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日本銀行記者会見2016年11月14日黒田東彦, 総裁

総裁記者会見(2016年11月14日)要旨

全文

§1Question

3 点お伺いします。1 点目は、本日の地元の経済界の方々との意見交換について率直な感想をお伺いします。さらに、当地は、輸出の比率が高いということで、為替の影響を非常に強く受け易い地域です。足許の東海地方の景気の現状をどのように捉えておられるのか。また、本日の懇談会でも来春闘の交渉について注目していきたいというような話をされておられました。当地にはトヨタなど春闘相場の牽引役と言われているような企業もありますが、どのように期待しておられるのか、を2 点目にお伺いできればと思います。3 点目は、当地は、「名古屋金利」というように非常に金利が低い地域として知られています。もともと低かった中で、更にマイナス金利の影響を受けていると思うのですが、当地の経済に与えるマイナス金利の影響を、プラス・マイナス含めてお伺いしたいと思います。

§2Haruhiko Kuroda

まず、1 点目の本日の懇談会の感想を申し上げます。今回も、当地の経済界、金融界の代表の方々から地域経済の現状に関する大変貴重なお話あるいは金融政策運営に関する率直なご意見・ご要望などをたくさん頂きまして、大変有意義な意見交換ができたと思っています。この場をお借りして、改めて御礼を申し上げます。席上で頂いた色々なご意見・ご要望の中では、やはり中長期的な成長力の強化あるいは経済の活性化につながる様々な取組みが非常に印象に残りました。懇談会でも申し上げましたが、東海経済はものづくりの中核であり、そういった意味で、主力のものづくり産業でIoTや人工知能などの構造変化が起こっており、次世代に向けた産業振興が重要である、というお話があり、具体的には、自動車、航空宇宙、ヘルスケアなどで次世代産業の振興に取り組まれているというお話を伺いました。また、リニア中央新幹線の開業に向けて街づくり計画が具体化しつつあり、名古屋駅前ではオフィスビルやホテルの建設が進んでいるというお話も伺いました。また、金融機関の方々からは、ファイナンスの面だけでなくて、コンサルティングの面でも、企業のニーズに積極的に対応していくというお話を伺いまして、大変心強く感じた次第です。他方、海外経済の動向などを踏まえた政策運営や為替相場の安定について、ご意見・ご要望を伺いました。

§3Haruhiko Kuroda

また、日本銀行の金融政策運営に関しては、9月の金融政策決定会合で導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、金融緩和をしっかりと継続することを期待しているというご意見も伺いました。日本銀行としては、こうしたご意見等も踏まえつつ、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、引き続き適切な金融政策運営に努めてまいりたいと思っています。2 点目は、非常に重要なポイントだと思います。東海地域は、全国の中でも景気がしっかりとしていますし、ものづくりの中核ということで、先程申し上げたような様々な技術革新あるいは先端的な取組みが行われているということです。他方、製造業中心ということで円高による影響も大きいと言われているわけです。こうしたもとで、まず東海3 県の景気自体については、本日伺ったお話も同様でしたが、基本的に「幾分ペースを鈍化させつつも、緩やかに拡大している」とみています。天候不順の影響や、消費者の節約志向の強まりもあって、このところ個人消費の一部に弱めの動きがみられますが、輸出・生産は、熊本地震等の影響が薄まるもとで、主力の自動車関連を中心に緩やかに増加しています。

§4Haruhiko Kuroda

また、年の前半に為替円高が進んだということで企業収益が若干減益計画となるもとでも、設備投資は大幅に増加しており、さらには雇用者所得も着実に改善しているということで、先程申し上げたように東海3 県の景気はやはり「緩やかに拡大している」ということだろうと思います。もちろん、東海地域は、日本のものづくりの中核であって、輸出への依存度が高いということで、海外経済の影響を受け易い、あるいは為替の影響を受け易いという傾向がありますので、その点には十分注意していく必要があると思います。しかし、東海地域の「緩やかに拡大」という景気判断自体は、他地域と比較しても強いもので、全国の中でも景気の足取りが非常にしっかりしている地域だと思っています。また、最初に申し上げた通り、自動車や航空機関連のほか、非製造業を含めた多くの産業・企業において、積極的な設備投資や研究開発等が進められており、これはお聞きして非常に心強いと思いましたし、こうした当地の産業界の「挑戦」は、自治体や金融機関のサポートとも相俟ってさらなる成長・発展につながり、わが国経済全体の潜在成長率を押し上げていく「エンジン」になってくれるものと期待しています。3 点目について、当地は全国的にみても確かに金利が低い「名古屋金利」ということで知られています。

§5Haruhiko Kuroda

先程申し上げたように、東海3 県自体は他の地域と比較しても経済に活力があって、将来性のある産業とか企業を多く抱えているということであり、そのことが反面、多くの金融機関がこの地域のみならずよその地域からも競争をしてくることによって、利ざやの縮小傾向が全国的にみてもかなり厳しいものになっているということは、その通りだと思います。ご指摘のマイナス金利の影響としては、確かに貸出金利が全国的にずっと下がってきているわけですが、他方で預金金利は非常にゼロに近いところでずっと推移していますので、利ざやが縮小してきている、ということは、全国的にもそうなのですが、東海地域においてもそういう傾向があります。他方で、金融機関は、東海地域で依然として大変積極的な貸出態度をとっていますし、貸出金利が低下するもとで、企業や家計の経済活動には確実にプラスの影響を及ぼしていることは確かだと思います。ただ、今申し上げたように、利ざやが縮小してきているということも事実ですので、その辺りについては、今後ともよくみていきたいと思っています。現時点で、利ざやが縮小してきたということが、金融仲介活動の制約になっているとはみておりません。

§6Haruhiko Kuroda

これは貸出の増加をみても、企業の設備投資あるいは家計の住宅投資などの状況をみても、全国的にみても比較的順調に伸びており、金融仲介活動の制約になっているとは思っていませんが、利ざやが縮小していることは事実ですので、今後とも金融仲介活動に対する影響が出ないかどうか、よくみていきたいと思っています。最後に、先程も申し上げたように、東海3 県の金融機関は比較的、これも全国平均と比較してですが、融資対象の拡充とか、あるいはビジネスマッチングによる販路拡大、海外ビジネスのサポート、事業承継や創業、M&A支援など、色々な面で積極的に取り組んでいます。また、家計向けでも、住宅ローンが非常に大きく伸びていますし、これが住宅投資を大きく支えているわけですが、カードローンとか、その他ライフステージに応じた色々な家計の金融ニーズの取込みにも注力しており、こういったことは全体として地域経済の活力向上につながっていくことを期待させるものだと思います。いずれにしましても、マイナス金利自体が、経済に対してプラスの影響を持つ一方で、金融機関の利ざやに対する圧迫要因になっているということは、その通りですので、その辺りも含めて今後ともよく点検していきたいと思っています。

§7Question

米国大統領にトランプ氏が就任するということで、当地の経済に与える影響を伺いたいと思います。

§8Haruhiko Kuroda

次期大統領の政策運営については、まだ私どもも十分承知しているわけではありませんので、あまり先走ったことを申し上げるのは適当ではないと思います。しかし、これまでのところ市場は歓迎ムードであり、米国の株も大幅に上昇し、米ドルも強くなっているということです。そう申し上げたうえで、むしろ現在の米国経済がどうかということを一言申し上げます。ご案内の通り、 G7といいますか主要国の中では、米国経済が一番順調に成長しており、特に雇用が拡大し、家計の支出に支えられて、回復傾向を強めているということです。7~9月の実質GDPが米国では前期比年率+2.9%ということで、今年の前半はやや低めの成長率だったわけですが、非常に高い成長になっていますし、10月の非農業部門の雇用者数の増加も 16 万人強ということで、雇用・所得環境が着実に改善を続けており、家計支出も堅調に推移しているということです。先行きについても、鉱工業部門や外需の面でやや力強さが欠けているのではないか、という指摘もありますが、緩和的な金融環境のもとで、堅調な家計支出を起点として、民間需要を中心に成長が続くとみられています。

§9Haruhiko Kuroda

何と申しましても、米国経済は世界最大の経済であり、様々なイノベーションで世界経済を引っ張ってきた経済でありますので、こういった比較的順調な成長がさらに続いていくことを期待していますし、新しい大統領のもとで、上下両院ともに共和党が過半数を占めたということですので、適切な経済政策運営が行われて、世界経済あるいは米国経済に好ましい影響をもたらすことを期待したいと思います。いずれにせよ、まだ私どもも十分把握しているわけではありませんし、新政権発足まで2 か月強残っていますので、今後ともよく政策運営の方向性や、その影響をみていきたいと思っています。

§10Question

今の質問に関連して、米国での政策運営の仕方、方向性をみていきたいということですが、できましたら中部経済への影響をお聞きしたいところです。要は日本経済にとってプラス面、マイナス面の両方に米国の政策が関わってくると思うのですが、その辺りは両方のサイドからみてどの部分でプラスになりどの部分でマイナスとなると現時点ではお考えでしょうか。

§11Haruhiko Kuroda

先程申し上げたように、新政権の経済政策の詳細が分かっているわけではありません。これまで報道されているところによると、移民であるとか中国やメキシコとの貿易等について色々なことが言われていますが、これらは、日本経済に直接影響が及ぶというよりも、もし何かあれば間接的な影響があるかもしれないということです。一方、 TPPは、日本と米国が中心となって、太平洋湾岸諸国が一体となって世界最大規模の自由貿易地域をつくるということです。TPPが成立すれば、関税がゼロで自由に貿易ができ、投資その他についても様々な保護がもたらされるということで非常に画期的なものであり、日本経済にとっても当然プラスですし、まして、ものづくりの中核である東海経済にとっては大きなプラスとなるはずのものであると思います。このTPPがどうなるかというのは、尐なくともオバマ現政権のもとで議会を通すというのは非常に難しくなったと言われていますし、トランプ氏が大統領候補者としてTPPには賛成しない、反対だと発言されていました。新政権になってどのような対応をとられるか分かりませんが、もしTPPができないということになると、現実にまだない制度ですけれども、それができれば非常に大きなプラスになったはずのものができるかどうか分からない、という意味では、潜在的に得べかりし大きなメリットが失われる可能性があるということは言えると思います。

§12Haruhiko Kuroda

その他の規制緩和であるとか、減税であるとか、インフラの投資であるとか、これも報道ベースでしか知りませんが、それらは基本的に米国経済を拡大させ、成長させるものであろうと思っています。そういうところがより多く評価されて、既に米国において株が大きく上昇し、ドルも強くなっているのだと思います。従って、日本あるいは東海経済にとっての影響という点では、後者の部分は、米国経済を拡大させ成長させるという意味で日本あるいは東海経済にとってプラスだと思いますし、 TPPについては、それができれば非常に大きなプラスになったものができるかどうか分からなくなった、潜在的には得べかりし大きなプラスが失われる可能性がある、という意味ではマイナスと言えるかもしれません。まだ両者ともはっきり分かっておりませんので、あくまでも報道ベースのことを勘案する限りでは、そういった影響が考えられると思います。

§13Question

本日 7~9月のGDPが公表されまして、年率換算で+2.2%と3 期連続のプラスとなったわけですが、これに対する評価や、足許あるいは将来の景気の認識について、改めてお伺いします。

§14Haruhiko Kuroda

ご指摘のように、本日公表されました本年の第3 四半期のGDPは、前期比年率+2.2%ということで、3 期連続のプラス成長となりました。内訳をみると、輸出が、震災からの挽回生産、あるいはIT関連の需要の増加などを反映して、増加しています。また、国内需要の面では、個人消費が、台風など天候要因の影響を受けながらも、雇用・所得環境が着実に改善するもとで底堅く推移するなど、国内需要全体として概ね横ばいの状況にあるということで、全体としてみると、わが国経済が基調としては緩やかな回復を続けているということが改めて確認されたと思います。+2.2%というのは、おそらく市場が予想していたよりもかなり上振れていると思いますが、かなりしっかりした内容だと思います。

§15Question

今のGDPの質問に関連して、消費の現場をみると、やはり値下げの圧力というものがみられるわけですが、デフレ脱却への道のりをどのように捉えておられるか教えて下さい。

§16Haruhiko Kuroda

おっしゃるとおり、足許で生鮮食品を除く消費者物価は小幅のマイナスとなっています。エネルギー品目を除いたベースでみても、3年続きのプラスであるとはいえ、プラスの程度も尐し縮小してきており、全体として、足許の物価上昇率は弱めになっているということは事実です。その中で、ご指摘のような企業の価格設定についても、やや慎重な動きがみられるということも事実だと思います。もっとも、先日の金融政策決定会合で出された政策委員会メンバーの物価見通しの中央値をご覧頂くとお分かりのように、2018年度頃には 2%に達するような動きを示しています。そこにいく大きな理由としては、本日の懇談会でも申し上げましたが、1 つにはエネルギー価格がどんどん下がっていかない限り、下げ止まっただけでも消費者物価の上昇率を押し下げる効果はなくなるわけですし、このところ年の初めから比べると原油価格もかなり上がってきています。従って、原油価格の下落が消費者物価上昇率を引き下げるという要因は、年度末までには完全に消えてしまうだろうと思います。これだけでも消費者物価の上昇率をプラスに転換する力があると思っています。それから2 番目には、この政策委員会の経済見通しの中央値の表もご覧頂くとお分かりのように、2016年度+1.0%、2017年度が+1.3%、2018年度が+0.9%という見通しになっています。

§17Haruhiko Kuroda

要するに 1%程度の成長がずっと続くということですので、わが国の潜在成長率が+0.5%を割っているような状況のもとでは、当然のことながらGDPギャップを縮めていきますし、失業率をどんどん下げていくという効果があります。従って、物価を押し上げ、賃金を押し上げるという効果が、この需給ギャップの縮小、失業率の低下ということからみても、十分期待できるということです。3 番目には、予想物価上昇率自体が、実際の物価上昇率に引きずられて低下してきたわけですが、今申し上げたような状況で、実際の物価上昇率もプラスになり上昇していくという過程の中で、予想物価上昇率自体も上昇していくという要素がありますし、さらに付け加えますと、9月の金融政策決定会合で決定した「オーバーシュート型コミットメント」という形で、物価上昇率の実績が実際に2%を超えても金融緩和を続けるという、いわば 2%の「物価安定の目標」に対するコミットメントをより強化したわけですので、いわばフォワードルッキングな意味でも、物価上昇率の予想に対してプラスの効果があるだろうと思っています。

§18Haruhiko Kuroda

いずれにしても、原油価格の下落が止まって上昇に転じているということ、潜在成長率を上回る成長がずっと続くと見込まれること、それによって、当然、需給ギャップも縮んでいって、賃金や物価が上がっていくということ、それから3 番目には、予想物価上昇率自体も上昇していくということで、足許で確かに若干のマイナスになっていることは事実ですが、政策委員会としては、2018年度頃には 2%に達する可能性が高いとみています。

§19Question

本日の講演でも、物価上昇を達成するための 1 つの要素として、「賃上げ」に予想物価上昇率を反映してはどうかというお話をされていたように思いましたが、改めて、今後の賃上げ動向についてどうみているかを教えて下さい。

§20Haruhiko Kuroda

先日の金融政策決定会合でまとめた展望レポートでも申し上げていますが、来年の春闘の動向に非常に注目しているというのはその通りです。企業収益は非常に高水準が続いています。円高の影響により製造業の一部で今年度の収益が若干減尐するというところはみられますが、非製造業や製造業の全体を通じてみると、極めて高い企業収益が続いています。一方、失業率はどんどん下がってきて3%ということですし、有効求人倍率は二十数年来の高さになっているということです。企業収益は非常に高く、労働市場は極めてタイトであるという状況ですので、当然、賃金は上がっていくということで、現に上がっているわけです。特に非正規、つまりパートとか契約社員の方の賃金はどんどん上がっていますが、正規の方の賃金というのは、あくまでも春闘で年一回、交渉で決まるというところが非常に大きいわけですので、今申し上げたような企業収益とか労働市場のタイトさを反映して、春闘も賃上げがスムーズに進んでおかしくない、そういう客観的な情勢は整っているとは思います。具体的にどのような水準で労使の交渉がまとまるかについては、これはあくまで労使交渉に任されておりますので、具体的な数字等を申し上げる立場にはありませんが、企業収益や労働市場の状況からみて、正規の職員の方々の賃金も上昇していく、十分合理的な理由があるとみています。以上