石田審議委員記者会見(2013年9月11日)要旨
全文
§1Question
地元関連の話題について 2 問お伺いします。まず、本日の懇談会では地元経済団体の出席者の方とどのような意見交換をされたのか、さらにその上で、青森県経済の状況についてどのように認識されているのか、ご見解をお聞かせください。
§2Koji Ishida
本日の懇談会では、三村青森県知事を始めとして、当地の行政や財界、金融界を代表する方々から、地域の金融経済の現状や課題、あるいは日本銀行の金融政策運営に関する貴重なお話やご意見などを数多くお聞かせいただいて、きわめて有意義な意見交換ができたと思っています。まず、ご出席頂いた方々や、関係者の皆様に深くお礼を申し上げます。本日の懇談会では、ご意見が非常に多岐に亘ったため、全てを網羅してご紹介することはできませんが、私なりに席上で聞かれた話題などを整理して申し上げたいと思います。まず、当地にも甚大な被害をもたらした東日本大震災から、本日でちょうど2年半となりましたが、インフラ復旧は着実に進んでいるとの話が聞かれました。この間の関係者の皆様のご尽力に心から敬意を表したいと思います。当地の経済情勢については、依然として厳しい状況にあっても、明るい兆しもみられるとの話が聞かれました。具体的には、来春の高卒予定者の求人倍率が改善しているとか、八甲田山の観光客数が大手旅行代理店の取扱件数を中心に大変増えてきているとか、再生エネルギー関連でも太陽光発電を中心に増えてきているというお話が聞かれました。その一方で、日本経済が緩やかに回復している中にあっても、当地経済への波及の仕方はまだ弱く、時間もかかっているとの話も聞かれました。
§3Koji Ishida
また、最近の為替の動きを受けて、原油価格や資材価格の上昇分を思うように売値に転嫁できず、収益的には依然として厳しいとの話も聞かれました。そうした中で、当地経済の発展に向けて、アグリ、ライフ、グリーン、観光の4 つの分野を軸に新しい当地の将来像を作っていきたいといった非常に心強い話が聞かれました。また、日本銀行に対しては、わが国経済が安定的な回復軌道に乗っていくように、引き続き適切な政策を遂行してもらいたいとの話をいただきました。私どもとしては、青森支店を通じて、当地の金融経済情勢について肌理細かく把握していくとともに、中央銀行の立場から、物価安定のもとでの経済の持続的成長を実現していくことや金融システムの安定性を確保することを通じて、当地関係者の努力がより大きな実りへと繋がっていくようサポートしていきたいと考えています。青森県の足許の景気動向については、先月、青森支店が公表した「横ばい圏内の動きとなっているものの、一部に持ち直しの動きがみられる」状況が続いていると認識しています。個人消費は底堅い動きとなっているほか、住宅投資が持ち直しているなど、内需は総じてみればしっかりとしています。先程のお答えと少し重複しますが、本日の意見交換でも、有効求人倍率の改善や観光客数の増加といった話が聞かれましたが、そうした点も、「一部に持ち直しの動きがみられる」ということの表れだと思っています。
§4Koji Ishida
また、企業の生産動向についても、全国と比べてやや出遅れ感があった電気機械で、夏以降、生産水準が持ち直しており、全体として明るさが窺われるようになってきています。この点も、席上の話として聞かれました。今後こうした動きがより確かなものとなり、計画ベースで前年度を上回る設備投資の着実な実施や、景気回復の実感に繋がるような雇用者所得の改善に繋がっていくことを期待したいと思います。
§5Question
近く最終的に判断される消費税率のアップは、持ち直しつつある個人消費に悪い影響を及ぼすというような意見などは出なかったのでしょうか。
§6Koji Ishida
席上の声として、消費増税について多く聞かれたのは、中小企業が増税分を転嫁しにくいのではないか、そのような状況に対して行政などで手を打ってくれるのであろうか、という点でした。消費増税そのものについて、「やめて欲しい」というような意見は聞かれなかったように記憶しております。
§7Question
先程、地方経済への景気回復の波及が遅れているというお話が出席者の中から出たということですけれども、今後、青森県を含めた地方経済が回復するにあたってどういった対策が必要だと考えているのか、また、日銀として提言や具体的な対策をお持ちなのでしょうか。
§8Koji Ishida
わが国全体の景気については回復基調にあるわけですが、一部の地域、とくに地方や中小企業にその恩恵が回ってこないということに関して、懸念や心配の声が聞かれました。日本経済にある程度前向きの循環が始まっているからこそ、皆さんが上向きの勢いを感じているわけですが、経済そのものは非常に網の目というか、ネットワークのようにそれぞれの経済主体が相互連関しています。このため、円安で潤った先があれば、一定の時間をかけて、例えば円安でマイナスの影響を受けた先の業況にもプラスに波及してくるというのが経済です。我々としてはそれに時間がかかるのであれば、その間そういう動きが阻害されないように景況感の維持、あるいは景気そのものの前向きな力の維持に心を配っていくということでお答えしました。
§9Question
2 点あります。講演の中で、FRBの資産買入れの縮小の影響について、やはり他の国への影響というのを注視しなければならないとおっしゃっていましたが、これまでのFRBのメッセージの出し方について、日銀が今後段階的に資産買入れを縮小するにあたって、どういう点が学べるのか、注目していきたいのかというのが 1問目の質問です。2 問目ですが、量的・質的金融緩和についての説明が講演の中でされていますが、2%というインフレが安定的に持続するということの定義について、石田さんはどう思われているのか。例えば、景気の回復に支えられて物価が 2%にいかなくて1.5%程度でもよいと考えるのか、今後2%まで上がると判断できた時点で、緩和を停止することを検討すべきなのか、そのあたりについて考えをお聞かせください。
§10Koji Ishida
FRBのコミュニケーションについては、もし米国の金融政策がFFレートを引き上げるところまでいくことが正常化への道だとすると、非常に初期の段階です。そういう意味では、我々には時間がありますから、みていくとしたらもう少し時間が経ったうえでの反応なども参考にしていきたいと思います。ただ、私が思っているのは、マーケットは基本的に買い持ちですから、金利を下げる時は値段が上がるということで好感する一方、金利を上げる時は値下がりする、損をするということですので、マーケットとの対話は難しくなります。金利を下げる時と上げる時とでコミュニケーションが鏡のように対称的に働くという形ではなく、上げる時には大変困難が伴うと思っています。それから 2%については、今、消費者物価上昇率が除く生鮮食品でやっと+0.7%となった段階で、これから長い道のりがあると思っています。その間に、経済の情勢も変わっていくと思いますから、今の段階で具体的な状況変化がないまま判断することは難しいと思います。同時に、そういう時点になったら今おっしゃたような意見も含めて色々な意見を集約していく形になりますから、今の段階で方向性を申し上げるのは難しいと思います。
§11Question
米国の資産買入れ縮小の話との関連でいうと、新興国への影響はネットプラスかマイナスかという言及があったかと思いますが、プラスとマイナスのどちらが大きいとみているのかということと、ネガティブなインパクトがあった場合にはどれくらいの規模であるとお考えでしょうか。もう 1 点、政府においては財政に対する信認の確保は極めて重要というのは黒田総裁も従来からおっしゃっていることですが、消費増税をやった場合と見送った場合について、それぞれどのように考えているのか、日銀として両方のケースそれぞれに対してどのような対策を考えているのか、政府への期待を含めてお答えいただきたい。
§12Koji Ishida
新興国に対する影響については、金利が上昇する時に先にネガティブな影響が出てくると思います。というのは、実体経済よりも金融の方が反応が早いですから、新興国では、既に6月頃から資金が流出しています。やはり先にネガティブな影響が出て、その後に、米国経済が復活するのであれば、貿易面を中心にプラスの影響が出てくるのだろうと思います。ネガティブなマグニチュードについては、今のところはコントロールされているようです。一部の人は、外貨準備や海外からの短期借入依存度など、いくつかの指標について、健全性のレベルがアジア危機の時とは格段に高くなっているということを言っていますが、私自身もマグニチュードは世の中がひっくり返るほど大きなものにならないのではないかと思います。挨拶要旨には「注目していきたい」と書いていますが、最終的にはプラスになると思っています。
§13Question
新興国でもプラスになるということですか。
§14Koji Ishida
個別にみればマイナスの影響が出る国もあるかもしれませんが、全ての影響を足し合わせてみれば、プラスと思います。日本にとっても全ての影響を足し合わせてみれば、プラスになるのではないかと思います。なお、消費税についてですが、4月の展望レポート、7月の中間評価は、消費増税を織り込んだ形で作成しており、基本的な考え方は潜在成長力を上回る成長が保てるだろうということになっています。では、増税をしなかった場合についてですが、共同声明にもあるように、政府は財政の信認確保のために持続可能な財政構造を確立するための取組みを推進することになっています。消費増税をやらなかった場合に、持続可能な財政構造を確立するための取組みもやらないということは個人的に考えていませんが、その手当てが具体的にどのようなものになるか出てこないと判断しにくいと考えております。
§15Question
安倍首相が追加の手当てを指示するかを注視したいということですか。
§16Koji Ishida
それは経済対策の話です。今申し上げているのは、政府が財政信認に対する手当てを行うということになっており、現時点ではそれが消費増税ということです。従って、もしそれをやらないということになれば、それは政府の判断ですが、信認を確保するための手段というのは何かの別の形で出てくるだろうと思っているという意味です。
§17Question
先般、東京開催が決まりました 2020年の亓輪について、石田委員は亓輪開催が経済に与える影響をどう見ていらっしゃるのか、とりわけ個人消費や設備投資でありますとか、前向きな循環メカニズムがデフレ脱却にどのように影響を及ぼしうるのかお聞かせ下さい。
§18Koji Ishida
審議委員として、金融政策や経済をどうみていくかという立場から申し上げると、大変プラスであろうと思います。3 兆円だとか 10 兆円だとか色々な数字が出ていますけれども、それがどういう形で出てくるかは別にして経済刺激効果はかなりあるだろうと思います。それ以上にテレビの報道などをみていると開催を非常に喜んでいる人が多いように思います。我々日本人には、長く続いたデフレやリーマンショック、東日本大震災など、様々な面で負のプレッシャーが掛かっていたと思いますが、そうした中で非常に明るい、将来に対して希望を持てるイベントだと思います。そういう意味ではデフレ脱却に対しても、個人のマインドを明るくするという意味で、将来に対するコンフィデンスを強めていくのではないかと思います。2020年開催ということですぐ終了する案件ではありませんから、先行き底流に明るい雰囲気が続くとすれば非常にありがたいことだと思います。
§19Question
輸出に関してですが、持ち直しが必要であり、海外経済の動向がカギを握ると考えられている新興国に関して、金融面など様々な面から下押し圧力が働いているということですが、日銀の正式な見解ですと、輸出に関しては「持ち直し傾向」といった表現を使われています。欧州に関しては底打ち感があったり、中国がそれほど大きく下がるような兆候もなくなったりと思いますが、肝心要の新興国が成長率が鈍い中で、輸出の増加の期待がちょっと難しいという感じもしますが、その辺のところを先行き含めてリスクなどをどのように思っていますか。
§20Koji Ishida
実質輸出の四半期の数字の動きは、配布資料の9 ページにあるように、グラフの右端が上を向いています。これを見て回復傾向にあると判断しているわけですが、今日私が申し上げたのは、そうは言っても 2011年、2012年のレベルからすればまだ下にあるため、これを超えていかなければならないだろうという意味であり、水準の問題として申し上げているわけです。今は消費や住宅・公共投資が牽引していますが、先行きの持続性を考えると輸出のレベルがもう少し高くなれば、我々としても非常に安心だろうという意味です。新興国については、金融的な面でマイナスの影響を受けていますが、貿易の面では、やはりこれまで欧州や中国が悪かった影響を受けてきましたから、足もと欧州で持ち直しの動きがあり、中国も安定してくることであれば、新興国については底上げの可能性が出てくるとみています。少し言葉が足りなかったかもしれませんが、私としてはそのようにみています。
§21Question
間もなくリーマンショックから 5年の節目を迎えますが、今、どのように思われていますか。
§22Koji Ishida
リーマンショックの頃、私はリース会社の社長でした。最初のうちは金融の方には影響してこないだろうと考えていましたが、米国に行っている企業が金融面でタイトになり、日本で資金需要が急拡大したというのが一番最初でした。貿易ルートからも大きなマイナスの影響がありました。私の会社の取引先でも、指名解雇や工場停止など、かつてなかったような生産面でのショックがありました。その後は、日本でも金融が非常に締まりだしました。貿易面からの景気悪化が信用力の悪化となり、金融機関の融資態度が非常にタイトになりました。ちょうどリーマン・ブラザーズ証券の破綻やAIGの問題があったことから、カウンターパーティリスクが認識されて、マーケットにおいて流動性も大幅に落ち込みました。私の会社では、当時CPを発行していたのですが、CPが売れなくなって、大変苦労した思い出があります。それに比べれば、今の環境は雲泥の差だと思います。ただ、リーマンショック自体は、金融機関としては影響が大きかったのですが、銀行の不良債権問題の危機のマグニチュードと比べれば、全然軽かったような気がします。今は、やはり“治にいて乱を忘れず”という意識があると思います。金融市場は信用や信頼に基づいていますので、1日で急に非連続的に変化してくるという恐ろしさは当時改めて感じました。
§23Question
講演の中で、来年のベアの重要性について指摘されてましたが、実際どうなるかは来年の春闘次第だとは思いますが、予定通りであれば消費税率が来年4月に上がるわけです。日銀では物価上昇による影響を 2%程度見ているということだと思いますが、消費税の増税分も含めて物価上昇分をカバーできるような所得の増加、賃上げが実現しなければ、日銀が想定するような 2014、2015年度の経済成長とかデフレ脱却は困難になるとお考えなのかどうか教えてください。
§24Koji Ishida
そこまでカバーするのは無理だと思います。時間をかけて徐々に行かざるを得ないだろうと思います。2000年代に入ってからずっとベースアップは見送られてきました。ベースアップはなくなったという人もいるくらいです。物価が上がれば給料が上がるというシグナル効果が非常に重要だと思います。それがデフレマインドを変えていくきっかけになるのではないかと思います。いわゆるフィリップスカーブとの関係では、傾きが緩いから労働需給の改善で給料を上げたり物価を上げたりするには大きな GDPのプラスギャップを積み上げが必要だという意見があります。ただ、それはあくまでもデフレマインドの下での話であって、もし日本銀行が言っているような 2%の物価上昇を達成していくのであれば、どこかの段階で物価は上がるけど給料も上がるということで、将来に対する信頼感が個人に出てきて、それで企業の価格設定行動にも大きく影響し、幅広い品目で適切な物価上昇が起こってくるのだろうと思います。ただ、その時に、個人は必ずしも実質所得の変化だけで行動するのではなく、将来に対する安心感があるために従来よりも使うということもありますので、消費税が増税されたことによる将来の財政への安心感が高まるということから消費が出てくるということもあります。
§25Koji Ishida
消費増税分まで所得は上がらないとしても、実質経済成長のある程度の部分が所得として還元され、しかも、物価が上がっていく中で、それが安定的なもので保全されれば、心理的にも非常に経済に対して有効だろうということです。
§26Question
先日の記者会見で黒田総裁はもし増税されて物価目標安定化にむけてリスクが顕現化すれば追加緩和すれば良いということでしたが、その一方で日銀としてはインクリメンタル・ステップはもうやらないと言っています。経済は潜在成長率を超えて成長していくと見通しているわけですが、もし、やはり消費増税によって何らかのリスクが顕現化した場合は、石田審議委員も追加緩和というのは必要になるとお考えになっていますか。
§27Koji Ishida
黒田総裁が言っていることは、上下双方のリスクを考慮して必要な調整を行うということだと思います。従って、必要な調整を行うのであれば、そういう状況になった時に議論があるということだと理解しています。今のシナリオから、どういう形でどちらかの方向に外れていくのかというのは、海外の情勢やその後の我々の先行き見通しと深く絡みあいますから、今の段階で何かをコミットするというわけにはいきません。そういう意味では上下双方にリスクがあった時に、その時の状況に応じて適切に見直していくということ自体は私も賛成しています。ただ、これは余計なことかもしれませんが、消費増税の時には、駆込み需要とその反動は起こるわけです。この反動は、ある意味で言えば国民の厚生や個人の経済的な状況からすると足して2 で割れば変わらないわけです。そうした動きをもって、上がった時はともかく、引上げ後の反動をあまりにも大きく考えて云々するということになると、本来心配しなくていいことであるにもかかわらず、ある意味期待に影響するかたちで人々のマインドが悪くなるというような恐れもあります。このため、その点については冷静に判断していく必要があるのではないかと思います。
§28Koji Ishida
もちろん、その引上げ後の反動減が波及効果を持って拡大していくということであればそれは防がなければならないのですが、単に算術的に上がった分が下がるということについては冷静に対処していかなければならないと思います。以上