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日本銀行記者会見2013年9月19日木内登英, 審議委員

木内審議委員記者会見(2013年9月19日)要旨

全文

§1Question

2 点質問します。1 点目は、本日の午前中の金融経済懇談会では、地元経済界の方々とどのような意見交換が行われたのか。また、2 点目は、釧路・根室・十勝といった道東地域における金融経済情勢について、どのようにみているのか、今後どのように推移していくとみているのか、お伺いします。

§2Takahide Kiuchi

本日の懇談会では、道東地域の行政や財界、金融界を代表する方々から、地域の金融経済情勢の課題、あるいは金融政策運営に関する貴重なお話やご意見等を数多くお聞かせ頂くことができました。極めて重要かつ有意義な意見交換ができたものと認識しています。まずは、ご出席頂いた方々や、関係者の皆様に深くお礼を申し上げます。本日の懇談会では、ご意見が多岐にわたったことから、3 点に絞って申し上げます。1 点目は、当地の景気情勢について、全国同様、方向としては持ち直しており、有効求人倍率の改善傾向や、小売売上げや公共投資などが前年比プラスとなるなどの前向きの動きがみられています。しかしながら、方向としては回復しているものの、水準でみると、ピーク時と比べてまだかなり低いとのご指摘がいくつかありました。2 点目は、建設関連について、公共事業の増加を背景に、足許では業況は改善してきている一方、人手不足が目立つなど、供給側のボトルネックの悩みも出てきているとのご指摘がありました。確かに需要の増加はみられますが、先行きの持続性という長期展望が見通しにくい中で、なかなか本腰を入れて追加的な人材確保・育成や設備投資に踏み切れないとのご指摘がいくつかありました。

§3Takahide Kiuchi

一方で、公共事業の持続性に対して期待する向きもあり、例えば、2年後に釧路付近まで延伸が予定されている高速道路などの整備が進むことによって、物流面でのアクセスが今以上に良くなっていくといった、もう一段のインフラ整備があるとよいという意見も聞かれました。また、これに関連して、今般の台風通過に伴う大雨では、一部地域で浸水や農産物への被害が出ているが、全体として大きな被害は出ていないとのご報告があった上で、防災の観点から、インフラ面で今後もまだ色々対策を講じていく必要があるとのお話が出ました。3 点目は、公共事業のウエイトが高い道内全体の産業構造を見直していく必要がある、公共投資の追い風はあるが、それだけに止まらず、これを民間の需要につなげていく努力が必要であり、さらにそのための産業構造の転換が必要ではないかというご意見も頂きました。こうした中で、企業に限らず金融機関の方々からも、官に頼るだけではなく、民間企業が自らの努力で需要を掘り起こしていくことに向けたお話をいくつか伺いました。例えば、海外との結び付きを強め、将来の販路拡大を図るために、海外進出を目指した商談会の開催や、東南アジアを中心とした市場調査の実施などを積極的に行っているほか、ベトナム企業への水産技術の指導も実施することになったとお聞きしました。

§4Takahide Kiuchi

こうした前向きの取組みを、本行としては金融面からしっかりと支えていきたいと思いますし、そのような要望もお聞きしました。2 番目のご質問について、以上のような意見交換も踏まえて、当地の景気動向について申し上げると、足許は釧路支店が判断している通り、道東地域の景気は、持ち直しています。生産面では、業種間のばらつきはあるものの、総じてみると緩やかに増加しています。また、需要面では、公共投資が前年を上回って推移しているほか、個人消費も持ち直しの動きが続いています。先行き国内需要の底堅さなどを背景に、当地経済も緩やかな回復経路に復していくものと考えられます。私どもとしては、釧路支店を通じて、当地の金融経済情勢について肌理細かく把握していくとともに、中央銀行の立場から、物価安定のもとでの経済の持続的成長を実現していくことや金融システムの安定性を確保することを通じて、当地関係者の努力がより大きな実りへとつながっていくようサポートして参りたいと考えています。

§5Question

2 点あります。1 点目は、FOMCで、緩和縮小の期待がある中で、緩和を維持するとの決定がなされましたが、これに対する受け止め方と、日本銀行として、今後の政策にどのように影響してくると考えておられるのか、お伺いします。2 点目は、10月1日に安倍首相が消費増税を決断するとの見方があり、その場合、景気の腰折れ懸念から、日本銀行がさらなる緩和を行うのではないかといった報道もありますが、木内審議委員はどのように考えておられるのか、日銀の政策についてお伺いします。

§6Takahide Kiuchi

1点目についてですが、米国の金融政策は、経済環境を踏まえて適切に判断された結果であろうと思っています。今回の米国の金融政策が直接日本の金融政策につながるということはなく、各国の中央銀行が、各国の経済情勢を踏まえて、独自に政策を決めていくということだと思います。米国の金融政策から我々が学ぶことがあるかという観点でいえば、個人的な印象ですが、国債を大量に買い取る、資産を大量に買い取るといった非伝統的な政策の正常化というのは難しいということを示したと思います。緩和縮小見送りの背景については、FRBから色々と説明がありましたが、その中に、長期金利が上昇したことの影響を見極めたいというような指摘もあったと思います。それから、新興国の経済・金融情勢に影響を与えたこと、つまり、緩和縮小のメッセージがそのような影響を与えたということがあって、やはり経済への影響を見極めなければならない、すなわち、正常化のメッセージが、結果として経済に対して何がしかのマイナスの影響があるという考えに至ったということではないかと思います。

§7Takahide Kiuchi

これは、非伝統的な政策が、国境を越えてそれなりの不均衡を作り出しやすいという点と、正常化のプロセスは金融市場の動揺を招くなど非常に難しいという意味で、非伝統的政策の正常化の難しさを印象付けた決定であったと思いますし、一般化すれば、本行の「量的・質的金融緩和」の将来について、何がしかのインプリケーションを持つのかなという印象を持ちました。2 点目の、消費税率引上げによる経済への影響ということですが、まず、やはり消費税率引上げの是非というのは、中長期の経済に与える影響を基本に議論すべきだと思っています。この点からいうと、消費税率の引上げによって、日本経済の中長期のトレンドが大きな影響を受けることはないだろうと思っています。具体的な政策について、日本銀行として申し上げることはありませんが、従来から申し上げている通り、財政の健全化というのは極めて重要ですし、本行の「量的・質的金融緩和」の前提にもなっている、あるいは、一体の政策であるということですので、引き続き財政健全化の姿勢を堅持して頂くことを期待したいと思います。消費税率引上げによって中長期の経済の流れが大きく変わることがないとすると、それに対して我々が追加の政策を講じていくことを現時点で考えることはないと思っています。

§8Question

午前中の講演の中で、審議委員は、下振れリスクを懸念されていると述べておられますが、そうなると、政策の必要性の議論になりかねません。講演では一方で、強力な金融緩和が長期間続くことによる金融のインバランスとか、副作用をもたらすリスクについても述べられていますが、前者と後者、すなわち、下振れを心配されているということと、現状の金融緩和をさらに強化する際の副作用が生じかねない点のバランスについて、どのようにお考えですか。

§9Takahide Kiuchi

基本的には、独立した判断ということです。前者については、純粋に経済の判断ということでして、国内経済が緩やかに回復しているという判断自体には違和感はありませんが、先行きについては下振れリスクがあるのではないかと思っています。最大の理由は、海外経済、特に新興国の弱さ、新興国自体が従来の不均衡の調整過程に入っているのではないかと思っています。一方で、先進国経済は、新興国経済の落込みを大きく補うほどの力強さがないだろうという趣旨のことを講演で述べています。一方で、政策については、追加措置が必要かどうかは、現時点では申し上げることはできないですし、今後、予断を持たずに判断していくということだと思います。ただ、4月に「量的・質的金融緩和」を決めた時点では、非常に積極的な政策を行ったわけです。その結果として、仮に追加策をするとしても、追加措置による効果、プラスの面というのは逓減していきやすいということだと思います。非常に大きな政策を決めたわけですので、追加策をとるとしても、追加分のプラスの効果は必ずしも大きくはならない一方で、副作用が次第に大きくなる可能性はあると思います。特に追加策がなし崩し的に進んでしまう場合には、副作用の方が非常に大きくなるということですから、効果より副作用のほうが大きければ、政策として実行すべきではないということになります。

§10Takahide Kiuchi

ただ、どのような時に効果の方が副作用を上回るのかというと、非常に大きな経済のショック、金融のショックという時には、追加策が必要になってくる、正当化されるということだと思います。中央銀行には、Last Resort という機能があると思います。Lender of Last Resort、すなわち、「最後の貸し手」という意味だけではく、広い意味で、経済が非常に大変な事態になった時には手を差し伸べるといった機能は、絶対に残されていると思います。また、「量的・質的金融緩和」というのは、マクロ経済政策としての枠組みですが、それとは別に、我々には「金融システムの安定」という目的もありますので、「金融システムの安定」が何がしかの理由で揺らぐような場合には、当然追加措置が必要であり、それがもしかすると今の「量的・質的金融緩和」を修正しなければならない事態となることもあり得ると思います。そういう意味で追加の道はあるわけですが、それなりの大きなショックでないと、効果・副作用のバランスから考えて、適切な措置ではないということになるのではないかと思います。

§11Question

2 点伺います。1 点目は、午前中の講演の中で、「物価安定の目標」を、「2年程度」と特定せずに「中長期」にというお話をされていましたが、「中長期」というのはどれくらいの年限というのか、イメージを想定されて使った表現なのかということです。もう 1 点は、話が変わりますが、国債の乗換引受けの扱いについてです。基金と輪番の手法を統合したことに伴って、結構な量の国債が対象となると思いますが、これまで通りの扱いで運営していくのか、基本的な考え方を改めて確認させて頂ければと思います。

§12Takahide Kiuchi

第 1 のご質問ですが、他の中央銀行をみても、日本銀行と同様にインフレーション・ターゲッティング政策を導入している国のほとんどが、中長期的ということで、時期を特定していないということです。ですから、これ自体は、比較的国際的なスタンダードに則った提案ではないかと思っています。他の中央銀行と違うのは、望ましい物価の上昇の姿というのが、未だ固まっていないということだろうと思っています。やはり、「物価の安定」は目標ではありますが、物価自体をコントロールすることが最終目標ではなくて、「経済の安定」というのが最終目標であると思っています。その際に、「物価の安定」というのは、企業とか消費者とか各経済主体に共有されていなければならない、すなわち、日本銀行だけが目標を掲げるのではなくて、共有されないと、「経済の安定」と整合的な「物価の安定」にはならないと思います。現時点でみると、2%よりは低いだろうと思っています。しかしながら、「量的・質的金融緩和」が効果を現わして、経済が強くなると、これは、単に需要が強くなるだけではありません。私は、物価の中長期のトレンドであるとか、企業、家計が思い描く望ましい物価の姿、インフレ率の姿、いわゆる中長期の期待インフレ率というのは、供給サイド、すなわち潜在成長率や労働生産性上昇率と深く関わっていると思います。

§13Takahide Kiuchi

従って、それ自体を中央銀行の金融政策で直接大きくコントロールすることはできませんが、それが高まるようなきっかけを与えるのが「量的・質的金融緩和」だと思います。これに政府の政策や民間企業の努力も加わってくる必要がありますが、その結果として、潜在成長率が上がってくるということになると、望ましい物価上昇率が、将来的には上がってくる可能性があります。その場合には、2%というのが妥当になってくる可能性があります。ただ、現時点では、そこまで見極め切れていないという意味で、時期をあまり特定しないのが望ましいのではないかと思っています。私は、「2年程度」ということには反対していますが、「中長期」ということであれば、2%という目標を、現時点では受け入れています。将来的には、経済の状況をみながら、本当の望ましい物価の水準というのは変わり得るので、そこは見極めていきたいと考えています。2 番目のご質問ですが、ご案内かとは思いますが、国債の乗換引受けについては、政府からの要請で我々が対応を考えるというものです。現時点では、政府からの要請を頂いていないということですので、本行として対応をお話する段階にはないと思っています。その上で、私なりに考えている点を若干申し上げれば、現時点で行っている乗換引受けは、当然のことですが、国債の引受けではないというように一般的に認知されていると思います。

§14Takahide Kiuchi

こういった認識が変わることがないように、というのが一番重要な論点ではないかと思っています。特に、「量的・質的金融緩和」を導入して、従来よりも大量の長期国債を買い入れているわけですので、もし政府からの要請があって対応を考えるということがある場合には、従来どおり国債の引受けではないという認識が決して変わらないように、そういった考えをもって対応を検討していくというのが妥当であると思っています。

§15Question

2 点あります。1 点目は、先程の、FRBが緩和の縮小を見送った件ですが、バーナンキ議長をはじめFRBの、市場との対話とか、メッセージの発信の仕方について、どのような所見をお持ちでしょうか。市場へのシグナルとして、そろそろ始めるよと言っておきながら、9月に縮小を開始しなかったというのは、市場にとってサプライズであったようですので、その辺のコミュニケーションについての所見をお願いします。2 点目は、講演の中で、FRBの政策ツールの組み合わせについて、日銀の将来の政策に参考になるのではとお話されている点についてです。これは、資産の買入れで景気拡大のモメンタムが十分に高まったら、今度はゼロ金利政策について今よりも明確な何か政策のメッセージを出していくとか、資産買入れを縮小する段階で今度はゼロ金利政策の効果にフォーカスした政策を採っていくとか、今の枠組みの中での変更、出口を意識した説明なのか、その辺りをお伺いしたいと思います。

§16Takahide Kiuchi

1 点目についてですが、印象ということでいうと、非伝統的な政策、資産を大量に買い入れる政策の正常化というのは非常に難しくて、その難しさの1つが、市場とのコミュニケーションであると思います。資産の買入れの縮小自体は、引締めではなくて、緩和の度合いをやや弱めるということであり、これが短期金利の引上げに直接つながるものではないのですが、市場は先々を読んで判断しますので、この春、思ったよりも長期金利が大きく上がってしまった、あるいは新興国の金融市場が動揺したということだと思います。その結果として、国内での金利の上昇が、例えば消費であるとか、住宅投資にマイナスの影響を及ぼし始めたのではないか、あるいは新興国での金融市場の混乱が回りまわって米国の経済の輸出環境を悪くするのではないか、といったことに配慮した結果であろうと思っています。政策自体は、市場の期待に左右されるのではなく、あくまでも経済データ、経済情勢を基本に判断していくというメッセージを今回FRBは送っていますが、市場とのコミュニケーションの過程で金融市場が大きく動き、それが先行きの経済の見方を変えてしまうということが起こってきているのかなと思っています。

§17Takahide Kiuchi

どこに原因があるのかといえば、非伝統的な政策が持つ1 つの副作用、つまり、金融面でのいわゆる不均衡を作ってしまい、その結果として、正常化のメッセージを送ったときに、市場がやや過剰な反応をしてしまい、経済にマイナスの影響が起こり、正常化の見通し自体がやや修正されてくるということであり、非伝統的な政策の正常化の過程での市場とのコミュニケーションの難しさを象徴しているのかなと思っています。2 点目についてですが、講演でも触れましたが、FRBの政策運営は、非伝統的な政策――フォワード・ガイダンスと資産の買入れ――と、伝統的な政策としてのゼロ金利政策との 2 つのバランスで考えるということです。従って、資産の買入れを縮小するからといって、緩和自体をどんどん一方的に後退させるのではなく、ゼロ金利が残るので、かなり緩和状態が続くのだといった考え方です。あるいは両者の政策について、役割を分けているわけです。つまり、資産の買入れについては、オープンエンドといったメッセージを送ったこともありましたが、基本的な考えとしては、経済のモメンタムに影響を与えて高める一時的な措置であり、副作用について分からない部分もあるので、ある意味であまり長く続けるとリスクが高いという考え方が一般的だと思います。

§18Takahide Kiuchi

一方で、金利政策については、従来通りの伝統的な政策なので、もちろん副作用はありますが、ある程度既知のものであると思います。資産の買入れのように短期間で経済のモメンタムを高めることはできませんが、経済が改善し、インフレ率が高まってくると、金利をゼロに据え置くだけで、累積的に金融緩和の効果が高まってくるため、じわじわと経済への刺激効果が出てくると思います。FRBは、資産の買入れからだんだんと金利政策の方に重点が移ってくるというプランで考えていると思います。全く個人的な考えですが、日本銀行でも同じような考え方もできるのではないかと思っています。私自身が、「量的・質的金融緩和」をとりあえず 2年間程度の集中対応措置と位置付け、その後はもう一度冷静に考えましょうと提案している 1 つの背景には、モメンタムに影響を与えるというのは、それほど長期間続けても、ベネフィットとコストが見合わないのではないかと思っている一方、「量的・質的金融緩和」により、経済のモメンタムが高まる、あるいはインフレ期待が高まるということになれば、金利をゼロに据え置くだけでも、期待インフレ率が上がって実質金利が下がってくる、あるいは期待収益率が上がってくるので、緩和効果が出てくるとの考えがあります。

§19Takahide Kiuchi

政策は、「量的・質的金融緩和」一本ではなくて、将来は金利も視野に入れて、二本立てで、それぞれの効果と副作用のバランスをみながら、運営していくのがよいのではないかと考えています。そういう点で、米国の政策というのは、参考になる部分があると思っています。

§20Question

木内審議委員は、要するに、追加緩和する場合に、国債をこれ以上買うことはできないということなのでしょうか。

§21Takahide Kiuchi

追加緩和については、先程申し上げた通りです。状況次第では必要になることがあるかもしれません。その時にどういった政策手段を採るかについては、現時点で検討しているわけではありません。可能性としては、国債を買い増すこともあるでしょうし、同様に、ETF、J-REITを購入しておりますので、大規模というのは難しいとは思いますが、追加で買い増すこともあると思います。あるいは、金融システム上の配慮ということであれば、マネタリーベースを、今の年間60~70 兆円という目標を一時的に超える形で増やす、つまり金融機関に資金を供給するというような特別措置を採ることもあり得るということです。どのような追加策、具体的な措置が必要なのかは状況次第であり、どのような問題に対応するのかによって違ってきますので、現時点ではいえないと思います。ただ、繰り返しになりますが、資産の買入れというのは、米国の例をみてもそうですが、相応に副作用が大きい措置ですので、それを十分凌駕するようなベネフィットがあると判断をした時にのみ追加策が実施されるということです。尐々経済が弱くなったといって、それに対応していくという、ファイン・チューニング型の政策とは決別したと思っていますので、相応に大きなショックが起きたようなときに、追加策が検討されるべきであると思っています。以上