木内審議委員記者会見(2015年9月3日)要旨
全文
§1Question
2 点質問します。最初の 1 点は、本日の金融経済懇談会の中で、地元の経済界や行政の方とどのような意見交換があったのか、またそれを踏まえて本県の経済状況をどのようにお考えになっているか、お願い致します。もう 1点は、挨拶要旨の中でも触れられておりますが、北海道新幹線の開業が来年3月に控えており、その開業が与える本県経済への影響と、開業効果を引き出すために何かアドバイスなどがあればお聞かせ願いたいと思います。
§2Takahide Kiuchi
第 1 の質問についてですが、本日の金融経済懇談会では、当地の各界を代表される方々から地域経済の現状や課題、そして日本銀行の金融政策運営に関する率直なご意見・ご要望などを数多く頂き、非常に有意義な意見交換ができたと思います。まずは、ご出席頂きました関係者の方々に深く御礼を申し上げたいと思います。懇談会の内容についてですが、当地経済の現状認識を含め、私なりに、内容を整理して申し上げたいと思います。まず、足許の景気情勢については、全体的にみると、雇用・所得環境の改善がみられているもとで、例えばごく足許ではプレミアム商品券の効果などもあり、個人消費が底堅い動きを示しています。もっとも、当地は内需型産業のウェイトが高いこともあり、為替円安の影響が全国と比べると限定的になりやすい、そして、景気回復の実感という点では、やはり全国対比で、やや遅れているとの印象を受けました。特に、中小企業ではこの円安に伴う原材料高や人手不足などによる人件費の高まりを受け、引き続き厳しい経営環境にあるといったお話が聞かれました。次に、当地では人口減少対策が中長期的にみて非常に重要な政策課題になっているわけですが、地域版総合戦略等で、こうした課題への対応に注力されているという力強いお話も伺いました。
§3Takahide Kiuchi
また、農林水産業のブランド化や海外を含めた販路拡大の推進、医療関係産業の成長促進、来年3月に予定されている北海道新幹線の開通に伴うビジネスチャンスの拡大に向けた各種取り組み等をきっかけにして、当地経済のさらなる活性化につなげていきたいという非常に心強いお話も多く頂きました。私と致しましては、そうした取り組みによって、青森県経済が今後とも益々発展し、ひいては日本経済全体の成長力強化に貢献されていくことを期待しております。また、日本銀行としましても、中央銀行という立場から、経済の持続的な成長の実現や金融システムの安定確保を図りながら、青森県経済を支える関係者のご努力が、大きな成果につながっていくことをサポートして参りたいと考えております。2 番目の質問である北海道新幹線開業の効果、あるいは少し提言とまではいきませんが、考えにつきましても、やや重複しますが、述べさせて頂きたいと思います。来年3月に北海道新幹線の開業が予定されています。これにより、当地を含む東北地方と北海道道南地区との間で訪日外国人旅行者も含めた交流人口の増加が期待されるところです。
§4Takahide Kiuchi
当地は、自然・歴史・文化と豊富な観光資源を有していますので、来年の新幹線開業が、こうした資源が一層活用されていくきっかけの 1 つとなって、官民一体となった北海道道南地区との連携強化、あるいはビジネスチャンス拡大の取り組みにより、青森県経済のさらなる発展につながることを大いに期待したいと思っております。
§5Question
2 つございまして、世界・日本経済で今何が起きているか、どうご覧になっているかということと、ご講演でも触れられた政策提案について教えて下さい。具体的には、現在世界市場で起きていること、商品市況の暴落と中国からの資金流出、中国の通貨の切り下げ──その後切り下げは中断しましたが──、世界的な株安リスクオフ、これらの日本経済の景気・物価への下押しの可能性とそのマグニチュードというか、腰折れするほどのものなのか、そうではないということなのか、現状での分析をお願いします。それと、そういう状況でも、4月以降、テーパー提案をされているというようなお話でしたが、市場的に今大丈夫なのかという疑問がございまして、大丈夫なのかどうか、そこもお願い致します。
§6Takahide Kiuchi
確かに足許では世界の金融市場が俄かに不安定になっているということですが、一方で実体経済については様々な問題を抱えています。特に、中国は色々な構造問題を抱えておりますが、金融市場と同様に、足許で実体経済、世界経済、特に中国経済が、急激に悪化しているということではないのかなと思っています。中国発の世界的な金融危機というのはなかなか起こらないだろうと思います。それはやはり、中国は実体経済としては世界と非常に結びついていますが、金融市場としては世界とやや遊離された、乖離された部分が依然としてありますので、そういう意味では、中国発の金融危機というのは起こりにくい、しかもグローバルにみますと、かなりの緩和状態が続いているという中で金融危機はなかなか起こりにくいとは思っています。一方で、より注意しなければいけないのは、中国経済による世界の景気悪化です。世界の株式市場が中国の株式市場と連動して非常に不安定になっているのは、まさに中国経済が世界経済の大きなリスクであるということと、それに対し、中国当局が政策対応で上手くそうしたリスクを軽減できるかどうかに対する心配が浮上しているということが挙げられるのかと思います。
§7Takahide Kiuchi
これにつきまして、私自身の考えは、中国経済自体は従来から減速をしてきており、もちろん、潜在成長率が下がるに応じて成長率が下がるのであれば、これはニューノーマルということで、望ましい成長ペースの鈍化なのですが、どうも昨年から今年にかけては、この潜在成長率を下回る、つまり需給ギャップが悪化するような形での減速が起きているのだろうなと思っています。足許で急激ではないにしても、昨年からそういう状況になってきているということで、従来よりも下振れリスクが出てきているのかなと思います。一方、政策対応でみますと、構造改革を進めるということと、足許の短期的な景気対策がなかなか両立しなくなってきているということが背景としてあり得るという意味では、今後につきましては──もちろん、政策自体は中国当局が考えることではありますが──、やはり、部分的には構造改革の推進が景気対策の効果を弱める部分もありますので、そこのバランスをやや変えていくということで、景気重視の姿勢に徐々に向かっていく可能性があるのかなと思っております。一方で、中国では不動産市場がやや持ち直している兆しもありますので、これと政策の変更とにより景気対策の強化が加わってきますと、経済自体は少し安定感を取り戻していくのかと思っています。
§8Takahide Kiuchi
しかし一方で、構造改革が大きく後退するという見方が広がれば、中長期的な中国への不安というのは残ってしまう形になりますので、しっかりとした説明、つまり、一時的には景気対策重視ではありますが構造改革もしっかりとやっていく、あるいは構造改革も一本ではなくて、景気対策と矛盾しないような構造改革をしっかりと進める、そういう意味では、全て一体ではなくて、マルチスピードで構造改革も進めていくと、いずれにしてもそういうことをしっかりと対外的に説明していくというのが金融市場の信頼回復につながっていくのではないかと思っております。日本経済への影響ということですが、既に今の時点で日本経済への下方リスクになってきていると思っておりますが、今申し上げた形での政策の変更があれば、年後半、あるいは来年に向けては少し安定化していくのかなと思っています。日本経済全体としては、4~6月期にマイナス成長になり、7~9月期は持ち直してはいるのですが、あまり強くないという意味では、非常に冴えない動きを続けているということです。私自身は、この中国等を原因とする輸出環境の悪化という要因と、一部はやはり値上げ懸念による消費の弱さ、この 2 つが確かに景気の足を引っ張っている部分があると思います。
§9Takahide Kiuchi
一方で、過去の累積された金融緩和の効果も部分的には効いていますので、ややこれらがバランスする形で、経済の安定が大きく損なわれるということではないのかなと思います。ただ、期待されているほどではないというのは、期待自体が過大な部分が大きいのかと思います。つまり、日本経済の潜在成長率は依然としてかなり低いということと、金融緩和の効果がそれほど絶大ではないということ、その 2 つを考えれば、概ね、その過大な期待の方が強いのであって、経済・物価の実態の方は、比較的安定した状態にあるのかなと思っています。最後に、政策対応についてですが、これは従来から申し上げている点ですが、金融政策の目的は何かというと、中長期的な経済・物価の安定を確保するという点にあります。とは言っても、中長期というのはなかなか予測が難しいわけですので、通常の金融政策では比較的短期の経済・物価に合わせてファインチューニングする──景気が弱くなれば金融緩和をする──、これが普通の当たり前の政策なのですが、量的・質的金融緩和というのは通常の金融政策とは全く別種の政策であるというのが私の認識です。
§10Takahide Kiuchi
非常に中長期の観点から判断をしなくてはいけない政策ですし、特に、量的・質的金融緩和は、私は減額提案をしているとはいえ、やめるということを言っているわけではなくて、私どもがマネタリーベースあるいは国債の残高を長期間維持する必要があるだろうという意味では、副作用についても、向こう 1、2年ではなく、例えば 10年、20年先まで考えなければいけないという視点で考えるのが量的・質的金融緩和ですから、それに対して足許の景気が下振れたので、緩和強化という発想には私はならないということでありますし、量的・質的金融緩和の効果自体はかなり逓減していると思っていますので、仮にこれで国債の買入れを増やすとか、マネタリーベースを増やしたからといって、追加的な効果が果たしてどれだけあるのだろうかというと、非常に疑問であると思っています。もちろん、対応が必要であれば、対応はあるわけですが、それは必ずしも量的・質的金融緩和の方針を変更するというだけではなくて、例えば、一時的に流動性の拡大をするとか、政策手段としては他にもあります。景気の下振れに対して、量的・質的金融緩和を強化するというのは、例えば一つの問題点として、グローバルにやや危機モード、金融危機のような状況になった時は、おそらく金融機関は安全資産の方にお金をシフトさせるわけですから、そういう意味では国債の需要が非常に増えるわけです。
§11Takahide Kiuchi
こういう時に、私どもがもっと国債を買うということになると、国債の需給が更に逼迫して、つまり、国債の買入れという今の政策の柱の持続性がさらに落ちてしまうと、それが行き詰れば金融市場は大きく混乱してしまうという辺りも考えますと、単純に中国発での足許の景気の下振れに対して、今の政策をさらに強化してくるということが妥当ではないと思いますし、足許のこうした下振れにも関わらず、私自身としては減額という形で正常化の方に足を踏み出すというのが妥当であると考えています。
§12Question
2 点あります。1 点ずつお伺いしたいのですが、今日の懇談会に出席されて、先程ご説明頂いた一連の青森県側からの説明を聞いた上で、期待について触れて頂きましたが、逆に課題というか、足許で、こうしなきゃもっといけないのではないか、といったご感想、ご所見等他に何かあればお聞かせ下さい。
§13Takahide Kiuchi
この場では金融政策に対するご要望なども、いくつか頂いたのですが、そのうち 1 つは、日本経済といっても格差が大きい、東京あるいは大都市部と地方での格差が大きい、あるいは例えば円安・株高は、大都市部ではどちらかというとプラスの面が大きいかもしれませんが、地方ではマイナス面も大きいといった意味で、例えば金融政策運営をする中でも、やはり大都市部と地方との格差等、あるいは大企業と中小企業との格差等に十分配慮した政策運営をして欲しいというようなご意見を頂きまして、それは私自身もその通りだと思っておりますし、金融政策を運営する上で、特に量的・質的金融緩和が非常に長期化する中では色々な副作用があって、それが例えば円安の形であったり、むしろ大都市部よりも地方でマイナスの面、副作用の方が大きく出やすいという可能性があると思いますので、私どももそれはその通りだということで、そういう意味で十分配慮した政策運営を心掛けたいという風に申し上げました。
§14Question
もう 1 点目は、この挨拶要旨にも書かれていて、かねてからのお考えを表明されていますが、2%物価上昇率目標についての達成見通しについて、ここにも細かく書かれていますが、改めて、今、足許の経済をみて、その辺について簡潔にご説明頂けますか。
§15Takahide Kiuchi
金融政策の目的は、経済と物価の安定を確保するということであります。量的・質的金融緩和を導入する前は、需給ギャップも非常に開いておりましたし、それを反映して物価もマイナスでした。マイナスが悪いということは一概には言えないのですけれども、少なくともアンケート調査などでみられる中長期の物価見通し、これが企業とか家計にとっては望ましい物価の水準だとしますと、それが、色々な主張はありますが、1%くらいのプラスであったことに対して、実際の物価はマイナスであって格差があったわけです。そういう意味では、経済・物価環境ともに決して望ましい環境ではない。それが、量的・質的金融緩和の当初の効果、量的・質的金融緩和というのは、やはり短期間で比較的効果が出やすい、ただ長期間続けていると、だんだん効果が逓減していくという性格のものですし、実際、そうなっているという風に思いますが、それによって、需給ギャップはほぼ解消され、物価も一応、2%という水準と比べると低いですけれども、例えばコアコア指数等でみますと、ゼロから 1%まで、あるいは 0.5%から 1%くらいまでの間にあって、私はこれが今の日本経済の実力と言いますか、構造面からみたときの比較的安定した状態にあると思っています。2%の物価目標というのは、経済が一時的に 2%を目指しているわけではなくて、安定的に 2%を目指している。
§16Takahide Kiuchi
そのためには、経済が比較的通常の状態、例えば需給ギャップがほぼゼロの状態で、2%で安定する必要がある。実は需給ギャップというのは、本行の計算で言いますと、2013年末以降、もう 1年以上、1年半くらいあるいはそれ以上、ゼロ%近傍なのです。その時の物価状態はどのくらいかというと、コアコア指数──通常のコア指数ですとエネルギー価格で振れますので──、食料とエネルギーを除いて、為替変動、エネルギー価格の変動の影響を除いてみた場合は、幅広くみると、ゼロから 1%くらいの状態で安定しています。そういう意味では、デフレではなくなってきていますし、比較的安定している状態だと。そういうことで、私としては、経済・物価環境は安定していると。ただ、物価が 2%で安定するためには、例えば潜在成長率がもっと高くなければいけない、日本経済の構造がもっと強くなければいけないということであり、日本銀行としては──これも個人の意見ですが──、経済を安定させる中で、そういった成長力強化の試みを側面から支援していくと、これが今の時点での金融政策の大きな役割なのではないかと。
§17Takahide Kiuchi
今積極的な金融緩和をして、効果は薄れているとはいえ、例えば円安株高などを通じて、景気がやや過熱気味に回復したとしても、それが、潜在成長率が高まってない中で、需要が高めに振れれば、人手不足ですとか成長の制約にぶつかって、景気がむしろ不安定になって、景気が後退する可能性もあると思います。そうしますと、痛みを伴う構造改革とか、あるいは景気後退期ではなかなか企業が積極的に設備投資をするということにはならないわけです。そういった、構造改革が進まない、企業の設備投資が積極化しないということになると、潜在成長率も高まらないということになりますので、金融政策の役割としては、私が考える役割としては、実力に見合って、決して強くはなくても、安定した経済、金融、物価の環境を長く維持させる中で、そうした成長力強化の試みを側面から支援していくと、それが 1年とか 2年とかいう期間ではなく、もっと長い話です。そうしていくことで、経済の実力も高まり、潜在成長率も高まり、物価もいずれは 2%というのが当たり前になるほど強い経済になるということを私どもは目指していると。
§18Takahide Kiuchi
その上では、量的・質的金融緩和というのは効果もありましたが、一方で副作用も非常に大きな政策なので、そういった副作用を、将来のリスクを取り除いてやることによって、息の長い経済・物価の安定を確保するというのが、実は私どもとしての非常に重要な役割なのではないかというのが私の考えでありまして、それがいわゆる減額提案の背景となる考えとなっております。
§19Question
2 点お聞きします。講演録の 13 ページから 14 ページにかけて、「『量的・質的金融緩和』の正常化について、金融市場の反応を危惧するあまり、対応を先送りすれば、金融市場が不安定化する潜在的リスクはより一層高まり」ということをおっしゃっていますが、もし木内委員がおっしゃるような今の買入れ額、年間 80 兆円増えるペースで国債を買い入れるという、そういうペース自体を 45 兆円という風に、かなり大幅な減額をした場合に、懸念されるのは長期金利、国債市場の反応もさることながら、この量的・質的金融緩和によって大きく引き起こされた円安が反転するのではないかとか、円安によってもたらされた株高が反転するのではないかと、むしろ為替とか株への反応というものが懸念される、あるいは恐ろしい、日銀自体も恐ろしく思っているのではないかと思うのですが、そういう為替・株への影響をどのようにご覧になっているかというのが 1 点です。
§20Question
もう 1 点は、木内委員がこのように、1 人、量的・質的金融緩和の減額を提案されていることについて、議事要旨に出ていますが、期待に働きかける政策に対して、冷や水をかけるようなものだというような批判も出ているわけですが、一方で木内委員ご自身は、黒田総裁を始めとする日銀執行部の、とにかく期限を設定して、そこまでの目標実現に向けて何が何でもやれることは何でもやるというような、ある種硬直的な情報発信についてはどのようにお考えなのかという点です。むしろ、悪害・悪弊の方が大きいのではないかというお考えはお持ちなのか、そしてまた黒田総裁を始めとする執行部の情報発信に対して、ボードメンバーの間でそれをよしとされているのかどうか、その辺りをお聞かせください。
§21Takahide Kiuchi
第 1 の点ですが、正常化に向かう時には、おっしゃるようなリスクというのが決して排除できないということでもありますし、私の減額提案に対し、議事要旨にもありますが、やや反対意見としては金融市場を混乱させるのではないかと。それは配慮する必要があると思いますが、まず今の政策を永遠に続けることはできないわけです。国債を無限に買い続けることはできないわけですので、いずれは正常化に向かわなければいけないと。ただ、今の政策は方針を変えなければどんどん買い続ける政策で、私どもがどんどん国債を蓄積していく政策です。そうすると、それを続ければ続けるほど、正常化に向かう時の金融市場への変動のリスクは高まるのだろうなと思います。そういう意味では、もちろん今の時点では、政策変更しない方が波風立たずにいいということですが、それは私としてはやはり無責任ではないかなと、つまり中長期の立場から経済・物価の安定をしっかりと確保できるような政策運営をする必要があるのではないかと。現状で政策効果がすごく大きく出ているのであれば、もちろん考え方は違うかもしれませんが、政策効果は既に大きく逓減している中で、市場の混乱を抑えることが大きな目的で政策を維持するというのは、それはやはり本末転倒ではないかと思います。
§22Takahide Kiuchi
金利あるいは株・為替への影響というのは、もちろん予見できない部分がありますが、私自身としてはやはり、今までの量的・質的金融緩和の経済への効果とか、あるいは他の金融市場への波及効果というのは、基本的には実質金利で決まってきている部分が大きいのではないかと思います。実質金利は、様々な要素で決まるとはいえ、足許ではどれだけ国債を買っているか、いわゆるストックで決まる部分が大きいと思いますので、国債の残高を減らすという判断は非常に大きな判断だなと、将来的には思いますが、私の提案は、国債の残高を減らすという提案ではなくて、買入れ額、つまり本行の持つ国債の残高を増やすペースを減額するということです。さらに重要だなと思うのは、先行き残高を減らすことはとりあえず考えていません、というメッセージを同時に送る、ある意味フォワードガイダンスですが、これをすることによって金利変動のリスクは軽減できると思いますし、そうであれば他の市場、つまり為替・株式市場への影響も抑えることがある程度はできるだろうと考えています。
§23Takahide Kiuchi
繰り返しになりますが、国債をもっと買えば買うほど、そうしたリスクはもっと将来的に高まっていくということでして、量的・質的金融緩和が成功か否かというのは、まさに正常化もしっかりした後に判断されるものであって、今の時点で上手くいっていても、正常化で大きく躓いてしまっては、やはり成功とは言えないと思っています。2 番目の期待に働きかけるという部分は、政策導入当初については、そういう考え方も部分的には私は支持しておりましたが、既に 2年あるいは 2年半経って、果たして期待に働きかけるメッセージというのは、どれほどの重要性があるのかなと思っております。特に、インフレ期待に働きかける政策というのは、むしろ消費にマイナスの面も出てきてしまいます。ですから政策については、一時的には期待への影響を配慮することを否定はしませんが、持続的にはやはり期待に変化を与え続けるのは難しいので、基本的には政策効果というのは、それが実際にどういうチャネルを通じて実体経済に影響を与えるかというと面で言うと、やはり実質金利をどれだけ押し下げるかということ、これについては昨年半ば以降、実質金利は下げ止まってきていますので、限界的な効果というのは出にくくなっています。ただ、そこまでに金利を下げた累積的な効果はまだ残っていますので、政策効果自体はトータルでいうとまだ出ていると。
§24Takahide Kiuchi
ただそれは、繰り返しになりますが、残高を減らせば累積的な効果も減ってしまうかもしれませんが、残高を減らさずに減額をするということであれば、今まで作ってきた政策効果自体は損なうことはありません。一方で、効果についてはストックで決まる部分が大きいと思いますが、副作用については、フローで決まる部分もあると思います。つまり、国債をいっぱい買うということによって、国債の流動性が落ちてしまうと、あるいはそれによって市場が不安定になってしまうリスクがあるということもあると思います。そういう意味で言いますと、減額によって、効果にはあまり悪影響を及ぼさず、副作用はある程度逓減できる、つまり限界的な効果と副作用のバランスをよくすることができるというのが私の考え方です。ちょっと話が逸れましたが、情報発信については、期待に強く働きかける政策の、ある意味実効性といいますか、どの程度効果があるかは、常に検討・検証していかなければならないのではないかと、個人的には思っています。ボードの中でどういう議論があるかについては、申し訳ありませんが、議事要旨等でご理解頂ければと、それ以上のことはちょっと私の方から申し上げることは控えさせて頂きたいと思います。
§25Question
講演要旨に書かれている 2%の達成については期待に働きかけるような現在の金融政策では限界もある、難しいと認識を示されていますが、2%を達成するために必要なその他のツールというのは──潜在成長力を上げるということをおっしゃられましたが──、具体的にはどのような政策を想定されてお話しされているのか、お願いします。
§26Takahide Kiuchi
先程のお話でだいたい尽きているとは思いますが、つまり 2%の物価安定目標は日本銀行が掲げている目標ではありますが、それを掲げるに至った経緯を考えますと政府との共同声明があり、政府が財政の健全化と成長戦略に取り組む、一方で私どもは金融政策を通じてデフレ脱却に取り組むという中で出てきた目標なわけです。そういう意味では、私の理解としては、共同声明の中でも 2%の物価安定の目標をできるだけ早期に達成するということが謳われていますが、それは、各主体、企業とか家計などが、成長強化に前向きに取り組むと、そしてその成果が表れる中で 2%が妥当になってくるというような文言になっています。ですので、ある意味それが前提になっています。その中で、政府の財政健全化や成長戦略が重要な役割を果たしていくということですし、それがサポート材料になって、企業の先行きの成長期待が高まり、設備投資が増えることによって潜在成長率が高まってくるということがあると思います。ですので、私どもの金融政策以外の部分については、あまり詳細にどういう政策かというのは言えませんが、今申し上げた財政の健全化、規制緩和などの構造改革、そして将来の成長期待への影響を考えると人口対策が重要になってきます。
§27Takahide Kiuchi
例えば、企業の先行きの成長期待が高まれば──あるいは生産性が高まると──、労働需要が高まる、労働需要曲線がシフトすると賃金が上がる、実質賃金が上がるとそれが物価上昇につながっていくという経路を辿っていくだろうと思います。その意味で、物価が何で決まっているかというと、中央銀行が 2%と言ったから皆の期待が一気に 2%になるというのは、ある意味なかなか起こらないというのは既に 2年半で証明されたわけです。やはり、生産性が高まる、成長率が高まる、企業の先行きの成長期待が高まる、それによって企業が賃金も上げ、雇用も増やす、賃金の上昇が物価に跳ね返る、ということで将来的には 2%という──2%と整合的な経済というのはかなり強い経済だと思いますが──、高い目標をみんなで目指しましょうというのが、2%の目標の意味です。そういう意味では、そうした構造変化がどういうペースで起こるか、なかなか予見しがたい部分がありますので、2%目標をいつ達成できるかの判断は難しいと思います。そういう意味で、私としては中長期の目標として位置付けることが必要だと思います。短期的に達成しようとしますと、例えば無理に景気を過熱させるとかですね、あるいは円安を通じたコストアップ型の物価上昇になってしまって、むしろ経済の安定を損ねてしまいます。
§28Takahide Kiuchi
私どもの目標は物価を上げることではなくて、実体経済を改善させ、人々の生活をよくすることが目標ですので、物価だけに無理に焦点を当てた政策は本末転倒で、国民の生活の改善にマイナスに働く可能性があるということですので、中長期の目標として柔軟に位置付けていくのがいいのではないかと考えています。
§29Question
米国の利上げの影響についてお伺いします。年内の利上げ、9月を含めて年内の利上げが検討されているということですが、先程の話にもあったように、金融市場が少し不安定になってきている中で、もし利上げをした場合に、新興国をはじめとした世界経済への影響がどういったところが考えられるかといったところと、日本経済への影響、あとは日本の金融政策に与える影響があるのかどうか、そこを教えて下さい。
§30Takahide Kiuchi
各国の金融政策というのは、まずは各国の経済・物価の安定という目標のために実施するものです。しかしながら、米国の場合は非常に大国であり、経済規模が大きいだけでなく、海外との間に非常に太い資金フローがあるということで、国内の金融政策ですが、それが海外にも大きな影響を与えて、それがまた米国経済にもフィードバックされてくるということですから、単純に国内の経済の状況だけでなく、そうした資金フロー、それが海外の経済に与え、米国にまた跳ね返ってくるというのも考慮しながら、金融政策を適宜適切に決定していくというのが妥当なのではないかと思っています。米国経済の実態面からすると、金融政策の正常化を進めていくというのは、方向としては正しいと思っています。もちろん、タイミングは中央銀行の判断で決めるわけですが、方向としては正しいと思っていますし、それに対して、金融市場が過敏に反応することは確かで、そこに対する配慮は必要ですが、そこに過剰に配慮をすると、正常化が遅れるということになります。正常化が遅れれば、例えば、金融不均衡が米国だけでなくてグローバルに形成されやすくなって、さらに将来的に金融政策を正常化した時の大きな調整につながる可能性もあるという面と、ある程度の色々なリスクは配慮しながらも、正しい政策の方向は進めるべきではないかなと思っています。
§31Takahide Kiuchi
既に米国は、テーパリングから残高一定というところまで進めてきておりますので、そういう正常化の過程は既に進んできてはいます。では、金利の引き上げというのがすごく大きなハードルだということなのかというと、そうではないと思いますし、金利の引き上げ自体は十分市場には予見されているということであります。そういう意味で、適宜判断されるとは思いますけれども、方向としては、そういう方向に向かっていると。ただそれは予見されていることであれば、例えば金融市場に対する影響はそんなに大きなものにはならないだろうと思っています。そうしますと、日本経済に対する影響も、基本的にはあまり大きくないだろうと思っています。やはり米国当局としてはですね、2013年の春のテーパリング観測で市場が大きく混乱したということが記憶として残っていますので、慎重に対応するということだとは思います。一方で、我々にとってはどうかなということなのですが、米国の 2013年のテーパリング観測で金利が一時的に上がったのですが、その後落ち着いてきています。
§32Takahide Kiuchi
そういう意味ではやや市場が一時的に過剰に反応して、ほどなくして落ち着いてきたと、例えば 10年債利回りも 2%弱くらいから 3%まで上がって、またほどなくして 2%にまた戻ってきたということは、正常化を進めていっても、ちょっと先程の日本の政策とも関係しますが、残高を維持すれば金利はそれほど上がらないと、基本的には残高で決まっているのだと、決まる部分が大きいのだということの 1 つの証左だと思います。そこはやはり今後の日本の正常化を進めていく上での大きな示唆となっています。つまり、減額をするというよりは、残高がやはり重要で、残高を減らすというのは大きな判断ですが、残高を維持するのであれば、金利が大きく反転するということが短期的には起こったとしても、多少長い目で見ると起こりにくいというインプリケーションが日本にとっては 1 つあるということと、一時的に米国の金利が上がって下がりましたけれども、では実体経済に与える影響は大きかったかというと、あまり大きくなかったなと、ただ、それにも関わらず、このテーパリングを巡る観測というのは、依然として金融市場あるいは当局者の間に強い記憶として残っているのは、新興国の資金フローが非常に大きく変動したと、そこなんだろうと思います。
§33Takahide Kiuchi
つまり、米国経済への影響ではなく、新興国への影響だと、ですから、確かに米国としても新興国への影響も配慮をしてこれからも金利引き上げのタイミングを図っていくということだと思います。ただそれは日本にとってのリスクではなく、日本の金融政策の正常化を考える上で、新興国に大きな調整が起こるかというと、起こらないわけでありますので、そういう意味では、私どもは比較的国内の中長期の経済・物価動向をみながら国内の金融政策を決めることができる、そういうフリーハンドを持っているのかなと思いますし、そのテーパリングに伴う混乱というのは米国とか金融市場にとっては苦い経験ではあると思いますが、日本にとっての大きなリスクではないと、つまり新興国に与える影響というのは、日本の金融政策の正常化の過程では、やはりそういうことはなかなか起こり得ないということでありますので、そうすると過度に、先程の他の方のご質問にもありましたが、正常化に踏み出した途端に金融市場が大混乱してというのは、もちろんリスクとしてはあるのですが、そこの印象として先程のこう、米国の 2013年のテーパリング観測の時の経験がかなりあるのかなと思いますが、あれは米国のリスクではあるのですが、日本にとっての必ずしも大きなリスクではないのではないかなと思います。この差が米国の政策の正常化から、私どもが得るべき教訓ということなのではないかなと思っています。
§34Takahide Kiuchi
以上