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日本銀行記者会見2013年10月4日黒田東彦, 総裁

総裁定例記者会見(2013年10月4日)要旨

全文

§1Question

本日の金融政策決定会合の決定内容とその背景を、9月短観の評価も踏まえ、ご説明をお願いします。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 60~70 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することとしました。わが国の景気ですが、企業・家計の両部門で所得から支出へという前向きな循環メカニズムが働いています。景気の現状判断としては、先月と同様、「緩やかに回復している」としました。海外経済は、一部に緩慢な動きもみられていますが、全体としては徐々に持ち直しに向かっています。そうしたもとで、輸出は、持ち直し傾向にあります。設備投資は、企業収益が改善する中で、これまで弱めに推移してきた製造業も含め、持ち直しています。公共投資は増加を続けており、住宅投資も増加しています。個人消費は、雇用・所得環境に改善の動きがみられる中で、引き続き底堅く推移しています。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は月々の振れを伴いつつも緩やかに増加しており、サービスや建設など非製造業の活動も引き続き強めに推移しています。先日公表した 9月短観の結果をみると、企業の業況感は、製造業・非製造業、大企業・中小企業ともに明確に改善を続けています。

§3Haruhiko Kuroda

2013年度の事業計画についても、売上高と経常利益が上方修正される中で、設備投資をしっかりと増加させる計画となっており、収益の改善が前向きな支出活動につながっている姿が確認されました。この間、雇用人員判断をみると、「不足」超幅は一段と拡大しており、労働需給の引締まり傾向が続いています。次に、わが国の金融環境ですが、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは引き続き低水準で推移しており、CP・社債市場の発行環境も、良好な状態が続いています。企業からみた金融機関の貸出態度や資金繰りは改善傾向を続けており、この点は 9月短観でも確認されたところです。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、上昇品目の拡がりを伴いながらプラス幅を拡大しており、8月は+0.8%となっています。予想物価上昇率については、マーケットの指標や各種アンケート調査などを踏まえると、引き続き全体として上昇していると判断されます。9月短観の販売価格判断をみても、業種・規模を問わず改善傾向を続けており、とくに非製造業の大企業では、2008年9月以来の「上昇」超に転じています。わが国経済の先行きについては、生産・所得・支出の好循環が続くもとで、緩やかな回復を続けていくとみられます。物価面では、消費者物価の前年比は、プラス幅を次第に拡大していくとみています。

§4Haruhiko Kuroda

リスク要因をみると、欧州債務問題の今後の展開、新興国・資源国経済の動向、米国経済の回復ペースや財政問題の帰趨など、日本経済を巡る不確実性は引き続き大きく、国際金融資本市場の動向も含め今後の展開には注意していく必要があると考えています。以上のように、「量的・質的金融緩和」のもとで、実体経済や金融市場には前向きな動きが拡がっており、人々の経済・物価に関する期待は好転しています。今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を引き続き点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。

§5Question

政府が決定した消費増税について、総裁のご評価をお願いします。

§6Haruhiko Kuroda

消費増税についての私の考え方については、前回の会見で申し上げているので、ここでは繰り返しませんが、最も重要なことは、国全体として財政運営に対する信認をしっかりと確保することです。その意味で、大変大きな意義のある決断がなされたと考えています。今後とも、従来から申し上げている通り、持続可能な財政構造を確立するための取組みが着実に進められることを期待しています。

§7Question

本日で、4月4日の異次元緩和からちょうど半年になります。その効果を総裁はどのように評価しておられるでしょうか。また、「2年程度で 2%」という物価安定の達成の道筋は見えたとお考えでしょうか。

§8Haruhiko Kuroda

先程申し上げた通り、足許のわが国の経済をみると、「量的・質的金融緩和」は、その効果を着実に発揮してきていると考えています。まず、金融市場をみると、株価が上昇した一方で、長期金利は非常に安定的に推移しています。そしてこの間、予想物価上昇率は全体として上昇していますので、実質金利は低下しており、民間需要を刺激していると思います。そうしたこともあって、実体経済面では、先程申し上げたように、企業でも家計でも所得から支出へという前向きの循環メカニズムが次第にしっかりと働いてきていると思います。こうしたもとで、わが国経済は、今後とも緩やかな回復を続けていくと思っています。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の対前年比が 6月にプラスになり、8月は+0.8%まできているわけですが、これも、今後さらに上昇率が高まっていくとみています。金融市場、実体経済あるいは物価の面でみても、「量的・質的金融緩和」が着実に効果を発揮してきており、2%の「物価安定の目標」の達成に向けて想定される道筋を、着実に進んでいると思っています。

§9Question

本日の決定会合結果とは少し離れる質問になります。投資助言会社のアブラハム・プライベートバンクに対し、証券取引等監視委員会は、金融商品取引法違反で金融庁に行政処分を勧告しました。この会社のウェブサイトには、岩田規久男副総裁が就任前の学習院大学教授時代に受けたインタビューが掲載されています。岩田副総裁は、このアブラハムという会社とどのような関係があり、今でもその関係が続いているのでしょうか。総裁は、副総裁の職務遂行にこの問題は全く影響しないとお考えでしょうか。ご説明下さい。

§10Haruhiko Kuroda

副総裁就任前の案件については、コメントする立場にありません。

§11Question

確認ですが、今ではもうその会社とは全く無関係だという理解でよろしいですか。

§12Haruhiko Kuroda

詳細については、必要があれば、広報にお尋ね下さい。

§13Question

2 点お伺いします。総裁は、今のご発言の中で、実質金利の低下が民需を刺激しているというお話をなさったのですが、どういった分野を刺激しているとお考えでしょうか。それからもう 1 点、物価が、今+0.8%まできているのですが、これが、緩和効果でどの程度押し上げられているとみていらっしゃるのか──なかなか定量的にみるのは難しいと思うのですが──、お伺いします。

§14Haruhiko Kuroda

実質金利が一番典型的に効くのは投資、それも長期の投資というのが経済学における一般的な理解だと思います。そういう意味では、住宅投資、それから設備投資でも、特に期間の長いものには効いていると思います。また、消費にもある程度効果があるとも経済学では言われています。つまり、実質金利は消費と貯蓄の選択に影響するので、実質金利がどんどん下がっていくと──これは投資ほど明確に出てくるのは難しいとは思いますが──、貯蓄よりも消費の方にシフトすることが言われています。従って、何らかの形で、住宅投資、設備投資などを中心に民需に影響していると思います。なお、「量的・質的金融緩和」は、例えば、株価などの資産価格の上昇という資産効果を通じて、より間接的な形で家計の消費などに影響することは、かなりはっきりと言われています。消費者物価の動きについては、先程申し上げたように、6月にプラスになり、徐々にプラス幅を拡大しており、基本的に、こうした傾向は続いていくと思います。ただ、毎月毎月の数字は色々な要素で影響されますので、一本調子に上昇率が高まっていくと決めつけることはできないと思います。基本的には、足許の上昇の状況をみると、確かに、エネルギー価格や電力料金の上昇が 1 つの要因になっていることは事実ですが、他方、食品その他の様々な消費財価格の下落幅も徐々に縮小してきています。

§15Haruhiko Kuroda

現に、食料・エネルギーを除く消費者物価指数でみても、マイナス幅が徐々に縮小してきています。そういう意味で、全般的に需給が次第にタイトになる中で、価格転嫁が進みつつあり、幅広い品目で物価を巡る環境の改善が起こっています。そうした傾向は、今後とも続いていくし、さらに強まっていくだろうと思っています。

§16Question

2 点伺います。消費増税の関係で、従来、消費増税の景気への影響は限られると言いますか、増税した後もある程度の成長率は保てるというご見解を示されていたと思います。今回、増税の決断と同時に 5 兆円規模の経済対策も打ち出されており、その効果について、「かなりあるのではないか」という声があるようですが、今まで、増税でも一定の成長力があるとおっしゃった中で、これだけの規模の対策があると景気にどのような影響があるのか、見方を伺います。異次元緩和から半年で、幅広く効果が出ているというお話がありました。短観など企業面では相当よい効果が出ていると思うのですが、日銀自身が行った「生活意識アンケート調査」では、一般的な消費者の目線からいう暮らし向きは「物価が上がって困る」とか「暮らし向きがちょっと悪くなるのではないか」という見方が出始めているのも事実だと思います。今お答えになった、価格転嫁が拡がることによる悪影響を感じる方も多いと思うのですが、その点について、どのようにお考えなのか、改めて伺います。

§17Haruhiko Kuroda

第1点の5兆円の経済対策については、全体としての経済政策パッケージというものが政府で決定され公表されています。それをご覧になると分かるように、経済対策には、消費税率の引上げによる駆け込み需要の反動で成長率が大きく低下するのではないかということへの対応もあると思いますが、その対応を超えて、かなり長期的に成長率を引き上げていく対応も含まれています。この 5 兆円の経済対策は、その一環として示されているので、当然のことながら、これは成長率に対してはかなりのプラス要因、引上げの方向に影響すると思います。ただ、経済は全体として内外の色々な影響を受けながら動いており、特に、先程申し上げたような海外要因のリスクもあり、前回の会見で申し上げたように、春頃みていたよりも、内需はやや強めで、外需はやや弱めになっています。そういうものも含めて全体をみて、成長率の見通しは決まってくると思います。次に、最近の企業と家計との関係です。短観などでも企業の景況感が大幅に改善しています。設備投資計画もしっかりしており、収益、売上なども相当伸びるという見通しですから、ご指摘のように、企業の動向はかなりよくなってきていることは間違いないと思います。一方、家計の方も、マインドの改善や株価上昇による資産効果によって消費の伸びが支えられていた年初の状況から、今や、雇用、所得の状況も改善してきています。

§18Haruhiko Kuroda

そうしたもとで、消費が底堅い動きをしていることからみると、所得から支出へというよい循環が起こりつつあり、今後それが強くなっていくと思っています。物価が上がる一方で、実は所得も上がっています。雇用者数が増加し、名目賃金が上昇していることから、雇用者所得も増えているわけです。しばしば指摘されているように、所定内賃金は依然として若干マイナスになっています。これは、雇用者の中に占めるパートの割合が上昇しているためです。パートの人の賃金が、そうでない人の賃金の水準より低いことから、パートの割合が高まってくると、所定内賃金がなかなか伸びません。最近、マイナス幅が縮小しているとはいえ、こうしたことが、まだ所定内賃金のマイナスが続いていることにつながっています。今後、この調子で労働市場はタイトになっていくと思いますので、名目賃金も様々な形で上昇していくと思っています。特に重要なのは、もちろん雇用者数と名目賃金を掛け合わせた雇用者所得がどのくらい伸びるかということですが、中でも、名目賃金、その中でも所定内賃金の動向は今後とも注視していく必要があると思っています。

§19Question

海外経済のリスクに関連してなのですが、米国の債務上限問題で、もし 17日までに議会で合意できなければ、かなり深刻な影響が金融市場に及ぶとも言われています。そうなった場合に、日本の経済あるいは金融市場にどういった影響が出ると考えられるのか、そして、最悪の場合、日銀としては何らかの対応があり得るのか、危機の深刻度をどうとらえたらよいのか、総裁のご認識をお聞かせ下さい。

§20Haruhiko Kuroda

米国経済自体は、家計も企業もマインドが改善し、堅調な民需に支えられて回復が続いています。先行きも、回復のテンポは徐々に速まっていくと思っています。ただ、ご指摘のように、財政協議が難航しており、既に、新会計年度の予算措置について合意できなかったということで、月初来一部の政府機関が閉鎖されています。その上、債務上限を巡る議論にもなかなか目途が立っていないということで、債務上限を引き上げないと、10月17日頃には、財政上歳出に必要な資金も枯渇すると言われています。そういう意味で、財政を巡る非常に不透明、不確実な状況が長引くと、昨年末、「財政の崖」を巡って様々な混迷した状況がみられたのと同様、金融市場の不安定化や、家計や企業のマインドの悪化などが生じ、経済を下押しするリスクが高まる惧れがあるため、十分注意していかなければならないと思っています。要するに、こういう状況が長引くと、かなり深刻な影響が、米国経済、ひいては世界経済に及ぶ惧れがあります。これは、米国の国内問題ですので、私どもがとやかく言う立場にはありませんが、できるだけ早く解決し、財政を巡る不透明感を除去して頂きたいと希望しています。

§21Question

過去もこういった問題を乗り切ったので、今回も大丈夫であろうという見方もある一方で、米国の銀行は、パニックに備えてキャッシュを準備する動きもあるようですが、もし最悪の事態に陥った場合は、日銀としても何らかの対応があり得るのか、お考えをお聞かせ下さい。

§22Haruhiko Kuroda

一般論として、どこの中央銀行も、どのような状況にも対応する能力があると思いますが、私どもとしては、先程申し上げた通り、こうした状況が長引くことのないよう期待しているということに尽きると思います。こうした状況が長引かなければ、堅調な民需に支えられて回復が続いていますし、今後、回復が徐々に加速していくとみられており、米国経済全体としては、むしろ世界経済を引っ張っていく力があると思っています。しかし、これが長引くと、財政の不透明感が、マインドや金融市場を通じてネガティブな影響を米国経済に与え、非常に困るので、何としても、早く解決して頂きたいと思っています。

§23Question

みずほ銀行について伺います。暴力団融資の放置で業務改善命令を受けました。日々、日銀もモニタリングしていると思いますが、今回の件の受け止め方をお伺いします。また、説明が不十分ではないかという見方も多いですが、社会的インフラであるメガバンクの説明責任についてどう考えていらっしゃるか、お聞かせ下さい。

§24Haruhiko Kuroda

私どもも、大変遺憾なことだと思っています。必要な改善策を速やかに講じ、適切な業務運営に努めてもらいたいと思っています。それから、当然、説明責任についても、適切に果たしてもらう必要があると思っています。

§25Question

2 点お伺いします。まず、先日、ADB(アジア開発銀行)がアジア経済の見通しを下方修正したと思います。特に、インドネシアなど日本企業のエクスポージャーが大きい国で、かなり急な減速の動きがみられます。これが日本企業もしくは日本経済へ与える影響をどうご覧になっていますか。2 点目は、米国も含め色々なテールリスクがある中で、仮に、テールリスクが顕在化してしまった場合に、その結果、2%の目標が少し遠のくということになれば、必要な調整を考えるということで宜しいのか、確認させて下さい。

§26Haruhiko Kuroda

第 1 点については、全体として、2013年は若干下方修正になっており、そうなれば、当然のことながら、日本経済を含めて世界経済にも何らかの影響はあり得ると思います。ただ、ADBも他の様々な機関の見通しも、まず、中国経済については、比較的強いという見通しとなっています。私もそうだと思いますが、ADBの新しい見通しでも、本年は+7.6%の成長率であり、本年、来年と+7.5%程度の成長が続く見通しであったと思います。中国経済は、足許の色々なデータをみても、成長をやや強めるような感じになっています。中国経済が本年、来年と安定的な成長を遂げると、かなり多くの人がみているわけです。ご承知のように、中国経済は、米国に次ぐ世界第 2 の規模の経済で、特に今、アジア、NIEs諸国やASEAN諸国にとっては重要な輸出市場です。アジア経済全体としてみても、若干下方修正になっていますが、非常に大きな下方修正ではありませんし、また、来年にかけて成長率が少し回復していくという見通しです。一番大きな影響を与える中国経済について安定的な成長が見込まれているので、今回、下方修正された見通しの通りになったとしても、従来と比べて非常に大きく影響を受けるということはないと思います。フィリピンの成長率見通しなどはむしろよくなっているわけで、そう心配はしていません。

§27Haruhiko Kuroda

次に、ご指摘のように世界の色々な状況の中で、テールリスクが実際に実現してしまった時にどうするかです。これは、本日の公表文にもある通り、4月4日に「量的・質的金融緩和」を決めた際からずっと申し上げていますが、「経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う」ということです。今の時点で、何らかのテールリスクが実現するとは思っていませんが、万が一、何か影響があれば、当然、それに対応するような金融政策を行うということに尽きると思います。

§28Question

金融緩和から半年での物価への影響はご説明がありましたが、ポートフォリオ・リバランスについて、全体としては、金融機関はリスク資産にシフトしていると思うのですが、ここにきて一部銀行が国債を買い増す――数字上は買い増しているようにみえる――動きもあるのですが、この半年でポートフォリオ・リバランスはどのように進捗しているか、ご見解をお願いします。

§29Haruhiko Kuroda

ポートフォリオ・リバランスというとき、一番大きな部門は金融機関ですが、金融機関にも色々あり、大手行などでは、リバランスを進めた先もみられます。海外その他も含め貸出を伸ばす、リスク資産のポートフォリオを増やすといった意味では、ポートフォリオ・リバランスを進めている銀行があるようにみえます。また、地銀などについては、これまでのところ、それほど大きくポートフォリオ・リバランスが進んでいるようにはみえません。それぞれの金融機関のリスク管理方針のもとに、適切なポートフォリオにしているということだと思います。ポートフォリオ・リバランスは、短期的に一気に進むのではなく、じわじわと進行していくことになると思います。特に、今の時点で、ポートフォリオ・リバランスが全然進んでいない、困ったことだとも思っていませんし、急激に行き過ぎて、リスク管理に懸念があるということもありません。徐々に進んでいるし、今後も段々と進んでいくだろうと思っています。

§30Question

消費税に関してご質問します。日本銀行は、これまで、物価上昇の目標をずっと異次元緩和として掲げていました。来年4月に消費税が 3%上がることで、庶民としては 3%物価が上昇したのではないかという錯覚が出てくるという気がするのですが、これは、日本銀行として、そのようなことはないというアナウンスをするとか、その錯覚を埋める何か対策を考えているか、お伺いできればと思います。

§31Haruhiko Kuroda

展望レポートでは、2013年度、2014年度、2015年度のGDP成長率と消費者物価上昇率についての見通しを示しています。消費者物価上昇率については、消費税率引上げの直接的な影響を除いたものと、その影響を含めた全体としての消費者物価上昇率の両方を示しています。当然、消費税率が引き上げられたとき、対前年同月比では、12 か月間は高まりますが、12 か月経つと元に戻り、underlying(基調的)な物価上昇率に戻ってくるわけです。私どもは、消費者物価の上昇率が安定的に 2%程度になることを目指していますが、それは、underlying(基調的)な、トレンドとしての物価上昇率が 2%程度で安定することであると常に申し上げていますし、今後とも申し上げていくことになります。

§32Question

日銀は、現在の「量的・質的金融緩和」について、本日の公表文にも出ていますが、「2%の『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで」続けられるとおっしゃっています。この「安定的な持続」という言葉の意味について、先般、9月20日のご講演の中で、より詳しく説明されていますが、要するに、需給ギャップがゼロの時に物価上昇率 2%を実現するというのがそのイメージであるとご説明され、非常に興味深く受け止めましたが、この点についてお伺いします。ご講演の時に用意された図表をみると、日本経済がまだ元気だった1980年代半ばから 90年代半ばぐらいのフィリップス・カーブをみても、需給ギャップがゼロの時の物価上昇率は大体 1%ぐらいにしかなっていないことを考えると、需給ギャップがゼロで 2%を実現するには、相当強力なインフレ期待を作り出さないと難しいと思います。その状態を作り出すために、現在の「量的・質的金融緩和」で十分に対応できるとお考えなのか、あるいはそれ以外の何か成長戦略的なものも必要になってくると思っているのか、先程述べられた賃金の上昇といった点も考慮しつつ、お考えをお聞かせ下さい。

§33Haruhiko Kuroda

確かに、現状のフィリップス・カーブを前提にすると、GDPギャップがゼロの辺りでは、物価上昇率はなかなか 2%には達し難いわけで、2%前後で物価上昇率が安定するためには、平均的にみて、需給ギャップがゼロぐらいのところで、2%の物価上昇率になるような位置に、フィリップス・カーブが徐々にシフトしていかなくてはいけないことはその通りと思っています。しかし、一気にそういう状況が実現するということではありません。期待についても、実際に物価がまだ下落している状況で、一気に 2%の物価上昇期待が生まれることはなかなかないわけです。実際、物価上昇率が足許で 0.5%あるいは1.0%、1.5%と、2%に向けて上昇していく中で、期待も上昇していくと思いますし、そうなれば、まさに――英語で言うとバイ・デフィニション(定義により)で――GDPギャップがゼロ近傍であっても 2%程度の物価上昇率になる。それがまさに、物価上昇期待が安定的に 2%になるということであり、そうなると思います。ただ、それは、直ちに実現するということではなく、少なくとも、2年程度を目途に今の政策を遂行していますので、その辺りで 2%に近付いていくと思います。

§34Haruhiko Kuroda

現に、展望レポートにおける政策委員見通しの中央値でも、2015年度には 2%に近いところ──これは消費税率引上げの直接的影響を除いたものですが──にいくとみている通り、私どもとしては、現在の政策で、そこへ達し得ると思っています。何度も申し上げるように、現在の政策は、そういった 2%の「物価安定の目標」を安定的に達成することができるまで続けます。もしかすると 2年よりも長いかもしれないし、あるいは 2年より短いかもしれませんが、いずれにせよ、2年程度で達成することを目標に、着々と政策を実行しているわけです。そこに何か上下のリスクがあれば、当然、調整しますが、現時点では、様々なリスク要因を考慮しても、当初考えていた 2%の「物価安定の目標」に向けて着実に進んでいると思っています。

§35Question

米国債のデフォルトに関して、異例ですが、米国財務省がレポートを出して「デフォルトになった場合は、かなり大きな影響が出るだろう。リーマン以上の影響が出ることが予想される。具体的には、米ドルは相当急落するだろうし、米国の長期金利は相当上がる可能性がある」と書いています。当事者がそのようなレポートを出すのはかなり異例だと思いますが、日銀としても、これがあり得るというか、テールリスクとしてご認識されているでしょうか。その場合、米ドルが急落するといえば、常識的には円はかなり急騰することになってしまいますが、そういう事態について、どのようなご見解をお持ちなのか、お聞かせ下さい。

§36Haruhiko Kuroda

どの中央銀行も、万が一、色々なテールリスクが実現した場合にも、それに対応できる能力を持っていると思っていますが、具体的に、米国がデフォルトに陥った場合にどうなるかということについて、私から何か申し上げるのは差し控えたいと思います。何度も申し上げますが、現在のような財政を巡る不透明な状況は、短期で終われば、米国経済、世界経済にほとんど影響はないと思いますが、長引けば、段々と影響が出てくるので、是非、予算と債務上限の両方の問題を、できるだけ早期に解決して頂きたいと思っています。

§37Question

先程、5 兆円の経済対策で、成長率がかなりプラスになるとおっしゃいました。また、もし、消費増税が物価目標に対するリスクと認識される場合は緩和をするということをおっしゃっていましたが、経済対策によってその可能性は低くなったとお考えでしょうか。

§38Haruhiko Kuroda

「足し算」をしていくようにすればそうだとは思いますが、何度も申し上げているように、経済は生き物ですし、特に、海外のリスクは、こちらがコントロールできませんので、そういうことも踏まえ、今後とも、十分慎重に、適切に対応していきたいと思っています。

§39Question

長期金利は、今また 0.6%台とかなり低くなっていますが、これは「安定的」とおっしゃっています。しかし、0.8%に上がっていく段階では、「期待インフレ率が上がっていく中では、健全な上昇はあるのだ」と言っておられたと思うのですが、今、下がってきていることについては、どのように解釈しているのでしょうか。

§40Haruhiko Kuroda

私は、以前から、日本銀行の巨額の国債買入れは、タームプレミアムを押し下げ、イールドカーブ全体に押下げ圧力をかけていくと申し上げており、その効果が現れているものと思っています。もちろん、海外要因やその他の影響もあるとは思いますが、基本的には、巨額の国債買入れによるタームプレミアムの圧縮が効果を挙げていると思っています。以上