総裁記者会見(2014年11月25日)要旨
全文
§1Question
本日の経済団体等との懇談会の感想についてお聞かせ下さい。どのようなお話が印象に残り、どのようにお考えになったでしょうか。
§2Haruhiko Kuroda
本日は当地の経済界、金融界を代表する方々から当地経済の現状に関する大変貴重なお話や金融政策運営に関する率直なご意見を数多く頂くだけでなく、さらには有意義な意見交換ができたと思います。そうした意見交換を踏まえて、感想といいますか、足許の東海3県の景気について申し上げると、名古屋支店で判断している通り、「基調としては回復を続けており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も、全体として和らいでいる」とみています。当地は、輸出・生産が高めの水準で推移する中で、好調な企業収益のもとで、設備投資が増加を続けているほか、雇用者所得も改善しています。こうした中で個人消費も基調としては持ち直しており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も全体として和らいでいるとみています。本日の懇談会の出席者の方々も、当地の景気の現状について、概ね同様の意見であったと思います。その上で、今後の東海3県の景気の見通しについて申し上げると、基本的には、全国と同様、所得から支出への好循環が続くもとで、回復が続いていくのではないかと思っています。その際、当地の場合、自動車など輸出関連産業が数多く集積していますので、海外経済の情勢等についても注視していく必要があると思っています。
§3Haruhiko Kuroda
また、今回の懇談では、当地経済界の方々から、中間決算が総じて好調であり、最高益を計上している企業も多いという話や、金融機関の方々からも、企業の海外進出やM&A、事業承継、ビジネスマッチングに対する支援など様々なニーズに積極的に対応していくという話をお伺いしました。以上のように、今回の懇談では、当地企業の活力を改めて認識するとともに、そうした企業を金融機関がしっかりと後押ししていることが印象的でした。東海地域の経済、ひいては日本経済が全体として今後とも益々発展していくためには、企業が、そうした取り組みも含めて、好調な収益やこれまで積み上げた手元資金を積極的に使っていくことが重要だと考えています。なお、懇談会では、為替相場の安定、中小企業の経営状況、海外経済の動向などに関するご意見も頂きました。日本銀行としては、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、引き続き適切な政策運営に努めていく所存であります。
§4Question
当地の産業構造についてお伺いします。永らく中心産業として自動車産業が活躍していますが、時に「一本槍」とも表現されます。この地域がさらに成長していくための今後の鍵についてどのようにお考えでしょうか。
§5Haruhiko Kuroda
中長期的に経済成長を果たしていくためには、チャレンジ精神に溢れた企業自身の前向きな取り組みというものが不可欠であると思っています。そうした意味で、当地には、創業事業と全く異なる事業に進出し大きな飛躍を遂げた企業も少なくありません。こうしたことからも窺われますように、当地企業には、新たな需要の開拓に向けて果敢に挑戦していくフロンティア精神が根付いていると思いました。実際、本日の懇談会でも、既存産業を超えて色々な産業について触れられる方がおられました。例えば、「次世代自動車」、「航空宇宙」、「観光」等の様々なリーディング産業の育成、発展を目指しているという話があり、大変心強いと思うと同時に、こういったこと自体も、自動車産業を基礎とした製造業全般の高い競争力、成長力を基礎にして、その上にさらに様々な新しい産業で発展していこうというフロンティア・スピリットのなせる技ではないかと思います。そういう意味で、東海地域は、日本経済をリードしている地域ではないかと思います。
§6Question
円安についてです。懇談会でも質問がありましたが、輸入資材が上昇するなどの影響が出ている、地元企業からそういう声が聞かれる、という話でした。最近の円安が日本経済に与える影響、とりわけ輸出産業が中心の東海地方への影響についてお聞かせ下さい。
§7Haruhiko Kuroda
いつも申し上げていますが、為替相場の水準とか日々の動きについて、私の立場から、具体的なコメントを申し上げるのは差し控えたいと思います。その上で、一般論として申し上げると、円安は、輸出の増加あるいはグローバルに展開している企業の収益の改善、さらには株価の上昇といったプラス効果を持っています。また、ものづくりの観点からは、今年度は国内での設備投資ウェイトを高めるという動きも出ております。もちろん、海外に移転した企業あるいは工場が戻ってくるというよりも、これまでのようなペースでどんどん海外に出ていくのではなく、むしろ国内の設備投資を強化しようという動きもみられています。一方で、輸入コストの上昇やその価格転嫁を通じ、中小企業や非製造業の収益あるいは家計の実質所得に対する押し下げ圧力として作用するという面もあることも事実です。このように、円安の影響は、経済主体によって様々に異なり得ると思っています。いずれにしましても、為替相場は経済や金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいと思っていますので、今後とも、為替相場の動きを含め、金融資本市場の動向については、それが実体経済に及ぼす影響を含めて、引き続き、注意深くみていきたいと思っています。
§8Question
今おっしゃった中で、円安は、輸出企業の収益を押し上げていますが、一方で、日銀の指標をみても、数量、国内で作ったものを海外に輸出する量自体は、横ばいと言いますか、それほど増えてはいません。その点、海外への生産シフトが進んでしまったということもあると思うのですけれども、その辺の動向を今後はどうみておられるのか教えて下さい。
§9Haruhiko Kuroda
ご指摘のように、輸出の数量というのは、横ばい圏内で推移しているということは事実です。その点は、先日の金融政策決定会合後の公表文等で示されている通りであり、従来弱めだったものが、足許少しプラスになってきています。ただ大幅なプラスというわけではありませんので、今のところはまだ横ばい圏内の動きということかと思います。そういう意味では、輸出の数量は必ずしも大幅な伸びを示していません。これまで、輸出の数量がやや弱めから、ようやく横ばい圏内へ、というぐらいで、顕著な伸びを示していないことの背景には、世界経済、特に日本の輸出先の半分以上を占める東アジアの景気回復がややもたついていたということの影響もあるかとは思います。ただ、このところ中国、あるいはNIEs、さらにASEANの一部の国々も、景気回復の足取りがややしっかりしてきている、あるいは加速しているというところですので、今後については、輸出数量もある程度伸びていくと思います。米国経済は極めて順調ですし、欧州も弱めではありますけれども、マイナス成長にはなっていない状況が続いていますので、そういった世界経済、なかんずくアジアの状況をみますと、今後、輸出数量、実質輸出が伸びていっておかしくないと思いますが、構造的に生産の海外移転が既に進んでいますので、かつてのように大幅な増加というのはなかなか期待しにくいと思います。
§10Haruhiko Kuroda
ただ、先程申し上げたように、行きすぎた円高が是正されたもとで、これまでのようなペースで、どんどん海外移転していくということは弱まっていくと思われますし、それから世界経済全体の回復というものがより強くなっていく中で、循環的にも輸出はある程度伸びていくと思われますので、緩やかな輸出の増加というのは今後期待できるのではないかと思っています。
§11Question
為替について、これまで黒田総裁は、経済実態を反映した動きであれば、日本経済に対しては、プラスの方がマイナスの影響よりも大きいということを繰り返しおっしゃっていましたが、今日はその発言を封印されていらっしゃるようです。その理由というのはやはり 118 円くらい 120 円近くになってきて、もうそろそろいいところにきたからとお考えだからなのか、それとも引き続きファンダメンタルズを反映した動きであれば円安の影響は日本経済に対してプラスだとお考えなのかどうか。まずこれが 1 点目の質問です。もう 1 点目の質問は、10月31日の追加緩和を受けて、複数の報道機関が金融緩和・追加緩和について、世論調査をしています。例えば、読売新聞が11月7~9日に実施した調査で、「評価する」、「評価しない」、「答えない」という選択肢の中で、「評価する」が 39%、「評価しない」が 42%と「評価しない」が上回っています。もうひとつNHKが11月7~9日に実施した調査でも、「良い面の方が大きい」というのが 14%、「悪い面の方が大きい」というのが 20%と評価しないという回答の方が多いという結果となりました。
§12Question
こうした世論が、今後、金融政策に与える影響があるのかどうか、また、選挙が近いわけですが、自民党以外の政権あるいは党が優勢になって、2%を何が何でも達成するという日銀の政策に対して修正を求めてくるようなことがあった場合など、今後の金融政策に与える影響という面で、世論または選挙結果はどのような影響を及ぼし得るのかどうか、をお伺いします。
§13Haruhiko Kuroda
為替レートについては、特に考え方が変わったということはありません。ただ、いずれにしても先程申し上げたように、為替レート、為替相場というのは、経済や金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいわけです。日本銀行としては、あくまでも物価の安定を目標に金融政策を運営していますので、その過程で当然、金融資本市場の様々な状況、さらには雇用情勢、所得環境、成長といったこと、ありとあらゆる経済指標をみながら、金融政策の運営を適切に図っていきますが、あくまでも金融政策としては、物価安定の目標をできるだけ早期に着実に達成していくということに尽きると思います。2 番目のご質問につきましても、同様であり、日本銀行としては、物価の安定と金融システムの安定というのが 2 つの大きな目標になっています。現時点では、金融システムは極めて安定しており、先進国の中でも最もしっかりしている状況にあります。一方、物価につきましては 15年続いたデフレからようやく脱却しつつあるわけですが、生鮮食品を除く消費者物価の上昇率が、1%台前半で推移して、このところ直近では 1%というところであり、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成するという目的との関係では途半ばです。
§14Haruhiko Kuroda
引き続き「量的・質的金融緩和」を着実に実施していくことによって、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を達成したい、する必要があると考えています。ちなみにこの 2%の「物価安定の目標」というのは、今やほとんど全ての先進国が採用している物価安定の目標であり、よく言われていますように、物価がそれより低いところで推移していますと、何か経済的ショックがあると、デフレに陥ってしまうというリスクがあり得ます。さらには、消費者物価指数というのは色々な事由から実態よりもやや高めに出るという傾向もあるということが経済学者、統計学者から指摘されているところでして、そういう意味で、2%の物価安定の目標というのは、先進国の中央銀行にとってはグローバル・スタンダードになっているわけです。しかもそれを昨年の1月に政策委員会として決定し、その後の「量的・質的金融緩和」等を通じて、その達成に最大限の努力を払っているところですので、引き続きその達成に向けて努力して参りたいと思っています。
§15Question
為替についてお伺いします。水準というより、先週末、麻生大臣も「円安の進んでいるテンポについて少し急すぎる」というようなことを記者会見で話されていますが、今の円安が進んでいるテンポというのは、ファンダメンタルズに沿った動きであるとみていらっしゃるのかどうか、お聞かせ下さい。
§16Haruhiko Kuroda
先程から申し上げている通り、水準とか日々の動き、スピードが速過ぎるとか速くないとかについて具体的にコメントすることは差し控えたいと思います。これは、各国中央銀行とも、日本だけではなく、米国でも英国でも、為替レートについては、中央銀行の目標ではなくて、政府が為替の安定を達成するという役割分担がございますので、私どもとしては、為替相場の水準、日々の動きについて、具体的なコメントをすることは差し控えます。そこで、先程一般論として定性的なことを申し上げました。
§17Question
為替についてお伺いします。先程、地元の経済界代表の方との質疑応答の場で、過度の円安にならないよう目配りをしてほしいという意見が出ていたと思いますが、「量的・質的金融緩和」の規模を縮小する以外に過度の円安を防ぐ方法というのはあるのでしょうか。仮にあるとお考えの場合は、具体的にどのような対応策があるのか、お考えをお聞かせ下さい。
§18Haruhiko Kuroda
従来から申し上げています通り、日本銀行の金融政策は、現時点で2%の「物価安定の目標」を達成するために、最大限の努力を払っているところであり、為替レートの動きというのは、当然、金融資本市場あるいは実体経済に影響を与えますので、その動きは十分注視し、注意深くみてまいるつもりですが、為替レートの水準や日々の動きについて、具体的にコメントすることは中央銀行として差し控えておきたいと思います。
§19Question
先程の懇談の中でも賃上げに対する期待を経営者の方に話していらっしゃいましたが、デフレ脱却が正念場という中での来年の春闘の役割とか重要性について、今どうお考えか伺わせて下さい。
§20Haruhiko Kuroda
この点は、昨年の4月に「量的・質的金融緩和」を導入して以来、申し上げていることですが、物価が安定的に上昇していくという際には、賃金もやはり安定的に上昇していくということが必要です。どちらが原因でどちらが結果ということよりも、両者は、基本的に同様に上昇していく、あるいは下降するときは下降するということになっている過去の例からみても、賃金が上昇していくということは物価上昇の極めて重要な条件である、要件であると思っています。現に、雇用情勢の大幅な改善を基礎として、他方で企業収益がこれまた大幅に改善したということもあり、企業収益の改善と雇用情勢の改善という両方があいまって、ベアが10 数年ぶりに今年の春、実現されました。また、ボーナスその他の支払も増加し、全体として名目賃金が増え、雇用の増加とあいまって、雇用者所得も2%台の増加で推移しているということです。今後、冬のボーナス、そして来年の春闘でのベアがどのようになるかということは、今後の物価情勢に対して、大きな影響を与えると思いますので、私どもとしては、こういった状況のもとで、企業収益も改善し、雇用情勢も引き続き改善していますので、十分な賃上げが行われ、雇用者所得の増加が実現するということを期待しています。
§21Question
本日、追加緩和を決めた時の議事要旨が公表されました。その時に4 名の方が反対されていましたが、過去を振り返ると、反対された方の理由が述べられたかと思います。今回の議事要旨をみる限り、その4 名の方の理由が述べられていないと思います。前回の会合で承認したかと思うのですが、その時に4 名の方々が、それぞれ自分の理由をその議事要旨に載せるということについての話はなかったのでしょうか。
§22Haruhiko Kuroda
今回の議事要旨をご覧になって頂くとわかりますように、前々回の決定会合で「量的・質的金融緩和」の拡大に反対された方の意見は、かなり詳細に記されています。そういうこともありますし、この議事要旨につきましては、前回の決定会合で、全員一致で承認されています。
§23Question
追加質問です。それぞれの方が、普通、名前を入れて、こういう理由によって反対しますということが述べられていたかと思います。今回、その中身で、ある委員とか複数の委員は、物価下落が懸念されるとか、そういうことが述べられていますが、それぞれ4 名の方が自分の名前を入れて、こういう理由で反対されたということがありません。過去は確か載っていたと思うのですが、そこは方針が変わったのでしょうか。
§24Haruhiko Kuroda
過去も名前が必ず載っているということではないと思います。名前が載っているのは、反対の提案が出て、その提案について評決をする場合で、誰々委員がこういう反対提案をして、それが何対何で否決されたとか、そういうことは出ます。けれども、こういった執行部からの提案に対して、賛否両論の色々な議論が行われ、採決で決まったということで、反対された方の反対理由等につきまして相当詳細に記されていますので、従来と特に変わったとは考えておりません。
§25Question
その議事要旨における反対意見について、ちょっとお伺いしたいのですが、主な反対意見として、追加緩和による効果は、それに伴うコストや副作用に見合わないとか、あるいは昨年4月の「量的・質的金融緩和」の導入時に比べて、10月31日の拡大については追加緩和の効果はかなり限定的ではないか、というような見方が出ていたと思います。10月31日の決定会合後に、政府は消費税の税率引き上げを先送りして、前提が変わったのですが、現在そういう状況を踏まえて、今日の時点で、追加緩和の効果についてどのようにお考えでしょうか。
§26Haruhiko Kuroda
追加緩和の効果自体は、私は十分あると思っています。この拡大された「量的・質的金融緩和」を続けることについては、「量的・質的金融緩和」の拡大を決めた時の政策委員会で、同時に展望レポートを示していますけれども、そこでもあります通り、こうした追加的な金融緩和もあって、2015年度を中心とする期間に 2%の「物価安定の目標」を達成する可能性が高いということになっています。消費税云々というのは、当然、前回の展望レポートの見通しを示した時には、財政とか税制につきましては、政府で決まっているものを前提にしていますので、来年の 10月に消費税率がさらに 2%引き上げられるということを前提に見通しを立てているわけです。その後、政府がこれを 18 か月延期するということを発表されましたので、それを踏まえて、次の展望レポート、あるいは中間評価のところで、当然のことながら、政策委員の方々の経済見通しを集め、その際には、それぞれの方がそういったことの変更によって、経済や物価の見通しを必要があれば調整されると思います。今の時点で、9 人の方々がどういった調整をされるかということを申し述べるということは、僭越でありますので、差し控えます。
§27Haruhiko Kuroda
いずれにしても、展望レポートを半年に1回、出すわけですが、その見通し、あるいは中間評価等におきましては、それまでの様々な経済指標等を十分勘案して、適切な見通しを立てるということになっていますので、今後、そういった機会に、委員の方々が見通しについて述べられる、ということになると思います。以上