総裁定例記者会見(2015年10月30日)要旨
全文
§1Question
本日の金融政策決定会合の内容について、展望レポートで示された経済物価見通しも踏まえてご説明をお願いします。
§2Haruhiko Kuroda
本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 80 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。本日は、「展望レポート」を決定・公表しましたので、これに沿って、先行きの経済・物価見通しと金融政策運営の基本的な考え方について説明します。まず、わが国の景気ですが、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けています。輸出と鉱工業生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっています。一方、国内需要の面では、企業部門において、収益が過去最高水準まで増加していることなどを背景に、前向きな投資スタンスが維持されています。家計部門についても、雇用・所得環境の着実な改善が続く中、個人消費が底堅く推移し、住宅投資も持ち直しています。先行きも、家計、企業の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、国内需要が増加基調をたどるとともに、輸出も、新興国経済が減速した状態から脱していくことなどを背景に緩やかな増加に転じると考えています。
§3Haruhiko Kuroda
このため、わが国経済は、2015年度から 2016年度にかけて潜在成長率を上回る成長を続けると予想されます。2017年度にかけては、消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動などの影響を受けるとともに、景気の循環的な動きを映じて減速するとみられますが、プラス成長を維持すると予想されます。具体的な実質GDP成長率の見通しは、2015年度は 1%台前半、2016年度は 1%台半ば、2017年度は 0%台前半となっています。次に、物価情勢の先行きです。生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、当面 0%程度で推移するとみられますが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である 2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されますが、その価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、消費者物価の前年比に対するエネルギー価格下落の影響が概ねゼロとなる 2016年度後半頃になると予想されます。その後は、平均的にみて、2%程度で推移すると見込まれます。今回の見通しを 7月の中間評価と比べますと、2015年度の成長率見通しは、輸出のもたつきに加え、天候不順の影響などにより個人消費に一頃鈍さがみられていたことから下振れています。2016年度と 2017年度については概ね不変です。
§4Haruhiko Kuroda
物価の見通しは、2015年度と 2016年度については、原油価格下落の影響などから下振れていますが、2017年度については概ね不変です。金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。なお、展望レポートについては、佐藤委員・木内委員から、消費者物価が見通し期間中には 2%程度に達しないことを前提とする記述の案が提出され、否決されました。また、金融政策運営について、木内委員から前回決定会合と同様の提案があり、否決されました。詳細については、議事要旨をご覧下さい。
§5Question
展望レポートで、物価上昇率が2%程度に達する見通しが、従来の「2016年前半頃」から「2016年度後半頃」に変更されています。一方、「2年程度で2%」という従来の表現について維持するのであれば、その理由についてご説明下さい。
§6Haruhiko Kuroda
ご承知の通り、日本銀行は 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することにコミットしています。「2年程度」という表現は、物価安定目標の実現に関するこのコミットメントにおいて、「できるだけ早期に」という際に念頭に置いている期間を示したものです。実際の目標達成時期は原油価格の動向などによりある程度前後するわけですが、だからといって、「念頭に置いている期間」を変える必要があるとは考えていません。こうしたコミットメントによって、人々のデフレマインドを転換し、予想物価上昇率を引き上げることは、デフレ脱却という目的そのものであると同時に、「量的・質的金融緩和」の政策効果の起点でもあります。そのもとで、実際に、企業や家計の物価観は大きく変化してきています。今回の展望レポートで、2%の達成時期が「2016年度前半頃」から「2016年度後半頃」に後ずれしましたが、これは主としてエネルギー価格の下振れによるものです。物価の基調は着実に改善しており、先行きについても、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、2%を実現していくとみています。もとより、今後とも、毎回の決定会合において、経済・物価の現状と先行き、様々なリスク要因、金融資本市場の動向などを点検したうえで、物価の基調的な動きに変化が生じ、「物価安定の目標」の早期実現のために必要になれば、躊躇なく調整を行う方針です。
§7Question
先程のところに絡むのですが、2年程度で 2%というお話は変えられない、政策の効果の起点であるというお話がありましたが、総裁がご就任されてから 2年半が過ぎて、少なくとも半年前に 16年度前半とおっしゃり、今度は 16年度後半とおっしゃり、2 回先延ばしされています。先延ばしをされていけばいく程、先程おっしゃった企業や家計の物価観の変化とか、日銀はそう言っているけれど、どんどん延びていっているではないかということで、信じられなくなっていくのではないかという懸念があると思います。それであっても、この枠組みは変えないということでよいのか、むしろ形骸化しているのではないかと思うところもあるのですが、そこを改めてお伺いしたいのが1 点です。もう 1 点は、先程から物価の下振れは原油の影響だとおっしゃっているのですが、展望レポートを詳細にみると、前回中間評価の 7月時点では、オイルの影響が寄与するのはマイナス 0.7~0.8%であるとおっしゃっていて、今回の展望レポートではマイナス 0.9%と、ほとんど原油のマイナス寄与度が変わっていないにもかかわらず、出来上がりの消費者物価の予想は大きく下げられています。つまりこれは、原油以外の他の要素が随分効いているから物価が上がっていないのではないかと思わざるを得ないと思います。
§8Question
それは、例えば賃金とかそういうものが上がっていないということであれば、原油にしても賃金にしても、日銀が追加緩和したら急に上がるものではないわけで、そうすると、日銀が金融緩和しているから物価が上がるのだというところと齟齬が出てくるのではないかと思うのですが、この 2 点をお願い致します。
§9Haruhiko Kuroda
まず第 1 点ですが、先程申し上げたように、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するというコミットメント自体は、2013年の 1月に金融政策決定会合で決定し、政府・日銀の共同声明でも謳われています。それを踏まえて、2013年の 4月に「量的・質的金融緩和」を決定するに際して、2年程度を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するということで、「量的・質的金融緩和」を導入して、それをずっと実行してきました。そうしたもとで、もちろん内外の様々な変動というものは予想外のものも起こるわけでありまして、特に昨年の夏以降のかなり大幅な原油価格の下落、それが予想物価上昇率にマイナスの影響を与え、デフレ脱却を遅らせるという懸念から、昨年の 10月に「量的・質的金融緩和」を拡大したわけです。その結果をみますと、原油価格は引き続き下落し、生鮮食品を除く物価上昇率も下落してきたわけでして、足許 0%程度になってきていますが、幸い、予想物価上昇率はさほど変化なく、長期的にみれば予想物価上昇率は上昇するという傾向は維持されています。原油価格は足許で、今年の初めあるいは7月頃予想していたよりさらにどんどん下がるということではないのですが、その頃予想していたレベルから緩やかに上がっていくということは、まだ確認されていません。
§10Haruhiko Kuroda
また、先程も申し上げたように、天候不順の関係で、4~6月に消費が弱かったということも事実です。「量的・質的金融緩和」自体は、2013年の4月に導入され、昨年の 10月に拡大され、所期の効果を発揮していると考えていますが、今申し上げたようなことの影響、特に原油価格のかなり大幅な下落という影響によって、足許の物価上昇率自体は 0%くらいまで落ちて、まだそこから上がってきていないということは事実です。ただ、今朝発表されました消費者物価の動向、これは9月の数字ですが、生鮮食品を除くところでは確かにマイナス 0.1%で横ばいでしたが、生鮮食品とエネルギーを除いたものではプラス 1.2%と、前月よりさらに上昇しておりまして、先程ご説明したように、あるいは展望レポートの中で詳しく書かれています通り、物価の基調は確実に改善してきていると思っています。従って、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、物価上昇率も原油価格のマイナスの影響が剥落する来年度の後半頃には 2%程度に達する可能性が高いとみていますので、「量的・質的金融緩和」政策に対する信認が崩れているとか、あるいはそれが低下する惧れがあるとは今のところ考えていません。
§11Haruhiko Kuroda
いずれにしても、物価の基調に変化が生じて、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を実現するために必要があれば、躊躇なく追加緩和であれ何であれ、金融政策の調整をするということに変わりはありません。それからもう 1 つ、原油価格だけでなく、他の要因もあったのではないかという点につきましては、展望レポートをよく読んで頂ければ分かると思いますが、まず、成長率については、2015年度は下方修正していますが、2016年度、2017年度はほとんど変わっていません。2016年度は、0.1%ポイント下方修正になって、2017年度は逆に 0.1%ポイント上方修正になっています。物価については今年度と来年度と下振れして、2017年度は前と変わらないということです。物価見通しの修正の背景には、基本的には原油価格が圧倒的に大きな要因であったと思いますが、今申し上げたように 2015年度については成長率も下方修正していますので、そのことの影響もあったと思います。それは、先程申し上げたように、例えば 4~6月の成長率がマイナスになっていますが、消費が弱かった、あるいは第 1 四半期の米国の成長率が低かったということ、あるいはアジア諸国の成長率が減速していたということもあって、第2 四半期の輸出が弱かったというようなこともあります。
§12Haruhiko Kuroda
このように、成長率自体、今年度について若干下方修正したという影響も、物価には何がしかの影響を与えていると思います。物価の基調を判断する上で一番大きいのは、もちろん需給ギャップと予想物価上昇率ですが、需給ギャップは引き続き改善していますし、予想物価上昇率も長い目でみれば上昇しているということに変わりはありません。そうしたもとで、賃金も2年続きのベアが実現し、雇用・所得環境も改善しています。今申し上げたように、足許の実質成長率が下方修正されたことなども影響はしていますが、2016年度前半頃に 2%程度に達するという見通しが、2016年度後半頃に半年くらい後ずれしたことの 1 番大きな要因は、やはり原油価格であったと思っています。なお、賃金につきましては、企業収益が史上空前の水準にあり、労働市場は極めてタイトになっていて、人手不足が拡がっていますので、今後さらに上昇していくだろうと思っています。
§13Question
先行きのリスクについて、展望レポートの中で中国を中心とする新興国のリスクを強調していると思うのですが、今後、日本経済に影響を及ぼしてくるとしたら、どういった経路が考えられるのか、お伺いします。もう1 点は、そういったリスクの高まりや物価もなかなか上がってこないという状況の中で、追加の金融緩和とかそういう手を打たれないことの理由として、緩和手段がそろそろ尽きてきている、もう金融政策が限界に近付いてきているということではないのか、お伺いします。
§14Haruhiko Kuroda
展望レポートをお読み頂くと分かると思いますが、経済成長あるいは物価に関するリスクについては、やや下方リスクが大きいということが委員の多数意見でした。ご質問の趣旨は、特に、中国その他の新興国の減速が──IMFの見通し等でも示されていますが──、より減速の程度が大きいとか長引くリスクがあった場合、あるいはリスクが顕在化した場合、どういうチャネルで日本の経済に影響が出るかということだと思います。一番大きいのは、当然、貿易関係です。それから中国を含む東アジア諸国に日本の企業が数多く進出して現地で生産していますので、企業収益にも影響が出るかもしれません。ただ、中国は政策対応の余地が大きいですし、現に財政・金融両面で刺激策を打ってきていますので、 IMFが見通しているような成長率というのは十分達成できると思っています。また、アジア諸国もかつてと違い、金融システムにしても経済全体にしても、かなり強靭になっています。アジアの中でもインドは、IMFも成長率が加速していくことをはっきりと認めています。リスクがあることはご指摘の通りですが、その場合の影響というのは、輸出や本邦企業の海外オペレーションの利益に影響が出るというチャネルや金融資本市場を通じた影響もあると思います。
§15Haruhiko Kuroda
しかし、今のところ、それはあくまでリスクであって、メインシナリオ自体は、展望レポートでも示している通り、世界経済全体が先進国を中心に緩やかに回復していく──先進国の景気回復が新興国にも及んでいくし、新興国自体も様々な対応策をとっていることにより、世界経済全体として、アジアも含めて、今年から来年にかけて緩やかに成長が高まっていく──ということであろうと思っています。2 点目については、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を達成するということで、必要があれば躊躇なく追加緩和であれ何であれ、金融政策の調整を行う用意があるということは、繰り返し申し上げています。その手段について限界があるとは全く思っていません。
§16Question
今の質問とも関連しますが、今回の決定会合の中で、追加緩和の議論、できるだけ早くデフレから脱却して物価目標 2%を達成するために先手を打つ形で、今のタイミングで追加緩和に踏み切るという考えは、総裁の中に全くなかったのかお伺いします。それからもう 1 点、前回の会見で総裁は、今は日本経済はデフレ状況ではないとおっしゃったと思いますが、デフレからの完全脱却とは、CPI2%を達成する時期、つまりここでいう2016年度の後半頃という捉え方でよいでしょうか。
§17Haruhiko Kuroda
前段は、詳しくは今後公表される議事要旨をご覧頂ければと思います。色々な議論はありましたが、具体的に追加緩和の提案はありませんでした。それからデフレからの脱却についてですが、デフレは定義により「持続的な物価の下落」です。どういった指標で何を基準にするかは色々議論があると思いますが、私ども日本銀行では従来から、消費者物価の総合指数をみて、それをターゲットにしています。ご案内の通り、消費者物価指数には若干上方バイアスがあることを勘案し、さらには、すぐに金利がゼロに張り付いてしまうことを避けるためにも一定の糊代がいるということで、消費者物価の総合指数で2%を目標としています。ちなみに、ほとんどの先進国が同様で、2%の総合指数をターゲットにしています。ただ、ターゲットを達成するにあたって、物価がどのように動いているかのトレンドや基調をみる観点から、日本の場合は、従来から生鮮食品を除く消費者物価が重要な指標として議論の対象になっていましたし、昨年夏以来の大幅な原油価格の下落のもとでは、生鮮食品だけでなくエネルギー品目を除いた指標や、その他各種の指標を参考にし、さらに言えば、賃金の上昇の動向や企業の価格設定行動まで含めて、総合的に判断していく必要があると思っています。しかし、日本銀行の目標自体は、消費者物価の総合指数で2%であり、これは従来から申し上げている通りです。
§18Haruhiko Kuroda
また、2%の目標に達する時期については、2016年度後半頃とみています。
§19Question
総裁は、物価の基調は高まってきていると繰り返しおっしゃっています。そして足許で原油安により物価が下押しされていますが、一巡すればこの直接的な下押し効果がなくなるのは客観的な事実と思います。その上で、今回、追加緩和は実施されませんでしたが、それは今、逆に追加緩和をしてしまうと2%を目指す上でやり過ぎになる、行き過ぎてしまうリスクも懸念されているのでしょうか。
§20Haruhiko Kuroda
そこは非常に微妙な判断がいるところだと思いますが、従来から申し上げている通り、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することが私どもの目標ですが、その場合、物価だけ上がればよいのではなく、賃金も上がっていく、企業収益も増えていく、経済全体がバランスのとれた形で目標を達成するのでなければ、持続的・安定的に達成することは非常に難しいと思います。ですので、早期に達成するために必要であれば躊躇なく調整する用意はありますが、その場合も、物価の基調、あるいは経済全体をよくみて、総合的に判断して決めていくことになると思います。今回、展望レポートで示している通り、また金融政策の決定についての公表文にもある通り、物価の基調が着実に改善しているもとで、現在の極めて緩和的な金融政策を維持し、今後とも着実に実施していくことによって 2%が達成できるという判断になったわけです。従って、ご指摘のようなことも委員方の頭には色々あったと思いますが、基本的には、先程申し上げたように、物価の基調は着実に改善している、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮している、従って、今の政策を維持していくことによって、物価安定の目標が達成できる、という判断です。
§21Question
総裁は物価の基調が着実に改善しているとおっしゃって、その根拠として「除く生鮮エネルギー」の数字が足許1.2%まで上昇しているとおっしゃっています。確かに足許上昇傾向にあるのですが、それでも「除く生鮮エネルギー」でも、目標とする 2%には遠く及んでいない 1.2%にしかまだ上がっていません。2年半過ぎて、しかも昨年10月に追加緩和までして、まだ「除く生鮮エネルギー」でも 1.2%しかきていないというのは、逆にいえば、そもそもQQEの波及メカニズムが想定通り働いていないのではないか、または、そもそも2年という期間に無理があったのではないか、という考え方もできると思うのですが、その点どのようにお考えでしょうか。
§22Haruhiko Kuroda
前段については「量的・質的金融緩和」を導入し、また昨年10月に拡大してきた時の波及メカニズムというのは、詳しくご説明していますけれども、その通りに所期の効果を発揮していると思っています。ただ、その一方で、昨年の夏以来の大幅な原油価格の下落であるとか、あるいは新興国の経済の減速であるとか、その他、色々な状況があったことも事実です。メカニズム自体は基本的に所期の効果を発揮していると思いますが、様々な要因が重なって足許で、生鮮食品を除く消費者物価の対前年比がマイナス 0.1%という状況になっています。物価の基調を判断する場合には、もちろん基本的には需給ギャップと予想物価上昇率が重要であり、さらには賃金の上昇率であるとかその他様々な指標を総合的に勘案して判断する必要があると思いますけれども、物価の基調が着実に改善しているというのは変わりないと思います。また、2年程度を念頭において「量的・質的金融緩和」を導入し、今日に至っているということでありまして、結果的に 2年半経ってまだ 2%に達していないということは事実ですが、先程申し上げたような状況ですので、そもそも 2年程度を念頭に置くことが無理であったとか、無駄であったというようなことは全く考えておりません。
§23Question
展望レポートを拝見すると、来年の賃上げに向けた期待というのが非常に強く窺われるのですが、今後賃上げが可能な経済物価情勢の環境を整備するという観点から、場合によっては日銀として政策対応を行う可能性というのはあるのか、日銀として何ができるのかということも含めて教えて下さい。
§24Haruhiko Kuroda
先程申し上げた通り、物価だけ上がれば良いということではなくて、賃金も上がり、物価も上がり、企業収益も改善していくという経済全体が好循環を遂げる中で、物価が着実に 2%に向けて上昇していくということが一番望ましいわけです。その観点から、当然、賃金も上昇していくことが望ましいわけです。足許、企業収益が史上空前の水準に達しており、労働市場は有効求人倍率でも完全失業率でも、どの指標でみても大変タイトで完全雇用状況になっており、色々なセクターで人手不足と言われる状況にあります。企業収益が好調で労働市場が極めてタイトということですので、現に賃金も上がっていますし、今後さらに上がっていくということは当然予期できるところです。ただ、確かに足許の賃金は上がってはいるのですが、労働市場が極めてタイトな割には、あるいは企業収益が史上空前のレベルにある割には、賃金が上昇していないことも事実ですので、今後さらに上昇していくことが十分期待できると思います。日本銀行として、賃金引き上げに何か直接働きかけるということは、日本銀行の機能、権限、責務と離れていますので、そういうことは考えていませんが、色々な機会に今申し上げたような分析であるとか、考え方は申し上げていきたいとは思っています。
§25Question
先程、追加緩和に関しては、経済の総合的なバランスということでというお話がありましたけれども、マーケットでは追加緩和の観測が拡がっていて、「今でしょ」というような感じの話もありました。では、逆に、追加緩和するとどういったアンバランスが生まれるとお考えでしょうか。
§26Haruhiko Kuroda
通常、よく言われることとしては、賃金、物価、あるいは企業収益等が好循環を遂げる中で、バランスよく着実に物価を上げていくことが望ましいということを申し上げました。そういう観点のほか、もう1 つよく言われることとして、金融システムに対する影響はどうかということです。これは、最近公表した金融システムレポートをご覧になると分かる通り、これまでの「量的・質的金融緩和」――相当思い切った金融緩和――の中でも、金融システムに過度の強気とか、行き過ぎは生じていないということです。今の時点で何か金融システム上の配慮が必要なことは起こっていないとは思っていますが、やはり常に金融システムの状況は、十分注意していく必要があります。何よりも経済全体のバランスがとれた形で物価が 2%に向けて上昇していくことが一番望ましいわけでして、物価の基調が着実に改善している中で、現時点の判断として、今の「量的・質的金融緩和」を──非常に大規模な金融緩和措置ですけれども──続けていくことが適切だと判断したわけです。
§27Question
物価が上がらないという議論の中、ちょっと聞きにくいのですけれども、日用品、食料品を中心に値上げが相次いでいることもあって、生活者の立場からすると、もう十分に物価は上がっていると、これを無理してさらに上げる必要はないのではないかという考え方というか、そういう声も出てきていると思います。加えて、その日用品、食料品の値上げが相次いでいることで、逆にその年金生活者を中心に財布の紐が固くなって、経済に悪影響を及ぼしているのではないかという指摘もあると思います。そもそも、なぜ物価を上げることが必要なのかという説明も含めて総裁のお考えをお聞かせ下さい。
§28Haruhiko Kuroda
確かに、POSデータをもとにした東大の日次物価指数などをみますと、既に物価はある程度上がっているということはその通りです。ただ、他方で、消費者物価指数が示す通り、エネルギー関連のもの――電気料金とかその他――まで含めて消費者が購入するバスケット全体をとると、今の時点ではほぼゼロであるということも事実なわけであります。従って、一部の日用品が上がっていることは事実なのですけれども、消費者物価全体として、今のゼロでよいということにはならないと思います。色々な事由から消費者物価指数は全体として上方バイアスがあり、その程度は 1%前後だと言われていますけれども、色々な研究もあります。さらに、ぎりぎりでやっていますと、金利がすぐゼロのところにきて、通常の伝統的な金融政策が働きにくくなるということまで考えますと、諸外国と共に日本も 2%の物価安定目標を達成するということが、生活者も含めて経済全体がうまく回っていって生活水準も向上していくという面から最も適切なものであろうと考えております。従って、2%の「物価安定の目標」を下げるとか、上げるとか、そういうことは考えていません。年金生活者の問題については、年金について、国民がどれだけの負担をするのか、いわば年金財政の問題であろうと思っています。
§29Haruhiko Kuroda
日本は急速に高齢化していますので、年金財政というものを健全にしておかないと、ある時突然、大幅に年金を切り下げるか、年金の負担、社会保険料負担等を大幅に引き上げるということになりかねませんので、年金生活者のことを考えつつ、適切な年金財政を確立していくことによって、年金生活者の生活を守るということに尽きると思います。これは、金融政策の話ではなくて、社会保障、財政の話であります。
§30Question
2 点お伺いします。1 点目は、先程、東大物価指数が上がっているとのお話でしたが、足許 1.67%まで上がっています。今後、エネルギーがコアCPIを下押しする影響がなくなると考えれば、2%目標の達成時期をそれ程延期しなくてもよいのではないかとも考えるのですが、ご所見をお願いします。2 点目は米国の利上げですが、従来から総裁は、利上げができるということは、世界経済ひいては日本経済にプラスとご説明されていますが、では延期が続くということは、世界経済ひいては日本経済にマイナスということなのか、ご所見をお願いします。
§31Haruhiko Kuroda
1 点目については、従来、2%程度に達する時期について 2016年度前半頃とみていたわけですが、ご承知のように、原油価格はどんどん下がってはいないのですが上がっても来ないという低迷している状態がまだ続いていますので、それを踏まえると、2%程度に達する時期はやはり半年程後ずれして、2016年度後半頃になるというのが、委員の方々の大勢の意見でした。米国の金融政策については、あまり私から何か申し上げることは避けたいと思いますが、いずれにせよ、米国のFRBは、米国経済・物価その他の動向を勘案して、最も適切と思われる政策を遂行してきているし、今後とも遂行していかれるだろうと思っています。
§32Question
先程、総裁は、手段には限界がないというお話をされましたが、今、国債の購入が日銀の金融緩和の主な柱になっていると思います。国債の市場規模は無限に広がっていくわけではなく、規模があります。これだけの大量の国債買入をしていくと、これを続けていくことによって、買入れの余地が少なくなっていくと思います。この点について総裁は、どの程度懸念を持っていらっしゃいますか。もう1 点、今、日銀のバランスシートは日本のGDP対比で大体70%ぐらいの大きさになっています。今、緩和をしている段階ですが、出口に向かう時にはバランスシートの毀損が考えられます。毀損することによって日銀の信認が傷つくことについて、総裁はどの程度懸念を持っていらっしゃいますか。
§33Haruhiko Kuroda
まず 1 点目については、もちろん、国債をどんどん──特に新規発行額を超えて──買っていけば、いずれ買入れに限界がくるだろうということは観念的にはその通りですが、これまで大量に買ってきましたが、今の時点でも、実は国債の発行残高の 3 割弱です。確かBOEは、国債発行額の7 割ぐらいまで買い進んだと思いますが──別に、7 割まで買うと言っているわけではありませんが(注)──、今の時点で買入れに限界がすぐ来るとか、考慮しなくてはいけないということにはなっていないと思います。いずれにしても、2%程度に達するのが 2016年度の後半頃とみていますが、そうした意味で国債の買入れが困難になって、2%の「物価安定の目標」が達成できなくなるようなことにはならないと思っています。バランスシートの問題については、どこの国でも量的緩和を進める過程では、バランスシートが膨張して中央銀行の収益が増加し、バランスシートを縮小する過程で収益が減少するため、中央銀行の収益が振れることは事実です。当然、日本銀行も中央銀行として資本の基盤というものは十分考えながら金融政策を行っているわけですが、「量的・質的金融緩和」から出口に差し掛かった際に収益が減るとか、あるいは赤字になる、そういうことがあり得るので金融緩和をしない、2%の「物価安定の目標」は達成しなくてもいい、とは思っていません。
§34Haruhiko Kuroda
資本基盤は十分考慮しつつ、 2%の「物価安定の目標」を達成しなければならないと思っています。
§35Question
先程から総裁は、物価だけが上がる形ではなくて、賃金とともにバランスよく上がることが必要と繰り返していますが、そもそも異次元緩和を導入した際には、物価が上がれば企業収益も改善するし、実質金利が下がり、企業の行動も前向きに変わり、ひいては賃金も上がっていくという姿を描いていた(注) BOE の国債買入れ額は、正しくは、国債発行額の約4 割でした。と思います。なぜ今、物価の基調は改善しているにもかかわらず賃金が上がりにくい状況が続いているのでしょうか。それを上げるためには、金融政策ではない他の政策が必要だということなのでしょうか。
§36Haruhiko Kuroda
先程申し上げた通り、昨年、確か 20 数年振りだと思いますが、ベアが実現し、今年はさらに業種や企業規模の拡がりを伴って、賃金は上がってきています。2%の「物価安定の目標」が達成される時には当然、賃金もそれに見合って十分上がっていなければなりません。そうでなければ、物価が持続的に 2%程度の上昇を続けることはできないわけで、あくまでも賃金と物価は車の両輪といいますか、賃金が上がれば物価も上がる、物価が上がれば賃金も上がる――逆に言うと、物価が上がらないと賃金も上がらないし、賃金が上がらないと物価も上がらない――という関係に中長期的にはあるわけです。その意味で、物価が上がっていくに際して、やはり賃金もバランスよく上がっていく必要があるし、現に上がってきてはいるのですが、先程申し上げたように、史上空前の企業収益と極めてタイトな労働市場・雇用状況に比べると、若干、上がり方が鈍いかなと思っているわけです。ただ、今後、そこは上がっていくだろうと思っています。日本銀行としてできることは、従来から申し上げている通り、労働市場も含めた需給ギャップを改善していくとともに、将来の物価上昇予想を 2%の「物価安定の目標」に次第に近づけて行き、そこにアンカーすることを通じて、賃金も十分に上昇していく環境を実現するということだと思います。
§37Haruhiko Kuroda
政府は政府で、従来から政労使会議や官民対話とか色々なことをやっておられますが、そうしたことも重要な要素であると思っています。ただ、日本銀行としてできることはあくまでも金融政策を通じて、賃金や物価がバランスよく上がっていくことを期待する、ということに尽きると思います。
§38Question
今日の会合は、展望レポートを公表する会合としては、ここしばらくの間で最も短い会合になりますが、なぜ比較的早く議論が終わったのですか。
§39Haruhiko Kuroda
私も半年1 回の展望レポートの議論の時の時間をすべて覚えているわけではないですが、議論は十分尽くされたと思います。特に何か議論を省いたということではなく、十分議論が行われてこうした展望レポートがまとまったと思います。
§40Question
リーマン・ショックの後に展望レポートをみていて、日本の潜在成長率は緩やかに上がっていくとずっと言われているのですが、ここ何年か、潜在成長率が下がっていて、そのため経営者が企業収益が最高であってもなかなか賃上げや設備投資をしないというふうに言われています。日本の場合、やはり潜在成長率が上がらないと期待もなかなか上がらないので、さらにお金を使おうというインセンティブもなかなか上がらないと言われます。現状、設備投資は計画ではすごく強いのですが、工作機械受注や先行きの指標をみていると、設備投資がすぐに出てくる様子はないです。その辺のところ、先行きの設備投資動向と、金融政策で潜在成長率を上げることをサポートすることができるのかどうかをお伺いします。
§41Haruhiko Kuroda
今ご指摘の点は、2 つ全然別なことを言っておられると思うのですが、一つは潜在成長率が下がっていく、あるいは下がっていると、なかなか企業は設備投資をしないのではないかという話です。これは、日本で言われているだけではなく、リーマン・ショック後の米国や欧州でも色々言われていますし、最近の新興国の状況についても言われています。そうした要素はあるとは思いますが、潜在成長率がリーマン・ショック後に下がってしまったかなり大きな理由は、いわゆる全要素生産性がガタンと落ちたのではなく――純粋に技術進歩率が低下したというよりも――、労働力人口がずっと減ってきたということと、リーマン・ショック後に企業が設備投資をだいぶ控えたので、資本の貢献がプラスからマイナスになってしまったということです。しかし足許では、女性の就業率がかなり上がっており、労働の貢献もずっとマイナスではなくなっていくと思いますし、資本については、設備投資が少しずつ出てきていますので、企業の生産の国内回帰もあり設備投資自体も国内に少しシフトしてきています。従って、潜在成長率が今後少しずつ上がっていくことは十分想定できることだろうと思います。2 番目の点は、日銀の短観や、各種の設備投資計画のアンケート調査の結果は大変強いのです。
§42Haruhiko Kuroda
足許これまでのところ計画が極めて強い割には、まだ十分に設備投資が出てきていないことは事実ですので、今後出てくるとは思います。また、新興国の減速状況がどうとか、マーケットのボラティリティーが高まったとか、色々な不確実性を指摘される人もいますので、計画通りに全部出てくるかどうかはもちろんわかりませんが、9月の短観では、その 6 か月前の状況が上方修正されるくらい強いので、その計画自体は当然、各企業の売上や利益の予想、究極的には潜在成長率の動向なども踏まえたうえで出てきている計画ではあると思います。ただ、計画が強い割に、まだ足許では十分設備投資が出ていないことは事実ですので、今後とも企業の設備投資がこの計画に沿ってどの程度出てくるのか、十分注視していく必要があると思っています。以上