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日本銀行記者会見2018年4月9日黒田東彦, 総裁

総裁再任記者会見(2018年4月9日)要旨

全文

§1Question

日銀総裁の再任の任期が本日から始まります。今後 5年間の抱負と今後の見通し、課題などを教えて下さい。

§2Haruhiko Kuroda

ご案内の通り、わが国の経済・物価情勢は、この5年間で大幅に改善しましたが、2%の「物価安定の目標」の実現までにはなお距離があります。この点については、原油価格の大幅な下落なども影響しましたが、より根本的な要因としては家計や企業に根付いたデフレマインドがあり、これを転換するには、ある程度の時間を要することも明らかになってきたと思います。もっとも、賃金・物価は緩やかに上昇し、人々のインフレ予想も上向いてきているなど、情勢は着実に変化しており、日本経済は、日本銀行による強力な金融緩和のもとで、2%の「物価安定の目標」に向けた道筋を着実に歩んでいるとみています。今後とも、目標実現への総仕上げを果たすべく、全力で取り組んでまいりたいと考えています。こうした金融政策だけでなく、金融システムや金融市場の安定を確保することも、日本銀行の重要な役割です。また、日本銀行は、銀行券の流通や日銀ネットの運行など、わが国の決済システムの中核を担っているほか、金融・経済に関する調査・研究という面でも、高いクオリティを有しています。この 5年間、総裁として組織を陣頭指揮してきた経験を活かし、これからの 5年間も、日本銀行の持つ多様な力を一層引き出すことにより、金融面から、日本経済の更なる発展に貢献してまいりたいと考えています。

§3Question

出口戦略についてお伺いします。現状の2019年度頃に2%に達するというめどが変わらないとすれば、総裁の再任任期5年間の間に出口戦略を策定する可能性が高いと思われるのですが、出口についての考え方を教えて下さい。

§4Haruhiko Kuroda

一般論として申し上げると、将来の出口の局面では、金利水準の調整と拡大したバランスシートの扱いが課題となります。その際には、保有国債の償還や各種の資金吸収オペレーションのほか、超過準備に対する付利金利の引上げなどの手段を活用することで、市場の安定を確保しながら、適切な政策運営を行うことが十分可能であると考えています。一方、出口の局面で、実際にどの手段をどの順序で用いるかについては、その際の経済・物価・金融情勢によって変わり得るわけです。現在、FRBが、かつて公表した出口戦略とは異なる形で正常化を進めていることは、重要な教訓ではないかと思います。こうした点を踏まえると、あまり早い段階で、出口の進め方を具体的に説明することは難しく、市場との対話という観点からも、却って混乱を招くおそれが高いのではないかと思います。足許、エネルギーと生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、 0%台半ばにとどまっており、2%の「物価安定の目標」の実現までにはなお距離があります。やはり現在は、先行きの経済・物価動向を注意深く点検していくことが必要な情勢であって、出口のタイミングやその際の対応の手順等を検討する局面には至っていないと考えています。

§5Question

この先、1 つ大きなハードルとして考えられていますのが、2019年10月に予定されている消費税率の引上げだと思うのですが、この消費増税のリスク、物価に与える影響をどういうふうにとらえていらっしゃるのでしょうか。

§6Haruhiko Kuroda

2014年4月に消費税率が5%から8%に、3%引き上げられたわけです。その際、やや予想以上に駆け込み需要とその反動減が大きく、2 四半期ほどマイナス成長が続いたことに加え、2014年夏から原油価格が大幅に下落し始めたこともあって物価上昇率が下がり、これがいわゆる適合的期待形成ということで物価上昇期待にも影響したと思います。今回は、消費税率の引上げ幅は 2%で、しかも食料品は引き上げないということですし、また消費税の税収の一部を具体的な教育の充実等に支出することになっていますので、経済・物価に対する影響は、前回と比べるとかなり小さなものになるとは予想されます。ただ、消費増税の影響は、その時の経済・物価の状況がどういうものかということによっても影響され得ますので、やはり十分注視して、金融政策としても適宜適切に対応していく必要があると思います。前回のような大きな駆け込み需要や反動は予想されませんが、状況を十分注視していく必要があると考えています。

§7Question

消費税増税だけではなくて、オリンピック需要の一服ですとか、それから世界経済の先行きの不透明感など、こういった先行きに対する不確定要素というのはこの先あると思うのですが、そうしたことに対応するためにも、金融政策の余地を拡げておく必要があるのではないか、そして危機対応すべきではないかという声もありますが、そのために緩和の縮小調整を今のうちにしておくというお考えはおありでしょうか。それとも、今は物価目標達成の方が重要ということなのでしょうか。

§8Haruhiko Kuroda

私どもは後者の立場に立っています。もちろん、オリンピック後の状況や、今後の世界経済の動向は注視していく必要があると思いますが、ご承知のように、世界経済の先行きは、IMFのWEO等をみても、比較的順調に成長が続く見通しになっています。これは世界経済が、先進国と新興国との間で、あるいは製造業と非製造業との間で、バランスのとれた形で拡大していますので、この成長がかなり長続きするのではないかとみられているということです。それからオリンピック需要についても、建設従事者の人手不足が非常に大きいため、オリンピックそのものに対するインフラ整備等は進んでもその他の民需については少し先送りになっている可能性もありまして、オリンピック需要が一巡すると、がたっと落ちるという感じではなくなってきているのではないかという話も聞きます。十分注視はしていきますが、過度に心配する必要はないのではないかと思っています。そのうえで、現時点では、経済・物価動向は極めて順調に進んでいるわけですが、まだ 2%の「物価安定の目標」には距離がありますので、今の段階で将来の政策の余地を拡大するために引締めに転換するとか、緩和を縮小していくことは適切ではないと考えています。

§9Question

2 問お願いします。1 問目は足許の米中の貿易摩擦についてです。懸念が高まっているように思いますが、これが日本及び世界経済に与える影響を教えて下さい。2 問目は、先程の質問にも重なるのですが、先程安倍首相や麻生大臣との会談の冒頭挨拶で、安倍首相は、消費増税を踏まえて3 本の矢を強化していく必要があるというような趣旨の発言をされたかと思います。1 本目の矢はどのようにしたら強化になるのでしょうか。

§10Haruhiko Kuroda

第 1 の質問は、米国、中国という他国の通商政策についてですので、具体的にコメントすることは中央銀行としては差し控えたいと思います。そのうえで、一般論としては、従来申し上げているように、今や世界各国ではグローバル化が進展し、情報通信技術が進歩して、グローバル・バリューチェーンを通じて、先進国間、先進国・途上国間、あるいは途上国の間でも相互依存関係が深まっています。保護主義的な政策を採ると、自国に必要な輸入を妨げるようなデメリットもある点を踏まえ、G20やWTO、IMF等の色々な会議でも、自由貿易の重要性というのは共有されているのではないかと考えています。ただ、通商政策が当事国だけでなく世界経済等に及ぼす影響もあり得ますので、そこは十分注視していきたいと思っています。第 2 の質問については、先程、総理から、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、しっかりとした金融政策の舵取りをしてほしいということを言われました。私自身も、「共同声明」の中にしっかりと日本銀行及び政府のそれぞれの役割が記されていますので、これを堅持して 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成すべく、全力を挙げたいということを申し上げました。

§11Haruhiko Kuroda

ご指摘の点についても、「共同声明」自体にかなり詳細に記されていますので、日本銀行としては、それに従って、物価の安定をできるだけ早期に実現するという観点から、必要な政策調整も含めて、状況を正確に認識して対応していきたいと思っています。

§12Question

総裁は、任期満了された場合、2023年には 78 歳におなりだと思うのですが、別に年齢どうこうという話ではないのですが、5年後の任期満了まで総裁を務められるのかどうか。例えば 2%の「物価安定の目標」に到達して、出口戦略のめどが立った場合には、後進に道を譲られるのかどうか、そのご意向と理由について教えて下さい。

§13Haruhiko Kuroda

私は、当然のことながら 5年の任期で再任されたわけですので、任期一杯務めるつもりでいます。もとより 2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、最大限の努力を払っていきますが、それだけでなく、そうしたもとでの正常化のプロセスも、いずれ検討しなければならないでしょうし、先程申し上げたように、金融システムの安定やその他、日本銀行としてやるべき仕事がたくさんありますので、それらにしっかり取り組んでまいりたいと思っています。

§14Question

先程の首相との会談の話ですが、3 本の矢の強化の話がありました。この中で、1 本目の矢で金融政策について、首相から追加緩和等の具体的な要請があったのかどうかが1つ。また、2 本目の矢である財政ですが、総裁自身、今後の安定のために財政政策が果たすべき役割についてどのようにお考えなのか、お願いします。

§15Haruhiko Kuroda

具体的な追加緩和について、総理が話されたということはないと思います。それから、財政については、いつも申し上げている通り、政府、国会で決めるべきことですので、私から何かいうことは適切でないと思いますが、「共同声明」自体にかなりはっきりと、弾力的な財政運営と、中長期的に財政の持続可能性を確保することが書かれていますので、当然、必要に応じて財政政策の対応があり得ると思いますし、他方でやはり、中長期的に財政の健全化や持続可能性を高める努力を引き続き政府は行っていかれるだろうと思っています。

§16Question

5年間の総括について改めて伺います。5年間政策をやって結果が出ないということは、一般的に考えると、目標が間違っていたか、あるいは手法が間違っていたか、どちらかだと思うのですが、なぜそのような考え方に総裁は立たれないのでしょうか。

§17Haruhiko Kuroda

2013年4月の「量的・質的金融緩和」の導入以降、企業収益や労働市場、賃金をみると日本経済は大きく改善していますし、エネルギーと生鮮食品を除いた消費者物価の前年比も、2013年の秋以降、4年以上にわたってプラス基調を続けており、既にわが国経済は、物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなっていると思います。その意味で、この間の強力な金融緩和は、経済・物価を大きく改善させる効果があったと考えています。ただ、2%の「物価安定の目標」は、なお実現できていないことは事実で、これは、2016年9月の「総括的な検証」でも示した通り、原油価格の下落などによって実際の物価上昇率が低下し、もともと実際の物価上昇率に引きずられやすい予想物価上昇率が横ばいから弱含みに転じたということが主な原因です。その背景には、いわゆるデフレマインドの転換に時間が掛っているということがあると思います。米国やユーロ圏においても、120 ドルぐらいから 30 ドルを割るくらいまで原油価格が低下したことを受けて、やはり物価上昇率も大きく低下して、一時的には、殆どゼロないしマイナスになったわけですが、その後、原油価格が半値くらいまで戻す中で、物価上昇率も1%台から1%半ばくらいまでは戻ってきています。

§18Haruhiko Kuroda

より重要な点は、特に米国において明確ですが、物価上昇期待が 2%の物価安定目標によくアンカーされていて、そうした中で比較的スムーズに、まだ 2%には達していませんが、物価上昇率は戻ってきています。他方で日本の場合は、原油価格の下落に伴って予想物価上昇率自体も下がってしまい、それがなかなか戻らない状況にあり、物価上昇率もまだ 1%、生鮮食品とエネルギーを除くと 0%台半ばにとどまっています。こうしたことは、2%の「物価安定の目標」が間違っているということでもありませんし、また、その目標をできるだけ早期に達成するために行ってきた金融政策も適切なものであったと思いますが、先程申したような事情で、まだ 2%には到達していないということだと思います。

§19Question

先程の政府と日本銀行のアコードについてお伺いします。仮定が入る質問で恐縮ですが、総裁の任期が向こう 5年ということになると、その間、政権が交代することが考えられます。その際に、現時点ではアコードに従って2%の「物価安定の目標」を追求しているわけですが、仮に、そんなに「物価安定の目標」にこだわらないような政権が誕生した場合に、総裁のお考えとしては、やはり日本の経済・金融を運営していくうえで、 2%の「物価安定の目標」が重要であるということを、日本銀行総裁としてお謳いになるつもりかどうか、お伺いします。

§20Haruhiko Kuroda

「共同声明」自体は、現在の政権と日本銀行との間で合意されているわけですが、そもそも、この 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するということは、日本銀行自体が政策委員会で決定したことです。その背景には、統計のくせであるとか、正常化したもとでの政策余地であるということもありますし、今や 2%がグローバルスタンダードになっていて、そのもとで中長期的に主要国の為替も安定し得るということも含めて、日本銀行は物価安定の使命を実現するために、2%の「物価安定の目標」を決定しています。この考え方自体、私は変更する必要はないと思っています。政権云々とか、そのようなことは私から何か申し上げることは適当ではないと思いますが、日本銀行としては、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現する、そのために必要な措置を採っていくことに変わりはないと思います。

§21Question

金融政策の正常化についてお伺いします。1 点目は金融政策の正常化のプロセスに入るタイミングですが、総裁としてはやはり 2%の物価安定、物価上昇が安定的に達成された時点でそれをお考えになるのか、それともそれ以前から徐々に正常化のプロセスを進めるお考えなのか、お伺いします。2 点目は、市場との対話の観点ですが、金融政策の正常化を進めるにあたって、総裁としてはそれを開始する前に、国民への説明やアナウンスをされるお考えでしょうか。つまり、市場においては、市場への影響を緩和させるために、特にアナウンスせずに徐々に進めていくのではないか、という指摘もあるわけですが、総裁としてはその辺の説明の仕方をどのようにお考えでしょうか。

§22Haruhiko Kuroda

正常化や出口の議論については、米国の場合、目標になっている消費のデフレーターは 2%に達していませんが、既に短期金利の引上げは何度も行っていますし、バランスシートの縮小も始めたという意味で、正常化のプロセスに入っているわけです。やはり米国の場合は、先程来申し上げているように、予想物価上昇率が 2%の物価安定目標に非常にしっかりとアンカーされていますので、わが国の場合とやや違った面があるのではないかと思っています。私どもとしては、2%がしっかり達成されるというか、達成されることがはっきりする時点まで、従来の公表文にも示している通り、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を続けていきます。更に、「オーバーシュート型コミットメント」という形で、2%を超えてもマネタリーベースの拡大方針を続けていくと示していますので、そういった状況になった時に出口や正常化を進めていく、あるいはそうした議論がまずは行われることになると思います。まだそういった状況には道半ばというか、距離があるということです。市場との対話についても、先程来申し上げている通り、あまり出口に差し掛かるずっと前から、具体的な手順でこうやりますといっていると、FRBの例をみても分かるように、実際にやったことと順序が逆になり、却って市場をミスリードしてしまうということもあり得ます。

§23Haruhiko Kuroda

適切な市場との対話は当然必要だと思っていますし、そのような時期になればそのような対話をしていくということになると思いますが、まだまだ時期尚早であると思っています。

§24Question

出口の話ですが、具体的なことは多分答えられないと思うので、一般論で結構ですが、欧米と比較した場合、経済規模に対する日銀のバランスシートの大きさが非常に大きいことと、保有している資産の利回りが非常に低いことで、損失が出た時にカバーしきれないのではないかという指摘があると思います。ある種、欧米と比べて日銀の場合は、出口を出るハードルが非常に高く難しいことなのかどうか、理由も含めお伺いします。

§25Haruhiko Kuroda

基本的な出口云々の議論については、先程来申し上げている通り、2%の「物価安定の目標」が達成される状況のもとで、経済・物価・金融情勢をみて適切な出口を探っていくことになります。その場合に、米国でも欧州でも同じですが、伝統的な金融政策の場合でも、大幅な緩和を続けた後に出口に差し掛かった場合の金融政策の転換のやり方としては、あまり性急にどんどん引き締めていくというような急激なことをすると、金融システムに影響が出るかもしれません。特に、非伝統的金融政策の場合には、米国が今やっているように、あるいは欧州もそのうち始めるように、マーケットの状況をみながら、長期金利が跳ねたりしないように、経済や市場に悪影響が出ないように、慎重に緩やかに進めていくのではないかと思います。その意味では、欧米と基本的に変わらないと思っています。

§26Question

バランスシートの大きさとか、持っている資産の利回りの低さというのは、あまり関係がないということになりますか。

§27Haruhiko Kuroda

それはもちろん影響はあるでしょうが、それが本質的な問題だとは思っていません。

§28Question

先程、物価 2%目標の早期実現に向けて必要な措置は採る、とご発言されましたが、現在、例えば2019年度頃としている 2%の達成時期が更に後ずれするような事態になった場合に、それ自体が追加措置を検討する要因になり得るのかどうか、お考えをお願いします。

§29Haruhiko Kuroda

これは、従来申し上げている通り、2%の「物価安定の目標」に向けて、経済・物価等がしっかりしたモメンタムを維持しているかどうかにより追加的な措置を検討する、ということであり、その点は従来と全く変わりはありません。

§30Question

先日、副総裁がこちらで記者会見をされた時に、若田部副総裁と雨宮副総裁に、追加緩和に対しての考え方であるとかに多少温度差を感じたのですけれども。前回の記者会見で正副総裁 3 人が意見を一にする方が望ましいと確かおっしゃっていたかと思うのですけれども、初の決定会合が今月末にありますが、もし分かれた場合、もしくは今後大きなディシジョンの時に、正副総裁で意見が分かれることになった場合に、それはそれで仕方がないという考え方なのか、それなりにある程度寄せていくというか、3 人の意見を一にする方向にするのか、その辺のお考えを教えて頂けますか。

§31Haruhiko Kuroda

そこは前にもお話ししましたように、日本銀行法自体が、総裁、副総裁を含め、もとより審議委員もそうですが、9 名の政策委員会のメンバーはそれぞれ独立の立場で金融政策を議論し、決定するということになっています。他の国の金融政策を決定する政策委員会も同じですが、それぞれの人がそれぞれ独自の立場で考えを披瀝して議論し、多数決で決めるということです。日本銀行の場合にも、過去に執行部の中で意見が分かれたこともありますし、欧米の中央銀行等ではしばしばあることですので、別にそれ自体、むしろ日本銀行法で保障されている政策委員会のメンバーが独立の立場で政策を議論して多数決で決定するということに沿っていると思います。ですから、それぞれの人の考え方というのは、違いがあって別におかしなことではありません。ただ、総裁、副総裁2 人というのは、執行部を成していて、金融政策決定会合で決まった政策を執行していかなければなりません。そこでは副総裁は総裁を補佐してということになっていますので、そこはしっかりとやって頂かないといけませんし、頂けると思います。そのうえで、もとより総裁、副総裁の間で大きな意見の違いはないということの方が望ましいとは思いますが、そうでなければならないとか、そのようなことは全くないと思います。

§32Question

5年の節目、再任の節目ですので、あえてお聞きします。5年間を振り返って、黒田総裁が自ら、我ながらよくやったというところと、少し反省すべきところがあったかどうか、自己評価して頂くと100 点満点で何点ぐらいでしょうか。また、実際5年やられてみて、日銀総裁という仕事の難しい点、そしてやりがいを感じる点はどのようなところでしょうか。

§33Haruhiko Kuroda

評価というのは、自分でするものではなく他の方がされるものだと思いますので、自己評価するのは差し控えたいと思います。難しい点については、ご承知のように、経済・物価・金融情勢は色々なファクターによって変化しますし、完全に予測することは難しいわけです。また、それに対する政策の効果も、伝統的な金融政策の場合は、BOEの例からいえば 300年以上の歴史があり、ある程度見極めが付きやすいですが、非伝統的金融政策は、日本銀行が 1990年代の終わり頃から始め、まだ歴史もそれほどありませんので、効果の見極めはその時その時で十分慎重に勘案していかなくてはなりません。手探りとはいいませんが、伝統的政策よりも不確実性が高いことは事実です。そうしたことを十分踏まえていく必要があることは予想はしていましたが、そのような難しさがあることは認めなければならないと思います。ただ、そうだからといって、伝統的政策は効果があって、非伝統的政策は効果がないということでは全くないと思います。やりがいについては、金融政策だけで経済・物価が全て決まるわけではありませんが、日本経済という巨大な経済に対する一定の影響がありますので、それをより望ましい方向、これは、ただ物価が上がればよいのではなく、雇用や賃金が改善し、緩やかに物価が上がり目標に向かっていく方向に向けて仕事をしていくことは、非常にやりがいがあると思います。

§34Question

緩和の副作用についてお伺いします。緩和が長期化を余儀なくされていることはその通りだと思いますが、それ相応に、副作用もまた大きくなっているという認識でいらっしゃいますか。また、この先も緩和を長く続けることにより無視できない状況に、例えば金融機関の収益力の問題、それから日銀の財務が将来的に出口にあたり毀損する可能性が大きくなる問題、そうしたものが将来的に無視し得ないほど大きくなる蓋然性について、どのようにみていますか。

§35Haruhiko Kuroda

伝統的金融政策も、非常に大幅な金融緩和を長く続けた後に引き締めに転換した時には、過去において、日本だけでなく諸外国でも、金融システムに影響が出たり、副作用が顕在化した例はありますので、非伝統的金融政策にだけ副作用があって、伝統的金融政策には副作用がないということではありません。それぞれの政策によって、若干異なる影響は出るとしても、常に、その副作用がどういうもので、どのように影響するか考えていく必要があると思っています。特に、中央銀行が伝統的あるいは非伝統的な金融政策を執行した場合、金融資本市場を通じて実体経済に影響していきますので、当然、金融資本市場が金融仲介機能を十分発揮できる状況にあるかどうかは、金融政策を行う中央銀行として重要な関心事項であり、十分みていく必要があると思います。伝統的金融政策においても、大規模な緩和を長く続けた時の副作用は十分考慮しなくてはいけませんので、伝統的であろうと非伝統的であろうと同じだと思っています。その意味では、金融仲介機能に対する影響は、十分注視していかなければならないと思います。

§36Haruhiko Kuroda

従来申し上げている通り、現時点で金融仲介機能にマイナスの影響が出ているとは思っていませんが、大幅な緩和を非常に長い期間にわたって続けた場合の金融仲介への影響は、金融の行き過ぎという面と、逆に金融仲介機能が低下するという両面のリスクがあるということは、金融システムレポートで示している通りであり、私どもも十分注視し、必要に応じて対応していかなければならないと思っています。ですから、定性的にはおっしゃる通りですが、今の時点で「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が何か大きな影響を及ぼしているということはないと思います。以上