触れたところですが、これまでも産業振興計画の地産外商戦略のもとで、ユズやショウガなどの地域資源を活用した高付加価値品の開発と大都市圏や海外への積極的な販売促進など、成長基盤を強化するための意欲的な取り組みが着実に拡がっていると思います。「土佐まるごとアカデミー」でこれら産業振興を担う人材育成にも取り組まれていますが、さらに今後、携わる関係者の連携強化を図りながら、高知県の強みを生かしきる取り組みを定着・発展させていくことが重要だと思います。また、少子高齢化をはじめとする構造的な課題や、これまで数多くの自然災害を乗り越えてこられたノウハウを結集し、万が一の南海地震の被災リスクにもしっかりと対応策をとり、これらを乗り越えた持続的な成長につなげていくためのビジネスモデルを構築していくことが極めて重要であると思います。
§7Yoshihisa Morimoto
その意味では、「医療・介護・高齢者ビジネス」や「防災関連産業」等の育成・振興を目指すこれまでの取り組みは大きな発展性を持っていると思われますので、今後、こうした取り組みを一段と加速・進化させていくことに期待したいと思います。
§8Question
金融市場の動向についてお伺いします。中短期の国債の利回りがかなり下がってきていて、今月には 2年物国債が 0.02%台をつける場面もありましたが、これから国債買入れを強化していかなければならない立場として、対象年限の金利が既にゼロ近傍まで下がってきていることについて、どう考えているのかお聞かせ下さい。また、これから場合によっては、国債の買入れオペで落札金利がマイナスになる可能性もあると思いますが、買入れオペの落札金利がマイナスになることは許容できるのかについてもお聞かせ下さい。
§9Yoshihisa Morimoto
まず、資産の買入れ等は、やや長めの金利低下に働きかけること、またリスクプレミアムも引き下げるといったことを通じて、企業の資金調達等を軽減していくことを目的として行っています。こうした本来の目的の中で長短金利が低水準にあるため、企業等の色々な活動を下支えしているのではないかと思います。1~3年物の長期国債の金利は、色々な要因があって低下しているわけですが──こういう国債をなかなか金融市場でも離したがらないという状況があるのだと思いますが──、そうした状況の中でも資産買入等の基金を着実に積み上げていくために、市場の状況、応札状況、タイミング、対象銘柄など、色々工夫しながら着実に積み上げていきたいと思っています。こうした色々な工夫の中で積み上げは進んでいますし、例えば長期国債ですと、今年6月末には 34 兆円、12月末には 44 兆円の積み上げを確実に達成していくようにこれからも努力していきたいと思っています。それから、マイナス金利を容認するのかどうかという点については、市場の動きですのでコメントは控えたいと思います。
§10Question
今の質問にも関連しますが、金融緩和の手段についてお伺いします。昨日発表された 1月会合の議事要旨で、基金による国債買入れの年限を 5年まで延長してはどうかという複数の委員の方の言及があったのですが、森本審議委員は、追加緩和のオプションとして年限長期化についてどのような見解をお持ちなのか、是非の理由も含めてお聞かせ下さい。
§11Yoshihisa Morimoto
今、1年から3年という年限で長期国債の買入れを進めているのは、わが国の資金調達構造上、期間 3年以下の貸出等の割合が高いことから、金融緩和を目的とした資産買入等の基金においては、それに概ね対応する期間の金利に働きかけることが最も効果的だと考え、実施しているためです。こうした考えのもとで、先程申し上げた基金の積み上げをしっかり達成していこうということですが、こうした大量の国債を買い入れることによって、周辺の金利にも低下圧力がかかり、今の状況になっていると思います。その上で、5年物まで買ってはどうかといった個別の金融政策については、その時々の経済・物価情勢等を入念にチェックしつつ、リスク要因も考慮に入れながら、どういった方策が一番良いのかということで判断しています。いわゆる金融政策方針については、効果とコストをしっかりチェックしながら考えていきたいと思っています。
§12Question
本日のスピーチの中の言葉について質問します。「今年はかつてなく極めて大規模な金融緩和が進行していきます」というお言葉がありましたが、噛み砕いて言うと、日銀はデフレ脱却のために金融緩和を十分に行ってきているという意味でおっしゃっているのでしょうか。また、今後の追加緩和の可能性についてどのようにお考えか、お聞かせ下さい。
§13Yoshihisa Morimoto
2013年には大量の資金供給を行っていきますので、既に十分な金融緩和を行っていると考えているのかどうかという点については、申し上げるまでもないと思います。私どもとしては、デフレから脱却して持続的な成長経路に復帰するように、強力な金融緩和を進めてきているところであり、ここ半年くらいの間に追加緩和を 4 回行いました。ご承知の通り、2013年中には、資産買入れ等については 36 兆円、貸出増加支援資金供給は──これまでの貸出実績を前提にすると──15 兆円超と、合計で50 兆円を超える資金供給が現実に行われていくという予想のもとで、金融緩和を推進しているところです。こうした金融緩和効果を着実に実施していくことが大事だと思っており、その効果を見極めながら、適時適切な金融政策を行って参りたいと思っています。
§14Question
今、国会で安倍総理が、金融緩和をすれば、デフレ脱却、また+2%の物価安定目標も達成できるというようなことをおっしゃっています。政府・日本銀行の共同声明では、日銀は政府と一緒にやっていくということを謳っており、認識のずれを感じるところもあるのですが、この点、森本審議委員はどのようにお考えか、教えて下さい。
§15Yoshihisa Morimoto
まず、共同声明では、日本銀行は、今後日本経済の競争力と成長力の強化に向け、幅広い主体の取り組みの進展に伴い、持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識しています。この認識に立ち、その物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で+2%にしました。この物価安定の目標のもとで金融緩和を推進し、できるだけ早期に実現するということを目指しています。一方、ご承知の通り、政府は、わが国経済の再生のために、機動的なマクロ経済政策運営に努めるとともに、大胆な規制・制度改革、税制の活用など、思い切った政策を総動員して経済構造の変革を図るなど、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取り組みを具体化し、これを強力に推進するとしています。共同声明では、政府および日本銀行の政策連携を強化し、一体となって取り組むことを明確にしたところです。それぞれ相手の取り組みを条件するということではなく、それぞれが自らの役割を明確に認識して取り組むべきことを明らかにしたものです。そうした双方の取り組み、これがデフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的な成長の実現にとって、有効・有意義だということで踏み切ったものです。
§16Question
森本審議委員は、午前中の講演において日本の景気は年の半ばには回復経路に復すると言われていますが、そうなると需給ギャップが改善し、物価にも良い影響が及ぶものと思います。一方、景気が回復すればするほど、市場金利の水準が変わらなくても、緩和効果が増していくということになるかと思われますが、そのようなもとで追加緩和が必要になる条件、ないしは状況を現状ではどうお考えでしょうか。
§17Yoshihisa Morimoto
現状、米国や中国に加え、欧州についても実体経済は厳しい状況ですが、金融資本市場が小康状態にあるということで、海外経済には明るい動きがみられつつあります。一方、国内経済については、個人消費は底堅いほか、公共投資は増加、住宅投資等も持ち直しています。内需が底堅いもとで、海外経済についても明るい動きが出てきていることから、輸出の減少についても縮小傾向になってきており、つれて生産も下げ止まりつつあります。こういう状況のもとで、各種の経済対策も色々と審議されている状況を踏まえると、海外経済が徐々に減速から脱していくにつれて、わが国経済は、年央頃には緩やかに回復経路に復していくのではないか、と考えています。そうした時に、需給ギャップは、縮小傾向を辿っていくと思いますが、物価については、昨年2月、耐久消費財の価格調査対象品目が入れ替わったり、エネルギー価格が上がったりしたことの反動もあり、目先は少し下がるという局面になるかもしれません。もっとも、経済の緩やかな回復につれて需給ギャップが縮小すれば、物価もゼロ%近傍で推移していくことになると思います。こうしたもとで、追加の金融緩和についてどう考えるのかということですが、先程も触れた通り、2013年については、貸出増加支援基金も含めて50兆円という、非常に大量の資金が市場に供給されます。
§18Yoshihisa Morimoto
これにより市場金利も低下すると思われますが、日本銀行としては、様々な工夫を凝らしつつ、約束した残高を達成するよう資産買入れを順調に進め、長短金利を低位に安定させることによって経済を下支えしていきたいと思っています。私どもとしては、こうした対応をしっかりと行いながら、その効果も点検し、そうした中で、毎月の金融政策決定会合において、追加的な措置が必要かどうかについても、判断して参りたいと思います。
§19Question
森本審議委員は、金融政策の 1 つ 1 つの選択肢についてはコメントされないということだと思いますが、買入対象国債の年限を 5年まで延長するとか、あるいは日銀当座預金の超過準備付利金利を引き下げるないし撤廃するなど、金融政策のあらゆる選択肢を排除しないという姿勢なのでしょうか。また、安倍総理を含め政府は、マネーの供給による金融政策だけで物価の+2%上昇を実現できるというような趣旨の発言をしています。端的にお答え頂ければありがたいのですが、森本審議委員は、金融政策だけでは物価の+2%上昇の実現は難しいとお考えなのかどうか、お聞かせ下さい。
§20Yoshihisa Morimoto
私どもは、毎回の金融政策決定会合の中で、①経済物価情勢の現状・先行きの点検、それから②リスク要因の点検という、いわゆる 2 本柱をしっかり入念に行いながら、その時々に、金融緩和政策が必要かどうかということを議論しています。そうした中で、より長い年限の国債の買入れとか、日銀当座預金の超過準備付利金利を引き下げるないし撤廃するとか、様々な政策があるわけですが、これらについては、当然、効果とコストがあるので、こうしたことを色々と考えながら決めていくということです。金融政策のみで物価の+2%上昇が達成できるかということですが、先程も触れましたが、「共同声明」において、政府と日本銀行、それぞれの役割を明確にし、政策連携を強化しながら、一体となって取り組むこととしました。官民挙げた幅広い主体による成長力強化への取り組みと、それから私どもの金融面からの後押しとが相俟って、デフレからの脱却、および持続的な成長の実現ということが達成されると思っています。私どもとしても、しっかりと金融政策を行っていきたいと思っています。
§21Question
午前中の講演の中で、経済の中心的見通しは上下双方向に不確実性があるというお話でした。物価については上振れのリスク、下振れのリスク、両方あると思いますが、今後の政策を考える上でどちらに重きを置いてみていきたいか、ご意見をお願いします。
§22Yoshihisa Morimoto
このところの金融政策決定会合においては、経済のリスクは上下双方向の不確実性があるということで、大方の政策委員は、上下ほぼバランスした見方をされているのではないかと思います。物価についても、経済と連動しているので、上下双方向のリスクがあるということで、大方の政策委員は、上下ほぼバランスした見方をされていると思っています。一方、先程も触れましたが、当面の物価情勢については、昨年の耐久消費財の価格調査品目の入れ替えや、エネルギー価格が上昇していたことの反動の問題があり、少し下振れる可能性はあろうかと思います。もっとも、これはリスクというよりも、見通しの問題であって、リスク要因という意味では、上下ほぼバランスしているというのが、政策委員の皆さんの大体の考え方・見通しではないかと思っています。
§23Question
1月21日、22日の金融政策決定会合の議事要旨における金融政策の部分では、「期限を定めず毎月一定額の資産を買い入れ続ける方式を導入することが望ましいとの認識を共有した」とのくだりがあります。市場で「オープンエンド」と呼ばれているこの方式を、なぜこの 1月のタイミングで導入するのがよいのかという議論が、議事要旨には一切何も書かれていません。あまりに唐突な印象を受けましたが、一体どういう経緯で、なぜこのタイミングでこれを導入することが望ましいという判断になったのか、お聞かせ下さい。
§24Yoshihisa Morimoto
昨年12月の段階で、2013年末までの資産買入等の基金の額を 10 兆円プラスし、総額101 兆円とする追加緩和を行うことを決めました。その後、1月の金融政策決定会合を迎え、経済・物価見通しの中間評価では、物価について、2014年度、消費税増税を除くベースで+0.9%という政策委員の中心見通しを発表しました。そうした状況の中で、新たに「物価安定の目標」を導入し、+2%の物価上昇を目指して、これを早期に実現するよう努力していこうということになりました。もっとも、新たな物価目標を導入する中、2013年末以降については、どういう対応を取ったらよいのか、たとえば、+1%の物価上昇が視野に入り、さらにその先、幅広い主体による様々な成長力強化への取り組みが進展して成長期待も上がり、物価が上昇していくという中で、2013年末以降どうするのか、打ち出す必要があります。金融政策の効果が現れるまでには相応の時間がかかりますので、期限を定めずに資産の買入れを進めていこうという決断をしたわけです。以上