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日本銀行記者会見2018年11月29日政井貴子, 審議委員

政井審議委員記者会見(2018年11月29日)要旨

全文

§1Question

本日の懇談会の中身で、どのような意見・要望が出たのかお聞かせ頂けますでしょうか。

§2Takako Masai

本日の懇談会では、当地の経済界を代表する皆様から、地域経済が直面する課題や、日本銀行の金融政策運営に対する貴重なご意見を頂きました。大変有益かつ示唆に富む意見交換ができたことについて、懇談会にご出席頂いた方々に改めて感謝を申し上げます。懇談会で話された内容は非常に盛りだくさんでありまして、全てをお話することはできませんが、席上で聞かれた話をいくつか整理して申し上げたいと思います。当地の景気について、全体としては、緩やかに回復・拡大しているという話が多く聞かれました。背景としては、当地は、自動車や半導体関連を中心とした製造業が好調なほか、インバウンド客の増加もあって小売・サービス業を中心に消費も好調であるという話が聞かれました。更に当地のブランド化した農産物――例えば、いちごのあまおう、種なし柿の秋王、八女茶、はかた地どりなど――の出荷も好調であるなど、幅広い分野がバランスよく景気回復を支えているという印象を受けました。こうした好調の背景として、自動車産業における研究開発拠点としての整備や、観光業におけるMICEの誘致や多言語化対応など、産学官が連携した取組みや工夫が奏功している点は申し上げるまでもないかと思います。この結果、人口が増加している7都県の1つであるのだろうと思います。

§3Takako Masai

当地経済・金融界の方には「福岡・九州から日本を元気にする」という強い気持ちを感じたとともに、それを実現するための地方創生に向けた様々な取組みがなされていることを伺いました。ただし、当地では、昨年、今年と連続で発生した豪雨の影響が経済にマイナスの影響を及ぼしたという話が聞かれましたほか、中小企業の景況感には業種等によるばらつきがあり、必ずしも景気拡大の恩恵が受けられていないケースがあるとの声も聞かれました。また、地元企業の課題として、人手不足や事業承継、働き方改革や生産性向上、消費税引上げへの対応などが挙げられましたが、特に、人手不足への対応は企業規模を問わず重要度を増しているという話が聞かれましたほか、中小企業を中心に事業承継の問題が深刻化しているとの声が印象的でした。なお、金融政策に関しましては、超低金利政策の長期化が金融機関の収益や市場機能などに与える累積的な影響という副作用の検証を引き続き行って欲しいという要望がありました。私どもとしましては、中央銀行の立場から、物価安定のもとでの経済の持続的な成長の実現や、金融システムの安定性を確保するということを通じて、当地関係者のご努力がより大きな実りへと繋がっていくようサポートさせて頂きたいと思います。

§4Question

福岡県経済の印象とこれからの期待について、どのようにお考えかお聞かせ頂けますでしょうか。

§5Takako Masai

実は福岡県を訪れたのは約4年振りとなります。日本銀行の審議委員という立場では初めて訪れました。以前から「元気な街」という印象はありましたが、久しぶりに訪れて、まずは空港の賑わいに驚きましたし、街中やホテルではアジアからと思われる観光客の皆さんの多さを目の当たりにして、まさに元気な街を実感いたしました。また、第一次・第二次・第三次産業がそれぞれ地域の特徴や利点を活かしながら前向きな取組みを行っておられ、その成果が顕在化されているのだと思いますし、更なる成長に向けた課題認識も明確であるという印象を受けました。福岡県の景気も、様々なセクターの好調により、しっかりとした足取りで緩やかに拡大しています。まず 1 つ目は、自動車や機械を中心とした製造業です。旺盛な海外需要を背景に生産が好調であり、設備投資も積極的に行われています。2つ目は、アジアを中心としたインバウンド客です。全国平均を上回るペースで増加しており、関連産業に恩恵をもたらしています。3つ目は、不動産開発です。福岡市を中心に商業施設やホテル、マンション等の建設が都市機能を高めています。こうした背景には、例えば、県内各地の支援協議会の活動が中小企業の収益力向上に成果を上げるなど、行政や経済界の官民一体となった様々な取組みが、当地経済の発展に大きく寄与していることは申し上げるまでもありません。

§6Takako Masai

「九州はひとつ」をキーワードとして、福岡県および九州地域の経済が益々発展していくことを心より願っています。

§7Question

本日午前中のご挨拶の中でも、今後の景気の見通しについても、緩やかな拡大が維持されると述べられていましたけれども、一方で、九州の地銀でも、いずれ景気の後退局面が来るとして、貸倒れの引当金を積み増したりといった信用コストが嵩む動きが出てきています。そうした地銀の懸念についてどのように受け止めておられますでしょうか。

§8Takako Masai

地方銀行の収益力、経営体力の動向については、まず上半期に関して、おそらく地方銀行など国内の金融機関だけに限ったことではなく、例えばヘッジファンドなどといった国際的な運用機関でも、今年は世界的に運用環境が不透明で難しかったと言えたのではないかと思っています。加えて、地盤地域の人口減、低水準の貸出金利といった慢性的な状況が重なっていることもあって、収益が一部下押しされていることは認識しています。もっとも、過去の金融危機の経験で、当局としても、日本だけではなく国際的にも、いわゆるバックストップと言われるような様々な措置が拡充されてきています。また、全体としてみると、金融機関は十分な資本を有していると考えていますし、先々、長期でみれば、日本だけではなく、各国各々の経済や情勢に合わせた課題をそれぞれの金融機関は持っており、それぞれの課題に向かって各々が経営努力をしているところだろうと思っています。当然のことながら、支店を中心に様々なコミュニケーションを今後とも金融機関とは取りつつ、必要であれば、そういった施策もしていくということだと思いますが、今のところは、資本は充実していると思っていますし、また、色々な地方の課題が明確であることが極めて重要なのではないかと思っています。

§9Question

副作用への対応について伺います。講演の中で長期にわたって金利が低位に推移することに伴う副作用として、国債市場の取引と金融機関の収益の2つを挙げられたと思うのですが、7月の政策修正で国債市場についてはある程度の変動が生まれて、やや改善の動きはあるとは思うのですが、金融機関への累積的な収益影響という意味では、貸出金利の低下が続いており、なかなか難しい状況にあると思います。一方で、マイナス金利政策については、このところ止めたほうが景気・物価にプラスではないかといった論文なども出ているわけですが、この辺りをどのように考えていらっしゃいますでしょうか。

§10Takako Masai

金融緩和には、一般的に、景気を刺激する効果がある一方、これが長期間にわたって金利全般が低位で推移すると、国債市場の機能や金融機関の収益にマイナスの影響を及ぼす可能性があると言えます。このため、日本銀行としては、政策の効果と考え得る副作用について、あらゆる角度から検討し、コストとベネフィットをきめ細かく点検しながら、政策を進めていく必要があると考えています。ただし、話題になることの多い、特に地域金融機関を巡る議論に関しては、鳥瞰的にみる必要があると感じています。すなわち、金融機関は、環境変化に応じたビジネスモデルの変革といった極めて大きな課題にも直面しています。今後 10年を見据えると、人口の減少や企業数の減少、そして内外に共通するデジタル化などの環境変化への対応が不可欠だと思います。そのために必要な対応は、銀行規制の再検討や、今般の政府会議で調整することとなった、競争政策のあり方などを含むグランドデザインのもとで検討されるべきものかと思います。また、わが国に限ったことではありませんが、潜在成長率や自然利子率が低いもとでは、過去のようなスティープなイールドカーブは期待しづらいなど、単純に以前の状態に戻らない可能性にも十分留意しなければいけないとも感じています。2%の物価目標を通じて真に目指す姿は、長期的にわが国が安定的に成長を続けられる状態に少しでも近づくことにあります。

§11Takako Masai

金融システムの安定を維持していくことは、長期的な成長維持のためには不可欠であり、そうした姿を目指すうえで、当然含まれていると考えています。今後とも、そうした視点で判断していくべきと思っています。また、ご指摘の論文は、日本銀行の公式見解を示すものではありませんので、私からの具体的なコメントは差し控えさせて頂きたいと思います。そう申し上げたうえで、日本銀行が行っている金融政策の効果についてご説明いたします。「量的・質的金融緩和」の導入から5年ほど経ちましたが、わが国の経済は大幅に改善し、物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなっていると考えています。この点に関しては、確かに金融政策全てで成し得たとも思いませんし、全く金融政策の効果がなかったということでもないだろうと思っています。今後とも「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもとで、こうした金融緩和を粘り強く続けていくことが必要だろうと考えています。

§12Question

講演の中で無形資産について言及されており、既存のデータでは理論的に最適という水準よりも投資額が少なく見える可能性があるとご指摘されているのですが、今、日本の投資環境が極めて高い水準にあると思うのですが、現状のデータからみて、物価目標2%はなお遠い中ではあるわけですけれども、従来の経済データだけを見ずに緩和度合いの調整が必要だというご認識を示されたということでよろしいのでしょうか。

§13Takako Masai

無形資産の増加を取り上げた背景について申し上げると、まず1点目が――あまり一般的には知られていないと講演の要旨でもご説明させて頂きましたが――、ジャクソンホールという、夏場に行われるカンザスシティ連銀主催のカンファレンスでの今年のテーマが、金融政策と無形資産の構造変化に与える影響というもので、アカデミックな方々や中銀関係者が集まっていくつかの論文が発表されました。その中の1つがこの議題であったということです。もう1つは、大体同じような時期に、マイクロソフト社の創業者の一人として極めて有名なビル・ゲイツ氏のブログの中で同様の指摘があります。無形資産の増加に関してこういったことも加味して、──例えばビル・ゲイツ氏が自身のブログの中で紹介されていたのは、Jonathan Haskel 氏と Stian Westlake 氏が 2017年に出版した"Capitalism without Capital"という本の中で、マイクロソフト社そのものが登場していまして、無形資産が多い会社の代表として紹介されており、同社のPCやタブレットといった商品が象徴の1つとして紹介されているのですが、――そういった新しい構造変化を頭の中に入れながら総合的に判断していくことが重要なのだと講演でも申し上げました。

§14Takako Masai

ただ、そのうえで申し上げると、例えばPCだとかタブレットといったものもフィジカルなものとして必要ですし、そういったフィジカルなものがあって初めて、マイクロソフト社のソフトが伝播していくというシナジー効果が持てます。また、同じようなフィジカルという部分に目を向けた場合には、例えば Uber 社では、自動車というフィジカルなものが必要であって、こういった部分に関しては、いわゆる伝統的な金融緩和または引締めのメカニズムは働き続けていると思いますので、こういった論文や指摘があったからといって、直ちに全てを説明しているということではないだろうと考えています。

§15Question

先程からのお話にあるように、地銀の収益環境が非常に厳しくなっていく中で、先を見越した経営基盤を強化するために、金融機関の合併というのが、来年4月にふくおかフィナンシャルグループと十八銀行という長崎の銀行が経営統合するというのがありまして、それに関してですが、今後、地銀の合従連衡みたいなものは進んでいくべきだと考えていらっしゃるのか、ご意見を聞かせてください。

§16Takako Masai

まず、金融機関の経営統合に関しましては、これは個別の金融機関のご判断で行われているものですので、個別の事案についてコメントすることは控えさせて頂きたいと思います。そのうえで、一般論として申し上げますと、地域の人口や企業数が減少し、地域金融機関間の競争が激化していく中で、地域金融機関にとって収益基盤の強化や生産性の改善により収益性を向上させていくことが大きな課題となっていると考えられます。経営統合も、収益性を向上させるための選択肢の一つと考えられます。仮に、経営統合を選択する場合には、自らの営業基盤や収益力の展望などを踏まえた上で、経営統合が自らの収益力の向上に繋がるかどうか、また、金融仲介機能の適切な発揮を通じて、顧客や地域経済にプラスの影響をもたらすかどうかといった観点から、統合の効果を見極めていかれることが重要だと考えています。

§17Question

2点ありまして、1点目が、貿易摩擦の影響を指摘されていますけれども、7月に日本銀行は金融政策を調整されて、貿易摩擦への影響という点では、今後、更なる何か対応が必要になるとお考えかどうか。もう1点が、ちょっと違う話題になってしまいますが、一部週刊誌の報道で日産のカルロス・ゴーンさんの損失付け替えのところに前職時代に関わり合いがちょっとあったというような報道がありましたが、それに対する事実確認も含めて、もしおっしゃられることがあったら教えてください。

§18Takako Masai

まず2点目のご質問の方からお答えをさせて頂きます。私は 2007年から 2011年にかけて新生銀行で「キャピタルマーケッツ部部長」の職にございました。週刊文春の記事では、「キャピタルマーケッツ部長」とされていますが、実際には、「キャピタルマーケッツ部部長」でございます。もっとも、当時の個別の取引に関することについては、守秘義務の観点から、そもそも新生銀行がこの取引に関与していたか否かといった事実関係も含めまして、お答えは控えさせて頂きたいと思います。1つ目のご質問に戻りまして、貿易摩擦ですが――特に懸念されるのが米中の間での貿易摩擦の関係だと思いますけれども――、1つ言えることは、あまり極端な悲観論に走るべきではないと思っています。そう申し上げますのは、1点目として、この間、まずNAFTAに関しての話の進展があったことや、また米中間での対話が続いているというところを考えますと、まだ何か大きな影響がハードデータで確認できているという段階ではないと言えると思います。こう申しながらも、やはり大きな経済の2つの国でのことですから、例えばIMFが 10月に示したシミュレーションによりますと、貿易に直接の部分でも一定程度の影響はあるものの、例えば市場の動揺であるとか、それから企業や家計のマインドへの負の影響といったものを加味しますと、やはり相応の大きさでの影響が出るという試算が出ています。

§19Takako Masai

足許では、本日の懇談会でも、実際に何か影響が出ているという声はあまりお聞きしなかったものの、支店でのミクロベースの声などを聞いている中には、そういった影響を懸念する声も相応に聞こえてきていますので、今後とも注視をしなければならないことには間違いはないと思います。政策に関連したことで言えば、度々の決定会合でこういった点を含めた上での経済情勢もみていきながら、その時その時の状況によって決めていくということだと思います。

§20Question

講演の中で、7月の措置のような弾力的な措置が市場機能を維持することに繋がるとありますが、最近また 10年債金利も 0.1%を下回る動きをしていて、今後更にこういう柔軟化の措置を取る必要性、余地があるのかどうか。特に、「より幅広いバンドで長期金利が動くことを容認すべき」ですとか、「対象とする目標金利の年限を変えるべき」という意見も委員の一部から出ているようなので、それも踏まえて政井さんの考えをお願いします。

§21Takako Masai

日々のマーケットの動きに関して、何かコメントをするというのはあまり適切ではないので、控えさせて頂きますが、全般的な動きとしては、例えば米国であっても、先進国全般に金利があまり上昇していない状況とみていますので、日本のマーケットも世界の流れにある程度準じている可能性があるのではないかと思っています。その観点で言えば、年初にみられたような、欧米市場の動きとはやや異なった動きをマーケットがしているという指摘を受けたもとで考えれば、機能度としては回復している道筋にあるのではないかと判断しています。また、今後の話に関しては、色々な方々が色々なお考えのもとで、ご意見をお持ちなのだろうとは思いますけれども、私としては、その時その時で最適な、ないしは最適と考えられる政策のコンビネーションというものは、やはりその場でなければ分からない部分があり、先程申し上げました通り、例えば米中間の貿易問題であったり、そういった世界経済、日本経済を巡る部分でも、先行き見通しが非常に不透明な部分が大きいわけです。そういった不透明感が強い中で、これがこの時点で最適であるということをなかなか申し上げるのは難しいのではないかと感じておりまして、色々なものをひとつひとつ、効果と副作用を見ながら、その場で判断していくということに尽きるのではないかと思っています。

§22Question

金融調節の話ですが、今月から国債の買いオペを従来入札の翌日だったものを翌々日以降に変えています。これによって市場の反応がどうなっているのか、その辺の評価が何かあればお伺いしたいのですが。

§23Takako Masai

日々の調節に関しては、私どものお示ししているダイレクションに従って適切に執行部の方でやっていると思っていますし、足許のところも、先程申し上げた通りで、市場の機能度という観点で言えば、一時期に比べれば回復の途上にあると考えています。

§24Question

先程の週刊誌報道に関連しての質問なのですが、一般的なご見解として、個人の損失を企業側に付け替える行為について、何かご見解といいますか、ご意見ございましたら伺えますでしょうか。

§25Takako Masai

この報道に関係するご質問には、お答えは差し控えさせて頂きたいと思います。以上