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日本銀行記者会見2015年6月10日佐藤健裕, 審議委員

佐藤審議委員記者会見(2015年6月10日)要旨

全文

§1Question

地元を代表して 2 点質問をお願いします。本日の懇談会を通して、山梨県経済および地方経済について、どのような認識を深められたのか、所感をお願いします。2 点目ですが、本日の懇談会に同席された地元の出席者からどのような意見や要望などが寄せられたのかをお願いします。

§2Takehiro Sato

まず、山梨県の景気に関してですが、基本的には緩やかな回復基調にあると認識しております。すなわち、山梨県の産業構造は機械関連業種を中心とする製造業のウエイトが全国と比べて高いという特徴があります。こういった製造業のうち、直接的ないし間接的に外需を取り込んでいる企業がけん引役となり、生産は持ち直しています。こうした中で、企業部門では設備投資が増加を続けているほか、家計部門でも雇用者所得の改善を背景に、個人消費は全体として底堅く推移しています。賃金の動向につきましては、例えば県から発表されております「春季賃上げ要求・妥結状況調査」の中間集計結果をみますと、2015年の平均賃上げ率は 1.89%と、全国に比べやや下回っております。もっとも、当県の集計結果を企業規模別にみると、中小企業では前年を上回る賃上げ幅となっているなど、徐々にではありますが、景気回復の効果は着実に波及していると思います。先行きも、海外経済の動向といったリスク要因を注視する必要がありますが、生産、所得、支出の好循環の影響が徐々に波及していく中で、緩やかな回復の動きが続くと思います。本日の金融経済懇談会での意見交換ですが、山梨県の各界を代表する方々から地域の金融経済の現状や課題、あるいは日本銀行の政策運営に関する貴重なお話やご意見等を数多くお聞かせ頂き、非常に有意義な意見交換ができたと認識しています。

§3Takehiro Sato

まずは、ご出席頂いた方々や関係者の皆さまに深く御礼を申し上げたいと思います。本日の懇談会ではご意見が多岐に亘ったため、全てを網羅してご紹介することはできませんが、私なりに席上で聞かれました話題等を整理して申し上げます。まず、当地の景況感に関して、サービス業を中心とする非製造業では、外国人観光客などの増加によるインバウンド需要の拡大などを背景に、全体として、改善傾向にあるという声が聞かれました。また、当地主力の機械関連製造業では受注が増加しているとの声が聞かれました。一方、人手不足や円安などによりコストの増加を懸念する声も聞かれました。また、業種、規模、地域などによってばらつきがみられている点には留意が必要との話も聞かれました。中長期的にみると、人口減少は当地にとって最も重要な課題であり、これに歯止めをかける必要があるとの話も聞かれました。こうした課題への対応としては、機械関連産業のほか、富士山、温泉などの観光資源やワイン、フルーツなどの当地の強みを活かし、観光業や農業のさらなる活性化に向けた取り組みを進めていくとのお話があったほか、東京オリンピックの開催やリニア中央新幹線の開通などをきっかけにして、当地経済のさらなる活性化につなげていきたいという非常に心強いお話も伺いました。

§4Takehiro Sato

私どもとしては、山梨県内の金融経済情勢について、甲府支店を通じ、今後もきめ細かくモニタリングを続け、中央銀行の立場から経済の持続的な成長の実現や金融システムの安定性の確保を図りながら、山梨県経済を支える関係者のご努力がより大きな成果へつながっていくようサポートしていきたいと考えています。

§5Question

改めて、山梨県経済、中小企業が 9 割を占めていますけれども、山梨県の産業界の強みと、その課題、今後の見通し、こうすれば県経済を活性化できるのではないかというところを教えて頂ければと思います。

§6Takehiro Sato

山梨県は、東京に近接する立地のよさの中で、豊かな自然に恵まれていること、それから優れた要素技術を持った企業が集積していることなどが強みであり、これらをうまく活かしていくことが必要ではないかと思います。最近では、こうした豊かな自然を目当てに外国人観光客が増加しているほか、移住先としての関心が高まってきているようです。外国人観光客の利便性向上に向けて、通訳サービスや無線通信環境、案内表示などの整備を進める動きがあると伺っております。また、移住の誘致体制の強化を目的に、首都圏在住者への情報提供窓口を通じて情報発信を強化したり、あるいは受け入れ先の自治体では空き家情報を収集、提供する制度を創設する動きがあるとも伺っております。今後は、中部横断自動車道やリニア中央新幹線といったインフラ整備が進むといった追い風が期待されるということもあり、こうした取り組みを通じ、山梨県経済が一層の発展を遂げていくことを祈念しています。

§7Question

今回の懇談会で聞かれた意見などを、どのように今後の政策等に活かしていきたいとお考えか、ご意見頂けますでしょうか。

§8Takehiro Sato

先程申し上げたことと若干重なると思いますが、今回の金融経済懇談会では、当地の景況感について、様々な業種の方々から様々なご意見を伺っています。私どもの金融政策は、これらの声に対して、マクロの立場から緩和的な金融環境を提供すべくできるだけ努力をしていきたいと思いますので、関係者の方々にはそういうお話を申し上げました。

§9Question

2 点あります。為替ですが、午前中の国会で、黒田総裁が、これ以上のドル高になる必要はないとおっしゃっていますが、昨今のドル高円安をどうご覧になっているかということと、これ以上のドル高円安は物価目標達成という意味で望ましいのか、それとも経済状況、マクロにみて急速過ぎるということで望ましくないのかご所見をお願いします。2 点目は、以前から佐藤委員はさらなる追加緩和には必ずしも積極的ではないと思うのですが、昨年末のご講演でもリーマンショック並みのショックがある場合でなければ追加緩和は必要でないというご所見だったと思います。今後、仮にそういうことが起こった場合、佐藤委員としてはどういう政策対応が望ましいのか、今日のご講演ですと、もう今の延長線上では手詰まりであるというように伺えたのですが、お話できる範囲でお願いします。

§10Takehiro Sato

まず、円安について、為替相場の水準やスピード、あるいは日々の動きなどについて、私の立場から具体的にコメントすることは差し控えたいと思います。その上で、あくまで一般論として申し上げますと、円安は輸出の増加やグローバルに展開している企業の収益改善のほか、株価の上昇といったプラス効果を持つと思います。その一方で、輸入コストの上昇や、その価格転嫁を通じて、中小企業や非製造業の収益や家計の実質所得に対する押し下げ圧力として作用するといった面もあると思います。このように円安の影響は、経済主体によって様々に異なり得るということであって、いずれにしても為替相場は、経済や金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいと思います。今後とも、為替相場の動きを含めた金融資本市場の動向については、それが実体経済やあるいは国際金融資本市場に及ぼす影響も含め、引き続き注意深くみていきたいと思います。それから、2 点目の追加緩和に関して、仮にリーマンショック並みのショックが世界経済に起これば、どういった政策対応が考えられるかというご質問だったかと思いますが、仮定のご質問でありますので、お答えは差し控えたいと思います。

§11Question

挨拶要旨の 9 ページで、「物価安定の目標」の達成状況と政策継続の是非というのは、「量的・質的金融緩和」拡大後の政策効果や巨額の国債買い入れの持続可能性、及びさまざまな副作用も念頭に置きたい、とおっしゃっています。政策効果と持続可能性、副作用について、色々ご指摘されていますが、ざっくり理解すると、特に追加緩和以降、効果が減っている一方で、副作用は大きくなっているとして、持続可能性についてもその困難度が増している、という理解でいいかと思うのですが、仮に、2%の物価目標の実現前に、こうした副作用が効果を上回ったり、持続可能性に大きな困難度が増した場合には、2%の物価目標達成前にも、佐藤委員ご自身は、このQQEの縮小、テーパリングといったようなことをご提案されるつもりがあるのかどうか。もし、そういうご提案をした場合には、2%の物価目標というのは、一段と難しくなるのか、あるいはテーパリングしたとしても、その物価目標の実現というのは可能なのかどうか、ということをお聞かせ下さい。

§12Takehiro Sato

2%の「物価安定の目標」の実現前に、仮に、こういった政策効果が逓減したり、あるいは持続可能性の問題が生じたり、副作用が大きくなればということで、これも、あくまでも仮定のご質問になりますので、なかなか直接的にお答えすることは難しいと思いますが、私どもは、この「量的・質的金融緩和」の継続にあたり、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、というフォワード・ガイダンスを提示しているわけであり、今後の政策の継続にあたっては、このフォワード・ガイダンスに照らして、あくまでも毎回の決定会合で判断していくべきものと考えております。そういう意味では、毎回の決定会合で、この「量的・質的金融緩和」を継続することが当然の帰結であるといった予断を持つことなく、政策効果あるいは持続可能性を検証しながら、今後の政策の継続について判断していきたいと考えています。

§13Question

講演の中で言われていたローリング・ターゲットのことですが、佐藤委員はボードと比べて弱い物価の見通しを持たれていて、2%の物価安定の理解がちょっと異なるかと思うのですが、ここで言われている、ローリング・ターゲットというのは、実際に 2%にいってなくても 2%が見通せるような状況が常に、2年程度の先行きをみて、見通せれば十分ということでよいのか。それと、4月30日の展望レポートでも、見通し期間にその 2%に達するという可能性が低いとみられている、現状の物価の情勢には佐藤委員は満足されてない、というようにも理解できるのですが、その辺をどう思うのかお伺いしたいと思います。

§14Takehiro Sato

ローリング・ターゲットという考え方については、挨拶要旨の中でも触れていますが、私どもでは、先行き 2年程度の期間を念頭において、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」の実現をするというコミットメントを出しており、これが私どもの達成目標になると思いますが、この点について私は、2年程度の期間というものを固定的に考えるのではなく、先行き 2年程度のタイムスパンを常に念頭に置きながら考えていく、ということだと解釈しています。実際のところ、主要国の中央銀行の物価目標の考え方も、概ねそういった概念に近いものではないかと考えております。それから、私としては、先行き 2年程度のタイムスパンの中で、物価の動きが 2%の安定的な実現を見通せるようなパスにあるということであれば、それはそれで政策効果として、あるいは政策目的として、所期の目的は果たしたことになるのではないかと考えています。すなわち、先行き 2年程度を見越して、あくまでもフォーキャスト・ターゲティング的な考え方で、見通しとして 2%ということが射程圏内にあるという状況であれば、それはそれで政策の所期の効果、目的というのは果たせるのではないかということです。

§15Question

先程もちょっと出ましたが、国債買い入れの持続可能性について、もう少し詳しいイメージを伺えればと思います。講演の中では、限界に達する時期を、現時点で見通すことは難しいということはおっしゃられていますが、とはいえ、例えば今の金利水準がある程度継続した場合に、どの辺の時期が想定されるのか。今、例えば展望レポートで 17年度までの見通しを出しているわけですが、その期間内はどうなのか、そのあたりの時期のイメージを伺いたいのと、実際、限界に達するというのは、どういう現象が現れたとき、限界に達したと判断されるのか、その辺についてもう少し詳しいイメージがありましたらお伺いしたいと思います。

§16Takehiro Sato

国債買い入れの持続可能性についてですが、果たして、どの時点まで今の大規模な国債買い入れを継続することが可能かどうかという問題意識は常に持っています。ただ、果たして、そういったクリティカルポイントがどこにあるのか、という点については、挨拶要旨の中でも触れたとおり、例えばその時々の金利水準、あるいはその時々の海外金利の水準、あるいは他の資産価格、例えば株価、そういった色々な要素が絡んでくると思いますので、様々な要素の中で複合的に決まってくるものだと思います。そういう点で、現時点で、何か確からしい見通しを持っているというわけではありません。ただ、そういったクリティカルポイントが、この買い入れを長く続けていく中では、やはりどこかででてくる可能性があるということです。それは、金融機関が国債の保有額を、例えば担保需要等から、これ以上減らせないところまで減らしていくということであり、それが果たしてどこにあるのか、ということは繰り返しになりますけれども、現時点ではなかなか見通すことは難しいです。ただ、言えることは、そういった国債市場における国債の供給曲線がどこかの時点で垂直になるところがあるのではないかと考えています。

§17Takehiro Sato

それから、その限界点に達したときに果たしてどうなるのか、ということですが、具体的なイメージとして、例えば私どもの国債の買い入れオペにおいてオペの未達が起きるといったことをイメージしています。ただ、未達が単発で起きるということであれば、その後のオペレーションで挽回すればいいわけであり、それは特に問題はないかと思います。状況としては、そういった未達が仮に起こるとして、それが連続的に発生し、年間 80 兆円のマネタリーベースの増加目標の達成が難しくなる、そういった状況を念頭に置いています。ただ、今申し上げたことはあくまでも仮定の話でして、繰り返しになりますが、いつそれが起こるのかということは、なかなか今の段階で見通すことは難しいということです。

§18Question

今の質問に関連するのかもしれませんが、佐藤委員が講演の中で、国債買い入れの量と金利の間にリニアな関係が成立しにくくなっているとご指摘されています。それであれば、国債買い入れから、金融政策のターゲットを金利に変える、例えば、付利の引き下げのような金融政策に変えるという方法は現時点で可能だとみていらっしゃるのでしょうか。

§19Takehiro Sato

私どもの政策というのは、もちろんそういった量の拡大によって、金利に影響を及ぼすというものでありますが、その際に、名目金利と実質金利を分けて考える必要があるかと思います。挨拶要旨の中でも触れましたように、この名目金利に関しては、既に、10年金利で 0.5%前後ということで、非常に低い水準にあります。そういう点では、私どもはこれから買い入れの残高を累積的に増やしていくということになるわけでありますが、その結果としてリニアにこれまでと同じような経験則で、同じようなペースで名目金利が下がり続けるかどうかというと、金利の非負制約ということもありますので、なかなかそう簡単にはいかないであろうと、リニアな関係というのも成立しにくくなるであろうということです。ただその一方で、私どもは、もう 1 つの政策の柱として、大規模な買い入れを続けるということにより、中央銀行としての決意、あるいは市場に対して明確なコミットメントを示すことで、市場の予想インフレ率に働きかけることを目指しているわけです。もちろん、その予想インフレ率に働きかけるということを中央銀行の大胆な決意によってのみできるかどうかというと、それはそれでまた色々議論のあるところかと思います。

§20Takehiro Sato

市場の予想インフレ率というのは、中央銀行のスタンスだけではなく、例えば、全般的な経済情勢、あるいは資産価格、その他諸々の要因によっても規定されると思いますし、実際そちらの方の要素の方が大きいかもしれません。ただ、例えば私どもの政策がそういったかたちで資産価格に影響を及ぼすことで、それが最終的にやや長めの予想インフレ率に影響を及ぼすことができるのであれば、仮に名目金利がリニアになかなか下がりにくくなるとしても、実質金利に働きかけるということは可能かもしれません。そういう意味では、政策の限界があるということを申し上げているわけではありません。ただ、実際のところ名目金利がかなりゼロに近づいてきているということでありますので、挨拶要旨の中でも触れたように、政策の難度が高まっているということは事実であろうと思います。それから、付利に関してのご質問がありましたけれども、基本的には、0.1%の当座預金への付利ということ、これはマネタリーベースを円滑に積み上げるために必須のツールであると私としては理解しております。すなわち、現行の年間 80 兆円のマネタリーベースの増加目標、これを達成する上では、0.1%の付利、これが重要な役割を演じているわけであり、ある意味、一体不可分のものであると思います。

§21Takehiro Sato

そういう意味では、付利を動かすという考え方とマネタリーベース目標、これは本来相容れないものであり、そういう点では、私どもとしては、現時点ではそういったことは念頭に置いていません。

§22Question

先程の効果を副作用が上回る、あるいは持続可能性がますます困難になるという時にはどのような政策姿勢、政策態度を取られるのかという質問に対して、仮定の質問なので答えにくいということで、かなり慎重なお答えだったわけですが、その後の質問で、持続可能性について、長く続けるなかで、クリティカルポイント、限界点がどこかで来る可能性があるとおっしゃっているわけです。そういう可能性を指摘されながら、そうなったときにどうするかは言わないというのは、これは説明責任を果たしているとは思えない。そういう可能性がいつか来るとおっしゃっているのであれば、その時にどうするかというところまでおっしゃって頂けなければ、市場としても非常に不安になると思います。そういう状況になったときにどのようなことをお考えなのかということをお聞かせ下さい。

§23Takehiro Sato

オペレーションの持続可能性ということは、もちろんやや長い目でみた時に問題になり得ることでありますけれども、そうなったときに、どのように先行きの政策手段を考えるかということについては、その時々の経済情勢、あるいは市場環境によると思います。いろいろな政策変数の組み合わせがあると思いますので、そういう中から最適な政策を取捨選択していくということになると思います。この点、今のうちから固定的にこういった手があるということを申し上げることは現段階では難しいということであり、今のうちから仮に政策手段があるとして、それを予め示しておくということも建設的ではないと思います。

§24Question

予想インフレを通じて実質金利を引き下げるというこのチャネルは、QQEの他のチャネルと併せて重要なものとして日銀として説明してきたと思うのですが、この予想インフレに与える影響というのを佐藤委員ご自身は講演でも、なかなか支出でみると明確な改善がみられないという主旨で述べられていると思うのですが、その評価を佐藤委員ご自身どう考えられているのか。また、設備投資について、やはり国内に回帰するかどうかというのが大事であるという点を述べられており、その兆候はみられるということですが、円安以外のファクターも大事だと思うのですが、例えば需要のあるところに生産拠点を作るという動きもあると思いますし、そういうことも踏まえて設備投資の今後の先行きについてもう少し敷衍して頂ければと思います。

§25Takehiro Sato

中長期的な予想インフレ率に関しては、毎回のステートメントの中でも述べていますように、やや長い目でみれば全体として上昇しているとみられるということです。この点について、私どもとしては、例えば毎月の消費者物価指数の前年比のアップアンドダウンに一喜一憂するということではなく、あるいは日々のBEIの動きといったものを逐一フォローしていくということではなく、QQE開始以降のやや長い目でみて人々の物価感がどう変化してきたかということに着目しているわけです。そういう点では予想インフレ率は全体として上昇しているのではないかということです。もう少し具体的に申し上げますと、例えばQQE実施以前と足許との、人々の、例えば家計あるいは企業の物価観を考えてみますと、かつてデフレの下で、消費者は極端に安い財あるいはサービスを追い求めるなど、極端な安値志向であったということであり、企業もそういった極端な安値での供給ということに努力してきたわけであります。ただ、足許、消費者のそういった志向というのは、やや変化してきているということであり、極端な安値志向というのも、もちろん残っているわけですが、その一方でそれなりの質を伴ったものに対しては若干高い対価を支払ってもいいと、そういったスタンスに微妙に変化しつつあるのではないかということです。

§26Takehiro Sato

企業側としても、これまでの単にコストを削減するという努力だけではなくて、それなりのクオリティのものをそれなりのコストを掛けて供給していくといったスタンスに変わってきています。すなわち、これは企業の価格設定戦略、これが若干変化してきているということだと思います。こういったことは、やや長い目というか、かなり長い目でみたときの人々の予想物価上昇率の変化ということを象徴的に示しているのではないかと思います。こうしたことは月々の経済指標の変化からは簡単には読み取れないものです。それからもう 1 つ重要なことは、賃金の設定行動の変化です。これは、昨年からの春闘の動きにもみられますように、デフレの下では長らくベースアップという概念すら忘れ去られていたわけですが、ベースアップという概念が政治の強い後押しというかリーダーシップもあり、昨年ようやく、久しぶりに実現したということです。かつ今年に関しては、昨年からの流れを引き継いで、そういったベースアップ、これは賃上げ率としては昨年以上の成果というのが出つつあるということだと思います。

§27Takehiro Sato

こうした労使交渉、労使の賃金交渉において、物価上昇を賃金上昇率に織り込むという考え方、これはデフレの世界では長らく忘れ去られていたわけであり、そういった概念が賃金の交渉過程で織り込まれるようになった、あるいは戻ってきたということ、これ自体が長い目でみたときの人々の予想物価上昇率の変化ということを象徴的に示しているのだろうと思います。そういう点で、私としては予想物価上昇率の変化を引き続き着目していきたいと思いますし、私どもの究極の目標としては、単に消費者物価の前年比上昇率が 2%をつけるということではなく、挨拶要旨でも触れたように、人々、すなわち企業も家計もあるいは賃金交渉においても、ある程度の、具体的に言いますと個々の経済主体が 2%程度の物価上昇を前提としてそれぞれ行動するような世界にもっていく、すなわち、中長期的な予想物価上昇率を 2%程度にリアンカリングしていくということが究極の目的であると理解しています。それから設備投資に関してですが、企業は既に海外での設備投資を相当積極的にやっているわけであり、伸び率としては前年比 2 桁の伸び率をコンスタントに維持しています。その一方で、国内の設備投資はどうかといいますと、リーマンショック以降長らく低迷していましたが、このところ、ようやく少し持ち直していますが、それでも前年比でみると 1 桁台の前半に止まっています。

§28Takehiro Sato

そういう点では国内とそれから海外の設備投資のバランス、これをどう見直していくかということ、これは企業の生産戦略というか立地戦略に深く関わってくる問題ですので、今後とも注視していきたいと思いますが、1 つの重要な決定要素としては、挨拶でも申し述べましたように、為替、しかもそれは短期的な為替の見通しではなく、かなり中長期的な為替の見通しが影響してくるであろうということです。すなわち、企業として先行き例えば 5年、10年を見通して、2年前までのような大幅な円高の再燃はないだろうと見越すのであれば、企業の立地戦略というのは必然的に変わってくる、あるいは生産戦略は必然的に変わってくる。すなわち、国内の生産のウエイトを高める方向になっていくのではないかということで、為替は 1 つの重要な要素だろうと考えています。ただ、為替以外にも、ご指摘のように、幾つかの重要な要素があることはもちろんでして、例えば労働資源、これは国内では不足しつつあると言われているわけですし、それから税制の問題、生産拠点を国内に置くか海外に置くかということで税金が変わってくるということになると、これも企業の意思決定に大きく影響してくるでしょうということであります。

§29Takehiro Sato

そういう点では企業としては、最適な立地戦略を常に考え続けているわけで、税制等の重要な要素はありますけれども、その中の 1 つとして私は為替レートということを例示したとご理解して頂ければと思います。

§30Question

先程黒田総裁が国会で、実質実効レートについて、円安になっているのは事実だとおっしゃったうえで、ここからさらに円安はありそうにないということをおっしゃっています。こういう見方は、政策委員会の中でも共有されているのでしょうか。

§31Takehiro Sato

この通り出張中ということもあり、現在の衆議院での質疑について逐一内容を熟知しているわけではありませんので、直接的なコメントは差し控えたいと思いますが、足許の為替レートの動きについては、私の解釈は、ごく一般的な解釈だと思いますけれども、先行きの日米の金利差拡大を織り込む動きであろうということです。すなわち、先般の雇用統計をきっかけにして、マーケットではFEDの出口戦略、すなわち利上げのタイミングが若干前倒しになるのではないかという見方が俄かに強まってきていると理解しておりますけれども、足許の円安の動きはそういったFEDの金融政策に対する期待と整合的な形で動いているということです。さらに円安があるのか、ないのかということは、私どもの立場で申し上げることではありませんし、特にそういった予想ができるわけでもありませんが、現在の動きはそういったFEDの金融政策を先取りする動きであると理解しています。以上