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日本銀行記者会見2019年5月22日原田泰, 審議委員

原田審議委員記者会見(2019年5月22日)要旨

全文

§1Question

本日の午前の懇談会ではどのようなお話があったのか、ご説明頂けますでしょうか。

§2Yutaka Harada

本日の懇談会では、長崎県の各界を代表する方々から、地域経済の現状や課題、日本銀行の金融政策運営に対する大変貴重なご意見を頂きました。大変有益かつ示唆に富む意見交換ができたことについて、改めて感謝を申し上げたいと思います。懇談会で話された内容については、多岐にわたって多くのお話を頂きましたので、全てを網羅してご紹介することはできませんが、私なりに席上で聞かれた話を整理して申し上げたいと思います。まず、長崎県経済の景気については、これまで主要産業であった造船や水産業などが厳しい状況にある一方で、電子部品や情報通信機械などが成長しているが、今後についても、造船のみに頼らない次なる成長産業──具体的には海洋産業、ロボット、IoT、航空機産業など──の育成・強化に向けた変革の時期に差し掛かっているなどの声を伺いました。造船についても、これまでは競合関係にあった中国の造船所や国内他地域の造船所と協業したり、海洋構造物など造船以外の分野にも活路を見いだすことで、新たな取り組みを進めているとの声も聞かれました。また、離島・半島が多い地域の特性から、離島の産業振興や雇用創出に向けた取り組みが一定の成果を上げているとの声が聞かれたほか、観光に関しても、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界遺産登録を受けて観光客が増えたほか、ホテルの整備も進んでいるとの声も聞かれました。

§3Yutaka Harada

一方で、観光客は増えているものの、国際的な高級ホテル等富裕層向けサービスが弱いことや夜のにぎわいが九州のなかでは寂しいこともあり、日帰り客が中心で宿泊客が増えておらず、消費額も伸び悩んでいるとか、観光産業に従事する労働者の賃金がなかなか上がらないなど生産性の面でも課題が残っており、付加価値の向上や消費単価の引き上げに向けた努力が必要だとの声も聞かれました。加えて、長崎県の大きな問題として若者の県外流出が著しく、観光地でも人手不足の問題が深刻化しているなどの声が聞かれました。ただし、こうした人手不足に対しては、外国人労働者の積極活用に加え、離島・半島出身者向けに県内企業の社宅を整備したり、行政や企業が学校と連携して県内就職率の引き上げに向けた取り組みが進められているとのご意見も頂きました。このように、出席者の皆様から、厳しい現状を打破するための明るく前向きな取り組みの声もお伺いしたのは非常に印象的でした。この間、地域金融機関では地域を越えたビジネスマッチングを展開するなど、地元への貢献に努力されているとの声が聞かれました。本行の金融政策については、地域金融機関の経営動向と関連して、将来的に出口政策に向けて取り組むうえでも、急激な金利上昇は有価証券損益への負の影響等が見込まれるため、金融機関の経営体力に配意した緩やかな金利上昇が望まれるなどの声が聞かれました。

§4Yutaka Harada

私どもは、中央銀行の立場から物価安定のもとでの経済の持続的成長を実現していくことや、金融システムの安定性を確保することを通じて、当地関係者のご努力がより大きな成果へとつながっていくようサポートして参りたいと思っています。

§5Question

長崎県の金融経済状況についてはどのようにご認識されていらっしゃるでしょうか。

§6Yutaka Harada

長崎県の景気は、「緩やかな回復を続けている」とみています。景気が緩やかに拡大している全国や九州・沖縄全体に比べると一段階弱めとの感はありますが、家計部門と企業部門の双方で緩やかながらも堅調な動きが続いています。例えば、好調な海外・県外の需要を取り込んでいる観光や生産、それらに伴う設備投資などが当地経済の牽引役となっています。すなわち、観光関連では、外国人観光客の増加や「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界遺産登録効果が持続するもとで、10連休の好影響もあり、堅調に推移しているほか、小売部門でも、インバウンド需要が下支え役となって底堅さを維持しています。企業部門をみると、設備投資は、堅調な内外需要を受けた能力増強投資や老朽化更新投資、人手不足を背景とした省力化投資などが幅広い業種でみられており、全体として高めの水準が維持されています。ただし、生産は持ち直しの動きが続いているものの、このところ電子部品などで中国経済の減速の影響がみられており、今後の動向に注意が必要です。金融面では、当地では経営体力の強化や地域振興に資する狙いから地元銀行の再編の動きがみられており、地域一体となって長崎県経済をしっかりサポートしようとする機運が醸成されているとみています。

§7Question

大きく二点、原田委員にお伺いできればと思います。まず今日の挨拶要旨の中での話なのですけれども、今の日銀の金融政策について、銀行経営の観点からのお話がありました。その中で、結果的に人員や店舗の削減につながっているとか、構造改革につながっているというようなご発言をされていますが、一方で銀行の方からは副作用を懸念する声が結構出ている中で、今後の銀行業界はどうあるべきか、どのようになっていくべきか、どういうふうにお考えなのでしょうか。もう一点は、今日の議論とは関係ない点なのですが、MMTについてお伺いできればと思います。アメリカ発の話なのですけれども、日本銀行と日本政府が実証してきているというようなことも言われていますが、今日本がやっている財政政策、金融政策との違いはどこにあるのか、あるいは同じなのか、原田委員のご認識と合わせてお伺いできればと思っております。

§8Yutaka Harada

一番目の、今後の銀行経営のあり方というか、今後の銀行業界はどうなるのかについては、銀行というのは基本的には預金を集めてお金を貸し出すという仕事ですが、残念ながら貸出以上にお金が集まってしまう状況にあります。私の考えでは、預金というのは仕入れで、貸出というのはそれの販売になるわけですが、販売よりも仕入れが多くては、いかなる業界も成立し得ないわけですので、貸出を増やすか、仕入を減らさなければなりません。仕入が減るということは、縮小していくということにならざるを得ません。銀行業界としてもそれをお考えになって、貸出以外の新たな収益機会を考えるとともに、仕入を減らし、同時に効率化するという、あらゆる業界で必要なことをなさっていくのではないかと思っています。二番目の MMTにつきましては、まずMMTというのは、人によって違うことを言っておられるようにも思いますが、基本的には通貨発行権を持っている政府が自国通貨で借金をしている限りは、債務返済で破たんすることはなく、財政赤字は問題ではないという議論だと思います。そういう議論だとすると、まず自国通貨で借りている限り政府は破たんしないというのは正しいのですが、破たんしない代わりに必ずインフレになってしまいます。ですから、インフレも破たんのうちと考えれば、それはちょっとおかしいのではないかという議論になると思います。

§9Yutaka Harada

MMT論者によれば、インフレになるのであれば、それを止めるために増税をするなり、政府支出を減らせば、コントロールできるということですが、現実問題としてそういうことができるのかというと、私は非常に怪しいと思っています。次に日本が実証しているという議論ですけれども、MMT論者がどうおっしゃっているかわからないですが、日本は国の債務が対GDP比で230%あるから、200%になっても 300%になっても大丈夫だという意味だと思います。しかし、これは総債務であって、純債務で考えると 130%か140%ぐらいしかありませんし、現在、財政状況は改善しています。景気が良くなって税収が増えている一方で、支出はあまり増えておらず、名目GDPもわずかずつですが上がっていますので、政府債務残高の対名目GDP比は、今ほとんど安定しています。私は、これもQQEのおかげだと思っていますが、とにかく安定しています。政府債務も安定しているから、物価も安定というか、私どもの立場では安定しすぎているわけで、これをもって日本が MMT理論を実証しているとは言えないのではないかと思います。

§10Question

3月の景気動向指数が「悪化」になりまして、景気後退への懸念が高まっていると思うのですけれども、原田委員の景気の現状認識と、10月の消費増税を控えてこの後どういうふうな展開になりそうなのか、シナリオを教えて頂けませんでしょうか。

§11Yutaka Harada

景気の現状につきましては、挨拶要旨に書いてあるとおりですが、少し補足しますと、昨年中ごろから少し景気回復が弱くなり、現在、景気が悪化しているサインを示す指標が多くなっています。20日に発表されたGDPの一次速報値をみましても、数字的には 2.1%と高い数字でしたが、輸入が減ったことと、在庫が増えたことによってGDPが増えたということです。このため、この数字をもって回復しているとは言えないという状況であり、難しい状況にあるというのは事実です。4月、5月の数字はまだ出ていないわけですけれども、それほど悪くはないかもしれないと思っています。ただ、5月の連休は、実勢をみるうえで非常に難しいことになってしまうのでないかとも考えています。一言で言うと、非常に微妙な段階にあるということだと思います。消費増税の影響ですが、今回の消費増税には、同時に対策が色々とついています。その対策の評価というのもまた難しいのですが、2014年のときよりは、消費増税の効果が小さくなるように設計されているのは確かだと思います。ただし、景気が微妙なときに消費増税をすることによる景気後退のリスクというのは当然あると思っています。

§12Question

今日の挨拶要旨の中の銀行経営のところで、預金が集まらないようにするというような取り組みのところで、必要以上に店とか、人員とか、があるのではないのか、という話がありましたけども、長崎は 4月から、FFGと十八銀行の経営統合で、店舗が少なくなっていく方向になっています。なにかこのあたりが今後の銀行経営について指標になるところはありますでしょうか。

§13Yutaka Harada

個別銀行の経営について立ち入ったことを申し上げることは致しませんが、一般論として言いますと、貸出はQQE以来伸びているのですが、それ以上に預金が集まるという状況を考えれば、預金を集めるために店舗のコストをかけるということは経営上あまりよくないのではないか。経営統合によってどういう戦略をされているのかについて、私は詳らかには知らないのですが、一般的に言えば、預金を集めるためにコストをかけず、可能であれば貸出を増やすという戦略をとられるというのが、常識的に考えられることだと思います。

§14Question

物価目標達成の課題というところで、景気の現状の難しさ等々を色々挙げていらっしゃいますが、最も影響として大きく響いてきそうだということを、現状どの点が最も大きく影響してくるだろうというふうに考えているかということと、先ほどの消費増税の件ですが、10月まで迫ってきているという状況で、常に消費増税の影響については以前から発言されていると思うのですが、足もとここまでみていて、少し変化というか感じる部分があれば教えて頂ければと思います。

§15Yutaka Harada

景気悪化がどこに響いてくるかということでしょうか。

§16Question

消費増税含め、様々な物価目標達成への課題というのがあると思うのですけれども、最も大きな課題として現状認識されていることはどういうところか、ということです。

§17Yutaka Harada

現在の景気のリスクとか、そういうお話ですか。

§18Question

そうですね。

§19Yutaka Harada

現在の景気は、世界経済の悪化から、輸出・生産が落ちて、それが消費や投資に響くかどうかということが、一番大きな問題だと思います。投資についてはまだよくわからないところがありますが、投資の先行指標などはあまり良くない状況になっています。消費については、家計調査ですと非常に大きく変動して見方が難しいので、日本銀行が作っている消費活動指数でみても、直近ちょっと悪くなっています。また、おそらく連休などは表面上は良いと思うのですが、ただそれが持続的なものであるのかどうかはよくわからないところがあります。消費増税については、当然、政府が、景気だけではなくて、長期的な財政状況であるとか、社会保障であるとか様々なことを考えてお決めになることで、私からそれについてどうこうということはないですが、増税すれば結果として景気にネガティブな影響があるということは当然のことでありまして、それは今までの金融経済懇談会でも繰り返し述べてきた通りです。

§20Question

挨拶要旨の「おわりに」という見出しの部分の、中段というか後半に、「景気が悪化し、2%物価目標の長期的達成も困難になるようなことがあれば、躊躇なく金融緩和を強めることが必要」とあるのですが、一点目は、この「長期的達成」とあえて言及されているのは、これは短期的には色んな下押し要因があって難しいが、長期的にも達成が困難になれば、緩和が必要ということなのか、その背景と主旨をもう少し具体的にお願いしたいのと、もう一点が「躊躇なく金融緩和を強めることが必要」とあるので、場合によっては比較的短い間に、短期的な視野で緩和する可能性が、もし消費増税がすごく景気を悪化させてしまった場合は考え得ると思うのですが、そうなると具体的な手段としては、どういったものが有効か、原田さんはどういうふうにお考えなのかお願いします。

§21Yutaka Harada

最初の「長期的達成」ということの意味ですけれども、挨拶要旨のかなり前の箇所に書いていることを受けているので分かりにくかったかもしれないと思いますが、消費増税で景気が悪くなるということと、消費増税とともに教育無償化政策が行われて、それが教育費を下げることによって消費者物価指数を下げるという効果があるものの、後者については、短期的には物価を下げる要因ですが、長期的には物価を下げる要因にはならないということを書いております。これは、教育が無償化されれば、その分統計上の消費者物価は下がりますが、その分だけ所得は増えているわけですので、増えた所得は必ず別のところにいつかは使われるはずですから、長期的には物価を下げる要因にはならないということを説明しております。要するに減税と同じようなものです。減税の場合であれば、減税で所得が増えれば、必ずいつかは使うから長期的には物価を下げる要因にはなりませんということと同じです。これは原油価格が下がった場合も同じで、原油価格が下がったら、もちろん物価が下がる要因ですが、長期的に考えれば、いつかはガソリンが下がった分だけどこかで使うはずだということです。それを受けて、短期的ではなく、長期的達成も困難になるのであれば、「躊躇なく金融緩和を強めることが必要」と考えていると書いております。

§22Yutaka Harada

金融緩和の具体的手段についてですが、これまで述べたことの繰り返しになりますが、金利と量と質の3 つと、それからフォワードガイダンスをさらに長くするということも考えられると思います。これで、どれだけの効果があるのかと、皆様方から非常に否定的なコメントをたくさん頂いておりますが、例えば、今長崎ではホテルを建てようとか、都市再開発をしようとかいうことが、色々熱心に議論されて、ある程度実際に進んでいるというように伺いました。この場合、長期の金利が下がるということは、ホテルなどの建設投資に非常に有効ではないかと思います。10年物あるいは 20年物の金利が下がれば、安心して投資ができるという意味で景気刺激効果があるということで、その 3 つの手段とフォワードガイダンスで効果は十分にあると考えております。

§23Question

先ほどのMMTについて、ちょっともう一つお聞きしたいのですけれども、自国通貨で借りている限り、政府財政は破綻しないということは正しいとおっしゃった上で、それをやると必ずインフレが起こると。インフレが起こった場合には、止めるのに増税をしたり、支出を減らしたりすればコントロールできるのだけれども、これについては現実問題としては非常に怪しいとおっしゃいました。ただですね、日銀はインフレ・ターゲットを持っているわけでして、インフレが上がっていけば引締めをするという選択肢は当然あり得ると思うし、物価目標というのはそういう意味があるわけですね。そうだとすると、日銀がインフレを許容しないということがあれば、MMTは機能するのではないか、と思うのですけれども、いかがでしょうか。特に、インフレが起こらない限り財政は拡張していいのだ、という主張は、需給ギャップがプラスになっても金融緩和をインフレが起こるまで続けていいのだと、インフレになれば止めればよいのだ、という主張と、ある種同根に聞こえるわけですけれども、その違いというのはまたどういうものかということも含めて、お聞かせください。

§24Yutaka Harada

日本銀行がやっていることと MMTの違いですけれども、まずMMTの理論の中では、物価は政府が決めることになっています。インフレのときに増税か政府支出の削減になるわけです。MMTの世界では中央銀行はあるかもしれないけれども、主体的には行動しないということになっています。中央銀行のある世界では、金利を引き締めることによって物価の上昇を止めるということですが、その場合も財政が破たんするほどの状況では、金利を引き上げただけでは止まらない可能性があります。一方、MMTは、普通に考えると財政が破たんするほどやるということでしょうから、その場合には、財政のやっていることは、財政でないと止まらないということになります。ところが、財政でやるといっても、増税するのは難しいわけですし、急に支出を止めるといっても、例えば橋を途中まで造ったということになれば、支出を止めるのはそう簡単にはできないわけです。一方、金融政策でやるというのは、少しずつ金利を上げていくということに過ぎないわけですから、これはできるということで、全然違うのではないかと思います。以上