総裁定例記者会見(2014年3月11日)要旨
全文
§1Question
本日の金融政策決定会合の決定内容について、景気判断も踏まえてご説明下さい。
§2Haruhiko Kuroda
本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 60~70 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することとしました。また、貸出増加支援資金供給および成長基盤強化支援資金供給について、先月の会合で決定した骨子に基づいて、基本要領等を決定しました。わが国の景気ですが、堅調な国内需要に支えられて前向きの循環メカニズムが引き続き働いており、個人消費や住宅投資では消費税率引き上げ前の駆け込み需要も顕在化しています。従って、景気の総括判断としては、先月と同様、「緩やかな回復を続けており、このところ消費税率引き上げ前の駆け込み需要もみられている」としました。海外経済は、新興国の一部になお緩慢さを残していますが、米欧などの先進国を中心に回復しつつあります。輸出は、ASEANなど新興国向けの弱さが続く中で、米国の寒波や東アジアの春節の影響もあって、このところ横ばい圏内の動きとなっています。設備投資は、資本財総供給が強めの動きとなるなど、企業収益が改善する中で、持ち直しが明確になっています。公共投資は増加を続けています。雇用・所得環境が改善するもとで、引き続き住宅投資は増加し、個人消費は底堅く推移しています。
§3Haruhiko Kuroda
住宅投資や乗用車などの耐久財の消費には、消費税率引き上げ前の駆け込み需要もみられています。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は伸びが幾分高まっており、在庫は減少を続けています。この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。CP・社債市場では、良好な発行環境が続いています。銀行貸出が増加する中で、マネーストックも伸びを高めてきており、最近は前年比で+4%程度となっています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、1月は昨年12月に続き+1.3%となるなど、1%台前半で推移しています。予想物価上昇率は、全体としてみれば上昇していると判断されます。わが国経済の先行きについては、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかな回復を続けていくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、暫くの間、1%台前半で推移するとみられます。その後は、次第に上昇傾向に復し、見通し期間の後半、具体的には 2014年度の終わり頃から 2015年度にかけて、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高いとみています。リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州債務問題の今後の展開、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。
§4Haruhiko Kuroda
以上のように、「量的・質的金融緩和」のもとで、わが国経済は潜在成長率を上回る成長を続けており、2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を順調に辿っています。今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。
§5Question
直近の経済指標をみると、輸出と設備投資が依然として弱めで、日銀の想定シナリオよりも下振れているように思います。輸出と設備投資の現状と今後について、どのようにみておられるかご所見をお願いします。
§6Haruhiko Kuroda
先程申し上げた通り、輸出は、このところ横ばい圏内の動きとなっており、勢いが欠けています。その背景には、わが国の製造業の現地調達拡大を伴う海外生産シフトといった構造的な要因が何がしか作用している可能性がありますが、基本的には、わが国経済との結びつきが強いASEANなどの新興国経済のもたつきの影響が大きいと考えています。最近は、これらの要因に加え、米国の寒波や東アジアの春節の影響、駆け込み需要への対応から国内向け出荷を優先する一部企業の動きなど、一時的な要因も作用していると思います。先行きは、これら一時的な要因が剥落するもとで、先進国の成長率が高まっていくことから、中国やNIEsなどアジアを経由した間接的な影響も含めて、輸出は緩やかに増加していくと予想しています。設備投資については、企業収益が改善する中で、持ち直しが明確になっています。たしかに、昨年10~12月期の法人企業統計の設備投資は力強さに欠けるものの、1月の資本財総供給は、10~12月に続いて、はっきりと増加しています。また、GDPベースの設備投資も、昨年10~12月期まで 3 四半期連続のプラスとなっています。先行きも、企業収益が改善を続ける中で、緩やかな増加基調を辿ると予想しています。
§7Haruhiko Kuroda
こうした見通しは、機械受注や建築着工床面積などの先行指標が、月々の振れはありますが、増加を続けていることによっても裏付けられると思っています。
§8Question
昨日発表された昨年10~12月期のGDPの 2 次速報は、さらに下方修正となりました。日銀の今年度の経済成長率見通しである 2.7%の達成の見通しについて、現時点でどうお考えかご所見をお願いします。
§9Haruhiko Kuroda
ご指摘のように、昨日発表された昨年10~12月期の実質GDPの 2次速報値は、1 次速報値から若干の下方修正となり、前期比年率+0.7%の成長率となりました。その内容をみると、国内需要では、設備投資は、法人企業統計を反映して1次速報値から若干の下方修正となったものの、先程申し上げたように、企業収益の改善を背景に、小幅ながらも3 四半期連続で増加する姿となっています。また、個人消費も、雇用者所得が緩やかに持ち直すもとで、底堅い伸びを続けています。一方、外需面では、輸出が新興国向けを中心に弱めの動きとなっている中で、輸入が駆け込みの影響も含め堅調な国内需要を反映して伸びを高めており、純輸出が成長率を押し下げる方向に働いているということだと思います。このように、GDPの2 次速報値は、外需が弱めとなった一方で、国内需要が堅調に推移していることを確認する内容であり、全体として、景気の前向きの循環メカニズムは引き続き働いているとみています。従って、先行きについても、こうした前向きの循環は途切れず、基調的には潜在成長率を上回る成長を続けていくという見通しには変わりがありません。なお、ご指摘の 2013年度の成長見通しについては、その先の年度と併せて、4月の展望レポートで改めて公表する予定です。
§10Question
先日、ビットコインの取引仲介会社が経営破綻したことを受けて、政府は先週、仮想通貨と呼ばれるものについて、初めて見解を示しました。こうしたビットコインなどのいわゆる仮想通貨と呼ばれるものについてどうみているのか、いかに向き合うべきかという点について、日銀の考え方、もしくは総裁個人のご所見をお聞かせ下さい。
§11Haruhiko Kuroda
法律的な観点よりもむしろ、経済的な実態からみてビットコインをどうとらえるかというご質問だと思います。通貨とは、誰もがそれを一般的に受け取るということ、その前提として、価値がある程度安定しており、決済の安全性が保証されていることが不可欠だと思います。現在のビットコインの状況をみると、価値が非常に大きく変動するうえ、広く一般的な支払いに用いられてはいないようですので、経済的にみると、現時点では、通貨に必要とされる、一般受容性、価値の安定、決済手段としての安全性といった性質を備えているとは言えないように思います。もちろん一般論としては、将来何らかの形でそういう性質を備えるようになるのではという議論はあると思いますが、現時点では少なくとも、ビットコインは通貨に必要とされる性質は備えていないのではと思います。一部の人達の間でボランタリーに、送金や支払いに使われてはいるのでしょうが、一般的な受容性はまだないと思いますので、現在、そうしたものとして私どもはとらえているということです。
§12Question
総裁はかねて下振れリスクが顕在化した場合は、躊躇なく調整を行うとおっしゃっていますが、先程のお話にもありましたように、2013年度の成長率の見通しが下振れる可能性がかなり高まっています。また、日銀が今回判断を引き下げた輸出も、やや想定を下回っている、ウクライナ情勢等の地政学的なリスクもあるという中で、政策の調整が必要になるような下振れリスクが高まっている可能性はあるのでしょうか。1月の会見では、下振れリスクはかなり後退しているのではないかとの趣旨のご発言があったかと思うのですが、成長率見通しの引き下げ等も含め、どう考えているかお聞かせ下さい。
§13Haruhiko Kuroda
昨年来の状況からみると、全体として世界経済の下振れリスクは低下しているという状況に変わりはないと思います。ただ、1月末から一部の新興国の通貨等が選別的に下落する、最近のウクライナ情勢を反映してウクライナの通貨が下落する、あるいはロシアの通貨が下落するということが起こりましたが、いずれも、現時点では限定的な影響にとどまっており、世界経済全体として下振れリスクが大きくなったということはないと思います。そうしたもとで、日本経済の動向については、先程申し上げたように、生産・所得・支出という好循環が働き始めており、その点には全く変化がないと思います。金融政策の運営は、当然のことながら冒頭で申し上げた通り、常に上下双方向のリスク要因を点検して、必要に応じて政策の調整を行うという点は全く変わりません。経済・物価動向を毎回点検していく中で、2%の「物価安定の目標」の達成が困難になった、またはそこへの道筋が順調に進んでないとして調整の必要が出れば、当然、躊躇することなく調整します。しかし、先程来申し上げている通り、内需を中心とした経済の好循環が続いていますし、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動減で成長率は上下しますが、0%台半ばとみられる潜在成長率を上回るテンポで、来年度、再来年度と成長していくとみていますので、現時点で、金融政策を調整する必要があるとは思っていません。
§14Haruhiko Kuroda
ただ、何度も申し上げますが、常に上下双方向のリスク要因を点検し、必要があれば躊躇なく調整するという方針です。
§15Question
2 点伺います。来月で過去最大の緩和をしてから 1年になりますが、これまでの 1年間を振り返って、円安・株高になり、かなりマインドが良くなるとか、色々な効果があったと思います。当初言っていた期待を転換するとか、金利を下げるという点については効果があったと思いますが、ポートフォリオ・リバランスといいますか、貸出が増えるかという点については、なかなか中小企業で伸びていない面もあると思います。この1年の全体的な評価としてどのようにご覧になっているでしょうか。もう 1 点は、繰り返しで恐縮ですが、輸出についてです。先程のご説明でも外需の一時的な下振れということですが、日本の構造問題といいますか、なかなか輸出が増え難い状態になっているのではないか、円安なのに輸出が増えないという状態に陥っているのではないか、という指摘がかなり出ていると思います。この点について、総裁は輸出の伸びが出てこないのは想定外とみていらっしゃるのか、改めてもう少し詳しくご説明をお願いします。
§16Haruhiko Kuroda
まず、1 点目ですが、「量的・質的金融緩和」を昨年の4月に決定し、それを着実に実施してきました。そのもとで生産・所得・支出という循環メカニズムが働き始めてきており、日本経済は緩やかに回復していると思います。そして、2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を着実に辿っていると思いますので、今後とも「量的・質的金融緩和」をしっかりと推進して、 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現したいと考えています。なお、ポートフォリオ・リバランスについては、金融機関の貸出は着実に伸びを高めてきており、特に大手行が積極的に国内、さらには国外への貸出を増やしています。従って、ポートフォリオ・リバランスについても一定の効果が出ているとは思います。他方で、地域金融機関を含めて金融機関全体の貸出の伸びがさらに高まっていくということが、この「量的・質的金融緩和」の効果を高める上で非常に重要だと思いますので、そういう観点から前回の金融政策決定会合で骨子を決め、今回の決定会合でその内容を確定した、貸出支援基金の 2 つの制度の大幅な拡充は、さらに金融機関の貸出を積極化させていく上で一定の効果を持つだろうと思います。2 点目の輸出については、先程申し上げた通り、確かに企業が海外の需要地に近いところで、あるいは賃金その他の点でより有利なところで生産することで、海外展開は進んでいると思います。
§17Haruhiko Kuroda
これ自体は特にマイナスではないと思います。そうしたことを踏まえた上で、私どもが昨年「量的・質的金融緩和」を導入した時点で思っていたよりも、最近輸出がやや弱め、内需がやや強めとなっている背景には、 ASEANその他新興国の経済がややもたついているということがあります。ご承知のように、日本の輸出の半分以上はアジアの新興国向けであり、そうしたことが影響を与えてきたと思います。その上、一時的な現象だと思いますが、米国における寒波、東アジアにおける春節──春節が例年より少し早く始まったわけです──、そして消費税率引き上げ前の駆け込みの中で一部の企業が国内需要を優先して輸出をやや後回しにしていること、といった 3 つの要因もあります。しかし、そういった一時的な要因はいずれ剥げ落ちます。そうなると残るのは、従来からある程度続いていた構造的な海外展開です。これは特に最近テンポが速まったということはなくて、むしろ行き過ぎた円高が是正される中で海外展開のテンポはやや減速しているかもしれません。ただ、いずれにせよ、これは趨勢的にずっと続いている話です。そうした中で、注目すべきは循環的な要因としてのアジアの新興国の景気回復のもたつきです。
§18Haruhiko Kuroda
ただ、米国を中心とする先進国の経済が成長率を加速させていく──IMFでもOECDでもそういう見通しですが──、そういうもとで、アジア新興国の成長率も緩やかに伸びていくことになると思いますので、循環的な要因の中で、日本の輸出がやや弱いところは是正されて緩やかに伸びていくだろうと思っています。
§19Question
本日は 3月11日ということで、東日本大震災から 3年になります。復興の現状については色々な見方があると思いますが、総裁として復興の現状をどのように考えていらっしゃるのか、そして復興に向けて日本銀行が貢献できることはどのようなことがあるのか、お伺いします。もう 1 点は、4月1日から消費増税が実現しますが、消費増税後の物価の押上げの動向について、変化があるのかどうか、総裁からコメントがありましたらお願いします。
§20Haruhiko Kuroda
東日本大震災で影響を受けた地域には、かつて私も住んでいたこともあって、特に関心が強いです。日本銀行の支店訪問に際しても、最初に、東日本大震災の影響を受けた地域の支店を訪問しました。その後の状況についても、随時ブリーフィングを受けています。被災地の現状をみると、生活・住宅再建についてはなかなか進んでいないところもあることは承知しています。また、企業においても、東日本大震災の影響を受けた地域では、人手不足がかなり大きくなっています。また、昨年訪問した際、企業の方から、震災で販路が一旦断たれてしまい、販路の確保に苦労しておられるとお聞きしました。そうした状況であり、被災地の復興は道半ばというところではないかと思います。ただ、一方で、昨年訪問した時にもお聞きしましたし、色々なニュースにも出ていますが、新しい動きも一部にみられています。商品に新たな付加価値を付けるとか、あるいは複数の企業が一緒になって販路を拡張するとか、色々な動きが出ています。それに対応して地元の金融機関も、前向きの融資を行おうとしており、新しい芽も出てきているのではないかと思っています。日本銀行としては、被災地金融機関を支援するための資金供給の仕組みを1年間延長しました。引き続き、地元の金融機関が被災地の復旧・復興を支援する動きを、側面から支援していきたいと思っています。
§21Haruhiko Kuroda
2 点目の物価の動向についてですが、冒頭申し上げた通り、2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を順調に辿っていると思います。その背景として、初めは円安の影響が大きかったと思いますが、内需中心の経済成長が次第に定着していく中で、ご承知のように、労働市場がどんどんタイトになってきました。いわゆる構造失業率は 3%台半ばといわれていますので、現在の失業率 3.7%は、完全雇用に極めて近い状況になってきています。そうしたことから、賃金あるいは物価などへの影響も出てきています。すなわち、潜在成長率を上回る成長、特に今回の内需中心で非製造業がリードする形の景気回復のもとで、労働市場は極めてタイトになり、賃金の押上げ、そして物価の押上げの効果が出てきており、今後もさらに強くなっていくだろうと思っています。もう1 つは、長らく低位にあった予想物価上昇率が、昨年来、全体として少しずつ上昇してきているということです。これも今後、物価を 2%の目標に近づけていく要素になるだろうと思っています。従って、従来から申し上げている通り、物価は、ここ半年くらいは1%台前半で推移し、その後 1%台半ばから後半、そして 2%への道筋を辿っていくと思っています。
§22Haruhiko Kuroda
消費税率引き上げによる直接的な物価押上げ効果は、ご承知のように 3%の税率引き上げに対し 2%程度と見込まれますが、私どもがみているのは、それを除いた、あくまでもトレンドとしての物価上昇率です。それは、今申し上げたように、今年の前半くらいは 1%台前半で推移し、その後徐々に上昇、加速していくだろうと思っており、その見通しに全く変化はありません。それから、今申し上げた、消費税率引き上げによる直接的な物価押上げ効果についてのテクニカルな話で、ご承知かもしれませんが、公共料金については、料金算定期間に3月分を含む場合は、4月の物価指数上は旧税率の 5%で計算するということを総務省が発表しています。これを考慮すると、4月1日に税率が 5%から 8%に引き上がりますが、その物価への影響というのは、4月はいきなり 2%分ではなく、それより少し小さい1.7%分くらいであり、5月からフルに 2%分ということになります。従って、私どもの物価の判断については、4月分の数値からは 1.7%、5月以降は 2%引いたところでトレンドをみていくことになると思います。そのトレンドについては、先程申し上げたような考え方で変わりありません。
§23Question
2 点お伺いします。1 点目は、雇用と所得環境の改善についてです。1月の毎月勤労統計で、ようやく1年10 か月振りに所定内給与がプラスに転じ、また、明日、大手企業の春闘の集中回答日を迎え、どうやら多くの企業でベースアップが実現しそうなのですが、国内の雇用・所得環境の改善ペースは良くなっているのでしょうか。白井委員がリスク要因として言及すべきと言われていますが、雇用・所得環境の認識について、所定内給与が上がってきている中でどのようにお考えなのでしょうか。2 点目は、「量的・質的金融緩和」が導入されて 4月で 1年ですが、昨年おっしゃっていた 3 つの波及経路のうち、銀行貸出、ポートフォリオ・リバランス効果については先程言及がありましたが、長めの金利を低く抑えること、予想物価上昇率に働きかけることについては、実際良くなってきていると思います。実際にこれらが実体経済に波及してきているかどうか、この1年の評価をお聞かせ下さい。
§24Haruhiko Kuroda
1 点目については、先程申し上げた通り、雇用情勢は改善してきています。有効求人倍率、完全失業率、その他様々な指標をみても、雇用情勢が改善していることははっきりしています。賃金、給与は、ボーナスや所定外は伸びていましたが、所定内がなかなか伸びていません。ご承知のように、パートの人が増えていて、その賃金水準が低いため、所定内の賃金がなかなか伸びないという状況にありましたが、ご指摘のようにベアについて前向きの回答が出つつあるようです。従って、今後、所定内も含めて給与・賃金が全体として増加し、これに雇用の改善を掛け合わせた雇用者所得は、引き続き順調に伸びていくであろうと思っています。その意味で、ベアの動向には非常に関心を持っておりまして、期待を持って見守っているところです。2 点目については、「量的・質的金融緩和」を 4月4日に決めた際にご説明した通り、長期金利をできるだけ低位に安定させる、ポートフォリオ・リバランスを進める、期待の転換を図るという 3 つの波及経路がありますが、いずれも効果を発揮していると思います。金利については、諸外国の長期金利が上昇する中で、わが国の長期金利は 0.6%前後で非常に安定しています。一方で、先程申し上げた通り、予想物価上昇率は徐々に上がってきていますので、実質金利はさらに低下しています。これが、投資や消費にプラスの影響を与えていると思います。
§25Haruhiko Kuroda
ポートフォリオ・リバランスは、色々な方が期待していた程のペースで進んでいないのではないかという議論がありますが、このところ金融機関の貸出も増加しています。先程申し上げたように日本銀行の措置も大幅に拡充し、期限を延長しましたので、今後さらにポートフォリオ・リバランスは進んでいくだろうと思っています。こうした 3 つのチャネルは、それぞれに、さらにそれらが相互に連関して、物価上昇率を 2%の「物価安定の目標」に向けて徐々に引き上げていくと思っています。
§26Question
改めて輸出についてお伺いします。今回、輸出の判断を引き下げ、先行きについては緩やかに増加していくという見通しを述べられましたが、4月の消費税率引き上げ後について、景気の牽引役として外需に期待しているのでしょうか、それともしばらくは強い内需が牽引役として走っていけるのか。輸出の弱さが経済・物価の先行きシナリオに与える影響も含めて、教えて下さい。
§27Haruhiko Kuroda
輸出については、先程の説明に尽きると思います。ある程度、趨勢的な本邦企業の海外展開により海外での生産・立地が増えており、この傾向はおそらく続くと思います。先程申し上げた通り、行き過ぎた円高が是正される過程の中で、若干そのテンポは緩んでいる、あるいは一部は戻すという企業はあるかもしれませんが、トレンドは変わらないと思います。もっとも、何よりも大きいのは循環的な要因で、特に輸出の半分以上を占めるアジア新興国の経済が、昨年ややもたつき気味で、それらの国に対する輸出が弱かった、一部低迷していたということだと思います。それに加え 3 つ目の要因として、一時的な要因があります。これは、足許の米国の寒波や、東アジアにおける春節の影響、そして、国内における駆け込み需要への対応――輸出に回すよりも国内の需要をまず手当てする一部企業の対応――などです。この3 つ目の一時的要因は剥げ落ちるので、残るのは、非常に長いトレンドと循環的な要因です。循環的要因については、先進国の経済が比較的順調に回復しているので、その影響がアジアの新興国にも及んで、今後、成長を加速していくとみられます。そうしたもとでは、循環的要因でやや伸び悩んでいた輸出も回復していくと思っています。ただ、それはおそらく緩やかな回復と思います。
§28Haruhiko Kuroda
アジアの新興国の回復も一挙に良くなるよりも、緩やかに成長を加速していく、その中で、輸出も緩やかに伸びていくと思っています。繰り返しますが、足許、横ばい圏内で推移していることの主たる要因は、一時的なものと思いますので、先行きの見通しは全く変えていません。
§29Question
消費税率引き上げについて質問します。前回、日本で 3%から 5%に上がった時に、その後の落ち込みが大きかったようですが、今回も、4月以降、経済がマイナス成長になる可能性も十分にあるとの指摘も少なくないようです。今回の消費税率の引き上げについて、その後の経済の落ち込みがどの程度で収まるかについて、総裁のご見解を教えて下さい。また、仮にそうなった時に、日銀として追加的な金融緩和策をさらに打ち出す余地があるかどうかについても併せて教えて下さい。
§30Haruhiko Kuroda
まず、1997年との比較です。1997年には、4月1日に消費税率が 3%から5%に引き上げられ、その後、4~6月はマイナス成長になったわけですが、7~9月からプラスに戻ったわけです。ところが、夏からいわゆるアジア通貨危機、そして秋には国内大手金融機関が破綻するという国内的な金融危機──これは一番大きな影響を与えたと思うのですが──があり、これらによって日本経済が不況に陥ったということです。今回、アジアにおいて、アジア通貨危機のようなことが起こる可能性は極めて低いと思いますし、日本の金融機関は先進国の中でもトップクラスの健全性を維持していますので、国内的な金融危機が起こることはないと思います。従って、消費税率の引き上げによって 1997年のようなことが起こる可能性はまずないと思います。それに加えて、政府が様々な措置を講じており、5 兆円を超える補正予算を組んで、その重要な部分が4~6月あるいは遅くとも7~9月に支出されるように努力されています。また、住宅減税や自動車に対する税負担軽減等のように、住宅と自動車について、大きな駆け込みと税率引き上げ後の大きな落ち込みが起こり難いように政策的な対応もなされています。こういったことも含めて、1997年のようなことはないと思っています。
§31Haruhiko Kuroda
なお、追加的な金融緩和策については、従来から申し上げている通り、毎回の金融政策決定会合において、上下双方向のリスク要因を点検し、必要に応じて躊躇なく政策を調整するという考え方には変わりはありません。
§32Question
3 点伺います。1 点目は、 CPIはコアが1.3%まで上昇していますが、GDPデフレーターはいまだに若干マイナスになっています。コアCPIとデフレーターとのギャップがある背景をどうお考えになっているかお聞かせ下さい。また、今後、2%の「物価安定の目標」を目指すにあたって、デフレーターとのギャップの縮小を実現するためにはさらに政策をパワーアップする必要もあるのではないかと思いますが、その辺りのご所見をお願いします。2 点目は、輸出の話ばかりで申し訳ないのですが、お話を伺っているとやはり海外要因の方が主であって、企業の海外移転など構造的な要因は相対的には小さいように聞こえるのですが、例えば日本企業の競争力──韓国等と比べて──が不可逆的に低下している可能性等は懸念されていないのでしょうか。3 点目は 2 次QEが出ましたが、前向きなメカニズムには変わりはないということでしょうか。数字だけ見ると、やはり日本銀行の 2013年度の見通しを達成するには 1~3月に年率 10%程度の成長が必要ですが、達成できるとご覧になっているのか、2013年度は下振れても、鋭い傾斜で 2015年度まで達成できるので楽観視されているということなのか、ご見解をお願いします。
§33Haruhiko Kuroda
CPIの動きとGDPデフレーターの動きには、長く遡ってみても常にギャップがあります。それには2 つの要因があると思います。第 1 に、消費者物価指数はあくまでも消費バスケットの中に含まれている消費財の価格がどう動いているかを表すものですが、 GDPデフレーターは消費財だけでなく投資財やその他の価格の動きも含むことです。消費財と投資財を比べると、趨勢的に投資財の相対価格がずっと低下してきており――これはどこの国にもある現象ですが――、その結果、GDPデフレーターの上昇率に比して消費者物価上昇率の方が少し高い、逆に言えばGDPデフレーターの伸び率の方が低くなる方向に働きます。消費財と投資財の相対価格の変化があるために、そういったことが起こっているのです。その理由は、消費のバスケットの中では半分以上がサービスですので、機械化その他で効率が良くなる部分があるとしても、資本財のようにどんどん機械化によって安く提供される状況とは異なるからです。消費財の大半がいわば労働コストに応じて変動しますので、消費者物価指数の方がGDPデフレーターよりも上がりやすくなるのです。第2 に、GDPデフレーターは、作り方からして当然ですが、輸入財価格が上がると、マイナスに効きます。輸入財価格の上昇分は、一部は消費財の価格上昇に、一部は投資財の価格上昇に転嫁されていきます。
§34Haruhiko Kuroda
長い目でみると、その動きの差はかなりの程度打ち消されるとは思いますが、それでもしばしばGDPデフレーターが大きくマイナスになるのは、基本的には、輸入財価格が上がり、それが部分的にせよ、まだ消費財の価格に完全に反映されていない時点ではギャップが大きくなるからです。完全に反映された後でも、消費財だけでなく投資財の部分もあるので、まったくニュートラルになるとも限りません。この2 つの理由でこういう状況になっていますので、別に異常なことではなく普通のことだと思いますし、いずれGDPデフレーターもプラスになっていくと思っています。ただ、数値が同じにならなくてはいけないということはないし、諸外国をみても、日本の何十年間の歴史をみても、消費者物価指数の上昇率の方がGDPデフレーターの上昇率よりも高くなることは幅広く観察されると思います。2 点目の輸出については、色々な議論があるところですが、日本の製造業の競争力が衰えてしまったとは、今の時点でも、私はあまり思っていません。行き過ぎた円高のもとで輸出競争力が減退していた、それが是正されノーマルになってきている部分もありますし、他方で、長期的にみた需要地に近いところで生産する形で海外展開しているという趨勢的なことがあります。
§35Haruhiko Kuroda
これは、競争力が弱いのではなく、むしろ強いからこそ、外地で作ってその場所で競争しているので、あまり構造的に競争力が低下したと言う必要はないと私は思っています。ただし、何回も申し上げる通り、輸出が弱めに出ていることは事実であり、その動きには今後とも注目していきたいと思っています。最後に、GDPの見通しについては先程申し上げた通り、4月の展望レポートで明らかにされるところですので、今の時点でどうこう言うつもりはありません。特に純輸出が、成長率をかなり大きく引き下げているのは事実ですが、それは輸出が弱いことと、輸入がかなり大幅に伸びていることの結果としてそうなっているわけで、一時的な要因がかなり含まれていると思っています。以上