総裁定例記者会見(2014年4月8日)要旨
全文
§1Question
今回の決定会合について、3月短観の評価も交えてポイントをお聞かせ下さい。
§2Haruhiko Kuroda
本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 60~70 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することとしました。わが国の景気ですが、堅調な国内需要に支えられて、前向きの循環メカニズムは引き続き働いています。消費税率引き上げの影響については、3月までは個人消費を中心に駆け込み需要がみられましたが、4月入り後は、その反動が出始めている可能性が高いと考えています。従って、景気の総括判断としては、「消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調的には緩やかな回復を続けている」としました。海外経済は、新興国の一部になお緩慢さを残していますが、米欧などの先進国を中心に回復しつつあります。輸出は、季節的な要因もあって月々の振れは大きくなっていますが、ASEANなど新興国向けの弱さが続く中で、このところ横ばい圏内の動きとなっています。設備投資は、資本財総供給が伸びを高めるなど、企業収益が改善する中で、持ち直しが明確になっています。公共投資は増加を続けています。個人消費や住宅投資は、消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調的には、雇用・所得環境が改善するもとで底堅く推移しています。
§3Haruhiko Kuroda
以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、緩やかな増加基調を辿っています。先日公表した 3月短観の結果をみると、企業の業況感は幅広い業種で引き続き改善しており、特に非製造業の業況判断は、国内需要の堅調さを反映して、大企業・中小企業ともに 1991年11月以来の水準となっています。業況判断の先行きについては、駆け込み需要の反動減の影響などから慎重な見方もみられていますが、水準はなお高めとなっています。今回から新たに調査した2014年度の設備投資計画も、しっかりとしたスタートとなっており、企業の前向きな姿勢は維持されています。また、全産業・全規模ベースでみて、設備判断における過剰感が解消し、雇用人員の不足感も一段と強まるなど、生産要素の稼働状況は着実に高まっている姿が窺われます。この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。3月短観でも確認された通り、企業からみた金融機関の貸出態度は、改善傾向が続いています。そうしたもとで、銀行貸出残高の前年比は、2%台半ばのプラスとなっています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、2月は昨年12月、1月に続き+1.3%となるなど、1%台前半で推移しています。予想物価上昇率は、全体として上昇していると判断されます。
§4Haruhiko Kuroda
わが国経済の先行きについては、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかな回復を続けていくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、暫くの間、1%台前半で推移するとみられます。その後は、次第に上昇傾向に復し、現在の見通し期間の後半、具体的には 2014年度の終わり頃から 2015年度にかけて、「物価安定の目標」である 2%程度に達する可能性が高いとみています。リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州債務問題の今後の展開、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。以上のように、「量的・質的金融緩和」のもとで、わが国経済は潜在成長率を上回る成長を続けており、2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を順調に辿っています。今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。
§5Question
4月1日に消費税率が 8%に引き上げられましたが、増税が日本経済に与える影響をどうみておられるか、改めてお聞かせ下さい。また、駆け込み需要の反動減が経済に与える影響の大きさを判断する時期はいつ頃とお考えでしょうか。
§6Haruhiko Kuroda
消費税率引き上げの影響についての基本的な考え方は、従来から変わっていません。すなわち、消費税率引き上げは、成長率の一時的な振れをもたらすものの、わが国経済に働いている前向きの循環メカニズムは途切れず、基調的には緩やかな回復を続けていくとみています。具体的には、消費税率引き上げ前の駆け込み需要は、乗用車や家電など耐久消費財、住宅投資などではかなり早くからみられていたわけですが、衣料品や雑貨など耐久消費財以外の消費についても、3月末にかけて駆け込みが発生したとみられます。その影響から、1~3月は高めの成長となる一方、4~6月は、個人消費を中心とする駆け込み需要の反動の影響から、成長率が落ち込むと予想しています。ただ、夏場以降は、雇用・所得環境の改善に支えられて、反動の影響は次第に減衰していくと予想しています。加えて、公共投資が高水準で推移すると見込まれますし、輸出や設備投資も緩やかに伸びを高めていくことから、潜在成長率を上回る成長軌道に復していくとみています。毎月の金融政策決定会合では、マクロの経済統計だけでなく、ヒアリングで得られたミクロの情報なども含め、幅広い情報をもとに経済・物価情勢を点検しており、消費税率引き上げ後の影響についても、そうした中で評価していくことになります。従って、何か判断のタイミングについて、予め決められたスケジュールがあるということはありません。
§7Question
3月短観で初めて「企業の物価見通し」を調査項目に加え、企業が 1年後は 1.5%、3年後と 5年後は 1.7%の物価上昇を見込んでいることが分かりました。いずれも日銀が目標としている 2%には達しませんでしたが、これをどう受け止めているかお聞かせ下さい。
§8Haruhiko Kuroda
ご案内の通り、「企業の物価見通し」について短観で聞くのは新たな試みであり、従来からの結果と比較して変化は分かりませんし、統計の持つクセをまだ承知していないので、この統計をどのように使っていくかはこれからの課題であるとは思いますが、私自身は、非常に興味深い結果が出たのではないかと思っています。1 つは、ご指摘のように、企業の人たちは 1年後 1.5%、3年後 1.7%、5年後 1.7%の消費者物価の上昇を予想しており、これはエコノミストあるいは市場関係者の見方よりも、ある程度高い物価上昇見通しになっているということです。もう 1 つは、足許の見通しよりも中長期の将来になるに従って、少しずつ物価上昇率が上がっていく、高まっていくとみていることも非常に興味深いと思います。いずれにしても、今後とも、こうした調査等を活用しつつ、物価上昇期待がどのようになっていくかは、十分注視していきたいと思っています。
§9Question
大規模な金融緩和の導入から 1年が過ぎましたが、この 1年間の経済・物価の動きを総括して頂けますでしょうか。あと、今年の 1月には下振れリスクが低下しているとご発言されましたが、現在経済の下振れリスクをどうご覧になっているかという点もお聞かせ下さい。
§10Haruhiko Kuroda
「量的・質的金融緩和」を導入して 1年経つわけですが、これは所期の効果を着実に発揮しており、そのもとで、先程申し上げたように、わが国経済は、前向きの循環メカニズムを伴って、緩やかに回復していると思います。物価面でも、2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を着実に辿っていると考えています。リスク要因としては、今回の金融政策決定会合後に公表しました「当面の金融政策運営について」にも示している通り、新興国・資源国経済の動向、欧州債務問題の今後の展開、米国経済の回復ペースなどが挙げられるわけですが、海外経済全体としてみると、先進国中心に成長率を高めていくとみられており、下振れリスクも、ひと頃に比べれば低下した状況にあると思っています。経済・物価見通しと上振れ・下振れ要因については、ご承知のように今月末の展望レポートで改めてお示しすることになると思います。
§11Question
短観について追加でお尋ねします。先程言及されましたが、雇用の不足感が強まり、設備の過剰感が解消してきています。一方、成長率でみるとGDPギャップがかなり大きい状況ですが、現時点の日本経済の需給ギャップをどうみているか、それが足許および先行きの物価にどう影響していくとみているかお聞かせ下さい。もう 1 点、今回の短観では先行き判断がかなり悪化しています。このこと自体をリスクとして考えているか、あるいは統計上のクセのようなものとみているのかお聞かせ下さい。
§12Haruhiko Kuroda
まず 1 点目ですが、私どもも大変重要なポイントだと思っています。今回は、消費、住宅投資、公共投資を中心とする景気回復が続いており、冒頭申し上げた通り、非製造業――大企業のみならず中小企業まで含めて――が極めて順調に回復してきています。ご承知の通り、非製造業は製造業と比べかなり労働集約的で、非製造業の売上等が伸びれば労働需要の伸びも大きくなることもあり、雇用はおそらく昨年予想した以上に順調に改善してきており、失業率も有効求人倍率等も、ほとんどリーマンショック前のピークに達しています。こうした面からは、需給ギャップ、GDPギャップはかなり縮小してきているとみられます。需給ギャップあるいはGDPギャップの推計方法は色々あり、どれが唯一ということはないと思いますが、私どもが特に注視している賃金・物価の動きをみる際には、雇用情勢は非常に重要です。それらをみている限りでは、労働市場はタイト化し、これが最近のベアを含む賃上げ等にもプラスに影響していると思いますし、物価上昇率を押し上げる要因にもなっているのではないかと思っています。2 点目ですが、先程申し上げた通り、3月短観の足許の業況感は極めて良く、ほとんどあるいは一部では既にリーマンショック前のピークを超えて91年以来の高さに達しています。
§13Haruhiko Kuroda
先行きについてはやや慎重な見方も出ており、これには、レベルが高くなっていくと先行きの見通しについてやや慎重な見方が出てくるという統計のクセがあると思いますが、それ以上に、少し慎重化しているといっても、そのレベル自体が依然としてプラスの領域にあって高いので、あまり心配する必要はないと思います。消費税率引き上げに伴う駆け込みと反動減の状況――反動減を懸念して、業況感が慎重になっていることはある意味理解できますが――については、先程申し上げた通り、日々、色々なヒアリングのデータ等も入ってきますので、それらをよくみていきたいと思います。短観では、設備の不足感、先行きの設備投資計画はしっかりしていますし、雇用の不足感がますます高まり、先行きも不足が続くとみていますので、企業は、より中期的には比較的強い見通しを持っていると思っています。
§14Question
短観の物価見通しの 1.5%なのですが、市場予想よりは確かに高いと思うのですが、日銀が目標とする 2%に比べれば 0.5%開きがあります。総裁は常々、期待に働きかけることが重要だとおっしゃっていますが、さらに期待に働きかける工夫などをするお考えがあるのでしょうか。
§15Haruhiko Kuroda
期待に働きかけることが重要なのは、現在日米欧(英)の中央銀行が採っている量的緩和──日銀の場合は「量的・質的金融緩和」ですが──に特に限定されたものではなく、伝統的な金融政策でも、非常に重要な役割を果たしているということは、多くの経済学者から認められているところです。ただ、前から申し上げているように、中央銀行が明確なコミットメントをし、それを裏打ちするような政策を打ち出した──日本の場合でいうと 2%の「物価安定の目標」を、2年程度を念頭に置いて、できるだけ早期に達成する、そのために「量的・質的金融緩和」を導入した──ということだけで、予想物価上昇率や実際の物価上昇率が一気に 2%に達するということは、なかなか考えられないわけです。期待によって引き上げられるというフォワード・ルッキングな要素もありますし、実際に物価が次第に上がっていく、上昇率が加速していくという事態を目にして、経済主体の物価上昇期待も上がっていくというバックワード・ルッキングというか、適応的に上がっていくという要素もあります。私どもとしては、この短観における企業の物価上昇見通しの状況は、先程申し上げたように、エコノミストや市場関係者の見通しよりもかなり上を行っており、そういう意味では、期待がかなり織り込まれてきていると思っています。しかし、2 つ条件を付けます。
§16Haruhiko Kuroda
1つは、この統計は始めたばかりですので、幅を持ってみる必要があるということ、もう 1 つは、今縷々申し上げたように、中央銀行の政策によって期待が上がるという要素もありますが、実際に物価が上がっていく中で物価上昇期待も上がっていくという面もあるので、両方相まって私どもとしては2014年度の終わり頃から2015年度にかけて、2%の「物価安定の目標」を達成できるのではないか、とみているということです。
§17Question
2 点伺います。1 点目は消費増税についてですが、97年のときはかなり経済状況が落ち込んだということですが、現時点であのときのようなことがあるのか、また経済が落ち込んだときに追加的な金融政策、追加金融緩和の余地はあるのでしょうか。この辺を改めてお聞かせ下さい。2点目は、家計調査でみても、勤労者世帯の実収入はしばらくずっとマイナスで、物価上昇に対して所得が追い付いていないという状況がみられます。このあたり、雇用は大分タイト化してきているようですが、所得は今後追い付いていくのか、ご所見をお願いします。
§18Haruhiko Kuroda
まず、1 点目ですが、今回の状況は、97年とは全く違うと言ってよいと思います。ご承知のように、97年は 4月に消費税率が 2%上がりました。その後、4~6月はマイナス成長になりましたが、7~9月はプラス成長に戻りました。そうした中で、夏から秋にかけてアジア通貨危機が起こり、11月には、本邦の大手金融機関の破綻などが起こりました。それ以降、金融機関の危機的状況が深刻になり、それが経済の足を大きく引っ張ったというのが、97年の状況だったと思います。今回は、アジアでそうした金融危機が起こる可能性はほとんどありませんし、日本の金融システムは、おそらく先進国の中でもトップレベルの強さ、安定性を持っている状況ですので、 97年のような状況になる可能性は全くないと思います。従って、先程申し上げたように、4~6月の成長率はかなり低下すると思いますが、7~9月以降そういった影響は減衰していって、潜在成長率を上回る成長経路に復していくことになると思っています。2 点目ですが、今回、消費税率が 3%上がりましたが、この分を除いた趨勢的な物価上昇率をみると、しばらくは 1%台前半で推移して、その後次第に加速していき、2014年度後半から 2015年度にかけて 2%に達していくだろうとみています。
§19Haruhiko Kuroda
そうした中で、雇用・所得環境はどうかということですが、雇用環境は引き続きタイトであり、短観等をみても、今後も極めてタイトな状況が続くと思います。その結果、当然ですが賃金も上昇していくということで、雇用・所得環境は引き続き改善していくとみています。なお、消費税率の引き上げ分は税負担であり、それに伴う一時的な物価上昇と趨勢的な物価上昇とは分けて考えなければいけないと思っています。
§20Question
先程、需給ギャップについて、「かなり縮小してきている」というご指摘をされましたが、そうしますと、今後については、円安がさらに進行しなくても、需給環境を反映して、ある種実力ベースの物価上昇率が 2%に向かっていくとみているのか、また 2%の目標達成という意味では、昨年よりも自信を深めているのか、ご見解をお願いします。
§21Haruhiko Kuroda
私は基本的に、ご指摘のようなことだと思っています。つまり、需給ギャップは引き続き縮小しており、おそらく失業率や短観の様々なデータからみると、ほとんどゼロに近くなっているのではないかと思います。そういうことですので、賃金・物価については、基本的に「量的・質的金融緩和」を導入した際に申し上げた通り、2年程度を念頭に置いて、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を達成するという目標に向けて、着実に進行していると思っています。雇用の状況は、むしろ想定以上に改善していると思います。ご承知のように、雇用者所得は、基本的には「雇用×賃金」です。雇用は、非常に良くなっており、予想以上に改善しています。賃金も、春闘のベアもまだ交渉が終わっていませんので、最終的なことはまだ分かりませんが、これまでのところのデータでも、ベアも含めて、それなりに上昇しているということです。こういった状況は、業種、企業規模や地域等で若干の違いは残るかもしれませんが、賃金の上昇にしても、物価の上昇にしても、それから雇用の改善にしても、広がりを持って進んできていますし、今後それがさらに進んでいくだろうと思っています。そういう意味で、「物価安定の目標」の達成については、従来同様、確信を持っています。
§22Question
3点伺います。1点目は増税の影響について、先程から何度かおっしゃっていますが、ヒアリングベースでも色々と聞いているというお話があったので、現在総裁のお耳に入っている範囲で、反動減――一部では日用品を中心にあるという声もありますが――をどうみているのでしょうか。2 点目は、物価の状況について、増税分に加えて切り上げる形で結構物価が上がっているという声もありますが、増税分以上に物価が上がっているのではないかという指摘について、どのようにご覧になっていますでしょうか。3点目は、追加の措置についてですが、必要があれば調整すると再三おっしゃっており、マーケットでは追加緩和への期待が非常に強いですが、現時点で調整が必要なのかどうか、その見解を伺わせて下さい。
§23Haruhiko Kuroda
まず 1 点目の反動減の動向ですが、そもそも消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の程度は、マクロ的なデータで分かっている部分と、ミクロ的なヒアリングの部分と色々あります。冒頭申し上げた通り、耐久消費財についてはかなり前から駆け込みの動向が分かっていましたし、非耐久消費財については、マクロ的なデータはまだありませんが、ミクロ的なヒアリング等によると、3月末にかけてある程度駆け込みがあったとみられますので、その裏返しとして、反動減はそれなりにあると思っています。ただ、自動車等の耐久消費財については、3月末までに注文はしたものの、実際のデリバリーはずっと遅れるということで、生産等についてそんなに大きな反動減が出るかどうか、まだ分かりません。また、ご承知のように、3月までの駆け込み需要に対応して、内需に生産を当てて、輸出を一部後回しにしていた面もありますので、4月以降、今度は輸出に生産を回していけるとなると、生産があまり落ちないかもしれません。あるいは 3月末までの在庫の色々な統計をご覧になって頂くと分かるように、昨年からずっと在庫が減ってきていますので、在庫積み増しのための生産も必要になってくるかもしれません。従って、単純に反動減が即駆け込みとぴったり裏腹で出てくる形になるのかどうか、もう少しよくみてみないと分からないと思います。
§24Haruhiko Kuroda
これまでのところ、何か予想を超えるような反動減が出ているという話はありません。2 点目の物価についてですが、4月の消費者物価は、東京都区部でも 4月末に発表ということなので、マクロ的な統計は分かりません。ただ、アネクドートのようなものを含めていうと、一部にはそれほど価格を上げない先もあるようですし、この際、これまで見送っていた分も含めて価格を上げようという先もあるようですので、マクロ的にみて、実際、どの程度、消費税率引き上げ分以上に物価が上がっているのかということは、まだはっきり分からないと思います。まずは 4月末に公表される東京都区部のデータをみる必要があると思いますが、それ以外にも様々なミクロデータがありますので、そういったものは引き続きよくチェックしていきたいと思っています。3点目の追加緩和については、現時点では考えていません。冒頭に申し上げた通り、わが国経済は、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、着実に進んでいるということですので、現時点で追加的な緩和を行う必要があるとは思っていません。毎回申し上げているように、上下双方向のリスク要因を点検し、必要があれば躊躇することなく調整を行うということです。追加的な緩和を行うのかとか、どういった追加があり得るのかということについて、具体的なことを申し上げるのは適切ではないと思います。
§25Haruhiko Kuroda
色々な追加の余地もあるでしょうし、逆の方向の調整の余地もあると思いますので、いずれにせよ現時点では追加が必要になったとはみていませんが、常に双方向のリスク要因をチェックして、必要に応じて躊躇することなく政策を調整する用意があるということです。
§26Question
2 点お伺いします。まずはウクライナ情勢についてです。ウクライナとロシアの関係が緊迫して制裁という動きもありますが、これが世界経済および市場にどのような影響を及ぼすかについて、総裁の見方をお答え下さい。もう1点は、今週末にワシントンでG20が開かれます。そこで総裁としてどういうことを主張するつもりなのか、議論の焦点について総裁の見方をお話し下さい。
§27Haruhiko Kuroda
ウクライナの問題については、地政学的なリスクそのものの中身について、私がどうこう申し上げるような知見を持っているわけではありません。むしろ、ウクライナも含めて様々な地政学的リスクがどういった影響を与え得るかということです。そういう面で、常に、地政学的リスクが、金融・資本市場を通じて、どういった影響を及ぼすのか、あるいは貿易・投資といった実物的な面を通じて、どういった影響を及ぼすのか、については、十分留意していく必要があると思っています。ウクライナの問題については、ウクライナの問題が深刻化した時に、市場もかなり反応したわけですが、その後ご承知のように落ち着きを取り戻しています。ということは、市場としては、これ以上ウクライナについて地政学的リスクが高まるとは思っていないということだと思いますが、いずれにせよ、私どもとしては、十分注意していく必要があると思っています。G20は、ご承知のように、常に世界経済の動向と、国際通貨体制や国際金融問題という 2 つのアジェンダがあります。今回も世界経済の動向と、国際通貨あるいは国際金融の動向について議論があると思います。さらに加えると、シドニーのG20で合意されたG20としての成長戦略、こういった中長期の話も議論になるだろうと思っています。
§28Haruhiko Kuroda
私としては、経済と物価について、特に金融政策が所期の効果を発揮して、「物価安定の目標」に向けて着実に歩んでいるということを、必要に応じて申し上げたいと思います。しかし、先程も申し上げたように、おそらく話題になるのは、世界経済について何らかのリスク要因があるかといった議論と思います。そういったことになると、ウクライナが今後どのようになっていくのかということも、議論になるかもしれません。それから、国際金融システムの問題については、従来から金融規制の話は先進国中心に議論されているわけですが、G20の場では先進国のみならず新興国も含めてそういった問題が議論されていますので、そういったことも引き続き議論になるのではないかと思っています。
§29Question
今回から総裁の記者会見が、終了後の一斉解禁から随時解禁に変わりました。この件について 3 点伺います。1 点目は、解禁方法を変えた理由です。2 点目は、これまでの会見と比較して今回は、会見に臨む上でお気持ちなどが違ったのかどうかです。3 点目は、海外の中央銀行などはこうした随時解禁の会見を自らネット配信するケースもあるようですが、そういったことも含めて、今後さらに日銀の情報開示について、検討課題やご所見があればお聞かせ下さい。
§30Haruhiko Kuroda
1 点目は、非常に単純かつ明確な理由で、従来以上に私どものメッセージがダイレクトに素早く伝わるようにしたいということであり、また記者の方々からの要望もあったということだと思います。これは世界的な傾向でもあると思いますので、より前向きにコミュニケーションをとる意味で、今後ともこうした形でやっていきたいと思っています。2 点目は、今回、それに対応して私がどうこうということは特にありませんが、ネクタイの色を少し考えたくらいでしょうか。3 点目は、総裁会見をライブ配信するかどうかについては事務方とも話しますが、今すぐやろうという計画はないと思います。いずれにせよ、マーケットあるいは広く国民や海外等とのコミュニケーションがますます重要になると思いますので、引き続き改善に向けて努力していきたいと思っています。
§31Question
総裁は先程、需給ギャップについて、ほぼ 0%に近いところまで来ているというご認識を示されました。これは政府がいわゆるGDP統計をベースにして出している需給ギャップの数値より、日銀の判断としては、需給ギャップの改善が進んでいるという認識を示唆されていたものと受け止めました。そうしますと日銀はGDPベースの経済成長率見通しも出しているわけですが、これが 13年度に 2.7%というのは、おそらく 4月末の展望レポートで何がしかの下向きの修正が必要になると思いますし、ゲタの関係で 14年度にも何がしかの影響が出るかもしれないと思っています。GDP成長率の動き以上に需給ギャップが改善しているとなると、そうした経済成長率見通しの下方修正自体は、従来総裁がおっしゃっているリスクの顕在化すなわち、政策の調整を必要とするリスクの顕在化とは言えない、というように判断できるのか、その点についてご説明お願いします。
§32Haruhiko Kuroda
この点は、2%の「物価安定の目標」自体についての考え方と関連するのですが、もちろん日本銀行としては物価の安定ということが最大の使命であり、いわば国際的なグローバル・スタンダードになっている 2%の「物価安定の目標」を昨年の 1月に決定し、それを 2年程度を念頭に置いて、できるだけ早期に達成するために、4月に「量的・質的金融緩和」を導入したわけです。そのような意味では、この 2%の「物価安定の目標」というのは、極めて重要であると思っています。その「物価安定の目標」というのは、あくまでも日本銀行法に書いてある通り、それを通じて国民経済の健全な発展に資するということであり、物価さえ上がれば他は何も考えなくて良いということではないと思います。中央銀行の使命としては、やはり物価の安定ですし──多くの中央銀行が 2%の物価上昇率を目標としているわけですが──、日本銀行としても物価の安定を目標として、それを実現することが、最も重要であると思っています。ただ、その 2%は単にある一時点でそこに行けばいいというのではなく、やはり安定的に 2%を達成するということです。
§33Haruhiko Kuroda
そのためには当然ですが、経済が順調に拡大し、賃金も上がっていくという中で物価が安定的に 2%というところでアンカーされるということが望ましいわけでして、当然のことながら、経済全体を見つつ、2%の「物価安定の目標」の達成に向けて、最大限の努力をしていくということに尽きると思います。
§34Question
先程から、雇用はかなり良くなっていると繰り返し強調されています。政府が出している完全失業率は 3.6%で、総裁は前から完全雇用に近付いているとおっしゃっていますが、日銀が試算している構造的失業率は大体どれくらいなのでしょうか。また、現在、それと完全失業率の差がほとんどないのかどうかお聞かせ下さい。もう 1 点、これは確かに物価を上げるということでは効果がありますが、総裁がおっしゃった通り、物価が上がればいいというだけではなく、完全雇用になりつつあるということは、成長余力からみると少しきつくなっている面もあるので、生産性を上げなければいけないと思います。そういう点で、政府に何か「こういうことをして欲しい」ということがあれば、お聞かせ下さい。
§35Haruhiko Kuroda
私どもの推計によると、構造的失業率は大体 3%台半ばと思っており、3.6%という失業率はそれに近い、ほぼ等しいぐらいになっていると思います。ちなみに、需給ギャップの計算時には、労働市場と設備稼働率の両方をみていく訳ですが、その両方をみた上でも、かなり過去の平均に近付いている、ギャップがゼロのところに近付いているとみています。2 点目の生産性を上げていかなければいけないというのは、全くその通りです。今、中期的な潜在成長率が非常に低くなり、0%台半ばか後半かという 1%にも達していないところにあるのが現状です。これを上げていって、政府が言っている実質成長率、中期的に 2%の潜在成長率まで引き上げていこうということは極めて重要であって、それは日本経済の健全な発展のために不可欠であると思っています。
§36Question
物価についてお伺いします。総裁は、物価上昇率は当面 1%台前半で推移し、年末から来年春にかけて再び上昇するとの認識を示されましたが、そのようなシナリオの中で一番大事なポイントあるいは欠かせない条件は何ですか。2 点目は、長年続いてきたデフレ経済は何をもって終わったと言えるのかについてご見解をお願いします。
§37Haruhiko Kuroda
1 点目については、先程来申し上げている通り、現在の 1%台前半の物価上昇率がしばらくの間続き、今年の後半にかけて次第に上昇率が上がっていって、2014年度の終わり頃から 2015年度にかけて 2%の「物価安定の目標」を達成するのではないかとみているわけです。そこで重要な点が2つあります。1 つは、需給ギャップが縮んでいって、物価あるいは賃金を押し上げる力が続き、さらにそれが強化されていくということです。もう 1 つは、人々のインフレ予想も、実際の物価上昇率の動向をみながら、次第にこの 2%に向けて上昇していくということです。2 点目については、デフレをメカニカルに定義すると、「持続的な物価の下落」と言われています。今やコアでみても、コアコアでみてもプラスになっているので、そういう意味でもデフレ状況ではなくなっているという政府の言い方は正しいと思います。一方、中央銀行は──多くの中央銀行もほとんど同じですが──、2%の消費者物価上昇率を大体目標としています。
§38Haruhiko Kuroda
その理由は、これも従来から申し上げている通り、消費者物価指数には上方バイアスがあり、実際にはプラスになっていないのに指数がプラスになっている可能性があるので、その点を考慮しなくてはならないという点と、そういう点を考慮しても目標が低めですと、何かショックがあった時にすぐにデフレに陥り、あるいは短期金利がゼロに貼り付いてしまい、伝統的金融政策の余地がなくなってしまうということです。そういった両面を踏まえて、グローバルには 2%を目標として中央銀行が採用しているということです。私どもとしても 2%の「物価安定の目標」を安定的に実現することを目標にしているので、それが実現されるまで、現在の「量的・質的金融緩和」を続けるということに尽きると思います。
§39Question
2 点お伺いします。本日の会見では、しきりとマクロのデータというよりはミクロのヒアリングも、というお話もされていて──機動的に金融政策をやっていくという決意の現れかと思いますが──、同時にPOSデータとか店頭のリアルタイムに近い消費動向をつかむようなデータの収集も始められていると聞いています。先程、消費増税について、予想を超えるような反動減はないとのご発言がありましたが、これは単なるアネクドータルな分析というよりも、POSデータのようなリアルタイムな数値を掴みながらご判断をされているということなのでしょうか。2 点目は、本日の会見を聞いていると、先行きについて楽観的というか非常に自信を強めておられると思います。追加緩和は考えていないということでかなりはっきり言っておられると思いますが、そうは言っても反動減は予想されるというお話もあって、政策委員会の中で追加緩和について全く議論がないのかどうか、その辺のところを教えて下さい。
§40Haruhiko Kuroda
予想以上の反動減が起こっているという話は、アネクドータルなものも含めて、今のところありません。POSシステム云々というのは、日々の物価を計量して発表しているものがあり、おそらくそれを指しておられると思います。そういうものも参考にはなると思いますが、反動減については別にPOSシステム云々ということではありません。それは、おそらくPOSシステムを使って、日々の物価上昇率を測っていることを指しておられるのではないかと思います。それから、今後の展開についてですが、金融政策の一番重要なポイントの 1 つは機動性にあると思いますので、何か硬直的に追加緩和も含めて今後一切考えません、と言っているわけではなくて、現状、それから当面の先行きをみたところでは、想定したルートを着実に「物価安定の目標」に向けて辿っているので、今追加緩和を検討しているわけではありません、と申し上げたわけです。他方で、年間 14 回の金融政策決定会合を行うので──ひと月に 1 回以上やっているわけですが──、そういった折に様々なデータ、分析を踏まえて経済・物価動向を評価して、必要があれば躊躇することなく金融政策の調整を行うというスタンスには全く変わりはありません。
§41Question
先程の発言で、常に上下のリスクを点検し、必要であれば躊躇なく行動する、その中で色々な追加の余地もあるし、逆の方向の調整の余地もあると思うということがありました。この逆の調整の余地というのは、引き締めということだと思うのですが、この発言の趣旨についてもう少し詳しく教えて頂けますか。物価上昇が思い通りにいっているから、そういったことも今考えなければいけないということなのでしょうか。
§42Haruhiko Kuroda
今、上下双方向ともに具体的なリスクが顕現しつつあるとか、顕現化する可能性が高いとか、そういうことはありませんので、何か「量的・質的金融緩和」について早々に出口を議論するとか、そういうことは全くありません。皆さんの色々なご質問に、追加緩和に焦点を絞ったものがあったので、昨年4月に「量的・質的金融緩和」を導入して以来、毎月のように金融政策決定会合後のステートメントにも書いてある通り、「上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う」ということを申し上げたわけです。出口を今から議論しようということでは全くありません。
§43Question
「量的・質的金融緩和」から、ちょうど 1年ということであえてお伺いします。株価が上がって、為替も戻り、物価も上がってきています。これは日銀が今やっているベースマネーを増やし、リスク資産を買うという行為が因果関係をもって効果を発揮していると 1年経ってみて言えるのでしょうか。つまり、ベースマネーを増やしてもあまり効果がないのではないかという議論がかつてあったわけですが、この議論には終止符が打てるとお考えでしょうか。もし、因果関係がちゃんとあるということであれば、実際にバックワードと先程おっしゃたように、何か問題が起こった時に、同じようにかどうかはともかく、リスク資産を買ったり、国債を買ったりということが効果を発揮すると言えることになるかと思いますが、その点も踏まえてお考えをお聞かせ下さい。
§44Haruhiko Kuroda
この点は、内外の学界でも議論をされているところです。欧(英)米の量的緩和も、日本の「量的・質的金融緩和」と同様に、単にベースマネーを増やすというだけではなくて、長期国債とかリスク資産を大量に購入するということをやっていますので、ベースマネーだけを増やして、資産側で長期国債とかリスク資産を買うということを含めない純粋のベースマネー増だけの金融政策というのは、日米欧(英)ともやっていないわけです。量的・質的金融緩和を実施しているところですので、議論はまだ完全には収束していないと思いますが、現時点では、おそらく日米欧で実施されている量的・質的金融緩和が一定の効果を持っているというのは学界の多数意見になってきていると思います。他方、そういったものではなく、純粋に短期のTBを買うなどして、ベースマネーを増やすという、かつて日銀がやっていた純粋の量的緩和についてどうかと言われると──これは先程申し上げたように現在日米欧がやっているのとは少し違う話になってくると思いますが──、学界の議論も色々あり、それでも一定の効果があったのではないかという議論が最近行われているようです。ただ、これは日米欧における現在の量的・質的金融緩和とは違ったものであり、現在の日米欧における量的・質的金融緩和については、より効果があるのではないかという意見が強くなってきているとは思います。
§45Haruhiko Kuroda
いずれにせよ、経済学の議論というのは慎重な分析をして結論が出されても、その結論について、自然科学のように決定的な実験というのができませんので、学界の意見が 100%収束するということは難しいと思いますが、現状をみる限りでは、日米欧のものについては一定の効果があるのではないかと考えている人が多いように思えました。ただ、これは決定的なものではありませんので、まだ色々とご議論があろうかと思います。
§46Question
経常収支について、本日発表の 2月分は 5 か月振りに黒字になりましたが、経常赤字になるのでは、あるいは双子の赤字になるのではないかというマーケットの見方もある中で、総裁は、経常赤字あるいは双子の赤字についてどうお考えになっていますか。もう1 点は、ビットコインについて、3月の会見でもおっしゃいましたが、それ以降、日銀としても検証を続けるつもりはあるのか、ご見解をお願いします。
§47Haruhiko Kuroda
経常収支の黒字・赤字の問題は、学者の間で色々な議論をされていますが、予測の話だけでいいますと、日本の場合は、おそらく経常収支が恒常的に赤字になることはそう簡単には起こらないだろうと思います。それは、所得収支の黒字が非常に大幅でかつ拡大していますので、貿易収支の赤字にも拘わらず、経常収支は黒字に戻っておかしくないですし――現に最近時点で戻ったわけですが――、大幅な赤字になって大変なことになるという懸念は全くもっていません。ビットコインの問題については、従来から申し上げている通り、どのような規制をするか、あるいはすべきだという話は基本的に政府の話であり、日本銀行としては、これが決済手段となっているか――決済手段の効率性、安全性、有効性――という観点でみています。現状、ビットコインには一般的な受容可能性がなく、通貨ではありません。そういう意味では、一般的な決済手段にはなっていないと思います。安全性や価値のある程度の安定性がないと、なかなか一般的に受容されない、通貨になれないと思います。将来も絶対になれないかというとまた別の話ですが、現状、私どもの関心はあくまでも決済手段となっているかどうかという点であり、現状はなっていないと思います。決済システムの安全性、安定性、効率性について、私どもとして常に関心をもっているということです。以上