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日本銀行記者会見2017年2月23日木内登英, 審議委員

木内審議委員記者会見(2017年2月23日)要旨

全文

§1Question

2 点お聞きします。1 点目は、今日の懇談会の内容と、出席者の方からの意見として当地の状況に関しどのようなお話があったのかについて、2 点目は、当県の足許の経済状況をどのようにみられているのかについて、お願いします。

§2Takahide Kiuchi

1 点目についてですが、本日の金融経済懇談会では、山梨県の行政、財界、金融界を代表される方々にご出席を賜りまして、地域経済の現状や課題、そして日本銀行の金融政策運営に関する貴重なお話・ご意見などを多く頂きまして、非常に有意義な意見交換ができたと考えています。まずは、ご出席頂きました方々や関係者の皆様方に御礼を申し上げます。参加された方々からの多岐にわたるご意見のなかで、特に印象深かった点を整理して申し上げたいと思います。まず、当地、山梨県の経済は、緩やかに回復しつつあり、有効求人倍率も一頃と比べると改善傾向にあるとの話を伺いました。一方で、県内企業の多くは中小零細企業であるということもありまして、経営環境は概して厳しく景気の回復実感は乏しいとの意見も聞かれました。また、海外の政治経済動向を踏まえた先行きの不透明感の高まりなどもありまして、賃上げなどには慎重にならざるを得ないという話もありました。次に、当地では高齢化や若年層の県外流出といった人口問題への対応が中長期的にみて最も重要な課題の 1 つであるという話がありまして、これに対しては、産学官のほか金融業界あるいは報道・マスメディアも含めた連携を通じて対応策を講じていくことが必要である、といった話も多くの方から伺いました。

§3Takahide Kiuchi

この点につきましては、宝飾、農業、織物をはじめ、地場産業の育成やPRの推進、子育て・教育などの生活環境の整備などを通じて、山梨県の魅力を高める取り組みが既に始まっているという、非常に心強い話を伺いました。また、中部横断自動車道の開通やリニア中央新幹線の開業も見据えて、観光資源の整備や企業誘致のための特別措置の実施なども進めており、人や企業を一層呼び込むことによって、当地経済のさらなる活性化に繋げていこうといった話も伺いました。2 点目ですが、甲府支店が定例の金融経済概観で当地の景気に対する判断を発表しているところでありますが、足許では「緩やかに回復しつつある」と認識しています。詳細にみますと、生産は国内外での工場高度化やデータセンター関連投資の増加などを背景に、半導体製造装置、産業用ロボット、電子部品・デバイスを中心に緩やかに増加していると考えています。この間、公共投資や住宅投資が県内景気を下支えするなかで、個人消費も、衣料販売などに弱さは残しつつも、全体としては雇用・所得環境の改善を映じて底堅い動きとなっているというように考えています。先行きにつきましても、海外経済のリスクに注視する必要があると思いますが、世界経済の拡大ペースが徐々に高まっていくなかで、輸出に牽引されるかたちで当地の経済も緩やかな回復が続くものと考えています。

§4Question

2 点伺います。1 点目ですが、本日の挨拶要旨で、2%の「物価安定の目標」からみて依然として物価上昇率が低位で推移するもとで、近い将来に長期金利の目標水準を引き上げることには大きな問題がある、と指摘していますが、実際に近い将来、こうした引き上げを検討しなくてはならない局面が可能性としてどれくらいあって、どういう状況において起こりうるのでしょうか。敢えてこのように述べているのは、その可能性について市場でも声が少し出ているからなのか、という問題意識でお伺いします。2 点目は、挨拶要旨からは、いずれは政策の正常化を適切なタイミングで検討すべきとされているようですが、実際にそういうことを検討すべき時期や条件などについてもう少し具体的にお願いします。過去における早過ぎる正常化によってデフレが長引いてしまったという指摘もあって、今の政策でも緩和が行われているということもあると思いますので、そういう観点からお願いします。

§5Takahide Kiuchi

1 点目ですが、現在のイールドカーブ・コントロールは、オペレーション上の困難さを抱えていると思っています。挨拶要旨にも書きましたが、昨年11月の米国の大統領選挙をきっかけに、米国の長期金利が上がり、そうするとどうしても、日本の金利にも上昇圧力がかかるということがありました。これへの対応策は、基本的には、国債の買入れの量を増減する、つまり金利が上昇するときには買入れ額を増やすというかたちで対応していくということですが、金利の動きが非常に激しいときには、国債の買入れ額を予想外に増やさなくてはいけないということにもなり、私はそれをコストだと思っています。国債の買入れに限界がある、あるいは買入れを増やすことによって国債の市場流動性が低下すれば、どこかの時点で国債市場が非常に不安定になる可能性があると思いますので、買入れ額を増やすということはコストだと思っています。もう 1 つの対応策として、金利目標を引き上げるということでそうした圧力を弱めるということもできるわけですが、あまり頻繁に金利の目標値を変えますと、また次の金利引き上げがあるのではないかといった市場のスペキュレーションが起きることにより、実際の金利にも上昇圧力がかかるというかたちで、金利のコントロールがより難しくなる可能性もあります。

§6Takahide Kiuchi

また、長期金利は政策金利ですので、短期政策金利と同様に物価上昇率 2%の達成という方針に基づいているものであるにも拘わらず、2%の達成が全く見えていない状況のなかで、技術的に金利のコントロールが難しくなったために長期金利の目標値を上げるということは、2%の「物価安定の目標」達成のために政策を実施しているという説明と矛盾してしまうことになり、コミュニケーション上非常に難しいことになります。このように、国債の買入れを増やしていくのもコストであるし、金利目標を引き上げるのも難しいということで、政策がある意味行き詰まってしまう可能性があると私は思っています。ではその時に、どういった解決策があるのかと言いますと、私自身が提案していますように、金融政策の操作目標をイールドカーブから国債の買入れ額に移して、さらには買入れペースを徐々に落としていくということではないかと思っています。ちなみに、これは金融引き締め策ではありません。政策効果――つまり国債の買入れによって金利がどれだけ下がるかということ――は、基本的には日本銀行の保有国債の残高で決まっていると思っています。

§7Takahide Kiuchi

ですから、買入れのペースを落としても残高を減らすということにならない限りにおいては、緩和が縮小することにはならないと思っていますし、一方で買入れペースを落とすことによって、国債買入れの持続性を高めることができますので、緩和の効果を損なわずに買入れの安定性、持続性を高めるという点で、非常に良い政策なのではないかと私自身は思っています。ご質問の 2 点目ですが、私自身の回答としては、ただ今申し上げた通りです。こうした政策に移行することで、政策の安定性や持続性を高めていくことができます。そのもとで、経済状況が非常に良くなれば、どこかの時点で、保有国債の残高を減らしていく、あるいは短期、長期ともに政策金利を引き上げていくことが必要になってきますが、そこまではまだ視野に入っていません。正常化の第一ステップとして、国債の買入れペースを落としていくということです。結果として落ちていくということではなく、目標を持って秩序立てて落としていくということが重要です。イールドカーブ・コントロールのもとでは、国債の買入れは 80 兆円のめどは持っていますが、実際には買入れペースは落ちているわけです。そういう意味では、私が正常化と考えている方向に事実上はやや進んでおり、この点は私も評価をしています。

§8Takahide Kiuchi

ただ、話は戻りますが、海外の要因で金利が上がってくると国債の買入れをまた増やさなければならなくなるので、せっかく正常化に向かっている流れがまた巻き戻されてしまうということがイールドカーブ・コントロールという枠組みの大きなリスクではないかと考えていますので、その枠組みには反対しています。

§9Question

挨拶要旨で、「巨額のバランスシートのもとで生じうる短期金利引き上げ時の日本銀行の財務環境の悪化といった様々な金融緩和の副作用」に言及していらっしゃいます。まだまだ先のことだと思いますが、日銀が今の金融緩和の枠組みから脱していく過程で、日銀の財務が赤字になる、あるいは債務超過になる可能性についてどのようにお考えでしょうか。また、その赤字、あるいは債務超過のスケールについて、どれくらいの規模になる可能性があるとお考えでしょうか。

§10Takahide Kiuchi

バランスシートの規模が大きくなることは、「量的・質的金融緩和」、資産買入れ策の大きなコストです。これは、海外、例えばFRBでもそのような理解がされています。バランスシートが非常に肥大化した時の問題はいくつかありまして、例えば、国債の買入れ残高を増やして、しかもそれが簡単には減らないということ自体が、財政ファイナンスではないかという観測を生んでしまうのではないか、という問題があります。また、ご指摘のとおり、正常化に向かう時に日銀当座預金への付利金利を引き上げていくと、保有国債からの利子収入以上に利払いが増えるため、いわゆる逆ざやになり、赤字になる可能性があると思われます。私自身がシミュレーションをしているわけではないので、規模感は申し上げられませんけれども、資産買入れ策の大きなリスクの 1 つと認識しています。これについては、ご承知のとおり色々な意見がありまして、中央銀行の財務の健全性は果たして重要な問題なのかどうかという点について、例えば、長い目で見ればそれは重要な問題ではないという意見もありますが、私としては非常に深刻な問題と受け止めています。どういう問題があるかと言いますと、まず赤字になり、財務体質が悪化し、自己資本が毀損されていくということが、我々の本来の使命である、「物価の安定」という使命にとって大きな逆風になる可能性があると思います。

§11Takahide Kiuchi

日本銀行は会計規程で自己資本比率 10%程度という目標を掲げています。財務の健全性を非常に重視しているということを標榜しているわけです。このもとで、もし金融政策の正常化の過程で赤字になり、自己資本が毀損されて自己資本比率が下がっていく時に、金融市場では、中央銀行が物価の安定よりも財務の健全性の回復を優先する政策を行うと考える可能性が生じます。それは何を意味するかと言うと、利子収入を増やす一方、利子の支払いを増やさないということなので、できるだけ付利金利を上げないことになります。その一方で、インフレ期待が大きく高まってもそれを容認し、長期金利が上昇するもとで、買入れを続けている限りにおいては、国債の利子収入が増える。そうしないと、会計規程という我々のルールに反することになるし、収益悪化により国庫納付金も納められなくなる。国庫納付金は政府の歳入の一部でもありますので、やや政治的な問題になりやすい。政治的な問題になると、日本銀行の独立性に何がしかの悪影響を及ぼすことになるので困る。こういった観点から財務の健全性を優先する政策を行うとの見方が金融市場で広がる。そうすると日本銀行の最も重要な使命である「物価の安定」は二の次になってしまうので、インフレ期待が不安定になる、金融市場が不安定となるというかたちで問題が発生し、結局は国民のコストになってきます。

§12Takahide Kiuchi

このように、財務の健全性の問題は非常に重要な問題であると考えています。今のバランスシートの規模から考えると、金融政策正常化の過程では非常に大きな衝撃が収益あるいは財務に及ぶ可能性があるということを踏まえてリスク管理をする必要があると考えています。もう 1 つは、金利を上げる過程だけではなくて、既に我々は多くのリスク資産――ETFやJ-REIT等――を買っています。それらの価格が大幅に下がった時には減損処理をする必要があるので、それによって収益が悪化する、自己資本が毀損される可能性があります。政策が正常化へ向かうのがかなり先だとしても、そのもっと手前の時期に、株価が下がるといったときには、財務の問題が表面化して金融市場の不安定化に繋がってしまい、それが経済、国民生活にとってマイナスになる可能性があります。そういうことを考えますと、国債だけでなく、リスク資産を含めてこれだけバランスシートを拡大するもとで、リスク管理をどうしていくかが非常に重要な課題になっていくと考えています。

§13Question

挨拶要旨のなかで、金融政策運営における第 1 の柱、第 2 の柱について言われていますが、今のボードメンバーのなかで木内審議委員ともう一人を除く他の方々は第 2 の柱のリスク、金融インバランスについてあまり重要視されていないような感じがしています。7月以降の人事でどういう方が審議委員になられるのかは分かりませんが、ハト派というかリフレ派の方が来られるのでしたら、第 2 の柱である金融政策運営に関わるリスクの点検のところが、何かできないようなかたちになって、日本銀行だけの問題ではなく日本全体の問題でちょっとシリアスな感じがしますが、委員は現状をどのように見ているのかお聞かせ下さい。

§14Takahide Kiuchi

政策委員会の他のメンバーがどう考えているかは、申し上げられませんし、将来の体制などの話もできませんが、ご指摘いただいた第 1、第 2 の柱には私は非常に拘りを持ってきました。第 1 の柱は、2年先、3年先の経済や物価が安定したパスに乗っているかどうかを点検するもので、実はこれをチェックするのが展望レポートです。第 2 の柱は、ご指摘の通り、例えば、経済・物価が安定したパスに乗っているようでも、バブルが生じる、金融不均衡が生じる、つまり資産価格が非常に上がっているような時には、必ずしも経済が安定しているとは言えないと思いますので、これにも配慮した金融政策をしなくてはならない、というものです。つまり長い目で見て、確率は大きくなくても、日本経済に非常に深刻な打撃を将来与える可能性がある金融不均衡の形成にも配慮した金融政策をしましょうというのが第 2 の柱です。第 2 の柱については、80年代のバブルの苦い経験から来ています。当時、物価は安定していたのですが、資産価格が大幅に上昇していたことへの日本銀行の対応が必ずしも適切ではなかった。もちろん、日本銀行の金融政策の失敗だけが、バブルの形成あるいはバブル崩壊とその後の経済の不振の原因ではないと思いますが、色々な要因のなかの 1 つとして、その時に日本銀行が物価を重視し過ぎたという面があったと思います。

§15Takahide Kiuchi

表面的な物価は、円高の影響や原油安の影響から 80年代後半非常に安定していたのですが、そのなかで超低金利が長く続く、あるいは長く続くという期待が高まるなかで、資産価格が非常に上がってしまい、それが下落に転じた時に、金融システムそれから実体経済が非常に大きな打撃を受けました。ですから、2%の物価目標だけを見て金融政策運営をしていてはいけないという意味でも、このルールは非常に重要です。これは、日本銀行としての 80年代の苦い経験を踏まえた重要なルールなのです。もう 1 つ、第 1 の柱はマクロ金融政策に関するものですが、第 2 の柱はと言うと、マクロ金融政策の面もありますが、金融システム対策でもあります。我々に与えられた使命は「物価の安定」もありますが、もう 1 つ「信用秩序の維持」というのが日銀法のなかで定められていて、これが金融システムの安定です。日銀の使命、目的は 2 つあり、これらをどう調整しながら金融政策を行っていくかは非常に大きな課題ですが、我々は通常のマクロ金融政策の方針のなかに実は信用秩序の維持、金融システムの安定という、もう 1 つの使命も織り込んだかたちの政策運営方式にしています。これが第 1 の柱、第 2 の柱に基づく点検です。これは他の中央銀行にはないと思いますので、そういう意味で日本銀行の非常に重要な発明品でもあり、私自身としては非常に重要と考えています。

§16Takahide Kiuchi

金融システムの安定という観点からは、先程の例えば国債を大量に買い入れていることで不均衡が生まれていないかどうか、資産市場に不均衡が生まれていないかどうか、あるいはマイナス金利政策が、金融仲介機能を損ない、時には金融機関に過度なリスクテイクを促して、今申し上げたような不均衡の発生に繋がっていないかどうか、というのを常に注視していなければなりません。第 1 の柱のみに基づいて 2%の物価目標達成のためなら何を犠牲にしてもいいという考えだと、非常に危ういと個人的には考えています。

§17Question

2 点お伺いします。まず、イールドカーブ・コントロールに関してですが、5 つのマイナス面を挙げていらっしゃいますけれども、導入から 5 か月経つなかで、いくつかのマイナス面が顕在化したとすれば、その具体的な時期と場面を教えてください。もう 1 つは、一昨日に日本銀行で開催された「市場調節に関する懇談会」で、今後の調節運営を安定化させるために、オペ実施日を事前に公表することを検討しているという話が出たと聞いていますが、こういう説明についてその狙いどおりにいきそうかどうか伺います。

§18Takahide Kiuchi

イールドカーブ・コントロールの問題点は、挨拶要旨でも指摘していますが、量と金利を同時に目標にすることはできないわけであり、金利で目標を定めたら量のコントローラビリティーは下がってしまうということです。イールドカーブ・コントロール導入直後の市場は比較的安定していたのですが、米国の長期金利が上昇に転じた昨年の 11月大統領選挙後の動きをみると、株価が上がりましたので日本経済にとってはやや追い風のような印象も受けましたけれども、イールドカーブ・コントロールの観点からすると、逆風であったと思いますし、政策の持続性・安定性を測るうえでの最初の大きな試練になったと思っています。それ以降は、ご案内の通り、オペレーション上は非常に難しい状況が続いていますし、特に 1月のオペの回数を減らすといったことをきっかけに、市場との対話がややギクシャクした面があったのではないかと思います。そういう意味では、私が考えていたように、イールドカーブ・コントロールのもとで量のコントロールが難しくなり、結果的に大量の国債を買わなくてはならなくなってしまい、国債の買入れペースを落として安定性を高めるというような望ましい方向に向かっていかないリスクが既に顕在化していると思っています。

§19Takahide Kiuchi

今回の見直しのきっかけとなったのは、米国大統領選挙であったり、その後の我々のオペレーションであったわけですが、底流にあるのはイールドカーブ・コントロールという枠組みの難しさということです。時間が経てば経つほど実体経済の環境が変わってくるわけですが、目標とする金利水準は一定ですから、両者の間に歪みが溜まっていく。その歪みを国債買入れの増減で調整していくのが基本的な考え方ですので、時間が経てば経つほどおそらく実際の目標と市場実勢に照らした理論値とのかい離が開いていくことになり、オペは時間とともに難しくなっていく。さらに、市場に大きな外的ショックがあった時には、相当難しくなっていくということです。これまでのところ、運営が相当に難しくなってくるところまでは行っていないかもしれませんが、米国の大統領選挙後が最初の試練であったと思っています。2 番目については、正式に発表されたものではないと思いますが、報道されているところで私が理解している点に基づいてお話ししますと、1月のオペの買い入れの回数を減らすといったあたりから、市場とのコミュニケーションがやや難しくなってきました。金融機関は、日本銀行にオペで売ることを前提に国債を入札で買うわけです。非常に短期間で日本銀行に売るので、在庫の管理のリスクは小さい。

§20Takahide Kiuchi

ところが、回数が減ると、思いのほか長く在庫として持っていなければならないので、そこが大きなリスクとして意識されたのだと思います。それに対して、今回報道されたような変更が行われるならば、予めオペの日程を明らかにしておくということですから、そうしたリスクを下げる効果があると思います。ただ、これについては、報道されたことが正しいとすれば、何かあった時にオペの回数を増やすことができますが、発表してからオペをキャンセルすることはないということであれば、金利が上がっているときにはオペの回数を増やすことがありますが、金利が下がっているときに既に発表したオペの回数を減らすことはないということになります。しかし、実際には、先行き市場の金利が下がることもあり得るわけですので、果たして金利上昇に対応した今回の変更がオペ全体の安定性に非常に貢献するような決定打になるかどうかについては、やや疑問があると思っています。また、今申し上げたような経緯で見直しが講じられるならば、それは金融市場局が決める話で、政策委員会が決定するものではないのですが、この底流にあるのは、達観すれば、金利を維持するためには国債の買入れはコントロールできないという、イールドカーブ・コントロールが持っている本来的な難しさといいますか、そういったところが表れていると思います。

§21Takahide Kiuchi

ですので、報道されたような対応によって、オペの安定性が確実に高まるかというと、先程から申し上げている理由で、決定的な安定策にはならないと私自身は思っています。

§22Question

7月に任期を終えられますが、5年間を振り返って、どのような思いかをお聞かせ下さい。具体的には、最初の大規模緩和に賛成されて、その後の追加緩和、マイナス金利政策、長短金利操作付き量的・質的金融緩和については反対をされて、さらには国債買入れ額の減額を提案されているということですが、そういった面でご自身が果たされた役割も含めてお願いいたします。また、今も非常に難しい状況になりそうだというご指摘もありましたが、これまでどこかで金融政策を転換するポイントはあったのかどうかということもお願いいたします。

§23Takahide Kiuchi

私自身の考えは、金融政策決定会合毎の提案や、このような記者会見の場、金融経済懇談会の挨拶要旨のなかで既に申し上げてきた通りです。その意味で正常化はもっと早いタイミングで始めておくべきであったと思っています。マイナス金利政策自体は副作用の方が大きいと思っているので、引き続き反対です。イールドカーブ・コントロールについては、先程申し上げたような多くの問題点があって、その効果との見合いで考えると、やはり副作用の方が大きいのではということで反対です。私自身としては、国債の買入れ額に目標を定めて、秩序立って下げていくような提案や、物価上昇率 2%の目標を中長期の目標にすることで、金融政策の柔軟性を高めることができる、正常化に向かえるよう環境を改善するという提案をしてきました。私の考えとしては、それらが望ましい代替案ということです。それから、7月まで任期がありますので総括するにはまだ早いのですが、1 点だけ申し上げますと、政策委員会の審議委員というのは、金融政策決定会合のメンバーというだけでなく、その他の日本銀行業務全体の最高の意思決定機関のメンバーでもありますので、様々な決定も行うわけですが、政策委員会の設計時に期待されていたような機能を最大限果たしていくこと、つまりメンバー9 名全員がそれぞれ独自の考え方をしっかり言うということ、また、全会一致制ではないということが重要なポイントです。

§24Takahide Kiuchi

全会一致制では必ず意見を統一しなくてはいけないわけですが、金融政策決定会合やそれ以外の会合でも、多数決制で決定がなされるということは、少数意見を重視する設計であるということです。その時点では少数意見であっても、その後その意見が段々と影響力を持ってきて、多数意見になることもあるという点も含め、少数意見を殺さないという、非常に民主的な制度です。そう考えると、政策委員会制度というものが、本来、新日銀法が成立したときの精神に照らして、非常に有効に機能すれば、日本銀行の政策や業務の向上に繋がり、ひいては国民の生活・経済の安定に繋がることになります。そうした点から、私も一生懸命その役割を果たそうと考えて、金融政策でもそうですが、それ以外の業務全般についても、議論が進むなかで自分の意見は述べ、賛成できないところは賛成しないということによって、非常に建設的な意思決定に貢献してきたと思っています。さらに、金融政策については、少数意見の一部が外部に公表される制度になっているということは、かつて日本銀行の内部だけのある意味一方的な意見だけで政策が決まってしまい、それがバブルの発生を許してしまったのではないかという反省に基づいて、外部の人を入れ、色々な少数意見も踏まえたうえで、最終的に多数決によって決定したということを対外的に示すことになり、政策に係る意思決定の信頼性を高めるものです。

§25Takahide Kiuchi

自分自身もこうしたところに貢献したいと思っておりましたし、残りの任期でも同じように努力したいと思っています。

§26Question

県内経済に話を戻しますが、午前中の懇談会で日銀の金融政策に対してどのような意見や要望があったのか、そしてそれに対してどのような回答をされたのか、お聞かせください。マイナス金利政策に関するものでも構いません。もう 1 点は、先程、県内経済は緩やかな回復が続くといった話でしたが、これを続けていくには、どういうことを山梨県の産業界・金融界は気を付けていけばよいかお伺いします。

§27Takahide Kiuchi

1 点目については、直接のご要望は頂きませんでしたが、ご質問というかたちでご要望に近いものを頂きました。一つ目は、マイナス金利政策を導入するに至った経緯・議論はどのようなものであったか、そして二つ目は、世界的に長期金利が上昇しているなか、日本の長期金利を一定に維持していることで、結果的に内外の金利差が開いている状況をどのように考えているのか、というものです。これらのご質問の裏側にあるご意見について、あくまで推測ではありますが考えてみますと、マイナス金利政策が特に金融機関への収益を悪化させ、ひいては金融仲介機能を損ねることが懸念されるなか、そうしたマイナス面を考慮したうえで、どこにプラスの効果を見出して、どのような判断からマイナス金利の導入を決めたのかが問題意識としてあるのではないかと思います。二つ目については、せっかく金利が上がっているのであれば金融機関にとっては運用利回りも良くなるなかで、世界的な金利は上昇している一方で日本は金利を抑えているので、機会損失が起こっているのではないか、そういった問題意識だと思います。マイナス金利については――私は反対していますが――その導入に至った経緯を申し上げますと、政策金利がゼロからは下がらないという制約が生じて以降、いわゆる非伝統的な政策を日本銀行としても模索してきたわけで、それは 90年代の終わり頃から始まっていました。

§28Takahide Kiuchi

そのなかで国債の買入れを行って長期金利を下げるといった政策を行ってきましたが、私の見る限りでは、長期金利の低下、特に実質長期金利の低下が――これが政策効果を生むわけですが――どうも 2014年辺りからあまり進まなくなってきた。そういう問題意識もあって、なかなか物価上昇率が 2%を達成しないから、追加的に政策をしなければということで、マイナス金利政策を導入したということではないかと申し上げました。その時に、1 つポイントとなったのは、欧州ではマイナス金利政策を2014年春からやっていましたが特に大きな問題が起こっていないだろうといったことでした。ただ、欧州の金融機関と日本の金融機関は構造が異なり、欧州の金融機関の場合は、市場からの資金調達比率が高く、マイナス金利政策により調達コストも相応に下がるので、その意味では、貸出金利は下がるものの利ざやは一気に悪化することはないのですが、日本の金融機関の場合は、負債の相応に当たる 7 割が預金なので、預金金利はマイナスにはならず下がらない一方で貸出金利が下がれば、欧州以上に金融機関の収益が悪化するので、欧州の事例を日本に導入する時の何らかの判断に、もしかしたら問題があったのではないかということを、私自身の意見として申し上げました。

§29Takahide Kiuchi

また、イールドカーブ・コントロールについては、私は反対しているので、むしろそこはコントロールしないで自然なかたちで金利上昇を促した方が良いのではないかということを私はご回答しました。2 点目の当地の話については、私の方からは 1 点だけ申し上げたいと思いますが、やはり当地は製造業の比率が高い、輸出の比率が高いので、海外経済・為替にそれなりにセンシティブな地域だと思っています。今日の懇談会でも、確かに足許の経済は良くなっているが、米国、欧州といった海外要因次第では、金融市場が混乱するかもしれないので非常に不安であると、不安だと賃上げも設備投資もなかなか進まないというご意見でした。日本全体としてそういう面があり、足許の企業活動の何がしかの制約になっていると思いますが、日本銀行あるいは日本政府が海外要因の不確実性を取り除くことはできませんので、そういったところが目先のネックになっているのではないかと思っています。山梨県の活性化といった点では、山梨県独自の強みを生かしていくべきだと思っています。これには 3 点考えられまして、一つ目は東京に隣接している立地の良さ、二つ目は世界遺産の富士山をはじめとする豊かな自然、三つ目は優れた技術を持った企業の集積、こうしたメリットを最大限活かして県外、国外へ市場を開拓していくといったことが重要ではないかと思っています。

§30Takahide Kiuchi

事例を上げますと、山梨ワインのブランド化を進めて世界に打って出る、外国人客誘致に向けたインフラ整備を積極的に進められているなどといったことが経済の活性化に役立つ取組みなのではないかと思います。以上