石田審議委員記者会見(2014年2月26日)要旨
全文
§1Question
本日の金融経済懇談会でどのような議論があったのか教えて下さい。
§2Koji Ishida
本日の懇談会では、埼玉県の行政や財界、金融界を代表する方々から、地域の現状や課題、あるいは日本銀行の金融政策運営に関する貴重なお話やご意見等を数多く聞かせて頂くことができました。きわめて有意義な意見交換ができたと思っています。まずは、出席頂いた方々や関係者の皆様に、厚く深く御礼を申し上げます。懇談会では、意見が多岐に亘ったため、全てを網羅してご紹介することはできませんが、私なりに席上聞かれた話題等を整理して申し上げます。まず、当地の経済情勢については、総じて前向きな動きがみられており、各種のアンケート調査等でも改善傾向が確認されている、とのお話が多かったように思います。もっとも、その一方で中小企業には景気回復の効果がなかなか波及しないとか、先行きについては、消費税率引き上げによる景気への影響や原材料価格の上昇による収益圧迫に対する懸念等もあって、まだまだ不安が残る、とのお話も伺いました。このほか、今後の埼玉県経済の成長に向けて、行政や経済団体の皆様がそれぞれの立場で真剣に取り組まれているというお話を頂きました。その中では、産業振興面での海外自治体との連携や、今後進む少子高齢化を成長のチャンスと捉えた地元企業の動きなど具体的なお話もあり、大変心強く感じた次第です。
§3Koji Ishida
日本銀行に対しても、引き続き緩和的な金融環境を維持していくことや、成長基盤の強化に向けた金融面からの支援を継続していくことなどについて、皆様からご要望が寄せられました。私どもとしては、中央銀行の立場から、物価安定のもとでの経済の持続的成長を実現していくことや、金融システムの安定性を確保することを通じて、当地関係者のご努力がより大きな実りへ繋がっていくようサポートして参りたいと思っています。
§4Question
本日の意見交換を踏まえて、埼玉県の金融経済情勢の現状をどのように認識され、それを今後の金融政策にどのように活かしていきたいとお考えでしょうか。
§5Koji Ishida
埼玉県内の景気については、緩やかな回復を続けているとみています。個人消費は底堅く推移しており、住宅投資も増加しています。加えて、埼玉県内では、企業の設備投資が、圏央道周辺の物流センターや県南部の大型ショッピングセンターなど、活発な建設投資に支えられて増加を続けています。鉱工業生産も、新規の自動車組立工場の稼働本格化などを受けて、昨年秋以降、持ち直しています。こうしたことを受けて、雇用環境も緩やかに改善を続けています。また、当地の金融機関では、金融仲介だけにとどまらず、顧客のニーズに応えるべく、ビジネスマッチング等の事業支援、企業再生支援や ABLなどの新しい融資手法の活用にも注力されています。今後はこうした前向きな金融経済活動がより広がりを持つことで、景気回復がより確かなものになることを期待しているところです。私どもとしては、こうした現状をしっかり認識したうえで、適切な金融政策運営に努めて参ります。また、埼玉県の金融経済情勢については、調査統計局地域経済調査課等を通じて、今後とも肌理細かい調査・広報活動を続けるとともに、中央銀行の立場から経済の持続的成長の実現や金融システムの安定確保を図ることで、埼玉県経済を支える関係者のご努力がより大きな成果に繋がるよう、サポートして参りたいと考えています。
§6Question
懇談会の中で、わが国経済の動向の先行きについて、消費税率引き上げの影響を受けて、4~6月期に一時的にマイナス成長になっても、景気回復のトレンド自体は失われることはないとのお話がありましたが、埼玉の経済に絞り込んでみた場合、このトレンドと同一なのか、それともこのトレンドに比べて弱含みなのか強含みなのか、審議委員のご見解を教えて下さい。
§7Koji Ishida
県内企業の景況感に関する指標等をみても、総じて強気の見方が多いとのことでした。ただし、個別に意見を聞くと、先行きについては必ずしも楽観視できないとか、消費増税分の価格転嫁を十分にできるか心配だ、あるいは、景気回復は大企業中心であって、まだまだ中小企業までは回ってこないとのお話も伺いました。また、参加者の方々からは、金融の緩和的環境をより長く維持することで、中小企業の方々にも景気回復の実感が回るように、日本銀行にも努めて欲しいとのご要望もありました。
§8Question
石田委員は、昨年、ボードとしての決定事項に関しては尊重するべきだが、一人の審議委員として自らの考えを主張すべきだと話されていましたが、本日の講演の中でも、先行きの景気に関し、消費税率の引き上げ、海外経済・輸出動向、雇用・所得動向の 3 つを懸念材料として挙げられていました。現状として、景気・物価の上振れリスクと下振れリスクをみた場合、バランスしているのか、それとも下振れリスクの方が大きいのか、また下振れリスクが顕在化するような場合の政策対応について教えて下さい。
§9Koji Ishida
私どもがリスクとして挙げているものは、どちらかというと下振れリスクが多いわけですが、リスクは顕現化しないと全く何にもならないものです。要するに、若干心配している程度の場合と、本当にリスクとして真剣に考えなければならない場合とがあります。今の段階で、私どもが展望レポートで示している経路について、真剣に下振れを心配しているかというと、私はそうでないと思います。ただ、考えられるリスクを挙げたうえで、それについては慎重に着実に注意を怠りなくみていこうという意味です。本日の懇談会でも 3 つ留意点を挙げましたが、必ずしも心配しているということではなく、場合によっては足を引っ張る可能性があるため、注意してみていくとのニュアンスで申し上げたつもりです。
§10Question
先行きのリスクについて、増税後の景気の見通しに関して、4~6月期にマイナス成長になったとしても、景気回復のトレンドが失われることはなく、その前提として、今勢いを欠いている輸出が牽引役になることを期待しているとの趣旨の発言がありました。足許勢いを欠いている輸出が、今後いつ頃持ち直してくるのか、持ち直すためには、どういったことが必要なのかについて、ご見解を教えて下さい。
§11Koji Ishida
懇談会でも申し上げましたが、輸出については、足許やや勢いを欠いた状況であるのは確かだと思います。これについては、循環的・構造的に色々と議論があるところですが、基本的には海外経済が回復するにつれて伸びていくとの展望レポートのシナリオは崩れていないとみています。そのうえで個人的には色々な要因があると考えています。一つには、今回の海外経済の回復過程で設備投資が非常に弱く ──設備投資がなぜ出てこないのかということは欧米でよく言われていますが──、お金が貯まっている割には資本投資をしないということです。それが、ある意味で日本のお家芸である資本財・その他部品の輸出が伸びない理由かもしれません。もう一つは、世界経済が回復しつつあるとは言え、日本の主要マーケットであるASEAN等の景気が今一つであることも、輸出が今一つ伸びない理由かもしれません。そのほかにも、国内需要が強いことから、一部業種で国内向けを優先している動き、すなわち本来は輸出しているものについて国内に回しているということがあるのかもしれません。さらには輸出物価です。数量が伸びないと言われていますが、輸出物価の変動幅は円相場の変動幅に比べかなり小さいのではないかとみています。
§12Koji Ishida
例えば、ブンデスバンクの論文にも紹介されていましたが、米国の対日輸入価格の変化をみると、為替相場が大きく円安に振れた割には、日本からの輸入価格はあまり下がっていません。一部の企業では、マージン確保を第一にして、数量確保を第二にしている場合があるのではないかとも思います。すなわち、円相場要因をドルベースの価格引き下げに利用していないのではないかということだと思います。そうした傾向があることから、所謂Jカーブ効果がなかなか出にくい環境にあるのではないかという気がしています。そうであれば、循環要因として、海外の景気が良くなり、それに均霑してASEANも回復してくること、あるいは海外の設備投資も盛り上がってくること、が求められます。また、日本国内は駆け込みの動きもあって内需が強いわけですが、この強さが弱くなったときに、輸出ドライブがかかってくることも考えられます。それらを勘案すると、特に1月の指標については、内外ともに季節要因もありますので、それをもって基調変化とみるのは難しいと思っております。ただ、弱いのは事実だと認識しています。
§13Question
海外の景気の部分について、新興国と資源国にばらつきが見られる点を指摘されていますけれども、先日のG 20では、画期的な成長力の目標を掲げた陰で、新興国と先進国の歩み寄りは顕著には見られなかったと思います。このG20の結果についてどのように評価をされていらっしゃるのか、お聞かせ下さい。
§14Koji Ishida
私は審議委員として、G 20の実務に携わっているわけではありませんので、正式なコメントをする立場にあるかどうか分かりません。色々とフリクションがあったようですが、結果としてG20がまとまったということ自体、FRBのテーパリング等が今後も進んでいくということについて反対が出ているわけではないということですから、現状が追認されたという意味において、結構なことではないかと思っています。また、新興国の一部には色々と問題があるのかもしれませんが、全般的には落ち着きを取り戻しているようでもありますので、こういう形で収束していけば非常にありがたいとみています。
§15Question
先程の講演では、4~6月に一時的にマイナス成長になるとのことですが、これは7~9月には戻るということを意味していると思います。一方で、消費税率引き上げに伴う実質所得によるマイナスの影響は、石田審議委員も触れられておりますけれども、給料が大きく上がらない限りは一時的には終わらないと思います。よって消費税率の引き上げが一過性ではなくて、結構長く消費に及ぼす影響があるのかどうかについて、まずお伺いしたいと思います。また、改めて新たな政策対応は今必要ないと考えていらっしゃるかのかどうかについてもお聞かせ下さい。
§16Koji Ishida
消費税率引き上げについては、駆け込みと反動のほかに、実質所得の低下により、基本的には消費に対してマイナスに影響します。これについては、海外あるいはわが国のケースを含めて、実証的に明確な影響を把握するのはなかなか難しいという意見もあるようです。今回の場合、政府において各種の経済対策が講じられています。また、増税分について最終的に家計自らが受益する公共サービスや社会保障として還元されると認識している場合や、家計が消費税率の引き上げの負担をあらかじめ予想して消費にも既に反映している場合、財政や社会保障制度に投入されることから将来への安心感につながる場合、賃金の一定の上昇あるいは将来の上昇への期待がある場合などは、実質所得減少の影響が軽減されると考えられます。私どもとしては、そうした効果も含め、全体としてみて 4~6月は下押しするにしても生産・所得・支出のサイクルは引き続き上手く回っていくとみています。それから、第 2 の点については、私どもとしては、展望レポートにおいて先行きの見通しを策定する際に、今回の 8%への消費増税と 10%への消費増税は法律で決まっていますので、前提条件として入れています。その上で、これまでのところ先行きの景気の足取りについての見方を変えていないということです。
§17Question
今週月曜日に、都内で安倍総理のアドバイザーである本田悦郎内閣官房参与が、日銀の金融政策について、消費増税後に予想外の落ち込みがあった場合には、5月頃が一つの政策判断の節目になるのではないかというようなことをおっしゃっております。こういった意見にご賛同されるのかどうかをお聞かせ下さい。
§18Koji Ishida
私どもの金融政策は、ただいま「量的・質的金融緩和」を続けており、2%の「物価安定の目標」の実現を目指しているわけです。その際、経済物価情勢について、上下双方向のリスク要因を点検し必要な調整を行うということを定めています。私どもは、毎月のMPM等を通じて、常時現状の把握およびその検証、評価をし、調整が必要と認められれば調整するということです。いつ何をするとか、どうなったらこうするというのは、そういう枠組みのもとでは金融政策として馴染まないのではないかと思います。経済物価がどのような情勢にあるか、それをよく把握し判断して結論を出していくという姿勢はいつでも変わりません。
§19Question
金融経済懇談会ということで全国を回られているかと思いますが、近隣の県、神奈川とか、千葉と比べて、埼玉の金融経済は如何でしょうか。埼玉の金融経済のポテンシャルとか、課題について考えをお聞かせ下さい。
§20Koji Ishida
埼玉県は、昔から技術力のある中小企業が集積する「ものづくりの県」であり、精密・光学や電気・通信、自動車などが時代に応じてわが国の産業を支えてきました。事業所数も非常に多く、かつ事業の種類も多く、本日も色々な経済団体の方にご出席を頂きました。私も色々な県でこういう機会がありますが、大変真剣かつ活発に県経済の現状と将来に向けてお話しされていたことが、大変印象に残りました。
§21Question
物価についてですが、今後半年程度は1%台前半で推移を続けて、その後再び上昇するという見方をしていると思われるのですが、物価が再び上昇に向かうもとで、先程 3 点今後の留意点を挙げられていましたが、最も重要なことは何だと考えられていますか。この半年以内に、1%台前半を下回るような物価情勢になった場合、日銀のシナリオも下振れたということになってくるのでしょうか。
§22Koji Ishida
先行きの留意点として 3 点申し上げましたが、何れにせよ、一番重要なのは景気全般の勢いが失われないことであり、そのために注目する要因として3 つあるということです。物価については、円安方向での為替要因がなくなれば、その分物価の上昇圧力が弱まるというのはその通りだと思います。もっとも、このところそれ以外の分野でも販売価格の引き上げが少しずつ受け入れられてきているようです。これから需給ギャップがさらに縮小していけば、さらに物価の底上げに作用してくると思っています。短観をみると、仕入価格判断DIと販売価格判断DIの差が非常に大きく、仕入価格が上がっても販売価格が上がらない姿となっています。この点は、逆に言えば、今後販売価格が上がっていく方向への圧力が大きいというようにも考えられます。仕入価格が上がる中で、企業が様々な努力によって販売価格を上げていかなければ自らの収益が出ません。そういう企業行動がこれから続いていくと思っています。また、それによって予想物価上昇率も何がしか上がってくると思います。そうしたことがまた現実の価格設定行動や消費者の購買行動を変えていきます。こういうことでプラスの回転が効いてくるとみています。
§23Koji Ishida
1%を切った場合にどうするのか、という話ですが、先程申し上げた通り、私どもとしては絶えず情勢を判断して、上下両方向のリスクを判断して、必要とあれば調整するということですので、予め何らかの仮定に基づいて、こうなったらどうするということを議論もしておりませんし、考えてもいないということです。
§24Question
本日のビットコインを巡る一連の騒動ですが、価値の乱高下や資産保全という観点から、今、関係当局が情報収集を本格化させています。日銀として今後どのような対応が考えられるのか、あるいは対応すべきなのか、委員の所見をお聞かせ下さい。
§25Koji Ishida
ビットコインはマネーロンダリング等の犯罪に利用される危険性があることや、価値の変動が激しいということなどを背景に、最近、海外の当局において規制を検討する動きがみられます。わが国における規制のあり方については、その要否を含めて、政府において適切に判断されるものと考えています。ビットコインは決済手段としての利用はかなり限られていますが、場合によっては便利だという人もいます。ただ、様々な問題も指摘されています。私ども日本銀行としては、決済サービスの基盤を提供する立場として、銀行振り込みなど既存の安全な決済の仕組みについて、利便性向上の必要はないか、ビットコイン等が出てくる背景として、現在のシステムに不便なところがあるのであれば、何か改善すべきところはないか、そういう観点から、わが国の決済システムの改善に向けて、引き続き関係者と協力しながら取り組んで参りたいと考えています。以上