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日本銀行記者会見2016年4月28日黒田東彦, 総裁

総裁定例記者会見(2016年4月28日)要旨

全文

§1Question

本日の金融政策決定会合の結果について、物価目標の達成時期の見通しを後ずれさせる一方で据え置きとした理由を、展望レポートの内容も踏まえてご説明下さい。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 80 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。資産買入れに関しては、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。政策金利に関しては、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に対し、引き続き-0.1%のマイナス金利を適用することを賛成多数で決定しました。本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、先行きの経済・物価見通しと金融政策運営の基本的な考え方について説明します。まず、わが国の景気ですが、新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けています。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、緩やかな成長が続いていますが、新興国を中心に幾分減速しています。そうしたもとで、輸出は、足許では持ち直しが一服しています。国内需要の面では、設備投資は、企業収益が高水準で推移するなかで、緩やかな増加基調にあります。個人消費は、一部に弱めの動きもみられますが、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移しています。この間、住宅投資は、昨年までの着工動向を映じ、このところ持ち直しが一服しています。

§3Haruhiko Kuroda

以上の内外需要のもとで、鉱工業生産については、横ばい圏内の動きが続いていますが、足許では、地震による影響もみられます。3月短観の結果をみますと、企業の業況感は、総じて良好な水準を維持していますが、新興国経済の減速の影響などから慎重化しています。一方、金融環境については、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の効果のもとで、極めて緩和した状態にあります。先行きについては、当面、輸出・生産面に鈍さが残るとみられますが、家計・企業の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、国内需要が増加基調を辿ると考えられます。輸出も、新興国経済が減速した状態から脱していくことなどを背景に、緩やかに増加するとみられます。このため、わが国経済は、基調としては、潜在成長率を上回る成長を続け、緩やかに拡大していくと考えられます。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、 0%程度となっています。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば全体として上昇しているとみられますが、このところ弱含んでいます。先行きについては、消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面 0%程度で推移するとみられますが、物価の基調は着実に高まり、「物価安定の目標」である 2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。

§4Haruhiko Kuroda

この間、原油価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、エネルギー価格の寄与度は、現在の-1%強から次第に剥落していきますが、2017年度の初めまではマイナス寄与が残ると試算されます。この前提のもとでは、消費者物価の前年比が、「物価安定の目標」である2%程度に達する時期は、2017年度中になると予想されます。その後は、平均的にみて、2%程度で推移すると見込まれます。今回の 2017年度までの見通しを従来の見通しと比べますと、成長率については、海外経済の減速に伴う輸出の下振れなどの影響から、幾分下振れています。物価見通しは、成長率の下振れや賃金上昇率の下振れなどにより、2016年度について下振れています。この間、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入によって、国債金利は大幅に低下しており、貸出の基準となる金利や住宅ローン金利もはっきりと低下するなど、政策の効果は、金利面では既に現れています。今後、その効果は、実体経済や物価面にも着実に波及していくものと考えられます。もっとも、こうした効果の波及には、ある程度時間が必要であるほか、現状では、国際金融市場において、新興国や資源国の経済の先行きに関する不透明感などから、不安定な動きが続いているもとで、前向きな変化が現れにくい状況にあります。

§5Haruhiko Kuroda

このため、今回の会合では、政策効果の浸透度合いを見極めていくことが適当であると判断しました。もとより、世界経済の先行き不透明感が強いもとで、わが国の経済・物価の下振れリスクは引き続き大きいとみています。今後、毎回の決定会合において、経済・物価のリスク要因を点検し、その上で物価安定の目標の実現のために必要と判断した場合には、躊躇なく、「量」・「質」・「金利」の3 つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じます。なお、展望レポートについては、佐藤委員・木内委員から、消費者物価が見通し期間中には 2%程度に達しないことを前提とする記述の案が提出され、否決されました。最後になりましたが、このたびの熊本地震によって犠牲となられた方々に哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げます。今回の決定会合では、熊本地震の被災地の金融機関を対象に、復旧・復興に向けた資金需要への対応を支援するため、被災地金融機関支援オペ等の措置を導入することを決定しました。この措置が復旧・復興を後押しすることを期待しています。

§6Question

熊本地震が日本経済や地域経済に与える影響について、現時点でどのようにご覧になっているかお聞かせ下さい。

§7Haruhiko Kuroda

日本銀行としては、銀行券の円滑な供給あるいは資金決済に万全を期すとともに、地震の経済的な影響についても、現在、情報収集に努めています。地震発生後、現地では、輸送機械やIT関連の工場で部品の生産を一時停止するといった動きがみられています。また、道路など物流インフラにも被害が生じています。そうしたもとで、地震の影響がサプライチェーンに及んでいる模様です。ただ、新幹線が復旧するとかあるいは高速道路もまもなく復旧するといった形で、インフラの被害については復旧されつつあると思っております。今回の地震が地元経済や日本経済全体に与える影響については、引き続きよく調査してまいりたいと思っています。

§8Question

最近、内外でヘリコプターマネーに関する議論が若干盛り上がっています。先日、国会でも総裁は全く考えていないとおっしゃいましたけれども、この全く考えていないというのはマイナス金利の導入直前にもおっしゃっていました。これと同じような意味で全く考えていないということなのか、それとも何か本質的な違いがあるのか、3 つの次元でと先程おっしゃいましたけれども3 つの次元以外はあり得ないのか、この点についてお願いします。

§9Haruhiko Kuroda

いわゆるヘリコプターマネーというものは、金融政策と財政政策を一体として運営するというものですけれども、わが国を含む先進国では、歴史的な経緯あるいは経験を踏まえて、財政政策は政府・国会がその責任において行う一方、金融政策は独立した中央銀行が行うという考え方が確立しています。つまり、ヘリコプターマネーというものは、わが国の現行の法制度のもとでは実施することはできないと思っています。なお、金融政策に限界があるとは考えておりません。今後も2%の「物価安定の目標」の実現のために必要と判断すれば、先程申し上げたように、躊躇なく、「量」・「質」・「金利」の3 つの次元で追加緩和をするつもりです。

§10Question

今回、物価目標の達成時期の先送りがあり、これはその都度色々な理由があると思うのですが、これで4 回目になります。約束が守られずに先送りを繰り返している状況にあるわけですが、総裁としてこの件の責任について、どのようにお考えでしょうか。もう 1 点は、今回の会合前に金融機関への貸出金利をマイナスにすることを検討するという報道がありましたが、総裁はこうした案についてどのようにお考えでしょうか。また、今回の会合で、実際にこの案について検討した、あるいはどなたか委員の方から検討に値するとか、意見が出たのでしょうか。

§11Haruhiko Kuroda

まず、2%の「物価安定の目標」の達成時期が幾分遅れて、従来の「2017年度前半頃」から「2017年度中」に後ずれした理由については、展望レポートで示されている通りです。日本銀行としては、ご案内の通り、本年の1月に既に金融市場が世界的に不安定な状況のもとで、企業コンフィデンスの改善や人々のデフレマインドの転換が遅延して、物価の基調に悪影響が及ぶリスクが増大していることを踏まえて、そうしたリスクの顕在化を未然に防ぐという観点から、 2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するために、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を決定しました。その後の状況をみますと、確かに企業の業況感が、新興国経済との関連で慎重化している向きもありますが、依然として企業は過去最高水準の収益を上げています。また、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」に伴う実質金利の一段の低下効果もあり、直近の短観で示されている通り、前向きな投資姿勢が維持されています。

§12Haruhiko Kuroda

個人消費も一部に弱めの動きはみられると申し上げましたが、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移しており、これも先程申し上げたように、春闘における3年続きのベースアップもありますし、労働需給の引き締まりを背景に、中小企業においても賃上げの動きが広がっていますので、基本的に所得から支出への前向きな循環メカニズムというのは、家計・企業の両部門で持続していると考えています。特に、企業収益から雇用者所得への波及というものが維持されており、賃金の上昇を伴いつつ物価上昇率が緩やかに高まっていくというメカニズムは、着実に作用していると考えています。従って、わが国の経済は、基調として潜在成長率を上回る成長を続けて、そのもとで物価の基調が着実に高まり、消費者物価の前年比が 2%に向けて上昇率を高めていくと予想しています。冒頭申し上げた通り、成長率が幾分下振れして、賃上げも1月に想定していたよりも若干下振れしたということ等を背景にして、2%の達成時期が若干後ずれしたということは事実ですが、これはあくまでも経済見通しですので、直近までのあらゆるデータを分析して、最も適切な見通しを作ったということです。

§13Haruhiko Kuroda

一方で、2%の「物価安定の目標」を 2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現するという強いコミットメントは続けていますし、この展望レポートにもあるように、2%の「物価安定の目標」は十分達成できると考えています。2 番目のご質問で、マイナス金利で日本銀行が金融機関に貸し付けることについてどうかということですが、これはご案内の通り、ECBが3月に採用した緩和措置の中に含まれているものですが、今回こういったことについて議論したということはありません。

§14Question

今の質問とも多少関連しますが、2 点お伺いしたいと思います。物価2%の達成時期の先送りですが、これまでの 3 回の先送りは全て原油価格の下落を大きな理由としていました。今回は、一方で需給ギャップの縮小の遅れであり、もう一方は総裁が重要視されていた賃上げの遅れなわけで、これまでの3 回とは質が違うのかと思います。それにもかかわらず、追加緩和に動かれなかったということは、早期に 2%を達成するというこれまでの姿勢が変わってきたのではないかという印象も持ちますが、そのようなことでよろしいのか、お考えをお聞かせ頂きたいというのが 1 点です。もう 1 つが、今回動かなかったということで、銀行だとか経済界からもマイナス金利に対する色々な批判がありますが、マイナス金利の拡大に動きにくくなっているのではないか、緩和カードが尽き始めているのではないかという観測もあるかと思います。それに対してどのようにお考えなのか伺いたいと思います。

§15Haruhiko Kuroda

前の点につきましては、2%の「物価安定の目標」の達成時期について、後ずれしてきたことの最大の理由が原油価格の大幅な下落だったことはその通りでありまして、そのように説明してきました。今回、1月の見通しと比較した場合に、先程申し上げたように、海外経済の減速に伴う輸出の下振れなどから、成長率が若干下振れたということと、今春の賃金改定交渉の動向を踏まえると、賃金上昇率の見通しが1月の時点よりも若干下振れていることが影響しているわけです。ただ、その背景には、やはり原油価格の低迷であるとか、新興国、資源国の経済の減速であるとか、そういったことが影響していたということもあると思います。ここでの説明は、あくまでも1月時点との見通しの違いを具体的に申し上げたということです。私どもの 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現する、そのためにできることは何でもやるという姿勢に全く変化はありません。それから 2 番目の点ですが、マイナス金利についての金融機関その他の批判によって、マイナス金利をさらに引き下げることが難しくなったというようなことは全くありません。

§16Haruhiko Kuroda

必要があれば、まだまだいくらでもマイナス金利を深掘りすることができると思いますし、先程申し上げたように、2% の「物価安定の目標」の早期達成のために、必要になれば躊躇なく「量」・「質」・「金利」の3 つの次元で追加的な緩和措置を講ずるということに変わりはありません。

§17Question

先程の総裁のご説明の中で、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の効果が出るまでにはある程度時間がかかるし、前向きなものが表れにくい理由として、新興国経済が不安定だということをご指摘になっていました。今回の見通しだと、2016年度には0.5%くらいに物価が上がらないといけないので、今の状況を考えると今年度の半ばくらいから物価が上がっていかないと、なかなか均して 0.5%というのは難しいのではないかと思います。いつになったらマイナス金利の効果が出てくるのかという点、またそれを阻んでいるものは海外要因が非常に大きいという理解でよいのかどうかについて、お聞かせ下さい。

§18Haruhiko Kuroda

マイナス金利に限らず、金融緩和は、基本的には金利、特に実質金利を引き下げて、それが投資や消費にプラスの影響を与えるということを目的とした政策ですが、実質金利が下がっていることは間違いありません。それもかなり下がっています。従いまして、これが設備投資、住宅投資その他、国内需要にプラスに効いてくるというのは間違いないと思うのですが、それまでの間、若干のタイムラグがあるということは、従来、認められていることです。どのくらいかというのは、具体的に申し上げるのはその他の事情にも関連しますので、難しいです。1、2 か月ですぐに出るということではなくて、もう少しかかると思いますが、半年も 1年もかかるということではないと思っています。いずれにしましても、重要なことは、これだけ実質金利が下がって、短観をみても、企業からみた金融の緩和の度合いは非常に大きくなっていますし、また金融機関の貸出の姿勢も積極化しているということであり、それは必ずや実体経済に波及していくとみています。

§19Question

本日、政策発表後に株価、為替が大きく円高株安に振れました。市場は追加緩和を相当期待していたようですが、この辺りについてどうご覧になっていますでしょうか。

§20Haruhiko Kuroda

私どもの金融政策は、あくまでも経済の状況をつぶさに点検して、「物価安定の目標」の達成のためにどのような金融政策が最も適切か、ということを議論して決定します。特に今回は展望レポートを決定しましたので、前回の1月の展望レポートからみて、3 か月後の今日に至って、どのようなことになっているかということをつぶさに点検し、冒頭に申し上げたような考え方で今回は「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の実体経済への効果の浸透を見極めるということで、金融政策の現状維持ということにしました。ただ、これも冒頭で申し上げた通り、毎回の金融政策決定会合で経済状況をつぶさに点検して、どのような金融政策が最も適切かということを議論しますので、必要があれば躊躇なく「量」・「質」・「金利」の3 つの次元で追加緩和を行うという考え方に全く変わりはありません。

§21Question

マイナス金利の効果についてお伺いします。今後実体経済に効いてくると再三ご指摘されていますが、今回の展望レポートでマイナス金利の効果を皆さん織り込んで作られたと思うのですが、それでも経済・物価の見通しは少し下振れているという状況になっています。これはやはり、マイナス金利の効果が十分ではない可能性もあるのではないかと思いますが、この点についてはどうお考えでしょうか。また、先程も質問が出たマイナス金利の貸出について、今回の会合では議論されなかったということなのですが、今後メリット・デメリット等踏まえて導入される可能性についてはどのようにお考えでしょうか。

§22Haruhiko Kuroda

まず、最初のご質問については、この展望レポートでも詳しく示している通り、新興国あるいは資源国経済の減速を中心として世界経済全体が1月にみていたよりも減速しています。そうした中、足許の輸出や生産が横ばい状態であるといったことを詳しく述べています。そうしたもとで、先行きの見通しを変えたわけですが、成長見通しは足許幾分下振れているものの、非常に大きく下振れたわけではありません。また当然、委員の方々は「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の効果を勘案しつつ見通しを出されていると思います。従いまして、見通しが今回下振れたから「マイナス金利付き量的・質的金融効果」は効果がないということでは、全くないと思います。マイナス金利での貸出につきましては、先程申し上げたようにECBが導入したということはよく存じ上げていますけれども、 ECBにはECBの事情があるわけでして、現時点で私どもがそういうことを考えているということはありません。今回の会合でも議論になったことはありません。

§23Question

先程の質問とも少し重複するのですが、マーケットがこれだけ荒れるということが毎回のようにあるというのは、どのように考えていらっしゃるのか、つまり、市場との対話という意味では、かなり課題があるのでないかと思うのですが、その辺りについて、総裁は、今後どうされていくのかも含めて教えて下さい。もう1 点は、今回、物価上昇率の達成時期を先送りしながら据え置きということで、これも非常に分かりづらいところはあると思いますが、先般ワシントンでG20があり、通貨安政策について牽制する発言が各国首脳から相次いだと思います。そういったところも今回の議論に影響があったのかどうか教えて下さい。

§24Haruhiko Kuroda

第 1 に、市場との対話は非常に重要であると思っていますが、金融政策はあくまでも毎回毎回の金融政策決定会合において委員全員が経済の状況についてつぶさに点検したうえで、次回の金融政策決定会合までの金融政策がどうあるべきかを決めています。そういう意味では、私どもの市場との対話が特に問題があるとは思っていません。それから、物価 2%の達成時期が後ずれした一方で金融政策を据え置いたことについては、縷々申し上げています通り、まずは本年1月に既に、いわば英語でいう preemptive(予防的)に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入しました。そうしたもとで家計・企業の両方において、所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続していますし、企業収益から雇用者所得への波及というものも維持されています。賃金の上昇を伴いながら物価上昇率が緩やかに高まっていくというメカニズムは着実に作用していると考えています。その上で、この「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の効果──これは金利面では既に現れています──が、今後実体経済や物価面に着実に波及していくと考えられます。こうしたもとで、今回の会合では、政策効果の浸透度合いを見極めていくことが適当であると判断したということです。

§25Haruhiko Kuroda

今後も毎回の金融政策決定会合において経済を全体としてよく点検して、その次の会合までにどのような金融政策をとるかを決定していくものであり、先程来何度も申し上げているように、必要と判断すれば躊躇なく追加的な緩和措置を講じるという考え方に変わりはありません。それからG20の会合等に私も参加していましたが、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」──ECBの場合も同様でマイナス金利そして量的・質的な金融緩和を行っているわけですが──、そうしたものに対して批判的な意見はまったく聞かれませんでした。G20のコミュニケでも為替の競争的切り下げというのはよくないということは言っていますが、一方で金融政策は国内政策目標に沿って運営されるということも言っています。私どもの金融政策もあくまでも「物価安定の目標」の達成のために行われているということについて、十分理解が得られていると思いますし、今後とも必要があれば躊躇なく3 つの次元で追加的な措置を取るということも申し上げて、特に反論のようなことはありませんでした。

§26Question

マイナス金利で収益が悪化する懸念のある銀行から、根強く、マイナス金利に対する批判、あるいは懸念というものが示されていますが、こういった声に改めてどうお応えになるかという点と、こうした金融機関の痛みを緩和するという観点から、貸出金利のマイナス金利適用は検討に値するとお考えになりますでしょうか。

§27Haruhiko Kuroda

基本的に、今回の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の金融機関収益への影響については、2 つ申し上げたいと思うのですが、1 つは例の 3層構造で、マイナス金利自体の直接的な収益への影響というのは非常に小さいということです。もう1 つは、「量的・質的金融緩和」と同じく、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」も、国債のイールドカーブ全体を下げて、それが企業や家計に対する金融機関の貸出金利を下げることを狙ったものであり、その通りになっていますので、当然それによる経済効果を期待しているわけです。いかなる金融緩和であっても、特にイールドカーブ全体を下げていく、あるいは貸出金利を下げていくということですので、金融機関の貸出に伴う業務純益、収益については、下押し圧力が加わることは同じです。ただ、そういうことを通じて、経済全体が回復し、物価も目標に向かって上昇することになれば、当然のことですが、金融機関の業務純益も本格的、持続的に改善していきます。このように、まず「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の直接的な収益への影響は最小限になっている上、貸出金利が全体として下がっていくことを通じて、経済全体が回復し、それによって長期的・持続的に金融機関の収益も本格的に改善していくということです。

§28Haruhiko Kuroda

金融緩和した時点で、そこだけを取りますと、業務純益に影響が出るということは、これはマイナス金利であろうとなかろうと、皆同じです。ちなみに、過去3年間の「量的・質的金融緩和」の中で、貸出金利はずっと下がってきていますので、業務純益は確かに低下してきていますが、その一方で金融機関は全体として大手行も地域銀行も非常に高い収益をこの 3年間連続して上げてきています。その背景には、景気が回復して、信用コストが低下したとか、有価証券等への投資の収益が増えたということもあったと思います。いずれにせよ金融緩和の中で貸出金利が下がること自体が、収益にマイナスの影響を及ぼすことは事実ですが、過去3年の状況をみると、その中で実は金融機関の収益の状況は史上空前とまでは言えないまでも、歴史的にみてかなり高い水準を 3年間維持してきているということです。

§29Question

先週公表された金融システムレポートにおいて、国債市場の流動性が低下する可能性について指摘されていましたが、総裁自身として今後長期金利が乱高下するリスクや、あるいは国債が円滑に買いづらくなるリスクについてどのように評価していらっしゃるでしょうか。これまでは問題ないというスタンスだったと思いますが、多少なりとも変化は出てきているのか、その点をお聞かせ下さい。

§30Haruhiko Kuroda

今回の金融システムレポートの中でも、国債市場の市場流動性について触れた部分があり、以前と比べると、市場流動性が若干低下している指標が出ていることは事実です。そうした中で、特に短期の国債などで幾分金利変動幅が大きくなったことも事実です。しかし、現時点で何か乱高下して国債市場が非常に大きな影響を受けているとか、あるいは国債に対する需要が減ったとか、そういうことは全くありません。日本銀行の長期国債の買入れオペについても、何か障害が起こったということも全くありません。国債市場の状況については、常に市場関係者との対話を行っていますし、そういったことについての懸念があれば十分承っていきたいとは思っていますが、現時点で何か大きな問題が生じているとか、特に日本銀行の長期国債の買入れのプログラムについて何か障害が起こっているということは全くありません。

§31Question

マイナス金利の効果を今は見守ることが適当だと判断したということですが、やはり今の日銀としては、やる時は大きくやると、 incremental(漸進的)なステップはとらないということなのでしょうか。2 点目ですが、G20でも言われているように、全ての政策を総動員していこうということが言われていると思うのですが、日銀が今これだけやっている中で、総裁としては、ボールはどちらかというと政府側にあると、財政政策や成長戦略をもっとやるべきだということをお考えでしょうか。日銀の方で今潜在成長率に関して少し若干見方を下方修正したようなところもあれば、その点についてもお願いします。

§32Haruhiko Kuroda

incremental なことをやらないという、そういう言い方はしていませんが、「戦力の逐次投入はしない」ということは申し上げてきたわけです。それは、その時点で必要なことは全てやる、必要だけれどもとりあえず部分的にやっておいて、次回また必要があれば追加して、その次にまたちょっと必要があれば追加すると、そういった意味での「incremental」ということであれば、そういうことはしないということです。そのことは毎回の金融政策決定会合で、その時点で必要なことは何でもやるということに全く変わりありません。1 回やったら次回はなにもやらないとか、半年ぐらいは空けるとか、そういった考えは全くありません。ですから毎回の会合でその時点で必要があると判断すれば、躊躇なく追加的な措置を講ずるということです。それから、金融政策、財政政策、構造政策といった全ての政策を駆使して経済の成長、物価の安定というものを達成するということは、一般的に先進国、新興国問わず、G20で合意されたことですし、IMFCのコミュニケでも書かれていますので、IMF加盟国全体でも合意されているところです。そのもとで、それぞれの国の経済の実情に合わせて金融政策、あるいは財政政策、構造政策を行うということであると思います。

§33Haruhiko Kuroda

政府は一方で、2020年度までにプライマリーバランスを黒字化するという中期的な財政再建、財政健全化目標を堅持しつつ、経済の実情に応じて適宜弾力的に財政政策を行うと言っています。現に2015年度の補正予算も成立させ──これはGDPの 0.6%くらいに相当するわけですが──、その執行が急速に進んでいます。2016年度の予算も──これも史上最大規模の予算ですが──前倒し執行をするということです。財政政策として様々なことをやっておられると思っています。構造政策につきましては、わが国の場合は、色々な面で既に実施されたものもありますし、まだ現国会で議論がなされているものもありますし、今後さらに行われるものもあろうと思っています。いずれにしても、金融政策、財政政策、構造政策全ての政策の適切な活用によって持続的でバランスのとれた成長を確保するというのがG20の合意事項ですので、当然、日本としてもそのようにやっていくということになると思います。成長率については、現実の成長率と、いわゆる潜在成長率──中期的にバランスのとれた形で成長できる、基本的には供給側からみた成長率、成長力──があり、潜在成長率については、色々な推計方法があって日本銀行としても推計して示していますが、リーマン・ショック後、かなり低下して 0%台の前半にまで低下していました。

§34Haruhiko Kuroda

これは 1 つには、もちろん労働力人口の減少ということがあったわけですが、それに加えてリーマン・ショック後、設備投資が低迷していて、端的に言うと減価償却以下だったために潜在成長率への資本の貢献がマイナスになっていました。しかし、設備投資が最近行われるようになって、しかも最近の短観でみてもかなりしっかりした設備投資計画が保たれていますので、既にこの資本の貢献部分はプラスになってきていると思います。これは、今後さらにプラス幅が拡大していくであろうと思っています。労働力人口自体は引き続き減少していくと思いますが、労働時間は女性あるいは高齢者の就業率の上昇であるとか、あるいは非正規雇用の人が正規雇用になってフルタイムで働くようなことも起こりつつあります。潜在成長率への労働の貢献自体がマイナスからプラスになるところまでいくかどうかははっきりしませんが、少なくとも大きなマイナスではなくなる可能性は高いと思います。もちろん、最も重要なのは Total Factor Productivity(全要素生産性)という技術革新といったことであり、これは比較的維持はされていますが、少しずつ低下してきていましたので、これを中長期的に引上げていくことが極めて重要だと思っています。

§35Haruhiko Kuroda

この点は政府の成長戦略その他の中で相当強く意識されているところであり、私どもとしてもそういった政策が成功していけば、潜在成長率も上昇していくことになろうと思っています。ただ、足許では、潜在成長率は私どもの計算でも若干は上昇してきているようですが、政府が目標としている 2%というところまでは道は遠いというところだと思います。

§36Question

また銀行の話で恐縮ですが、金融政策を実施するに当たっては、金融機関は重要な役割を担っていると思います。そうしたところから公の場で、金融政策に対して批判があがることが健全な状態だとお考えかということと、「量的・質的金融緩和」の時は何も文句を言わなかった銀行が、収益に影響する状況は同じはずなのに、マイナス金利になって文句を言うようになったのはなぜなのかについて、総裁のお考えをお聞かせ頂けますか。

§37Haruhiko Kuroda

金融政策は、金融機関のためにやっているものではなく、日本経済全体のためにやっているわけです。そうした意味で、金融政策について、緩和であろうと引き締めであろうと、金融機関が賛成するか反対するかで、金融政策を決めるということはないわけです。ただそう申し上げた上で、金融機関の収益が過度に圧迫されますと、金融仲介機能が損なわれることになるおそれがあり、そうなると金融政策の効果が十分発揮されない懸念が生じます。そうした意味で、私どもは金融機関の金融仲介機能に常に焦点を当てて、それが十分機能しているかをよくみています。現時点では、金融機関の金融仲介機能が大きく影響されたとか、損なわれたというような状況には全くありません。また、2 番目の点は、おそらく先程来申し上げている通り、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」と「量的・質的金融緩和」は、基本的な経済への波及メカニズムでは違いはありません。基本的にイールドカーブ全体を引き下げて、金融機関から企業や家計への貸出金利を下げることで、実質金利を引き下げて投資を刺激して経済を刺激することであり、基本的な違いはありません。金融機関への影響の点からみても、先程来申し上げている通り、マイナス金利自体の直接的な影響は本当に最小限になっています。

§38Haruhiko Kuroda

この点、よく比較されるECBのマイナス金利は、ご承知のように、いわば根っこから、金融機関が中央銀行に預けている当座預金のうち超過準備に相当する額全部にマイナス金利を適用するものです。ECBは量的緩和を続けていますので、マイナス金利がかかる分がどんどん増えていき、金融機関の収益が直接的に影響されるのですが、わが国の場合は「マクロ加算残高」というゼロ金利の分を四半期毎に調整して、マイナス金利がかかる部分は常に非常に小さくしていますので、マイナス金利自体が金融機関の収益に与える影響は本当に最小限と言って良いと思います。その上で先程来申し上げている通り、「量的・質的金融緩和」であれ、あるいはそれ以前の金利を操作することによる金融緩和であれ、常に、緩和すると貸出金利は下がり、銀行の貸出に伴う業務純益が下方圧力を受けるという点では全く違いがありません。そうした中で、なぜ「量的・質的金融緩和」の時に反対がなく、今回「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」になって反対が一部ですが出てきたのかは、銀行の方に聞いて頂くしかありません。察するに 1 つは、マイナス金利はわが国では初めてのことであり、全く新しいことに対してどのように対応するかで、色々と悩んでおられるのかもしれません。

§39Haruhiko Kuroda

もう1 つは、もう少し実務的な意味で、コンピューターシステムその他がマイナス金利に直ちに対応できない金融機関もあったようで、そうした先はシステム等を修正するコストがかかりますし、マイナス金利を予定しないで貸していた貸出等について今後どうしていくか、事務的な手間が一定程度あり得るとは思います。ただいずれの話も、マイナス金利が始まって何か月か経ちますし、金融機関の対応も進んできていますので、現に、短期金融市場でもマイナス金利の取引がもう一般的に広がってきていますので、今申し上げたような意味では、反対の理由はだんだん薄れていくのではないかと思っています。

§40Question

過去の追加緩和時は物価見通しの下方修正と基本的にセットだったように思うのですけれども、それは物価が今後更に下振れるリスクを未然に防ぐという追加緩和の理由と非常に整合的だったように思います。しかし、今回は追加緩和を見送られたということで、過去の追加緩和時と何が異なるのかという観点でご説明をお願いします。

§41Haruhiko Kuroda

まず前段のことは、追加緩和と 2%の「物価安定の目標」の達成時期の後ずれが必ず一致していたということはありません。何度か後ずれさせていますが、追加緩和をしたのは 2 回だけです。それも、特に1月の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入に際しては、むしろ今後企業のコンフィデンスとか、人々のデフレマインドからの脱却が遅延するおそれがあるということで、そういうリスクに対応していわば先取りしてやったものです。見通しの下方修正とセットにして追加緩和するというものでは、そもそもこれまでもなかったわけですし、追加緩和というのは、先程申し上げたように色々な状況を点検して、2%の「物価安定の目標」の達成のために必要と判断したときに行うということです。それはあくまでも毎回の金融政策決定会合において議論した上で決められるものであるということだと思います。以上