原田審議委員記者会見(2015年11月11日)要旨
全文
§1Question
2点質問させて頂きます。まず1点目は、栃木県内の景気動向についてのお考えを聞かせて下さい。2点目は、先日、足利銀行を傘下に置く足利ホールディングスと茨城県を地盤とする常陽銀行の地方銀行2行が経営統合の基本合意をしましたが、その点についてのご所見をお聞かせ下さい。
§2Yutaka Harada
まず、栃木県経済についてお話したいと思います。本日の懇談では、栃木県の経済、金融界を代表する方々から、地域経済の現状や課題に関するお話を伺いました。ご意見が多岐に亘っていましたので、全てを網羅してご紹介することはできませんが、私なりに整理して申し上げます。1 点目は、足もとの景気情勢についてですが、一部に弱さがみられるが、全体としては緩やかに回復しているというお話を伺いました。2 点目は、平均的には景気は回復しているわけですが、業種、企業規模、地域によっては必ずしも行き亘っていない、ばらつきがある、との声を頂きました。具体的には、為替円安に伴う原材料価格の上昇が内需型の中小企業を中心に販売価格への転嫁が難しいなど、厳しい状況が続いているというお話も伺いました。3 点目は、中期的には少子高齢化・人口減少が避けられないとの認識のもとで、当地経済のさらなる飛躍に向けて、産業・金融・行政等が一体となって、地域経済の活性化や発展に向けた様々な取組み、具体的には、企業誘致やビジネスマッチング、人材育成、創業支援などが行われているというお話を伺いました。以上のことから、栃木県経済が種々の問題を抱えている中でも、様々な工夫によって長期的に成長していこうという力強い動きがあることを確認できたと思います。
§3Yutaka Harada
2 番目は足利ホールディングスと常陽銀行の経営統合に関する見解ですが、まず第1に、この点については、個別金融機関に関わることですので、コメントは差し控えたいと思います。そのうえで一般論として申し上げますが、地域金融機関にとっては、人口減少などの構造的な下押し圧力が地域経済に働く中で、如何に地域経済や地場企業の活力を高め、自らの収益基盤を強化していくかが大きな課題となっていると承知しています。金融機関の経営統合は、そうした課題を克服していくための選択肢のひとつです。その際、自らの営業基盤や収益力の展望、業務上の戦略などを踏まえたうえで、経営統合の意義を見極めていくことが重要です。足利ホールディングスと常陽銀行も、そのようなことを考えて統合に向かって動いておられるのではないかと思います。
§4Question
午前の講演で、今の政策について雇用が増えているので大成功だと思う、物価についてはいずれ上昇するので心配に及ばないというご発言がありまして、どちらかというと物価よりも雇用を重視されているような印象を受けたのですが、雇用が良い状況でいずれ2%に達するのであれば、多少2%の達成時期が遅れても大きな問題ではなく、追加緩和も必要ないと理解してよろしいでしょうか。
§5Yutaka Harada
まず、雇用を重視していますが、雇用が物価より大事だと考えているわけではありません。ただ、経済状況が良くならないのに物価だけ上がっているというのは良くないことで、雇用が良くなり、賃金も上がり、結果として物価が上がっていくということが望ましい経路だと考えています。現在、物価が直近でマイナスになっているのは、石油価格下落の影響が大きいわけです。これは国民経済にとっては非常に良いことです。国民経済にとって良い状況で物価が短期的に下がっている、しかし石油価格下落の影響はいずれ剥落することが分かっています。分かっている中で、さらに物価を何としてでもすぐさま上げるために追加緩和をするということまでは必要ないのではないかと思います。現在、景気が良くなって物価が上がっていくという経路は、多少弱くはなっていますが続いていますので、その効果が顕れて、次第に物価が上がっていく、そして同時にエネルギー価格が物価を下げる効果も剥落していきますので、いずれ物価が2%に近付いているということを確認できると思います。そういうわけですので、現在の段階では追加緩和は必要ないのではないかということです。
§6Question
2つありまして、生産と輸出ですが、10~12月の生産動向をどうご覧になるのか教えて下さい。具体的には、アップルの iPhone の減産が昨今話題になっており、iPhone と自動車のモデルチェンジ以外、生産のドライブがないのではないかというシニカルな見方がある中で、ご懸念があれば教えて下さい。2つ目は、仮の話ですが、追加される場合の政策手段として、総裁は付利をいじられることは検討したこともないし、することもないとおっしゃっていますが、原田委員は大学にいらした時は撤廃を提唱されていらしたので、その考え方に変わりはないのか、確認させて下さい。
§7Yutaka Harada
まず第1点は10~12月の生産と輸出がどうなるのかということですが、この辺について私の個人的な見方といっても、単に予測に過ぎないのですが、生産についても、輸出についても、回復の兆しがみられると思います。輸出については、実質輸出でみれば何とか、生産の方も足許何とかプラスになっているということですので、10~12月も予測指数や、様々な聞き取りによっても、生産の方もプラスが当面予測できるのではないかと思っています。追加緩和ですが、これは、所得から支出、支出が物価を引き上げるというメカニズムが崩れるのであれば、躊躇なく追加緩和が必要だと申し上げています。それは政策委員会の多数のメンバーも同じ考えだと思います。追加緩和の手段を、具体的にここで議論するのは差し控えたいと思いますが、あらゆる手段があります。追加緩和に制約があると言っておられる方もいらっしゃいますが、私はそういう制約はないと考えています。
§8Question
消費増税について、ずいぶん影響が大きかったということを指摘されていらっしゃいます。また、2017年4月に2度目の消費増税が予定されていますが、物価安定目標2%の達成という観点からは、増税はやはりない方が良いと、延期した方が良いというふうにお考えでしょうか。これがまず第1点。次に、消費について、日銀の中心的な見通しは底堅いということですが、原田委員は、直近、懸念されるような動きがあるように思うと、あるいは消費と投資の回復は弱いままであると、おっしゃっています。それにもかかわらず、なぜ物価だけは、本年度末には2%に向けて上昇していることが確認できるとなるのか。ここの根拠というか、消費なり設備投資が弱いままなのに何で物価だけ上がるのでしょうか。過去は余りそういうことはなかったのではないかということでお伺いします。最後に、物価がQQEによって成功裡に上がっているということを示す根拠として、BEIをここでは挙げられていますが、今年に入ってからはほぼBEIは右肩下がりになっています。これをどのように説明されるのか。先程も繰り返しましたが、今年度末に向けて物価目標2%に向けて上昇していることが確認できるという動きとは真っ向から反対方向の動きになっているわけですが、それをどのように解釈されているか。この3点をお願いします。
§9Yutaka Harada
まず、消費税増税ですが、これは政府が決定すべきことであって、それに対して日銀審議委員である私がコメントすることはありません。ただし、消費増税をすればその分だけ景気が悪くなることは確かであって、景気が悪化する分だけ物価の上昇を抑える影響があるということは事実です。政府としては、財政再建のために消費増税は必要であるという認識のもとに進めておられるわけですから、それに対して私としてコメントすることはないということです。消費は底堅いと言っているが、弱いのではないかというのは、それはどのくらい弱いのかという話です。確かに活発でないのは事実ですが、弱いながらも上昇が続いています。それは、消費についても投資についても、弱いながらも上昇が続いていて、その上昇が続けばいずれ物価にも影響してくるだろうということです。それが余り強くないから物価上昇のモメンタムがなかなかみられないというのはその通りですが、エネルギーを除いた物価をみれば、徐々に上がっています。一方で、雇用と所得の関係が崩れていない以上、弱いながらも消費と投資は増えていって、結果的には物価の上昇に結びつく、ただ、それが後ろ倒しになるということです。3番目は、QQEで物価が上がるというひとつの根拠として、BEIを挙げているが、そのBEIは直近下がっているではないかというご指摘です。
§10Yutaka Harada
皆様方に配付した私の講演内容に書いていますが、QQEの実施後、物価それ自体も上昇したし、BEIも上昇しました。ところが、QQEを拡大した直後はBEIが上がったが、その後は下がっているのはご指摘の通りです。ただ、物価の予想は色々な指標でみるべきですし、またBEI自体が足許の物価の上昇率に影響されるということもあると思います。足許の物価上昇率がBEIにも反映して、結果としてそうなっているということも考えられます。一方、所得から物価へのメカニズムがある限り、いずれ物価は上がるということも確かなのではないかと思います。足許の物価と予想物価とどちらが大事かという話になりますが、私が日銀に参る前は、予想物価が大きく変化して現実の物価に大きく働きかけるという経路が強いと思っていましたが、その後の現実の物価の動きをみますと、やはり人々の予想というのは足許の物価の動きに引き摺られますので、予想物価自体が足許の物価に影響を受けます。ですので、予想物価と現実の物価が上がっていくのに時間がかかるということだと思います。前に私がデフレ脱却について編集した論文集を別の用があって読み直してみましたが、その中にも「予想物価は、過去の予想物価と足許の物価に影響される」という論文があり、この論文の通りだと思った次第です。
§11Question
2点お伺いします。1つは、毎勤(毎月勤労統計)ベースですと夏のボーナスはかなり今回落ち込んだわけですが、色々サンプル替えとか要因はあるとは思いますが、年末にかけても消費に関しては冬のボーナスへの期待がかなりあるようでして、それがまたそういったデータベースでマイナスということになると、さらに消費を冷やしてしまうのではないかという恐れがあります。この点についてどのように思われますか。もう1つは、ご自身の著書でも日本の物価はなぜ上がらないのかということを分析されて、CPIの3つの大きな構成要素のうち比重の高いサービス価格が上がらないからだと、それは本来であれば、企業が、利益が増えればそれを賃金に回すべきだが、その当時は出来ていなかったと、それで物価が上がらない、物価が上がらないのでさらに賃金が抑え込まれる。今の現状をみていますと、やや改善しているとは言っても、まだそこが断ち切れていないように思いますが、日銀がさらに追加で資産を買ったとしても、企業に対して直接給料を上げるようにとか、投資促進にはならないのではないかと思いますが、その点をどう分析されますか。
§12Yutaka Harada
まず毎勤ベースの夏のボーナスのデータについての私の疑問は ――説明しますと長くなりますので――、配付した講演内容に書いてある通りです。それから、冬のボーナスについては、私は冬のボーナスが増えて、消費も増えることを期待しています。それから2番目の点で、私の著書でそういうふうに書いたか記憶はないのですが、サービス価格が上がらないから物価が上がらないというのは、結局、サービス価格の構成要素のほとんどは賃金ですので、賃金が上がらないから物価が上がらないと言っているようにも聞こえると思います。私がどういうふうに書いたのかは正確には覚えていないのですが、言いたいことは、賃金が上がるのは、物価が上がっている時に上るのであって、物価が下がっていれば賃金も下がってしまうので、賃金が物価を決めるというわけではないということです。ただ、物価が上がって、かつ労働需給が逼迫すれば賃金も上がっていくだろうと思います。そうであれば、賃金と物価が同時に上がるわけですから、人々の生活水準が上がりながら物価が上がるということになって、安定的な経済状況が生まれると思います。
§13Question
現在の政策で、実際のところ企業に賃上げをさせるという点とは、どう結びつきますか。
§14Yutaka Harada
それは労働需給が逼迫することによって、賃金はいずれ上がってくるということだと思います。企業の方に聞くと、人手不足で大変だとおっしゃいますが、私は人手不足で大変だったらもっと賃金を上げて頂きたいと思いますが、なぜか上がらない。それは労働需給の逼迫度がまだ足りないということだと思います。今やっているQQEを続けていけば、労働需給が逼迫して賃金が上がって自然に物価が上がるということになると思います。パートの賃金の方が正社員の賃金よりも安定的に、かつより速いスピードで上がっています。これは労働需給の逼迫を表わしているので、これがもう少し続けば賃金は自然と上がってくるだろうと思います。
§15Question
今日の講演の中でも、先日の展望レポートについて、15年度、16年度の実質成長率、あとはCPIコアも下方修正という見通しに対して、原田審議委員の見通しは、僅かにそれよりも低くなっているというような話もあったようですが、今回の展望レポートで下方修正しつつも追加の金融緩和を見送ったといったことで、日銀のクレディビリティが損なわれたんじゃないかとか、バズーカ弾切れなんじゃないかとか、言行不一致だとか結構色々ご意見が出ているようです。それについて、原田審議委員自身は政策決定会合で賛成されているわけですが、どういうふうにお考えなのでしょうか。もう1点は、エネルギー価格が下がることで、やや長い目でみると、結局は消費を押し上げて、物価上昇につながると、プラスになっていくというようなお話なのですが、昨年来からずっと原油価格がかなり下がって、足許でも低いままです。果たして石油価格が下がることによって消費を押し上げる効果は実際に出ているのでしょうか、それともこれから出るのでしょうか、そのあたりについてもお考えをお聞かせ下さい。
§16Yutaka Harada
まず物価が2%にならないから日銀のクレディビリティが下がっている、あるいは崩れているということはないと思います。と言いますのは、多少繰り返しになりますが、物価が下がっているのはエネルギー価格の低下によるものであって、生鮮食品とエネルギーを除いた物価でみれば、順調に上がっています。エネルギー価格が物価に与える影響はいずれ剥落することは明らかですので、単に2%に近付く過程が後ろ倒しになるだけです。目標が崩れているわけではないので、クレディビリティが崩れるということはないと思います。それから、弾切れという話ですが、繰り返しですが、政策手段はいくらでもあるわけです。どのような手段をどのように使うかというのは、その時々の状況によるわけですので、あまり具体的なことはお話ししない方が良いと思います。ただ、その手段はいくらでもあると考えています。それから、エネルギー価格の下落によって生じた所得がいつ出てくるのかということですが、実際問題として、例えば貯蓄率は上がっています。貯蓄率が上がっているということは、実質所得の増加分が支出に使われていないということですから、現在のところまだ一般的には出ていないということです。ただ、それがいつまでも続くということはないと思います。つまり、貯蓄率が無限に上がっていくことはないので、それはいつか出てくる。
§17Yutaka Harada
あるいは、貯蓄率の上昇が止まれば、所得が増えた分だけ必ず使われるので、それは出てくるということです。それは出てくるはずなので、目標達成時期が遅れたとしても、必ず2%を達成できるということを申し上げているわけです。
§18Question
そうしますと、2年程度で2%という強いコミットメントをずっと言い続けているわけですが、2%というところを目標としてキープしていれば、時期については、既にだいぶ後ずれしていますが、ずるずる後ずれしても、いわゆる追加緩和ですとか政策手段をとる必要はないとお考えでしょうか。
§19Yutaka Harada
それは2%を達成するメカニズムがちゃんと働いているかどうかということになります。それを何で判断できるかというと、所得が増えているということです。それは「雇用×賃金」でみれば良いと思いますが、それが増えている限り必ずそうなるわけで、エネルギー価格の下落によって、一時的に遅れたとしても、それは構わないのではないかということです。ですから、2%を達成できない理由によると思います。それが石油価格の下落であれば問題はないのではないかと思います。ただ、所得から消費へのメカニズムが崩れるようなことがあれば、それは追加緩和が当然必要だということになります。
§20Question
先程の懇談会の中で、県内の出席者から、地域によってばらつきがあるという話もありましたが、懇談会の中で栃木県側の出席者からどのような意見や要望が寄せられたのかということと、県内経済の見通しについてどのようにみていらっしゃるか、お聞かせ下さい。
§21Yutaka Harada
まず、県内経済の見通しについては、先程述べた通り、弱いけれどもきちんと回復しているということだと思います。申しわけないのですが、県内経済についてはそれほど詳しいわけではないので、これ以上のことを申し上げるだけの十分な知識がありません。それから、ご要望ですが、日銀への要望というものは少なく、就職活動の時期ががたがたと動いて困るとか、放射能汚染の疑いで輸入を禁止している国があるのは困るとか、介護離職が大きな問題であるとか――日銀としては応えられないのですが、非常に重要な問題について――、地元に密着した具体的なお話が聞けて勉強になりました。それから、金融機関の方からは、低金利が長期化する中で、金融機関の金利競争が続いて経営体力を消耗していると懸念する声や、今後景気回復とともに金利が上昇する局面では、企業、消費者、金融機関が落ち着いて行動できるよう、適切な情報発信、政策運営を期待するというご意見を頂きました。私の方からは、今行っているQQEは、もちろん短期的には金利を下げているわけですが、景気が良くなれば長期的には金利は上がっていきます。ただ、そこまでにはかなり長い時間がかかって、ゆっくり上昇していくという、そうなるような金融政策に努めていくわけですので、金融機関としては十分な調整期間を得て、混乱がないように行動できるのではないかということを申し上げました。以上