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日本銀行記者会見2016年7月29日黒田東彦, 総裁

総裁定例記者会見(2016年7月29日)要旨

全文

§1Question

本日の政策決定の狙いと期待する効果をご説明下さい。あわせて、物価の見通しについてもご認識をお願いします。

§2Haruhiko Kuroda

日本銀行は、本日の決定会合において、金融緩和の強化を行うことを決定しました。具体的には、 ETFの買入れ額を、現行の年間約3.3 兆円から、約 6 兆円に相当するペースへと、ほぼ倍増させることとしました。また、企業や金融機関の外貨資金調達環境の安定のための措置として、成長支援資金供給・米ドル特則の総枠を120 億ドルから 240 億ドルに倍増するとともに、米ドル資金供給オペの担保となる国債の貸付け制度の新設を決定しました。英国のEU離脱問題や新興国経済の減速を背景に、海外経済の不透明感が高まり、国際金融市場では不安定な動きが続いています。日本銀行としては、こうした不確実性が企業や家計のコンフィデンスの悪化につながることを防止するとともに、わが国企業および金融機関の外貨資金調達環境の安定に万全を期し、前向きな経済活動をサポートする観点から、今回の措置を決定しました。本日の決定会合では、金融市場調節方針、ETF以外の資産買入れ方針、政策金利については、これまでの方針を維持することを賛成多数で決定しました。この間、政府は、大規模な経済対策を策定する方針にあるなど、財政政策・構造政策面の取組みを進めています。日本銀行が、今回の措置も含め「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を推進し、きわめて緩和的な金融環境を整えていくことは、こうした政府の取組みと相乗的な効果を発揮するものと考えています。

§3Haruhiko Kuroda

次に、本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、先行きの経済・物価見通しと金融政策運営の基本的な考え方について説明します。わが国の景気は、新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けています。先行きについては、暫くの間、輸出・生産面に鈍さが残り、景気回復ペースの鈍化した状態が続くとみられますが、その後は、家計・企業の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、潜在成長率を上回る成長を続け、基調として緩やかに拡大していくと考えられます。実質GDP成長率の見通しを、従来の見通しと比べますと、財政面での景気刺激策の効果もあって、見通し期間の前半を中心に上振れています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、小幅のマイナスとなっています。先行きについては、消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面小幅のマイナスないし 0%程度で推移するとみられますが、物価の基調は着実に高まり、「物価安定の目標」である 2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。

§4Haruhiko Kuroda

この間、原油価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提のもとでは、消費者物価の前年比が、「物価安定の目標」である2%程度に達する時期は、中心的な見通しとしては、2017年度中になるとみられますが、先行きの海外経済に関する不透明感などから不確実性は大きいと考えられます。その後は、平均的にみて、2%程度で推移すると見込まれます。なお、展望レポートについては、佐藤委員・木内委員から、消費者物価が見通し期間中には 2%程度に達しないことを前提とする記述の案が提出され、否決されました。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を継続します。今後とも、経済・物価のリスク要因を点検し、「物価安定の目標」の実現のために必要な場合には、「量」・「質」・「金利」の3 つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じます。なお、展望レポートで示した通り、海外経済・国際金融市場を巡る不透明感などを背景に、物価見通しに関する不確実性が高まっています。こうした状況を踏まえ、次回の金融政策決定会合において、「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向や政策効果について総括的な検証を行うこととしました。

§5Haruhiko Kuroda

2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するためには、今後何が必要か、という観点から検証を行っていきたいと思います。

§6Question

先程の総裁の発言にもありました、財政と金融の相乗効果という点についてです。日銀の大規模な金融緩和の継続が、逆に政府の財政規律を緩ませるのではないかという指摘もありますが、この点について総裁のご認識をお伺いしたいと思います。

§7Haruhiko Kuroda

財政政策は、政府・国会の責任において行われるものであって、この点、政府は、経済の再生のために機動的な財政運営を行うとともに、持続可能な財政構造を確立するための取組みを着実に進めていく方針を明確にしていると認識しています。日本銀行は、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を推進しており、そのもとで金融環境は、極めて緩和的になっています。これは、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために行っているものです。一般的に、政府が国債発行を通じて資金調達を行い、財政支出を行う場合には、市場金利が上昇するため、民間における投資が抑制される、いわゆる「クラウディング・アウト」が発生するという問題があります。この点、同時に中央銀行が金融緩和を推進している場合には、国債発行に伴う金利上昇が抑制されるため、これらの相乗効果によって、景気刺激効果がより強力なものになることはよく知られています。こうした政策の組み合わせは、「ポリシー・ミックス」と呼ばれており、マクロ経済政策として一般的な考え方であると思っています。わが国では、3年前から、機動的な財政運営と「量的・質的金融緩和」の組み合わせを通じて強力なポリシー・ミックスを実施してきています。

§8Haruhiko Kuroda

現在、政府において策定されている経済対策は、こうしたマクロ経済政策をさらに強力に推進するものであり、わが国経済が物価安定のもとでの持続的成長を実現していくうえで非常に時宜を得たものであると考えています。

§9Question

2 点伺います。今回、ETFの買入れ額を増加しましたが、なぜマイナス金利の深掘り、あるいは量の拡大をしなかったのか、それらの政策が限界に近づいているのではないのか、その点についてお聞きしたいのが1 点目です。もう 1 点、その質問を踏まえてですが、次回、総括をすると言われましたが、なぜこのタイミングなのかと唐突な感じもします。そこで、これまでやってきた政策のスキームチェンジまで考えていらっしゃるのか、なぜこのタイミングでそういうことをやろうとされているのか、お考えを頂ければと思います。

§10Haruhiko Kuroda

まず、マイナス金利あるいは量的な拡大が限界にきているのではないかとの点については、限界にきているとは考えていません。マイナス金利については、本年1月に導入を決定して以来、市場に受け入れられて、マーケットとしてもうまく機能するようになっています。金利の引下げ効果は非常に大きいものがあり、既に金融資本市場だけでなく、実体経済にもプラスの影響を及ぼしつつあると思っています。これについて何か限界がきているとは考えていません。欧州の状況などを見ても、まだまだマイナス金利を更に深掘りしていく余地はあり得ると思っています。量的なものについても、年間 80 兆円に相当するペースで国債保有額を拡大していくことを通じて、おそらく国債の3 分の 1 くらいを既に取得していると思いますが、逆に言うと、まだ3 分の 2 が市場にあるということでして、今、何か量的な限界にきているとは全く思っていません。現に、日本銀行による国債の買入れについて何らかの障害が出るとは全く思っていません。そうした意味で、マイナス金利あるいは量的緩和の拡大が限界にきているとは全く思っていません。

§11Haruhiko Kuroda

むしろ、先程申し上げた通り、あるいは公表文にも書いてある通り、今、英国のEU離脱問題あるいは新興国経済の減速を背景にして、海外経済の不透明感が高まり、国際金融市場で不安定な動きが続いているわけで、こうした不確実性が企業や家計のコンフィデンスの悪化につながることを防止するとともに、わが国の企業および金融機関の外貨資金調達環境の安定に万全を期して、前向きな経済活動をサポートする観点から、今回のようなETFの買入れ額のほぼ倍増や企業・金融機関の外貨資金調達環境の安定のための措置を導入したわけです。これが、現時点で、最も有効で適切な政策であると考えています。展望レポートにもあるように、また、冒頭の説明でも申し上げた通り、経済成長率は、足許、特に 2017年度の成長率は、経済対策等の効果もあってかなり上振れています。物価についても、足許は予想より低下していますが、今申し上げたような成長率の上振れその他によって、2017年度、2018年度の物価の見通しは従来と変わっていません。そうした中で、最も適切な金融緩和の強化策を採用したとご理解頂きたいと思います。マイナス金利あるいは量的緩和に限界がきたということは、全くないと考えています。

§12Haruhiko Kuroda

総括の点についても、公表文で示した通り、海外経済・国際金融市場を巡る不透明感などを背景に、特に物価見通しに関する不確実性が高まっている状況を踏まえて、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現する観点から、次回の金融政策決定会合において、この3年強の間の色々な金融緩和の下での経済・物価の動向、あるいは政策効果について、「総括的な検証」を行うことにしました。もちろん、スタッフは常に分析をしているわけですが、「量的・質的金融緩和」を導入して 3年強、そして「マイナス金利」を導入して半年――1月に決定して実際に適用されたのは 2月からですから半年位――というところで、「総括的な検証」を政策委員会において行うということです。政策委員会の全てのメンバーがこうしたことが望ましいと言われまして、この公表文に示したということです。具体的に、「総括的な検証」を行った後の金融政策については、「総括的な検証」を行ったうえでのことですが、明確なのは、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために何が必要かという観点から、「総括的な検証」を行うということです。

§13Question

2 点お伺いします。総裁はかねて、金融政策が効果を発揮するのに半年も1年もかからないと発言されていましたが、おっしゃったようにマイナス金利の導入から半年が経とうとしています。現時点で、効果について具体的にどのように感じていらっしゃるか教えて下さい。もう1 点は、今回声明文に入った、総括的に検証するということについて、検証した結果、例えば、今のような規模で買入れを進めることはそれほど効果がない、むしろ副作用が大きいのではないか、という議論が起きた場合、今よりも規模を縮小するといった方向性も可能性としてあるのか、お教え下さい。

§14Haruhiko Kuroda

1月に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を決定し、マイナス金利は、金融機関の日銀における当座預金のごく一部に2月から適用されるようになりましたが、ご承知のように、国債は短期から長期、超長期に至るまで全体的にイールドカーブが相当下がっており、その結果として、金融機関の企業に対する貸出金利、家計に対する特に住宅ローンなどの金利もはっきりと低下しています。また、市場におけるCPや社債の発行金利も顕著に低下しています。そうした意味で、金融資本市場全般にわたる効果は、既にはっきり出ていると思います。それが実体経済にどのような影響を及ぼしているかについては、最近の日銀短観でも、景気に対する見方は若干慎重化していますが、設備投資のスタンスは非常にしっかりしています。この背景には、非常に緩和的な金融環境が続いていることに加え、今後も続くという見通しを踏まえて、企業がしっかりした設備投資計画を維持しているのだろうと思います。また、住宅投資はこのところ再び持ち直していますし、最近のローンサーベイでも住宅ローンは顕著に伸びています。このように、金融資本市場全体に対する影響は既に十分現れているわけですが、実体経済に対する影響も出てきており、今後、そのプラスの影響はより顕著になっていくだろうと思っています。

§15Haruhiko Kuroda

「総括的な検証」については先程申し上げた通り、あくまでも2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために何が必要か、という観点から、これまでの3年間の経済・物価動向、あるいは政策効果について検証を行うわけです。これまでの 3年強の経験上、「量」・「質」・「金利」、特に「量」・「質」はずっとこの 3年強やってきましたし、「金利」は今年から始まったわけですが、「量」の面も非常に重要であることは認識しています。そうした意味で、「量」を軽視することになるとは思っていません。

§16Question

政策の逐次投入はしない、とおっしゃっていましたが、「量」、「金利」に限界はないという中で、今回は「質」、中でもREITでも社債でもないETFに絞って拡大したことで、今後は、現状と3 つの効果を見比べながら、逐次投入していくということでしょうか。あえて今回ETFに絞られた理由をあらためてお聞かせ下さい。

§17Haruhiko Kuroda

「量」・「質」・「金利」の3 つの次元で緩和が可能であるということは先程申し上げた通りで、今、限界がきていることは全くないと思います。従って、その時々で、最も適切な政策を行うということです。政策の逐次投入が望ましくないと言った意味は、その時々で必要にして十分なことを行わずに、情勢の悪化に引っ張られて次々に逐次的にやっていくやり方は適切ではないということです。その時々で必要にして十分な政策をきっちりと行うということが、逐次投入を避け、金融政策の効果を最大限発揮させることになると思っています。先程申し上げたように、現時点で日本経済の成長率見通しが下方修正されたわけではなく、むしろ上方に修正していますし、物価は足許については下方修正しましたが、2017年度、2018年度については従来と全く同じ見通しになっています。ただ、そうしたもとで、不確実性は高まっています。今回の展望レポートの「政策委員の経済・物価見通しとリスク評価」のグラフを見ても、下方リスクが大きいことが示されていますし、展望レポートの文章でもかなり明確に下方リスクを指摘しています。

§18Haruhiko Kuroda

特に、英国のEU離脱問題や新興国経済の減速を背景として、このところ海外経済の不透明感が高まり、国際金融市場が不安定化していることは事実であり、それが企業や家計のコンフィデンスの悪化につながるおそれがあるので、必要にして十分な対応ということで、ETF買入れ額のほぼ倍増――これはかなり大きなものですが――や、外貨資金調達環境の安定のための 2 つの措置を採りました。これは、いわゆる戦力の逐次投入ではないと考えています。

§19Question

2 点お願いします。1 つは、総裁が就任されてから 3年以上経ちますが、2年程度の期間を念頭に、できるだけ早期に 2%の物価目標を達成するという、この公約というか看板自体はまだ生きているわけで、2年程度という看板はこのまま残していくのか、あるいは検証作業においてこういった点も含めて見直しの対象となってくるのか、これが 1 つ目です。もう1 つは、「総括的な検証」については、どうやったらできるだけ早く 2%の物価目標を達成できるのか、という観点から検証されるということですが、海外市場が不透明であるということが理由であるなら、この政策が抱えているリスクとか、そういったものも検証の対象となるのか、特に国債マーケットをはじめマーケットがはらんでいるリスクなども検証の対象になるのか、ご所見をお伺いします。

§20Haruhiko Kuroda

日本銀行は 2013年4月の「量的・質的金融緩和」の導入以来、一貫して2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するということにコミットしています。「量的・質的金融緩和」の導入にあたっては、「できるだけ早期に」という際に念頭に置いている期間として、2年程度という期間を示しました。「量的・質的金融緩和」の導入後、既に 3年以上経過しているのは事実ですが、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するという方針に変化はありませんし、今後もそれを変更する考えはありません。「総括的な検証」となりますと、当然ご指摘のような点も含めて検証するということになると思います。何よりも、この 3年強の期間を通じて、家計の雇用・所得環境や企業の収益状況などが大幅に改善し、いわゆるデフレの状況ではなくなっていることは事実ですが、足許の物価上昇率は生鮮食品を除くベースでは若干のマイナスになっていますし、物価の基調を示す生鮮食品とエネルギー品目を除いたベースでも 1%程度、最近は 1%を割っているような状況であり、2%の「物価安定の目標」をまだ実現できていない、道半ばというところです。

§21Haruhiko Kuroda

当然この 3年間の金融緩和の効果、それから経済・物価が現在のような動向を示している理由、あるいは端的にいえば、金融緩和の効果が経済全体としては相当効果が出ているとはいえ物価については道半ば、という状況等をよく総括して分析・検証するということが、 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するという観点から非常に重要だと思いますので、そういったことを行う、これは政策委員会の総意です。

§22Question

日銀のETF買入れに対しては、かねてから株価というのは企業の収益であるとかファンダメンタルズで決まるもので、市場機能を歪めるおそれがあると指摘されてきたわけですが、これを今回倍増させると、さらに市場機能を損ねるおそれ、もっと言えば日銀による相場操縦ではないか、という見方に対して、どのようにお考えになるかというのが 1 点です。もう 1 つは、「総括的な検証」についてですが、当初 2年を目指してやってきていたものが、3年が過ぎて、短期決戦のはずだったものが持久戦を強いられているということを踏まえた体制立て直し的な意味があると理解してよろしいでしょうか。

§23Haruhiko Kuroda

まず、ETFの買入れ額を6 兆円にほぼ倍増するということについては、先程来申し上げているように、英国のEU離脱をはじめとする海外経済の不透明感が高まっている、あるいは国際金融市場が不安定化していることを踏まえて、企業や家計のコンフィデンスの悪化を防止する観点から決定しました。ETFの買入れは、別に特定の株価を目標にして行っているものではもちろんありません。基本的にはリスクプレミアムに働きかけて、株式市場、資本市場がより適切に機能するようにサポートしているものであり、株式市場の機能を損ねることはないと思っています。国債の買入れにしても、その他色々な金融資産の市場からの買入れにしても、市場の価格に影響を及ぼすことは事実ですが、それによって、経済活動を支え、「物価安定の目標」を達成するということであり、何か特定の株価を実現しようとして行っているものではありません。もちろん、こういうことを通じて、そうでない場合と比べて株価が上昇するであろうということはその通りだと思いますが、市場機能を損ねてはいないと思っています。

§24Haruhiko Kuroda

2 点目については、立て直しという言い方がよいかどうか分かりませんが、ご指摘のように2年程度を念頭に置いてできるだけ早期に実現するということで、3年3 か月くらい前に「量的・質的金融緩和」を導入し、それを2014年10月に拡大し、今年の 1月にはマイナス金利を導入したということです。そうした中で、色々な海外の事情等にもよるとは思いますが、物価上昇率がまだ 2%に達していないということはその通りですので、そういった状況を踏まえて、2%をできるだけ早期に実現するために何が必要か、という観点から「総括的な検証」を行い、さらに何か必要があれば当然金融政策についても考えていくことになると思います。まだ「総括的な検証」をする前の段階ですので、具体的なことは申し上げられませんが、あくまでも 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために何が必要か、という観点から「総括的な検証」を行い、今後の金融政策に役立てていくことになろうと思います。

§25Question

政策の検証についての確認なのですが、このタイミングで実施されるということは、2%の早期達成のためには、これまでの現行の政策の枠組みが力不足であったという認識が前提にあるのでしょうか。また、その意味で、検証を行った結果、マイナス金利を撤回するとか国債買入れを減額するといった方向性よりも、3 つの次元をさらに強化していく、そういう方向になる可能性が高いとお考えなのか、教えて下さい。

§26Haruhiko Kuroda

まだ「総括的な検証」を行う前ですので、特定の方向性を言うのは適切でないと思いますが、ご指摘のように 2%がまだ実現されていないわけですから、2%をできるだけ早期に実現するために何が必要かという観点から、「総括的な検証」を行い、その検証結果に応じて必要な措置を採るということに尽きると思います。

§27Question

今回、質的緩和のみに止まったということで、マーケットを中心に、経済対策の決定を控える政府との足並みを揃えることを強調したかったという見方が広がっています。こうした政府の有形無形の圧力に対応した流れではないかという指摘もありますが、この点についてどのようにお考えでしょうか。また、今回、その時々で必要で十分なことをやるとおっしゃったのですが、今後 3 次元全て一度に行うというよりは、こうした逐次投入が増えていくという方向でよろしいでしょうか。

§28Haruhiko Kuroda

まず第 1 点ですが、公表文でも述べられている通り、政府が大規模な経済対策を策定する方針にあって、その中で財政政策、構造政策面の取組みを進めているということは、先程申し上げたように時宜を得たものだと思っています。そのうえで、日本銀行として、今回の措置も含め「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を推進し、極めて緩和的な金融環境を整えていくということは、このような政府の取組みと相乗的な効果を発揮すると考えています。圧力云々というのは、私どもは全くそういうことは感じていませんが、当然のことながら現在の日銀法にも書かれています通り、金融政策は経済政策全体の中の一環ですから、当然、政府と意思疎通を十分にすることが、先程申し上げたような「ポリシー・ミックス」という観点からも非常に適切なものであろうと思っています。逐次投入は全く考えておりませんが、そのことと3 つの次元を毎回全部やるかやらないかということとは全然関係ない話です。現時点でも実は 3 つの次元で緩和を進めているわけです。量も年間 80 兆円も国債の保有額を増やしていますし、それによって年間 80 兆円マネタリーベースを増やしているわけです。質の面でも、長期の国債、それからETFやJ-REIT、さらにはCP・社債等も買っています。

§29Haruhiko Kuroda

そして、引き続きマイナス金利を適用していますので、既に3 次元の金融緩和を進めているわけですが、追加緩和をするときに常に3 つの次元でやるかどうかというのは、その時の経済・金融情勢次第です。3 つともやる場合もあるでしょうし、そうでない場合もあると思いますが、あくまでも逐次投入云々ではなくて、その時点で必要にして十分な対策を講じるということに尽きると思います。

§30Question

確認ですが、2%の目標も達成時期も変えないで検証するということであれば、その検証によって、枠組みを基本的に変えないところで追加的措置をする可能性は十分にあると、それはつまり 3 次元ではなくて 4 次元、5 次元になっていくと受け止めてもよろしいのでしょうか。もう 1 つは、先程、成長率などは上がっているけれども今の緩和策が別の効果を出しているとおっしゃっていましたが、それは多分副作用という言い方でも置き換えられると思うのですが、今度の検証も含めて、総裁が今一番懸念されている副作用あるいは別の効果はどういったものでしょうか。例えば、長期金利が想定外に寝てしまっていること、あるいは銀行の収益が打撃を受けていることなど、もしあればお聞かせ下さい。

§31Haruhiko Kuroda

2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するということは、日本銀行としての、2013年1月の政府との共同声明以来維持してきているコミットメントであり、これを変えるつもりは全くありません。そうしたもとで経済・物価の見通しとして、いつ頃この 2%の「物価安定の目標」が達成されるか、実現されるかという見通しについては、今回見通しを変えておらず、中心的な見通しとしては2017年度中に2%程度に達する可能性が高いとしています。その一方で、海外経済を中心に色々な不透明感や不確実性が高まって、経済や物価について下方リスクが大きくなっているということも認めています。当然、今後とも引き続き、毎回の金融政策決定会合において、公表文にある通り、経済・物価のリスク要因を点検して 2%の「物価安定の目標」の実現のために必要な場合には、「量」・「質」・「金利」の3 つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じるという姿勢に変わりはありません。

§32Haruhiko Kuroda

そのうえで、「総括的な検証」というのは、2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入し、それを拡大し、更に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」にして極めて緩和的な金融環境を実現したもとで経済は抜本的に改善して、特に家計にとっての雇用・所得環境は改善し、企業の収益状況も極めて大きく改善してきたわけですが、そうしたもとでも、2%の「物価安定の目標」は達成していませんので、こういった状況をよく分析・検証して、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成するために何が必要か、何がなされるべきかということを虚心坦懐に検証するということです。その中で、大きなマイナスの要素があるとは考えていませんが、例えば今年の1月にマイナス金利を導入して、先程申し上げたように国債のイールドカーブ全体も非常に下がって、企業や家計に対する貸出金利も下がり、それが設備投資や住宅投資に好ましい影響を与えつつあることはその通りですが、尐し触れられたように、イールドカーブは非常にフラットになっており、それが金融機関の収益状況にどのような影響が出るのかということも含めて、当然総括的な検証となると思います。あくまでも重要なポイントは、これまで行ってきた政策を総括的に検証して、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために何が必要か見極めようということです。

§33Question

「総括的な検証」についてですが、そもそも 3年3 か月前に総裁が大規模な「量的・質的金融緩和」を始めたときに、2年くらいを目途とおっしゃっていて、現在 3年3 か月経っているわけです。総裁個人として、2年を目途にと言っていたのに今達成できないことの主な理由をどのように考えているかという点と、経済は生き物とは言いながら、2年が目途と言っていたことを達成できないことの責任をどのように考えておられるかについて教えて下さい。それから、もうひとつは、それは次回になるのかもしれませんが、そのうえで、総裁個人としてはどのような手段が必要と考えておられるのかについて教えて下さい。

§34Haruhiko Kuroda

まず、前段は、それがまさに「総括的な検証」を行うということですので、あまり先取りして私から具体的なことを申し上げるのは適切ではないと思いますが、この3年強を振り返ってみますと、ご承知の通り「量的・質的金融緩和」を導入して 2014年の夏頃までは極めて順調に進んでいました。その後、一番大きかったのは原油価格の下落が始まったことだと思います。2014年4月に消費税率を引き上げて以降、駆け込みの反動がやや大きく長引いたとか、その他のこともあったと思いますが、やはり、最も大きな理由としては、原油価格が70%以上と非常に大きくかなり持続的に下落したということが、足許の物価に影響しています。また、それだけではなく、日本における予想物価上昇率の形成は、やはり適合的な、足許の物価の状況にかなり影響されるという傾向があるようですので、そういうこともあって、予想物価上昇率は一時非常に順調に上がっていたのですが、原油価格の大幅な下落を受けて足許の物価上昇率が下がっていき、足許では生鮮食品を除くベースでも若干のマイナスになっているわけですが、そういった状況に伴って予想物価上昇率もやや弱めになっているのではないかと思います。従って、この点は十分に検証していく必要があると思っています。

§35Haruhiko Kuroda

もちろん、2年程度を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するために、その当時としては必要にして十分なことを行ったつもりでしたが、今申し上げたように、特に原油価格の大幅な下落等を受けて、2014年10月には「量的・質的金融緩和」を拡大しました。それによって予想物価上昇率がどんどん下落していくことはある程度抑えられたと思います。ご承知の通り、その後も原油価格の下落は続き、最近では、昨年来の中国を含む新興国の経済成長に関する不透明感など、色々なファクターが重なっていますが、その時々の状況に応じて必要にして十分な対応策を採ってきたと言えると私は思います。結果的に、特に原油価格の大幅な下落は、なかなか予想できなかったことであり、そういったこともあって、今のような状況になっているのではないかと思います。いずれにせよ「総括的な検証」は、まず、スタッフが様々な分析を行い、それを踏まえて政策委員会で掘り下げた議論をして決まるものであると考えています。

§36Question

ETFについてですが、ETF買入れ増額がどのように 2%の早期達成につながるのか、そのメカニズムを教えて下さい。それは国債買入れ増額やマイナス金利深掘りよりも期待インフレ率を引き上げたり、需給ギャップを縮小するのに即効性があるというご判断をされたのでしょうか。2 つ目は、2%の物価目標達成が事実上先延ばしされることがこれまで多かったと思いますが、今後もそういうことが続く場合、意図せざる形での財政ファイナンスに近づくリスクをどうご覧になってらっしゃるのでしょうか。マネジブルにやっていけば実は大した副作用はないというように検証できるのか、そのリスクに対するお考えをお願いします。

§37Haruhiko Kuroda

最初の点については、英国のEU離脱問題その他のことを背景に、海外経済の不透明感が高まって、国際金融市場で不安定な動きが続いており、そうしたもとで、こうした不確実性が家計や企業のコンフィデンスに影響し、それが経済や物価にマイナスの影響を及ぼすリスクが大きいと、展望レポートで示しています。そういったことに対応して今何が最も適切かと言われれば、このETFの買入れ額のほぼ倍増と、企業や金融機関の外貨資金調達環境の安定に万全を期するための措置ということであると判断したわけです。量およびマイナス金利の効果については、国債のイールドカーブは大幅に下がっていますし、それを反映して金融機関の家計や企業に対する貸出金利も大幅に下がっています。また、CPや社債の発行金利も大幅に下がっています。それらが実体経済に波及しつつあるというところであり、先程申し上げたようなコンフィデンスの悪化等のリスクに対応するためには、今言ったようなETF買入れ額の倍増や米ドル特則の倍増といったことが最も適切であると考えたわけです。それから、財政ファイナンス云々ということについては、私どもは全くそういう考えはありませんし、あくまでも 2%の「物価安定の目標」の実現のために必要にして十分なだけの金融緩和を行うということに尽きると思っています。

§38Question

今週に入って、麻生大臣が閣議後の会見で、物価目標達成に向け日銀に最大限の努力を期待しているとか、石原大臣がテレビ番組で政府と日銀の一体感が必要であるとおっしゃったりするなど、あたかも追加緩和を促すかのような発言がありましたが、こうした発言に対して総裁自身はどのようにお感じになったのか、また、今回の決定に対して、こうした声も考慮されたのか、お聞かせください。

§39Haruhiko Kuroda

先程来申し上げている通り、金融政策も、広い意味の経済政策の一環でありますので、当然その重要性は私どもも十分理解していますし、政府においても理解しておられると思っています。今ご指摘されたようなことについて、何か問題があるとは私どもは全く思っておりません。いずれにいたしましても、先程申し上げた通り、政府がこの時点で大規模な経済対策を策定し、財政面・構造面で取組みを進めているということは非常に時宜を得たものであり、望ましいと思います。私どもとしても、今回の措置も含めて、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を推進して、極めて緩和的な金融環境を整えて行くことによって、こうした財政政策の効果もより大きくなると考えています。金融が緩和されていない時に、政府が国債を大量に発行して財政政策を行った場合には、金利が上がって民間投資をクラウドアウトするおそれがありますが、今の時点では、今回の措置も含めて極めて緩和的な金融環境を整えておりますので、このような政府の取組みと相乗的な効果を発揮すると考えており、何か問題があるとは思っていません。

§40Question

総括的検証について、3 点お伺いします。まず、総括的に検証するということは、物事がうまくいっていればあまりする必要がないと思うのですが、実際にうまくいっていないからこそやらざるを得ない、そういう状況だと思います。しかし、たとえ共同声明に書かれているとはいえ、2%の物価目標をできるだけ早期に実現するというコミットメントは、びた一文変えるつもりがないということを先程おっしゃいました。しかし、これに象徴されるのが元々就任された直後におっしゃっていた 2年を念頭にということでしょうし、それをできるだけ早期に実現するためには何でもやると、そのようなコミュニケーション自体が、毎回の会合で期待が高まって、何もしなければ円が失望で上がると、そういうことの繰り返しにつながっているのではないかと思います。つまり、このようなコミュニケーションのやり方自体を検証しないということであれば、それこそ画竜点睛を欠くのではないかと思います。そこについてどうお考えかというのが第 1 点です。第 2 点目に、総括的検証を行うとおっしゃりながら、それをする以前に、今回ETFを増額されました。つまり、ETFについては、総括的検証はもう必要ないと考えたからこそ、今回こういう措置に踏み切ったと論理的に受け取らざるを得ません。つまり、このETFについては、限界がないとお考えなのかどうか、これが第 2 点です。

§41Question

第 3 点目は、次回への検討指示というのは、白川総裁時代あるいはその前も含めてよく採られた手法でして、若干時間稼ぎのような印象が以前はありました。今回について、どれほど真剣におやりになるのかわかりませんけれども、先程は虚心坦懐に行うとおっしゃいました。しかし、 ETFについては、もう既に買入れを増額し、マイナス金利については、効果が出ているし、これからも出るとおっしゃっています。量についても、これは非常に大事であると。つまり、どこまで真剣に虚心坦懐に総括検証しようとしているのか全く分かりません。本当に虚心坦懐にやるのであれば、量で 80 兆はどこまで持続可能かわからないと市場は大いに疑問を持っているわけですから、これを例えば将来減額という選択肢はすでに排除されているのかどうか。マイナス金利にしても、家計が非常に不安を持っているとか、そういうことの副作用が出ているわけですから、これを撤回することを排除しているのかしていないのか。その点について、検証次第では色々なことが考え得ると思うのですが、量の減額、マイナス金利の撤回、これはすでに可能性として排除されているのかどうか、この 3点について、ぜひ明確なお答えをお願いします。

§42Haruhiko Kuroda

明確にお答えします。まず、総括的に検証するというのはある意味で当然のことでして、3年強経っているわけですが、家計の雇用・所得環境にせよ、企業の収益状況にせよ、非常に大幅に改善をし、経済もデフレ的な状況ではなくなっています。ただ、2%の「物価安定の目標」はまだ達成されていないということでありますので、これまでの経済・物価動向、さらには金融政策の効果、波及メカニズム等について、総括的に検証していこうということです。何か全くうまくいっていないとか、全てうまくいっているとか、ということは当たっていないと思います。2 番目のコミュニケーション云々につきましては、私は何らコミュニケーション上の問題があるとは思っていません。それから、ETFについて、何か先取りして問題がないから限界がないと言っているのかということですが、ETFにつきましては、現在の不確実性――国際的な不透明性とか、市場の不安定な動き――が、企業や家計のコンフィデンスに影響を及ぼすおそれがあるということで、これに対する対応策として最も適切なETFの買入れの増額と企業・金融機関の外貨資金調達環境の安定のための措置を採ったということです。限界があるなしということとも関係ありませんし、何か先取りをしたというわけでもありません。今後とも、当然必要があればETFの買入れ増額等についても検討していくと思います。

§43Haruhiko Kuroda

ただそれは必ずやるというわけでもないですし、何回も申し上げますけれども、「量」・「質」・「金利」の 3 つの次元について、それぞれ検討して、その時その時最も適切な対応を採るということです。それから、3 つ目の次回の金融政策決定会合で「総括的な検証」をするというのは、3年強経ったところで、先程申し上げたように経済は大幅に改善しているけれども、物価の面ではまだ道半ばであることから、これまでの経済・物価の動き、さらには政策効果について総括的に検証して 2%の「物価安定の目標」の実現のために何が最も適切かを議論していこうということです。別に時間稼ぎをする意図は全くありません。

§44Question

1 つは、先程のコミュニケーションの問題です。黒田総裁になって、次回の会合でこうするということをはっきりと言っているのは割と珍しいことだと思いまして、そういう意味では、今検証するということを言えば次は緩和があるんじゃないかという期待が広がるということになると思います。ということは、そういうことを敢えて狙っているのではないかと、これは他の中央銀行がよくやっていることなので、そういうことを意識しているのではないかということについてお伺いしたい。それからもう 1 点、ヘリコプターマネーですが、バーナンキさんが日本に来て、官邸で会ったときに期待感が高まって、政府の中でも期待する声があるというような、誰ということでないのですが、これについて、総裁は、録音ですけれど、BBCのインタビューで否定されて、その後また否定をされているようです。これについて改めてお考えを伺いたい。これは非常に悪い政策なのかということも含めて、お願いします。

§45Haruhiko Kuroda

まず第 1 点については、あくまでもこれは「総括的な検証」、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するという観点から、この 3年強の事柄をよく総括的に検証していこうということでありまして、何か今か特定の政策を前提にしているものではありません。そういう意味で、他の中央銀行で、次に何か緩和をするというようなことをおっしゃっているところもあるようですけれども、私どもはそういうことを申し上げているのではなくて、あくまでも2%の「物価安定の目標」の早期実現を目指してやってきているわけで、これは変えるつもりもありません。そうした中で、この 3年強の間の経済・物価の動きと政策効果について、「総括的な検証」をしようということです。それから、ヘリコプターマネー云々につきましては、色々な定義で議論されていまして、中央銀行による国債の直接引受けを含めて、財政政策と金融政策を一体として運営するということであれば、わが国を含む先進国では歴史的な経験を踏まえて制度上禁じられているわけです。一方で、中央銀行が物価安定目標を実現するために金融緩和政策を推進している状況において、政府が財政支出を拡大するという場合には、先程来申し上げているように、これらの相乗効果によって景気刺激効果がより強力なものになるということはよく知られているわけです。

§46Haruhiko Kuroda

こうした政策の組み合わせは「ポリシー・ミックス」と呼ばれており、マクロ経済政策として、一般的な考え方であると思います。こうした「ポリシー・ミックス」は、政府による財政資金の調達を手助けすることを目的とする財政ファイナンスでもありませんし、中央銀行マネーの恒久的な増加を原資として財政支出を行う、いわゆるヘリコプターマネーとも全く違うと考えています。以上