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日本銀行記者会見2014年7月29日石田浩二, 審議委員

石田審議委員記者会見(2014年7月29日)要旨

全文

§1Question

午前中の金融経済懇談会を踏まえ、当地、山口県あるいは九州も含めたこの地方一帯の経済状況をどのようにご覧になっているか、先行きや課題も含めてお伺いできればと思います。

§2Koji Ishida

山口県の金融経済の現状については、「消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられていますが、基調としては回復している」と認識しています。個人消費は消費税率引き上げの影響が残っていますが、雇用・所得が着実な改善を続けるもとで底堅く推移しているとみています。また、下関支店が今月初めに公表した短観をみると、業況判断DIは 7 期ぶりに低下していますが、3月短観における先行き予測ほどは低下しなかったということで、企業の景況感の底堅さが確認できたと感じています。今年度の設備投資計画についても、前年を 1 割以上上回る計画となっているなど、企業の投資姿勢は積極化しているとみています。今後はこうした前向きの経済活動がより拡がりを持つことで、景気回復がより確かなものとなるように期待しているところです。私どもとしては、こうした現状をしっかりと認識したうえで、引き続き適切な金融政策運営に努めていきたいと考えています。

§3Question

山口県の経済の先行きについて、もう少し詳しくお伺いできますか。

§4Koji Ishida

先行きについては、今後の海外経済の動向などにも関係するわけですが、本日ご出席の皆様から聞くところでは、悲観的なお話よりは前向きなお話が多かったような気がします。ただ、中には人手不足の問題などに触れられた方もおり、今、地方経済が抱えている色々な制約、そういうものはやはり前提としてあることを認識した次第です。

§5Question

金融経済懇談会の挨拶要旨にもありますが、改めて山口県経済の特徴についてどのようにお感じでしょうか。

§6Koji Ishida

山口県は、瀬戸内海沿岸を中心に鉱工業生産の約 4 割を占める化学をはじめ、自動車、造船、機械、金属の工場が進出するなど、全国有数の工業県です。また、2 つの空港と 2 つの国際拠点港湾を有するなど、交通インフラに恵まれた県でもあります。更には魅力的な自然景観や、数多くの歴史的な名所、旧跡などの観光資源も豊富です。このように山口県は製造業や観光業をはじめ、高いポテンシャルを有していると認識しています。そうした中で当地経済の一層の活力向上に関して思うところを 2 点申し上げますと、1 点目は、域外需要の取り込みということです。当地の製造業も中国や韓国をはじめ、海外企業との競争が一段と激しくなっており、こういう中で収益を安定的に確保していくためには、付加価値の高い製品を生み出して、域外需要を取り込んでいく必要があろうかと思います。また、豊富な観光資源を活かすことで、外国人観光客も含めた域外からの観光客を増やしていくような取り組みも必要だと思っています。2 点目は、山口県では少子高齢化が全国平均を上回るペースで進行していますので、足許で公共工事や民間設備工事などに関係する建設業を中心に人手不足の影響がみられ始めています。今後は高齢者や女性の積極的な活用を含めて、働き手を確保・育成していくことが必要だと考えています。

§7Koji Ishida

色々な創意工夫を地元の方々もされていると聞いていますので、その試みが実を結んでいかれるように思っている次第です。

§8Question

講演の中で、注目するポイントとして企業の価格設定行動を挙げていますが、このコスト高を転嫁する動きというのは、想定よりも早いペースで拡がりをもって出てきているということなのでしょうか。また、デフレマインドが払拭されていることが背景にあると言えるのか、まだその辺りの見極めは少し難しいのか、お伺いします。

§9Koji Ishida

本日の挨拶でも触れましたが、仕入価格判断 DIは依然として非常に高い水準にあり、企業にとって仕入価格の上昇が続いています。デフレの時代はそういう状況でも販売価格への転嫁がなかなか進まなかったわけですが、今月初に公表された6月短観では、販売価格 DIの面でもピックアップがみられており、プラスの圏内に変わってきています。言ってみれば、企業の価格設定行動が少しずつ積極化しているのだろうと思います。先程申し上げましたように、仕入価格の上昇圧力がまだありますから、このまま推移すると、徐々に価格設定行動が積極化してくると思います。それを支えるのは景気が底堅く推移していくことであり――我々は「展望レポート」の考え方ではそういう方向で進むとみているわけですが――、これが万一弱くなると、企業の価格設定行動にも影響するということで注意深くみていきたいということを申し上げた次第です。

§10Question

講演の中で 2%の物価目標に関して詳しく言及されていましたが、去年の4月に日銀で「2年で 2%」ということをコミットメントし、市場はやはりコアのCPIを重視しているのですが、本日の石田審議委員の講演をお伺いすると、決してコアのCPIのみで判断されない、様々な物価動向をみるということですが、そうするとコアのCPIが 2%というのは、あくまでも十分条件ではなく、一つの必要条件であって総合的に判断されるということを言われているかと思います。そうするとやはり市場としても、金融政策の透明性とか、先行きの政策をみる上で少し市場の変動が大きくなるようなことも考え得るかなと思うのですが、この点に関してもう少しお伺いしたいと思います。

§11Koji Ishida

そもそも物価の安定という概念はなかなか難しいところがあります。例えば、何かの指標が 3 か月間 2%を続けたらそれで OK なのかと言えば、そういう基準では判断できません。経済統計の数字は絶えず動いており、みているうちに来月はどうなるのかということになってきます。このため、やはり日本銀行が責任をもって判断するということだと思います。何か一つの指標が自動的に一つの予め決まった基準にいくから透明性があるというようには考えていません。様々なものを判断していく際に、納得性があるのかどうかということが重要だと思います。政策委員会が様々な側面から検討を加えて認定するということであれば、それは外からみても納得性のいくようなものであって、決して不透明とか、漠然としているとか、よく分からないとか、そういうことにはならないと思います。

§12Question

輸出と設備投資の関係についてお伺いしたいのですが、過去のパターンでは、輸出が盛り上がると設備投資も盛り上がっていくというパターンがありましたが、今回は、この間の議事要旨にも触れられていましたが、その関係が弱まっている、デカップリングになっているのではないかという見方があります。石田審議委員はその点どのようにご覧になっていますか。

§13Koji Ishida

いわゆる能力増強投資については、最近は過去に比べると非常に少なくなっているという気がします。殊に、輸出企業関係の能力増強投資よりも、省力化投資や耐久期間の過ぎた設備を入れ替える更新投資が大きくなっているのではないかと思います。ですから、輸出が増えた時に輸出産業が能力増強投資を実施する――例えば、自動車などの新しいラインを作る ――かというと、どうもそういうことではないような時期になってきているのかなと思います。

§14Question

2%の物価安定の実現を判断する際、あるいは安定的に持続しているかどうかを判断する際に、コア CPIだけで判断するのは適当ではないとの質問がありましたが、私もこの点について一つお聞きします。安定的に実現、持続するかどうかという点については、もともと物価安定目標というのは消費者物価の総合で示すということはもちろんよく理解できるのですが、基本的にほかのボードメンバーのこれまでのご発言などから考えると、展望レポートや黒田総裁などは、15年度を中心とする期間に物価目標である 2%に達する可能性が高いという言い方をしているわけですが、これについてはコア CPIを指しているというのが一般的な認識ではないかと思います。石田審議委員の講演でのご指摘というのは、そのコンセンサスとはやや違うのではないかという印象を受けました。

§15Question

そのうえで、もしコア CPIではなく、色々な指標で判断されると、その中にもちろん総合もあり、ここで指摘されている帰属家賃を除く消費者物価指数も判断材料とされるのであれば ――前提としてこれらの指数がコア CPIよりもかなり高いと講演の中でも指摘されていますが――、帰属家賃を除く指数についていえば、もうほぼ2%近傍で既に推移しているということを考えると、石田審議委員ご自身は市場が思っているよりも、あるいは日銀のボードメンバーのコンセンサスで認識されているよりも早い段階でこの 2%に達成したと、あるいは安定的に持続していると判断される可能性が十分にあるのではないかと思います。この点についてのご意見をお聞かせ下さい。

§16Koji Ishida

日本銀行がコア指数を使用しているのは、トレンドをみるのに良いということが理由であり、以前からのことです。総合指数とコア指数では、総合指数のほうが高い時もありますが、これは上がったり下がったりするものです。ただ、総合指数の方が生鮮食品を含むために、上げ下げの幅が大きい、変動が大きいということがあるので、足許でのトレンドをコア指数でみているというだけです。コア指数で全てを測っていると本行が発表したことは、過去の資料のどこにもないと私は思っています。それから、安定的に達成していくということを判断することも非常に難しいと思います。言葉で言うのは簡単ですが。経済指標は毎月動きますから、安定的に達成している状態を何かの基準で表していくことはなかなか難しいと思います。従って、それはやはり判断の問題となります。判断の問題になるのであれば、様々なことを考えたうえで総合的に判断することがやはり必要だというのが私の考えであって、何か高めにいくとか低めにいくとか、そういうことではないと思っています。

§17Question

その点についてもう一つ追加でお聞きしたいのですが、講演では、持家の帰属家賃を除く総合について、コアよりも 1%以上高いと、すでに 2%近傍の水準でこのところ推移していると指摘されています。この文脈を考えると、こうした持家の帰属家賃を除く総合が高すぎるということ自体が、実際の家計の支出行動に対して良からぬ影響を与えているというような認識ではないかと思います。この色々な CPIの中で、コア CPIだけではなくて総合、そしてコアコア、そしてこの持家の帰属家賃を除く総合、色々なものを総合して、2%の達成あるいは安定的に持続ということを判断されるということですけれども、この持家の帰属家賃を除く総合 ――これが実質賃金を計る際には使われる指数ですが――、これはあまり高いとやはりよろしくないと――今既に2%なわけですが、これがそのコアCPIがあと 1%ぐらい 2%にいくには必要なわけですけれども――、この持家の帰属家賃を除く総合が今2%なのが 3%近くまで上がる状況というのは望ましいといえるのかどうか、ご見解をお聞かせ願えますか。

§18Koji Ishida

多くの方は、コアCPIを消費者物価の上昇率としてみているわけですが、一方で、所得や消費支出については、実質ベースの数字 ――新聞の中で例えばマイナス3.6%とか、マイナス8%とか――が出ています。ですから、そこで使われる物価指数がコアCPIと違うということも明らかにしておく必要があろうと思います。コアCPIで物価上昇を語りながら賃金について実質ベースで語ると、その間で実質化に使われている物価指数はコアCPIだと思われている方が多いのではないかと思うのです。そうではなく、やはりこういう基準の物価指数が使われていて、足もと6月の伸び率が4.4%となっており、――コアCPIであれば3.3%ですが――実質化の際に大きな影響が出ているということは、私としてはやはり言っておく意味があるのではないかと思ったわけです。従って、そこに何か別の思惑などがあると考えて頂くのは、私の本日の真意ではございません。

§19Question

金融経済懇談会では出席者の方からどのような意見や要望が出たのでしょうか。

§20Koji Ishida

本日の懇談会では、山口県の行政や財界、金融界を代表する方々にご出席賜りまして、地域の現状や課題、あるいは日本銀行の金融政策運営に関するご意見をお伺いしました。意見は多岐にわたったので、かいつまんで席上で聞かれた話題を申し上げますと、まず当地の景気情勢については、足許駆け込み需要の反動はみられていますが、基本的には想定の範囲内であり、景気は全体として良い方向に向かっているという声が多く聞かれました。設備投資に関しては、持ち直しの動きが今一つはっきりとみられないという方もおられましたし、一方では投資環境の改善を受けて、国内でかなり多額の投資に踏み切ったというお話も伺いました。また、当地の課題については、足許、建設関係などで技能労働者が不足しているといった声が多く聞かれたほか、中長期的には、県内の農林水産業の力を足腰の強いものにしていくことや、高齢者や女性が活躍できる環境を作って、県内経済の活性化を図っていく必要があるなどの意見も聞かれました。日本銀行に対しては、わが国の景気が消費税率引き上げの影響を乗り越えて回復基調を続けていくために最大限の努力を行ってほしいというものや、デフレ脱却に向けて引き続き適切な金融政策運営をお願いしたいなどのご意見が聞かれたところです。私どもとしては、このようなご意見を真摯に受け止めて、お応えしていきたいと考えております。

§21Question

山口県の話題の中で、化学や機械、自動車関係の話があり、輸出面の関心が高いと思われますが、この点について、懸念や心配など、特に輸出面でどのような話が懇談会の中であったのか、印象に残っているところを教えて下さい。

§22Koji Ishida

印象に残っているところでは、やはりアジアにおける過剰設備の問題、そのもとで輸出環境はなかなか厳しいものがあるというような話が聞かれました。また、為替レートについては、安定してほしいというご要望がありました。日本銀行が為替相場を動かしているわけではありませんが、その点については認識されたうえで、為替レートの安定が何よりも必要だという認識を示された方もいらっしゃいました。

§23Question

これ以上円安になると困るとかいう話はありましたか。

§24Koji Ishida

特に為替レートの水準に関しての話はなかったように記憶しています。

§25Question

海外のリスク要因について、特にガソリン価格との関係についてどのようにみているか教えて下さい。

§26Koji Ishida

ご質問の趣旨は地政学的なリスクとの関係だと思いますが、地政学的なリスクに関しては、ご案内のようにマーケットは一旦反応した後に収まったような形になっています。ただ、こういうリスクの特徴として、いざ本当に発現した場合に、非常に大きくなる可能性があります。今の段階でそうしたところまで事態が進展しているとはみていませんが、こういうことは、先行きどのように進展していくか、予測しがたいところが事態の本質ですので、我々としては気を許すことなく慎重に経過を見守っていきたいと考えています。

§27Question

CPIのコア指数の 2%は、結局、物価安定目標の実現の判断の必要条件なのでしょうか。

§28Koji Ishida

必要条件というように、何々が何々という状態にならなければならないと条件を決めつけることが適当だと私は考えていません。例えば、ある指標がここに到達していなければいけないとか、この水準以上でなければならないとか、予めそのように個別のインデックスを扱っていくのではなく、全体としてみた時に――殊に、ある程度の時間帯をもって総合中心にみていくわけですが――コアCPIの 2%は一つの重要な要素ではありますが、どうしても一定の水準が必要であると私は考えていません。2%の物価安定目標を導入した時――これは前執行部の時ですが――、それまで日本銀行が「目標」という言葉を使わなかったのは、日本の場合、どうしても「目標」とすると非常にリジッドなものとして取り扱われる恐れがあり、そのことが金融政策の柔軟性を妨げるのではないかという懸念が強くあったからだと思います。そういう状況が諸外国のインフレーションターゲットの運営の過程を通じて、わが国でもある程度の柔軟な運営ができるのだろうと判断し、「目標」という言葉――その前は「目途」と言っていたはずですが――を使うようにしたと私は思っています。

§29Koji Ishida

何々が何々でなければならないという非常に堅い条件を設定すること、例えばある特定の指標で 2%の状態が 3 か月間続く必要があるとか、ワンタッチしたらいいとか、そのように考えるのではなく、2%の物価という問題について、それが適切なレベルまで来ているかどうか、それは判断することだと思います。必要条件ということは、判断の際にそれが達成していなければならないということです。場合によっては、コアCPIが2%を超えても判断しない時があるかもしれませんし、あるいは、そのほかの色々な条件を考えて、2%に若干足りなくても判断する時があるかもしれません。この点については、政策委員会で議論が行われますので、その段階で多数の意見が収束するところで、最もふさわしい判断が出ると私は思っています。以上