石田審議委員記者会見(2013年3月11日)要旨
全文
§1Question
2 点お伺いします。1 点目は、本日午前中に行われました栃木県金融経済懇談会では、どのような意見交換がなされたのかということ、2 点目は、栃木県の経済・金融情勢についてどのような認識を持たれているのかということ、それぞれお聞かせ下さい。
§2Koji Ishida
ご質問にお答えする前に、東日本大震災から、本日でちょうど 2年になります。当地も被災地として様々な影響を受けたと伺っています。まずは、震災で犠牲となられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様に、心からお見舞い申し上げます。本日の懇談では、栃木県の行政や財界、金融界を代表する方々から、地域の現状や課題、あるいは日本銀行の金融政策運営に関する貴重なお話やご意見等を数多くお聞かせ頂くことができました。極めて有意義な意見交換ができたものと思っています。まずは、出席して頂いた方々や、関係者の皆様に深くお礼を申し上げたいと思います。本日の懇談会では、ご意見が多岐に亘ったために、全てを網羅して紹介することはできませんが、私なりに席上で聞かれた話題等を整理して申し上げます。1 点目は、2011年3月の東日本大震災の影響について、様々なお話を伺いました。製造業においては、概ね震災前の水準まで戻りつつあり、また、相対的に影響が長引いている観光産業や農業においては、多くの関係者の努力と工夫の甲斐もあって県全体としての影響の度合いは薄らいできてはいるものの、地域によってはその差は大きく、特に県の北部における課題がまだまだ多いとのお話でした。
§3Koji Ishida
2 点目は、当地の景気について、最近の為替や株価の動向、あるいは、新たな政策への期待感等から、全体としてみると、マインド面を中心に改善の兆しが出ているとのお話を伺いました。ただ、やはりこうした動きは大企業製造業を中心としたものであり、これが、地域経済を支える数多くの中堅・中小企業にも及んでくるには、まだまだ時間がかかるのではないかとのご意見もありました。3 点目は、そうした中で、産業、金融、行政等が一体となり、地域経済の活性化や発展に向けた様々な取り組みが行われているとのお話を伺いました。特に、県が重点分野と位置付けている、自動車、航空宇宙、医療機器、光、環境のほか、農業・食関連分野を中心に、産業振興に向けた取り組みが着実に進んでいるほか、観光面でも、昨年5月の東京スカイツリー開業の追い風を県内観光地にも取り込むべく、各所で誘客に取り組んでいるとのお話がありました。とりわけ、雇用をいかに増やしていくかという観点から、関係者の方々による様々な施策や行動が行われているというお話を伺い、大変心強く感じた次第です。4 点目としては金融面ですが、今月末に期限を迎える金融円滑化法の期限到来後について、影響が出ないようにして欲しいとの声が複数聞かれました。
§4Koji Ishida
これに対して、行政においては、相談窓口の設置や制度融資等を通じての必要な支援を行う、あるいは、金融セクターの方々からは、コンサルタント機能や企業再生の実行性の強化に向けた取り組みを行うなど、引き続き、地元中小企業のサポートを続けて行く方針であるというお話を伺っています。私どもとしては、中央銀行の立場から、物価安定のもとでの経済の持続的成長を実現していくことや、金融システムの安定性を確保することを通じて、当地関係者の努力がより大きな実りへとつながっていくよう、サポートして参りたいと思います。これが、まず、最初のご質問に対するお答えです。次に、意見交換の内容も踏まえた上で、栃木県経済の状況について、私どもとしてどう認識しているかについてお答えします。栃木県内の足もとの景気動向につきましては、全体として下げ止まりつつあると認識しています。個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直しの動きが続いているなど、内需は総じてみればしっかりとしている、ということです。一方で、ものづくりが盛んであるがゆえに、海外経済の減速等の影響を受けて、輸出や生産が全国に比べ弱めに推移してきたということ、もっとも、このところの為替や株価の動向などを受けて、最近は漸くマインド面や先行きの生産の見通しなどに前向きな感じが出てきており、企業の生産活動にも下げ止まりの兆しが窺われています。
§5Koji Ishida
こうした動きがより確かなものとなって、企業収益の改善、さらには設備投資の持ち直しなどにつながっていくことを期待したいと思います。私ども日本銀行としては、栃木県内の金融経済情勢について、調査統計局地域経済調査課等を通じて、今後もきめ細かい調査、広報・広聴活動を続け、中央銀行の立場から、経済の持続的な成長の実現や金融システムの安定性確保を図りながら、栃木県経済を支える関係者の努力がより大きな成果へとつながっていくようにサポートして参りたいと思っています。ご質問の中に、金融情勢をどうみているかという点がありましたのでお答えします。栃木県内の金融機関は、経営体力面では全体として格別の問題はないと認識しています。当地の金融機関は、国や県の制度等も有効に活用しながら、県内各地において中小企業の資金繰り支援や経営サポートなどに積極的に取り組んでおり、円滑な金融仲介機能の発揮という面から、栃木県内の経済の下支えに貢献しているものとみています。私どもとしても、金融市場の安定性確保と金融の円滑化に資するよう、企業金融の実態について引き続き的確に把握し、最大限の貢献を果たしていく所存です。
§6Question
午前中の講演の内容に関連しますが、石田委員は2%の物価目標について、大変高い目標である、ただそれは日銀の積極的な金融緩和と成長力強化のための各主体の取り組みがあれば展望できる、という話をされたのですが、2%の物価目標の責任の所在について、これは日銀が全て負うべきなのか、それとも日銀と共に政府や様々な主体の取り組みが合わさってということで、日銀だけの責任ではないと理解すればよいのか、確認させて下さい。
§7Koji Ishida
これは共同声明と絡むと思いますが、共同声明では、政府・日本銀行が政策連携を強化して、一体となって取り組むことを明確にしたわけです。その記載をみると、それぞれの相手の取り組みを条件とするものではなく、それぞれが自らの役割を明確に認識して取り組むことを明らかにしたものです。そうした双方の取り組みが相俟って、デフレからの早期脱却と物価安定の下での経済の持続的成長の実現をもたらすと考えております。
§8Question
本日の朝、総裁候補の黒田氏が、所信聴取で物価目標のための具体的な政策の1 つとして、スワップなどのデリバティブの活用について質問を受け、十分に提案を伺い検討していく姿勢を示されましたが、石田委員ご自身としては、この案についてどのようなお考えをお持ちでしょうか。
§9Koji Ishida
誠に申し訳ありませんが、私は朝から当地の金融経済懇談会に出ており、お話の内容や趣旨、経緯等が分かりませんので、お答えすることはできません。
§10Question
先週の決定会合で白井委員から、基金の長期国債買入れについて、期限を定めない買入れ方式――いわゆるオープンエンド――を速やかに導入する案が提出されましたが、これについての委員ご自身のお考えをお聞かせ下さい。
§11Koji Ishida
金融政策決定会合での議論については、総裁の記者会見や議事要旨で明らかにされるので、お話しできないのですが、ご質問は、期限の定めのない買入れを前倒しで行うという点についての質問ということでよろしいでしょうか。
§12Question
前倒しで行うということについてです。
§13Koji Ishida
この件については、白井委員の提案に対して発言することは差し控えますが、私自身がどのように考えているのかについてお答えします。期限の定めのない買入れが 2014年から行われるというのは、形式的にはその通りであり、日本銀行もそのように発表していますが、私自身としては、実際には、2013年から、既に実態がそうなっていると思っています。なぜならば、2013年末までに101 兆円まで買い入れることを約束しています。それは2013年12月末までですが、2013年6月末にも一定の数字が決まっています。そうすると、必ずしも正確には言っていませんが、だいたい毎月一定額を買い入れていくことが前提となっており、それが積み上がっていくということです。ですから、毎月一定額を買い入れ、そして 2014年1月からまた毎月13 兆円買うので、前倒しをどのように考えるかは別にして、私自身としては、実態は同じではないかと前から思っています。
§14Question
実態は同じではないかと思っているということは、つまり、13年からもう既にオープンエンドを始めているようなものだという意味合いでしょうか。
§15Koji Ishida
そうですね、足もとでも毎月買い上げていて、それをずっと続けているのですが、2013年末までの目標が出ていますので、それが今までは、期限の定めのある買入れと言われていました。しかし、その後まで続いているわけですから、言ってみれば、それはずっと期限の定めがない──日本銀行は、正式に期限の定めのない買入れを13年から始めているとは言っておりませんが――ということで、私個人としては、それは始まっているのと実態的には同じと思っています。─ この間、東日本大震災の発生時刻に合わせて約 1 分間の黙祷を実施 ─
§16Question
2 点質問をお願いします。まず1 点目は、石田委員は、これまでの金融政策決定会合の中で、付利撤廃のご提案をされていますが、先週の決定会合ではそのご提案をされませんでしたので、お考えにはお変りはないのかということ、2 点目は、総裁候補の黒田氏がより長い期間・年限の国債を買い入れていくのもあるのではないかということを話していますが、そういった政策についての石田委員ご自身のお考えについてお聞かせ下さい。
§17Koji Ishida
付利撤廃については、最初にその提案の理由を申し上げます。私は、包括緩和における資産買入れ等の基金の目的は、実質ゼロ金利の下で、ターム・プレミアムやリスク・プレミアムの低下を促すということにあると理解しています。わが国の資金調達構造をみると、期間 3年以下の貸出の割合が高いということから、残存 3年以下の国債を買い入れ、対応する金利の低下を促すことにより貸出レートを下げて、企業・個人の借入れ負担を軽減して、景気を刺激すると考えています。しかしながら、当時は既に、3年以下の国債の金利が 0.1%に貼り付いていました。基金では、買入れの継続や買入れ枠の増額によって金融緩和の強化を図ってきましたが、強化を図ってもそれ以上金利が下がらなければ、目的を果たしていないのではないかということから、金利の下限を構成している付利を撤廃してはどうかと考えました。もう 1 つは、当時は国際金融市場にストレスがかかっていました。国際金融市場では、ストレスがかかると、安全とみられる国の通貨や国債が選好されるため、スイスやデンマーク、ドイツの国債の短期の金利が、すぐにマイナス圏に入っていたというのは、よくご存知かと思います。
§18Koji Ishida
一方、日本の場合は付利0.1%があるので、短期国債の金利が0.1%であれば、そういう退避資産として、退避資金の入りやすさが、普通の自然体と比べて、もっと入ってくる可能性がある、買われやすい情勢を作っていたのではないか。そういう意味では、自然なマーケットの動きを反映するように、付利 0.1%が廃止されれば、短期国債の金利も自由に動いて低くなり、資金がより多く入ってくるということも妨げられるのではないかと考えました。こういう 2 点から、付利撤廃を提案しましたが、ご案内のように1 対 8で否決されました。本件はそこで一旦結論が出ていますので、結果が出たものを何度も出すのは如何なものかと思い、その後は出していないということです。もともと、付利0.1%というものは、個別独立的なものではなく、先程申し上げたように、金融緩和の全体の枠組みの中で考えるものだと思います。そのため、金融政策の先行きについてのコメントはできませんが、今後、何らかの検討を行う時があれば、全体の枠組みの中で、目的や手段といった形でみていくべきではないかと思います。第2 の質問の、より長期の国債を買うことに対する考え方については、先程の質問にお答えする時に尐し触れましたが、これまで3年以下の国債を買っていることには、それなりの理由があったということです。
§19Koji Ishida
3年超の国債を買うべきとの議論はありますが、一方で、今までの考え方では、3年以下の国債を買っていけば、その目的を果たせるほか、イールド・カーブがつながっているため、当然それ以上長いところの金利が低下していく効果も見込んで行っていたものです。従って、より長い期間の国債を買うというのであれば、その方が金融政策としての効果が大きいのかについて、当然ながらプラス、マイナスを評価した上で、決めるべき問題だと思っています。
§20Question
講演の中で、持続可能な財政構造の確立が今後大規模な金融緩和を進めていく上で大変重要なポイントだと述べられていました。日本の財政状況の悪さに起因した長期金利の上昇の可能性が、今後の大量の国債買いを中心とした大規模な金融緩和を行う上で、最大の副作用という認識の上での発言なのか、教えて下さい。加えて、金融緩和期待を背景に、足もとで株高かつ債券高というある種の特殊な状況が続いておりますが、この状況の背景と今後の持続可能性についてどのようにお考えか、教えて下さい。
§21Koji Ishida
講演での発言の趣旨は、金融緩和を強力に進めていくためには、財政規律がしっかりしていることが望ましい、しっかりしていればしているほど金融緩和を強力に進めやすいという意味です。次に、最近の株式・債券市場の動向についてですが、米国においても株式と債券の両方が同時に上がったことがありました。いわゆる国際的な緊張の緩和によって株式が安心して上昇し、一方で政策的な金融緩和の傾向が皆さんの間に浸透してくることによって債券価格が上がる、株式も上がる、ということだと思います。今のところは、色々な外部環境が双方に対してプラスに働いていると思っています。
§22Question
先程の付利撤廃に関するお答えについて、提案された理由の背景は、為替相場に働き掛けることを狙いとしたものであるのか、教えて下さい。加えて、今の状況においても、これから先においても、為替相場に働き掛けるような金融政策が重要であるとお考えなのか、教えて下さい。
§23Koji Ishida
誤解されると大変困るのですが、為替相場を誘導する、といった意味は、全くありません。私は、付利0.1%があって、日本の短期金利が、非常に信用力の高い諸外国の短期金利に比べて高くなっているがゆえに、逆に本来あるべき水準と違う水準に相場がなる可能性がある、それを自然の形に戻すという意味で、あの措置が必要であったと考えたわけです。従って、相場を誘導するということではなく、付利が本来の相場をゆがめている要因となっているのではないか、それを除外すべきではないか、と考えたわけです。
§24Question
より長い年限の国債の買入れを基金の中で対象とすべきとの声もありますが、貸出期間は 3年が一般的という趣旨で 3年までを対象としている基金で、5年や 10年の国債を買うのはやはり難しく、金融緩和を目的としてより長い年限の国債を買い入れることになると、基金の枠組み全体を見直す必要があるとお考えなのか教えて下さい。また、銀行券ルールについても、日銀総裁候補の黒田氏は、撤廃も検討対象にすべきという趣旨の発言をされていますが、そうなると財政規律についてのルールも必要になってくるかと思いますが、銀行券ルールの存続、存在についてお考えを教えて下さい。
§25Koji Ishida
最初のご質問である基金を廃止するとか、基金を大きく変更する必要が出てくるのではなかろうか、そういう場合にどうするかという点については、これは仮定の問題なので答えられません。一般論として申し上げると、基金は今の金融緩和政策の基本的な構造を作っているのだと思います。ですから、金融政策の枠組み自体の大きな変更になる場合には、金融政策の目的、手段、効果、伝達経路、あるいは波及の仕組み、リスクとコスト、そういうものを総合的に検討していかなければならないと思います。それ以上は申し上げられませんが、そういうことが必要になると私は思います。銀行券ルールについては、私の解釈ですが、ルールと言っていますが、やっていることは日本銀行の銀行券発行量に応じて長期国債を買うというだけのことです。簡単に言えば、銀行券見合いの国債購入ということであって、ただ、それが国債を大量に買うということから変な誤解を招かないように、当然ながら買うのは発行銀行券の残高まで、というのをルールと称したのだと思います。財政ファイナンスと誤解されないように、ということだと思います。そういう意味では、銀行券見合いの買入れを他の政策手段として使うのであれば、枠組みの変更になりますから、先程申し上げたような枠組み変更に伴う諸点についての検討がなされるものと思います。以上