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日本銀行記者会見2019年1月31日雨宮正佳, 副総裁

雨宮副総裁記者会見(2019年1月31日)要旨

全文

§1Question

本日の懇談会の席では色々議論があったと思いますが、地元の出席者の方からどういった意見・お話が出たのか、詳しめに教えてください。

§2Masayoshi Amamiya

本日の懇談会では、当地の行政や経済界、金融界を代表する方々から、地域経済の現状や直面する課題に関する話をお伺いするとともに、日本銀行の金融政策運営に対する貴重なご意見も承りました。大変有益かつ示唆に富む意見交換ができたことにつきまして、懇談会にご出席頂いた方々にこの場をお借りして改めて御礼申し上げます。席上聞かれた話をいくつか整理して申し上げると、当地の景気については、地域や業種、あるいは企業規模間での差はみられるものの、総じてみれば「緩やかな回復の動きが続いている」というご意見が多かったと思います。昨年の西日本豪雨等の影響も、特段聞かれませんでした。製造業では、一般機械、輸送用機械等の業種を中心に生産・輸出が高水準で推移していると伺いましたし、非製造業でも、観光客の増加等に伴う波及効果がみられているというお話を伺いました。一方、直面する課題としては、殆どの出席者の方々が人手不足と後継者難の深刻化というお話をされていました。特に、若年層が山口県外に就職先を求め、県内の地場企業では新卒者の採用が非常に困難化しているというお話を多く伺いました。

§3Masayoshi Amamiya

同時に、こうした人手不足に対しては、行政、経済界、金融界が連携して、特に山口県にある企業の知名度や認知度を向上させるとか、あるいは省力化・省人化投資を促進するといった取組みを進めているほか、女性や高齢者の就業拡大にも取り組んでいるという話をお伺いしました。米中の貿易摩擦とその影響に関しては、現状では生産・輸出に大きな影響は出ていないものの、不透明感が高い状況が続いており、今後の影響を懸念するという声が聞かれました。また、為替相場をはじめとする金融市場の動向を気にかけているという声もいくつか聞かれました。金融界の皆様からは、金融政策運営に伴う低金利環境の継続によって利鞘の縮小が続く中で、金融仲介機能への影響を懸念する声が聞かれました。この間、注力分野として、M&Aや事業承継のサポートといった、取引先企業に対するコンサルティング機能の充実を図っているというお話も伺いました。私どもとしては、物価安定のもとでの経済の持続的成長を実現していくことや、金融システムの安定を確保することを通じて、引き続き当地の金融・経済の健全な発展を後押ししていきたいということを申し上げました。

§4Question

山口県の景気の現状と先行きの展望について、世界経済の減速懸念等もありますが、教えてください。

§5Masayoshi Amamiya

下関支店が先般公表した「山口県金融経済情勢」の内容と、本日お伺いした話を併せて申し上げますと、山口県の景気は、「緩やかながらも順調に回復している」と判断しており、本日伺ったお話を踏まえても、そうした判断は引き続き維持されていると思いました。具体的には、当県は瀬戸内海沿岸部に複数の化学系のコンビナートを持っているほか、輸送用機械関連の工場等、製造業が集積していますが、高付加価値製品を中心とした需要拡大等を受けて、生産や輸出が高水準で推移しています。設備投資についても、高水準の生産を受けた能力増強や、人手不足対策を含めた省力化・省人化投資が積極的に行われています。また、県内観光地の知名度を向上させる努力が徐々に実を結んでいることや、クルーズ船の寄港が増えているなど、アクセスの向上もあって、国内外からの観光客も増加基調のようです。県内では、有効求人数が既往ピークを更新するなど、労働需給が逼迫していますので、人手不足の対応が大きな課題となっています。官民一体となってUIJターンの促進や、起業家の育成等が進められていると認識していますので、こうした関係者の幅広い取組みが実を結びながら、山口県経済は先行きも緩やかな回復を続けていくとみています。

§6Question

2 点ほど伺います。まず、講演では、携帯通信料や教育無償化の物価への影響について、状況次第では一時的ショックにとどまらない可能性もあり、特殊要因の動向について適切に情報発信していくとおっしゃっていたと思います。この適切に情報発信していくというのは、どういったことを考えられているのか、具体的に何かあればその点を教えてください。もう1 点は、昨日、FRBが利上げの一時停止を表明しました。これに伴って、日米の金利差の関係から、円高圧力が今後高まっていくことも想定されます。円高が進むと輸出産業を中心に日本経済への影響も考えられるわけですが、日本銀行として考え得る対応や日本経済への影響をどう考えるか、コメントをお願いします。

§7Masayoshi Amamiya

まず、物価の特殊要因に関する情報発信については、講演でも申し上げましたが、来年度は消費税率の引き上げ、教育無償化、あるいは、まだ固まっていませんが携帯通信料の引き下げなど、物価に影響を与える様々な要因が想定されています。こうしたものは、基本的には一時的な──1年経ってみれば前年比の影響は消える──要因です。大事なのは物価の基調判断であり、一時的な要因が物価の判断や金融政策の判断に影響を与えるということではありません。ただし、日本の物価予想の形成は、現実の物価に非常に影響されやすいため、一時的な要因で物価が下落すると、それが人々の物価予想に影響を与える可能性は十分あります。そうした点を中心によくみていくということです。具体的には、例えば今回の展望レポートでも、いくつかの要因については、物価に対する寄与を脚注でお示ししています。それぞれの個別要因について、物価にどの程度影響があるかをこうした形式でお示しすると同時に、それが物価の基調判断にどのような意味合いを持つかといったことも、展望レポートや講演、あるいはこうした記者会見など、色々な媒体を使いながら丁寧にご説明していくという趣旨です。FRBの今回の決定の件は、特にご質問のあった為替レートについて言いますと、為替レートは短期的には色々な要因で動きます。

§8Masayoshi Amamiya

FRBの今回の決定について言えば、確かに内外金利差の縮小の可能性を意識する見方もあるでしょうが、一方で今回の判断を通じて、米国経済の堅調さが更に確実となる、あるいは米国経済が下支えされるということであれば、むしろドルの需要増に結び付くという見方もあるでしょうから、一概には言えないということだと思います。いずれにせよ、FRBの適切な金融政策運営を通じて、米国経済の堅調さが維持される、あるいはしっかりと下支えされることは、日本経済にとっても良いことだろうと考えています。

§9Question

講演の中で、雨宮副総裁は、金融緩和に伴う副作用の蓄積にも留意しないといけない状況とおっしゃっていました。世界経済の先行き不透明感が高まっている中で、今後の追加緩和の時期や規模についても、副作用に留意しないといけない状況とお考えでしょうか。黒田総裁の就任当初の頃と比べて、追加緩和に関する考え方に何か副作用との絡みで変わりはあるのでしょうか。

§10Masayoshi Amamiya

私どもとしては、金融政策運営に当たっては、 2%の「物価安定の目標」の実現に向けたモメンタムを維持するために、経済・物価・金融情勢を踏まえて、追加緩和も含めて、適切な政策調整を行うということをずっと申し上げています。経済・物価・金融情勢を判断するという中には、政策効果のプラス面とマイナス面をバランス良く判断するということが当然含まれていますので、今この段階でそうした基本的な政策運営スタンスに変化はありません。引き続き効果・副作用をバランス良く評価しながら、粘り強く強力な金融緩和を続け、情勢に応じて必要な政策の調整を行うという考え方も変わりありません。

§11Question

昨年末以降、リスク回避的な動きもあり、金融市場では長期金利ですとか超長期金利が低下し、イールドカーブがかなりフラット化していると思います。金融情勢を踏まえた動きではあるかと思うのですが、この状況が長く続くことの効果ですとか、デメリット・メリットのバランスについてどのように考えるか、お考えをお聞かせください。

§12Masayoshi Amamiya

ご案内の通り、昨年7月の新たな枠組みの中で、長期金利の変動をより弾力化する措置を講じました。長期金利は、ゼロ%程度という目標を中心として、より弾力的な市場変動を許容していく方針のもとで、昨年の夏以降、いったん上昇し、その後また下がり、今少し戻るなど、変動が大きくなっています。市場機能という面で言えば、副作用にも配慮しながら、粘り強い金融緩和を続けるという方向で政策効果が表れてきている範囲内だと思っており、これまでの長期金利やイールドカーブの変動が、現段階における効果と副作用の私どもの判断を変えるということではないと思っています。引き続き、こうした弾力的な金利変動を許容しつつ、強力な金融緩和を継続していく方針です。

§13Question

重ねて物価についての質問ですが、展望レポートの物価の下方修正で、目標とする 2%との乖離が更に広がったという点がありました。昨年7月に物価の伸び悩みの原因の説明をされましたけれども、それで今十分なのかという点です。先程の特殊要因の適切な情報発信だけではなくて、例えば本日の「主な意見」では、長短金利の水準あるいはマネタリーベースと物価上昇率等の関係について、更なる分析と検討が必要ではないか、という意見もあったと思います。物価 2%について、もう一度、昨年7月より踏み込んで考えてみる、そういう機会は必要ではないでしょうか。

§14Masayoshi Amamiya

そもそも物価動向の評価ですとか、その背後にある要因等の分析、あるいは政策と物価の関係──今ご指摘の、例えば金利と金融の量と物価の関係等──については、私どもはずっと継続して研究をして、その研究成果をもって決定会合で議論するという取組みを続けてきています。状況に応じて、節目節目で大きな取りまとめの議論 ──例えば今ご指摘の昨年の検討もそうですし、2016年の「総括的な検証」もそうですけれども──をする場合もあります。継続的な議論と大きな取りまとめを組み合わせながら検討していくということですが、現段階では、まずは昨年のフレームワークと考え方、物価の上昇にどうしても時間がかかるという分析内容を踏まえながら、毎回の政策決定会合で議論していくことが基本になると考えています。

§15Question

本日の講演では、物価について、先行き押し下げ圧力が予想以上に長く作用する可能性があるとされるとともに、緩和長期化の副作用については、これまで以上に留意する必要があると指摘されました。合わせて考えますと、物価目標の実現が一段と遠のくリスクというのは大きくて、その際の政策対応の優先順位としては、追加緩和よりも副作用対策の方が重要と認識されておられるようにも読めるのですが、この点についてご所見をお願いします。

§16Masayoshi Amamiya

必ずしもそういう意図はありません。私どもの目標は、あくまで 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早く実現することですし、政策運営の基本は、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%に向けたモメンタムを維持するために、必要であれば調整するという考え方に尽きています。今のご質問に絡めて申し上げると、例えば副作用に対する配慮というのも、あくまで2%の「物価安定の目標」を達成するために最も適切なパスや手段は何かを考える中で位置付けるものです。副作用だけ単独で取り出して手当てするというよりも、需給ギャップがプラスのこの状態をできるだけ長く続けるためには、どのような政策が望ましいのか、その場合に副作用にも手当てをしながら強力な金融緩和をどうやって続けるべきか、という考え方で臨むということです。政策運営の基本は、2%の「物価安定の目標」の達成にあるとご理解頂きたいと思います。

§17Question

講演の中で、政策効果のベネフィットとコストの両方をよく吟味しながら、強力な金融緩和を押し進めていきます、とありました。非常に素朴な疑問なのですが、ベネフィットとコストという言い方を日銀幹部の方が最近よくお使いになります。これは効果と副作用というのと何か違うのでしょうか。よく日銀の下心というか、裏の裏を読み取ろうとするエコノミストなどは、このコストという言葉が、副作用よりも強いのではないのかと、つまりより副作用に意識を高めているのではないかと勘繰る向きもあります。効果と副作用と違うのか、同じであれば何でカタカナばかり使うのか、というのが1 つ目の質問です。もう1 つは、日銀はこれまでも、追加緩和の手段として、また量を拡大するとか、資産買入れを拡大するとか、長短金利を下げるとか、そういう手段があるということは、黒田総裁も言っていますが、これまで色々な緩和一辺倒の手段をやってきた中で、なかなか手段が限られてきているというのは、少なくとも日銀の外では、非常に一般的な見方だと思います。そうした中で、一つの考え方として、最近、日銀OBやエコノミストの一部から、金融機関にマイナスの金利で日銀が資金を供給する、マイナス金利での資金供給というやり方が合理的ではないかという指摘というのか、提案もありますが、これについてどのようにお考えか、この 2 つをお願いします。

§18Masayoshi Amamiya

まず、効果と副作用対コストとベネフィットについては、少なくとも金融政策決定会合でそういう議論をしたことがないので、個々の委員がどう判断しているか私はわかりませんが、私は違いはないと思っています。2 つ目は、具体的な金融政策の手段について、細かくコメントすることは控えさせて頂きますが、追加緩和については、2016年9月にイールドカーブ・コントロールを導入したときに申し上げた通り、いくつかの手段があります。それぞれの手段の単独か、あるいは組合せか、あるいはその応用系も含めて、色々な可能性は排除せずに検討していくということに尽きます。

§19Question

需給ギャップのところで伺います。先日の展望レポートでは、先行きに関して、比較的大幅なプラスで推移するという見通しを持っていらっしゃいます。昨日、需給ギャップが若干改定されて、7~9月が 1.25%、最近のピークですと 1.57%ですが、19年度と 20年度の成長率をみると、0.9%と1.0%ということで、潜在成長率並みかと思います。この中で需給ギャップが大幅に拡大していくとみられているのですが、潜在成長率をそれほど大幅に超えない成長にもかかわらず、需給ギャップが広がっていくという見通しに関して、具体的なイメージを持っていらっしゃるのでしょうか。

§20Masayoshi Amamiya

私どもとしては、日本経済の潜在成長率は足もと 0%台後半と計算されるもとで、成長率見通しは今回の展望レポートでお示しした 0.9%、1.0%です。潜在成長率はある程度幅を持ってみる概念だと考えれば、今後数年間、概ね潜在成長率並みの成長が続くということですから、言い換えれば、現在のプラスの需給ギャップ、相当拡大したプラスの需給ギャップが、概ね維持されるくらいの成長 ──言ってみれば実力に応じた成長 ──が続くと評価しています。

§21Question

その中で、比較的大幅なプラスで推移するとみられているのですが、比較的大幅なプラスについて、雨宮副総裁はどのように考えていますか。

§22Masayoshi Amamiya

特に何%というわけではないですが、これまでの需給ギャップの動向をみると、リーマンショック後に極めて深いマイナスとなり、そのマイナスが徐々に縮まって、2013年からプラスになって、その後、若干プラスになったりマイナスになったりしながら、2016年くらいから明確にプラスになっています。比較的大きなという表現は、特に何%以上というわけではないですが、この間の需給ギャップの変動を振り返れば、足もとの 1%台という大きさが、比較的大きな需給ギャップのプラス幅であると評価しているということです。

§23Question

2 点あります。1 点目は、人々のデフレマインドの払拭には時間がかかるとおっしゃっていて、5年前にQQEを導入するときにも、デフレマインドは常に日銀の懸案事項だったと思うのですが、5年前にQQEを導入したときよりも、やっぱり色々やったけど本当に払拭が難しいということでしょうか。6年間政策をやってみて、こういう結論に至った経緯について雨宮副総裁ご自身の印象というか、日本固有の部分がどのくらいあるのか、他の国も低インフレで悩んでいる国も多いと思いますのでお答えください。2 点目は、この追加緩和の議論の中で、どういったことが起きたら追加緩和が必要になるのかということについて、雨宮副総裁ご自身の考えを是非お願いします。

§24Masayoshi Amamiya

まず1 つ目から申し上げますと、もともとデフレマインドということを含めて、人々の物価観や期待インフレ率は、これまでの経済学では、なかなかクリアカットに分析されてはいません。人々の物価観がどのように形成され、どういう政策でどういう風に変わるのか、変わらないのか、中にはそもそも政策で変えることはできないという見方もあります。理論的にも実証的にも、人々の物価観をどう捉え、それがどう影響するかということは、大変難しく、いわば未開の分野なのです。しかし、その一方、物価は需給ギャップや為替レート、原油価格だけで単純に決まるのではなく、人々の物価観が非常に重要だということは、世界的に共有されてきています。中央銀行や学者も、その研究を色々と深めています。実際、私どもも、この6年間の政策の経験、物価や期待インフレ率の実際の動きをみながら、新たな知見を蓄積し、新しい気付きも含めて、まだ研究を深めている段階と思っています。その意味では、6年前と比べてどうかと言えば、6年間やってみて、やはり物価や物価観、期待インフレ率というのは非常に複雑な現象であるということに、私自身は改めて思いを致しているという面はあります。

§25Masayoshi Amamiya

どういうことが起これば追加緩和になるのかという条件については、先程申し上げた通り、私どもの基本的な政策スタンスは、金融政策の最終目標である 2%の「物価安定の目標」との関連で議論していくということです。ただし、これは先程から特殊要因等々の議論でも出ていますが、物価というのは短期的には色々な要因に影響されますので、やはり物価の基調をどう判断するかが大事です。政策の用語で言い換えれば、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムがどうかを判断し、そのモメンタムを維持するために必要な政策の調整を行うということに尽きると思います。以上