総裁定例記者会見(2015年7月15日)要旨
全文
§1Question
今回の金融政策決定会合の結果について、展望レポートの中間評価、特に物価と成長率の見通しを引き下げた理由を中心にご説明下さい。
§2Haruhiko Kuroda
本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 80 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。わが国の景気についてですが、企業部門では、収益が過去最高水準まで増加していることなどを背景に、前向きな投資スタンスが維持されています。家計部門については、雇用・所得環境の着実な改善が続き、マインド面の改善傾向も続く中、個人消費が底堅く推移し、住宅投資も持ち直しつつあります。このように、企業部門・家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムは、しっかりと作用し続けていると考えています。従って、景気の総括判断としては、「緩やかな回復を続けている」としました。先日の支店長会議でも、全ての地域から、景気は回復しているとの報告があり、景気回復が地域的な拡がりを伴っていることを改めて確認しました。項目別にやや詳しく申し上げますと、海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復しています。輸出と鉱工業生産は、このところ鈍さがみられていますが、これは一時的なものと考えています。
§3Haruhiko Kuroda
すなわち、輸出は、1~3月期における米国経済の一時的な減速がラグを伴って影響するとともに、アジア経済のもたつきも影響しているとみられますが、先行きについては、海外経済の回復や既往の円安による下支え効果などを背景として、振れを伴いつつも、緩やかに増加していくとみています。生産も、輸出が増加し、一部の業種でみられている在庫調整の動きが進捗するに伴って、振れを伴いつつも、緩やかに増加していくと考えられます。また、企業収益が改善する中で、設備投資は、緩やかな増加基調にあります。先日公表した6月短観の結果をみると、収益計画について、2014年度の実績が上振れして着地するとともに、2015年度も上方修正され、高水準を維持する見通しです。業況感も総じて良好な水準で推移しています。こうしたもとで、2015年度の設備投資計画は上方修正され、全体として前年を上回る水準となっています。雇用・所得環境をみると、労働需給は着実な改善を続けており、雇用者所得も緩やかに増加しています。そうしたもとで、個人消費は、底堅く推移しており、住宅投資も持ち直しつつあります。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じています。わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移し、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向が続いています。
§4Haruhiko Kuroda
銀行貸出残高は、中小企業向けも含め緩やかに増加しています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、 0%程度となっています。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇していると判断されます。経済・物価の先行きについては、今回の会合で中間評価を行いました。4月の展望レポートで示した見通しと比較しますと、成長率は、2015年度について、このところの輸出の鈍さなどから、幾分下振れる一方、2016年度、2017年度については概ね不変です。消費者物価は、概ね見通しに沿って推移すると見込んでいます。すなわち、わが国経済は、2016年度にかけて潜在成長率を上回る成長を続けると予想されます。2017年度は、消費税率引き上げの影響などから、減速するとみられますが、プラス成長を維持すると予想されます。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面 0%程度で推移するとみられますが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である 2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。2%程度に達する時期は、原油価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になると予想されます。ただし、一部の委員が、物価の見通しについて、より慎重な見方をされました。
§5Haruhiko Kuroda
リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。
§6Question
中国経済についてお尋ねします。最近中国の株式市場では、株価が不安定な状況が続いています。今日発表されたGDPの伸び率も 7%と横ばいになりました。今後、中国経済の減速が続いていくという見方が大勢ですけれども、これが日本経済、世界経済に与える影響について、総裁はどのようにみていらっしゃいますでしょうか。
§7Haruhiko Kuroda
中国経済については、ご指摘のように、本日公表された中国の 4~6月期のGDPが前年比で+7.0%ということからも確認されたように、総じて安定した成長を維持しているとみています。先行きについても、当局が金融・経済面の両面から景気下支えに向けた施策を相次いで講じていることもあり、中国経済は、成長ペースを幾分切り下げながらも、概ね安定した成長経路を辿ると考えています。今後とも、中国経済の動向については、注意深くみていきたいと思っています。なお、上海の株価については、ご案内の通り、昨年後半以降かなり大幅な上昇を続けた後、6月半ばから下落しました。その背景としては、そもそも株価が昨年後半の 2 倍以上に上昇するもとで、市場参加者の間で高値警戒感が拡がっていたことに加えて、信用取引が巻き戻されたことなどが影響しているとみられますが、引き続き注視をしていきたいと思っています。
§8Question
ギリシャを巡る一連の情勢についてお伺いします。先日のユーロ圏首脳会議で合意された内容については、ギリシャ議会が 15日までに支援の条件とされている構造改革案を承認することが必要になってきますが、仮に承認された場合、ギリシャを巡る危機というのは、これで回避されたとみていいのでしょうか。また、今回の一連のギリシャの財政を巡る問題は、多額の債務を抱えている日本の財政問題について、どのような示唆があると総裁はお考えでしょうか。
§9Haruhiko Kuroda
ご承知の通り、先般のユーロ圏首脳会議で、ギリシャ政府が付加価値税の見直し、あるいは年金改革について所要の立法措置を行うことを条件に、ESM(欧州安定化メカニズム)による金融支援の協議を開始することが合意されました。日本銀行としては、ギリシャの債務問題が、関係諸機関や欧州各国の協力のもとで、解決に向けて着実に進展していくことを強く期待しています。まずはギリシャ政府が所要の措置を講ずるということが必要ですし、その上でESMによる金融支援の詳細等が固まり、それを着実に実行していくということを通じて、問題の解決に向けて着実に前進することを強く期待しています。後段のご質問については、ギリシャと日本の財政状況を単純に比較することはできないと思いますし、また、財政運営についてはあくまでも、政府・国会の責任において行われるものであって、具体的なコメントは差し控えたいと思います。その上で、一般論として申し上げますと、いつも繰り返しているように、国全体として財政運営に関する信頼をしっかりと確保することは非常に重要であると思います。この点、政府は、経済の再生と財政の健全化を同時に進めていくという方針を示した上で、いわゆる基礎的財政収支を「2020年度までに黒字化」するという財政健全化目標の達成に向けて「経済・財政再生計画」というものを定めたところです。
§10Haruhiko Kuroda
政府による財政健全化に向けた取り組みが、着実に実行されることを強く期待しています。
§11Question
今回の中間評価で、2015年度の成長率見通しを 0.3%ポイント引き下げていますが、先程のご説明では輸出の鈍さを原因に挙げていました。これは、先程の質問にもあったように、中国の減速が反映されていると思いますが、一方で、先程の中国の評価では安定して成長が続くだろうとのご説明でした。この辺りの整合性について、4~6月の輸出や生産が鈍いので数字に反映したということであって、先行きについてはあまり心配がない、中国要因についてもあまり成長率を引き下げたりする方向に働かないだろうというご趣旨で言われたのかどうか、確認させて下さい。
§12Haruhiko Kuroda
日本経済の動向については、海外経済の影響がありますし、その場合は米国そして次の経済規模である中国経済の動向が影響を与えることは事実ですが、それ以外の様々な要因もあります。その上で申し上げると、基本的におっしゃったようなことであろうと思っています。つまり、輸出が 4~6月やや弱めであったことを反映して、生産もやや弱め、そして一部の業種で――例えば軽自動車等を中心に――在庫調整が行われていることもあり、4~6月の成長率は、非常に高い成長率だった 1~3月に比べるとかなり低下する可能性があります。しかし、例えば輸出について言いますと、1~3月の米国の成長率がマイナスであったことが1 四半期のラグをもって影響してきている面もありますし、中国経済に――むしろアジア経済にと言った方がよいかもしれませんが――、ややもたつきがあったことが影響していると思います。米国経済は4~6月には明確に回復していますし、中国経済も先程申し上げた通り、成長のモメンタムが切り下がってきていることは事実ですが、1~3月に続き4~6月も7%の成長を維持したので、日本経済の4~6月の若干弱い状況が、7~9月以降ずっと続くとは全くみていません。そういう意味では、一種の足許調整として、2015年度の成長率がやや下振れしたということだと思います。
§13Question
物価の見通しについてお伺いします。2016年度の物価見通しの委員の中央値が若干下振れして 1.9%になりました。先程総裁のお話しで2016年度前半頃に 2%というのは変えないとおっしゃいました。2016年度前半頃に 2%に達するということと、2016年度の物価見通しが 1.9%ということの整合性が分かりにくい部分があるので、ご説明頂けますでしょうか。この 1.9%というのは、2%程度の「程度」の中に入っていて、必ずしも2%にこだわらないというお考えなのか、教えて下さい。
§14Haruhiko Kuroda
2%程度という時に、1.9%も 2%程度に入るとは思いますが、「物価安定の目標」自体は、ヘッドライン(総合)の消費者物価指数で 2%を目標にしています。ただ、物価の基調をみていく必要がありますので、その際には、展望レポートあるいは中間評価にもある、生鮮食品を除く消費者物価指数──生鮮食品は非常に変動しますので、それを除いた消費者物価指数──の対前年比で基調をみています。それに加えて大きな原油価格の下落が昨年の秋から起こり、その動きを除いた指標やその他様々な指標をみながら、当然この金融政策は運営していくということになると思います。この 2016年度の生鮮食品を除く消費者物価の上昇率が 1.9%というのは、あくまでも年度全体の数字ですので、一定の時点で 2%を超えることがあるかもしれませんし、それ以下のこともあるかもしれませんが、平均的にみて2016年度が 1.9%ということだと思います。先程申し上げたように、委員の多数意見では2016年度前半頃に 2%程度に達する可能性が高いという見通しは変わっていません。
§15Question
2 点お伺いします。今回の物価見通しの引き下げの背景なのですが、先程ご説明のあったように、4~6月の成長が下振れる可能性があるということで、2015年度の成長の見通しも引き下げています。それにより需給ギャップの改善が遅れる可能性があるということで、物価の見通しが下がっている部分があるのかどうかという点が 1 点です。もう1 点が、原油価格なのですが、足許でやや軟調な動きになっていまして、イランの核協議の合意なども受けて、先行きさらに下振れるのではないかという見方もありますが、やはり原油価格の下落によって、インフレ期待に影響して、それによって日銀が予防的に政策を対応するようなことが今後あり得るのかどうか、その辺に対してご見解をお願いします。
§16Haruhiko Kuroda
まず第 1 点は、観念的には、足許の成長率が若干弱いということは、当然その分だけ需給ギャップの改善が遅れるということにはなるわけですが、あくまでも足許調整に似たものですので、その後の成長率が下がっていくという見通しは持っていません。現に 2015年度の見通しは、足許成長率が若干下振れたわけですが、2016年度、2017年度の成長率は維持されており、全く下振れていません。従って、おっしゃるようなことは、理論的にはあり得るとは思いますが、その可能性が非常に大きいとは思っていません。いずれにしても、2%と 1.9%というのは、0.1%ポイントの差ですので、そもそもその数字に非常に大きな意味を持たせる必要はなく、概ね展望レポートの見通しに沿った動きになっているということを、この公表文でも述べておりますが、委員の多数意見もそういうことでした。基本的に原油価格(ドバイ)の前提というのは、この今回の中間評価にも注 3 で書いてある通り、1 バレル 60 ドルを出発点に、見通し期間の終盤にかけて 70 ドル程度に緩やかに上昇していくという想定でありますが、これはあくまでも足許の価格と先物の価格の角度を踏まえて、機械的に置いたわけです。その結果、前よりも少し──前は55 ドル位から 70 ドル台前半に上がっていくという見通しだったわけですが──角度がフラットになっていることは事実です。
§17Haruhiko Kuroda
ただ、足許で価格が上がってきていましたので、注3 に書いてあります通り、この場合の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比に対するエネルギー価格の寄与度は、2015年度で-0.7~-0.8%ポイント程度、2016年度で+0.1~+0.2%ポイント程度と試算していますが、これは変わっていません。先程申し上げたように 2%と 1.9%の差というのは、非常に小さなものですし、原油価格の上昇の角度がややフラットになったということは、これもまた理論的には影響はあり得るのですが、今申し上げたように試算してみますと、それ程の違いは出てきていないということです。いずれに致しましても、来年度の2%というこれまでの見通しと、中間評価の 1.9%とは、そもそもそんなに変わりはないということです。
§18Question
支店長会議や短観の結果を踏まえ、また色々とお話を聞いていると、概ね日銀の予想している通りに事が進んでいるように思います。一方で今、海外は非常に減速しているということもあるのですが、今の日銀の一番の懸案事項は、海外要因、海外経済になるのでしょうか。
§19Haruhiko Kuroda
足許の動きをみると、国内要因よりも海外要因の下振れが輸出や生産に影響し、成長率にも影響する可能性が高くなっています。ただ、それは先程申し上げたように基本的には一時的なものであり、米国経済も欧州経済も、元の成長軌道に戻ってきていますので、先進国を中心に世界経済全体が回復していくという見通し自体は、IMFの見通しもそうですが、基本的には変わっていません。このところの弱めの輸出や生産に、海外要因がかなり大きく効いていることは事実だと思いますし、今後のリスク要因についても公表文で述べている通り、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどを挙げているところであり、その意味では全くご指摘の通りだと思います。
§20Question
今の質問にも少し関連しますが、足許、日本の金融市場も、中国経済とギリシャ問題にかなり振り回される展開だったと思いますが、総裁としては、中国経済を巡るリスクとギリシャ問題は、どちらがより不確実性が高い、より心配だとお考えでしょうか。
§21Haruhiko Kuroda
どちらがより不確実性が高いかなど色々なことを言うのは難しいと思いますが、中国経済は、ご承知のように、米国経済に次ぐ大きな経済であり、特にアジア経済に対する影響は大きいものがあります。それに対して、ギリシャ経済は欧州経済の 2%程度であり、特に日本にとっては貿易・投資関係は極めて薄いので、ギリシャの問題が日本経済に何か大きな影響を与える可能性は非常に小さいと思います。それに対して、中国経済がどうなっていくかは、日本を含むアジア経済にかなりの影響があり得る、あるいは世界経済にとっても影響があり得るという意味では、より大きな関心の対象であることは事実です。他方で中国経済については、先程申し上げたように、基本的に安定した成長を続けていますし、また政府が財政面でも金融面でもその他の面でも、様々な景気の刺激策を採っていますので、そうした意味では中国経済の安定性は高いのではないかと思います。それに対して、ギリシャの問題は、原則合意のようなものができていますが、それはあくまでも、ギリシャ議会が増税や年金の削減を法制化し、その上でユーロ圏諸国がそれに基づいて支援内容を具体的に決めるものです。特に、ユーロ圏諸国の中には、それぞれの議会の承認がないとESMの支援などが認められない国がかなりありますので、それら議会の承認も必要です。
§22Haruhiko Kuroda
現時点で、ギリシャの経済状況はかなり深刻な状況になっており、それがどのように改善されていくかは、まだまだ不確実性が残っているとは思います。ただ、いずれにせよ、日本経済に対する影響は非常に小さいと思っています。
§23Question
物価の見通しについて伺います。先日の短観で、企業の景況感は改善したにもかかわらず、1年後の物価見通しはなかなか上向いてきません。さらに、日銀が調べている期待インフレ率も、昨年一時期 1%を超えましたが、足許 0.7%くらいで推移しています。なかなかデフレマインドは根強いなと思うのですが、こうした期待インフレ率の動きは、これまでは日銀の想定内の動きなのでしょうか。現状分析とその背景、将来はまた上向いていくのかどうかの見通しについて、総裁のお考えをお聞かせ下さい。
§24Haruhiko Kuroda
短観でも色々な民間の調査でも、景況感が上向いている、あるいは景気が緩やかな回復過程にあることは、ほぼ一致していると思います。その上で物価については、生鮮食品を除く消費者物価が、前年比 0%程度で推移していることは事実で、そこには中間評価の注 3 にもある通り、エネルギー価格の下落が相当大きく効いています。ただ、物価上昇率が昨年秋頃の 1%くらいのところから足許 0%程度まで下がってきたわけですが、そのもとでも期待インフレ率自体は、昨年10月の「量的・質的金融緩和」の拡大もあり、比較的維持されているとみています。期待インフレ率は色々な要素で決まっていますが、日本の場合は、実際に物価が上がってくると期待インフレ率も上がるという傾向――バックワード・ルッキングな傾向――はまだあるようにも思われます。先程申し上げたように、エネルギー価格の下落の影響が次第に剥落していく、そして来年度前半頃には全くなくなることから言いますと、実際の物価上昇率は年度後半、秋口以降、かなりのテンポで上昇していく可能性がありますので、そうしたもとでは期待インフレ率自体も次第に上昇していくのではないかと思っています。
§25Haruhiko Kuroda
なお、期待インフレ率は、そのままでは見えないので、アンケート調査のような形で見るか、ブレーク・イーブン・インフレーションレートなどのように、物価連動国債から逆算して、物価連動国債市場の参加者のインフレ期待を計算するなどでしか分かりませんが、アンケート調査も、消費者、生産者、そしてエコノミストと色々あり、それぞれに色々な数字が出ていますし、それぞれのバイアスもあると思います。また、ブレーク・イーブン・インフレーションレートも、物価連動国債市場が非常に小さくて参加者も少ない、流動性も低いということもあって、完全に市場参加者の真のインフレ期待を反映しているかも議論のあるところです。従って、期待インフレ率、期待物価上昇率については、そうしたアンケート調査あるいは市場の指標などを総合的に勘案してみていくしかないと思います。全体としてみると、昨年秋以降、エネルギー価格の下落を反映して消費者物価上昇率自体はどんどん下がってきたわけですが、期待物価上昇率はあまり下がらずに、比較的よく維持されていると思いますし、先程申し上げたように、今後実際に上がっていく過程では期待物価上昇率も上がっていくのではないかと思っています。
§26Question
2 点お伺いします。1 点目は、最近、総裁は、世界各国の著名なエコノミストの方達との交流について執筆されています。今でも交流されているということだと思いますが、総裁ご自身は、一般に言うリフレ派に属するとお考えでしょうか。2 点目は、総裁は2013年に就任前の国会でのヒアリングで、金融政策で 2%の物価安定は達成可能だということを、はっきりおっしゃっていますが、原油で色々な影響があったにせよ、そのお考えに今でも変わりはないのでしょうか。
§27Haruhiko Kuroda
前者は、日本で、リフレ派と言われる人達の主張がどういうものなのかという確たる定義があるとも思われませんし、私自身リフレ派の一員であると宣言したこともありませんので、何ともお答えしかねるということかと思います。後者は、私は、今でも、そうであると思っています。と申しますのは、その際も、あるいは、その後も常に申し上げていましたが、物価上昇率を決める要素は色々あるわけです──最近で言いますと、原油価格が下落すると物価上昇率が下がるとか、あるいは、円安になると物価上昇率にプラスの圧力がかかるとか、色々な要素があることは事実なのです──が、長い目で見て、そういった色々な要素がある中で、金融政策としては、物価安定目標──日本の場合、多くの中央銀行と同じく 2%という物価安定目標を掲げているわけですが──に向けて、様々な要因を踏まえた上で2%に持っていく責務があるし、持っていくことができると考えています。ちなみに、それ以外のことでは、理論的に考えて、先程申し上げたように原油価格とか、為替とか、色々なことが影響するとは思いますが、そういったものは基本的には金融政策が動かせるというよりも別な要素で動いています。
§28Haruhiko Kuroda
金融政策は、金融市場に対する働きかけを通じて、実質金利、期待インフレ率などに影響を与えて、需給ギャップを縮小し、予想インフレ率の上昇をもたらすことを通じて、物価安定目標を達成することに尽き、どこの国でも物価安定を達成する責務を負っているのは中央銀行であるということには変わりはないと思います。
§29Question
インフレ率への原油下落の効果が来年にかけて剥落していくというお話でした。今回の見通しも、ドバイでの60 ドルを起点に 70 ドルと徐々に強くなっていくという見通しを立てておられて、確かにこの 1 か月程は、ボックス相場であったわけです。ごく足許で言うと、総裁のご発言もありましたが、中国の株価の下落に伴って、中国需要が落ちるのではないかとの見通しから、原油相場は下げていますし──これはちょっと止まりましたが──、昨日から今日にかけての話ですと、イランとの協議がまとまって経済制裁が解かれていくということで、需給上のバランスも崩れていきそうだと、関係者の間ではどちらかといえば下振れリスクの方が高まってきているという考え方の方が強まってきているように思います。そういう意味では日銀の見通しは、2%にいくという行内の期待に基づいた、やや楽観的な見通しのように思えなくもないのですが、それを現実的にどうお考えなのかお聞かせ下さい。また、仮に上振れ、下振れ両方あると思いますが、原油価格が大きく動くようであれば、それは当然政策変更の判断材料になると受け取っていいのだろうかという点についても改めてお話を伺いたいと思います。
§30Haruhiko Kuroda
まず前段については、原油価格の前提──これは見通しではなく前提──は、IMFとかOECDといった国際機関もそうですが、原油価格自体について特別な見通しを立てるということではなくて、あくまでも市場の先物価格の動向とかを機械的に適用して、原油価格の前提を立てて、そのもとで、経済見通しを作っているわけです。従って、別に、市場よりも悲観的にとか楽観的にとか、上にとか下にとかいうようには全く操作をしておりません。あくまでも市場の考えているところを前提に置いて、見通しを作っているということでありまして、私どもの 2%の物価安定目標との関係で云々ということは全くありません。それから、政策についてですが、これは原油価格が、昨年夏というか秋口から、非常に大きく下がり始めた時に、そして 10月末に「量的・質的金融緩和」の拡大を決めた時にも申し上げましたが、原油価格の下落自体は、100%原油を輸入している日本の経済成長にとってはプラスになり、長い目でみれば、物価にもプラスになります。ただ、足許で、かなり大きく物価上昇率を引き下げる要因にはなるため、それが期待物価上昇率に影響するということになってはいけないということで、昨年10月末に「量的・質的金融緩和」の拡大を決めたわけです。
§31Haruhiko Kuroda
その後の状況をみますと、幸いに期待物価上昇率は概ね維持されており、長期的にみると上昇しているということに変わりはありませんので、このように拡大された「量的・質的金融緩和」を維持することを決めたわけです。将来、原油価格がさらに上昇したり下落したりした時にどうかというのは、仮にそれが非常に大きな変化であり、物価上昇率とか物価上昇期待に大きな影響を与えて、物価の基調に変化をきたすということになれば、当然、必要に応じて政策を調整することになると思います。しかし、現時点では、市場が考えている原油価格の動向を前提として、その限りでは、私どものみるところでは、物価の基調は変わっていませんし、2016年度前半頃には 2%程度に達する可能性が高いという見通しを維持していますので、現時点で政策を変えるつもりはありません。
§32Question
先程、金融政策で 2%の物価が達成可能だと言われていましたが、やはり金融政策の効果が出るには 1年とか 2年とか時間がかかると思います。総裁も就任された時に「2年程度で 2%」と言われたと思うのですが、結局、2年程度ぐらい見ていたのが、結果として2016年度ということになると、3年以上かかっていることになると思います。一方で、2016年度の前半に 2%の物価が実現されるということになると、現状から見て 1年なのですが、金融政策の効果に時間がかかることからみると、2016年度前半に 2%にいくことに自信を持っているのであれば、先行きの政策のことをもう少し言及されてもよろしいかと思います。やはり安定的に 2%ということは、先行きではなく現実に足許が 2%にいってからでないと、先行きの出口や政策論といった辺りは、なかなかお話しできないのかなと思うのですが、その辺りに関してお伺いします。
§33Haruhiko Kuroda
何度も申し上げている通り、原油価格の前提を踏まえると、原油価格下落の物価上昇率に対するマイナスの影響はだんだんと小さくなっていき、来年度の前半にはゼロになります。これは、金融政策とは関係なくそうなるので、中間評価の注 3 にもあるように、物価上昇率に対するかなり大きなマイナス要因が消えてしまう、そして他方で、潜在成長率を上回る成長が今年度、来年度と続くことで需給ギャップも縮んでいき、さらにプラスになっていくので、来年度の前半頃に 2%程度に達する可能性が高いと、私あるいは政策委員会の多数はみています。そのことと、出口の議論を具体的にすることは別の話です。物価安定目標の達成で何よりも重要なのは、それが安定的に持続できるようになっているかどうかであり、やはりその判断のもとで、その時点での金融経済情勢を踏まえて、具体的な出口を探っていくことになると思いますので、今の時点で、出口について具体的に議論するのはやはり時期尚早であると思っています。
§34Question
2 つあります。蒸し返して申し訳ないのですが、昨年の秋に比べると日本の一般の家計、企業の期待インフレ率は、少しレジリエントになっていて、商品市況が少しふらついてもプリエンプティブな政策はもはや必要ないとみてよろしいのか、そこは何とも言えないのかについてお聞きします。2 つ目は、アジア経済について、東南アジア経済等は中国からの影響が想定以上に大きく出ているようにも見受けられるのですが、日本の輸出・生産への影響が本当に一時的な落ち込みで済むのか、ご所見をお願いします。
§35Haruhiko Kuroda
昨年秋から今に至る間に、生鮮食品を除く物価上昇率が 1%程度から0%程度まで低下していますが、様々な指標でみても物価上昇期待というのは比較的よく維持されているという意味では、レジリエントな(復元力を備えている)のかもしれません。他方でそれは、「量的・質的金融緩和」を拡大したことによって、日本銀行として 2%の「物価安定の目標」達成に向けた強い決意を示したことによるものという面もあるでしょうし、それから何よりも物価上昇率が安定的に 2%程度で推移するということになれば、米国などと同様に、物価上昇期待も 2%程度でアンカーされてくるはずですが、日本の物価上昇期待は 2%という目標の周りでアンカーされておらず、むしろそこへ向けて物価上昇期待を上げていく過程ですので、やはりよくみていく必要があると思います。それから 2 番目のアジア経済に対する影響ですが、確かに中国の経済成長のモメンタムは若干落ちてきているとはいえ、昨年に引き続き今年も 7%程度成長する見込みですし、現に第 1 四半期、第 2 四半期と 7%成長が続いていますので、中国の高めの成長が安定的に続いていることはアジア経済にとってプラスであると思います。他方で、中国経済自体の構造も変化してきて、かつては輸出主導型の成長、あるいはその場合はどうしても製造業に偏った成長だったわけですが、次第に内需型の成長に変わってきています。
§36Haruhiko Kuroda
経常収支の黒字もGDPの 10%以上あったのに、今や 2、3%程度まで下がってきており、中国経済自体の構造が変わってきているという中で、かつてのように製造業の原材料とか中間財とかを大量にアジア諸国から購入して、それを最終財にして全世界に供給するという世界の工場的な役割── 今でも残ってはいますが──からは、中国の経済構造自体が、かなり変わってきています。それが東南アジアなどからの輸入の需要を、やや従来の状況からみると切り下げてきていることは事実であり、その辺りは今後とも十分注視していく必要があると思いますが、中国経済の成長自体が、長期的にはともかく、ここ2、3年のうちに、大幅に下落するという可能性は、多くの国際機関と同様に、ありそうにないとみています。
§37Question
今の中国経済と絡む質問をしますが、あるいはちょっとお答えづらい質問かもしれません。今回の上海や深センの株安に対して、中国の当局が例えば、IPOを事実上ストップさせているとか、大手の証券会社を経由して事実上の株の買い支え――ちょうど日本の昭和 40年の頃を思い出しますが――を行っているとか、あるいは中国人民銀行が中国証券金融を通じて株の買いオペの資金を供給しているとか、かなり強権的な、ないしは市場介入的な措置が採られているように思います。このことに対する一般的な評価は別として、やはり、市場全体の機能を中長期的には阻害するリスクもあると思います。その辺りをどうお考えなのかが 1 点です。もう 1 点は、極めて簡単な関連質問ですが、総裁がおっしゃった中国経済の内需ないしは消費に向けた構造転換に、そのような介入的措置が阻害要因として働くのではないかということも懸念されます。この辺りに対する全般的なご所見をお伺いします。
§38Haruhiko Kuroda
いずれも当然、私どもとしても関心のある事項です。まず、第 1 の点については、色々な措置を矢継ぎ早に採ることで、株価が急速に下落することを回避しようとしていることは事実です。ただ、日本を引用されましたが、他の先進国も色々な形でそういう事態に対して流動性の供給を行ったことがあるわけで、中国だけが特に異質なことを行っているとまでみるのは如何かと思います。先程も申し上げた通り、株価の上昇が極めて急速だった――半年ぐらいで倍以上になった――わけですが、それが6月から最近にかけて 30%ぐらい急落し、それに対する政府や中央銀行の対応もかなり急速でかつ大幅だったことは事実です。それよりも問題はむしろ、中国が金融資本市場を中長期的に自由化しようとしており、そうした自由化や改革がスムーズに行われなくなると、影響があり得るということだと思います。ただし、政府は金融資本市場の自由化の計画は維持していますので、今の時点だけで、将来の金融資本市場の改革がされないとか大幅に遅れると決めることはできないのではないかと思っています。
§39Haruhiko Kuroda
また、色々な介入的な行為が中国経済の構造転換に及ぼす影響ですが、輸出依存あるいは製造業に偏った構造から、内需、特に消費に依存する成長になっていくと、消費の中身は相当部分がサービスですし、それを供給する企業は大きな国営企業というよりも様々な中堅企業になるので、そうしたところに資金もスムーズに流れるようになっていかなければいけないと思います。先程のお答えと重なりますが、中国政府が進めている金融資本市場の自由化が大幅に遅れるあるいは逆流することがなければ、基本的には、中国経済の産業構造の転換に則した金融資本市場の改革が進められなければならないし、進むことになるのではないかと思っています。ただこの点は、第1 のご質問の点も併せて、今後とも注視していきたいと思っています。
§40Question
中間評価について、改めてお伺いします。今年度の物価見通しが、前回に比べると、0.1%程度下がって、概ね横ばいということですが、過去から累計してみると、例えば昨年10月から 4 回連続で下がっていたり、1月から比べると 0.3%下がっている、あるいは、GDPにしても、昨年度の成長率は 6回下方修正されています。こういうトラックレコードをみると、この先大丈夫だとおっしゃっていても、本当にそうなるのかな、という疑問を若干感じてしまうのですが、つまり日銀の見通しに対する説明責任や、あるいはクレディビリティというところは、傷はつかないのでしょうか。
§41Haruhiko Kuroda
見通しは当たらないといけないということは、その通りだと思うのですが、昨年来申し上げているように、いくつか予想外のことがあったことは、日本銀行に限らず、政府にしても民間のエコノミスト達にしても同じだと思います。1 つは、消費税増税後の反動減がやや長引き、成長率に対して、おそらく予想外に、特に 4~6月、7~9月に影響が出たことは事実だと思います。それから、原油価格の大幅な下落──5 割以上の下落──は、ほとんど誰も予想できなかったことであり、そういった様々な要因で、成長率や物価見通しが、その通りにならなかったということではないかと思っています。経済見通しですので、どうしても予測の誤差というか、そういうものはありますが、まさにおっしゃったように、それがどういった要因でそういうことになったのかということは、十分分析して、明らかにしていく必要はあると思っており、従来からそのようにしています。各国政府やIMF、OECD等の国際機関も含めて、経済見通しの正確化については、色々な努力はしていますが、上振れ、下振れということが、ある程度起こりうるということは、予測技術の進展にもかかわらず、様々な予測しがたい事態が起こるために避けられないことですので、それだけで予測に対する信頼性が損なわれたということにはならないと思います。ただ、予測は当たるに越したことはないことは事実です。
§42Haruhiko Kuroda
今後とも、見通しの正確化については引き続き努力していきたいと思います。現在、私どもが示している見通しは、まさに私どもの中心値を示しており、それが一番正しい見通しであると思っています。いずれにせよ、上下双方向のリスクは常にありますので、毎回丹念に経済動向をチェックして、必要に応じて見通しを改定していくということだと思います。以上