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日本銀行記者会見2015年7月27日中曽宏, 副総裁

中曽副総裁記者会見(2015年7月27日)要旨

全文

§1Question

本日の金融経済懇談会では、どのような意見交換が行われたのでしょうか。

§2Hiroshi Nakaso

本日の金融経済懇談会では、熊本県の各界を代表される方々から、地域経済の現状、課題、そして地方創生に向けた各種の取り組みのほか、金融市場動向、日本銀行の金融政策運営に関するご質問などを含めて、極めて多岐にわたる大変有意義な意見交換を行うことができたと思います。席上でどういう議論があったかを網羅的に申し上げることは、時間制約もあって難しいのですが、3 点ばかりご紹介したいと思います。第 1 に、当地の景気の現状につきましては、製造業は大企業中心に電子部品や機械関連をはじめ、基本的には堅調な生産動向にあります。一方で、非製造業では、建設業、小売業を中心に必ずしも景気回復の実感、あるいは手応えが感じられないといったような率直な意見を頂戴しました。つまり、建設業では、災害復旧関連工事の一巡を背景とした公共工事の減少が響いていると伺いました。それから、小売やサービス業では、消費税率引き上げ後の売上の回復が乏しいという声が聞かれたところです。中でも地元企業の大宗を占める中小企業、小規模企業の景況感の回復の遅れについてのご指摘を色々頂きました。私の方から、当地でも労働需給がタイト化している中で所得面からの改善が今後も進めば、消費の回復を後押しすることが期待されると回答しました。

§3Hiroshi Nakaso

第2 に、地域の企業が直面する課題として、人手不足や、為替円安を背景とした原材料などの仕入れコストの増加を指摘される方が多かったと思います。この点と関連して、まず人手不足については、県の有効求人倍率が1.11倍(5月)と統計開始以来、最高水準になっていますが、景気の好循環のもとでの労働需給の引き締まりという側面とともに、若年層の労働力の県外流出が進んでいることを反映した面があるとの指摘が多く聞かれました。そうした中で、人手の確保がままならないことが、ビジネスの制約になっているという声も聞かれました。今後も、首都圏などへの人材流出が懸念されることに変わりはなく、地元の新卒者の半分くらいが県外就職している現状を踏まえて、いかに地元に人材を繋留するか、地元の企業への就職につなげられるか、これが大きな課題であるとのことでした。第 3 に、地方創生に向けた各方面での取り組みに関する現状についてお伺いしました。熊本県では、知事の強力なリーダーシップのもとで、有形・無形の資産の強みを一層活用することを通じて、県民の幸福度向上に取り組まれているとのお話を伺いました。農業と観光の分野では「産学官農」の連携強化に取り組まれていることをお聞きしました。熊本市では市の中心部で都市の魅力向上が期待されるかなり大型のプロジェクトが複数取り進められていることもお伺いしました。

§4Hiroshi Nakaso

先程申し上げた人材の県外流出に対しても、産業界が大学などの教育機関に講師を派遣し、地元企業の認知度向上に努められていることもお伺いしました。こうした様々な取り組みが進められていることを知りまして、大変心強く感じました。私どもとしましては、日本銀行ですから、マクロの経済分析も大事なのですが、それとともに各地域の景気動向について──ミクロベースの景況感、各企業が抱いておられる景況感は、支店長会議などを通じてしっかりと聞いておりますが──、今後も一層肌理細かく把握することの重要性を強調した上で、参加者の方々には、熊本支店に何なりとご意見をお寄せ頂くようにお願いした次第です。

§5Question

もう 1 点、地元銀行である肥後銀行が鹿児島銀行との経営統合を控えている中で、県経済の先行きなどに関する見方を踏まえて、所感をお伺いしたい。

§6Hiroshi Nakaso

まず、熊本県経済は、基調として緩やかな回復を続けていると判断しています。熊本支店が集計した 6月の短観をみますと、電子部品、生産用機械などで高水準の生産が続いていることを背景に、製造業の景況感は全国と比べても改善基調がより明確化しているという感じを持っています。他方、非製造業の景況感は、改善基調にはもちろんあるのですが、先程申し上げたように建設業や小売業を中心にやや慎重化したということではないかと思います。先行きの県経済については、緩やかな回復基調を辿ると見込まれています。特に設備投資は、熊本支店の6月短観が示すように製造業中心にしっかりと増加すると見込まれています。家計支出についても、雇用・所得環境が改善していくもとで、回復基調が徐々に明確になっていくと期待しています。有効求人倍率も統計開始以来高い水準まできておりますので、こうした需給の引き締まりなどを受けて、ベースアップを含めた賃上げの動きが昨年に比べて拡がっていると判断しています。観光については、官民挙げての取り組みもあって、熊本空港国際線のチャーター便の増便や定期便の開設、八代港へのクルーズ船の寄港増加などを背景に、インバウンド需要の拡大が見込まれています。先頃、「明治日本の産業革命遺産」の構成資産である万田坑、三角西港が県内初の世界文化遺産として登録が決定したことも、おそらく、景気に追い風になると期待しています。

§7Hiroshi Nakaso

その中で、地元金融機関の経営統合についてですが、統合の所見を述べる前に、当地における地域金融機関が果たしておられる役割、今後の課題について、若干述べさせて頂きます。熊本県内の貸出残高は、このところ 3%半ばの伸びを続けています。当地の金融機関が資金需要にしっかりと応え、これを通じて金融面から実体経済を下支えしておられると理解しています。その過程では、地域に密着した金融機関として、地方創生に向け、地域の経済を金融面から後押しすることにも、積極的に取り組まれているように思います。具体的には、本日も伺いましたが、創業支援や事業承継、企業の再生支援、ビジネスマッチングといった課題に積極的に取り組まれていると認識しました。そうした取り組みは地方創生に資すると同時に、地域金融機関が収益基盤を維持・強化する上でも、とても重要だと思っています。地域金融機関は地域経済の持続的成長と一体となって発展していくものですので、地域の特性を熟知した地元の金融機関が地域経済を後押しして、そのことが金融機関の収益性の底上げに寄与する、こういった循環に入っていくことが大事であると思います。そうした好循環を確保することが、また、地域金融機関が活力ある産業として存立していく上でも不可欠だと思います。

§8Hiroshi Nakaso

お尋ねの肥後銀行と鹿児島銀行の経営統合については、論評めいたことをお話しすることは差し控えたいと思いますが、今申し上げたような金融機関の役割という観点から申し上げますと、人口減少など両行が直面する経営環境の変化を考慮した上でご判断されたものと理解しています。従って、「エコノミー・オブ・スケール(規模の経済)」、「エコノミー・オブ・スコープ(多様化の経済)」といったメリットを活かしながら、顧客ひいては地域経済に対し金融サービスをしっかりと提供することを通じて、地域が抱える課題の解決に地域と一体となって取り組まれることを期待しています。

§9Question

2 点伺います。1 つは、足許で原油価格が若干下落してきておりますけれども、その背景と今後の物価および期待インフレに与える影響をどのようにみていらっしゃるのかお聞きします。もう1 つは、午前中の講演で、価格改定の動きが拡がりつつあることは近年になかった特徴であるとおっしゃっており、物価について結構強めな評価をされているという印象を受けたのですが、副総裁就任以降、デフレ脱却や、2%目標の達成の確度という意味で、最も強く感じておられる、手応え、自信を感じておられるというふうに理解してよいのでしょうか。

§10Hiroshi Nakaso

まず、原油の話です。今一度、原油価格の下落が経済に与える影響を整理すると、原油の消費国では実質購買力の上昇から経済にプラスに働く一方で、産油国については、収入減少からマイナスに働きますが、世界経済全体としてみると、成長率を押し上げる方向に働くというふうにみています。この見方は変えておりません。そういう観点からすると、わが国は、原油の輸入国ですので、原油価格の下落は、企業収益の改善、あるいは、家計の実質購買力の上昇につながることから、わが国経済にとってもプラスに働くとみております。物価面については、短期的には、エネルギー価格が下がりますから、物価の押し下げ要因として働きますけれども、長い目でみれば、経済活動の改善を通じて物価の押し上げ要因として働くというふうに考えています。これが、一般的な考え方です。日本銀行は、今年から、政策委員が経済・物価見通しを作成するに当たって、原油価格について、市場において成立している先物の価格などを参考にして、一定の前提を置いています。具体的には、7月の中間評価では、ご案内のように、ドバイ原油の価格が 1 バレル 60 ドルあたりを出発点にして、見通し期間の終盤である 2017年度末にかけて、70 ドル程度に緩やかに上昇していくという、かなり長いタイムスパンでみた原油価格の仮定を置いているわけです。

§11Hiroshi Nakaso

今申し上げましたように、これはあくまでも、経済・物価見通しを作成するうえでの前提、ワーキング・アサンプションであり、日本銀行としての原油価格の見通しを示ししているものではありません。従って、短期的な動きでこの前提を変えるつもりはありません。足許の先物のカーブの形状は確かに期近物が低下しているのは事実でありますが、期先ほど高くなるという、いわゆるコンタンゴ形状が維持されているというふうに思います。いずれにしても、原油価格の動向については、私どもとしてもよくみていきたいと思っています。それから、2 番目の物価については、本日時間をかけて説明したつもりですが、もう 1 度そのポイントを繰り返させて頂きたいと思います。まず、なぜ講演においてそういうことを申し上げたかというと、市場の一部などで、今ゼロ%程度の物価上昇率が本当にこの先早めのピッチで上昇していくのだろうかという見方があり、日本銀行の見方とギャップがあるということを改めて認識したからです。私どもは、この夏場以降、物価の基調の高まりとエネルギー価格のマイナスの寄与の縮小、この両面が物価上昇に効いてくると考えています。具体的には、本日の講演の繰り返しになってしまいますが、エネルギー価格のマイナスの寄与は、今年7~9月がピークで、マイナス1%程度の下押し要因になります。

§12Hiroshi Nakaso

従いまして、その影響が剥落するだけで、1%くらい消費者物価の上昇率を押し上げることになります。これに、物価の基調の高まりも加わります。私どもが、今年の秋以降、消費者物価の上昇率が早めのピッチで高まっていくという根拠には、今申し上げたようなメカニズムがあるわけです。実際に、本日講演で用いた図表 11 をご覧頂ければ、エネルギーを除く部分の寄与度は、足許は 0.7%程度まで高まっているわけであり、今申し上げたようなメカニズムが作用しているということを示しているというふうに思います。こうしたメカニズムが実際に働いている、どういうふうに働いているか、これをよく説明することがコミュニケーション上も重要だと思ったので、本日はある程度時間を割いて説明をしました。今後、そうしたメカニズムに沿って物価が上昇していくか、これを見極めることが金融政策運営上もポイントになると考えています。

§13Question

2 点お伺いします。1 つは個人消費について、先程地元経済界からも小売に関しては売上の回復がなかなか乏しいというような話があったとのことですが、現状、高額品の販売とか外国人の消費が堅調な一方で、消費者の節約志向はなかなか根強く、消費の二極化というか、格差というべきか、そういった状況がまだ残っているというふうに思います。個人消費が景気を押し上げるメカニズムについて、改めてお話し頂きたいと思います。もう 1 つは、今月、人民元の切り上げからちょうど 10年経ちます。人民元の国際的な存在感がこの 10年間高まっておりますが、今後、人民元の国際化がどのように進むというふうにご覧になっているのか、課題についても併せてお話し頂けますでしょうか。

§14Hiroshi Nakaso

まず、個人消費ですが、私どもは色々な指標をみています。例えば、これまでやや個人消費が弱いのではないかと言われていた背景として、消費者コンフィデンスが弱いのではないかといったような議論があったわけですけれども、このところの消費者コンフィデンス、例えば景気ウォッチャー調査において、家計動向関連の先行き判断D.I.は横ばいを示す 50 を 5 か月連続で上回っており、コンフィデンスは改善傾向にあると私どもは判断しております。その背景は、ベースアップであるとか、夏季賞与などの賃金引き上げの動きがあるとみています。確かに、各種販売統計をみますと、天候要因などによるもたつきも一部にはあるのですが、小売店売上高などを中心に堅調に推移しているのではないかと思います。先行きについても、多くの企業でベースアップを含む昨年を上回る賃上げが実現しており、名目賃金の賃上げが実現すると同時に、これまでの原油価格の下落などもあって、今後、実質賃金がある程度持続的な形で増加していくと予想されますので、これが消費を下支えていくことになるのではないかと考えています。多少、今、二極化している部分はあると思いますが、今申し上げましたような実質賃金の持続的な増加が下支えをしていくと思っています。

§15Hiroshi Nakaso

いずれにしましても、雇用・所得環境の着実な改善が続く見通しにありますので、そういう観点からみると、個人消費は引き続き底堅く推移していくと判断してよいのではないかと思っています。2 点目のご質問についてですが、人民元取引は、ご指摘の通り、拡大を続けています。ご質問の趣旨は、円との比較という点もあると思いますので、円と比較しますと、為替などのいわゆる金融取引では、円のウエイトが依然高いのですが、世界貿易額に占める人民元決済の割合は、中国の経済規模拡大とともに拡大を遂げて、円を上回っています。人民元の相場についても、中国の通貨当局は、最近は、市場実勢に委ねる姿勢をより鮮明にしているようにみえます。今後を展望すると、彼らは資本取引の自由化を標榜していますから、これと共に人民元の取引規模はさらに拡大してくると予想しています。一方で、円については、円決済の世界貿易や金融取引に占める割合、あるいは外貨準備に占める円の割合は、この10年間ほぼ横ばいです。そういう観点からすると、円の国際化が進展したようにはみえませんが、今後については、円、あるいは日本国債の取引や決済の利便性が増していけば、つまり、いつでもどこでも日本国債、あるいは円を相手方にデリバリーすることが可能になれば取引ニーズも増していくと思っています。

§16Hiroshi Nakaso

この点、日本銀行が現在進めている新日銀ネット構築プロジェクトは、円や日本国債の取引ニーズを高める潜在性を有していると思っています。つまり、日銀ネットは、わが国決済システムにおける基幹システムでありますが、経済活動のグローバル化や、情報技術革新の進展に対応した新日銀ネットはご案内のように今年の 10月に全面稼動予定です。さらに、来年の 2月には、稼動終了時間を 21 時まで延長する計画です。稼動時間の延長によって、アジア、あるいは欧州と取引時間帯が重なり、国境を越えた日本円、あるいは日本国債の決済がより迅速に行えるようになります。例えば、夜間の利用を通じた企業のアジア拠点から国内拠点への送金や、日本国債を担保に欧州市場でのレポ取引を通じた外貨調達――いわゆるクロスカレンシーレポと呼んでいる取引ですけれども――、こういった取引へ道が開かれることになります。ですから、新日銀ネットというのは、円、あるいは日本国債の決済の効率性、ないし利便性を改善させるという意味で、金融インフラ面から円の国際化を後押しすることができると考えています。人民元の国際化も進みますが、円の国際化についても、利便性も今申し上げたような金融インフラ面からのサポートをしながら後押ししていきたいと考えています。

§17Question

先程、7~9月に物価におけるエネルギーのマイナス寄与度が 1%程度になるというお話をされておりました。これはあくまで寄与度の話だとは思いますが、2%を目指す上で、1%というのは 1 つ大きな節目だと思います。副総裁は、原油価格が想定通りという前提であれば、1%を超える消費者物価の上昇率が実現するのは、秋以降の大体いつ頃とお考えなのか、今後2%に向けて、物価がどういう足取りを辿っていくのか、今のお考えがあればお聞かせください。

§18Hiroshi Nakaso

繰り返しになってしまいますが、7~9月が、エネルギー価格のマイナスの寄与度が一番深くなりますので、それを過ぎた後に、実際どのくらいのペースでマイナスの寄与度が剥落していくかがポイントになります。1%を超える物価上昇率が厳密にいつ実現するかということを申し上げるのは難しいのですが、先程申し上げたようなメカニズムが働くとすると、先行的に見えてくるのは、CPIから生鮮食品とエネルギーを除いた部分――先程の図表 11でいうと橙色の部分です――、この部分を注目していくことによって、 CPI、コアCPIがどの段階で 1%を超えていくかというのもある程度予見できるようになるのではないかと思っています。

§19Question

物価上昇に関して 2 点お伺いします。先程、今後実質賃金の改善が個人消費を支えるというお話がありました。今の 0%程度の物価上昇で辛うじて実質賃金がプラスになるかどうかというところだと思いますが、今後 1%の物価上昇が秋以降出てくると、実質賃金が逆に悪化することで、個人消費を支えるにあたって懸念がないのでしょうか。もう1 点は、物価上昇の見通しについて、市場のエコノミストと日銀の見方にまだ大分乖離があると思うのですが、実際に日銀の見通し通りに秋以降、物価上昇が加速していくとなると、市場に織り込まれてない状況で、金融市場が逆に不安定化するというようなことはないでしょうか。

§20Hiroshi Nakaso

1 点目のご質問について、本日の講演の中で、「経済の体温が上がってきている」という表現を使いました。これはどういうことかというと、1 つは、企業あるいは家計が、物価上昇をある程度前提に行動するようになっているということです。例えば企業であれば、設備投資をするようになっていますし、賃金を上げるようになっています。それから、価格については、付加価値を高めながらある程度価格を引き上げていく、そうした企業行動が顕著になってきているということを、本日のスピーチで申し上げました。だからこそ、東大物価指数、一橋大物価指数をみても、去年の4月以降のように物価が落ちないで、継続的に上がるような状態になっています。つまり、体温が上がっているというのはそういうことを指したつもりです。要するに、一般的な経済・物価環境において、需給ギャップが引き締まってきているということもあると思いますが、企業や家計の物価観が徐々に変わってきているということだと思います。その中で、実際に賃金が継続的に上がってきているわけですから、ある程度、物価が上がってきても、これを吸収していくようなメカニズムが働きつつあるのではないかというふうに思います。

§21Hiroshi Nakaso

個人消費がある程度底堅いと判断をしているのは、繰り返しになりますけれども、名目賃金が継続的に上昇する中で、実質賃金の継続的、持続的なプラスの状況が、徐々に具体的に表れつつあるということが 1 つ下支えになっているからだというふうに思っています。2 点目のご質問について、日銀と市場の見方が乖離しているということですが──だからこそ、と言った方がいいと思いますが──、本日、私どもが考えているメカニズムを改めて詳しく説明したというのは、ご指摘のように、見方についての乖離があることが背景だったということです。コミュニケーション上も、こういったメカニズムについて、どうして私どもが物価についてこういう考え方をするのか、この時点でよく説明をしていくことが良いのではないかと考え、今回この機会で少し時間をかけて説明をした次第です。

§22Question

足許で生産と輸出の伸びが鈍化しています。需給ギャップの改善が遅れると、先行きの物価を押し上げる力も弱まると思いますが、そのリスクについて、どのようにお考えでしょうか。

§23Hiroshi Nakaso

足許の輸出と生産について、確かに持ち直しているとは思うのですが、鈍さがみられる点についてはその通りだと思います。この背景について、輸出については、要するに 1~3月の米国経済における寒波などによる一時的な減速がラグを伴って影響しているとみています。また、最近のアジア経済のもたつきも影響しているとみています。こうした輸出の動き、一部業種における在庫調整、これはスピーチの中でも申し上げましたが、軽自動車や鉄鋼といった製品の在庫調整が重なって生産の鈍さにもつながっていると思っているのですが、先行きについては、輸出は海外経済の回復、あるいは既往の円安による下支え効果もありますので、これらを背景に、振れを伴いつつも緩やかに増加していくと考えています。また、生産もこうした輸出の増加や在庫調整の進捗に伴って、振れを伴いつつも緩やかに増加していくとみています。つまり、このところの輸出・生産の鈍さは一時的なものであるとみています。実際、6月の短観において、企業の業況感が総じて良好な水準で推移していることや、予測指数が先行きの生産の増加を示しているということは、そうした一時的であるという見方に沿うものであると判断しています。

§24Question

今の質問にも関連しますが、黒田総裁の会見でも 4~6月の成長率が相当程度落ち込むというお話がありました。本日のスピーチでは、米国の利上げ後の新興国の不安定化に関するお話もありましたが、成長率の落ち込みは 4~6月だけにとどまるのか、7~9月の成長率も落ち込むことになり、秋以降の物価上昇や今後の賃上げといった動きに影響を与えるリスクがないのか、という点について、どのようにお考えでしょうか。

§25Hiroshi Nakaso

リスクという観点でお答えしたいと思います。色々なリスクについては、認識しておく必要があると思っています。私どもが中間評価でお示ししたのは、ベースラインシナリオと上下双方のリスクがあるということです。どういったリスクがあるかというと、私自身は、海外のリスク要因についていくつか注目しています。今、ご質問の中で触れられた米国の金融政策が正常化に向かって利上げが実際に行われるようになった場合に、国際資金フローの巻き戻しを通じて、新興諸国を中心に不測の影響が及ばないかどうか、これはよくみて参りたいと思っています。特に、新興諸国の企業セクターでは、対外債務がかなり膨らんでいるようですし、また、リーマン危機後は国際金融規制の強化によって、金融機関のマーケット・メーキング機能、つまりショック吸収力が低下しているのではないかという指摘もありますので、こういった点も含めて、よく影響をみていく必要があると思っています。ギリシャについても申し上げたいと思います。ギリシャについては、本日のスピーチの中でも申し上げましたが、なお不確実性が高い状態が続いています。特に、私どもは中央銀行の観点から、ギリシャの銀行セクターについて、非常に関心を持ってみているのですが、ギリシャの銀行における預金の流出をみると、ピークから半分程度減少しています。また、今年に入ってからも前年末比で 2 割程度減少しています。

§26Hiroshi Nakaso

これは預金が減少しているだけでなく、貸出も両建てで落ちている部分もあるのではないかとみています。日本の1990年代の銀行危機の経験を踏まえると、預金だけでなく貸出も落ちているわけですから、信用仲介機能はかなり低下している可能性があると思っています。ギリシャ経済を建て直していく上では、銀行セクターが信用仲介機能を十分に回復して経済活動を支えていくことが必要だと思っています。現在、欧州安定化メカニズム(ESM)による金融支援プログラムの締結に向けた交渉が行われていると理解していますが、ギリシャの銀行セクターの信用仲介機能の早期回復には、 ELAなどによる流動性支援と同時に、資本増強を迅速に行うことが非常に重要ではないかと思います。迅速な資本再構築というのは、日本の銀行危機の経験から得られた貴重な教訓の1 つでありますので、迅速に対応して、ユーロ圏経済の安定化を図ることが、国際金融市場、日本経済にとっては大事なことであると思っています。以上