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日本銀行記者会見2015年5月22日黒田東彦, 総裁

総裁定例記者会見(2015年5月22日)要旨

全文

§1Question

本日の金融政策決定会合の結果について、ポイントをご説明下さい。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 80 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。わが国の景気についてですが、企業部門では、輸出、生産が持ち直すとともに、収益は過去最高水準まで増加しており、前向きな投資スタンスが維持されています。家計部門については、雇用・所得環境の着実な改善が続き、マインド面の改善も明確になる中、 GDPの個人消費が3 期連続のプラスになるなど、個人消費の底堅さは増しています。このように、企業部門・家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムは、しっかりと作用し続けていると考えています。従って、景気の総括判断としては、「緩やかな回復を続けている」としました。項目別にやや詳しく申し上げますと、海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復しています。輸出は持ち直しており、先行きも、海外経済の回復や円安による下支え効果などを背景に、緩やかに増加していくとみられます。公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じていますが、設備投資は、企業収益が改善する中で、緩やかな増加基調にあります。

§3Haruhiko Kuroda

雇用・所得環境をみると、労働需給は着実な改善を続けており、雇用者所得も緩やかに増加しています。そうしたもとで、個人消費は、底堅く推移しており、住宅投資にも持ち直しに向けた動きがみられています。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は持ち直しており、先行きも、緩やかに増加していくと考えられます。この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移し、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向が続いています。銀行の貸出残高は、中小企業向けも含め緩やかに増加しています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、 0%程度となっています。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇していると判断されます。わが国経済の先行きについては、緩やかな回復を続けていくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面 0%程度で推移するとみられますが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である 2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されますが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になると予想されます。

§4Haruhiko Kuroda

リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。

§5Question

国内景気認識を少し詳しく伺います。前回会合の後、1 ~3月期のGDPが発表され、実質成長率が+0.6%と市場予測を上回る水準であり、今回の声明では、個人消費や住宅投資の表現振りを前向きな方向に修正されています。1~3月期のGDPの数字の評価を含めて、この個人消費や住宅投資、内需のあたりを、総裁はどのようにとらえていらっしゃるのでしょうか。また、今回文言を変更したことが、今後の金融政策のシナリオに変化を及ぼすものなのか、お考えをお聞かせ下さい。

§6Haruhiko Kuroda

ご案内の通り、1~3月期の実質GDPは、前期比年率+2.4%となりました。需要項目別にみると、個人消費が、3 四半期連続のプラスとなり底堅さを増しているとみられるほか、住宅投資についても、4 四半期ぶりのプラスに転じました。また、輸出は、持ち直しの動きが続いており、設備投資も増加しました。このようなGDPの内容は、雇用・所得環境の着実な改善が続き、企業収益も改善する中で、家計部門・企業部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムがしっかりと作用し続けていることを示していると思います。すなわち、わが国の景気が緩やかな回復を続けているという見方に沿ったものであると思っています。GDP統計は、四半期毎にしか出ませんし、全体をアグリゲートした統計ですが、他方で、経済全体の動きを総括して示す意味では極めて重要な統計であり、従来からの経済についての見方が確認されたということだと思います。そうした中で、ご指摘のように、消費が底堅さを増している、住宅投資が回復してきていること等を踏まえて、景気判断を若干前進させたということです。今後とも、毎月毎月の様々な統計、さらには短観や支店長会議における議論、その他の様々なデータを十分に踏まえて、経済・物価動向についてフォローしていきたいと思っています。

§7Haruhiko Kuroda

私どもの考えていた線に沿って経済・物価が動いていますので、当面、金融政策について何か特別に変わったことになるとは思っていません。先程申し上げた通り、「量的・質的金融緩和」を継続すること、また、金融政策決定会合毎に上下双方向のリスク要因を点検して、必要があれば調整を行うということにも、全く変わりありません。

§8Question

GDPを、2014年度を通してみますと、結局、実質 1%のマイナス成長で、中身を見ても、消費がマイナス 3.1%で、やはり消費増税の影響が大きかった 1年であったという印象です。財政の立て直しを進めていく中でのデフレ脱却という、いわば二兎を追う中で、来月、政府の方で 2020年PB黒字化目標に向けたシナリオが策定されるわけですけれども、財政の持続可能性、国債の信認が金融政策の前提という観点から、総裁として、このタイミングでできる政府の計画に対して、どういったことを期待するか、お考えをお聞かせ下さい。

§9Haruhiko Kuroda

具体的な財政運営は、政府・国会で議論され、その責任において行なわれることですので、私から具体的なことをコメントすることは差し控えたいと思います。その上で申し上げますと、従来から申し上げているように、国全体として財政運営に対する信認をしっかりと確保することが必要であることは間違いないと思います。この点で、ご案内のように、政府は、2020年度までに基礎的財政収支を黒字化するという財政健全化目標を堅持して、この達成に向けた計画を夏までに策定することにしておられます。日本銀行としては、このような政府による財政健全化に向けた取り組みが、着実に進んでいくことを強く期待しています。

§10Question

消費と住宅投資について、改めてお伺いします。今回、総括の判断を引き上げた理由がこの 2 つにあったということですが、振り返ると消費増税や円安進行によって、物価が上がっていくので、前倒しで消費しようというよりは、財布の紐が締まっていくという状況が続いていました。最近になって徐々に和らいできた、ということかと思います。その背景には、足許であまり物価が上がっていないので、消費がより底堅くなっているという面もあるのではないかと思うのですが、その辺りについて総裁のご見解をお伺いします。また、これから順調に消費が伸びていくためには、どういったことが必要なのかも含めてお伺いできればと思います。

§11Haruhiko Kuroda

昨年4月に消費税率が 3%引き上げられて以降、それまでの駆け込みの反動という形で消費がかなり大きく落ち込みました。さらに消費増税は増税ですから、家計の実質所得にマイナスの影響が出るというのは間違いなく、そういうこともあって消費が低迷しました。今回のGDPでは3 四半期連続で消費がプラスになり、駆け込みの反動は収束したと思いますが、消費増税の影響が 100%なくなったかどうかは、もう少しみてみないといけないと思います。ただ、足許で消費が回復してきている背景は、何と言っても、先程申し上げたように、反動減が収束する一方で、雇用が改善を続け、賃金も今回の春闘でみられるように引き続き上昇しているということです。こういった賃金の上昇あるいは雇用・所得環境の改善が今後も続くと見通されることがあって、消費が底堅く、さらには強くなってきていると思います。そういうことから言いますと、今後の消費の動きは、何よりも家計の所得がどのようになっていくかによるということです。春闘の結果が実際の賃金上昇に反映されてくるのは6月頃からだと思います。一方で、雇用情勢の改善は続いています。両者を掛け合わせた雇用者所得というのも、既に上昇していますが、賃上げが反映されるにつれてさらに上昇していきます。

§12Haruhiko Kuroda

また、消費税の増税による物価への影響というのは、12 か月経って剥落していくので、実質所得はさらに伸びを高めていくだろうと思っています。そういった中で、消費も底堅く推移し、さらに伸びを高めていくのではないかと期待しています。

§13Question

2 点お願いします。1 点目は、GDPの評価です。在庫がプラスの寄与となったことについてエコノミストの間では、今後の落とし穴になり得るという厳しい見方もあるようですが、この点について総裁はどのように評価されているでしょうか。もう1 点は、東証一部の時価総額が今日、バブル期のピークを越えました。上場企業の数は全く違いますが、オールジャパンとしてみれば、企業価値がバブル期を超えたという見方もできるかもしれません。この辺りについて総裁のご所見をお伺いします。

§14Haruhiko Kuroda

まず 1 点目ですが、ご承知の通り、在庫投資は毎期かなり振れますので、その動きによって、GDPの成長率がある程度振れるのは致し方なく、そうしたことも考慮しなければならないと思いますが、今の在庫投資のプラスは、意図しない在庫が積み上がっている結果とは感じません。従って、これが数値的に成長率を押し上げていることは事実ですが、最終需要――内需から在庫投資を引き、輸出を加えたもの――は着実に伸びており、1~3月のGDPでも堅調に増加していますので、在庫投資のプラスが今後の経済成長にとって大きなマイナスになることはないと思います。株価については、常日頃申し上げている通り、その水準や動きについての具体的なコメントは差し控えたいと思います。一般論としては、株価は、企業収益、特に将来の収益見通しを反映すると言われており、現在の株価上昇の背景には、足許で企業収益が過去最高水準まで改善し、さらには今年度も上昇していく見通しになっていることがあると思います。時価総額が過去のピークを越えたことは、ご指摘のように様々な要素が違いますので一概に比較できないと思いますが、いずれにしても、「量的・質的金融緩和」を進めるに際しては、経済・物価見通しだけでなく、上下双方向の様々なリスク要因を点検していきます。

§15Haruhiko Kuroda

展望レポートなどで示している通り、その中では当然ながら資産価格の動向も点検していますが、現時点で、資産市場や金融機関行動に行き過ぎた動き、あるいは過度の期待の強気化を示すような動きは、観察されていないと思っています。

§16Question

先程、総裁は、「緩やかな回復」という総括判断について、前回まで「基調が続いている」としていた「基調」が取れた、前進しているとおっしゃいました。と言っても、基調が取れたことが、回復とどう違うのかは、一般の人が普通に聞いてもなかなか分かりにくいと思います。これを日銀文学というのかは分かりませんが、前進した、上昇基調になる、上昇した、上方修正した、一体どのようにとらえていらっしゃるのか、もう少し詳しく教えて下さい。

§17Haruhiko Kuroda

最初に申し上げた通り、またGDPについてご質問に答えた時にも申し上げました通り、消費、住宅投資、設備投資、輸出と、それぞれの需要項目はみんなプラスになっています。特に消費については、従来は、一部に鈍さがみられるものの、全体として消費が伸びているといったように表現していましたが、3 四半期プラスだったこと、そして足許での月々の様々な販売統計等でも伸びていることを踏まえて、半歩というか一歩というか、消費について見方を前進させたわけです。その他の項目についても、いくつかの需要項目について様々な留保項目のようなものが付いていましたが、そうしたものを基本的に全て取り払って、企業収益の好調さや雇用・所得環境の改善を通じて、景気全体についても、回復基調というよりも回復へと、半歩というか一歩というか、見方を前進させました。経済が激変したのではなく、着実に改善していっている、今後とも改善が続くだろうということで、それに合ったように評価を前進させました。

§18Question

景気判断をやや前進させたということで、あくまで異次元緩和というのは 2%の物価目標に向けてやっていらっしゃることだと思うのですが、素人目にみて、景気が回復を続けていて、物価も日銀は秋口には上がっていくとみているということは、これは追加緩和の必要性は当面低いままであると理解してもよろしいでしょうか。

§19Haruhiko Kuroda

現時点で、追加緩和が必要だとは考えていませんが、私どもとしては、毎回の金融政策決定会合において、経済・物価全体を評価し、特に物価の基調を十分点検して、必要があると認めれば、当然、躊躇なく調整しますし、そうでなければ 2%の「物価安定の目標」を実現し、それを安定的に持続できるようになるまで、この「量的・質的金融緩和」を継続するということだと思います。現時点ではご指摘のようなことだと思いますが、何度も申し上げている通り、毎回の金融政策決定会合において、経済・物価をよく観察し、様々な要因を点検して、そこで金融政策をどうするかを決定するということに尽きると思います。

§20Question

先般の講演やQQEの検証の中で、「量的・質的金融緩和」は、実質金利の引き下げを中心に、想定通りの効果を上げているというお話をされています。総裁は常々、先行きの政策については、目標達成が難しくなれば躊躇なくというお話をされているのですが、その意味では、今の政策が効果があるのであれば、何かあって今後政策を検討する場合には、今の「量的・質的金融緩和」の拡大ということがまず検討対象になると考えていいのか、それとも他の手段というのも検討対象になりえるのか、その辺りを教えて下さい。

§21Haruhiko Kuroda

「量的・質的金融緩和」の波及メカニズムや効果については、従来から申し上げてきた通りです。特に、2年経ったところで効果を検証するということで、先日の展望レポートのボックスで概要を示し、その詳細を別途スタッフのペーパーで発表したわけです。そこでも明らかなように、「量的・質的金融緩和」というものは、量的、質的、両面から所期の効果を発揮しているということであると思いますので、先程申し上げたように、物価の基調が変化し、必要になれば、躊躇なく調整するということに変わりはありませんが、今のところの見通しでは、物価の基調は今後着実に改善していくと思っていますので、何か追加的なものを具体的に考えているということはありません。仮に、何か具体的に追加的なことをするとすれば、その時点での最も適切なことを行うということであり、内容について今何か具体的なものがあるということはありません。

§22Question

先程、財政健全化の取り組みを着実にと、ご持論を何度も繰り返しておられ、この信念は素晴らしいと思うのですが、もともと 10月に予定されていた消費増税については、政府が決める前の段階では、総裁は、やらないリスクの方が高いということを常々言っておられて、その後も──消費増税に直接ではなかったかもしれませんが──やった方がよかったんじゃないかな、というようなニュアンスのご発言も経済財政諮問会議などではあったような気がします。足許、今日の評価にあるように景気はどんどんよくなっているということですので、改めて、やれたんじゃないか、やった方がよかったんじゃないか、というご持論を強く意識されるようになってきているのではないかなあ、と忖度するわけですが、安倍さんが決めたことには、もう反対しづらいということでしょうか。もう1 点は、足許、景気がよいということについては、私は何ら異論はありませんが、少し長い目でみると、前回の展望レポートでは、今年度は2%成長、来年度は1.5%成長と、潜在成長率を多分上回る成長が続くわけですが、2017年度については、中央値で+0.2%という見方をしています。

§23Question

当然、これは消費増税があることを前提にしていると思われるので、そんなに違和感がある数字ではありませんが、裏返して言うと、日銀ですら+0.2%というようでは、消費増税はできないのではないかという声がだんだん出てくるような気がします。本業である金融政策についていうと、2016年度には 2%のインフレ目標が達成できるのかな、ということですが、そこからテーパリングというか、量的緩和の解消に向かおうとすれば、過去の通例からみると地均しのために 1年ぐらいとか、かなり長い期間を必要とするわけです。ちょうどその頃にこの消費増税が重なってくるということで、金融緩和は 4年以上になるのかな、というような印象も持ってしまうのですが、如何でしょうか。

§24Haruhiko Kuroda

まず、1 点目については、消費税を引き上げる場合のリスクと引き上げない場合のリスク云々というのは、昨年私が申し上げた話ではなくて、一昨年に、昨年4月に 3%上げるべきかどうかという話を、経済財政諮問会議の下に設置された集中点検会合で識者のお話を伺っていた時に、ある1 人の識者の方が私にご質問されたので、そういったことを申し上げたものです。具体的に、財政の健全化あるいは財政の持続可能性をどのように確保していくか、あるいは高めていくか、ということ自体は、政府・国会の責任においてなされることであると思っています。2 点目については、私どもの見通しでは、ご指摘のように、成長率は+2.0%、+1.5%と辿って、2017年度には、消費税率が2%引き上げられることを前提に+0.2%程度の成長と見通しています。一方で、物価については、今年度は+0.8%、来年度は+2.0%、2017年度は+1.9%ということで、着実に 2%程度の物価上昇率になり、それが続いていくと見通しています。具体的に「量的・質的金融緩和」からの出口を議論するのは、時期尚早だと思っていますので、具体的なことを申し上げるつもりはありません。

§25Question

潜在成長率に関してお伺いします。先日のIMFの World EconomicOutlook は、世界経済の成長率は、今年の 1月とはそれほど変わっていませんが、表面上は変わっていなくても、その後のレポートでは、先進国も新興国も潜在成長率がなかなか上がらないということが指摘されています。日銀としても、数年前から、展望レポートでは、見通し期間の終盤にかけて潜在成長率が──現状だとまだ 0%から 0.5%と言われていると思いますが──上がっていくということを何回も言われています。潜在成長率は、基本的に資本と労働の供給と生産性の伸びで決まり、先日の展望レポートでも、物価上昇と賃金上昇の好循環メカニズムが強まるとありました。潜在成長率が上がっていく道筋というかパスについては、労働人口が減っていくと設備投資は必要なのでしょうが、企業収益がいいとは言いつつ、先行きの需要がなければ投資もしないと思います。その辺も絡めて、日本の潜在成長率を上げていくことに関して、どういうふうにみていらっしゃるかお伺いします。

§26Haruhiko Kuroda

私どものスタッフの見方では、潜在成長率はリーマンショック前までは 1%強程度にありましたが、リーマンショック後に低下し、足許では 0%台半ばに落ちてきているわけです。その主たる理由は、いわゆる生産性というかTotal Factor Productivityの上昇率が大きく下がったということではなくて、まず資本の寄与が、リーマンショック前はプラスだったのが、その後設備投資が大きく落ち込んだためにマイナスになっていたこと、それから労働力の寄与は、マイナスがだんだん大きくなってきていたことだと思います。ただ、資本の寄与は、これから設備投資が行われていきますので、プラスになっていくと思いますし、労働力の寄与も、近年女性の就業率が大幅に上がってきていますので、プラスになるかどうかは分かりませんが、少なくとも大きなマイナスにはならない、ゼロ近傍になっていくということになれば、潜在成長率はそれほど時間がかからずに 1%台に戻る可能性は高いと思います。ただ、2%にするというのは──中期的な潜在成長率を 2%にするというのは政府の成長戦略の重要な目標ですが──、これはそう簡単なことではないと思います。他方で、不可能ということでもないだろうと思っています。

§27Haruhiko Kuroda

政府は、成長戦略、色々な規制緩和であるとか、構造改革であるとか、その他各種の努力によって、潜在成長率を全体として 2%に持っていくということを目標として考えておられます。これは容易であるとは思いませんが、不可能であるということでもなくて、しっかりした成長戦略を着実に実施していけば、2%に達することは十分期待できるだろうと思っています。なお、諸外国、特に米国あるいは英国などは、リーマンショック前の中長期的な潜在成長率はかなり高かったわけです。英国の場合は大きく落ちてきているとか、米国の場合も落ちて、それがまだ元になかなか戻りにくい状況にあるとか、そういったことを踏まえて色々なことを言っておられるわけですが、日本の場合は、リーマンショック前に既に 1%台まで落ちていまして、その後の落ち方が欧米のように大きく落ちているということではなくて、先程言ったような状況ですので、若干事情は違うのかなと思っています。

§28Question

先程もお話に出ていましたが、「『量的・質的金融緩和』:2年間の効果の検証」が話題になっています。一番の反応は、この中で、日銀の「量的・質的金融緩和」の一番の柱、大きな旗になっているマネタリーベースについて一言も触れられていない、日銀は、結局、マネタリーベースでは何とも効果を挙げることはできないとして、実質金利を取り上げざるを得なかったのではないかと。政策委員会の中には、就任前に、マネタリーベースをいくら増やしたらどれだけ物価が上昇する等と言われていた副総裁もいらっしゃるわけですが、今となってはもう、マネタリーベースという言葉すらもこの検証の中に出て来ない、あまり物価を上げる効果はなかったのではないか、というのがまず大きな反応でした。私は、少し違う観点から質問させて頂きます。実質金利が1%くらい下がったことによって物価が 0.6%動くであろうと思っていたところ、株価とか為替が望外に動いたので、それを勘案すれば 1%ぐらい動くであろうというのが、この検証の中身の筋だと思いますが、期待インフレについては――これもその大きな柱だと思いますが――、この 2年間で 0.5%上がったと書かれています。

§29Question

ただ、総裁は、常々、 2%まで引き上げることが目標である、2%の「物価安定の目標」を安定的、持続的に達成するためには、やはり2%のインフレ期待がないといけないと言われていますが、2年間で実は 0.5%でした。結局、この検証は、2年間で「量的・質的金融緩和」は足りなかったのではないか、力が及ばなかったのではないかということを認めているという理解でよいのでしょうか。これがまず第 1 点の質問です。また、あと 1年ほどで 2%に達して、それからできるだけ早い時期に安定軌道に乗せていくのが日銀の目標だと思いますが、この足りなかった量的緩和をこのまま 1年やそこら続けていくだけで、足許で 0.5%の期待インフレ率がこれから 2%に到達するのかどうかも、民間のエコノミストをはじめ市場関係者が大いに疑問に思っているところです。2年間でこれだけしか効果がなかったものをこのまま続けていくだけで、 2%という期待インフレ率に達するのかどうか、よく分からないというのが多くの人の感想だと思うので、どうやってそこに持っていくのか、教えて下さい。

§30Haruhiko Kuroda

まず1 点目ですが、「量的・質的金融緩和」の波及メカニズムに関する考え方は、導入当初から変わっていません。「量的・質的金融緩和」は、2%をできるだけ早期に実現するという明確なコミットメントをしたうえで、それを裏打ちする、量と質の両面で次元の異なる金融緩和を行う政策です。量の面では、金融市場調節の操作目標を従来の金利からマネタリーベースという量に変更し、これを大幅に増加させることとした上で、その供給のために、長期国債などの資産買入れを大幅に増やしています。また、質の面では、買入れ国債の平均残存期間を延長し、 ETFやJ-REITの買入れ額を増加させています。「量的・質的金融緩和」では、こうした量と質の両面の大幅な緩和によって、長めの期間も含めてイールドカーブ全体にわたって名目金利に下押し圧力をかけ、それと同時に、デフレマインドを転換して人々の予想物価上昇率を引き上げることで、名目金利から予想物価上昇率を差し引いた実質金利を引き下げています。こうしたことによって、民間需要を刺激して経済の好転をもたらして需給ギャップを改善させ、そして実際の物価を押し上げていき、実際の物価が上昇すると予想物価上昇率もさらに上昇していくといった一連のプロセスを波及メカニズムとして想定しており、基本的にそうした「量的・質的金融緩和」のメカニズムは働いてきたと思っています。

§31Haruhiko Kuroda

予想物価上昇率についても、様々な計測の仕方がありますので一概に言えませんが、現時点で 1%台の半ばあるいは 1%台の前半といったような数字が様々な形で出ています。おそらく、1.5%とか 1%台前半へと予想物価上昇率が引き上がった分の全部が「量的・質的金融緩和」によって引き上げられたということではないと思いますが、予想物価上昇率の引き上げにも貢献していることは間違いないと思います。足許で潜在成長率をかなり上回る成長が続いており、さらに今年、来年と続き、需給ギャップが縮小して、いずれプラスになっていくと思います。そして予想物価上昇率も長い目で見れば上昇しており、特に、昨年の夏以降の原油価格の大幅な下落によって、足許の消費者物価上昇率がだんだん下がり現在 0%程度になっているにもかかわらず、予想物価上昇率は低下していません。こうした需給ギャップの動きと予想物価上昇率の動きから、私どもは2016年度前半頃には 2%程度の物価上昇率に達するであろうとみています。先程申し上げた通り、2016年度全体で+2.0%、2017年度全体で+1.9%といった消費者物価の上昇率を見込んでいます。そうした状況のもとでは当然ですが、予想物価上昇率も、2%に向けて収斂していくであろうと考えています。

§32Question

2 点あります。今の関連で質問です。物価上昇率については、足許ゼロ程度で、今後、月によっては小幅なマイナスの可能性もあると世の中でみられていますが、昨年10月の追加緩和の効果もあって、期待インフレ率に対しては大して影響ないという見立てでよろしいでしょうか。2 点目は、最近、総裁が国会答弁等で、2%の「物価安定の目標」の達成について、平均的に達成することをもって、それを目標達成と解説されていらっしゃいますが、平均的に 2%達成と最近おっしゃり始めたのは、今までとご説明が違うので、何か理由があるのか、お伺いします。

§33Haruhiko Kuroda

期待インフレ率というか、予想物価上昇率については、色々な指標がありますので一概に言えませんが、各種のアンケート調査等をみますと、中期的な期待インフレ率、予想物価上昇率は安定しています。物価上昇率が、昨春は 1.5%だったのですが、昨秋頃には1%程度まで落ち、その後0%近傍まで落ちてきているもとでも、予想物価上昇率は下がってきていないと思います。いわゆるブレーク・イーブン・インフレ率は、日本でも海外でもそうですが、原油価格にかなり影響されているようでして、原油価格の下落の影響を映じて若干下がっていましたが、このところまた上がってきているという状況です。ただ、先程申し上げたように、様々なアンケート調査等をみましても、期待インフレ率は足許の物価上昇率の下落にもかかわらず、長期的にみれば全体として上昇しているという状況です。それから、2 番目の点は、全く変更はありません。元々、消費者物価上昇率を毎月毎月、毎年毎年ぴったり 2%にするということは、どこの国でもやっていないというか不可能ですから、基本的に 2%程度の物価上昇率を続けるように、金融政策を運営するということです。まさに平均的に 2%、だから2%を若干上回ることもあるし、下回ることもあるということかと思います。

§34Haruhiko Kuroda

ちなみに、先程申し上げたように、政策委員会の委員の見通しの中央値では、2016年度は+2.0%、2017年度は+1.9%となっています。

§35Question

今の金融政策の柱である、長期国債を大量に買入れる政策の持続可能性あるいは限界という点について、ご所見を伺います。市場関係者の間では、かなり大量の国債を買っていることへの懸念が引き続き聞かれていると思います。例えば、銀行が、業務上、担保として持っていなければいけない債券の壁に早晩ぶつかるとの見方もあると思います。国債を買入れる政策の限界があるのかどうか、あるいは国債以外にも色々と手段があるのか、この点について総裁のご所見をお聞かせ下さい。

§36Haruhiko Kuroda

ご指摘のように、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために「量的・質的金融緩和」を進めており、そのもとで長期国債を、保有残高が年間約 80 兆円に相当するペースで増加するよう買入れています。これまでのところ、こうした方針に沿って、買入れは着実に進んでいます。また先行きについても、買入れに支障をきたすような事情があるとは考えていません。ただ、引き続き国債市場の動向を点検しながら着実に推進してまいりたいと思いますし、従来同様に、市場関係者との対話は続けていくつもりです。

§37Question

2014年度の経済成長率は実質でマイナスになりましたが、年度の前半はかなり下押し圧力が強く、後半は回復してきたということです。秋に日銀が追加緩和して以降、回復しているという印象も受けるのですが、今振り返ってみて、黒田総裁は、追加緩和は秋でしたが、本当はもっと早くした方が良かったのではないかとお感じになることはありますか。

§38Haruhiko Kuroda

金融政策についても他の経済政策についても、ずっと後で振り返るとどうだったかには様々な議論があり得ると思いますが、私どもとしては、毎回の金融政策決定会合において、経済・物価動向を評価し、適切な金融政策を決定するということでやってきています。今のところ、昨年10月末に「量的・質的金融緩和」の拡大を決定したことは適切であったと思っています。その時に申し上げた通り、石油価格の大幅な下落が続く状況のもとで、消費者物価の上昇率が毎月毎月下がっていき、デフレマインドの転換を進めてきたものが遅れる、逆転する懸念があったわけですので、そうした懸念を未然に防止する観点から、「量的・質的金融緩和」を拡大しました。その後の状況を見ると、先程申し上げた通り、毎月毎月の物価上昇率は下がり足許で 0%程度になっていますが、幸い、予想物価上昇率は安定している、長い目で見れば上昇しているということですので、そうした面では適切であったと思っています。以上