木内審議委員記者会見(2016年6月23日)要旨
全文
§1Question
私からは、地元に関する質問に絞って 2 点ほどお聞きしたいと思います。1 点目は、先程の懇談会で、地元の金融経済界からどのようなお話が出たかということについて、 2つ3つくらい印象的なお話を教えて頂きたいと思います。2 点目は、石川県はじめ北陸 3 県は製造業が盛んな地域です。北陸新幹線開業で金沢などは観光で盛り上がっています。木内委員ご反対のマイナス金利政策に関して、これが北陸の今後の景気に与える影響についてどのようにご覧になるかというあたりを、マイナス面、プラス面あわせてお聞きしたいのと、マイナスとプラスどちらの方が大きいかということをお尋ねしたいと思います。
§2Takahide Kiuchi
それでは、ご質問頂きました第 1 の点につきまして、お話しさせて頂きたいと思います。ご質問にお答えする前に、まず、本日の金融経済懇談会では、地元の財界、金融界を代表される方々にご出席を賜りまして、地域経済の現状ですとか、金融政策運営に関する貴重なお話やご意見などを頂きました。その点、まず感謝を申し上げたいと思います。ご意見は非常に多岐にわたったわけでありますが、ご質問のようにその中で、やや印象深かったお話を、私なりに整理して申し上げたいと思います。まず、足許の景気情勢についてですが、昨年の北陸新幹線の開業以降、大幅な交流人口の増加に伴いまして、飲食、宿泊、運輸など幅広い業種の業況が改善しているほか、交通アクセスの改善もありまして、県外企業の支店や営業所の新設などの動きがみられており、全国の中でもトップクラスの景気情勢であるといったお話をお伺いしました。一方で、課題としては、若年層の県外流出などもあって、人手不足の問題が深刻化しており、これが、事業拡大の障害になっているといったお話もお伺いしました。こうした問題に対しては、大学など高等教育機関と地元企業の連携促進やクリエーターの誘致などによって魅力ある街づくりに取り組まれているといったお話もお聞きしました。このように、石川県の経済は足許良好な水準にあります。
§3Takahide Kiuchi
当地ならではの強みを活かしながらさらに成長していこうという力強い動きを確認することが出来たと思っております。本行のマイナス金利政策についても、色々ご意見を頂きまして、住宅ローンへの影響は幾分みられるものの、企業の設備投資への影響はほとんどみられていないといったお話が多く聞かれました。また、地元経済と密接に関係した地域金融機関の収益低下や年金生活者のマインドへの影響などを通じて、実体経済に悪い影響が出ないか懸念する声も聞かれました。こうしたご意見も伺いまして、我々としましては、石川県及び北陸地域の金融経済情勢について、金沢支店を通じて今後もきめ細かくモニタリングを続けるとともに、中央銀行の立場から経済の持続的成長の実現や金融システムの安定を図りながら、当地経済を支える関係者のご努力がより大きな成果へと繋がるようサポートして参りたいと考えております。第 2 のご質問でありますが、まず、本行としての景気の判断について簡単に申し上げたいと思います。当地石川県経済の現状につきましては、金沢支店が発表しております通りでありますが、「回復を続けている」と認識しています。企業の生産活動は、当地でウエイトの高い電子部品や医薬品などの最終需要が堅調であり、全体として高水準となっています。
§4Takahide Kiuchi
こうしたもとで、企業の景況感は総じて良好な水準を維持しており、設備投資は着実に増加しているほか、雇用者所得も人手不足感が強まる中で着実に改善しております。また、公共投資が北陸新幹線延伸工事の進捗などを反映して緩やかに増加しているほか、個人消費や住宅投資も雇用・所得環境の改善を背景に持ち直しております。先行きにつきましても、高水準の企業収益を起点とした、所得から支出への前向きな循環メカニズムが持続するもとで、回復基調が続いていくものと考えています。ご質問頂きましたマイナス金利の影響ということですが、金沢支店が公表している北陸短観の結果からみまして、企業からみた金融機関の貸出態度は一段と緩和しております。また、借入金利水準の判断も近年になく大幅な低下を示しております。したがって、金融環境は非常に良好なわけであります。こうした環境で実施されたマイナス金利政策ということでございますが、なかなか地域ごとの影響を分けて分析するというのは難しいわけでありますけれども、やはり一般論としましては、特に地域金融機関の収益に対して一段とマイナスの影響を与えるということは間違いないわけです。私は、マイナス金利政策は 1月の導入当初から反対を続けています。
§5Takahide Kiuchi
それは、マイナス金利政策のプラス面――需要を刺激するという面――はあるとはいえ、金融機関の収益悪化を通じて金融仲介機能を損なう、或いは国債市場の安定性を更に損ねてしまうという、2 つの副作用を考えますと、やはり副作用の方が効果を上回っているのではないかと考えているためです。これは、日本全体についての評価でありますが、おそらく当地においても、当てはまるのだろうと個人的には考えております。
§6Question
今程少し言及もございましたけれども、マイナス金利の作用と反作用の部分で、当地、北陸の金融機関に限っての分析はなかなか難しいというお話がありましたけれども、具体的に、例えば、収益性であるとか、リスク耐性であるとか、懸念すべき状況にあるのか、この先そういったことをかなり強く意識しなければならないような状況が起きつつあるとお考えなのか、その点のご所見を賜りたいと存じます。
§7Takahide Kiuchi
マイナス金利政策のプラス面としては、現象面としては金利の低下という形で現れてはいますけれども、例えばそれが貸出の増加に繋がっているのかと言いますと、今のところは貸出全体の増加率には大きな変化はみられないということです。これにつきましては、本日の会合での議論を踏まえますと、おそらく当地でも状況は同じではないかと思います。先程もご紹介致しましたが、住宅ローンでは、借り換えの動きが中心とはいえ、一部には新規の借入の動きが出ているということで、これから多少のプラス面の影響が出てくると思います。一方で、企業の設備投資については、既に非常に低金利が長く続いてきたということがございますので、我々のマイナス金利政策をきっかけに、企業の資金需要が非常に強まるということではないだろうと思います。これについては、懇談会で、色々と議論がございました。マイナス金利政策については、企業側のニーズとずれているのではないかというご意見も頂きました。つまり、企業にとって、今金利が高いことが問題、或いは必要な資金が借り入れられないことが問題で設備投資を控えているというわけではなく、まさに先行きの成長期待を欠いているということがその背景にありますので、金融政策だけで対応できる部分は、やはり限られてきているのではないかというご意見も頂いたのですが、私も全くその通りではないかなと思っております。
§8Takahide Kiuchi
当地は、比較的経済状況が良いわけですけれども、それでも設備投資意欲は比較的弱い。それについては、金利低下の限界的な効果が大分落ちてきているということと、企業が手持ちに多くの自己資金があるので敢えて銀行からの借入を増やすという動きに繋がってこないということだと思います。その大元を考えますと、やはり国内での成長期待が欠けているということなので、これに対して金融政策だけで対応していってもなかなか成果を上げられない。それ以外の施策と言いますか、財政或いは構造改革、更には懇談会の参加者の方からもっと規制緩和を進めて欲しいとのご意見も頂きまして、そういう幅広いバランスの取れた政策を行うことが、当地の経済状況が比較的良いとはいえ、更に経済状況が改善するために必要な策であり、マイナス金利政策がそこに大きく貢献するということには必ずしもならないのではないかなと思っています。
§9Question
2 つございます。マイナス金利とも絡むのですが、参院選で野党の方がマイナス金利撤回を公約に掲げました。自民党の方も、金融政策を 3年ぶりに初めて公約にメンションしないということになりましたが、この辺についてどうお考えか、総裁はコメントして頂けなかったのですけれども、もしかしたらこれは民意の反映ということで、ご所見があればお願いします。2 つ目は、今日の挨拶要旨の 9 ページ目の真ん中にマイナス金利の見直しを提唱されていると思うのですけれども、株式市場では、マイナス金利を撤回するだけで金融株が暴騰すると、引き締めか緩和かよく分からないけれども、結果的にはポジティブだという期待が相当高まっているのですけれども、こういった声が出ていることも踏まえて、マイナス金利が日銀の信認の低下に繋がっているというふうに批判されているということなのでしょうか。解説をお願い致します。
§10Takahide Kiuchi
第 1 の質問に関してですが、私もコメントを控えさせて頂きたいと思っております。第 2 の点についてですが、撤回したら金融株が上がるかどうかは分かりませんけれども、マイナス金利政策導入以降、金融機関の収益に与える影響に対して色々な懸念が高まったことは確かです。確かに業務純益だけをみますと比較的高水準ではあるのですけれども、いわゆる本業の部分の収益が長期的に縮小傾向をたどっているという中で、更にこのマイナス金利政策が導入されたということで、中核的な業務の収益環境が一段と厳しくなってきており、その結果として、損失の吸収力が大分落ちてきています。経済が比較的安定している間は、大きな問題にはならないのかもしれませんが、例えば、経済状況が悪化して、信用コストがかなり高まっていくという中で、資本が毀損されていくという時に、中核となる業務で収益が稼げないということになりますと、この一度毀損した資本を復元するのがなかなか難しいというような問題が起こってくると思います。そうすると、比較的今の時点では資本の水準が高いとしても金融機関を見る目、評価が厳しくなるということになりますし、金融機関側も、将来に備えるともっとリスクを回避しなくちゃいけないということになります。
§11Takahide Kiuchi
マイナス金利に対する金融機関の最初のリアクションとしては寧ろリスクを取るというふうに動く可能性はあると思いますが、一方で経済状況が厳しくなってくると、総じてリスクを回避する――例えば貸出を非常に慎重化するとか、或いは手持ちの金融資産を売却する――という形で経済・金融市場に悪影響を及ぼすという可能性もやはりあるのではないかなと思っています。金融市場はこういう点を評価した結果として、マイナス金利導入に対して、必ずしもプラスの評価をしなかった、その中に金融株の動きもあったと思います。ですから、撤回した時に、金融株がどうなるかというのは分かりませんけれども、私は、元の政策に戻すべきと主張している背景には、そういった政策の軌道修正によって、金融機関の収益或いは金融機関の経営に対する信任には、プラスの効果が戻ってくるのではないかなと思っていることがあります。
§12Question
今日の挨拶要旨の中で、金融政策についてのコミュニケーションが大事だという内容があったと思うのですけれども、具体的には、どういう情報発信をすると、信任が上がるとか市場の異常な期待が抑制できるとか、そういう効果をもたらせられるとお考えでしょうか。
§13Takahide Kiuchi
コミュニケーション戦略というのは、一種の政策決定とも関わってきますので、具体的にどういうことをせよというのは若干差し控えたいと思いますが、マイナス金利政策以降、コミュニケーションは一段と悪化したと思っています。それはやはり非常に予期せぬ政策が実行されたということが背景にありますので、これが問題だということです。つまり、市場にとって、先行きの金融政策に対する不確実性が非常に高まったということです。金融政策の予見性が低下し、不確実性が高まるということは、金融市場のボラティリティの上昇に繋がりますし、ボラティリティの上昇は金融政策の効果を削ぐ部分もあるほか、実体経済に悪い影響も与え、金融政策の信任を低下させるという面があります。そういう意味では、前回のマイナス金利政策のようなことを繰り返さないというのが 1 つ重要な点であります。それから、コミュニケーションの向上と言いますと、我々の政策意図をしっかり市場に伝えてくとか、我々の考えている目標、考え方をしっかり伝えてくなどという文脈で申し上げることが多かったのですが、挨拶要旨に書いてあるように、やはり双方向でなければならないと思います。通常、市場とのコミュニケーション向上は、我々の経済・物価見通しを示すということと、その経済・物価見通しと金融政策がどういう関係にあるのかという反応関数を示すこと、この 2 つが基本なのだと思います。
§14Takahide Kiuchi
我々が、2%の達成を目指します、2%の物価安定達成まで今の政策を続けますと言うと、表面的にはすごくクリアな政策反応関数を示しているようですが、一方で金融市場は 2%を達成しないと思っているわけです。そうすると、我々が達成するまで続けます、達成しない限り止めませんと言っていても、市場は達成できないと思っているため、達成できない時はどういう政策をするのかという答えがないと考えるわけです。そういう意味で、市場の認識、市場が考えている実現可能性とかなり乖離した目標、政策反応関数を示すということではコミュニケーションが成り立たない。双方向と申し上げましたのは、我々の政策運営或いは目標についても市場が考えていることに我々がある程度歩み寄っていくということが必要ではないかと思います。例えば、どういった物価環境が望ましいのか、企業・家計が考えている中長期的な物価の安定とはどういう状況なのかというのは、中央銀行よりも民間の企業や家計の方が――日々の実際の経済活動をしている人の方が――そこから感じ取る中長期的な望ましい物価の状況という感覚があるのだと思います。それを市場も吸収して、市場の価格も決まったりしているわけですから、我々としても謙虚にそういった意見を吸い上げるべきだと思います。そういったことも踏まえますと、近い将来 2%を目指すというのは、物価目標としては妥当性が低いのではないかなと思います。
§15Takahide Kiuchi
今までの我々の情報発信としては、我々はこう考えていますということを示すことが中心だったわけですが、実際は双方向で市場・民間からの意見も吸い上げながら、それに応じて我々の目標とか、経済・物価見通しも修正して、お互い無理のないような――完全に一致するわけではありませんが――、認識のギャップを埋めていく必要があると思います。もちろん、次の金融政策決定会合で何をするかというのは我々も言いませんし、市場も全くは分からないのですけれども、しかしながら 1月のマイナス金利政策のように全く予見しなかったものが出てきて、それがネガティブなサプライズを生んでしまうというようなことをやはり起こらないようにするという意味で、双方向でのコミュニケーションを強化していく、我々としても非常に謙虚に市場・民間の意見を吸い上げてくという姿勢がこれからは重要になってくると考えています。
§16Question
木内審議委員は、去年の 12月に都内で講演されて、「量的・質的金融緩和」の出口で日銀の損失が1年間で7兆円に達するという試算をされました。その後にマイナス金利が導入されたわけです。そして、日銀は足許では国債を非常に高い割高な価格で買っていて、その償却額も毎年増えている状況です。出口以降、或いは出口の前も含めて、日銀のこうした財務の潜在的なロス、いずれか表面化するロスについて改めてお考えをお教え頂けますでしょうか。
§17Takahide Kiuchi
今ご指摘頂いた点は非常に重要だと思っていまして、昨年の 12月に申し上げた金融政策の正常化の過程での日銀の財務体質への悪影響の可能性というのも依然として問題だと感じております。これは、マイナス金利政策導入以前・以降にかかわらず、非常に重要な問題ではないかと思っております。もちろん、将来、付利金利をどういった形で上げていくかというのにもよるわけですけれども、当座預金の極々一部だけ金利を上げていくとすれば、すなわち、極々一部だけ今マイナスになっている部分を将来プラスにしていけば、日銀の財務への悪影響は大きくならないわけですが、それは多分実現可能ではないと思いますので、正常化の過程では、その時申し上げたような日銀の資本を毀損するという問題は出てくるだろうと思っています。それから、2 番目にご指摘頂いた点で、これはマイナス金利以降そういった傾向が強まったわけですが、我々が国債を額面以上の価格で買い入れているということで、その部分が損失になるわけです。それは、我々の会計手順に従いますと、毎期、その差をマイナスの利子所得として計上していくということになります。そうしますと、おそらくマイナス金利政策導入以降は、我々は、平均すると、マイナスの金利で国債を買っているということになります。
§18Takahide Kiuchi
一方で、その交替で当座預金を供給するわけですが、増えている部分は利率が0%部分だと思いますので、限界的に言いますと、マイナス金利政策以降は逆鞘のオペレーションになっているということなのではないかなと思います。ただ、ご案内の通りですが、過去により高い金利で国債を買った部分で、プラスの利子所得が毎年毎年計上されておりますので、平均的にみますともちろん逆鞘になってはいませんし――将来的にはなるかもしれませんが――、まだ時間的に余裕はあるわけですが、限界的にはマイナスになってきています。これがすぐに何か大きな問題を生むわけではないのですが、長い目でみますと、非常に大きな問題だろうと思っています。つまり、我々は国債などを買い増して、それに対してマネーを供給します。当座預金なので、非常に低い金利で、従来だと多くは 0.1%でした。それに対して、買う国債は、もうちょっと高い金利で買っておりましたので、その部分がいわゆるシニョレッジ(通貨発行益)という形で、我々の収益になりまして、これが日本銀行の業務を支えてきました。ただ、もう限界的には逆鞘になってきていまして、この政策をずっと続けていきますと、いずれはトータルでみても、やはり逆鞘になっていきます。そうすると、我々の経営の基盤、業務の基盤は一体どうなっていくのか。
§19Takahide Kiuchi
もちろん政府から補填を受けるというのも可能性としてはあると思いますが、それは今の新日銀法のもとでの枠組みとはやはり違ってくると思います。そう考えますと、ご指摘の点は今すぐ大きな問題にはならないのかもしれませんけれども、シニョレッジに支えられた我々の業務の基盤を揺るがす大きな問題になってくる。これも、やはりマイナス金利政策、非常な低金利政策が長期化した場合に、大きな潜在的な問題点の 1 つと言えるのではないかと思っています。
§20Question
明日にも判明するイギリスのEU離脱の可否の投票が真っ最中なのですけれども、仮にこれで市場が大きく動揺した場合、日銀及び中央銀行として何をすべきなのかという点と、おっしゃるように様々な緩和策を色々と取ってきた中で、だんだん副作用が明らかになっているとはいえ、やはり景気もそれほど強くないと、仮に景気の下支えが必要であるとなった場合、日銀は何もしないで、他の財政とか構造改革に任せるべきということなのでしょうか。
§21Takahide Kiuchi
国民投票の結果で、金融市場がどうなるのかは分からない話ですが、一方で、不測の事態に備えて、主要中央銀行間で意思疎通をしているというのは事実です。英国の国民投票の結果によって、金融市場が大きく反応する可能性があります。他方で、実際、投票結果がイギリス経済、ひいては世界経済にどういう影響を与えるかというのは、例え離脱になったとしても、これからどういう交渉をしていくか次第でありますので、分からないわけです。そういう意味では、これはまず金融ショックであると理解すべきだと思います。金融面でのショックに対して、それが非常に長く続いて実体経済にも影響が出てくるということであれば、追加緩和策という議論になってくるのかもしれませんけれども、金融面でのショックに対する中央銀行の最初のリアクションというのは、流動性供給ということになるのだと思います。これについては、例えば、邦銀で言いますと、ポンド或いはドルについては、十分な手当てを現時点でされていると思っておりますが、不測の事態に備えるということも重要です。ただ、これにつきましては、ご案内の通り、 6 中央銀行間でのスワップ協定があり、それに基づいて、本行でも週 1 回のドル供給オペをしております。
§22Takahide Kiuchi
これは金融機関の求めに応じて実施するバックストップとしての機能でありまして、こうした機能は既にあるわけですので、本当に金融機関が自らのドル調達に不測の事態が生じれば、それを活用されるというのが、今の時点での我々の考えでして、何か能動的に追加策をやっていくということではありません。もちろん、実体経済にすごく悪い影響が及ぶようであれば、通常の金融政策の枠組みで何か対応策を議論するということだとは思います。ただ、個人的に考えますと、何らかの策をしたとしても、実体経済に大きなプラスの影響を与える政策の選択肢というのはなかなか残っていないと思っています。技術的に行き詰っているということでは未だないと思いますけれども、長い目でみた副作用を上回る効果が期待できる政策の選択肢については、あまり心あたりがなくなってきているというのが個人的な考えです。そのため、そういった金融面のショックから実体経済に悪影響が及ぶような事態になったとしても、こういった策がいいというのは、個人的にはあまり思い浮かばないわけですが、最終的に中央銀行として重要なのは、信用秩序の維持、金融システムの安定でありますので、やはり流動性供給ということだと思います。外貨については、6 中央銀行間の枠組みがあります。これは非常に強力ですので、必要に応じて更に強化できますが、既存の枠組みによってかなり対応できると思っています。
§23Takahide Kiuchi
加えて、本行として独自に何かする必要があるということであれば、円貨の流動性供給の強化だと思います。これは、今、円貨が余っているじゃないかと言われれば、もちろんそうなのですけれども、やはり不測の事態になった時、或いは金融機関全体としては安定していても、個別の金融機関で問題が出てきて、システミックリスクに繋がる可能性がないわけではありません。そういうことを起こしてはいけないという観点から、我々独自としては、やはり円貨の資金供給をしっかりしていく必要があります。これに関しては、マイナス金利政策導入後、特に共通担保オペの残高が急激に減ってきているというのは、やや心配なところでして、これは貸出支援オペのように、マクロ加算という救済策が取られなかった結果として、場合によっては逆鞘になるためです。0%の金利で借りて、場合によってはマイナスの金利の当座預金に預け入れるという金融機関も出てくる可能性があるわけですので、逆鞘だとなかなか活用されない。やはりこのあたりを見直してどんな時でも中央銀行の流動性供給に全ての金融機関がアクセスできるような環境を整えていくということが重要だと思いますし、もし不測の事態が起こった時には、それを強化するというのが私としては重要な策なのではないかなと思っています。
§24Question
マイナス金利のことをお尋ねするのですが、北陸の地銀 6 行は過去最高益を出しているという話を伺っているのですけれども、金融機関が過剰にリスク回避をしているのではないか、そういう見方はできないのでしょうか。先程、企業の方はどちらかというと金利というよりは将来不安の方を考えて貸出金が伸びないというお話がありましたが、金融機関の方は企業側に先行きを煽っているようなそういう側面もあるのではないかと思うのですけれども、過剰リスクを取らない金融機関の姿勢というか、その辺はどういうふうにお考えになっているのでしょうか。
§25Takahide Kiuchi
過剰というのは行き過ぎているという意味ですので、過剰にリスクを取る、或いは取らないということはいずれにしてもよろしくないということです。おそらくご質問の趣旨は適正なリスクまでも取っていないのではないかというご意見なのかなと思います。全体としては、おそらくそうではないと思います。金融機関の方は、貸出が銀行業務の中核でありますので、色々な努力をしながら貸出先を見出す努力をされています。しかしながら、やはり企業側の資金需要が弱い。これは、先程も申し上げたように先行きの成長期待も低いので設備投資自体が盛り上がっていないということに加えまして、手許流動性が高水準であるということからなかなか外部資金を調達するということに繋がらないというのが背景にあると思います。こうした中、さらに貸出を増やそうと、過度に増やそうということになりますと、信用コストに見合わない低い金利で貸出を増やしてしまうということであったり、ややリスクの高い先――例えば、場合によって不動産関連――に過剰に貸し出すというようなことで、将来的に過度なリスクテイクの問題の方に繋がってくるということではないかなと思います。現状では、過度なリスク回避、過度なリスクテイク両方とも顕著にはみられていませんが、将来的には両方とも起こり得ます。
§26Takahide Kiuchi
過度なリスクテイクで何とか利鞘を稼ごうというところも出てくるでしょうし、一方で、銀行の基礎的な収益力が落ちてきている、損失吸収力が落ちてきている中で、貸出についてはもっと慎重にしなければならないというところも出てくるでしょう。全く逆方向なのですが同時に起こるということはありうると思います。いずれにしても経済にとってはよろしくないということですので、そういう面から言っても金融機関の収益環境に過度の圧力をかけるような政策というのは望ましくないと思います。それから、挨拶要旨の中にも書きましたが、もう少し長い目でみた時に、金融機関が問題を先送りする形で、例えば効率の低い、問題のある企業への貸出を維持するということになりますと、いわゆる非効率なセクターに資本と労働が固定化されてしまうということになり、経済全体としては生産性上昇率が下がってくるということが起こってくるのではないかと思います。我々の計算ですと、80年代は、潜在成長率は一時 4%程度であったところ、現状では 0%に比較的近い水準まで落ちてきています。これには色々な要因がありますが、 1 つは今言ったような金融仲介機能が十分に果たされていない結果として非効率なセクターにお金、資本、労働が固定化されてしまっていることがあります。
§27Takahide Kiuchi
仮に今のマイナス金利政策のもとで、今申し上げたようなことがもう一度起こっていくということになりますと、さらに潜在成長率を押し下げることに繋がってしまうと思います。私は、マイナス金利政策は金融仲介機能を損なってしまうからマイナスなのだというふうに説明申し上げていますが、必ずしも 1年後、2年後の話ではなく、もう少し中長期の視点で申し上げています。金融政策の役割としては、需要が不足している時に需要を正常化してあげるというのが大きな役割であって、潜在成長率を高める、生産性を引き上げるというような形で供給側には直接的な影響を与えないのが金融政策です。一方で、今、日本経済が抱えている問題の多くは供給側の問題なわけで、需要不足ではないわけです。失業率が非常に低く、設備稼働率も比較的高いわけです。我々が計算している需給ギャップはほぼゼロの状態が何年も続いています。それでも経済があまり強くみえないのは潜在成長率が非常に低いからでして、それを押し上げる政策を主導するのは金融政策ではないというのが私の基本観です。ただ、適切でない金融政策が採られた場合には、今のような経緯で、生産性上昇率、潜在成長率がもう一段下がってしまう可能性、我々の政策が間接的に供給側を弱くしてしまうという可能性はあると思っていますので、少し長めの視点ではありますが、そういうところにも配慮しなければならないと思っています。
§28Takahide Kiuchi
それからもう 1 点、最初に申し上げた銀行の収益については、先程も申しましたけれども、出来上がりのと言いますか、当期純利益などでみますと比較的高水準なのですが、コア業務純益、すなわち本業で稼ぐ部分については従来からずっと下がってきているというのは大きな問題で、本業で稼げなくなっていると言うことです。ただ、近年は、信用コストが大分下がってきてその戻りが収益を押し上げてきたことや、いわゆる益出しで、最終的な収益を良くしてきました。こういった対応の余地については、今期以降は相当厳しくなるというのがほぼみえているのではないかと思います。そうしますと、資本の水準は比較的高いのですけれども、本業の部分で稼げる目途が立ってこないといった時に、金融機関がどういう行動を取るのか。過度にリスクを取る可能性も、過度にリスクを回避する可能性も両方あるという意味で、特に地域金融機関の収益環境、損失吸収力については非常に注視しなければならない局面に入ってきたと思っています。以上