布野審議委員記者会見(2017年8月2日)要旨
全文
§1Question
本日の金融経済懇談会で話題になった主な内容と、また、道内の経済状況について、現状や今後の見通し、課題などがありましたらお聞かせ下さい。
§2Yukitoshi Funo
本日は、当地の行政、経済界および金融界の代表の方々から、北海道経済の現状に関する貴重なお話を伺い、また相当突っ込んだ金融政策に関する質疑等を行い、非常に有意義な意見交換ができたと考えています。この場をお借りして皆様に御礼を申し上げたいと思います。懇談会では色々な意見交換があり、非常に話題も多岐にわたっていますので、私なりに纏めた形でお話したいと思います。まず、足許の道内景気については、「全体としてみれば回復している」という明るい意見が多かったように思います。1 つはインバウンドを含めた外需や、昨年の台風被害の復旧に向けた公共投資が寄与しているというお話を伺いました。また、個人消費も底堅く推移しているようです。一方で、「景気は厳しい」という意見もありました。特に少子高齢化や人口流出に伴って、人手不足や、後継者不足の問題等に直面しているといったファクターが、ある種、影を落しているという意見もありました。こうした現状に対して、アジアを中心とした海外の成長を取り込むような前向きな動きに着手されている話がございました。例えば、食料品の輸出や外国人観光客を取り込んでいくという動きが、相当活発に起こっているというお話を伺いました。
§3Yukitoshi Funo
私どもは、そうした道内経済の金融経済情勢について、今後とも札幌支店が中心になってモニタリングを行い、中央銀行の立場から経済の持続的成長に向けてお手伝いができるよう、また、金融システムの安定性の確保も図りながら、皆様と共に進んでいきたいと考えています。次に、私が北海道経済の現状や今後の見通し等についてどのようにみているかという 2 点目の質問についてです。今の金融経済懇談会での話と多少重複しますが、様々なお話をお聞きし、明らかに北海道経済は回復に向かっているという思いを強くしました。そうした回復の動きは広範囲に発生している一方で、不漁に伴う水産加工業での不振、海外需要に関する製造業の立地、また、観光資源がどういう所にあるかといった関係から、地域的なバラつきも相応にあるとみています。更に、全ての面で大きな問題となっているのが人手不足です。これについては、深刻さの度合いが加速しているという意見が多かったと思います。私からは、人手不足は全国的な課題である中、北海道においては、全国よりもより深刻に見受けられるという観察を踏まえて、取り組みの方向として 4 つの柱を挙げさせて頂きました。1 つ目は女性の活用、2 つ目は高齢者の活用、3 つ目は外国人労働者の活用、4 つ目は省力化投資、AI、ロボットという設備投資等の取り組みです。
§4Yukitoshi Funo
この 4 つの柱を相互に排他的に考えるのではなく、4 つ全てを使って全力を挙げて取り組むことが喫緊の課題に対する対処法ではないか、と述べさせて頂きました。
§5Question
北海道の経済は「回復」に向かっているということですが、一方で、日本の他の地域では景気「拡大」というように一歩踏み込んだ地域もあると思います。北海道だけ「拡大」までいかない、他の地域に比べて少し遅れている要因にはどのようなものがあるとお考えでしょうか。
§6Yukitoshi Funo
これは、どの時点で切るか、ということでもあります。私は、ベクトルとしては、多少遅れや前後はあるとは思いますが、特段北海道だけが他の地域に遅れているというようにはみていません。更に言えば、地域の括り方について色々な方法がありますので、どうするかは結構悩ましい問題です。各都道府県でみた場合には、北海道よりも深刻な人口問題、ないしは同程度の人口問題を抱えている県もあります。必ずしも都道府県の中で、北海道だけがより深刻であるという考え方をする必要はなく、相前後しながら、経済回復に向けて日本全国が今進みつつあるとみてよいと思います。
§7Question
午前の講演で生産性向上の重要性を訴えておられましたが、一方で 7月の展望レポートでは、生産性上昇が物価上昇を抑制する遠因にもなるという指摘もあります。そのような意味でいうと、生産性上昇と値上げの関係は複雑な面があると思いますが、その辺りについてどのように整理していらっしゃるか、トヨタでの経営の経験も踏まえて見解を伺えますでしょうか。
§8Yukitoshi Funo
その問題については、話を単純化するために会社をイメージして話をさせて頂くと、製品の市場でどのように競争していくかというテーマと、人という資源をどのように調達していくかという労働市場における競争力のテーマと、会社の内部プロセスとして、設備投資等を組み合わせながら、生産性をどのように上げていくかという、3 つのテーマがあると思います。これまでは大まかに言いますと、その中で 1 番重要なテーマは、製品の市場において競争力をどのように確保するか、具体的にいうと、製品の品質を上げると同時に価格を抑えて、お客様にどのように喜んで頂くかということによって競争力を高めるかというのが、企業の成功に非常に大きく重要なファクターである時代がずっと続いてきたと思います。ところがここにきて、これだけの人手不足になり、製品の市場での競争力ももちろん重要でありますが、労働市場における競争力をどのように確保していくのかが、成功にとって非常に重要なファクターになりつつあります。すなわち、賃金をどのように上げ、労働条件をどのように改善し、従業員という人の資源をどのように確保するのかということが、非常に重要な局面に入ってきており、これは様変わりの状態だと思います。そうした中で、内部の生産性を上げていくわけです。
§9Yukitoshi Funo
今ご指摘の話は、まだ会社によっては、製品の市場における価格を上げることを避けるために、生産性向上の果実を使っているという意味で、これがすぐに物価上昇につながらないというメカニズムもあると思います。ところが、将来を見渡しますと、製品の市場において値上げないし値段を維持し、会社内の生産性による果実をほとんど全て労働市場の競争力の確保のために使わなければ、労働力、労働投入量を確保できない時代にもう差し掛かりつつあるということです。これは、今、一時的に、会社によっては逆の動きや錯綜した動きになっていますが、労働市場での競争力が全ての会社にとって、非常に重要なサクセスファクターになりつつあると認識しています。賃金が上がり、それが消費の増加につながり、物価も上がっていくというサイクルの入口に、今差し掛かっているところです。私は、そういうサイクルがどんどん起こってくるのは時間の問題だと認識しています。
§10Question
いずれも物価の関係ですが、1 点目は、展望レポートにおける今年度のCPIの見通しは+1%台、皆さんもご承知だと思いますが、足許は+0.4%に止まっています。その物価を押し上げる重要なファクターである原油価格をみますと、原油価格の前年比は今年の 1、2月がピークだったと思います。エネルギーの押上げは、今年前半がおそらくピークで、どんどん押上げ幅が小さくなり、来年には押下げに寄与すると思います。今後、何が物価を押し上げていくのか、原油急騰をみているのか、大幅な円安をみているのか、それとも今お話にあったような企業による大幅な賃上げの全国急速展開なのか、その辺りのロジックについてお願いします。2 点目は、物価のモメンタムは弱いけれど維持されているというのが公式見解だと思いますが、モメンタムの定義を教えて頂きたいと思います。それはCPIの前年比のプラス幅が拡大しているということなのでしょうか。だとすれば、プラス幅が+0.4%から+0.3%、+0.2%となれば、それはモメンタムが失速していく、追加緩和が必要となるロジックになっていくのか、その辺りの整理をお願いします。
§11Yukitoshi Funo
最初の質問ですが、物価につきましては、原油価格は、今おっしゃられたようにこれから下がっていくとか、上がっていくとか、専門家によって予測が違いますので、私が素人として原油価格の予測について、特に強くこうだと言い切るのは適当ではないと思います。そのうえで、私は、原油価格がわが国の物価を押し上げていく要素については期待できない、というよりも期待しない方がよいと思っています。ただ一方で、これが相当な押し下げになるかということについても、そこまで悲観的には思っていません。大体過去数か月、40、50 ドル前後で推移し、この辺りで私自身は想定し、物価をみています。為替につきましては、1 ドル 110 円前後でここ数か月行ったり来たりしているわけですが、そのまま動くだろうという想定であり、私は、為替が円安に振れることを要因として物価が上がっていくというような想定はしていません。そこで、最後のご指摘に含まれると思いますが、需給ギャップが引き締まり、それが労働条件の改善、賃上げにつながり、消費に、そして物価につながっていくという自律的なモメンタムが今後働いてくることに私は期待しています。そのように考えていますので、どちらかというと、やはり物価についても息長くみるといいますか、急激な上昇があるとは期待していません。
§12Yukitoshi Funo
政策委員見通しの中央値も2018年度頃から今回2019年度頃にずれ込んだわけですが、そういう私の見方と、このようなずれ込みは、ある種、整合性があるのではないかと感じています。2 点目の物価のモメンタムについては、何とも悩ましく、私も数式で表されるような定義を特に持ち合わせていません。私が今、モメンタムが維持されているとみているのは、図表でみると需給ギャップが右肩上がりとなっていることを挙げられると思います。そういう意味で、モメンタムというのは現状及び過去のイナーシアが右肩上がりになっているその勢いの度合いを、将来にそれがどうつながっていくかということで、非常に主観的で、それぞれの政策委員の中でも、その見方については色々だと思います。私は、モメンタムは維持されていると思います。今の物価は、生鮮食品を除く消費者物価の前年比でみると、マイナス圏で底を打って上がってきています。その辺りをみて私はモメンタムが維持されていると観察しています。
§13Question
先程、懇談会において、金融政策についての相当突っ込んだお話があったとおっしゃっていましたが、どのような内容だったのか教えて頂けますか。相当突っ込んだとおっしゃっていたので非常に興味があります。
§14Yukitoshi Funo
相当突っ込んだというのはちょっと誤解を招いたかもしれませんが、新しい要素が出たわけではありません。色々なところで議論されていることで、一言で言うと副作用といわれているものです。例えば、金融機関の収益力の下押し圧力が累積的に掛かっているという議論や、金融市場の金融仲介機能が弱っているのではないかというご意見、ご指摘が金融機関の方を中心にあり、私の考えをお答えしました。お答えしたことを一言で申しますと、金融政策の決定にあたっては、私の記憶によりますと、昨年9月の「総括的な検証」以前は、経済・物価情勢をみて、と言っていましたが、「総括的な検証」の後は、経済・物価・金融情勢を踏まえ、と申し上げています。金融情勢の中の 1 つとして、金融仲介機能で発生し得る副作用についても常時注視しながら、毎回の政策決定において、政策委員のそれぞれの観察を踏まえて、副作用についても議論を交わし、決定していくのだと思います。そういう制度のうえで金融政策決定会合を運営していることを、通常よりも細かくご説明しました。
§15Question
副作用の指摘があったということですが、基本的には、総裁が言われるように 2%の物価達成は重要だと、布野委員も講演の中で 2%の物価達成と予想物価上昇率を 2%台にアンカーさせることが重要だと言われていました。今後副作用が更に大きくなる、そうなってくれば 2%の達成前であっても、政策の見直しがあり得るという理解でよろしいですか。
§16Yukitoshi Funo
まず出発点として、政策の見直しは毎回の金融政策決定会合であり得ます。会合の前に政策が決まっているわけではありません。毎回見直すわけです。その見直す時の要因、それぞれの委員が考える際に、経済・物価・金融情勢を踏まえることになっていますので、政策は毎回変わり得る、そういう制度であるということです。これを踏まえて、ご質問の趣旨、例えば 2%の達成前の政策見直しについてですが、+2%で物価が安定的に維持できるということを明示的に目標として、政府との間でも共同声明として表明しているわけです。それが重要ですから、その目標を踏まえたうえで緩和的な金融環境を維持するという方針があるわけです。その方針の具体的な緩和的な金融政策の中身については、今のままでロックインされているわけではなく、必要であればその都度討議をしながら修正を加え、変化を与えていくということです。
§17Question
午前中の講演についてですが、1 点目は、成長分野を確保する成長戦略が必要だという指摘の中で、産業間の労働者の移動も含んだ雇用の流動化を広範囲に進めるチャンスでもあると考えていらっしゃいます。この点はおそらくトヨタでのご経験も踏まえてだと思いますが、具体的な中身を教えて下さい。もう 1 点は、最近は 2%の「物価安定の目標」が高過ぎるという声も一部では挙がってきております。講演でもそういうご指摘をされていましたが、やはりそこは 2%を維持する必要があるという認識でよろしいでしょうか。
§18Yukitoshi Funo
まず雇用の流動化についてです。わが国の潜在成長率を引き上げつつ、経済を回復、成長させていくために、特に人材が不足する環境においては、生産性の低いところからより生産性の高い、付加価値を生み出すような職場、職種、会社に雇用が流動していかなくてはならないということです。これは当然のことですが、それを実行していくためには、労働需給がある程度タイトで、例えば個人が積極的に、今までの仕事を辞めてこちらに動こうと思った時に、今の仕事を辞めたら次に行くところが全然定まらないという状況では、そういうプロセスが円滑に進まないわけです。企業も企業の視点があるわけですが、あえて個人の視点で言わせて頂くと、自分が行きたい職場にスムーズに動け、かつ、できれば今の給料よりも高いところに移動していけるような環境をマクロ経済的に担保することは、流動化を促し、経済の拡大的な成長につながるという意味で、とても重要だと思っています。更に言うと、そのような環境を作り出すにおいては、金融政策には何がしかの貢献をする余地があると思っています。それから、 2%の「物価安定の目標」についてですが、私は一貫して 2%は非常に重要だと思っており、2年前の就任記者会見の時から 2%は重要だと申し上げています。ただ、2%を達成する時間軸については、各委員がそれぞれの考え方で見通しを持って金融政策決定会合に臨んでいます。
§19Yukitoshi Funo
2013年4月には 2年ということで出発しましたが、現在の運営の有り様としては、特に昨年9月からは明示的に 2年という時限的な制約はかませていません。ただし、できるだけ早く 2%に至る、そのためにどうしたらよいかという問題は当然あるわけです。できるだけ早くということは残っていますが、時限立法的にやらなくてはいけないということでは必ずしもありません。具体的にどういうことかといいますと、私は 2%を達成するには、やはり金融政策、財政政策、構造改革の3つが総合力を発揮して上がっていくということが非常に重要な要素だと思っています。特に忘れてはならないのは、2%というのは物価目標ではありません。「物価安定の目標」ということです。2%に安定するということが政策の目的になっていますので、そのためには、構造改革等は非常に重要なファクターであると思っています。以上