← 戻る
日本銀行記者会見2015年4月8日黒田東彦, 総裁

総裁定例記者会見(2015年4月8日)要旨

全文

§1Question

本日の金融政策決定会合の内容について、先日発表された短観の結果も踏まえてご説明下さい。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 80 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。わが国の景気についてですが、企業部門では、輸出の持ち直しや在庫調整の進捗などを背景に生産が持ち直しています。先日公表した3月短観の結果をみますと、企業の業況感は、総じて良好な水準で推移しています。事業計画のうち企業収益については、2014年度見通しが上方修正されるとともに、2015年度も全体として増益が続く見通しとなっています。そうしたもとで、設備投資も、2014年度はしっかりと増加させる計画となっているほか、今回新たに調査した 2015年度計画についても、この時期としては、前向きな投資スタンスが維持されていると考えられます。また、家計部門については、雇用・所得環境の着実な改善が続く中、個人消費も全体としては底堅く推移しています。このように、企業部門・家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムは、しっかりと作用し続けていると考えています。従って、景気の総括判断としては、「緩やかな回復基調を続けている」としました。

§3Haruhiko Kuroda

項目別にやや詳しく申し上げると、海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復しています。輸出は持ち直しており、先行きも、海外経済の回復や円安による下支え効果などを背景に、緩やかに増加していくとみられます。設備投資は、企業収益が改善する中で、緩やかな増加基調にあります。公共投資は、高水準で横ばい圏内の動きとなっています。雇用・所得環境をみますと、労働需給は着実な改善を続けており、雇用者所得も緩やかに増加しています。そうしたもとで、個人消費は、一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、全体としては底堅く推移しています。住宅投資も下げ止まりつつあります。以上の内外需要のもと、在庫調整の進捗もあって、鉱工業生産は持ち直しており、先行きも、緩やかに増加していくと考えられます。この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移し、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向が続いています。銀行貸出残高は、中小企業向けも含め緩やかに増加しています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、 0%程度となっています。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇していると判断されます。わが国経済の先行きについては、緩やかな回復基調を続けていくと考えられます。

§4Haruhiko Kuroda

物価面では、消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面 0%程度で推移するとみられますが、原油価格が現状程度の水準から先行き緩やかに上昇していくとの前提にたてば、原油価格下落の影響が剥落するに伴って伸び率を高め、2015年度を中心とする期間に 2%程度に達する可能性が高いとみています。リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や低インフレ長期化のリスク、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。金融政策については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。

§5Question

4月4日で「量的・質的金融緩和」の導入から 2年が経ちました。この間の日本経済は、企業業績の改善や賃上げといった動きを通じて、景気回復やデフレ脱却に向けた好循環が生じつつある一方で、 CPIの上昇率については、目標とする 2%には遠く及ばない状況が続いています。「量的・質的金融緩和」がこの間にもたらした効果と、一方で想定が外れてうまくいかなかった点について、ご見解をお聞かせ下さい。また、「量的・質的金融緩和」の導入から2年が経過して、2015年度に入りましたけれども、今後についても「2年程度で 2%」といった表現や、「2015年度を中心とする期間に達成」といった目標、表現を維持するのかお聞かせ下さい。

§6Haruhiko Kuroda

先程申し上げた通り、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮していると考えています。まず、景気については、これも先程申し上げた通り、企業部門・家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムが作用しており、緩やかな回復基調を続けています。企業部門をみると、収益は過去最高水準まで増加しており、設備投資も緩やかな増加基調にあります。輸出は、増加に転じるタイミングがやや遅れていましたけれども、漸く持ち直しています。家計部門をみると、失業率が構造失業率近傍で推移し、賃金も緩やかに上昇する中、雇用者所得は着実に増加しています。こうしたもとで、個人消費については、全体として底堅く推移しており、やや長引いていた駆け込みの反動減といった影響も収束しつつあるように思います。確かに物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、エネルギー価格下落の影響から 0%程度となっています。しかし、物価の基調は着実に改善していると見ています。典型的には、需給ギャップは、概ね過去平均並みの 0%程度まで改善していますし、予想物価上昇率も、原油価格の下落にもかかわらず、先程申し上げたようにやや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられます。

§7Haruhiko Kuroda

昨年夏場以降、原油価格が大幅に下落したことは想定外でしたが、昨年10月の「量的・質的金融緩和」の拡大の効果もあって、実際の物価上昇率の低下が、予想物価上昇率の変化を通じて、賃金や価格決定などに影響を与えることは避けられていると思います。このように、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するという方針には全く変わりはありません。もとより、物価の基調的な動きに変化が生じ、物価安定の目標の早期実現のために必要になれば、躊躇なく調整を行うという方針に変わりはありません。

§8Question

先程、総裁が言及されたように、物価が基調的に上がっていくために、賃金がちゃんと上がっていくかどうかというのは、非常に大事なポイントだと思うのですが、それに絡んでお尋ねします。先般、厚労省が発表した毎月勤労統計の改訂では、2014年の所定内給与の伸びが、前年比0%からマイナス 0.4%の減少と下方修正されました。昨年ベアが実施されたにもかかわらず、所定内給与が伸びないということが、何らかの形で、足許の消費──底堅いとおっしゃいましたけれども──の伸び悩みの原因になっているのではないかという見方はあろうかと思います。また一方で、今春闘のベアも今の状況ですと、去年よりは高いと言われながら、0.6%とか 0.7%程度というような格好になっています。賃金の増加傾向が続いているとは言っても、日銀を含めて、一般的な見立て・想定よりはちょっと低い──ベアも低いだろうし、所定内給与も思ったほど伸びなかった──という状況です。こういう状況は、日銀の今のシナリオに結構大きく影響するのではないかと思うのですけれども、この辺りの見立てをお伺いできないでしょうか。

§9Haruhiko Kuroda

いくつかの論点があると思います。まず最初に毎勤統計の所定内給与の動きですが、これはご承知のように、統計を 3年程遡って修正するという、やや異例の修正の仕方なのです。そういう形でレベル自体を修正してしまうので、伸び率のところに、やや大幅な変動が出てしまうのですが、実態は、レベルは変わっても伸び率がそんなに変わることはないはずです。従って、やや異例の統計の修正の仕方──これは前からやっておられるようですけれども──によるところがあるので、実際の所定内給与の伸び率が大きく下がっているということではないと思います。今春闘のベアは、まだ春闘が最終段階になっておりませんので分かりませんが、去年の 0.4%弱からみると、これまでのところ 0.7%程度で、倍までは行きませんが、去年をかなり上回るベアになっています。昨年のベアも約15年振りだったわけですが、それを上回る伸びになっており、しかも今年は中小企業・中堅企業までかなり広く及んでいるようです。例えば賃金交渉に関する連合の途中集計を見ますと、大企業だけでなく、組合員数300 人未満の企業でもベースアップを含めて昨年を上回る回答になっているようですし、また非正規労働者についても、これまでのところ、昨年を上回る賃上げの回答が出ているということですので、着実に雇用者所得は伸びている、あるいは今後さらに伸びていくと思います。

§10Haruhiko Kuroda

一方、消費者物価の上昇率については、昨年4月に消費税率を 3%引き上げたことの影響が概ね 2%ぐらいあったわけで、消費税込みの消費者物価上昇率で割り引くと、実質雇用者所得がマイナスになる月もあったと思います。けれども、消費税の影響は、この4月から基本的になくなります。先程申し上げたように、雇用者所得の伸びは比較的順調に続いており、しかも加速しているわけで、そうしたもとで、消費者物価のヘッドラインのインフレーション率は 2%分が剥げ落ちますので、実質賃金あるいは実質雇用者所得は伸びがかなり高まると思っています。そうした意味で、今年の春闘、その先の企業収益、あるいは雇用情勢をみても、先行き基本的には順調に伸びていくのではないかと思っています。

§11Question

2 点お伺いします。先程、需給ギャップについて 0%近くまで改善していると言われましたが、これまでのところ消費はややもたつき気味で、1~3月のGDPも市場では下振れとの観測が出ています。やはり需給ギャップは、当初想定していたよりも改善のペースが鈍い状況にあるのではないかと思うのですが、今後そうした需要の弱さによって、物価の基調が下振れるリスクを今どのようにお考えでしょうか。もう1 点は、金融システムについてお伺いします。現在、金融システムは安定を維持しているとお考えだと思いますが、この間も、大手行を中心に海外業務の展開を積極化させたり、地域金融機関の基礎的な収益が下振れるなど、リスクの所在や性格は変化していると思うのですが、それに対する認識と、今後、考査やモニタリングで日銀としてどのように対応していく考えか、お聞かせ下さい。

§12Haruhiko Kuroda

第 1 点ですが、ご存じの通り、需給ギャップには色々な計算方法があり、日本銀行は、従来から、雇用について失業率の動きをみて、資本設備について稼働率をみて、それらから直接的に需給ギャップを推計する方式を採用しています。それによると、月々若干の振れはあっても、基本的に需給ギャップは縮小してきており、最近時点ではほぼ 0%位になっています。他方、政府の推計によると、潜在成長率を先に計算して、実際の成長率と比較して――または、潜在GDPと実際のGDPを比較して――、需給ギャップを計算する方式を採っているようですが、それによると、まだ若干需給ギャップが残っている形です。いずれにしても、需給ギャップが趨勢的に、特にこの 2年間、かなり縮んできて、当方の推計ではほぼ0%ですし、政府の推計でも極めて小さくなっており、全体として経済が緩やかに回復していることは変わらないと思います。そうした中で、供給面の色々なデータをみるとかなりしっかりしていますが、足許の消費については、家計調査等からみて――今年に入ってから月々の振れもあり、消費の弱さと言うほどではないですが――、どんどん伸びている感じではないデータもあります。一方、生産など供給面のデータはしっかりと伸びていますし、需要面でも、輸出は伸びていますし、設備投資も伸びており、今後も比較的しっかりした設備投資計画になっています。

§13Haruhiko Kuroda

そうした中で、消費がどうなるかは非常に重要なファクターですが、先程申し上げたように、雇用・所得環境は着実に改善しており、今後とも改善する見込みです。そうしたことからみると、消費も基本的には底堅く推移しており、緩やかに増加していくという基調に変わりはないとみています。従って、常に上振れ下振れリスクは十分みていく必要があると思いますが、今後の消費の先行きについては、雇用・所得環境の改善や消費増税の影響による物価の押し上げ効果の剥落、さらに加えて言えば、原油あるいはエネルギー価格下落が実質所得を改善させる面もあり、こうした色々な面からみて、消費について特に下振れリスクが大きくなっているとは考えていません。金融システムについては、最近、考査の実施方針で示した通り、またご指摘のように、特に大手金融機関が海外展開を非常に幅広くしていること、他方で地域金融機関の基礎的収益力がやや低下傾向にあること、そうしたことは今後の考査あるいはモニタリングの重要なポイントであろうと思っています。従って、そうした点は十分注視していくつもりですし、モニタリングもそうした点に注目していくことになると思いますが、足許で、日本の金融システムが弱くなっているとか問題があるということはないと思います。

§14Haruhiko Kuroda

年2 回公表の「金融システムレポート」がもうすぐ新しく公表されると思いますが、金融システムは安定性を維持していますし、金融仲介活動はより円滑に行われるようになってきていると思います。また、金融仲介活動の状況をみても、信用量は概ね長期的なトレンド近傍で推移していますし、過熱あるいは過度な期待の強気化などはみられていません。金融機関全体としてみると、非常に充実した資本基盤を有しており、金利あるいは為替その他のショックが仮にあったとしても、相応に強いストレス耐性を持っていると思いますので、現時点で日本の金融システムは極めて安定しており、問題はないと思いますが、先程申し上げたような点を含めて考査あるいはモニタリングは引き続き実施していきたいと思っています。

§15Question

物価と景気は改善基調にあるというお話でした。一方で、昨年10月に追加緩和した際には、経済・物価情勢は概ね今と近い状況かと思いますが、デフレマインドの転換が遅延するリスク、足許の物価上昇率が鈍化することでそういうリスクが起こり得る、それを未然に防ぐために手を打ったというロジックだったかと思います。今もちょうど、足許の物価が下がってきていますが、今の経済情勢では昨年10月に指摘されたロジックでのリスクはあまり大きくない、昨年10月よりも低い状況にあると理解して良いのでしょうか。

§16Haruhiko Kuroda

その通りだと思います。あの時は、消費税増税後の反動減の影響がやや長引いたり、夏場の天候不順その他もあって、消費が相当弱い状況で続いていたところに加えて、夏場から原油価格が大幅に下落し、毎月毎月、消費者物価の上昇率が低下していく状況にあったわけです。他の国と違って日本の場合は、いわば15年続いたデフレのもとでインフレ期待が 0%近傍にアンカーされていたものを、2%程度に向けて徐々に引き上げていかなければならないという状況のもとで、そうしたことがあって、デフレからの転換が遅れる、あるいはそれまで起こっていたものが逆流する懸念があり得たので、10月31日の時点で、思い切った「量的・質的金融緩和」の拡大を決定しました。その後の状況をみますと、様々な予想物価上昇率の動きをみてもほぼ水準は維持されている―─ものによっては上昇しているものもありますが──ことからいいますと、昨年10月末に考えたようなリスクは今のところ解消されていると思います。ただ、今後とも、需給ギャップや予想物価上昇率の動き、さらには賃金、企業の価格設定行動など、物価の基調は十分注視しモニターしていくつもりです。先程申し上げた通り、そうした物価の基調に変化が生じ、物価安定の目標の早期達成が難しくなるようなことがあれば、躊躇なく政策を調整するというスタンスに変わりありません。

§17Question

来週、米国でG20、IMF・世銀総会が開催されると思います。そこでどんな議論がされるかと、中国が主導してきたAIIBの問題─―3月末の最初の締切りを終えた後、初めて主要国が顔を合わせる場ともいえると思いますが──を巡ってはどんな議論が予想され、また日本が乗り遅れるような形になるのかならないのか、その辺りのご所見をお願いします。

§18Haruhiko Kuroda

G20、IMF・世銀関係の春の会議、ワシントンでの会議については、当然予想されることは、足許の世界経済の現状や展望を議論するというのが 1 つの大きなイシューだと思いますし、それと関連して、国際金融情勢について意見を交換する、これは例年通りのことだと思います。そうした中で特に今年の春、焦点が当たりそうなイシューとしては、G20でオーストラリアが議長国の時から続けている包括的な成長戦略があります。G20諸国のGDPのレベルを 5年間で 2%引き上げるために、各種の成長戦略、構造改革をするという議論が進んでいます。各国が様々な構造改革を提示して、その効果等をIMFやOECDが評価し、さらには今後各国がそれらをどう実行し、成長を加速させていくか、皆で議論していこうということになっていますので、トルコが議長国になったもとで、包括的な成長戦略を着実に実行していくための取り組みについて色々と議論があろうと思いますし、引き続き、金融規制改革あるいは租税改革についてもG20等で議論が行われると思います。それからIMF改革は 4年前に合意してまだ実行できていないので、これも主な議題の1 つであろうと思います。アジアインフラ投資銀行(AIIB)が話題になるかどうかは、私はわかりませんが、議論になるかもしれません。

§19Haruhiko Kuroda

AIIBについては、政府が議論しているところであって、私がとやかく申し上げる立場にありませんので、ここで何か申し上げるのは差し控えたいと思います。

§20Question

物価についてお尋ねします。冒頭、足許で物価は横這いであるが、物価の予想上昇率はやや長い目でみれば上昇しているというご説明がありました。この予想上昇率に関しては、ブレーク・イーブン・インフレ率や色々な指標があり、日本銀行としても調査されていると思います。どの辺りを特に重視されているか、また、昨年来、原油価格が下落する中で予想上昇率がどう推移してきたと認識されているか、お伺いします。

§21Haruhiko Kuroda

予想物価上昇率を直接的にみることはできませんので、手法としては、ご指摘のあったブレーク・イーブン・インフレ率を計算する─―物価連動国債の金利と通常の国債の金利との差から、マーケットの人たちの予想物価上昇率を逆算する─―こともできますし、スワップレートから計算することもできます。市場の様々な指標から、市場関係者の予想物価上昇率を逆算でき、公表もされています。欧米でも、日本でも、原油価格の下落が始まり、結局5 割くらい下落する過程でブレーク・イーブン・インフレ率等、市場の予想インフレ率が若干下がったことは事実ですが、このところまた上がってきています。一方、もう少し幅広い調査指標としては、様々な人――家計、企業やエコノミスト等――を対象にアンケート調査をして――日銀短観も含めて――、予想物価上昇率をみる手法もあります。こうした指標をみると、昨年の夏場以降、特に中長期の予想物価上昇率は比較的維持されています。ごく短期の予想は、もちろん足許で原油価格がどんどん下落すると影響されますが、その意味では、予想物価上昇率は、足許の物価下落にもかかわらずかなりしっかりしていますし、より長い目でみれば上昇していると思います。

§22Haruhiko Kuroda

今後とも様々な指標をみて、予想物価上昇率を判断していく必要があると思いますし、物価の基調という意味では、先程申し上げたように、そうしたことも踏まえて賃金がどのように動くか、あるいは企業の価格設定行動がどのように変化していくかも重要だと思いますので、幅広くみていく必要があると思っています。その意味で幅広くみた限りでは、足許の消費者物価上昇率の下落にもかかわらず、物価の基調はこのところ変わっていない、むしろよりしっかりしてきている、最近の賃金等の状況をみてもしっかりしてきているとみています。

§23Question

ミネアポリス連銀のコチャラコタ総裁が、昨日の講演で利上げは2016年後半とおっしゃっています。世界経済の牽引役である米国の経済に、不透明感が出てきているのだとすれば、そのことは日本の物価上昇に対して何らかのリスクがあるのか、ないのか、どの程度のリスクがあるとご覧になっているのか、ご所見をお願いします。

§24Haruhiko Kuroda

米国経済は、民間需要を中心に、しっかりとした回復を続けていますし、先行きも、それが続くとみています。確かに、個人消費については、2月にかけて悪天候の影響もみられましたが、雇用所得環境は良好ですし、原油安の効果もあって、消費の基調は、やはりしっかりしていると思います。それが企業にもよい影響を及ぼして、設備投資も回復を続けています。このところ、ごく足許というよりも少し前までですが、ドルの独歩高が続いて、輸出に影響するのではないかとか、現に製造業の先行指標が若干弱くなっているのではないかといったことは言われますが、まだ、それがはっきりしているというわけではありません。色々な状況が混在して、米国の輸出に影響している可能性もあります。様々な要因の中には、かなり一時的なものもあるようにみられます。ドルの独歩高が数か月続いたのですが、このところそれも一服している状況です。基本的に、米国経済が民需を中心にしっかりとした回復を続けているということは、変わらないと思います。ただ、FOMCがいつ金利を引き上げ始めるかということは、FOMCが決めることです。私から余計な予測はする必要はないと思います。いずれにせよ、FRBは経済・金融情勢を踏まえて金利の正常化を進めるわけですから、金利を上げるということになれば、経済・金融情勢がしっかりしているということを示していることになります。

§25Haruhiko Kuroda

従って、私自身は、いつ利上げするのであっても、上がること自体は、世界経済にとってマイナスではなくて、米国経済がよりしっかりしてきているということで、世界経済にも基本的にはプラスであろうと思っています。

§26Question

2 点お伺いします。1 点目は、本日の会合の終了時間が 12 時半を回っていたと思いますが、大きな政策変更もなく、展望レポートもない割には、若干長くて少しやきもきしました。いつもと違う要素が何かあったのか、新メンバーが加わったからなのか、お伺いします。2 点目は、かねてより、資産市場に過度の強気化の動きはみられないとおっしゃって、そういう認識だと思いますが、本日も日経平均株価が2 万円に迫る勢いで非常に堅調で、市場では日銀の追加緩和に対する期待であるとか、日々のETF、 REITのオペレーションが影響しているという声が大きいです。総裁が過度の期待、強気がみられないと考えていらっしゃる根拠は、どの辺りかお聞かせ下さい。

§27Haruhiko Kuroda

金融政策決定会合の時間というのは、その時その時の議論次第ですので、別に定まったものがあるわけではないです。ご指摘のように、いつもと違う要素を挙げれば、原田委員が新たに加わって初めての金融政策決定会合であったことはその通りですし、木内委員が新しい提案をされたことも事実です。だから遅くなったとかいうわけでもないのですが、従来と違った要素があるかと言われると、その 2 つはおっしゃる通りだと思います。金融資本市場が過度に強気化しているわけではないというのは、株価だけではなく、金融機関の様々な行動あるいは金融資本市場の動きその他を総合的に勘案して申し上げているわけであり、その判断は、もちろん毎回の金融政策決定会合でも議論されているし、一番大きな形としては、半年に1 回の金融システムレポートでかなり詳しく報告をしています。株価の水準とか変化についてはコメントしませんが、先程申し上げたように、短観をみても、日本の企業部門の収益は、史上最高の水準にきているということもありますし、2015年度はさらに収益が増えていく見通しになっているということも指摘できようかと思います。いずれにしても、今のところ金融資本市場に過度に強気化が起こっているというようなことはないと思います。

§28Question

今、木内審議委員の提案についての言及がありましたが、声明文以上に──もちろん、議事要旨をみて下さいということかもしれませんが──、可能な範囲でプロポーザルについて教えて頂けますでしょうか。総裁の受け止めについてもお願いします。

§29Haruhiko Kuroda

議事要旨その他でも示されているように、木内委員は、これまでの会合では、金融市場調節方針および資産買入れ方針について、昨年10月の「量的・質的金融緩和」拡大以前の方針に戻すべきであるということを主張されてきたわけです。今回は、マネタリーベースと長期国債の保有残高の増加ペースを減額するという新たな提案をされたということだと思います。日本銀行は、ご承知のように、「2%の『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、『量的・質的金融緩和』を継続する」という方針を明らかにしており、この方針には、木内委員を除く委員が賛成しています。現在は、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するよう、最大限の努力を行っている最中ですので、出口戦略を議論するのはやはり時期尚早であると考えています。

§30Question

先程総裁が、今日の会合での新しい要素と言われた原田委員のことをお伺いします。総裁は、先程、構造失業率近辺にあると言われましたが、原田委員は就任時の記者会見で 2.5%程度が構造失業率であるとの認識だと言われていました。この構造失業率の認識の違いは今後、物価をみていく上で重大な要素かと思いますが、総裁は原田委員のご見解をどうご覧になっているのかと、現状の構造失業率についての総裁のお考えをお聞かせ下さい。

§31Haruhiko Kuroda

構造失業率も需給ギャップも色々な推計方法がありますが、日本銀行では、需給ギャップは先程申し上げたように失業率と設備の稼働率から直接的に推計していますし、構造失業率については、色々な要素は考慮しつつ基本的には長期的な――いわば平均的な――失業率を計測して構造失業率とみています。ほかにも色々な構造失業率の計測方法があり、それぞれ良い点も悪い点もあると思いますが、いずれにせよその見方の違いが直接的に金融政策に違いをもたらすことにはならないと思います。むしろ重要な点は、そうしたもとで賃金や物価がどのように動いていくか、あるいは先行きについてどうみるかです。そこには、構造的失業率の問題だけでなく、フィリップスカーブがどういう形状をしているか、予想物価上昇率がどのように形成されどのように動いていくかなど、様々な要素が絡んできて、そのうえで物価の見通し、あるいは金融政策の運営についての議論がなされるということかと思います。

§32Question

このところ、株価その他の金融資産についてどのようにみているのかとの質問が多くあり、黒田総裁は本日も「過熱はしていない」と繰り返しおっしゃっています。巨額のリスク資産を買い続けている一投資家が、これはバブルではないといいながら買い続けているのは、一種異様な印象を受ける向きもあるかと思うのですが、逆にお聞きしたいのは、仮に日銀が、株なりREITなり国債もそうですが、バブルである、過熱していると判断をしたならば、物価が 2%で安定的に持続するという物価安定の目標の実現、達成がなされていないにも関わらず、これらリスク資産の買入を減少・減額する、あるいは止めるということはあり得るのでしょうか。

§33Haruhiko Kuroda

ご質問への回答は非常に単純でして、実際の判断としては、その時その時の総合的な判断が必要だと思います。日本銀行法でも、物価の安定と金融システムの安定が 2 つの重要な目的ですので、当然、その重要性は十分に認識をされています。多くの内外の学者も言う通り、中央銀行の目的として一番重要なのが物価の安定、次が金融システムの安定ですが、実は、実質成長率や雇用も、物価や金融システムの安定と密接に関わっており─―FRBを除けば、中央銀行の目的に雇用の極大化や成長率の維持は明示的には入っていませんが─―、インプリシットには当然、単に物価が上がれば良いということではなく、経済の好循環のもとで物価が上がっていくことを目標にしていると思います。ただ、明示的には物価の安定と金融システムの安定が中央銀行の目標として極めて重要であり、日本銀行もそうなっています。

§34Haruhiko Kuroda

具体的に、今、両者が矛盾するような状況にはなっていませんので全く問題はないのですが、仮にそういう時はどうするのかと言えば、まさにどういったタイムスパンで考えるかなど、それぞれの影響をどのようにみるかにもよりますし、多くの中央銀行の人たちは「金融システムの安定」は非常に重要である一方で、例えば、行き過ぎているから直ちに金融を引き締めるとか金利を上げろという人はあまり多くなく、まずは、いわゆるマクロプルーデンシャルな政策が考えられるべきだという人が多いと思います。ただ常に、中央銀行として、物価の安定と金融システムの安定はいわば車の両輪として考えているわけであり、両者が矛盾することは普通ありませんが、あった場合にどのように対応するかは、やはりその時の経済・金融情勢を十分踏まえて判断することだと思います。ただ、先程申し上げたように、多くの経済学者や中央銀行の人たちは、金融システムの安定についてまず考えるべきはマクロプルーデンシャルな対応であり、やはり中央銀行としては物価の安定を第一義的に考えるべきだという方が多いと思います。

§35Question

先程も、春闘について質問がありましたけれども、私はストレートにお答えになっていないような印象を持ちました。思ったより増えていないことについて、労働市場全体の話をされたり、去年より多いという言い方をされましたが、この水準で、CPIが 2%に行くのかどうかを、どう判断するのかということだと思います。企業は、非常に低めの水準を出していて、最後の瞬間上げてきましたので、メディアに載った春闘結果は非常によく出たような印象は出ているし、確かに中小にも広がっているのは事実ですけれども、やはり先程の方の質問のように、連合が一次集計で去年よりも広い範囲で取った形でも 0.7%前後で、確かそんな数字だったかと思いますが、 1%に行っていない。多分、御行の中でも、あのトヨタでも 1%ちょっとしかいっていないという分析をされていると思います。この数字からみたら、いくら原油の前年比効果が剥げていった場合でも、年度内とかに 2%に行くというのは、常識的には考えにくいと、私は思います。極めて厳しく物価分析をされております調統局は、たくさんの人を使って分析していると思うんですけれども、果たして 2%に行けるようなシナリオが書ける春闘だったのでしょうか。私は、この春闘の結果を分析すれば、量的緩和をさらに追加、強化してもおかしくない内容だったと思うんですけれども、今それをされなかった。

§36Question

総裁は、事前には春闘でこれは非常に重要だと繰返しおっしゃられた。ある種、プレッシャーをかけられたんだけれども、私は、これは厳しく言えば失敗したと思うんですけれども、如何でしょうか。

§37Haruhiko Kuroda

私は、中央銀行として、春闘に圧力をかけるとか、そういうつもりも全くございませんし、そういう立場にもありません。失敗とか、どうこう言われる筋合いもないと言っていいと思います。その上で、物価の上昇率には、色々な要素が働くことは事実です。一次産品の価格も影響するし、為替も影響するし、それから需給ギャップ――それは、失業率、雇用の情勢で賃金を通じて影響するものもあるし、財・サービス自体の需給ギャップで価格に影響が出るものもあるし、色々な要素がある――も影響する。その上で、持続的に物価が上がっていくためには、賃金が持続的に上がっていくことが必要です。それは中期的にみると、賃金の上昇がある時に物価が上昇し、物価が上昇する時に賃金も上がっているので、そういった意味では賃金の上昇が極めて重要であることは間違いないと思います。今回の春闘で、今のところ 0.7%程度で、昨年の 0.4%弱に比べると倍近いというところに来ているのは事実であり、これは物価の上昇にとっても、プラスに効いてくるであろうと思います。ただ、賃金が上がって、物価が上がるという要素はあるが、やはり需要が増えて、物価が上がりやすい状況になるということも極めて重要ですから、物価の上昇については様々な要因を分析してみていく必要があると思います。

§38Haruhiko Kuroda

そういった意味で、需給ギャップが、私どもの推計では0%に近いところになっており、予想物価上昇率が、長い目でみれば上昇しています。そうしたもとで、春闘も昨年を上回る上昇になってきているといったことを踏まえると、足許でエネルギー価格の下落から、消費者物価上昇率が0%程度になって、当面その程度で続くと思うが、エネルギー価格の下落が剥落するとともに、今申し上げた基調的な需給ギャップの改善、長い目でみた予想物価上昇率の上昇といったことを踏まえると、おそらく今年の秋以降、物価上昇率はかなり加速していくだろうと思っています。従って、本日の金融政策決定会合でも議論されたし、そのもとでの公表文にもある通り、2%の「物価安定の目標」実現を目指して、これが安定的に持続できるようになるまで「量的・質的金融緩和」を継続するという金融政策、調節方針を決定したところです。以上