← 戻る
日本銀行記者会見2017年3月16日黒田東彦, 総裁

総裁定例記者会見(2017年3月16日)要旨

全文

§1Question

本日の金融政策決定会合の決定内容とその理由についてお聞かせ下さい。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース、すなわち、保有残高の増加額年間約 80 兆円をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営することとします。また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。わが国の景気については、緩やかな回復基調を続けています。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、新興国の一部に弱さが残るものの、緩やかな成長が続いています。そうしたもとで、輸出は持ち直しています。国内需要の面では、設備投資は、企業収益が改善する中で、緩やかな増加基調にあります。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移しています。この間、住宅投資と公共投資は、横ばい圏内の動きとなっています。以上の内外需要の緩やかな増加に加え、在庫調整の進捗を反映して、鉱工業生産は持ち直しています。また、金融環境については、極めて緩和した状態にあります。

§3Haruhiko Kuroda

先行きについては、わが国経済は、緩やかな拡大に転じていくとみられます。国内需要は、極めて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿ると考えられます。輸出も、海外経済の改善を背景として、基調として緩やかに増加するとみられます。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、0%程度となっています。予想物価上昇率は、弱含みの局面が続いています。先行きについては、消費者物価の前年比は、エネルギー価格の動きを反映して 0%程度から小幅のプラスに転じたあと、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。リスク要因としては、米国経済の動向やそのもとでの金融政策運営が国際金融市場に及ぼす影響、中国をはじめとする新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱問題の帰趨やその影響、金融セクターを含む欧州債務問題の展開、地政学的リスクなどが挙げられます。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。

§4Haruhiko Kuroda

また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に 2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

§5Question

米国が堅調な経済指標や物価情勢を踏まえて、利上げを決めました。一方で、ECBも昨年12月の理事会で今年末までの緩和延長を決めてはいるものの、ユーロ圏内の 2月の消費者物価指数が前年同月比で 2.0%上昇しています。日本の物価上昇が取り残されているともいえるのではないかと思います。各国の事情も踏まえて、それぞれの理由についてどう捉えていらっしゃるかお聞かせ下さい。

§6Haruhiko Kuroda

米国、欧州、およびわが国の消費者物価の動向をみると、既往の原油価格の下落に伴う押下げ寄与が縮小するもとで、いずれの地域においても、いわゆるヘッドラインの物価上昇率が高まる傾向にある点では共通していますが、エネルギー価格を除いた基調的な物価の動きには差があります。すなわち、米国では、労働市場で雇用が拡大し、賃金が緩やかな上昇を続けるもとで、コアベースのインフレ率は、前年比+1%台後半での推移を続けています。欧州では、コアベースのインフレ率は、前年比+ 1%弱で推移しており、この点、ECBは「基調的なインフレ率の上昇トレンドはまだ明確にみられていない」としています。この間、わが国では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、1月は+0.1%と、2015年12月以来のプラスに転じましたが、生鮮食品とエネルギーを除くベースでみると、昨年初以降、前年比プラス幅の縮小傾向が続いたあと、このところは一進一退の動きとなっており、1月は+0.2%となっています。こうした動向を踏まえ、物価については、 2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されているが、なお力強さに欠けていると判断しています。もっとも、先行きについては、展望レポートで示している通り、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて、2%に向けて上昇率を高めていくと考えています。

§7Haruhiko Kuroda

日本銀行としては、今後とも、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、強力な金融緩和をしっかりと推進していく所存です。

§8Question

昨日、春闘の集中回答の結果、小幅ながら4年連続でベア実施となる見通しとなりました。今年の春闘の受け止めと、物価に与える影響をどうみていらっしゃるかお聞かせ下さい。

§9Haruhiko Kuroda

ご案内の通り、春闘については、現在、労使間で交渉が行われており、全体の賃金設定動向には、なお見極めが必要な状況であると考えています。その上で、昨日の大企業の集中回答の結果をみると、多くの企業において、4年連続でベースアップの実施が見込まれています。従来申し上げている通り、日本銀行は、企業収益や賃金の上昇を伴いながら、消費者物価上昇率が緩やかに高まっていく、という好循環を作り出していくことを目指しています。4年連続でのベースアップの実現・実施に向けた動きは、こうした経済の好循環の実現を後押しすると思います。今後とも、労使双方において、こうした好循環の実現に向けた前向きの取組みが拡がっていくことを強く期待しています。

§10Question

米国の利上げについて、新興市場を中心とする世界の金融市場への影響をどう考えていらっしゃるか、お聞かせ下さい。2 点目ですが、ドイツのバーデンバーデンで 17日からG20財務大臣・中央銀行総裁会議が始まりますが、世界経済の成長に向けて、自由貿易の重要性や為替の安定などに関して、 G20がどういうメッセージを出すのかが注目されています。会議の見通しと、総裁自身、何を期待されるのかお聞かせ下さい。

§11Haruhiko Kuroda

FRBの金融政策運営自体について、何か具体的にコメントすることは差し控えたいと思います。FRBは、事前の市場の予想通り、0.25%の利上げを実施しました。その声明文では、「インフレ率は最近上昇しており、長期目標である 2%に近づいている。エネルギー・食品を除くインフレ率はほとんど変化がなく 2%を幾分下回る水準」と評価されています。また、イエレン議長は、記者会見において、「米国の経済状況は、雇用と物価の目標を達成し維持するための金利の上昇を正当化する形で展開すると予想している」という従来の見方を確認しています。FRBは、今後も、米国の経済・物価動向や、世界経済・金融情勢を見極めながら、金融政策に関する判断を適切に行っていかれると考えています。現時点で、米国における金利の上昇が、新興国の経済に何か深刻な影響を与えている状況にはないと思っていますが、もとより、新興国も様々ですので、今後とも国際金融情勢が新興国に及ぼす影響については、注意深くみていく必要があると思っています。それから、G20については、今週末に行われるものですので、具体的なことを申し上げる状況にはありません。会合ではいつもの通り、世界経済の現状と先行き、それから国際金融情勢について議論が行われると思います。

§12Haruhiko Kuroda

また、G20としての成長戦略の実施や、金融規制の改革、国際金融アーキテクチャーなどについても、引き続き議論をしていくことになると思います。何といいましても、今回のG20では、米国の新政権のもとで、ムニューシン財務長官が初めて出席されることになりますので、米国の経済政策等についても深い関心が持たれるのではないかと思っています。いずれにしても、G20は、いつもそうですが、財務大臣・中央銀行総裁会議が何度かあり、最終的にG20の首脳会議に向けて、合意を深めていくプロセスであり、今回は、ドイツが議長国となったその最初の出発点であると思います。

§13Question

マーケットでは、日銀が長期金利の操作目標を、年内のどこかの時点で引き上げるのではないかという観測も出ています。量については「オーバーシュート型コミットメント」ということで、割と明確に解除の条件を定めていますが、長期金利をいつ上げるかという情報が、少し不足しているように思います。日銀として、どのような条件が整ったら、長期金利の目標を引き上げるのか、またはその検討が視野に入ってくるのか、その条件のようなところについて、お話を頂ければと思います。

§14Haruhiko Kuroda

日本銀行が昨年9月に導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」というフレームワークのもとで、経済・物価・金融情勢を踏まえながら、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するために、最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促すことにしています。当然のことながら、長期金利の操作目標についてもこうした考え方に立って、毎回の金融政策決定会合において、判断していくことになります。金融政策は、ご案内の通り、金融市場あるいは金融機関を通じて効果が実体経済に波及していきますので、政策に関する考え方あるいは前提となる経済・物価情勢についての判断を、できるだけ分かりやすく説明して、理解を得ていくことが大変重要だと思います。ただ、現状では 2%の「物価安定の目標」までには、まだなお距離がありまして、これをできるだけ早期に実現するためには、現在の金融市場調節方針のもとで、強力な金融緩和を推進していくことが適切だと考えています。

§15Question

質問が 2 点あります。1 つは先程、G20についてお話がありましたが、声明文の素案では、保護主義に対抗するといった言葉や、通貨安政策の回避といった文言が削除されるといった報道もあるのですが、改めまして、黒田総裁は議論の場で何を訴えていかれるのかお聞かせ下さい。もう1 点は、今日の公表文の中でリスク要因として米国経済の動向やそのもとでの金融政策運営が与える影響が示されているのですが、この辺りをもう少し詳しくお聞かせ下さい。

§16Haruhiko Kuroda

まず、G20の声明文ですが、事務方で色々議論をしており、更にはG20の実際の会議を踏まえつつ、現地で事務方が色々詰めていく話ですので、現時点で私から声明文の内容について、何か申し上げることは避けたいと思います。従来からG20に限らず、IMFCもOECDも、保護主義が世界貿易の伸び率を低下させることになると、世界経済の成長自体にもよくない影響があると指摘しています。自由な貿易投資体制を維持していく必要があることは、従来から言われていますし、その点については、私も含めて、日本の考え方が変わることはないと思います。為替については、財務省の所管事項ですので、私からは何とも申し上げられませんが、為替政策に関しては、考え方についても国際的な議論・合意がずっとできておりますし、財務省が何か考え方を変えたとは、私は認識していません。それから、米国経済は、非常に順調に成長しており、雇用・所得環境が改善する中で、家計支出を中心に回復していますが、それだけではなく、企業も含めて広い分野で米国経済全体として改善しています。特に個人消費がしっかりと伸びていますし、また、最近のデータでも非農業部門の雇用者数が23.5 万人増加するなど、消費の伸びを支える雇用環境の着実な改善が続いていますので、米国経済自体について心配する必要があるとは思っていません。

§17Haruhiko Kuroda

他方で、FRBは物価の安定と雇用の極大化に向けて、しっかりした政策を続けています。また、政府は新しい政権になって減税あるいはインフラ投資という形で、財政の拡張を主張していますが、いずれも議会で法案ないし予算が通らないと実現できませんので、今後の議論次第だと思います。政府と議会から、財政政策や規制緩和を中心にした構造改革などについて、まだ具体的な政策が出てきていませんので、そうした面で不確実性が残っているとは思いますが、米国経済自体は、現状も先行きもかなりしっかりしてきたと言えると思います。

§18Question

先程の質問に関連しますが、長期金利について、どのような条件になれば長期金利を引き上げるのか、その条件のようなものを将来整備する、あるいは対外的に示す、といったお考えはありますでしょうか。もう 1 点は、最近話題になっているヤマト運輸が人手不足を背景に、宅配便の料金体系を見直して、実に 27年振りに、バブル期以来ですが、全面的に値上げする方針です。その背景にはネット通販を多くの人が利用していることがあると思うのですが、このコストに見合う対価を支払うという考え方が、消費者に受け入れられるとみていらっしゃいますでしょうか。また、これが物価に及ぼす影響、あるいはその物価を押し上げる効果への期待などについて、総裁のお考えをお願いします。

§19Haruhiko Kuroda

まず1 点目のご質問について、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」にしても、それ以前のものにしても、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために金融政策を行っています。従って、ご指摘の10年物国債金利の操作目標についても、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することとの関連で、議論しなければならないと思います。特に金融政策の運営にあたっては、最近エネルギー価格が非常に動いたりしますので、こういったエネルギー価格などの一時的な要因を取り除いて、物価の基調的な変動を的確に評価する必要があるのではないかと考えています。具体的には、エネルギー価格を除いた指標を含めて、様々な物価指標を点検するとともに、物価の基調を決定する要因である需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率の動向、更にはそれらの背後にある経済の動きもあわせて判断する必要があると思います。従って、ヘッドラインの物価上昇率あるいはコア、コアコアといった指標がある数値に達したからといって、直ちに長期金利の操作目標を変えるということにはなりません。あくまでも、今申し上げたように、物価の基調的な変動を十分に勘案して、毎回の金融政策決定会合で議論して決めていくということであって、何か1 つの指標がある数字になれば機械的に変更するというようなものではないと思っています。

§20Haruhiko Kuroda

それから 2 点目についてですが、個別の企業の経営判断についてコメントするのは、あまり適当ではないと思いますので、あくまでも一般論として申し上げますと、日本銀行としては 2%の「物価安定の目標」を実現するにあたって、企業の収益や雇用・賃金の増加を伴いながら、物価上昇率が次第に高まっていく、という好循環を作り出していくことを目指しています。この点、企業が、人手不足の強まりに対応して、持続的に労働力を確保していくための取組みを進めるとともに、そのために財やサービスの価格などを見直すといった動きは、こうした好循環のメカニズムに沿ったものであると考えています。

§21Question

9月に「イールドカーブ・コントロール」を導入しましたが、その後、世界的な金利上昇というような形の、大きな局面変化が到来していると思います。この間、日銀は長期金利をゼロ%程度に抑制し続けているわけですが、それによって緩和の効果は、着実に強まっていると認識しておられるのかどうか。また、その効果があるとすれば、具体的にどこに出ているのか。そして効果が出ているとすれば、景気や物価の先行きの下振れリスクが、当時よりも低くなっているのかどうか。これらの点について、ご認識をお願いします。

§22Haruhiko Kuroda

先程来申し上げている通り、「イールドカーブ・コントロール」は、短期金利について政策金利残高に対する-0.1%の金利と、10年物国債金利のゼロ%程度という操作目標、この2 点を決めることによって、適切なイールドカーブを実現していく政策です。「量的・質的金融緩和」あるいは「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」、今回の「イールドカーブ・コントロール」のもとでの金融緩和、いずれも、基本的なチャネルは同じで、実質金利を十分に下げて、投資あるいは消費にプラスの影響を及ぼし、経済が成長し、雇用が拡大することを通じて、賃金や物価を押し上げていくチャネルを考えています。実質金利を引き下げる場合には、当然ですが、名目金利を引き下げることと、予想物価上昇率を引き上げていくことと両方あります。最近の状況を申し上げると、予想物価上昇率については、昨年前半はずっと下がってきたわけですが、昨年の後半以降、このところは大体横ばいで推移しています。そうしたもとで、「イールドカーブ・コントロール」を行うことにより、実質金利は引き続き非常に低い水準で推移しています。このように、日本の金融政策は、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、今申し上げたようなチャネルを通じて、効果を発揮していくものです。

§23Haruhiko Kuroda

従って、外国の金利が上がったからといって、日本の金利を上げなければならないとか、上げる必要があるとは考えていません。そうしたもとで為替に影響が出るのではないかということを言われているのかもしれませんが、為替は金利差だけでなく、色々な要素で動きます。それから、私どもの経済・物価の見通しについては、為替について現状よりも円高になるとか円安になるとか、そうした特定の見通しは前提にしていませんので、あくまでも先程申し上げたようなチャネルを通じて 2%の「物価安定の目標」を実現することを想定しています。下振れリスクが小さくなったかどうかについては、経済全体でみれば、昨年の後半以降、世界経済がかなりしっかりとした回復、成長を示しています。特に、米国がそうですし、また中国も底堅い動きを示していますので、日本経済も含めて世界経済にプラスの影響を与えています。将来に向けた下振れリスクについては、前回の展望レポートでも示した通り、経済や物価については、上振れリスクよりも下振れリスクが依然として大きいという状況にあるという認識であり、あまり大きく下振れリスクが減少したとも、必ずしも言えないのではないかと思います。

§24Question

公表文では、リスク要因について、米国の金融政策運営という文言が書き込まれています。米国が金利正常化に向かう中で、今後どういったリスクが考えられるのでしょうか。それから、マイナス金利についてもお伺いします。保険ですとか銀行ですとか、マイナス金利の影響を受けて収益が悪化している業界があります。今後、今の金融政策パッケージの中で、副作用が大きいマイナス金利をまず外す、ということは考えられるのでしょうか。もしも残すのであれば、マイナス金利の部分を場合によっては改めて深掘りするという可能性もまだ残っているのでしょうか。

§25Haruhiko Kuroda

1 点目につきましては、公表文でも示している通り、米国経済の動向やそのもとでの金融政策運営が国際金融市場に及ぼす影響、ということです。米国の金利が上昇していく場合には、ドルは世界的に使われている通貨ですし、特に新興国の中にはドル建てで資金を調達している国も多いので、このような点についての影響など、色々な影響が考えられます。ただ、先程申し上げたように、今の時点で新興国全体として何か問題が生じているということではないと思います。それから、リスクとして考え得るとは言いながらも、他方で米国経済の成長が加速していく中で金利が上がっていくのであれば、米国経済の加速による世界経済に対するプラスの影響がありますので、金利が上がるという面だけで、非常にリスクが大きいとは言えないと思います。ただ、可能性としてここにありますように、国際金融市場に様々な影響を及ぼし得るので、その点はリスク要因として注意していく必要がある、ということかと思います。2 点目については、「イールドカーブ・コントロール」のもとで、適切なイールドカーブの実現を図っていますが、これは、実体経済、あるいは物価、そして金融市場に対する影響も勘案しています。従って、今ご指摘されたような保険や年金に対する影響も考慮しつつ、現在の「イールドカーブ・コントロール」を行っているということです。

§26Haruhiko Kuroda

経済・物価・金融情勢という3 つの面をみながら、金融政策を運営していますので、さらに金融緩和を大きく進める必要があるということになれば、マイナス金利についてもさらに深掘りする可能性がゼロとは言えないとは思います。ただし、先程来申し上げている通り、日本経済は緩やかな回復過程を辿っていますし、物価も現時点ではまだ 0%程度ですが、今後 2%に向けて緩やかであっても着実に上昇していくと見込まれますので、今の時点で何かそういうことが考えられるということではないと思います。-0.1%のマイナス金利が政策金利残高に適用されていることの影響も十分考慮しつつ、2%の「物価安定の目標」の早期達成に向けて、引き続き適切な金融緩和を進めていきたいと考えています。

§27Question

総裁就任からもうすぐ 4年になりますので、関連して 2 点伺います。今日の会見でも、物価目標の達成までにはまだ距離があるということでしたが、2年で達成できるとおっしゃっていた 4年前に比べて、金融政策の効果や可能性について、認識が変わったところがあれば教えて下さい。もう1 点、市場では黒田総裁がもう1 期続投するのではないか、と予想する人も少なくないのですが、実際に指名を受けた場合には、引き受けるお考えがあるのか、あるいは何かの理由で断られるのか、お考えがあれば教えて下さい。

§28Haruhiko Kuroda

まず第 1 点についてですが、日本銀行は2013年4月に 2%の「物価安定の目標」を2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現する、ということを目指して、「量的・質的金融緩和」を導入しました。その後の状況をみますと、わが国の経済・物価は大きく好転しまして、物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなった、と思います。ただ、一方で2%の「物価安定の目標」は実現できていません。その背景としては、昨年9月に公表した「総括的な検証」でも示した通り、原油価格の下落、消費税率引上げ後の需要の弱さ、新興国発の市場の不安定化などの逆風によって、実際の物価上昇率は下落し、もともと過去の物価上昇率に引きずられやすい予想物価上昇率が、横ばいから弱含みに転じたということで、そうした逆風が昨年の半ば頃まで続いたわけですが、そうしたことが主な原因であると考えています。そうした中で、日本銀行は 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するという方針を堅持しておりまして、2014年10月の「量的・質的金融緩和」の拡大、昨年1月の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」など、必要に応じて政策面での対応を実施してきました。そして今申し上げた通り、昨年9月には「総括的な検証」を行って、それを踏まえて、それまでの政策枠組みを強化する形で「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました。

§29Haruhiko Kuroda

今後とも 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで強力な金融緩和をしっかりと推進していく所存です。金融政策の効果がないとか、あるいは金融政策の効果が低下したとか、そういった考えは持っていません。それから 2 番目のご質問は、私の任期は 2018年の 4月までですが、総裁の任命は国会の同意を得て、内閣が任命するということですので、私から何か申し上げる立場にはございません。

§30Question

原油価格が、最近、急ピッチで下落しています。日本の物価がアダプティブなのであれば、期待インフレ率に影響を与え得るとみるべきなのか、一時的ということで現時点ではコメントが難しいということなのか、ご所見をお願いします。2 点目は、昨日のFOMCのドットチャートをみると、3 回利上げすることになっていますが、これは、日本銀行にとっては緩和効果が高まって好ましいという理解でよいのか、前の財務官の渡辺博史さんが、日米金利差が10年で 400bps くらいまで近づくと国際的な批判がやかましくなるのではないかと心配されているのですが、この辺のお考えをお願いします。

§31Haruhiko Kuroda

まず第 1 点ですが、原油価格は非常に変動しますし、短期的な動きはなかなか予見し難いのが実情です。このところ 1 バレル 50 ドルを割ったり、50 ドルの上にいったりという状況で、ひと頃の 55 ドル前後よりは少し下がっていることは事実です。ただ、それがどういう理由によるのかについては、色々な議論があってまだはっきりしていません。私どもとしては、原油価格について特別な知見があって、今後の見通しを作るという立場にはありませんので、毎回の展望レポートのときに、原油価格について、先物市場の動向などをみて、こういう動きになっていますということを、政策委員会のメンバーに示していますが、原油価格の前提を全員で一致させるということはしていません。それぞれの委員がどのように原油価格をみるかということについては、基本的には、特別の見方というよりも先物市場の動向などをみているのではないかと思います。原油価格が今後どのようになるかということについて、非常に大きな変化が確定的に起こっているともまだ言えないと思います。原油価格の動向が足許の物価に影響を及ぼすことは事実ですし、足許の物価の動きが適合的な期待形成という形で予想物価上昇率に影響を与えることも事実ですが、足許の物価自体は、原油価格の動きだけでなく、特に需給ギャップの状況などにも左右されます。

§32Haruhiko Kuroda

今のところ、日本経済は、潜在成長率を上回る成長が当面続くとみていますので、需給ギャップは更に縮小ないしはプラスになっていくと思います。このようなことを反映して、物価上昇率も次第に高まっていくと思います。原油価格について、今の時点で何か大きく見方を変えるというような状況には、市場の見方を含めてなっているとは思いませんし、いずれにしても、昨年の 30 ドルを割るというようなところからみれば、むしろ足許の原油価格の動きは物価を押し上げる方向に働きつつあります。ただ、先程来申し上げている通り、先行きの原油価格の動向は分かりません。いずれにしても、予想物価上昇率は、実際の物価がどう動くかによってある程度影響されるのはその通りですので、実際の物価上昇率が需給ギャップの縮小などによってどのように動いていくかということが極めて重要だと思っています。FOMCのドットチャートなどの解釈については、色々な人が色々なことを言われていますので、私から具体的に何か申し上げることはありません。仮に年3 回利上げするということになるにしても、それ自体は、米国経済がしっかりと成長を遂げていくこととあわせて起こり得ることですので、それ自体がマイナスになるとは思っていません。

§33Haruhiko Kuroda

そうしたもとで、米国の金利が上がっていくことがどういう影響を及ぼすかについては、先程来申し上げている通り、わが国の金利につきましては、経済・物価の動向に最も適切なイールドカーブとなるように操作していくということですので、米国の金利が上がったから日本の金利も上がっていくということにはならないと思います。そういう意味では、直接的な影響はないと思っています。為替についての影響は、昔からよく金利格差論がありまして、あるときは短期金利であったり、それもカバー付きとかカバー付きでないものとか、それから長期金利、あるいは中期の金利だったりと、色々なことが議論されますが、その時々で、円ドルレートが日米金利格差に則して動いているときもありますし、そうでないときもあります。私自身としては、為替という非常に多くの要素に影響されるものについて、単なる二国間の金利格差だけでなにか色々言うというのは、あまり予測としても当たらないし、政策論としても、日本の「イールドカーブ・コントロール」という金融政策はあくまで日本の経済・物価・金融情勢を勘案して決めていくものですので、そういった外国の金利が上がる云々ということによって左右されるものではないと思っています。

§34Question

4月に米国との新しい経済対話がスタートする予定になっています。そこで、テーマの1 つとして財政金融政策の連携が話し合われると伝えられています。もちろんこの対話自体は政府ベースの話だと思いますが、金融政策もテーマになるとすると、日銀として何らかコミットすることはあるのか、あるいはないのか、経済対話におけるマクロ経済政策の議論に対して日銀はどう捉えているのかという点についてご説明頂けますでしょうか。

§35Haruhiko Kuroda

ご指摘の通り、日米首脳会談において、麻生副総理とペンス副大統領の両議長のもとで「経済対話」が行われることが決まり、報道されるところによると、4月には第 1 回の「経済対話」が行われるのではないかと言われていることは、よく承知しています。また、その「経済対話」が今後行われる際の内容についても、経済政策、インフラ投資やエネルギー分野での協力、貿易・投資ルールの3 つを柱とすることになったことも、承知しています。ただ、そのうえで申し上げますと、「経済対話」の具体的な内容や体制等については、今後、両国政府間で調整が行われると承知していますので、現時点では私どもも具体的にどのようになるのかは存じていません。従って、それを現時点では見守っているということです。日本銀行としては、今後とも 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで強力な金融緩和をしっかりと推進していくという点には全く変わりはありません。

§36Question

マーケットの一部では、日銀が、長期金利について今年にも利上げをするかもしれないとの見方があります。これは、コアCPIが 1%位まで上昇してくるのではないか、そうすると長期金利の上昇圧力が高まり、それをさすがに日銀は抑えられないのではないか、指値オペや買入れ額の増額でも抑えられなくなって日銀が利上げをしなければならなくなるのではないか、という見方です。ただ、今日の総裁の発言をお伺いして、やはり、基調の物価が 2%に明らかに上がってこない限り、日銀は利上げをしないという理解でよろしいのでしょうか。

§37Haruhiko Kuroda

私が申し上げたいのは、本年の後半にかけて、消費者物価のコアというか、コアコアというか、そういったものが前年比 1%近くになるといったことで直ちに、機械的に長期金利の操作目標を引上げていく、という考え方はとっていないということです。現在の政策は、 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために行っています。物価の基調的な変動を的確に評価する必要があり、様々な指標を点検して、特に需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率の動向、そしてその背後にある経済の動きといったものを総合的に判断して、毎回の金融政策決定会合で、長期金利の操作目標について議論していくということです。昨年9月に「イールドカーブ・コントロール」を導入した時に、適切なイールドカーブを実現するように長期国債の買入れを進め、必要があれば指値オペも実施しますと申し上げ、それに沿って運営してきて、適切な「イールドカーブ・コントロール」は実現できています。ご指摘のように国際的な金利が上がっていくと、「イールドカーブ・コントロール」ができなくなるとか、あるいはその影響によって、先程申し上げたような金融政策の判断とは別に、金利を引き上げざるを得なくなるとか、そういったことは全く考えていません。「イールドカーブ・コントロール」は十分機能していますし、今後ともそれは機能していくと考えています。

§38Haruhiko Kuroda

長期金利の操作目標については、ぴったりゼロ%程度に釘付けするというようなことではなくて、ゼロ%程度といっています。政策金利残高に対する付利は、日銀が決める金利ですので、これはぴったり決められます。一方で、長期金利に関しては、市場で決まってくるものについて、操作目標を決めて、それになるように長期国債の買入れを進めていくということですので、「程度」と断っているように、一定の幅があるわけですが、これまでのところ適切に「イールドカーブ・コントロール」が実現できていますし、今後それが困難になるとか、できなくなるとか、そういったことは考えていません。

§39Question

昨年11月に会計検査院から、財務に配慮した形での金融政策運営を、という指摘をされていると思います。国会などでも答弁されていると思いますが、改めて、特殊な存在の中央銀行がなぜ、財務に配慮しながら金融政策を行わなければならないのかという点を伺えればと思います。

§40Haruhiko Kuroda

この点は、既に引当金の制度を拡充して、日本銀行の収益の振れを抑制するようにしています。量的緩和を進めていく中で、収益が拡大するかもしれませんが、量的緩和、あるいは今の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」により、将来、2%の「物価安定の目標」が安定的に実現されることになれば、当然、出口の議論が出てくるわけですから、そのようになった場合には収益が減少する可能性があります。日本銀行は利益を極大にすることを目標にしているわけではありませんが、国とは別の法人ですし、国だけでなく民間の出資者もいますので、その財務状況を適切に考えていく必要があることはその通りだと思います。また、利益が大きく上下に振れると、当然、国庫納付金も大きく振れることになり、それは国にとってもあまり好ましいことではないと思いますので、日本銀行自身としても、政府との関係においても財務の状況は適切に管理をしていく必要があると思っています。ただ、財務の健全性が最大の目標ではなく、あくまでも日本銀行の目標は、日本銀行法に書いてある通り「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」ことです。物価の安定は最も大きな目標ですので、財務の健全性は常に考慮しつつも、物価の安定という最大の使命、課題といいますか、目標の達成に邁進していく必要があると思います。

§41Question

旧日銀法では必要があれば財務省から日銀にお金を送金することができると書いてありましたが、今の日銀法にはそのように明記されていないので、もし収益が減って、日本銀行が政策を行えなくなるという可能性もないとは言えないので、財務省との取り決めを新たに作るという話はあるのでしょうか。

§42Haruhiko Kuroda

結論を先に申し上げますと、そういう話はありませんし、そういう必要性があるとも考えていません。日本銀行は現在の日本銀行法に沿って運営されていますし、今ご指摘のような事態になるとは思っていません。それから、そもそも、中央銀行の役割は、物価の安定や金融システムの安定であり、そのために必要なことを行っているわけです。そうしたもとで、ご指摘のようなことになるとは考えていません。以上