原田審議委員記者会見(2017年11月30日)要旨
全文
§1Question
1 点目は、今日の午前中に行われた懇談会では、どのような意見が交わされたのかお聞かせください。2 点目は、今の福島の景気の状況、経済の状況についてお尋ねします。復興需要がピークアウトを迎えたと言われて久しくなってきましたが、こうした中で、現状をどのようにみておられるのか、そして、今後の見通しをどのように感じておられるのかお伺いします。
§2Yutaka Harada
本日の金融経済懇談会では、当地を代表される方々にご出席を賜り、福島県内の金融経済情勢や震災からの復興状況に加え、日本銀行の金融政策運営に関する貴重なご意見を数多く頂き、有意義な意見交換ができました。この点について感謝申し上げたいと思います。懇談会の場では、ご意見が多岐に亘ったため、全てを網羅してご紹介することはできませんが、私なりに席上で聞かれた話題等を整理して申し上げたいと思います。福島県経済の足許の復興の状況については、県民の皆様のご努力により、着実な進展がみられるものの、依然として売上、利益率や県内総生産などが震災前の水準に回復していないとのご意見をお伺いしました。こうしたもとで、当地の景気は、震災後、福島県の経済活動を大きく底上げしてきた復興需要がピークアウトする中、風評被害などの影響もあって全国との格差が出始めている、先行きの不安が増している、といったご意見をお伺いしました。一方で、官民を挙げた福島イノベーション・コースト構想など、復興創生に向けた積極的な取り組みのほか、東京オリンピック・パラリンピックの機会を捉えた産業創出や、県産品のブランド向上に向けた取り組みなど、明るい話題も聞かれました。金融界の皆様からは、今後の金融政策運営について、2%の「物価安定の目標」の達成にこだわらない、柔軟な政策運営をお願いしたいとの要望を伺いました。
§3Yutaka Harada
私どもは、中央銀行の立場から物価安定のもとでの経済の持続的成長を実現していくことや、金融システムの安定性を確保することを通じて、当地経済を支える関係者のご努力がより大きな成果へとつながっていくようサポートして参りたいと思っています。2 番目の福島県経済の現状と今後の見通しについてのお答えですが、足許の県内景気は、震災からの復興需要によって公共投資や住宅投資が高水準にあるもと、雇用・所得環境の改善に伴う個人消費の持ち直しなどから、緩やかな回復基調を続けています。もっとも、復興需要がピークアウトする中、全国的な景気拡大の県内への波及は他の地域に比べて出遅れているように窺われます。すなわち、復興需要に関しては、例えば、公共投資が、公共工事請負金額でみて、震災前の 5 倍強となった 2014年度をピークに、足許、除染作業の一巡から 4 倍弱に減少しています。その一方で、これを補うことが期待される製造業の生産拡大の動きは、現状では弱いものにどどまっています。このため、福島県経済は、緩やかな拡大に転じている全国景気と対照的に、なお緩やかな回復基調という段階にとどまっていると評価しています。先行きについては、県内景気に下押しの力を及ぼしている公共投資が、来年度は減少ピッチが抑制されるとみられます。
§4Yutaka Harada
また、生産面では、いずれ全国の生産拡大の動きが県内にも波及してくることが期待されるほか、官民を挙げた、再生可能エネルギーの推進や、医療・ロボット関連産業の集積、研究開発拠点の整備が進んでいくにつれて、新産業の創生・拡大も見込まれます。こうしたことから、福島県経済は、当面、良好な雇用・所得環境が維持され、そのもとで、個人消費が底堅さを増していくことによって、緩やかな回復基調を辿っていくものとみています。
§5Question
震災から 6年半余りが経過して、福島県では着実に復興が進んでいますが、復興の状況全般に関して、今どのようなご認識でいらっしゃるのかお伺いします。
§6Yutaka Harada
未曽有の大災害・大災難となった東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故から、6年と 8 か月が経過しました。この間、鉄道、道路、港湾などの公共インフラの復旧、整備が進むとともに、いわゆる面的除染が概ね終了し、避難指示区域はこの春に県全体の 2.7%まで縮小するなど、福島県の復興は着実に進展していると認識しています。これまでの県民の皆様の粘り強いご努力に敬意を表したいと思います。もっとも、県内外へ避難されている方々はなお5 万人を超えており、避難者の帰還は現在進行中の課題です。また、避難指示区域において帰還の前提となる新たなまちづくりや住宅整備は緒に就いたばかりです。今後、そういった面も含めて、福島県の復興と創生が一段と進捗・加速していくことを心より祈念しています。
§7Question
1 点目は、懇談会の挨拶要旨の 21 ページで、賃金・物価が上がらないのは人手不足が不十分だからという結論をおっしゃっており、その前のところで本を引用されて、色々な議論があるとおっしゃっていますが、構造的あるいは制度的な問題で、労働組合がそこまで高い賃金を要求していないとか、あるいは労働市場改革が進んでいないといったことを無視してまでも、現在の金融政策を続けていけば賃金・物価とも上がるとお考えなのでしょうか。また、人手不足が不十分というのはどのようにして判断されているのか、あるいはどのような状況になれば人手不足がさらに進んだということが、どのような統計で今後確認できるのかという点を教えて下さい。それと、細かい点ですが、挨拶要旨で貧困率について述べていらっしゃいます。確かに改善はしているのですが、15.6%というのは今でも OECDの平均を上回っています。この点に関して、方向性と水準についてどのようにお考えでしょうか。
§8Yutaka Harada
まず、人手不足については、もちろん、様々な問題がありますが、これについて細かく議論していると終わらなくなってしまいますので、この文献を挙げたということです。ただ、私は、色々な議論があるけれども、賃金が上がらないのは人手不足が不十分だということが一番大きな問題だと思っています。金融政策だけで十分に賃金を上げることができるかとのご質問ですが、私は名目の賃金を金融政策で上げるということは十分に可能だと思っています。これと関連して2 番目の質問については、挨拶要旨では、需給ギャップを用いてフィリップス・カーブのグラフを書いていますが、ほとんど同じようなグラフを失業率を用いて書くこともできます。これでみますと、物価が 2%になるためには、失業率でいうと 2%台の半ば位にならないといけないですし、需給ギャップでみても 2%台の半ばにならないといけません。ですから、2 つの指標でみて、人手不足がそこまで続き、かつ物価がある程度上がるという状況が続けば、物価上昇率 2%を達成できるだろうと考えています。それから指標について、もう少し申し上げますと、有効求人倍率はこれまでで一番高くなっていますが、介護や保育など、特に介護は非常に求人倍率が高いため、その結果、平均も高くなっています。ただ、介護や福祉関係の仕事は、賃金を自由に決められるわけではなく、言わば公定賃金に近いものです。
§9Yutaka Harada
そのような中で何とか人をかき集めようと、みんなが行動しますので、その分野の有効求人倍率が非常に高くなり、結果として平均も高くなります。物価が 2%程度上昇していた頃の有効求人倍率は、もちろん介護需要はありましたが大きなウエイトを占めていませんでしたので、少しその指標の数字の意味が変わっているのではないかと思います。それから、貧困率は、もちろん、今のレベルがこれでよいと言っているわけではなくて、量的・質的金融緩和を続けた結果、良くなっているということを申し上げたということです。現在の格差の状況が良いとか悪いとかということを申し上げたものではありません。良い方向に進んでいるのは事実であるということです。
§10Question
お答えの中で、名目では賃金を上げることができるとおっしゃったのですが、実質で賃金を上げるためにはどうしたらよいのでしょうか。
§11Yutaka Harada
実質で賃金を上げるためには、労働生産性が上がらないといけません。労働生産性が上がるためには、金融政策だけでは駄目で、成長戦略、規制緩和、貿易の自由化など色々な面において――貿易自由化も広い意味での規制緩和だと思いますが――、広い意味で規制緩和が進んで経済が活力を取り戻すことが大事だと思います。ただ、このところの動きをみていますと、例えば金融緩和で人手不足が作られた結果、ビジネスプロセスの見直しが進んで、あまり効率的でないところに人員を配置していたのを取り止めることによって生産性が上がりました。それから、安定的な経済成長を作り出したことによって、安心して設備投資ができる。そうすると、新しい機械によって生産性が上がるわけですから、そういう意味では金融政策も、実質賃金を上げることに多少の貢献はしていると思います。
§12Question
1 点目は、黒田総裁が先日の講演で言及されて話題になっている「リバーサル・レート」について、そもそもそういうものはあるのかないのかをお伺いします。2 点目は、片岡委員が提案された追加緩和について、原田委員としては、片岡委員の提案に対して時期が間違っているということなのか、手段として賛同しかねるということなのか、どちらなのでしょうか。
§13Yutaka Harada
「リバーサル・レート」というものがあるのか、ないのかということですけれども、もちろん概念的にはそういうものはあり得ると思います。ただし、現状がそうであるのかと考えますと、私は現在行っている「イールドカーブ・コントロール」のもとでそういうことが生じているとは思っていません。現在の「イールドカーブ・コントロール」によって力強い金融緩和効果をもたらしていると考えています。2 点目の片岡委員の提案に対する私の考え方と、現状の「イールドカーブ・コントロール」への評価は同じですが、現在の「イールドカーブ・コントロール」は力強い金融緩和効果をもたらしていると考えています。それから、片岡委員の提案につきましては、金融政策決定会合での発言は主な意見および議事要旨を通じてのみ公表するということになっていますので、私からどういう議論があったかということについて、主な意見および議事要旨を超えるご説明することはできませんが、私としては、現在の金融政策は 2%の「物価安定の目標」に向けて十分な効果をもたらしていると考えています。もし、外的なショックがあって、これが不十分であるということになれば、私としては追加緩和をしなければならないと思っています。
§14Question
人手不足が不十分だという点を懇談会の挨拶の中で指摘されていますが、人手不足は今に始まったことではなく、90年代や 60年代にもそういった議論があったと思います。とりわけ人口減少社会と言われる中で、特に福島を始め地方経済ですと、人口減少によってマーケットの一段の拡張が見込みづらいという中で、例えば、原田委員がおっしゃっていたような新しい機械を入れて生産性を上げるという省力化投資というのは、ややもするとリスクになるという実情もあるのではないかと思います。現実的には、外食産業等で人手不足倒産等が起きている中で、一段の人手不足が必要というのは、立場によっては若干ラフな議論に映る方もいると思いますが、その辺をもう少しご説明頂ければ幸いです。
§15Yutaka Harada
まず、人口減少の中で人手不足は問題ではないかということですが、人が減れば需要も減るし供給も減るわけです。もちろん、細かいことについては、色々と議論はあると思いますが、ざっくり言えば需要も供給も減るわけですから、人手不足に対する影響としては人口減少は中立的だと考えてよいと思います。それから、需要が先細りの中で、省力化投資はリスクになるというのはその通りだと思います。今までのデフレの中で、ずっと需要が減少していきましたので、省力化投資に踏み切れないという状況だったのではないかと思います。今は 16年振りに 7 期連続のプラス成長となったとか、そういうことによって将来的に需要が減少しない、少しずつでも需要が増えていくと確信が持てることによって、省力化投資も増えてきたということだと思います。それから、もっと簡単なのは、ビジネスプロセスを見直すことで、例えば、お客さんが非常に少ないのに深夜営業をやっていたのを止めるということは、人手不足を緩和することであり、同時に厳しい労働環境を減らすことになりますから、非常に良いことなのではないかと思います。確かに、人手不足は労働者にとっては良いことでも、雇う企業経営者にとっては悪いことかもしれません。
§16Yutaka Harada
けれども、企業経営者の立場としても、人手不足はモノが売れるのにモノを作る人がいないから人手不足なわけで、逆に、モノが売れなくて人が余ったとしたら経営者としても大変なことなのではないでしょうか。この場合、解雇しなければならないわけですが、そのようなことを気楽にできる日本の経営者はいませんので、人手不足は誰にとっても良いことだと思います。
§17Question
先程、外的なショックがあった時に不十分であるならば追加緩和しなければならないとおっしゃいましたが、どういった手段があるとお考えですか。もう1点は、人手不足に関連して、足許完全失業率は 2.8%でずっと足踏みしていると思いますが、その理由に関してどのようにお考えでしょうか。
§18Yutaka Harada
まず、追加緩和の手段ですけれども、それについては、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の範囲をどのように広げるかということだと思いますけれども、それを具体的にどうするかということについては、金融政策決定会合で決めることであり、私がここでこういう手段を採ると言うのは適当でないと思いますので、コメントは差し控えさせて頂きたいと思います。それから、完全失業率が 2.8%で足踏みしている理由につきましては、意外と労働参加率が高まっていますので、基本的には労働参加率が高まった結果、2.8%のあたりでなかなか下がってこないということだと思っています。それから、今まで安い賃金でどこでも人を使えていたわけですが、少し企業の方で整理しているということもあるのではないかと思います。この点は、定量的に把握することは難しいと思いますが、深夜営業が無くなったとか、そのようなアネクドータルなかたちでは把握できると思っています。
§19Question
1 点目は、人手不足の話が何回も出ていますが、これだけ人手不足な中、賃金を上げない企業経営者の方に問題があるということはないのでしょうか。経営者側のデフレマインドも 1 つの要因だと思うのですが、いかがでしょうか。2 点目は、今日の懇談会で 2%にこだわらないで金融政策を進めてほしいという話が出たということですが、この点について、原田委員は、他の経済指標が良ければ物価上昇率が2%にいかなくてもいいと思っていらっしゃるのでしょうか。
§20Yutaka Harada
賃金を上げないのは企業経営者に問題があるのかということにつきましては、そのようなこともあるのかもしれませんが、基本的には、なぜ賃金を上げなければならないかというと、人が集まらないからということだと思います。その点、日本の労働市場が正規と非正規と二重になっていて、非正規と新入社員の部分は上げないと集まらないから上げているということだと思うのですが、正規の方はまだそれほど上げなくても集まっているということがあるのだと思います。それから、たくさんお金を内部留保として積み上げているのに、なぜ従業員に分配しないのかという議論もあるのですが、今までの非常に不安定な経済環境――今、山一證券の破綻から 20年とか、金融危機から 20年という話が色々な新聞で特集されていますが――を考えてみると、1997年から後は、色々なショックがたくさんあったわけです。ショックがあった時に一番頼りになるのは、キャッシュです。キャッシュと預金であれば一番安全なわけですから、どうしてもそれを積み上げてしまうということがあるのではないかと思います。また、従業員の方も会社に積み上がっていた方が安心だし、今貰ってもいいけども、この後どうなってしまうか分からないから、あまり強く会社に要求できないということもあるのだと思います。
§21Yutaka Harada
それから、2%にこだわらないようにというご要望を受けたのは事実ですが、私としては、2%にこだわっています。なぜかと言いますと、少し景気が良くなった時に金利を上げると、今までは金利を上げた結果、景気が悪くなってしまいました。景気が悪くなったから止むなくもう一度金利を下げて景気を刺激しなければならなくなったのですが、非常に低い金利状況ですので、なかなかそれは難しかったということです。そのようなことを 90年代にずっと繰り返してきたのではないかと思っています。ですから、そのようなことを止めるためには、十分に物価が上がるのを待って金利を上げること、物価が上がることによって名目金利も上がって、最終的に高い名目金利と 2%の物価上昇率が均衡するような状況を作っていくことが、長期的に安定的な金融政策のために非常に重要なことだと思っています。
§22Question
懇談会の挨拶要旨の 20 ページに、為替について、現状 110 円程度で安定しているとおっしゃっていますが、先程、外的ショックがあった場合には追加緩和が必要とご発言されています。外的ショックとして、今安定しているように思われる為替で更なる円高、急激な円高がまた起こってしまった場合には、追加緩和をしなければならないというお考えなのでしょうか。その場合は今の政策の枠組みのもとでは、長短金利目標の引き下げというのが最も有力な手段なのか、その 2 点をお願いします。
§23Yutaka Harada
まず、ここで述べていることは、グローバル・スタンダードのインフレ目標を持つことによって、為替が安定していることが成果だということを申し上げていて、110 円にしたのが成果だとは述べていないということです。もちろん、今の状況で 110円で安定しているとはいえないのではないかといわれれば、その通りかもしれませんが、過去に比べれば安定しているというのは事実だと思います。ある円レートに対して金融政策を適用するということは考えていません。あくまでも、為替介入あるいは為替レートについては、財務省の担当だと考えています。それから、円高の結果、物価が非常に下がるというようなことがみられた場合には、追加的な金融緩和が必要になりますが、その時にどうするのかというご質問だと解釈すれば、前にも申し上げましたように、どのように追加緩和を行うのかということについて、具体的にここでお答えするのは差し控えたいと思います。以上