総裁定例記者会見(2014年6月13日)要旨
全文
§1Question
今回の金融政策決定会合の決定に至った背景・ポイントについて、ご説明下さい。
§2Haruhiko Kuroda
本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 60~70 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することとしました。わが国の景気ですが、4月の消費税率引き上げ以降、駆け込み需要の反動減が現れているものの、概ね想定の範囲内の動きとなっており、家計支出の基調的な底堅さは維持されています。企業部門をみても、設備投資は、業種や規模の裾野を拡げつつ、伸びを高めています。このように、景気の前向きな循環メカニズムは、雇用・所得環境の明確な改善を伴いながら、しっかりと作用し続けていることから、景気の総括判断としては、「消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている」としました。海外経済は、新興国の一部になお緩慢さを残しつつも、米国で景気の改善が明確となるなど、先進国を中心に回復しています。輸出は、このところ横ばい圏内の動きとなっています。設備投資は、企業収益が改善する中で、緩やかに増加しています。公共投資は、高水準で横ばい圏内の動きとなっています。
§3Haruhiko Kuroda
個人消費や住宅投資は、このところ駆け込み需要の反動がみられていますが、基調的には、雇用・所得環境が改善するもとで底堅く推移しています。鉱工業生産は、駆け込み需要の反動の影響を受けつつも、基調としては緩やかな増加を続けています。この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移し、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向が続いています。そうしたもとで、銀行貸出残高は、中小企業向けも含め緩やかに増加しています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、1%台前半で推移しています。予想物価上昇率は、全体として上昇していると判断されます。わが国経済の先行きについては、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかな回復を続けていくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、暫くの間、1%台前半で推移するとみられます。その後は、本年度後半から再び上昇傾向を辿り、2014年度から 16年度までの見通し期間の中盤頃に、「物価安定の目標」である 2%程度に達する可能性が高いとみています。リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州債務問題の今後の展開、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。
§4Haruhiko Kuroda
金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。
§5Question
政府による成長戦略、「骨太の方針」の取りまとめ作業が佳境に入っていますが、日本銀行として、潜在成長率の底上げに向けた政府の取組みに対する期待、政府との役割分担についてどのように考えるか、改めてお伺いします。
§6Haruhiko Kuroda
中期的にみた経済の成長力は、基本的に、資本ストックや労働投入の伸びに加えて、イノベーションなどを通じた生産性の向上によって決定されると考えています。従って、成長力を引き上げていくためには、企業における前向きな投資を促すこと、さらには女性や高齢者などの労働参加を高めることや高度な外国人材を活用することなどを通じて労働の供給力を高めていくこと、そして、規制・制度改革を通じて生産性を向上させることが重要な課題となると思います。こうした課題に対して、現在、政府は、「日本再興戦略」の実行を加速するとともに、その後の議論も踏まえて、新しい成長戦略の取りまとめを進めていると伺っています。日本銀行としては、これらに基づく取組みが着実に進むことを強く期待しています。また、先程申し上げたような企業による積極的な投資、あるいは生産性向上に向けた取組みを促すためには、人々に定着しているデフレ・マインドを払拭することも極めて重要であり、日本銀行としては、「量的・質的金融緩和」の着実な推進により、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成することを通じて、貢献していきたいと考えています。
§7Question
先日、ECBがマイナス金利を含めた政策パッケージを発表しました。総裁として、欧州でのデフレ懸念、デフレリスクについてどのようにお考えか所見をお伺いします。
§8Haruhiko Kuroda
ご指摘のように、ECBが最近、マイナス金利あるいは銀行貸出の促進や貸出金利の低下を狙った新型オペの導入といった、政策パッケージを決定しました。これは、金利の引き下げ、あるいは、金融政策の波及メカニズムの改善によって、金融環境の緩和度合いを強めることを狙ったものと理解しています。ユーロ圏の物価情勢をみると、1%を下回る消費者物価の上昇率が半年以上も続いていること、さらには、先行きも、マクロ的な需給ギャップが残るもとで、物価が上昇しにくい状況が続くとみられています。もっとも、ECBは、中長期的なインフレ予想がアンカーされていることを強調するとともに、今後もそれを保つことに強くコミットしており、今回の金融政策パッケージもその現れだと思います。景気が緩やかに回復していることも併せみると、私どもとしては、ユーロ圏全体としてデフレに陥るリスクは低いと考えています。いずれにせよ、今後とも、ユーロ圏の経済状況については、注視していきたいと思っています。
§9Question
成長戦略の関係で 2 点伺います。1 点目は、総裁も経済財政諮問会議に出て議論されている、法人税減税に関する質問です。既に安倍政権としては、現在 30%台半ばの税率を今後数年で 20%台にするという方針を出していますが、代替財源については、今後議論ということになっています。総裁は、以前、恒久的な減税であれば、恒久的な代替財源が要るのではないかというご意見を述べられたと思いますが、この点も踏まえて、法人税減税の効果と問題点についてどうお考えでしょうか。2 点目は、成長戦略の中で触れられているGPIFの運用改革についてです。これには、リスクが高いのではないかという見方がある一方で、リスク資産に振り向ける必要があるのではないかという意見もあると思いますが、総裁のご意見を伺えますでしょうか。
§10Haruhiko Kuroda
1 点目については、そもそも税制の具体的な改革内容は、政府や国会で議論されるべきものでありますので、私の立場から具体的にコメントすることは差し控えたいと思います。その上で財政に関する一般論として申し上げれば、持続可能な財政構造を確立することは、財政にとって重要であるだけでなく、日本経済が持続的な成長を達成していく上で必須の前提でありますので、これは国全体として取り組むべき課題であると思っています。この点、政府は、中期財政計画で財政の健全化に向けた数値目標とその達成に向けた取組みを示しております。日本銀行としては、こうした取組みが着実に実行されていくことを強く期待しています。2 点目のGPIFの運用改革等の話題については、私の立場からコメントすることは差し控えたいと思います。
§11Question
消費増税の影響についてお尋ねします。増税から 2 か月が経って、ハードデータも出てきています。総裁からは、冒頭、駆け込み需要の反動減は想定通りだとの話がありましたが、具体的に、どういうデータをもって判断されているかをお伺いします。もう 1 点は、今年4月の展望レポートでは、夏場にかけて消費増税の影響は減衰していって、7~9月から需要は戻るという見通しだと思います。そういう日本銀行の見通しについて、消費増税を乗り越えて達成される確度というのは、5月の決定会合の時よりも高まっていると言えるのでしょうか。言葉を変えれば、4月の消費増税に伴う景気の下押し圧力というのは、乗り越える目途がついたとご判断されているのかどうかを教えて下さい。
§12Haruhiko Kuroda
相互に関連したご質問だと思います。まず 1 点目については、既に色々な形で経済指標も出ていますし、企業からの発言も色々あるようですが、4月に入ってからの消費動向全体では、自動車等駆け込み需要が大きかった耐久消費財を中心に、反動減がはっきりと現れています。ただ、企業からは、反動減の大きさは概ね想定の範囲内である、消費の基調的な底堅さは維持されているという声が多いようです。こうした見方は、景気ウォッチャー調査等においても 2、3 か月先の先行き判断DIがはっきりと改善していることにも表れているように思います。以上のことを踏まえると、4~6月の成長率は、反動の影響からマイナスに一旦落ち込むと予想していますが、ベア実施を決めた企業が増えて、夏のボーナスもはっきりと増加する見込みにあることなど、雇用・所得環境の明確な改善が続くと見込まれていることから、個人消費の基調的な底堅さは維持されて、夏場以降、駆け込み需要の反動減の影響も減衰していくのではないか、とみています。そうしたもとで、潜在成長率を上回る成長経路に、わが国経済は復していくだろうとみています。2点目の夏場以降の回復の確度について、私どもは夏場以降、駆け込み需要の反動減の影響は減衰し、潜在成長率を上回る成長経路に次第に復していくとみており、そういう意味では確実だと思っています。
§13Haruhiko Kuroda
しかし、色々なリスク要因もあり得るので、今後とも各種の経済統計をよく詳細にフォローするとともに、ヒアリング情報も含めて利用可能な情報をできる限り活用して、丹念に点検していく必要があると思っています。先程申し上げた通り、夏場以降反動減の影響が減衰していき、次第に潜在成長率を上回る成長経路に復帰する確度が高いと思っています。
§14Question
4月のコアCPIは、消費増税の影響を除くと、前年比+1.5%と、展望レポートで示した今年度の見通しが前年比+1.3%であることを考えれば、4月だけみると上振れていると思います。4月に若干上振れた要因についてお聞かせ下さい。また、物価と成長のバランスが崩れているという懸念はないのでしょうか。この 2 点をお願いします。
§15Haruhiko Kuroda
確かに、消費税の直接的な影響を除いたベースで、除く生鮮食品の消費者物価指数が 4月に+1.5%の上昇となったことは、一般に想定されていたよりも若干上振れたかもしれません。ただ、月々の物価上昇率にはある程度振れがありますので、趨勢あるいはトレンドをよくみていく必要があると思っています。その面では、本日の公表文「当面の金融政策運営について」でも示している通り、「消費者物価の前年比は、暫くの間、1%台前半で推移する」とみています。ある程度幅を持ってみていく必要があると思いますし、1.5%がずっと続くとみる必要はないと思います。2点目のバランスについてですが、経済の実質成長率は 6 四半期連続プラスです。1~3月は、駆け込みも含まれてかなり上振れしていますし、4~6月は、先程申し上げたようにマイナス成長になると思われますが、全体として、内需を中心に着実に回復してきている、緩やかではあるが回復は続いているという意味では、特にバランスが取れていないことはないと思います。ただ、輸出が、やや多くの人が想定していたより弱めに出ていることは事実であり、そのあたりは、今後ともよくみていく必要があると思っています。
§16Question
ごく足許ですが、イラク情勢がやや緊迫しており、昨日も原油価格が上がり、株価は下落しています。総裁は、このリスクをどのようにご覧になっていますか。
§17Haruhiko Kuroda
昨日の今日ということですので、特別なことを申し上げる立場にはありませんが、イラクは世界に石油を供給している重要な国の一つですので、その地政学的リスクがどのように動くかについては、十分注意してみていかなければならないと思っています。今すぐに、何か特別なことを申し上げることはできませんが、十分注意していく必要はあると思っています。
§18Question
ECBのマイナス金利について、総裁の評価をお伺いします。下限金利をマイナスにすることの効果は、どれだけ出るか不透明だとも言われていますが、金融政策の実効性や効果についてどうお考えでしょうか。また、世界的な金利の低下圧力が、為替市場ではやや円高方向への圧力になると思います。物価の上昇には、円安の進行がある程度必要と言われますが、ECBのマイナス金利などの緩和が長期化して、日銀のシナリオに何か影響を与えてくることは考えられるのでしょうか。もう 1 点、物価の伸び率は当面1%台とのことですが、いずれ鈍化するとの見方もある中で、現在の金融政策のままで、秋口、年後半も、少なくとも 1%台は維持できるとお考えでしょうか。改めてお聞かせ下さい。
§19Haruhiko Kuroda
マイナス金利は、ヨーロッパでも前例があるにはありましたが、ユーロ圏という非常に大きな経済圏をみている中央銀行であるECBが、準備預金金利をマイナスにしたのは初めてですので、その意味では注目されるのは当然と思います。先程申し上げた通り、今回の政策パッケージは、単に中銀預け金のマイナス金利だけではなく、政策金利も引き下げていますし、銀行貸出の促進、貸出金利の低下を狙った新型オペの導入など、様々な手段を動員した金融緩和パッケージですので、それなりにディスインフレ状況にあるユーロ圏についてプラスの効果が期待されるものではないかと思います。いずれにせよ、導入してまだ間がないので、欧州の金融市場や実体経済の動向をもう少しみていく必要があると思っています。また、日本の物価上昇率の今後の動向ですが、1.5%は皆の予想よりも若干上振れている可能性はありますが、月々変動するので、1.5%がずっと続かなければならないと考える必要もないと思います。私どもは、当分の間、1%台前半で上下しながら推移し、年度後半から上昇率を高めていき、2015年度を中心とした、見通し期間の中盤頃に 2%に達するとみており、そういった従来から持っている考え方に変わりはありません。
§20Haruhiko Kuroda
物価の動向は常に注視しており、2%の「物価安定の目標」との関連ではまだ途半ばですので、「量的・質的金融緩和」を着実に推進して、先程申し上げたような見通しに沿った形で、「物価安定の目標」が達成されることを期待していますし、かつ、そうしなければならないと思っています。
§21Question
2 点伺います。1 点目は、今後の資産買入れについてです。日銀は 2015年以降の資産買入れの見通しを公表していませんが、総裁は、現在の政策はオープンエンドとおっしゃっています。そうであれば、今後も、物価が日銀の見通しに沿って推移する場合、目標が達成されるまでの間は、2015年の 1月以降も、今の資産買入れを続けていくという理解でよろしいのでしょうか。もう1点は、消費税率引き上げの所得への影響です。先程、増税の影響として、反動減については想定通りとおっしゃっていますが、やはり、実質所得の減少という面があると思います。これが今後の個人消費やマインドに与える影響について、足許、原油価格なども上昇しており、その点も踏まえてどのようにお考えなのか、教えて下さい。
§22Haruhiko Kuroda
昨年4月4日に「量的・質的金融緩和」を導入した際の公表文でも、毎回の金融政策決定会合後の公表文でも示している通り、「量的・質的金融緩和」は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続すると言っています。カレンダーで何月まで等と決まっているのではなく、その意味でオープンエンドであり、あくまでも 2%の「物価安定の目標」の実現、そしてそれを安定的に持続するために必要な時点まで続けるということに変わりはありません。2015年になったら、2%にも達していないのに、あるいは安定的に持続するような状況になっていないのに、「量的・質的金融緩和」をやめるというようなことはありません。また、消費増税の実質所得への影響についてですが、ご指摘のように、駆け込みと反動減は理念的に言うと基本的にはニュートラルになる話であり、短期的には、経済実態つまり成長率に影響はありません。しかし、中長期的にどうかといえば、ご指摘のように税負担の増加ですので――これは、消費税でも所得税でも同じですが――、その面だけ取り上げれば、実質可処分所得が減少して消費に影響が出ることはその通りです。ただ、他方で、ご存知のように、今回の消費増税に際しては、政府も影響を緩和するための様々な措置をとっていますので、それによってマイナスが相当緩和されている可能性はあります。
§23Haruhiko Kuroda
さらに、中長期的にみれば、これによって財政全体の持続可能性が増し、社会保障などについての信頼性が増してくれば、むしろそれが消費を支えるというプラスの面もありますので、必ずしも、消費増税が中長期的に消費あるいは成長率の伸びを抑えることにならないと思います。
§24Question
輸出関連で 1 点お伺いします。4月の展望レポートでは、先行き輸出が緩やかに回復するということが前提になっていたと思いますが、その前提の捉え方は、委員によって幅があるように思います。実際、輸出統計をみると、4月も、5月上中旬のデータも弱かったわけですが、輸出が伸びないことによって成長率に何がしかの下押し圧力が働くと思います。それが物価に与える影響を現状どうみられているのか、また、昨年のように相対的に生産性の低い非製造業が活発化すれば、成長率が下振れても物価はオントラックといった可能性も続くのかどうかについて、お伺いします。
§25Haruhiko Kuroda
実質成長率は、様々な要因で決まってきますので、輸出が想定していたほど伸びなくても、内需がそれ以上に伸びれば、実質成長率は想定よりも上振れするかもしれません。他のものが変わらないとすれば、特定の要素だけを取り出して、それが予想よりも伸びなければ、全体も伸びなくなるはずですけれども、全体が伸びなくなるかどうかは、他の内需その他の要因にもよりますので、一概には言えないと思います。4月の輸出は若干伸びましたが、多くの人が期待していたほどは伸びなかったというのは事実でありまして、その背景としては、この 1~3月に米国の成長率がマイナスになったこともありますし、世界経済全体としてみても、かなり成長率が下がっていましたので、それらが輸出に若干の影響を与えたことは否めません。成長率の一時的な低下が、輸出の一時的な低下に結びつく間に若干のラグがありますので、もう少しデータをみていく必要があると思っています。いずれにしましても、輸出の動向については、日本の主要な輸出先であるアジア、米国等の経済動向をよく点検していく必要があると思っています。輸出の回復時点が少し後ずれした可能性はありますが、輸出が全体として回復しないというようにはみていません。
§26Haruhiko Kuroda
先程申し上げたように、1~3月は、一時的に世界経済の成長率が、かなり鈍化しましたが、その後、米国は明確に成長率が上昇し、今後さらに加速していくだろう、というのが私どもの見方であり、多くの方の見方です。中国経済をみると、成長のモメンタムの鈍化が止まって、はっきりと安定成長の状況となってきています。私どもは、今後、米国を中心に先進国の経済成長が加速していき、中国その他の新興国の成長率も安定的に高い水準で維持されるとみています。IMF、世界銀行等も同じようにみているようです。そうしたシナリオに沿って世界経済が動いていく限り、日本の輸出も、緩やかではあるけれども増加していく、とみていいのではないかと思っています。
§27Question
潜在成長率に関連してお伺いします。足許、設備投資が増えており、経済の供給力の向上にも貢献してくるかと思います。その中で、最近、総裁、副総裁も含めてですが、政府の成長戦略への期待とか、成長力、供給力の向上が必要だというお話が増えているかと思います。こういったことについて、市場では、潜在成長率が上がらないと物価が上がらないと日銀が考え始めているのではないか、という、うがった見方をする人もいるのですが、そういったことに関して、総裁はどうお考えでしょうか。
§28Haruhiko Kuroda
それは、うがった見方というか、間違った見方だと私は思います。私どもは、潜在成長率が下がると物価安定目標が達成できないとは考えておりません。あくまでも「量的・質的金融緩和」を着実に推進することによって 2%の「物価安定の目標」は達成できるとみています。ただ一方で、物価は 2%の上昇を達成するけれども、実質成長率は非常に低いままということは好ましくなく、予想以上のスピードで労働需給がタイトになり、GDPギャップが縮小してきていますので、中長期的にみて成長率を高めていくための政府・民間の努力は、極めて重要であると思っています。一方、日本銀行としても、先程申し上げたように、デフレ・マインドが残っていると、なかなか企業が前向きの投資を行わない、あるいは生産性向上に向けた様々な取組みをやりにくいという面があったわけですので、それを払拭して、積極的な投資、生産性向上に向けた前向きな取組みを促すことによって、潜在成長率の押し上げにも何がしかの貢献ができるのではないかと思っています。しかし、基本的には、中央銀行は、物価安定を達成し、政府は、民間主導の経済成長を達成するための努力をするということだと思いますし、それが昨年1月の政府と日本銀行の共同声明でも示されているわけであり、ご指摘のような、うがった見方というのは、当たっていないと思います。
§29Question
先月の会見で、為替相場について、円高になるような理由はないとおっしゃいました。これはドル/円を念頭に置かれたと思いますが、ユーロ/円についても同じような考えですか。少し細かい話で恐縮ですが、よろしくお願いします。
§30Haruhiko Kuroda
これは、先程の別の方が言われた問いとも関連していると思います。ユーロ圏の物価上昇率が 1%を割った状況が半年以上続いていて、今後、ECBの見通しでも、中期的にECBが目標としている 2%に近い 2%以下の物価上昇に、なかなか達しないということがあるわけです。また、今回、ECBは追加緩和パッケージを出したわけであり、そういった状況が為替レートにどういう影響を与えるか、ユーロ/円にどういう影響を与えるかということは、色々な議論ができると思います。常に申し上げていますが、為替レートは色々なファクターに影響されますので、なかなか一概には言えないと思います。一方で、わが国では 2%の「物価安定の目標」に向けた道筋を着実に辿っているとはいえ、まだ途半ばでありますし、「量的・質的金融緩和」は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、それを安定的に持続できるようになるために必要な時点まで続けるわけです。また、リーマン・ショック前のレベルと比べると、今のユーロ/円のレベルというのはユーロがかなり安い、低い状況にありますので、色々勘案すると、マイナス金利を含むECBの追加緩和によって、円がユーロに対して特に強くならなければならないということはないのではないかと思っています。
§31Question
先日、白井審議委員が講演と記者会見を行われました。日銀の中心的な見通しとしては、消費者物価指数が 2015年度を中心とする期間に 2%に達する可能性が高いとなっていますが、白井委員は、それからほぼ 1年くらい遅れるというご自身の見通しを示されました。その上で、追加緩和は必要ないのかという質問に対し、ご自身の見通しから後ずれする、あるいは下振れるようなことがあれば必要かもしれない、裏を返せば、ご自身の見通し――中心的見通しに比べ1年遅い見通し――が実現するのであれば追加緩和は必要ないのではないか、ということを示唆されました。黒田総裁あるいは政策委員会の中心的な考え方としては、2015年度を中心とする期間から 1年も遅れるようなことになれば、追加緩和が必要だとお考えになるかどうか、お聞かせ下さい。
§32Haruhiko Kuroda
昨年4月4日の導入時に申し上げた通り、私どもの意図としては、2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に達成するために、必要にして十分な金融緩和を導入したわけです。その後、着実に 2%への物価上昇の道筋を辿っているとみており、このところ、政策委員見通しの数字も、成長率については若干振れがありましたが、物価上昇率の中央値は変わっていません。すなわち、先日の展望レポートにある通り、2014年度から 2016年度までの見通し期間の中盤頃、ですから 2015年度を中心とした時期に、「物価安定の目標」である 2%に達する可能性が高いとみています。幅はありますが、政策委員の大勢はこのような見方であると言ってよいと思います。こうした見通しと違った、上振れでも下振れでも上下双方向のリスクが出てくれば、当然、躊躇なく政策についての調整を行うことも申し上げている通りであり、この点についても、政策委員の考え方は大方、一致していると思っています。
§33Question
法人税減税の件で、先程、安倍総理が来年度からの減税を表明されたので、改めて確認します。法人税減税が果たして日本経済の成長の底上げにどれぐらい効果があるのか、また、恒久的な代替財源が必要だというお考えにお変りはないのか、総裁のお考えをお聞かせ下さい。
§34Haruhiko Kuroda
税制改正の経済的な効果は色々な分析ができると思います。法人税減税についても、色々な分析があり、法人税減税の部分だけを取り出した場合、それが設備投資や研究開発投資を促進し、経済成長にとってプラスになるだろうという分析結果というのは一般的に認められていると思います。他方で、その部分だけをみるというのは、現実の政策としてはなく、財政赤字が拡大するがどうするのか、あるいは財政赤字が拡大しないように代替財源をどうするのか──例えば、具体的に何かの税を増税するとか、歳出をカットするか──、その影響も勘案しないといけません。それらを全体として勘案した場合に、どうなるのかというのはそう簡単ではないと思います。ただ、法人税減税の部分だけを取り出してみれば、投資を促進し、成長率を押し上げる、潜在成長率を押し上げるという効果があるということは間違いないと思っています。なお、恒久減税については、恒久的な財源の措置が必要であるというのは、私は当然であると思っていますが、いずれにせよ具体的にどういった税制改正を行うのか、あるいは、その財源をどのように求めるのか、といったことは、政府、国会で議論し、決められることであると思っています。以上