櫻井審議委員記者会見(2018年5月24日)要旨
全文
§1Question
本日の金融経済懇談会に出席された方々から、県内の経済についてどのような意見や要望があったのか教えて下さい。
§2Makoto Sakurai
本日は群馬県の経済、行政、金融界を代表する方々から貴重なご意見をお伺いしました。全体として、群馬県経済は、農業、工業、商業を含めて、非常にバランスよく回復しているとの印象を受けました。また、人手不足が大変深刻になっていると伺いました。その中で、中小企業では、経済の回復に伴うプラス効果の波及が遅れており、昨年くらいから漸くそうした効果が感じられるようになったとのご意見が聞かれました。一方で、まだかなり厳しいとのご意見もありましたので、少しばらつきがあるようにも感じました。それから、県の行政や各団体が協力して、新しい前向きな取り組みを進めており、大変心強く感じるとともに今後の展開に期待したいと思っています。当地は大変地の利がよく、交通の便やインフラが比較的しっかりしていると思います。人口もあまり減ってもいませんので、全体としてプラスの印象を受けました。それから、地元の金融界の皆様からは色々なご意見を頂きました。現在の金融緩和のもとで日を追って経営が厳しくなっており、特にコア業務が厳しいとのご意見を伺いました。また、皆様がそれぞれに新しいビジネスモデルを求めてご努力をされており、例として、事業承継に関するアドバイス等をご紹介頂きました。
§3Question
本日のそうしたお話を踏まえて、委員として、群馬県経済の現況をどのように捉えているのか、課題として感じる部分があればその辺りを含めて、お話頂ければと思います。
§4Makoto Sakurai
現状については、先程申し上げた通り比較的回復が進んでいるとの印象をもっています。特に当地では、中核となる工業として輸送用機械関連があり、輸出がそれなりに好調です。最近の人手不足に関しても、省力化投資であるとか、前向きな対応をしっかり進めているとの印象を受けました。こうした点からは、わが国有数の生産拠点として、回復が進んでいる県の代表例になるのではないかと感じています。課題としては、やはり人手不足は深刻な問題で、供給制約が生じつつあるとのお話も伺いました。中小企業に関しては、事業承継の問題がはっきりと出てきていると感じました。この辺りは、県全体として、行政、金融も含めて取り組まれることを期待したいと思います。
§5Question
挨拶要旨では、当面は、現行の枠組みのもとで粘り強く緩和的な金融環境の維持に取り組むことが適当とされたうえで、留意点を 2 つ挙げておられます。その 1 つが、金融緩和の長期化による金融システムへの影響だと思いますが、地元の方からもお話があったと先程言及されましたけれども、例えば、金融庁の資料等によると、2016年度の決算で地域銀行106 行の過半数 54 行が本業で赤字になっています。2017年度はおそらくもっと厳しい状況ではないかと思います。そうした中で、委員は、必要に応じて最適な金融政策のあり方について検討していくことが必要だと繰り返されていらっしゃいます。まず、確認ですが、この最適な金融政策のあり方という中には、長短金利の変更なり、 ETFの買入れ量の減額なりということが念頭にあるという理解でよいのでしょうか。もう 1 点は、この「必要に応じて」について、必要な状況が徐々に近づいてきているというご認識なのか、その 2 点をお願いします。
§6Makoto Sakurai
マイナス金利あるいは「イールドカーブ・コントロール」が累積的な効果を及ぼす中で、金融機関のコア業務の収益は低下してきています。もちろん、金融界全体としては、まだそこそこ収益を上げています。自己資本比率の水準等も勘案すると、当面大きな懸念材料にはならないであろうと考えています。今後の金融政策運営については、昨年末まで 8 四半期連続のプラス成長が続き――本年第 1 四半期は季節要因もあってマイナス成長となり若干踊り場のような雰囲気もありますが――先行きも景気の回復が続くとみています。そのプロセスの中では、副作用をきちっとみながら政策を執り行っていくことになります。では、具体的にどのような政策があり得るのかというご質問でしたが、私は、全ての政策手段を含めて考えるべきだと思います。その意味では、状況に応じて色々なことを考えていかなければならないと思います。タイミングについては、私は、今の景気の状況をもう少し続けたいと思っていますので、まだ色々なことをやるには早すぎると思います。基本的には、ある程度今の状況を続けて、慎重に様々な経済指標の動きを見極める段階にあると思っています。
§7Question
挨拶要旨の中で、金融政策のあり方については、現在のような適度に需給の引き締まった状態を維持することを目指すべきだと述べられています。また、そのために求められる金融政策は一律ではないとも述べられていますが、この一律ではないという言葉の意味をもう少し噛み砕いて教えて頂けますでしょうか。
§8Makoto Sakurai
過去長期にわたって、供給が需要を上回る状態が続いていましたが、漸くここへきて需要が供給を若干上回ってきました。需給ギャップは推計したものですから、ある程度幅をもってみる必要はあるものの、あまり大きくプラスになるとかマイナスになるということは避けるべきであろうと思っています。現在のようなある程度バランスのとれた状況を保ちつつ、供給サイドがきちっと対応できるような、生産性を上げていけるような状態を保っていくのがよいと考えており、そのために金融政策を維持することが大事だと考えています。
§9Question
「イールドカーブ・コントロール」について、経済の実力が高まるにつれて緩和効果が増幅されるとご指摘されています。足許の経済状況は、2016年9月に「イールドカーブ・コントロール」を導入した頃と比べても改善が進んでいると思いますので、その分緩和度合いが強まっているということかと思いますが、調整の必要性をどの程度お考えですか。
§10Makoto Sakurai
「イールドカーブ・コントロール」を導入してかなり時間が経ち、景気の回復につれてだんだんと金融緩和の効果が強まる状況になってきたというのは、理論的にはその通りだと思います。もっとも、物価の上昇は想定よりも遅れており、実質金利はまだそれほど大きく変化していません。従って、現在の金融緩和をまだ続けないといけないと思います。物価にも動きが出始めれば、金融緩和の効果が更に強まってくるということですから、そのようなタイミングでは色々なことを考えなければならなくなるだろうと思います。
§11Question
需給ギャップについて、あまり大きくプラスでもマイナスでもよろしくないというニュアンスの話をされましたが、日銀は、足許の需給ギャップについては 1%台半ばとの試算を発表しています。適度な需給ギャップという場合、1%台とか 2%前後とか、委員としてレベル感をお持ちになられているのかどうかをまずお聞きします。次に、挨拶要旨では、今後供給拡大のペースが減速していく一方で、金融面から需要の刺激効果は強まっていくという話をされていました。そうであれば、今後、需給は一段と引き締まっていくと思います。その場合、現在の適度な需給のバランスを維持するために、長期金利目標を引き上げるとか需要を調整するということは発想として考えられるのか、委員の発想からすると検討されるべきであるということかと思うのですが、その点についてお伺いします。
§12Makoto Sakurai
まず需給ギャップのレベル感ということですが、ご指摘の通り最近は1%~1.5%だと思います。先程も申し上げましたが、需給ギャップ自体は推計値で、例えば稼働率だとか色々なものが入ってきますから、確信を持っていうことがなかなか難しいのですが、やはりある程度プラスを保っている方がよいと思います。供給が需要に比べてかなり大きい状態だと、なかなか景気が回復しているということにならないと思います。現在は、全体としてはバランスが取れた状態に近いのではないかと思います。需要の方が少し強いくらいだと、設備投資を通じて生産性の引き上げ等を企業に促すインセンティブが強まるのでよいように思います。もっとも、仮に需要を大幅に拡大するということになると、色々な不均衡が溜まりやすくなると思われます。現在は完全雇用に近い状態にあり、稼働率も高水準にあります。レベル感というよりも、その時々の経済指標を丹念に確認しながら考えていくということだろうと思います。2 点目のご質問についてですが、最近は短観等をみても、供給制約への対応として省力化投資や能力増強投資を含めて、色々な動きが出てきているように思われます。ただ、供給力を拡大させていくには、実は相当時間がかかると思います。需要は政策的に短期間で増やすことができますが、供給力の拡大は、構造的な変化を伴いますのでそう簡単ではありません。
§13Makoto Sakurai
そのため、急がずにゆっくりとやっていくことが大事だと思います。その点で、基本的に需給のバランスを保つことに主眼をおきたいと思っています。
§14Question
2019年度の 2%達成時期の削除はやむを得ないということですが、一方でそのメカニズムやリスクを理解してもらうためのコミュニケーションが大事だと仰っています。こうしたことを総合的にとらえると、期待に働きかけるという政策のスタンスから、少し実態が変わってきたと思うのですが――名実ともに変わったのかなという印象を受けるのですが―― 国民は 2%の達成を少し長期化して捉えて理解したほうがよいのか、どういう捉え方をした方がよいのでしょうか、お聞かせ下さい。
§15Makoto Sakurai
政策のスタンス自体は変わっていないのですが、一昨年辺りからサプライサイドが少しずつ動き始めています。労働需給の引き締まりに対応して省力化投資等が増え生産性の上昇に繋がっています。これは、非常に強い動きというわけではないものの、サプライサイドの変化が物価上昇を抑制する効果を想定していなかった部分があります。そのため、私は当初の予想よりは物価の上昇が少し遅れ気味になったと思っています。ただ、トレンドが大きく変わったかどうかはまだちょっとつかみにくいと思っています。政策スタンスとしては変わっていないのですが、新たな要素が入ってきていると思っています。
§16Question
金融仲介機能への影響等も考慮して幅広く金融政策のスタンスを考えるべきとのことですが、そうした色々な不確実性、要素次第では、2%に到達する前でも金融政策の正常化を真剣に考えるべきとの理解でよろしいでしょうか。
§17Makoto Sakurai
現在のような金融緩和が続くと、先程から申し上げている通り、累積的な効果がありますから、副作用が目立ち始めることになるかもしれませんが、現時点では、まだそれほど深刻な問題は生じていません。確かに金融機関の収益は低下してきていると思いますが、それで政策を変えるような段階にはもちろんありません。金融政策にはプラスとマイナスの効果が両方ありますので、今後も景気回復が続く中で、そのネットの効果を見極めていくことが大事だと思います。そして、マイナスの効果が非常に大きくなってきたということがはっきりと認識されるのであれば、新たな政策を考えなければならないと思いますが、現時点でそうした心配はありません。
§18Question
今まで、日銀は、高圧経済を狙って需給ギャップを引き締めることで物価上昇圧力を高めて 2%を達成するイメージかと思っていたのですが、本日の挨拶要旨からすると 2%を闇雲に狙うものでもないし、需給ギャップの拡大というか、そのオーバーシュートは望ましくないということになると、一頃よりはその両面、その効果と副作用に関してより一層重要視されているという理解でよろしいのでしょうか。
§19Makoto Sakurai
ご指摘にあった高圧経済については、特にそういう意識があるわけではないのですが、重要なことは、先程来申し上げている通り、マクロの需要と供給のギャップのバランスをとっておくということです。これまで長期にわたり供給サイドのキャパシティが需要を上回っていました。金融緩和で需要をつけることで需給がバランスしている状態を高圧経済と呼ぶのであれば、それは高圧経済かもしれないと思います。いずれにせよ、このままバランスをとっていくことは必要ですが、現時点でも設備投資が伸び始めているとか、比較的底堅い動きが出てきています。必ずしも政策だけではなく、経済がかなり自律的に動き始める可能性が十分出てきています。それから、プラスとマイナスの両方の効果ということですが、これは先程来申し上げている通りで、両方の効果を丹念に点検していくということだと思います。そこは予断を持ってこうでなければいけないということではなく、その時々の経済指標を素直に判断していくということだと思います。
§20Question
現時点での委員の物価の見通しについて教えて下さい。2019年度頃に2%というのがこれまで出されていた見通しでしたが、この見方に変更はないでしょうか。次に、あらゆる政策手段について考えていくというお話でしたが、その中には、バランスを欠いた時にイールドカーブの長期の部分を少し上げて、調整するといったこともご検討されているのか教えて下さい。
§21Makoto Sakurai
まず 1 点目の物価の見通しについて、私は、物価は、先程申し上げた通り、供給サイドの変化により少し遅れているとの認識ですが、先行きの見通しは全体の平均的な見方とそれほど大きく変わらないと思います。物価の見通しには不確実性が伴います。今後の供給サイドの変化は、物価を見通す上での不確実性の一つです。需要サイドは比較的コントロールしやすいかもしれませんが、輸出がどうなるかもよくみていく必要があります。いずれにせよ、全体としてデフレ方向に戻っているということではないので、需給ギャップの動向と供給サイドの動き、この 2 つを重視してみていきたいと思っています。それから、「イールドカーブ・コントロール」の調整は、これはもう先の話で、先程申し上げた通り、その時々の景気の状況等にもよりますが、現時点ではまだ考える必要はないだろうと思っています。景気の拡大が、今後もかなり長く続く中で、どこかでそういう状況に達したときに考えることであろうと思います。
§22Question
挨拶要旨の 10 ページで、将来的な物価安定の目標の実現を目指すための金融政策は一律ではないとありますが、この意味というか背景をもう少し詳しく教えて頂ければと思います。これは手段は色々あるということなのか、取り得る措置が経済環境によって違うということなのか、その辺りをお願いします。また、トランプ大統領が安全保障を理由に自動車や自動車部品に追加関税等の輸入制限の措置を指示すると報道されています。こうしたことは、委員が講演で仰っていた保護主義という世界経済のリスクの1つだと思うのですが、今回のこうした指示について、世界経済、および特に輸出が重要なコンポーネントを占める日本経済への影響についてご所見をお願い致します。
§23Makoto Sakurai
1 点目の「金融政策は一律ではない」の意味ですが、一般論として申し上げていることで、金融政策を考える場合、どのような状況においても、その時点で最適と思われる手段の組み合わせを使えばよいと思っています。従って、例えば金利の変更もあり得るし、量の変更もあり得るし、その他色々な操作、あらゆるものを総動員して、その時に一番適切なものを使えばよいと思います。これしか使わないということは言わない方がよいと思っています。2 点目について、一般論として、保護主義への動きは大きな懸念材料であることは間違いないと思います。日本経済は、ご指摘の通り、貿易への依存度が過去 30年間で大きく上昇していると思います。日本に限らず世界全体がそういう動きになっています。この20~30年の間に世界的にグローバル化が進んで、いわゆる国際的なサプライチェーンがほぼ確立していますので、保護主義的な動きの強まりは、世界経済全体の今後の成長にとって大きな懸念材料になります。これはG20 等でも同じような認識だろうと考えています。
§24Question
金融仲介に関して、まだ現時点では副作用は深刻ではないというお話でした。今年3月期ですと福島銀行などは赤字に転落していて、上場地銀だと6割ぐらいが減益となっていますが、副作用が深刻というのはどういった状況なのか、その目安についてご認識、お考えをお聞かせ下さい。
§25Makoto Sakurai
先程来申し上げている通り、今の金融環境のもとで年々コア業務の収益が厳しくなっているということはご指摘の通りだと思います。個別の銀行に関するコメントは差し控えますが、全体としてみた時にどうかといえば、まだ大きな懸念材料ではないと思います。当然私どもも十分に副作用、その他の動きをみていかなければならないと思っています。ただ、具体的にどのような指標をみるかは、その状況によっても違います。一律にみるべき指標が簡単にきまるものではないだろうと思います。半年に 1 回ずつ金融システムレポートを出していますので、そうしたものとの整合性も保ちながら、金融政策を考えていきたいと思っています。
§26Question
挨拶要旨の 11 ページに、今後の供給面の変化についても不確実性があるとのお話があります。今後、需給ギャップが適正な水準にあったとしても、大きなリセッションのようなものが起こった場合には、正常化や出口が遅れる可能性というのは考えておいた方がよいのでしょうか。
§27Makoto Sakurai
問題は 2 つあるかと思います。まず 1 つ目は、需給ギャップがマイナスになった時にどうするかということです。今のところ当面マイナスになる可能性はあまりないのではないかと考えていますが、仮にそうなった時には当然、先程来申し上げている通り需給ギャップはある程度バランスしていることが大事ですから、状況に応じた政策をとらざるを得ないということになります。これは、金融政策だけの問題ではないかもしれません。財政政策もそれなりの対応をされるのかもしれません。いずれにせよ、マイナスになった時の対応というのを考えなければなりません。では、マイナスになった時に正常化が遅れるかどうかということは、また少し別の話かもしれません。マイナスになったからといって、正常化が必ずしも遅れない方法もあるかもしれませんし、そこは少し色々知恵を絞らないといけません。これまで、各局面で様々な政策手段の開発なりを行ってきたので、同じように色々な知恵を出して、工夫をしていくということは必要かもしれません。必ずしも正常化が遅れるということはないかもしれないし、遅れることがあるかもしれませんが、なるべく安定的な方法でやるのがよいだろうと思います。以上