総裁定例記者会見(2016年3月15日)要旨
全文
§1Question
本日の金融政策決定会合の結果について、ご説明をお願いします。
§2Haruhiko Kuroda
本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 80 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。資産買入れに関しては、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。政策金利に関しては、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に対し、引き続き-0.1%のマイナス金利を適用することを賛成多数で決定しました。わが国の景気についてですが、新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられていますが、家計、企業の両部門において、所得から支出への前向きの循環メカニズムはしっかりと持続していると考えています。従って、総括判断は「新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けている」としました。やや詳しく申し上げますと、海外経済については、緩やかな成長が続いていますが、新興国を中心に幾分減速しています。そうしたもとで、輸出は、足許では持ち直しが一服しています。一方、国内需要の面では、設備投資は、企業収益が高水準で推移するなかで、緩やかな増加基調にあります。個人消費も、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移しています。この間、住宅投資は、昨年までの着工動向を映じ、このところ持ち直しが一服しています。
§3Haruhiko Kuroda
以上の内外需要のもとで、鉱工業生産については、横ばい圏内の動きが続いています。先行きについては、海外経済は、先進国が堅調な成長を続けるとともに、その好影響が波及し新興国も減速した状態から脱していくと考えられます。そうしたもとで、輸出・生産は、当面鈍さが残るものの、緩やかに増加すると考えられます。この間、家計、企業の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続し、国内需要は増加基調をたどると考えられます。このため、先行きのわが国経済は、基調として緩やかに拡大していくと考えられます。また、わが国の金融環境は、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の効果のもとで、極めて緩和した状態にあります。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、 0%程度となっています。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば全体として上昇しているとみられますが、このところ弱含んでいます。先行きについては、消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面 0%程度で推移するとみられますが、物価の基調は着実に高まり、「物価安定の目標」である 2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。2%程度に達する時期は、2017年度前半頃になると予想しています。
§4Haruhiko Kuroda
リスク要因としては、中国をはじめとする新興国や資源国に関する不透明感に加え、米国経済の動向やそのもとでの金融政策運営が国際金融資本市場に及ぼす影響、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、地政学的リスクなどが挙げられます。こうしたもとで、金融市場は世界的に不安定な動きが続いており、企業コンフィデンスの改善や人々のデフレマインドの転換が遅延し、物価の基調に悪影響が及ぶリスクには引き続き注意する必要があります。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を継続します。今後とも、経済・物価のリスク要因を点検し、「物価安定の目標」の実現のために必要な場合には、「量」・「質」・「金利」の3 つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じます。また、今回の決定会合では、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を円滑に運営する観点から、実務的な対応を決定しました。すなわち、まず、0%が適用されるマクロ加算残高について、原則として 3 か月に一度見直しを行い、政策金利残高が概ね 10~30 兆円程度になるよう運用することとしました。
§5Haruhiko Kuroda
また、MRF(マネー・リザーブ・ファンド)について、個人の株式投資など証券取引において決済機能を担っていることを踏まえ、 MRFを受託する信託銀行において、昨年のMRF受託残高を上限に、受託残高に相当する額をマクロ加算残高に加えることとしました。さらに、金融機関の貸出増加に向けた取組みをより一層支援するため、今後「貸出支援基金」および「被災地金融機関支援オペ」の残高を増加させた金融機関については、増加額の2 倍の金額を「マクロ加算残高」に加算することとしました。これらの措置によって、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のもとでのポートフォリオ・リバランスや金融機関の積極的な貸出がさらに進むことを期待しています。さらに、昨年12月の金融政策決定会合で決定した「『量的・質的金融緩和』を補完するための諸措置の導入」を受け、今回の決定会合では、「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象とするETFの買入れについて基準を決定しました。また、住宅ローン債権の担保受け入れ制度についても、具体的な枠組みを決定しました。
§6Question
マイナス金利政策の導入からほぼ 1 か月が経ち、金利全般が大きく低下しています。その評価や効果を巡っては、中には厳しい見方もあります。総裁としては、金利が想定通りの水準まで下がり、政策の効果が十分出ているとみていらっしゃるのか、まだまだ不十分だとみていらっしゃるのか、金利がさらに下がって一段と効果を発揮する可能性があるとみていらっしゃるのか、その辺りの評価についてお願いします。
§7Haruhiko Kuroda
ご案内の通り、マイナス金利政策は、わが国では初めての経験ですので、企業や家計の皆様から様々な意見が聞かれていることは認識しています。従って、今後とも、しっかりと説明をしていきたいと思っています。端的に申し上げますと、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」は、これまで所期の効果を発揮してきた「量的・質的金融緩和」を一段と強化するものです。すなわち、実質金利を引き下げることによって、企業や家計の経済活動を刺激して、2%の「物価安定の目標」を早期に実現することを目的としています。「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入以降、短期・長期の国債利回りは大幅に低下しており、これを受けて貸出の基準となる金利や住宅ローン金利ははっきりと低下しており、金利面では政策効果は既に現れていると思います。今後、その効果が、実体経済や物価面にも波及していくものと考えています。そのもとで、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」についての評価もポジティブなものとして定まっていくのではないかと考えています。
§8Question
マイナス金利政策によって預金金利が引き下げられ、その影響で個人が資産防衛の意識を強めて、逆にデフレ意識が強まってしまうのではないかという見方もあります。マイナス金利政策は、個人の資産運用にどういった影響を及ぼすのか、総裁のご所見をお願いします。
§9Haruhiko Kuroda
先程申し上げたように、貸出の基準となる金利や住宅ローンの金利は、はっきりと低下しています。一方で、預金金利も低下していますが、既にかなり低い水準にあったため、その低下幅は、貸出金利に比べますと、極めて小幅なものにとどまっています。このように、マイナス金利は、家計部門にとっても、全体としてプラスの効果を持つと考えています。また、より一般的に申し上げますと、金融政策の効果については、家計部門と金融機関の取引に伴う直接的な収支だけではなく、経済全体としての国民所得に与える影響という観点から議論する必要があると思っています。この点、「量的・質的金融緩和」のもとで、経済・物価情勢は大きく改善してきており、企業収益は過去最高水準で推移しています。また、労働市場をみると、失業率が 3%台前半まで低下するなど完全雇用と言える状態となっています。労使間の賃金交渉においても、ベースアップが一昨年、20年振りに復活した後、昨年まで 2年連続で実現していますし、こういった雇用・所得環境は着実に改善しています。物価面でも、生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価の前年比は、「量的・質的金融緩和」の導入前はマイナスだったわけですが、2013年10月にプラスに転じた後、28 か月連続でプラスを継続しており、最近では+1%を上回る水準まで上昇しています。
§10Haruhiko Kuroda
先程来申し上げている通り、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」は、このように、景気や物価に対して良い影響、改善する効果を発揮してきた「量的・質的金融緩和」をさらに強化するものですので、国民各層にとって、幅広くプラスの影響をもたらすものであると考えています。
§11Question
マイナス金利政策を導入してから 1 か月が経つわけですが、先程の総裁のご発言ですと、実体経済へこれから波及していく、これからポジティブな評価も出てくるのではないかということで、実体経済への波及という意味ではまだポジティブな効果が出切っていないということだと思います。当初導入した時、人々の物価観であるとか、企業のマインドの委縮であるとかを止めるところに狙いがあったと思うのですけれども、そういう意味では、何らか効果が出ているのでしょうか。もし効果が出ているのであれば、もう少し期待インフレ率が上がっても良いような気がするのですが、このところ弱含んでいるということで、なかなかそういうところも効果が出ていないのではないかという気がするのですが、その点についてお考えをお願いします。もう1 点、3月20日に総裁就任から 3年になるわけですが、3年を振り返って、この間の講演では、非常にポジティブな評価をされていたかと思いますが、あらためて、どのように振り返っていらっしゃるか一言お願いします。
§12Haruhiko Kuroda
「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を、前回の金融政策決定会合で決定した際にも申し上げましたが、年初来、原油価格の下落が続き、あるいは中国経済その他新興国経済に対する不透明感など様々な要因から、市場がかなり動揺していました。そうしたもとで、企業のコンフィデンスの改善あるいは人々のデフレマインドからの転換が遅延してしまうリスクがあると考えて、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入しました。その後の経過をみると、先程申し上げた通り、実質金利がかなり大きく低下していますので、今後、設備投資や住宅投資等にポジティブな影響が出てくると考えています。そうしたもとで、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」導入後も、国際金融資本市場は動揺が続いていまして、特に原油価格もさらに下落するとか、新興国経済に対する不透明感も続くとか、色々なことがあったわけですが、最近に至って、ご承知のように市場もやや――完全にではないと思いますけれども――落ち着きを取り戻しています。その背景には、原油価格も 35 ドルを上回るような状況になってきているとか、中国経済その他の不透明感も和らいできていることなどもあったと思います。
§13Haruhiko Kuroda
また、G20のコミュニケにおいてかなり明確に、世界経済の「回復を維持・強化する」、そのために「金融、財政及び構造政策を個別にまた総合的に用いる」としたことも、ポジティブに影響したのではないかと思います。そうしたもとで、先程来申し上げている通り、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の効果が実体経済に波及していくと考えていますが、もちろんその波及状況をよくみていかなくてはならないと思っています。ある程度の期間はかかるとは思いますが、従来の「量的・質的金融緩和」が実体経済に対する効果をもたらしてきたように、今回の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」も、実体経済にプラスの影響をもたらすと考えています。私が総裁に就任して以来、3年程経つわけですが、あまり感想めいたことを特に申し上げるのもどうかと思います。何といっても大事なことはやはり、2%の「物価安定の目標」の早期実現に向かって、しっかりとやるべきことをやっていくということに尽きると思います。別に 4年目とか、そうした特別な節目だからどうというよりも、あくまでも日本銀行に期待されている「物価安定の目標」の早期達成に向けて引き続き努力してまいりたいと思っています。
§14Question
今回、MRFをマイナス金利の対象外とした理由についてですが、一般消費者や個人投資家に対しては、どのような効果を見込んでいるのでしょうか。もう1 点、マイナス金利の導入以降、地銀を中心にかつての消費者金融のような高利率の個人向け無担保・無目的ローンに力を入れ始めている動きがあるのですが、これについては、現状どのようにご覧になっているでしょうか。
§15Haruhiko Kuroda
MRFをマイナス金利の対象外にした理由については、何と言いましても、個人の株式投資などの証券取引において決済機能を担っていることでして、今回の措置は、こうした実情にかんがみて、昨年の残高を上限にして、0%を適用するマクロ加算残高の対象にしたものです。従いまして、今回の措置により、ポートフォリオ・リバランスが、よりしっかりと進展していくことを期待しています。今申し上げたように、MRFは基本的に個人の株式投資などの証券取引において決済機能を持っており、まさに、個人の株式投資など証券取引の便宜という面では非常に重要な役割を担っておりますので、今回の措置により、個人の株式投資などの証券取引を通じたポートフォリオ・リバランスをよりしっかりと進展させることができるのではないかと思っています。もう1 点は、ご承知のように今回のマイナス金利政策の導入に当たっては、いわゆる3 層構造を採っており、昨年の超過準備の平残約 210 兆円については引き続き+0.1%の金利を付けています。その上に、マクロ加算残高という、0%の金利が適用される部分が 40 兆円ないし数十兆円あり、それよりもう 1 つ上のマイナス金利が付く政策金利残高は――10 兆円から 30 兆円の間で変動するようなものですが――、足許では 20 兆円強くらいになっていると思います。
§16Haruhiko Kuroda
このように、金融機関の収益に過度の影響を与えて金融仲介機能を阻害することがないように、十分配慮していますので、マイナス金利そのものから金融機関が収益を非常に圧迫されるといった問題はないと思っています。ただ、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を通じて、金利全体を短期から長期まで下げていきますので、そうした中で貸出金利が低下するあるいは利ざやが縮小し、金融機関の収益に影響を与えうるわけです。この点は、実は過去3年間行ってきた「量的・質的金融緩和」も全く同じでありまして、やはり短期から長期までのイールドカーブ全体を引き下げて、貸出金利を引き下げるものでしたが、これまでのところは、経済が回復基調になり、貸出も増えていますし、そして何よりも、倒産が大きく減って信用コストも減少しており、金融機関は大手行も地域金融機関も、いずれも 2014年度は史上最高に近いような水準の収益を上げています。2015年度上期も、引き続き極めて高い収益を上げていました。先程申し上げたように、マイナス金利自体では収益への非常に大きな影響はないですが、今後、金利水準が全体として下がっていく中で、貸出に基づく収益の圧迫要因になることは事実です。
§17Haruhiko Kuroda
その意味で、それらにどのように対応していくかは、当然、金融機関として、環境が変わる中で様々なポートフォリオ・リバランスであれ、貸出の増加であれ、色々なことを模索していかれるのだと思います。一方で、金融機関は現在、十分な資本も持っていますし、収益も上げていますので、何か特にリスキーなことを大幅にやらなくてはいけない状況にもありませんし、金融機関はリスク管理面では非常に慎重にやっておられます。また、金融庁も日本銀行も様々な形で――私どもであれば考査であれ、オフサイトモニタリングであれ――、常に金融機関のリスク状況についてみていますので、そうした面で行き過ぎは起こっていませんが、引き続き、金融機関のリスク管理状況には注目していきたいと思っています。
§18Question
今の話ですと、金融機関の収益ではまだかなり余裕があるのではないかと、また先程、マイナス金利政策の実質金利の低下を通じた効果という話がありました。そうすると、今後も、必要に応じてマイナス金利をより深堀りしていく、そういうことが可能である、と総裁は考えていらっしゃるのでしょうか。なぜこういう質問をするかと言いますと、先週、 ECBのドラギ総裁から、マイナス金利の打ち止めを示唆するような発言があったと理解しています。ECBもマイナス金利の深堀りをやめた中で、日銀だけがマイナス金利を追求していくことが、国際協調という意味でもできるのかどうか、そこについてのお考えを頂ければと思います。
§19Haruhiko Kuroda
ドラギ総裁が、マイナス金利の一段の低下が金融システムに与える影響について発言されたことは存じています。ご承知のように、ECBのマイナス金利は-0.4%にしたわけです。私どものマイナス金利は-0.1%で、しかも先程申し上げたように 3 層構造で、限界的な部分にだけマイナス金利を適用して、それによって金利全般を引き下げていくという政策でして、それは十分な効果を持っています。他方で、先程申し上げたように、マイナス金利自体の金融機関収益に及ぼす直接的な影響は最小限にしていますし、日本の金融機関は、リーマン・ショックや欧州の債務危機による損失は非常に小さく資本基盤が充実しており、高い財務の健全性を保っています。また、収益の面でも先程申し上げたように、景気回復を背景に貸倒れ等に伴う信用コストが大幅に低下していますし、貸出も増加しており、低金利環境にも拘わらず、収益は高い水準を維持しています。こうしたもとで、具体的には、経済・物価のリスク要因を点検して、「物価安定の目標」の実現のために必要なことが起こった場合に、当然、その状況を十分みて、「量」・「質」・「金利」の3 つの適切な組み合わせを考えて追加緩和を行うということでありまして、何か特定のものを事前に考えて決め打ちするということはないと思います。
§20Haruhiko Kuroda
あくまでも、「物価安定の目標」の早期実現のために必要な場合に、「量」・「質」・「金利」の3 つの次元を考えて、適切な緩和措置を講じるということだと思います。
§21Question
先程の質問で、インフレ期待の部分について、あまり明確にお答えがなかったので繰り返しで恐縮ですが、マイナス金利導入以降のインフレ期待の動きを、今どのように評価されていますでしょうか。また、マイナス金利政策のインフレ期待に与える影響・効果を、他の政策との違いという観点も含めて教えて頂ければと思います。もう1 点ですが、本日の会合で海外経済中心に景気判断を多少下げられたと思うのですが、IMFも、今後世界経済見通しをまた下げるという話もあります。総裁は、この海外経済の落ち込みを一時的なものとみているのか、また、世界経済の減速がメインシナリオに与える影響、おそれはないのか、その辺を含めてお願いします。
§22Haruhiko Kuroda
インフレ期待につきましては、先程もごく概括的に申し上げましたが、予想物価上昇率の指標としては様々なものがありまして、各種のアンケート調査や物価連動国債を用いたBEIなどの指標だけでなく、企業の価格設定スタンスや家計の支出行動も、予想物価上昇率の変化を反映するものだと思います。このうち、企業の価格設定スタンス、あるいは家計の支出行動につきましては、先程申し上げたように生鮮食品、エネルギーを除いた消費者物価の前年比上昇率は28 か月連続プラスで、最近では+1%を超えるところまで上昇していますし、企業の価格改定の動きも進んでいます。従いまして、予想物価上昇率はやや長い目で見れば全体として上昇しているとみられるという判断に変わりはありません。ただ、アンケート調査や、特にマーケット指標などは、年明け以降の原油価格の一段の下落の影響などを受けて、このところ弱含んでいますので、このような動きを踏まえて公表文の表現を修正したということです。海外経済につきましては、特に先進国を中心として緩やかな回復は続いているのですが、新興国の中で減速している国があり、全体としては新興国を中心に幾分減速しているといった見方をしています。IMFがどういう見直しをされるのか分かりませんが、私どもの見方としては、海外経済については緩やかな成長は続いているけれども、新興国を中心に幾分減速しているということです。
§23Haruhiko Kuroda
その上で先行きについては、海外経済は先進国が堅調な成長を続けるとともに、その好影響が波及し、新興国も減速した状態から脱していくと考えられます。こういった先行きの見通しについては変えていません。
§24Question
消費税引き上げに関する質問です。最近の総裁のご発言を聞いておりますと、一昨年の秋と比べて、引き上げを見送った場合のリスクに対する言及が大分少なくなっていると言いますか、なくなっているという印象を受けるのですが、これはリスクの判断がこの間変わられたということなのか、あわせて改めてですが、物価安定目標の実現に来年の消費税引き上げが妨げとなる可能性についてどうお考えになるか、聞かせて下さい。
§25Haruhiko Kuroda
消費税率の引き上げ自体については、政府・国会が決められることであって、中央銀行として何か特別なことを申し上げる立場にはないということは、従来から申し上げている通りです。その上で、消費税率を引き上げた場合の影響については、前回の展望レポートでも示されています。2014年4月に、3%、全ての消費財・サービスについて引き上げられたわけですが、その時と比べますと、2017年4月の消費税率の引き上げ幅は、3%ではなく 2%であるということや、食料品については、軽減税率が適用されることなどから、経済への影響は半分強くらいになると考えています。展望レポートをご覧になって頂きますと、数字が出ており、そのインパクトが示されています。私どもとしては、政府・国会でそのように財政運営を行うことが決められていますので、それを前提にして経済見通しを作り、金融政策の決定をしているわけです。直近の展望レポートの文章や、政策委員の見通しの通り、そのように消費税率の引き上げが行われるもとで、成長率は、2016年度と比較すると 2017年度はかなり低下するわけですが、プラス成長を維持する見通しであり、消費者物価については、2017年度の前半頃に 2%程度に達する可能性が高いと記述されているところです。
§26Haruhiko Kuroda
引き上げない場合のリスク云々につきましては、特に私から申し上げる立場にはありませんが、財政の持続可能性については、政府もよく考えておられて、2020年度までにプライマリー・バランスを黒字化するという財政健全化の目標と、経済成長の両方を達成するということで進んでおられますので、私は財政の健全化、財政の持続可能性の確保という点はしっかりと維持されていると思っています。
§27Question
明日は春闘の集中回答日です。前年の 2.3%くらいの賃上げはなかなか難しそうな状況ですが、ここまで事ある毎に「賃上げを」ということだったのですが、この現状をどう受け止めていらっしゃるのか、お聞かせ下さい。もう1 つ、デフレについてお聞きしたいのですが、前回マイナス金利導入の際には、デフレマインドが顔を出すおそれがあったということだったと思いますが、将来的にはそういうものがなくなるために、マイナス金利を導入したと思います。足許はまだ厳しい、こびり付いているデフレ状況にあるのかどうか、脱却に向けて遠い状況にあるのかについてお願いします。
§28Haruhiko Kuroda
まず、春闘につきましては、現在交渉中ですので具体的なコメントは差し控えたいと思います。日本銀行としては、従来から申し上げている通り、この金融緩和のもとで企業収益や雇用・賃金の増加を伴いながら、物価上昇率が次第に高まっていくという好循環を作り出すことを目指しています。この点、企業収益は過去最高水準まで増加していますし、労働市場も引き締まりが続くなど、賃金が上昇していく環境は十分整っていると考えています。こうした環境を踏まえた賃金の設定が行われることを期待しています。後者の質問につきましては、デフレというのは「持続的な物価の下落」と言われています。現状、持続的に物価が下落する状況にはなっていません。特に、生鮮食品とエネルギー品目を除いた消費者物価の前年比は、28 か月連続でプラスが続いており、足許ではプラス 1%を上回るところまで来ています。デフレといった状況にはないと政府も言っていますし、私どももそう思っています。ただ、私どもとしては、やはり色々な考慮から2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することを目的としています。この 2%というのは、世界の先進国のほとんどの中央銀行が設定している物価安定目標でもあります。この背景には、消費者物価指数等がやや実態よりも高めに出てくるということも考慮しています。
§29Haruhiko Kuroda
また、ある程度の糊代というか、デフレに陥って金利が0 あるいは一部マイナスというような状況では、伝統的な金融政策、すなわち短期金利の操作だけで行うことは非常に難しく、非伝統的な金融政策を活用せざるを得ない状況になるわけです。色々な配慮から先進国の中央銀行は 2%の物価安定目標を立てて、それに向けて最大限の努力を払っているということです。日本銀行も同様ですので、足許デフレの状況でないことは事実ですが、私どもとしては、あくまでも 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するということを目的として、引き続きこの「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を推進してまいりたいと思っています。
§30Question
マイナス金利導入についてお伺いしたいのですが、導入当初、金融機関がシステムの対応ができておらず、今もまだ対応しきれていないという話も聞きます。他にも金庫が売れたりですとか、マイナス金利政策自体への理解がそう深くないことから、想定外のことも起こっていると思います。もう少し準備をする期間があってもよかったのではないかという意見もありますが、総裁はどうお考えでしょうか。
§31Haruhiko Kuroda
確かに、マイナス金利政策は、わが国で初めてでありまして、その対応に色々な事態が生じているということは私どももよく認識しています。その上で、ご案内の通り、マイナス金利の適用が開始された 2月16日以降の短期金融市場の動向をみますと、翌日物の無担保コールレートは、17日以降、マイナス金利での取引が行われるようになっておりますし、加重平均金利も概ねマイナスで推移しています。また、翌日物のレポ金利についても、マイナス圏で推移しています。そうした中で、取引ボリュームについてみますと、無担保コール市場では、2月16日に大幅に減少した後、緩やかに増加してきていますが、確かに、まだ元の水準には戻っていません。この点、マイナス金利の適用が始まってまだ 1 か月であって、ご指摘のような実務的な対応が完了していない金融機関があることも、取引ボリュームが低水準であることの背景の1 つと承知しています。もっとも、こうした点は、今後時間の経過とともに着実に対応が進んで、マイナス金利での取引が拡がっていくと考えています。事前に、金融機関にマイナス金利の場合の対応策を検討して頂くことは、なかなか金融政策の運営上難しいと思いますが、導入が決定されたのが 1月末の金融政策決定会合で、実際にマイナス金利が準備預金の一部に付き始めたのが 2月16日以降ということで、一定の対応はできていると思います。
§32Haruhiko Kuroda
しかし、おっしゃるようにまだ十分対応ができていない金融機関があることは事実ですので、今後ともよく金融機関とは対話をしつつ、必要なアドバイスもしてまいりたいと思っています。
§33Question
黒田総裁が就任されて 3年経って、その間に金融緩和を3 回行われたわけですが、私の理解では、一部とはいえ内容を撤回されたのは今回が初めてではないかと思います。MRFについてマイナス金利を適用しないということですね。先程、マイナス金利は幅広くプラスの影響をもたらすと、国民各層に幅広くプラスの影響をもたらすとおっしゃいましたが、必ずしもそうではないからこそ撤回されたのだと思います。そこで質問なのですが、なぜ 1月29日の会合でマイナス金利を適用したときに既にやっておかなかったのか、その理由としては、そこまで検討する時間も余裕もなかった、いわば拙速だけどやってしまったという理由なのか、それとも思ったより金利がこんなに下がってしまって、ややびっくりした、あるいは国民各層からこれほど批判が出るとは思わなかったので、やっぱりちょっと引っ込めておこうと、それらの中のどれかなのではないかと思うのですが、どういう理由から 1月29日にやっておかなかったのかということがまず 1 点です。次に、このように一部とはいえ撤回し始めると、例えば地方銀行であればメガよりも経営基盤が弱い、だからやめてくれ、あるいは信用金庫なども同じようなものだと思います。
§34Question
そういう各層からの撤回要望など出てくれば、その度に対応するのか、マイナス金利を掘っていけば一段とそういう声が強まってくると思うのですが、個々に対応していくのか──まるで消費増税に対する軽減税率の政治の迷走をみているような気もするのですが──、そういうことになるのかどうか。最後に、ここまで色々な方がおっしゃっているように、国民各層にはやはり不評だと。ただ、不評であっても日銀1 人、日本の中で日銀1 人がこれは良いものだと信じていれば、国民の支持がなくともマイナス金利をより深堀りしていくなど金融緩和をやっていくのであると、そのようなお考えなのかどうか、この 3 点お願いします。
§35Haruhiko Kuroda
まず第 1 点については、ご指摘のいずれも当たらないと思います。私どもは、MRFについて、何がしかの影響が出る可能性があるということは考慮しており、その際どのような対応が必要かということも考慮していました。その上で、具体的にマイナス金利が適用になった後に、関係する業界団体等から様々な陳情、あるいはご意見がありまして、そういう方々と十分議論した上で、適切な対応をしたということです。従いまして、これは「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」をより円滑に実施するために行ったものであり、撤回したとかそういうものでは全くありません。それから、他への波及云々ですが、先程始めに申し上げた通り、MRFは個人の株式投資など、証券取引において決済機能を担っているということでありまして、今回の措置はこうした実情にかんがみて、昨年の残高を上限に 0%を適用するマクロ加算残高の対象としたものです。今回の措置によって、ポートフォリオ・リバランスがよりしっかりと進展していくということを期待しているものであり、他の事情とは全く異なっていると思っています。最後の点につきましては、これも先程申し上げたように、マイナス金利というものはわが国では初めての経験でもありますので、様々な声が聞かれていることは認識しています。
§36Haruhiko Kuroda
先程申し上げたように、金利が明確に低下しており、貸出の基準となる金利、あるいは住宅ローン金利もはっきり低下しています。金利面では政策効果は既に現れており、その効果が、今後、実体経済や物価面にも波及していくと考えています。そうした下で、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」についての評価もポジティブなものとして定まっていくと考えています。
§37Question
実体経済で伺いたいのですが、海外経済、世界経済については、減速は一時的だというご指摘だと思うのですが、これは長期化するリスクはないのでしょうか。特に、世界的に長期停滞論のような考え方がありますが、従来、総裁はそういう考え方には与さないということだったと思いますが、そこは変わらないのか、お願い致します。
§38Haruhiko Kuroda
2 つの異なる視点が入っていると思います。1 つは、典型的にはIMFが半年毎に――最近はもっと頻繁に改定をしていますが、基本的に年2回――世界経済に対する見通しを出しています。それは、あくまでもごく短期的な経済の見通しであり、半年毎にその後の状況を踏まえて改定されています。そうした下で、今後IMFがどのような見通しを出すのか私どもは承知していませんが、私どもの海外経済についての見方は先程来申し上げたところであり、現状、緩やかな成長が続いていますが、新興国を中心に幾分減速しており、その上で、先行きについては、先進国が堅調な成長を続けるとともにその好影響が波及して、新興国も減速した状態から脱していくと考えています。それとはまた別な話として、サマーズ教授が主張されて、最近色々なコンファレンス等で話題になっている長期停滞論というのは、もっと長期の話です。確かサマーズ教授は、リーマン・ショック後に米国の潜在成長率が下がったのではなく、もっと前から下がっていると言っておられます。ですから、リーマン・ショックで金融的な問題があったので、その影響からの回復が遅れるという議論とも違っています。
§39Haruhiko Kuroda
この点は、先程申し上げた短期的な経済見通しがどのように変わっていくかということとまた別な話で、長期停滞論がサマーズ教授によって言われていることは事実ですが、現時点で通説的に多くのエコノミストが支持しているというわけではないと思います。まだ色々と議論があるところだと思います。私どもの当面の金融政策との関係では、IMFが半年毎に示しているような足許と1年半先ぐらいの経済についてどうかということです。足許の経済および先行きの経済の状況についての私どもの見方は、先程申し上げた通りです。
§40Question
日本銀行がマイナス金利という日本で初めての政策を導入されて、金利市場にはすぐにもう効果が出ているが、まだ実体経済や物価には少し時間がかかるかもしれないということをおっしゃっています。ただ、今日の声明文などに見られるように、経済の中にリスク──海外が主ですが──がまだあるわけで、効果を見極められないまま、追加緩和をしなければいけない時でも、やはりそこは追加緩和ということになるのでしょうか。もう 1 点、今日の声明文の中で、「量」・「質」・「金利」の次元で、必要があれば追加的措置を講じるとはっきりおっしゃっていますが、1月の時に「必要であれば金利をさらに引き下げる」とはっきり書いておられました。その違いが市場の方で話題になっているようなのですが、その点について、金利も必要であれば引き下げることなのか、ご確認させて頂ければと思います。
§41Haruhiko Kuroda
金融政策の効果については一定のタイムラグがあると言われていますが、そういうものがあるからと言って、その効果がフルに分かるまで常に待っていなくてはいけないというものでもないと思います。それは、その時その時のリスクの状況次第であって、この公表文の通り、「今後とも── 『今後とも』いうのは今後の金融政策決定会合においてですが──、経済・物価のリスク要因を点検し、『物価安定の目標』の実現のために必要な場合には、『量』・『質』・『金利』の3 つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じる」ということであり、これ以上でもこれ以下でもないということです。「3 つの次元で」というのと、前の言い方と違うではないかということについては、私どもの考え方は全く変わっていません。同じです。要するにマイナス金利というものを導入することによって、3 つの次元──「量」・「質」・「金利」──で、追加的な措置が可能であるという状況を作ったということです。おそらくマイナス金利というものが初めてのものだったので、この3 つの次元で追加的な措置を講じられるということは、当然「量」でも「質」でも「金利」でもあり得るということでありますけれども、新しく「金利」という次元を入れたので、その点を念のために断ったわけです。私どもの考え方は全く変わっていません。
§42Question
本日の公表文を見ると、先程から言われているように「下振れ」だとか、「リスク」だとか、予想物価上昇率も「弱含んでいる」など、見方によっては4月の展望レポートで追加緩和があってもおかしくないような文章かと思います。1月のマイナス金利を決めた時点で、先行きのある程度のリスクや悪化を想定されていたかと思いますが、本日の文章のベースとなっているのは、主に 1月の指標かと思います。2月の経済指標が公表されるのはこれからだと思いますが、2月の金融市場は結構動揺があったかと思いますので、2月の数字はそれ程改善しない、あるいは、一方で悪化しても、大体それはほぼ想定範囲内に収まるとの理解でよろしいのでしょうか。
§43Haruhiko Kuroda
公表文を見て頂くとお分かりのように、第 2 パラグラフで「わが国の景気は、新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けている」となっておりまして、「輸出・生産面に鈍さがみられるものの」という文言が入ったわけです。その意味で、足許の状況を踏まえた若干の修正になっています。他方で、第3 パラグラフで、先行きについては、「先行きのわが国経済については、当面、輸出・生産面に鈍さが残るとみられるが、家計、企業の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、国内需要が増加基調をたどるとともに、輸出も、新興国経済が減速した状態から脱していくことなどを背景に、緩やかに増加するとみられる」、そして次の文章で「このため、わが国経済は、基調として緩やかに拡大していくと考えられる」との先行きの評価をしていますが、この文章は前の展望レポートの時と変わっていません。つまり、足許で輸出・生産面の鈍さ等から、新興国経済の減速の影響がはっきりしてきたので、その点は足許の評価に入れつつも、先行きについては、「わが国経済は、基調として緩やかに拡大していくと考えられる」というところが変わっていないわけです。以上