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日本銀行記者会見2019年2月28日鈴木人司, 審議委員

鈴木審議委員記者会見(2019年2月28日)要旨

全文

§1Question

まず、本日午前に開かれた金融経済懇談会でどのようなお話をされたのか、その内容について教えてください。また、それを受けて地元の出席者の方からどのような反応があったのか、日本銀行に対して政策面を含めてどのような要望が出されたのかを教えてください。2 点目に、茨城県経済について、どのようなところに強みがあるのか、あるいはどのようなところに課題があるとお考えなのかをお聞かせ頂ければと思います。

§2Hitoshi Suzuki

本日は遠いところ、また雨の中お越し頂き有難うございます。本日の懇談会では、茨城県の行政、経済界、金融界を代表する方々から、当地の経済・金融の現状と課題についてのお話や、日本銀行の金融政策運営に関する率直なご意見・ご要望を数多く頂き、大変有意義な意見交換ができました。この場を借りて、改めて御礼申し上げたいと思います。席上で伺ったお話やご意見・ご要望について、印象・感想を申し上げたいと思います。第一に、当地の景気については、「緩やかに回復している」とみられる一方、その実感が中小零細企業も含めた県内の企業・個人全体には必ずしも行き渡ってはいないとのご意見を頂きました。また、県内の人口減少や高齢化の中で、多くの方々から人手不足への対応や事業承継が課題であるといったご意見を頂きました。特に人手不足については、外国人労働力の重要性が高まっているとのご発言も頂きました。本日伺ったご意見も踏まえつつ、経済・物価・金融情勢をしっかりと点検していきたいと思います。第二に、金融環境面につきましては、日本銀行の大規模な金融緩和が続くもとで、金融機関収益の一層の悪化に伴う金融機関の「持久力」に対する懸念や、そのことが金融機関の金融仲介機能に与える累積的な副作用について十分な配慮が必要とのご指摘も頂きました。特に、金融機関の経営者以外の方からもこのようなご意見を頂いたことが印象的でした。

§3Hitoshi Suzuki

日本銀行としては、こうしたご意見も踏まえつつ、適切な政策運営に向けて取り組んで参りたいと申し上げた次第です。次に、茨城県の景気の現状と先行きについてですが、茨城県の景気については、地域や業種、また企業規模間での差はみられるものの、総じてみれば、「緩やかに回復している」とみています。具体的には、当県では海外経済の成長に伴う外需の拡大等を受けて、生産や輸出が高水準で推移しているほか、設備投資についても、高水準の生産を支えるための能力増強投資や、人手不足等を踏まえた効率化投資が積極的に行われています。また、労働需給が引き締まり所得環境が緩やかに改善するもとで、個人消費につきましても、品目により好不調のバラつきはあるものの、全体では底堅く推移しています。先行きの県内の景気につきましては、海外需要を起点とした堅調な生産が設備投資や個人消費に波及するサイクルが今後も維持されていけば、本年9月から 10月にかけて開催される「いきいき茨城ゆめ国体」をはじめとする様々なイベントによる経済効果等もあり、緩やかな回復基調が続いていくとみられます。

§4Hitoshi Suzuki

そのうえで、先行きの留意点としましては、海外経済、特に中国の成長の鈍化や、米中間の貿易摩擦問題の影響、また、国内の人手不足や人件費・仕入価格の上昇が企業経営に及ぼす影響、10月の消費税率引き上げの影響などを挙げる声が本日の懇談会の席上でも聞かれており、注視していく必要があると認識しています。

§5Question

午前中の講演の中で、金融政策の「持久力」を高める必要性について言及されていましたが、これは具体的にどういったことを指すのでしょうか。例えば国債を購入する量を減らすとか、具体的な手法について何かあれば教えてください。

§6Hitoshi Suzuki

お手もとにある午前中の挨拶要旨を振り返りますと、「持久力」について、「金融緩和の持久力」と「金融機関の持久力」と2 つの項目で書いています。「金融緩和の持久力」としては「走り続けるという意志」、「柔軟性」、「ランニングエコノミー」を挙げています。まず、「走り続けるという意志」については、現状の 2%の「物価安定の目標」にはなお距離があるという状況を踏まえて、フォワードガイダンス等でコミットメントの強化を図っています。また、「柔軟性」については、昨年7月末に、特に市場機能に対する副作用への対応ということで柔軟性もお示ししているわけですが、そうしたことを続けていく必要があると考えています。「ランニングエコノミー」については、今後、効果とコスト、副作用の比較衡量――一言で言うのは簡単であるものの、実際には難しいわけですが――を図りつつ、その中身についてよく検証したうえで、金融政策に関してより「持久力」のあるものにしていくことが必要だと考えています。もう一つの項目の「金融機関の持久力」ということに関しては、今まで色々な形で言われております通り、特に地域金融機関においては、基礎的な収益力が減少傾向をたどる中において、有価証券の売却益や信用コストの戻り益等で最終決算を支えてきた経緯がありますが、それらが段々と見込み難くなってきているなど、状況は厳しさを増してきています。

§7Hitoshi Suzuki

それから、挨拶要旨でもお示ししている通り、最近の貸出金利から経費率に相当するものを控除したもの――ネットの利鞘とでも申しますか ――をみますと、地域金融機関では足もと10bps あるいはそれを切っているとの試算もあります。それに対し、信用コストをみると、現状では基本的には戻り益が生じていますが、過去 20年程度の期間をとってみますと平均すれば 40bps 程度のコストがあるとの計算となります。こうした信用コストが顕現化してくる場合には、地域金融機関の経営が非常に厳しくなります。日本銀行としては、そうしたことに対して、現時点においては大きな問題はないものの、都度都度、副作用についても考えながら、将来、申し上げたようなことが起き得ることも踏まえつつ、必要に応じ「持久力」を持つような修正を図っていくことが重要である、そういった趣旨で申し上げています。

§8Question

追加緩和についてですが、昨日の片岡審議委員のご発言では、もっと大胆な政策が必要ではないかということをおっしゃっていて、市場の中でもぽつぽつ追加緩和の必要性が出てくるかもしれないという見方があります。これについて委員はどのようにお考えになっているのでしょうか。

§9Hitoshi Suzuki

昨年までメディアの方々からは、「正常化に向かって動かないのか」と聞かれることが多かったのですが、今年になると反対に「追加緩和をしないのか」というようにおっしゃられることが多くなり、その真意をはかりかねる部分もありますが、日本銀行では毎回の金融政策決定会合で、経済・物価・金融情勢を踏まえて、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムが維持されているかどうか、これを点検しつつ、金融政策の運営を行っています。そうした中で、将来的にこうしたモメンタムが損なわれることがある場合には、適時・適切な金融政策を検討していくことになります。ただ、私自身も含め、現時点においては 2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていると申し上げてきており、そういう状況にあるのであれば、私としては追加緩和の必要は全くないと考えています。仮に、そういったモメンタムの維持が損なわれる事態においては、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入時にも公表しておりますように、イールドカーブ・コントロールにおける金利、すなわち短期政策金利および長期金利、資産買入れの質の面、マネタリーベースの量の面など、様々な手段の中から、その時々で最適と考えられる施策を講じていく必要がある、ということだと思います。その際、私としては、留意すべき点がいくつかあると思っています。

§10Hitoshi Suzuki

第一に、経済・物価に対する見方ですけれども、例えば物価について短期的には一部品目の大きな価格変動が消費者物価に強い影響を及ぼす可能性があるわけですが、より重要なことは、長い目で見た物価の基調であると思います。すなわち、単に物価が目先上がった、下がったという点に一喜一憂するのではなく、幅広い品目の価格動向をきめ細やかに見定めつつ、その背後にある環境の変化や基調としての物価の動きをとらえていく必要があるということだと思います。昨年1年間のコアCPIは 0.7%から 1.0%の間を行き来していましたが、その前の 1年と比べると、明らかに基調としては上昇しているということだとみています。残念ながら、昨秋以降の原油価格の下落等で、必ずしも更に上昇していく勢いまでは見えないところですが、基調としては良い方向に動いていると思っています。それから二番目に、金融政策運営に当たっては、その効果とともに、国債市場の機能、あるいは金融機関の金融仲介機能に及ぼす副作用やコストについても比較衡量しながら、その状況に応じて最適な方法で金融政策を運営していくことが重要であると思います。この点、今後、モメンタムが損なわれるような場合に、追加緩和を行う際には、効果よりも副作用が大きい可能性もありますので、私としては十分慎重な議論をしていく必要があると考えています。

§11Hitoshi Suzuki

こうした点を踏まえつつ、金融政策運営の観点から、引き続き重視すべきリスクの点検を行うとともに、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムをしっかりと維持すべく、適切な金融政策を運営していきたいと思っています。

§12Question

先程、「金融政策の持久力」のお話がありましたが、ETFの買入れについてお伺いします。足もと、株価が一頃の右肩上がりのトレンドとは違って一進一退となっている局面で ETFを買い続けているわけですが、結果的に平均簿価が上がり易くなっており、損失リスクが高まっているという見方もあると思います。ETF買入れに対しての持続性をどのように考えておられるのか教えてください。

§13Hitoshi Suzuki

ETFについて、日本銀行では、買入れを適切に実施するために、これまでも色々な工夫をしてきています。例えば、幅広い銘柄から構成されるTOPIXに連動するETFの買入れウエイトを高めるなど、個別銘柄の株価に偏った影響ができるだけ生じないように配慮してきました。あるいはコーポレート・ガバナンスの面についても、スチュワードシップコードの受入れを表明した投資信託委託会社により、適切に議決権が行使される扱いとなっています。昨年7月には、株式市場のリスク・プレミアムへの働き掛けを適切に行うために、市場の状況に応じて買入れ額は上下に変動し得ることを明確にしました。その結果、それから暫くの間は市場が落ち着いていたために買入れ額は少ない金額だったと思いますが、昨年10月以降、株式市場がグローバルに不安定化し下落していく中においては金額が増えるなど、少なくとも、買入れ額を変動させる柔軟性は持たせているということだと思います。もとより、様々な施策は、効果と副作用をバランス良く考慮していく必要があると思いますし、未来永劫続けることのできる施策とは考えていないわけですが、これまでのところは所期の効果を発揮しており、現時点で何らかの見直しが必要だとは認識していません。

§14Question

先程の質疑の中で、追加緩和は現時点では全く必要ないという趣旨のご発言があったことを理解したうえでの質問ですが、半年前の沖縄での講演と比べると、当時は、副作用が顕現化すると手遅れになるリスクがある、といったやや強めな言葉が多かったような印象がありますが、その時と比べると大きなメッセージは変わっていないとはいえ、副作用への対応で正常化を探るべき必要性について、少しトーンが落ちているという印象を受けたのですが、その解釈は間違っていないでしょうか。また、この半年間で世界経済のリスクや金融市場の不安定性が若干増した面があるかと思いますが、正常化を進めるに当たっては慎重に見極めていかなければならないポイントが増えてきたのかどうか、教えてください。

§15Hitoshi Suzuki

昨年の 2月とか 8月、特に 8月と比べて、金利水準や正常化に対しての私の主張のトーンが弱まっているのではないか、ということですけれども、弱まっているかどうかを私自身では特に認識してはおりません。記者の方からご覧になって、弱まっているように見えるということなのかもしれませんが、昨年までは正常化に関するご質問が多かった中で、現状は追加緩和についてのご質問があるといったような正常化方向に対してはアゲンストの風がありますので、そのためにトーンが弱くなっているように見えるのかもしれません。ただ、実際、日本銀行が2%の「物価安定の目標」の達成に向けて、残念ながら時間がかかっており、まだまだ時間がかかる可能性もあるという中において、一方で、欧米の金融政策と日本銀行の金融政策に直接的な関係があるわけではありませんが、欧米に関しても、正常化あるいは引締めといった方向から、中立的な方向や、あるいは正常化に向かっていてもスピードが遅くなるといったような動きがあることも確かです。こうしたことの背景にある、将来に向けての不確実性のリスクが、1年前と比べると少し高まっているといった点について、きっちりと見極めつつ、慎重に政策を運営していかなければならないと思います。

§16Question

本日の挨拶の中で、仮に景気後退局面になった場合にデフォルト率が上昇すると、金融機関の収益が加速度的に悪化する可能性があると指摘されています。そういうリスクが高まった場合、金融政策でできることはあるのか、日銀として、仮にそうしたことが起こった場合は、どういう政策運営をすべきなのか、その辺りについてお聞かせください。

§17Hitoshi Suzuki

信用コストと景気の関係については、まずは景気が急激に悪化することのないように、金融政策としてもよくみていくということであろうと考えていますが、これまでも申し上げているように、金融政策は金融機関の収益のために行っているものではないということは一方で真実であります。ただ、ご案内の通り、金融政策は金融機関を通じて経済に対して金融政策の効果を浸透させていきますので、金融仲介機能が毀損するリスクがある、あるいは金融システムが不安定になる、といったことがあると、それは問題であると考えています。逆に、経済・物価が順調に推移している中で、多少、金利やイールドカーブが上がっていけば、それは金融機関の収益にとってもプラスになると思います。

§18Question

本日の挨拶の中で、仮に景気後退局面に入った場合に、企業の経営悪化により信用コストなどが顕在化するおそれがあるということですけれども、もしそうなった場合に、金融政策として採り得る手段には何があるのでしょうか。

§19Hitoshi Suzuki

金融政策には副作用があることは従来から申し上げていますが、加えて、累積していく政策の副作用が、どこかの時点で顕現化すると、その時点では上手く対処することが難しくなることや、手遅れになるリスクがあるということを申し上げてきています。特に、地域金融機関においては、足もとの低金利環境に加えて、人口の減少あるいは企業の減少、こういったものを背景に収益プレッシャーが高まっている状況にある中で、これまで有価証券の益出しや与信費用の戻し入れによって収益を下支えしてきました。しかしながら、そうした下支えについても、若干潮目が変わりつつある状況にあるように思います。こうした中で、新規貸出の約定金利が極めて低水準にあり、地域金融機関では、大手銀行を上回る貸出の伸びを示していますけれども、相対的にリスクの高いミドルリスク企業向けの貸出や不動産賃貸業向けの貸出なども多くみられています。景気の減速等によって、こうした先の経営が悪化し、信用コストが顕現化してくるおそれがあるほか、デフォルト率が上昇すると、貸出ポートフォリオ全体としても貸倒引当金の積み増しが必要になりますので、その際には金融機関にとって加速度的な収益悪化の要因になり得るため、注意が必要です。

§20Hitoshi Suzuki

本日も申し上げていますように、少なくとも現時点においては、わが国の金融機関は全体として資本、流動性の両面において強いストレス耐性を備えており、金融システムの安定性も維持されていると考えていますが、金融政策によってもたらされる効果の時間軸だけでなく、副作用が累積していく時間軸についても、複合的な視点でとらえて適切な政策運営をしていくべきであると考えています。

§21Question

先程、副作用を考えながら「持久力」のある修正を図っていく必要があるとおっしゃいましたが、具体的にはどのような修正が必要だとお考えでしょうか。

§22Hitoshi Suzuki

昨年7月に市場機能に与える副作用に対しての柔軟性ということで対策を講じた次第ですが、私が本日申し上げたのは、今後、それ以外の副作用等も含めて問題が顕れ、「持久力」の維持が難しくなるようなことがあれば、それに対しては適切な修正を行って、「持久力」を強化していく必要があるということです。現時点において大きな問題があり、やっていないことがあるということで申し上げたつもりではありません。

§23Question

本日の挨拶の中の「金融機関の持久力」のところで、長期間にわたり消費者物価上昇率の高まりが抑制される可能性があるとのご発言があったと思いますが、長期間にわたって消費者物価上昇率が抑制される要因について、委員はどういったものをお考えになっておられますか。

§24Hitoshi Suzuki

昨年の展望レポートで詳しく要因を列挙していると思いますが、それと全く違う要因を私が認識しているわけではありません。多くの企業を訪問して、直接、経営者の方々のお話を伺っていますが、いわゆる消費者向けの製品に関しての値上げや企業の賃上げの動向については、まだまだやはり消極的な姿勢が多いという状況があると感じております。ただ一方で、この春にも一部値上げの動きもありますし、時間はかかっていますけれども、実質賃金が上がるような形で賃金が上がり、そして物価が上がっていく、そうした所得から支出への前向きの循環メカニズムというものが、将来、起きる可能性は十分高いだろうと認識しています。

§25Question

世界経済の先行きのリスクについて、中国や米国のことを講演でも言及されていますけれども、鈴木委員として、どの辺りに一番大きなリスク要因があると考えていらっしゃいますか。

§26Hitoshi Suzuki

もとより将来というのは不確実性がある世界でありますけれども、それでも一定の予測の範囲内におさまることが多いかと思います。これに対して、ここ数年、特に政治的な要因等については、予測が出来ないものが多く、金融経済市場が驚くようなことが起きかねないということについては、非常に警戒する必要があると考えています。ただ基本的には、米国あるいは中国、欧州で、一定の経済の減速はあると思っておりますが、本年後半にかけていったん減速した後は、緩やかにグローバル経済が回復していくという、落ち着いた状況がやってくるのではないかということをメインシナリオとして考えています。以上