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日本銀行記者会見2013年11月13日宮尾龍蔵, 審議委員

宮尾審議委員記者会見(2013年11月13日)要旨

全文

§1Question

2 点伺います。1 つ目は、今日の懇談会で地元の各界の方々からどのような意見なり要望があり、それに対してどのような質疑があったかという点、それからもう 1 つは、宮尾委員は当地経済の現状についてどのような見方をされているかという点、その 2 点お願いします。

§2Ryuzo Miyao

1 点目の、本日どのような意見交換が行われたのかということですが、懇談会では、当地の経済界や金融界を代表する方々から、当地経済が直面する課題、あるいは日本銀行の金融政策運営に対する貴重なご意見を賜りました。大変有益かつ示唆に富む意見交換ができたことについて、まず懇談会にご出席頂いた方々に改めて感謝を申し上げたいと思います。全てを網羅できませんが、席上聞かれた話を整理して申し上げたいと思います。当地の景気については、アベノミクスによる公共投資の増加や、円高修正による製造業の収益回復、観光業における海外からの観光客の増加、あるいは住宅投資の増加など、全体としては「持ち直しの兆しがみられるようになってきている」という現状のご紹介がありました。もっとも、その上で、長野県経済を巡る懸念は大きいという指摘も多かったように思います。具体的には、足許、景気回復の恩恵は大企業に止まっており、中小企業では引き続き厳しい経営状況の先が少なくないというお話がありました。また、需要は増えているものの、円安に伴う原油価格や資材価格の上昇で収益が圧迫されている企業も少なくないというお話も聞かれました。さらに、雇用について、長野県の有効求人倍率が上昇してきてはいるものの、まだ全国に比べて低いという点を懸念する声も聞かれました。先行きについては、消費税率の引上げに伴い景気が減速する不安を指摘する声もありました。

§3Ryuzo Miyao

こうした先からは、足許徐々に良くなってきている消費者マインドを、今後もぜひ持続させて欲しいと希望する声が聞かれました。また、企業の海外進出が一段と進んでいる結果、長野県内の工場を撤退させる動きやそれに伴う先行きの雇用の伸び悩みを懸念する声もありました。こうした中、当地の対策として、県が主体となって昨年度から「長野県ものづくり産業振興戦略プラン」を策定され、企業、大学、行政機関および金融機関が一体となって産業競争力強化、ビジネスマッチング等を図り、県内経済の活性化に向けた支援を進められているという取組みのご紹介もありました。また、今年3月には、県内金融機関や保証協会が共同で事業再生のための「信州みらい応援ファンド」を立ち上げて、中小企業への支援を強化しているといった取組みについてのお話も伺いました。特に、長野県が男女ともに長寿日本一である点に着目され、健康産業や医療産業への前向きな取組みを通じて県内経済の活性化にも繋げていこうとされているお話を伺って、需要掘り起こしを伴うイノベーションの好事例だという印象を持ちました。以上が、本日の懇談会でどのような話があったかということです。2 点目の、長野県経済への見方ですが、モノづくりの高い技術力、豊かな観光資源、それから特産の農産品にみられるブランド力など、数多くのポテンシャルを備えておられるという印象を持ちました。

§4Ryuzo Miyao

従って、こうした強みを最大限発揮していくこと、具体的には、地理的に広い県内の全域を視野に入れつつ、産・官・学や金融機関も含めた形で英知を結集しながら、地域間・業種間の連携を図っていくことが重要になってくるのではないかと思いました。また、交通インフラに関して、北陸新幹線の延伸やリニア中央新幹線の開業など、大きな変化が見込まれているということですので、これらの動きが有機的に結びついて、長野県経済のさらなる活性化に繋がることを強く期待しています。

§5Question

本日の講演の中で、「下振れリスクを意識している」とコメントされた点について伺います。先日の展望レポートでは、「リスクは上下にバランスしている」という評価があり、総裁の記者会見では、1 人の委員が下振れリスクを心配しているとか、2 人の委員が 2%達成は難しいと言っているということをおっしゃっていました。それからあまり時間がたっていませんが、今回の講演で「下振れリスクを意識している」と言われた理由はどういうことか、また、前回の展望レポートで宮尾委員がなぜ下振れリスクを重視しているということを言われなかったのか、お伺いします。

§6Ryuzo Miyao

1 点目の、私自身のリスク評価についてですが、講演でも申し上げたように、上下双方向の不確実性がある訳ですが、私自身は、全体としてみれば、やや下振れリスクを意識しているということです。具体的なリスクとして、講演では 4 点ほど挙げています。第 1 は、海外経済に関する不確実性です。特に、一部の、経常収支赤字など構造的な問題を抱えている新興国・資源国に下振れリスクがあるという点と、米国の財政問題の帰趨によっては――米国経済のメインシナリオとしては、今後も内需をベースに緩やかに回復していくと見ていますが――、米国経済、さらには世界経済の回復が後ずれする点にも注意が必要だと認識しており、従って、海外経済については、やや下振れリスクを意識しているということです。第 2 は、家計の所得・雇用動向です。これに関しては、上下両方向のリスクがあると思います。先行き、国内需要が堅調さを維持していくためには、雇用・所得環境が消費をしっかり支えていくという点がポイントですが、この点に下振れリスクはある一方で、本日の講演で申し上げたような、雇用・所得環境が持続的に改善していくことなどによる、上振れ方向のメカニズムが働く可能性もあるとみています。第 3 は、消費税率引上げの影響です。

§7Ryuzo Miyao

税率の引上げは、家計の実質可処分所得にマイナスの影響を及ぼし得るわけですが、これについては、政府における各種経済対策などである程度減殺されると思います。その上で、想定以上に経済を下振れさせることがないか、注意してみていきたいと思います。第 4 は、企業や家計の中長期的な成長期待の不確実性です。これは、民間企業によるイノベーション・需要の掘り起こし、政府による規制・制度改革などによって、上下双方向に変化する可能性があります。以上の 4 点をみると、上下双方向にリスクがバランスしている項目もありますが、全体としては、やや下振れリスクを意識すべきと思っています。次に、2 点目の、前回の展望レポートにおけるリスクバランスの評価との関係についてです。私自身は今申し上げたように、やや下振れリスクを意識していますが、展望レポートでお示ししているのは、政策委員全体のリスクバランスに関する見通し分布チャートです。政策委員の様々な見通しがそこに集計されていますが、見通し分布チャートの散らばり具合をご覧いただくと、景気に関しては、上下にバランスしています。また、物価に関しては、2015年度はやや下方に厚いようにも窺われますが、2014年度は上下にバランスしており、全体として概ね上下にバランスしているという表現になっています。

§8Ryuzo Miyao

私自身としては、9 人全員のリスクバランスの表現としては、展望レポートの表現で違和感はないということです。

§9Question

今の質問とも関連しますが、2 点お聞きします。景気については、やや下振れリスクを意識しているということですが、物価については、今おっしゃったことからすると、下振れリスクは意識してないのかどうか、あるいは物価についても下振れリスクを意識されているのかどうか、これが第 1 点です。もう 1 点は、講演で、消費税率引上げの影響について、「想定以上に経済を下振れさせるかどうかは、その時々の雇用・所得環境や物価動向によって変化するため注意が必要と認識している」とおっしゃっています。この「物価動向」について、一方では、「2014年度中に消費者物価が 1%程度を超えて高まっていくことが重要」とおっしゃっています。これは、日銀自身が 14年度の見通しとして、中央値ですが、前年度比 1.3%の上昇という予測を出しているので、当然の話だと思います。では、先程、物価動向によって消費税率引上げの影響が変化するとおっしゃったのは、消費税率引上げの物価押上げ――日銀は大体2%と見積もっていると思いますが――を除いて、この 1%程度を超えて高まっていくこと自体がリスクなのか、それとも 1%程度を超えてそれ以上に上昇することがリスクなのか、それとも 1%程度を超えて高まっていかないことがリスクなのか、どういう物価動向がリスクだとお考えになっているのかを明確にして頂けますでしょうか。

§10Ryuzo Miyao

1 点目ですが、講演で、やや下振れリスクを意識していると申し上げたのは、経済・物価見通しに対するリスクということです。先程、経済に対してやや下振れリスクがあると申し上げましたが、当然、それが原因となって、物価に対してもやや下振れリスクがあるということです。一方、中長期的な予想インフレ率に関しては、本日の講演で、景気の持続的な改善期待が浸透していけば、フォワードルッキングな予想形成がより強く働き、中長期的な予想インフレ率が高まっていく、そういうメカニズムが働く可能性は相応にあると申し上げました。景気動向による下振れリスクは、物価に対しても下振れリスクになりますが、中長期の予想インフレ率に関しては、当然、上手く働かないリスクと、私が申し上げたように割としっかり働く可能性と、両方の可能性があるとみています。2 点目のご質問ですが、一般的に、消費税率引上げが実質可処分所得にマイナスの影響を及ぼして、私どもが考えている以上に景気を下押しするリスクは当然あるわけで、その結果として、物価も弱くなる可能性はあると思います。また、物価が弱くなることで、さらにマインドを冷やすといった影響も、可能性としてはあるかもしれません。そうした全般的な意味を込めて、総合的な経済・物価情勢次第で下振れリスクの大きさが変わり得るのではないかという趣旨で、そのように申し上げました。

§11Question

それでは、14年度中に 1%程度を超えて高まっていくことが重要というのは、1%程度を超えて高まっていけば、それはそれ程リスクではないという理解でよろしいですか。

§12Ryuzo Miyao

メインシナリオである 1%程度というのは途中経過点ですので、そこをしっかり実現していくことと、その実現の仕方として実体経済の改善が伴っていることの両面が必要だと思いますが、いずれにしても、物価が 1%程度を超えて高まっていくということは、仮に消費増税だけではなくて様々な下振れリスクが追加的に起こったとしても、それをやや減殺するようなプラスの要因になるのではないかと思います。

§13Question

先程、リスク要因としていくつか挙げておられましたが、例えば、海外要因とか賃上げ動向というのは、日銀では、はっきり言ってどうにもできない部分があると思うのですが、こうしたリスクによって、例えば、予想インフレ率が思うように高まらない、そういう状況が発生したような場合は、日銀の金融政策でそれを押し上げるという対応は可能なのかという点と、その場合、具体的にどういった政策展開が考えられるのかという点について、仮定の話ですが教えて下さい。

§14Ryuzo Miyao

1 点目ですが、私どもの現在のメインシナリオでは、今後、消費税増税等々下振れリスクもある中で、実体経済は、基調的には潜在成長率を上回る成長を続け、物価に関しては、2%目標に向けた道筋を順調に辿っていくとみています。その前提として、中長期的な予想インフレ率も、徐々にではありますが、立ち上がっていくという姿を考えています。今後、そういった見通しに変化が生じた場合には――例えば、中長期的な予想インフレ率が思うように立ち上がらないということも含めてですが――、かねてから明確にしているように、必要な調整を行っていくということです。従って、海外経済や賃金動向の下振れリスクについても、それによって我々の見通しに変化が生じる場合には、必要な調整を行っていくということです。2 点目は、その必要な調整を行う際の具体的な手段ということかと思いますが、それは、発動するその時々の経済・物価情勢あるいは市場の動向などによって変わり得るものですので、事前に申し上げるのは適切ではなく、ここではコメントを差し控えたいと思います。ただ、これはいつも申し上げていることですが、何らかの政策対応、政策判断をする場合には、予め何か特定の手段を排除するということではなく、それぞれの手段を、効果、コスト、リスクなどを総合的に勘案して、最も適切な手段を選択していきたいと思っています。

§15Question

海外経済に関連してお伺いしますが、先週金曜日の米国の雇用統計を受けて、再び金融市場では、米国のFRBが、金融緩和の縮小を早ければ来月中にも行うのではないかという見通しが出ており、それによって、新興国市場の通貨とか株式が売られる展開になっています。改めてFRBのtapering が世界経済および日本の輸出に与える影響について、どのようにご覧になっているか、お伺いします。また、宮尾委員は、今回の講演で、FRBのコミュニケーション戦略について言及されていますが、これは、はっきり言って、「次は、もうちょっと上手くやって欲しい」という気持ちを込めておっしゃったのかどうか、お伺いしたいと思います。

§16Ryuzo Miyao

1 点目のFRBによる資産買入れの縮小、所謂 tapering に関するご質問ですが、米国は世界一の経済大国であるため、その実体経済や金融政策の動向は、世界経済にも大きな影響を及ぼし得ると思います。講演でも申し上げたとおり、FRBは、5月以降、景気回復の見通しのもと、年内に資産買入れの縮小を行う可能性を示唆して、コミュニケーション、情報発信を強化してきました。これに呼応して、市場は、先行きの政策の正常化を急速に織り込む形で、米国の長期金利は上昇しました。それは当然、新興国を含む世界経済に影響を及ぼし得ます。1 つのチャネルは、当然、資本の移動を通じた経路ですし、あるいは、貿易を通じた経路もあろうかと思います。そういう意味で、FRBの金融政策の舵取りというのは、世界経済に対して、潜在的に大きな影響を及ぼし得ると考えています。2 点目の、FRBのコミュニケーションについては、私の立場で良いとか悪いとか、評価したりコメントしたりするのは差し控えたいと思います。従来から、各国の中央銀行は、様々な形で、より良い情報発信、より透明性を高める政策運営の努力を続けてきていると思います。FRBも、その1 つとして、将来の政策のガイダンスという形で工夫を凝らし、より良い政策やより良いコミュニケーション、情報発信のあり方を追求していると考えています。

§17Question

質問が 2 つあります。まず、海外経済の動向に関する不確実性について、講演の中で、「中国以外の新興国・資源国」とおっしゃったのは、具体的にはどこの国を指すのでしょうか。

§18Ryuzo Miyao

具体的に名前を挙げるのが適切かどうかは判断しかねるところですが、実際、一部の国では、経常収支赤字など構造的な問題を抱えており、そういった国々では、当然、それぞれ政策対応が図られてきているわけですが、私自身は、やはり下振れリスクが残る可能性があるのではないかということで、そのように申し上げました。

§19Question

2 つ目の質問です。本日の講演の中で、コミュニケーションについて言及されており、最後に「日本銀行としては、引き続きより良いコミュニケーションを心掛けてまいりたい」とおっしゃっていて、素晴らしいことだと思います。ただ、実態としては、私は日銀の記者発表に時々出るのですが、極めて難解な言葉が多く、一般の方々が理解するのはかなり難しいというのが率直な印象です。今回、良い機会なので、宮尾審議委員が、例えば、日銀は今後、むやみに英語を使わないとか、分かりやすくするような方針転換を宣言していただけないでしょうか。

§20Ryuzo Miyao

コミュニケーションのあり方に関しては、まだまだ工夫、改善の余地があると私自身も感じています。いま頂いたようなご意見も含めて、より分かりやすい情報発信を、これからもしっかりと心掛けてまいりたいと思います。その1つの試みとして、展望レポートの記述の仕方に関しても、より良く国民に伝わるような形にならないかということを念頭に置いて、できるだけ簡潔に、以前よりは短めで平易な言葉を使うように心掛けてまいりました。そうは言っても、いまコメント頂いたような、さらなる改善の余地がないか、探ってまいりたいと思います。

§21Question

講演の中で、「FRBのコミュニケーションを巡る一連の経験は、将来の日本銀行にとっても示唆に富むもの」とおっしゃっていますが、FRBは、情報を出し過ぎた結果、金融緩和の出口に向けて、いわば自縄自縛のようになってしまっているとの感があります。どういう意味で示唆に富むと言っているのか、噛み砕いて説明していただけないでしょうか。

§22Ryuzo Miyao

「将来の」日本銀行への示唆に富むものということですので、今現時点で、日本銀行において、FRBのように正常化に向けた議論を行うということは、全く考えていません。物価はまだ 1%にも到達してない状況ですので、引き続き量的・質的金融緩和を継続していくということです。ただ、そう申し上げた上で、将来、経済や物価の情勢が十分に改善して、そういった正常化に向けた議論が始められる時期が来れば、FRBの今回の経験は――と申しましても、FRBもまだ tapering を始めている訳ではありませんが――、将来、私どもが議論を始める際に、1 つの重要な先例として参考になるのではないかという意味で、示唆に富むものと申し上げました。

§23Question

「先例」というのは、お手本と言う意味でしょうか、それとも逆でしょうか。

§24Ryuzo Miyao

FRBに限って申し上げれば、これまで続けてきた大規模な資産買入れの縮小を検討するということによって、これまで長期金利にかかり続けてきた低下圧力を何がしか緩和させる力が働くと考えられます。情報発信のあり方が、そうした低下圧力の緩和にどういう影響を及ぼすのかといった点を含めて、FRBもより良い舵取りを考えていると思います。今後のFRBの対応も含めて、私どもも、将来の課題として、しっかりと参考にしていきたいと思います。

§25Question

長野県経済についてお伺いします。当地では、例えば蕎麦が 1,000 円しますが、消費税率が上がれば、もっと上がることになります。先程審議委員がおっしゃったように、海外からの観光客も多いのですが、そういう人たちは、値段が上がれば消費しなくなります。そういう意味で、当地の場合は、下振れの要因の方が強いような気がするのですが、長野県の経済界に向けて、アドバイスがあれば、お伺いしたいです。

§26Ryuzo Miyao

アドバイスというと僭越かもしれませんが、冒頭のご質問に対してもお答えしたとおり、長野県は観光資源が非常に豊かであるほか、農産物のブランド力もあるといった強みもあると思います。そういった強みを活かしていくことが大切だと思います。あるいは、懇談会の中で出た話題としては、長寿日本一ということで、健康産業、医療産業においても、産・官・学、さらに金融機関も含めた形で連携し、前向きな取組みを進められておられるとのことです。やはりそういったポテンシャルは大きいと思います。観光の面でも、農業の面でも、健康、医療といった面でも、そうした連携を地域間、業種間を通じて強めていただき、さらなる活性化に繋げていただきたいと期待しています。以上