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日本銀行記者会見2013年6月11日黒田東彦, 総裁

総裁定例記者会見(2013年6月11日)要旨

全文

§1Question

本日の決定内容について、ご説明下さい。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 60~70 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という前回会合で決定した金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。資産買入れについても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、4月4日の「量的・質的金融緩和」の導入に際し決定した買入れ方針を継続します。わが国の景気ですが、国内需要が引き続き底堅く推移する中で、輸出や鉱工業生産で改善の動きが続いていることから、先月の「持ち直しつつある」から、「持ち直している」へと判断を前進させています。海外経済は、引き続き製造業部門に緩慢な動きもみられていますが、全体としては徐々に持ち直しに向かっています。そうしたもとで、輸出は、為替相場の動きも下支えとなって、持ち直しつつあります。設備投資は、非製造業が引き続き底堅く推移するなか、全体としても下げ止まりつつあります。公共投資は増加を続けており、住宅投資も持ち直し傾向にあります。個人消費は、消費者マインドが改善するもとで、引き続き底堅く推移しています。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は持ち直しています。この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。マネタリーベースは、日本銀行による資産買入れの進捗を反映して大幅に増加しており、企業の資金調達コストは低水準で推移しています。

§3Haruhiko Kuroda

CP・社債市場の発行環境も、総じてみれば、良好な状態が続いています。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、前年のエネルギー関連や耐久消費財の動きの反動から、マイナスとなっています。予想物価上昇率については、マーケットの指標などで上昇が一服しているものもありますが、家計やエコノミストに対する調査など全体としては上昇を示唆する指標がみられています。わが国経済の先行きについては、金融緩和や各種経済対策の効果もあって国内需要が底堅さを増し、海外経済の成長率が緩やかながらも次第に高まっていくことなどを背景に、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、東京の消費者物価の 5月分は、4年2 か月ぶりに前年比プラスに転じており、全国の消費者物価の前年比も次第にプラスに転じていくと見込まれます。リスク要因をみると、欧州債務問題の今後の展開、米国経済や新興国・資源国経済の成長力など、日本経済を巡る不確実性は引き続き大きい情勢です。金融市場の動向を含め、今後の展開には注意していく必要があると考えています。先行きの金融政策運営について、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について、上下双方向のリスク要因を引き続き点検し、必要な調整を行います。

§4Haruhiko Kuroda

このような金融政策運営は、実体経済や金融市場における前向きな動きを後押しするとともに、予想物価上昇率を上昇させ、日本経済を、15年近く続いたデフレからの脱却に導くものと考えています。最後に、昨年12月に導入した「貸出増加を支援するための資金供給」ですが、金融機関の大変積極的な利用がみられており、第 1 回目の貸付を 6月18日に、70 先に対して、約 3.1兆円実施する予定です。このところ、資金需要は緩やかに増加し、銀行貸出残高の前年比は 2%程度のプラスで推移していますが、こうした前向きな動きがさらに進展していくことを期待しています。

§5Question

金融市場について、お伺いします。足許、株価下落や、再びの円高といった形で、4月の緩和以降の市場の動きとは若干反して、揺り戻しの動きがみられます。こうした市場の動揺の原因、それからその影響、これをどう分析しているかお聞かせ下さい。

§6Haruhiko Kuroda

株価や為替相場について、一つ一つの動きにコメントすることは控えたいと思いますが、先程申し上げた通り、わが国経済は順調に回復への道筋を辿っており、金融市場もそうした実体経済の前向きな動きを反映して、次第に落ち着きを取り戻していくと考えています。日本銀行としては、2%の物価安定目標の達成と、経済の持続的な成長の実現に向けて、強い決意をもって、「量的・質的金融緩和」を推進していく所存です。

§7Question

長期金利の上昇や、 BEI、期待インフレ率が再び低下するといった、これまで重要視してきた、いわゆる市場の期待の効果にも若干陰りがみられるのではないか、という指摘もあるかと思います。こうした市場の乱高下を踏まえて、総裁がこれまでおっしゃってきた、いわゆる金融緩和の 3 つの波及経路が足許どのように作用しているか、改めてお聞かせ下さい。

§8Haruhiko Kuroda

先程申し上げた通り、わが国経済は順調に回復への道筋を辿っており、先行きも、「量的・質的金融緩和」や各種経済対策の効果などもあって、緩やかな回復経路に復していくとみています。ご指摘があった、予想物価上昇率については、マーケットの指標などで確かに上昇が一服しているものもありますが、他方、家計やエコノミストに対する調査などをみると、やはり全体としては上昇を示唆する指標がみられているのではないかと思います。そういった意味で、「量的・質的金融緩和」の効果──金利全体やプレミアムに対する働きかけ、ポートフォリオ・リバランシングの効果、さらには期待を通じた効果──は、しっかり働いていますし、これが民間需要を刺激する効果は、今後、景気の改善につれてむしろ強まっていくのではないかと思います。金融緩和の効果は、中長期的にみる必要があると思いますし、しっかり働いていくと思っています。なお、長期金利についてですが、現在、日本銀行が行っている巨額の国債買入れは、リスク・プレミアムを縮小させ、金利に下方圧力を加えています。その効果は、当然のことながら、毎月毎月、国債買入れを進めていく中で、さらに強まっていくと思っています。

§9Question

関連して 2 点伺います。1 点目は、3 つの波及経路について、今、「効果は出ている」というお話がありました。4月にご説明があった時は、金利を下げることで家計や企業の借入れをし易くするとか、期待に働きかけることで消費を拡大するとか、ポートフォリオ・リバランスによって貸出を増やしてもらうというお話がありました。しかし実際の動きをみると、株や為替に関しては、株高、円安の効果というのは、4月以降の分がかなり元に戻ってきてしまっています。また、金利も上がっており、貸出も――すぐには増えないとは思いますが――、なかなか増えていません。2 か月経って、一旦出ていた効果が、大分元に戻ってしまっているのが客観的に出ていると思いますが、その点について、総裁はどうお考えですか。2 点目は、金利についてです。5月の会見後、株価の暴落の前に、長期金利が急上昇して一時 1%に達したほか、足許も、金利が非常に高くなっている状況にあって、日銀がなかなか長期金利をコントロールできない状態になっていると思います。その点について、総裁は、現在の金利水準は適切だと思っているのでしょうか。ある程度景気が上向きになってきているので、金利がこのくらい上がってきたのは良いことなのか、あるいはやはりもっと下げるべきと考えているのか、ご説明下さい。

§10Haruhiko Kuroda

第 1 点については、先程申し上げたように、イールドカーブ全体に働きかける効果、ポートフォリオ・リバランスの効果、期待を通じた効果、それぞれに影響、効果を持っていると思っています。ご指摘の為替、あるいは株価については、一つ一つの動きにコメントすることは差し控えたいと思いますが、当然のことながら、金融政策は、トレンドとして、それらがどういう動きをしているかを考えながら運営されていくものと思っています。長期金利については、確かに、4月の「量的・質的金融緩和」の直後に、ボラティリティがかなり高まりました。その後、市場との対話を通じて、オペを弾力化したことで、金利変動は落ち着いたわけですが、5月に入って、米国の長期金利が上昇するといったことを背景に、再び日本の長期金利も上昇し、ボラティリティも高まったということがありました。そこで、5月の後半にかけて、市場との対話を重ね、さらにオペの弾力的な運用を決めたわけです。具体的には、毎回のオペの金額について、規模をより小さくし、その代わり、より頻繁にオペを行うとか、月々のオペの量について、年間買入れ額の 12 分の 1ずつということではなく、もともと認められていた範囲内で、より弾力的に行うこととしました。また、購入する国債についても、平均残存期間は 7年程度ですが、4月4日の発表文にも書いたように、6年~8年程度と、かなり幅をもたせています。

§11Haruhiko Kuroda

さらに、金利がかなり変動していた 1年~5年くらいの短中期ゾーンのところで、オペを厚くすることも行っています。そうしたことも含め、より弾力的な扱いを決め、市場自体も、ボラティリティが少し低下してきています。今後とも、長期金利の動向には十分注意し、特に、ボラティリティが高まることは好ましくないので、これを縮小する努力は引き続き行っていきたいと思います。それに加え、先程申し上げた通り、年間 50 兆円のペースで保有残高が増加するように長期国債の買入れを今後進めていくので、それによる長期国債のリスク・プレミアム圧縮効果は、買入れを進めていくにつれて、さらに強まっていくと思っています。

§12Question

2 点伺います。1 点目は、本日の決定会合では、基本的には現行の金融政策を継続するという結論になりましたが、市場の一部には、長期金利の乱高下に対応して日銀が何らかの対応を打ち出すのではないかという期待もあったようです。その中の代表的なものとしては、例えば、シグナルオペと呼ばれる最長1年の共担オペの期限を長期化するというものがありました。実際、この意見は、5月末の市場との対話でも要望として出ています。本日の会合でこういった議論があったのかどうかを、まずお聞かせ下さい。2 点目は、本日の決定会合の決定事項ではありませんが、貸出増加支援資金供給の実施予定が発表されています。これはもちろん、金融機関の貸出を促すことが第一義的な目的だと思いますが、長期固定の低コストの資金を供給するという意味では、例えば、長期金利を安定化させるという副次的な効果も狙ったものなのでしょうか。決定会合の公表文と同時に発表されたというタイミングを含め、その狙いをお聞かせ下さい。

§13Haruhiko Kuroda

1 点目についてですが、本日の金融政策決定会合において、いわゆる1年超の共通担保オペを導入するかどうかや、そのメリット・デメリットについて、議論があったことは事実です。これまでのマーケットの状況をみて、長期国債の買入れオペ自体を相当弾力化してきましたが、それが一定の効果を持ったことは市場関係者も認めているわけです。他方、1年までのいわゆる共通担保オペが何度か行われ、それが効果を持ったことも事実です。さらに、市場参加者との意見交換会では、1年を超える共通担保オペを検討してはどうかというご意見もあったようで、当然、これについても議論しました。結論を申し上げると、現時点では、1年を超える共通担保オペの導入は必要ないのではないか、ということになりました。1 つの理由としては、日本銀行が行っている巨額の国債買入れは、リスク・プレミアムを圧縮する効果があるわけですから、毎月毎月オペを重ねていくことによって、その効果がさらに強まっていくことがあります。もう 1つの理由は、そうした政策効果をより効果的に発揮させるためにも、市場参加者の意見なども聞きながら、長期国債買入れオペを必要に応じて、より弾力的に運用する──買入れ金額、買入れ頻度、残存期間などについて、弾力的に運用する──方針が、一定の効果を持っているわけです。

§14Haruhiko Kuroda

今後も、必要に応じて弾力的にオペを行うことにより、金利の跳ね上がりや、特にボラティリティの上昇を抑制するよう対応していけるということです。2 点目の貸出増加支援についてですが、ご承知のように、これは昨年12月に導入し、実際に資金供給を行うのは6月が初めてです。本日の会見の最初に申し上げた通り、約 3.1 兆円という、金融機関から大変積極的な借入希望がありました。この仕組みは、貸出を増加した金融機関に対して、1年、2年または 3年の期間、貸出増加額の全額まで、0.1%の固定金利で資金を供給するものですから、貸出増加に対するかなり強いインセンティブになり、今後とも効果があると思っていますし、その効果を期待しています。0.1%の固定金利で 3年まで貸す仕組みですので、ご指摘のような副次的な効果もあろうとは思いますが、この制度自身の狙い、趣旨は、あくまでも金融機関の貸出増加を支援するということです。そのために、貸出増加額の全額まで、0.1%の固定金利で、3年までの貸出を行うということだと考えています。

§15Question

先程、固定金利オペの期間延長について、メリット・デメリットを議論したということでしたが、デメリットについてどのような議論があったのか、お聞かせ下さい。また、少し質問が重なってしまうかもしれませんが、4月の会見で、長期金利に関して「市場が落ち着きどころを探している」とおっしゃった点について、現在はどのような状況とみているのか、ご所見をお願いします。

§16Haruhiko Kuroda

固定金利オペの期間延長のメリットについては、先程申し上げたように、期間 1年までの固定金利による共通担保オペが何度か行われ、一定のボラティリティを鎮める効果があったので、市場関係者の意見にもありましたが、おそらく、そういうツールが拡充されれば、必要に応じて使うことで、よりボラティリティを抑える効果があるということは言えます。それがメリットだと思います。一方、デメリットというかどうかは別として、この共通担保オペ自体、導入されたときの経緯等もあります。すなわち、あくまでも短期的な資金供給ということで導入され、期間も 3 か月、6 か月、1年と延びてきたわけですが、そういう経緯等を踏まえると、今、それ以上延ばす必要があるかどうか、といった議論があったと思います。それから、貸出増加を支援するための資金供給と比べると、制度は全く違いますが、0.1%の固定金利での資金供給という点では同じです。そうした中で、一方では 3年まで貸すといい、他方では 2年あるいは 3年までというように、1年を超える共通担保オペを行うことは――別に両者は競合するものではないものの――、それがどのようにマーケットから捉えられるか、といった意見もありました。

§17Haruhiko Kuroda

その他にも色々なご意見がありましたが、何よりも、先程申し上げたように、これまで長期国債オペの弾力化の努力を行い、ボラティリティも大分収まってきている中で、今、何か新たなツールを決めて、いつでも使えるようにすることまでの必要性はないのではないか、ということだったと思います。詳しくは議事要旨が公表される際に明らかになると思います。

§18Question

昨今の金融市場の混乱は、1 つの要因として、FRBの出口戦略を巡る市場参加者の混乱があるかと思います。FRBは、リーマン・ショック以降、これだけ大量の資産買入れを行い、今、出口に向けて色々な議論が起きて、その難しさが露呈していると思うのですが――日銀が、今、出口戦略を語るのはまだ早いのは当然分かっていますが――、改めて、大規模な資産買入れという政策の出口の難しさを総裁はどのように受け止められ、どのように考えていらっしゃるのか、お伺いします。

§19Haruhiko Kuroda

米国において、「出口」について、当局ないし市場で色々なことが議論されるようになったことは、明らかに、米国経済自体が順調に回復を遂げており、皆が、いずれかの時点でその出口の議論が具体化していくだろうと、考え始めたということだと思います。その意味では、日本の場合は、まだ入口に入ったばかりであり、2%の「物価安定の目標」は、まだまだかなり遠いわけです。物価上昇率は、足許も、まだマイナスあるいはゼロ近傍という状況ですので、日本銀行が出口の議論をするのは、全く時期尚早だと思います。なお、米国の量的緩和の出口論が色々と議論されていますが、ご案内のように、量的緩和は、歴史的にみると日本銀行が最初に始め、かつて、出口の議論もされ、出口から出たこともあるわけです。将来、そういう状況が現実性を帯びた時には、その経験が参考にはなると思います。非伝統的な政策あるいは量的緩和は、出口がより難しいといわれますが、では、伝統的な金融政策は出口がとても簡単かというと、必ずしもそうではないわけです。金融政策は、緩和したり、引き締めたりするタイミング、あるいはその内容、それが実体経済との関係でどうなのか、市場に対するインパクトはどうなのかなど、常に、慎重あるいは微妙な判断が要請されます。そういう意味では、金融政策は、かなりジャッジメンタルというか、判断の要素が大きいと思います。

§20Haruhiko Kuroda

先程も申し上げた通り、FRBの出口云々が、市場に何らかの影響を与えたのではないかと市場関係者が言っているわけですが、基本的なポイントは――常にそうですが――、経済がいわば完全雇用に達し、そのまま行けばむしろ過熱してしまうようなことは、当然、放置できないわけですから、伝統的であれ、非伝統的であれ、緩和のタイミング、あるいは引締めのタイミングは、十分に考えてやらなければならないものと思います。

§21Question

2 点お伺いします。1 点目は、総裁も重視なさっていた成長戦略の骨格がみえてきたのですが、これについての評価をお聞かせ下さい。2 点目は、「1 本目の矢」として日本銀行が金融政策を 4月に行い、その時に「やれることは全てやった」とおっしゃいましたが、3 本の矢が出てみて、今も、そのお考えが変わりないか、お聞かせ下さい。

§22Haruhiko Kuroda

まさに、おっしゃった通り、3 本の矢は、1 本目の矢と 2 本目の矢、つまり金融緩和と機動的な財政政策が先に出ていったわけですが、3 本目の矢も極めて重要です。その内容は多岐にわたっており、先日明らかになった素案をみても、特に 3 つのアクションプランである、日本産業再興プラン、戦略市場創造プラン、国際展開戦略の 3 つが、いずれも大変適切だと思います。ただ、かつてアジア開発銀行総裁として、各国の政策、特に構造改革やその他の取組みに関与してきた立場から申し上げると、きちんとした戦略を作ることは非常に重要ですが、それと共に、その中身を着実に実行していくことも、それに劣らず重要だということです。政府に望みたいことは、成長戦略の細部をさらに詰めていくとともに、何よりも、タイムリーに、それぞれの施策を実行していくことです。なお、特に日本銀行と関係することではありませんが、1 つ申し上げたいと思います。アジアだけでなく、アフリカやラテンアメリカも含め、新興国・途上国の成長が極めて著しいわけです。6~8%の成長、国によっては 2 桁の成長という先もあります。先進国は成熟経済に入っていますので、日本、米国、欧州も、到底、そのような成長は実現できないわけです。

§23Haruhiko Kuroda

その意味では、日本の経済主体、特に日本の企業その他が、アジア、アフリカ、ラテンアメリカなどの諸地域で大いに活躍することで――それは、貿易、投資、あるいは技術支援、資金の供与など色々な形があると思います――、新興国・途上国の成長に関与していくことを通じて、日本経済も成長していくという観点は極めて重要ではないかと思います。TPPも1つの要素と思いますが、それに限らず、あらゆる面で、そのような新興国・途上国の経済との相互関係が非常に重要ではないかと思います。この点は、日本銀行とは特に関係があるわけではありませんが、申し上げました。

§24Question

最近のマネー関連指標の動きについて、ご意見を伺います。マネタリーベースは、総裁が先程おっしゃった通り、3 割増という大幅な伸びになっていますが、銀行貸出やマネーストックは 2%増であり、日銀が大量にお金を出していても、経済に回っていくお金の伸びはまだ鈍いと思えるのですが、総裁がおっしゃったように、効果は中長期的にみていくとすると、現状認識としては、「まだ効果は明確に出ていないけれど、これからである」ということなのでしょうか。2 点目は、2年後にCPI2%になるくらいに経済を温めることを考えると、貸出が伸びを明確に高めるのは、イメージとして、例えば半年後なのか1年後なのか、もう少し具体的なイメージがありましたらお聞かせ下さい。

§25Haruhiko Kuroda

2 つの論点とも、相互に関連していると思いますが、マネタリーベースは、どの国でも中央銀行がオペレーションによって増やしたり減らしたりできますが、マネーストックは、マネタリーベースよりもずっと広い範囲をカバーしており、特に、金融機関預金や、その他の民間活動による部分も相当含まれています。現在、マネタリーベースは順調かつ大幅に拡大していますが、マネーストックあるいは金融機関の貸出などは、まだ低い伸びにとどまっています。ただ、かつての金融機関貸出が減っていた状況からみると、先程申し上げたように、貸出が 2%程度のプラスになり、今後、さらに増加していくと思っていますし、それを通じて、マネーストックの増加も徐々に加速していくだろうと思っています。また、消費者物価の上昇率について、2%程度を「物価安定の目標」に掲げていますが、そこへ行くためには、当然のことながら、経済が潜在成長率を超えるような成長をしてGDPギャップが縮小し、さらにプラスに転化していくことが必要です。そうした中では、金融機関の貸出も増えますし、雇用も改善し、賃金も上がっていくということで、経済全体が好循環していくことが、まず何よりも必要だと思います。そのように物価上昇率が徐々に 2%に近づいていく中では、当然ですが、貸出も増えるし、マネーストックも増えると思います。

§26Haruhiko Kuroda

ただ、現時点では、金融政策が先行しているので、確かに、マネタリーベースが非常に大きく伸び、貸出はまだそれほど大きくは伸びていないというのが現状だと思います。

§27Question

2 点伺います。1 点目は、総裁は、ADB総裁を務められて、中国の経済に造詣が深いと思いますが、最近の中国の色々なデータ、例えば、4月の輸出入統計をみると、輸出は様々な理由で急減していますが、輸入もマイナスになっており、実体経済の低迷を反映しているのではないかと思います。一方、上海短期金融市場では、SHIBORの翌日物が 9%に跳ね上がるなど、かなり歪な動きをしています。中国経済は、日本経済にとってかなり重要な位置を占めていますが、総裁は、この中国経済の直近の動きについて、どのように分析されていますか。2 点目は、先程から話が出ている「期待」についてです。昨日出た 5月の景気ウォッチャー調査でも、株価の上下動でDIがかなり振れています。日銀は、「期待」をかなり重視されていると思いますが、この資産価格、とりわけ株価との関係について、どのようにみておられるのか、お願いします。

§28Haruhiko Kuroda

第 1 点の中国経済については、足許、直近の輸出、輸入の統計が出たわけですが、確かに、かなり伸びが低いというか、一部マイナスになっており、やや驚きをもってみられたと思います。ただ、ご承知のように、輸出入の統計については色々な議論があり、中国政府自体、統計をより精緻にする努力をしていますので、そういう意味で、その前の月とやや不連続な面があると考えられますので、足許の動きが趨勢を示しているとは考え難いと思います。同様に、上海の短期金利が、一時やや大きく上がりましたが、これも色々な短期的要因が重なってそうなったもので、中央銀行が金利を引き締めようとしているわけではないと思いますので、これも安定するのではないかと思っています。中国経済のファンダメンタルズについては、IMFやその他の機関も言っているように、7%台後半から 8%という成長を遂げる経路には乗っているわけです。従って、中国経済が急速に減速するとか、あるいはそれに伴って不良債権の問題などが急激に大きくなるといった懸念は持っていません。2 番目のご質問については、景気ウォッチャー調査等でも、確かに株価が大きく下落すると、それなりの影響は出てくると思います。ただ、消費者のマインドは、ごく短期的な株価の動きよりも、趨勢的な株価の動きにある程度影響されると思いますので、今後ともよくみていく必要があると思います。

§29Haruhiko Kuroda

また、消費者のマインドは、株価だけではなく、経済全体の動き、特に雇用情勢などにも当然影響されます。先程申し上げたように、経済全体が回復軌道に乗りつつある中で、まだ所定内賃金は上がっていませんが、所定外賃金や失業率、有効求人倍率などは着実に回復、改善してきていますので、そういったことも、今後、消費者のマインドにプラスの影響を与えてくるのではないかと期待しています。

§30Question

長期金利について改めてお伺いします。本日、長期金利の上昇抑制のための新たな対策を行わなかったということですが、現状は、日銀が「長期金利をコントロールできている」という認識なのか、それとも以前の会見でおっしゃった通り、「完全にはコントロールできない」という認識なのか、教えて下さい。

§31Haruhiko Kuroda

コントロールできる、できないということについてですが、例えば、マネタリーベースをコントロールするのと同じ意味では、コントロールできる中央銀行はないと思います。他方、中央銀行は、特に最近の金融緩和を進める中で、長期国債やその他長期の債券のオペを非常に広範囲に行っており、これは、当然のことながら、長期金利に影響を与えるわけです。それから、よく言われることですが、より短期の金利であっても、それを長期にわたって据え置くという姿勢が示されると、イールドカーブのより長い方に向けての効果も出てくるということです。このように、中央銀行は、長短両面から、長期金利を含めた金利全体に対して相当な影響を与えることができることは否定できないと思います。日本銀行としては、特に長期金利に関して、ボラティリティが高まることによって上がることは非常に好ましくないため、様々な努力をしてボラティリティを縮小するようにしています。加えて、何よりも重要なことは、年間 50 兆円に相当するペースで保有残高が増加するように、毎月毎月のオペで長期国債を買い入れていきますので、これが国債のリスク・プレミアムを圧縮するように働いていることは事実です。従って、日本銀行の「量的・質的金融緩和」は、長期金利にも影響を与えているし、与え続けることができます。

§32Haruhiko Kuroda

今後も、毎月毎月、着実にオペを重ねていきますので、先程も申し上げたように、こうした効果は強まっていくと考えています。

§33Question

海外経済と日本の輸出に関してお伺いします。企業にとって、収益には名目為替レートが影響すると思いますが、一方、輸出の数量には実質実効為替レートが影響するということで、海外経済が堅調であった 2007年には、日本の輸出が伸び、成長率もそれなりに高かったかと思います。本日の公表文をみると、中国経済がもたついている中で、海外経済の判断を若干慎重化させる一方、輸出の判断は持ち直しつつあるとしていますが、先行き増加していくかどうかは、ちょっと不安ではないかと思います。2007年と比べて、実効レートが円安方向であるにもかかわらず、輸出の数量がなかなか伸びない、海外経済のもたつきが続き、日本の輸出が想定したようにはなかなか増加しない可能性もあるかと思うのですが、その辺りについてどう思われているか、お伺いします。

§34Haruhiko Kuroda

当然のことながら、為替レートの変動は、企業収益にはすぐに影響しますが、輸出の数量に対する影響は、ある程度の期間、一定のタイムラグ――半年あるいは 9 か月など、国により、あるいは商品によって違うと思いますが――をおいて影響することを考えておく必要はあると思います。その上で、最近の日本の輸出状況をみると、自動車を中心として非常に好調な部分があると同時に、それ以外のところでは必ずしも好調ではない部分があったわけです。輸出の底打ちから増加への動きの中で、自動車が牽引していたわけですが、足許では、自動車だけではなく、電子部品や電気機器にも、若干、増加の兆しがみえてきており、輸出の増加の幅がより広がってきているようにも思います。今後、為替の影響も数量に出てくると思います。一方、米国経済は順調ですが、欧州経済の低迷が続いている中で、新興国経済についても色々と不確実な要因が残っているわけです。日本の輸出については、先程申し上げた通り、持ち直しの傾向がかなりはっきりしてきていますので、今後について、それほど悲観していませんが、確かに、海外経済の状況は、今後とも十分注視していく必要があると思っています。

§35Question

金融緩和の目的は、基本的には消費者物価を上げることだと思いますが、最近は、株価や金利の上下の方に社会的関心がいっていると思います。この背景としては、日銀の広報不足もあると思います。金融緩和によって社会や経済がどう変わるのかということを、記者会見や講演以外の場で――例えばホームページのトップに分かり易く掲載するなど――、新しい広報のやり方を考えた方がいいと思うのですが、如何でしょうか。

§36Haruhiko Kuroda

大変建設的なご意見であり、参考にさせて頂きたいと思います。もちろん、金融政策は、第一義的には、マネタリーベースにしても短期金利にしても、金融市場に影響を与え、それが実体経済に波及していくという波及経路をとりますので、金融資本市場の動向に関心が集まること自体は別におかしなことではないと思います。ただ、現在、日本銀行が進めている「量的・質的金融緩和」は、色々なチャネルを通じて実体経済に影響を与えていくので、確かに、特定の金融市場だけを取り上げて議論するよりも、より幅広く金融資本市場をみて、それが、それぞれのチャネルでどのように実体経済に影響を与えていくか、ということが大事だと思います。実体経済への影響についても、消費、設備投資、住宅投資、輸出など需要項目毎に影響の伝わり方は少しずつ違います。その辺りも含め、最終的な目標は、物価の安定を通じて持続的な経済成長に資するということに尽きるわけです。金融政策が実体経済へどのように波及していくか、そして実体経済がどのように成長していくか――物価の安定を伴って発展していくか――ということに究極の目標があるわけですので、おっしゃることは理解できます。

§37Question

日銀は、REITの買入れを順次進めてきて、この買入れ残高が枠にかなり迫ってきており、最近は 1回当たりの買入れ額がかなり小さくなってきています。こういった状況で、いわゆる不動産市場のリスク・プレミアムの圧縮という当初の狙いが、ちゃんと実現できるとお考えなのでしょうか。あるいは、今後、買入れの規制を緩和して、もう少し買えるようにするなど、何らかのお考えがあるのでしょうか。REITの買入れの現状についてご判断をお聞かせ下さい。

§38Haruhiko Kuroda

J-REITの保有残高が着実に増加していることは事実です。4月4日に「量的・質的金融緩和」の導入を発表した際、公表文の別紙で、2013年末のJ-REITの保有残高見通しを 1,400 億円としましたが、これはいわゆる買入れの上限ではありません。J-REITについては、引き続き、保有残高が年間約300億円に相当するペースで増加するように買入れを継続していきます。ご承知のように、不動産市場は、株式市場と並んで非常に大きな市場ではあります。ただ、株式市場は、株式という上場された金融資産で全て代表されていますが、不動産市場は、J-REITで代表されている部分は非常に小さく、首都圏のレンタルマーケットのようなところに比較的限られています。J-REITの他に不動産関係の適切な金融資産の市場がないため、ここに集中していますが、J-REITのマーケット自体はそれほど大きくなく、拡大する余地がそれほどあるとは思いません。とはいえ、引き続きJ-REITのマーケットの状況は注視していきたいと思っています。

§39Question

2 点伺います。1 点目は、インド・ルピーの安値更新のような新興国経済の変調についてどうみていらっしゃるのか、簡単にご所見をお願いします。2 点目は、米国経済についてです。フィスカルドラッグの影響が懸念されてしばらく経ちますが、実体経済は堅調のまま続いていると思います。今後、世界経済は、米国 1 本で回していけるのか、お考えをお聞かせ下さい。

§40Haruhiko Kuroda

IMFなどの経済見通しをみても、世界経済の成長に非常に大きく貢献しているのは、やはり新興国です。一方、先進国では、米国経済が、ご指摘のように比較的順調に回復・成長しており、これが世界経済を牽引する 1 つの力になっていることも事実だと思います。新興国については、ご案内のように、インド経済が、昨年は、成長率が 5%程度と、やや減速したわけですが、これは中長期的にインド経済が減速していくということではなく、色々なことが重なって減速したとみています。すぐにとは思いませんが、それほど長くかからずに、高めの成長に戻る力があると思っています。一方、ASEAN諸国は、ご承知のように、比較的順調で、特に、インドネシアやフィリピンが順調に成長しています。アフリカ経済もかなり順調です。このように、新興国・途上国については、国によって様々な景気循環その他の要因で成長がやや鈍化しているところもありますが、全体として、世界経済の成長を引っ張っていることに変わりはないと思います。米国については、ご指摘のように、フィスカルドラッグの問題が相当影響するのではないか、という議論もありました。確かに、それは影響していると思いますが、その上で、これだけの成長を続けていますし、フィスカルドラッグの問題自体も、相対的な意味で徐々に小さくなっていくと思います。

§41Haruhiko Kuroda

こうした動きが先行きも続いていくとすれば、IMFなどがみているように、米国経済は、比較的順調な回復経路を辿っていくことになり、それは世界経済にとっても 1 つの牽引力になっていくと思います。

§42Question

このまま会見が終わると、REIT 関係者がヤキモキしてしまうかもしれないので、あえて細かいことをお聞きします。年間 300 億円ペースでの買入れという方針は変えないということですが、おっしゃったように、1,400 億円という見通しがあり、今、ほとんどこの 1,400 億円に近づいているので、「下期以降、もう買入れがほとんどないのではないか」というのが、市場関係者およびメディアの間の一般的な認識だと思います。そうではなくて、総裁は、先程、「この 1,400 億円は上限ではない」とおっしゃったのですが、もう少し噛み砕いて言うと、年内にあと 200億円くらいを追加で買える、買うつもりだ、とおっしゃっているのかどうか、その点をはっきりして頂けますか。

§43Haruhiko Kuroda

その点、すなわち 200 億円云々ということについては、具体的なコメントは差し控えたいと思います。先程申し上げたように、ETFは株式市場全体との関係でかなり買入れ余地があるのに対し、J―REITは、不動産市場全体との関係でみても非常に小さいですし、J―REITの市場自体もそれほど大きくないわけです。従って、その買入れを短期的に大きく増やすことは難しいと思いますが、もとより、J―REITの市場を十分注視して、現在の買入れ方針のもとで、弾力的に対応できるところは対応していくということだと思います。

§44Question

2 点伺います。1 点目は、先程のシグナルオペの関係です。先程、総裁は、金利のボラティリティなども相当低下しているため、新たなツールを決める必要があるか分からないということで、導入を見送られたとおっしゃいましたが、今後、例えば、そのボラティリティが高まった場合には、もう一度導入を検討する可能性があるのかどうか、あるいは、ポートフォリオ・リバランスを促していくという本来の目的とは違うので、もう金輪際、検討する可能性はないということなのか、という点を教えて下さい。それから、もう 1 点は、4月の「量的・質的金融緩和」から 2 か月が経って、マーケットでは、株高・円安が進みましたが、このところその効果が次第にはがれてきたという言われ方もされますが、総裁は、今、現状をどのようにご覧になっているのか――順調に進んでいると思っていらっしゃるのかどうか――、教えて下さい。

§45Haruhiko Kuroda

1 点目については、先程申し上げたように、現時点ではその導入は必要ないということですので、将来、必要になったら検討するということだと思います。ただ、今のところ、その必要性はないだろうとみています。2 点目については、4月4日の「量的・質的金融緩和」の導入から、まだ 2 か月と少ししか経っていないわけですが、その間の金融政策の波及経路として、実体経済の展開という点からみると、概ねオントラックということだと思います。金融資本市場は、それぞれのマーケットで色々な要素があります。例えば、為替市場は、自国経済と他国経済の狭間にあるので、海外の色々な要因の影響を受けることになります。また、経済がこれだけグローバル化してくると、株式市場や長期債の市場も、色々複雑な影響を相互に与え合う関係にあると思います。ただ、何度も申し上げますが、この「量的・質的金融緩和」は、まさに「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に達成するため、必要なことを全て行うという発想で進めています。それが、例えば、長期国債のリスク・プレミアムへの下方圧力、あるいはポートフォリオ・リバランスの効果や、期待に対する働きかけ――物価上昇期待やその他の期待に対する働きかけ――などの効果を持つわけです。これらは、いずれも極めて重要であり、その効果が出つつあると思っています。

§46Haruhiko Kuroda

例えば、ポートフォリオ・リバランスを取り上げると、日本銀行が長期国債を年間 50 兆円のペースで保有残高が増加するよう買い上げて行くことで、いわば、市場から長期国債をその分日本銀行の方に引き上げてしまいますので、当然、それまで長期国債を持っていた金融機関にせよ、企業にせよ、ポートフォリオのリバランスをしなければならないわけです。その際には、株式や外債、金融機関であれば特に貸出など、そういったものにポートフォリオのリバランスが行われていくことにならざるを得ないわけです。その効果は、毎月毎月、累積していくと思っています。従って、金融政策の効果は、確かにタイムラグもありますし、様々な内外の経済状況の影響は受けるわけですが、そうした中で、「物価安定の目標」をきちっと定め――これは 1月の金融政策決定会合で決めたわけですが――、それに沿って、4月の決定会合で決めた「量的・質的金融緩和」を着実に推進していくことが、物価安定のもとでの経済の健全な発展に資することに向けて、一番の近道ではないかと思っています。以上