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日本銀行記者会見2020年7月1日中村豊明, 審議委員

中村審議委員就任記者会見(2020年7月1日)要旨

全文

§1Question

本日、日銀の審議委員に就任されました。今の率直な気持ちと、抱負をお願いします。

§2Toyoaki Nakamura

今日が日本銀行の審議委員の初日ということで、色々と考えを巡らせてきたのですが、私は、産業界の出身で、45年間日立製作所で主に経理や財務を担当してきました。こうした企業経営の経験を踏まえて、日本経済の成長に向かって貢献できればと思っています。私は、2008年のリーマンショック時に日立でCFOを務めており、あの時は本当に大変だった記憶があります。資金が枯渇するとか、需要が蒸発するといったことを経験し、7,873 億円の大赤字を計上しました。その原因がどこにあったのか、20年間を振り返り反省をした結果、どうあるべきかということを行ってきました。そうした構造改革は、コストを下げるだけでは済まず、事業のポートフォリオを変えていかなければなりません。こうしたことを日本の経済でも行っていくのだろうと思います。産業界でのこうした経験を貢献につなげていければと思っています。

§3Question

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日銀は 3月から相次いで、企業の資金繰り支援などの措置を打ち出しています。これらについての評価と、今後新たに追加の措置が必要とお考えかについてお願いします。

§4Toyoaki Nakamura

2008年のリーマンショック時、受注が蒸発する、需要が蒸発するという事態が 11月から出てきたように思います。あの時は、政策がグローバルには共有されず、個々の国で様々なことが起きたと思います。従って、資金が非常に詰まり、私どもも米国でドル調達がなかなか行いづらいということがありました。今回は、その経験がかなり活きて、企業活動が資金で目詰まりを起こしているということではないように思います。貸出態度もやや緩和傾向にあるということもありますし、経験を活かして今までうまく対策を行ってきていると思います。ただ、今後何が起きるかは、なかなか読めません。欧州や米国で新型コロナウイルス感染症の第2 波が起きているのではないかという話もありますし、そうは言っても経済活動を行いながら対処していくしかないということもあります。そうした経済情勢、新型コロナウイルス感染症の状況が一体どのように影響しているのかを、注意深く情報を把握しながら対策を講じていく、すなわちもう対策をしないということではなく、その情報に応じて、今までもプロアクティブにやってきたように今後も早め早めの対応をすることが大事だと思っています。

§5Question

金融政策全体に対してはどのように評価されていますでしょうか。もともと物価の 2%の上昇を目的として、国債を大量に買い入れて、金利を低位に安定させるという金融政策を日銀がとっているわけです。これに対する副作用というのも、例えば日銀の国債保有がどんどん増えるとか、指摘されているところではあるのですが、今の金融政策についてはどのように評価されていますでしょうか。

§6Toyoaki Nakamura

現在の金融政策のもともとの目標は、日本の経済が陥っていたデフレから早く脱却し、ある程度の物価上昇が期待できる経済にもっていこうということだと思います。昨日まで企業の側にいた経験からすると、デフレ経済の中では、企業は非常に投資しにくいです。経済というのは、企業活動が付加価値を創出して成長していき、その成長の果実が個人消費支出に跳ね返っていくという正のスパイラルになっていくはずです。しかし、デフレになると、企業は生産性を向上させる活動を行わなければなりませんが、これは投資を行わなければできません。習熟率を上げるだけで生産性が上昇していくかというと、途中ですぐ頭打ちとなってしまいますので、どうしてもIT投資、研究開発投資、設備投資といった未来への投資を行わなければなりません。この際、先に投資を行いますので、その 1 か月後、2 か月後に物価が低下し続けると、投資が非常に回収しづらくなります。逆に、物価がある程度の上昇率であれば、少なくとも投資したときよりも物価が上がっていれば、回収しやすくなりますから、経済が順調に成長していく中では、インフレでなければなりません。ただし、あまり高いと購入のための所得がなくなるのでだめです。2%とピンポイントでいう必要はないと思いますが、2%程度の緩やかなインフレが続く世界は、企業経営にとってみると非常に望ましいです。

§7Toyoaki Nakamura

従って、設備投資が増えていくような順回転の経済になるには、金融政策では、資金を目詰まりさせず、物価が2%程度上昇していくのが良いと思います。もともと、プラスの効果を出そうと思って政策を行っていますので、効果の部分と副作用の部分とを見計らっていかなければなりません。私も、日本銀行は相当先駆的な政策を打ってきたと思います。2001年から、大量の国債を買うという量的緩和を行ってきました。デフレに近い低成長下、低温経済というのでしょうか、そうした世界になると、目詰まりをさせないような施策と、緩やかな物価上昇が続く世界を実現するために、どこの中央銀行も日本銀行と同じことを今行っているわけです。日本銀行が2001年から行っている施策が、今の米国でも行われているわけで、過去の実証からいくとプラスの面の方が多かったのだろうと思います。日本銀行は現在、国債の半分程度を保有しており、今後どういう方向になるのかはよくみていかなければならないと思いますが、経済が持続的な成長を遂げていく中で、必要な部分については行っていくのだろうと思います。私の持論では、国が様々なサポートを行って企業が活動しやすくなるのは良いのですが、企業が国の政策支援を待たないと何もやらないといった待ちの姿勢になっているような文化は良くありません。

§8Toyoaki Nakamura

こういったマインドセットを変えていくうえでも、資金の目詰まりがない状況をまず作っておくことが大事だと思います。

§9Question

日銀が国債の半分くらいを持っているというお話がありましたが、政府がコロナ対策で財政拡大に舵を切る中で、日銀も積極的に国債を買い入れていく方針を示しています。これまでの大規模な国債買入れを含めて財政ファイナンスではないかという指摘がありますが、委員はどのようにお考えでしょうか。

§10Toyoaki Nakamura

見方によるのだろうと思います。過去のやりとりをみていると、こちらから見ると財政ファイナンスではないか、こちらから見るとそうではない、とすれ違っているような感じがします。政府と日本銀行は、目標は同じなわけです。日本経済がデフレから脱却して、緩やかな成長を持続的に実現するような世界にしようということで、そのために必要なのが金融政策であり財政政策です。財政政策だけでそういう経済になるかというと、それはできないでしょうし、金融政策だけでできるのかといえば、それもできません。また、財政政策と金融政策が違う方向では、アイドリングしているような状況になって、エネルギーばかり使いますが効果は出ません。方向を同じようにしているので、独立性がないように受け止められるのかもしれませんが、日本銀行の金融政策は、経済の目詰まりを起こさず経済成長できるような 2%程度の緩やかな物価の上昇ができるような世界に持っていく、他方、財政政策は需要のサポートや構造を変えていくために様々な施策を行っているということです。私は財政ファイナンスではないと思いますが、ずっと言っておられる方は全然そうした考えを変えていないので、それは見方の差かという気がします。私は、日本銀行にきてまだ半日ですので、これから職員の皆さんとよく議論しながら、再来週の金融政策決定会合に向けて、よく話を聞いてみたいと思っています。

§11Question

先ほど中村委員は、2%程度の緩やかな物価上昇がある世界が企業経営にとっては望ましいとお話しになりましたが、足許、日本銀行としては金融政策の重心をコロナ対応というところに置いておりまして、 2%の物価目標に対するモメンタムは切れた状態ということです。日銀の金融政策の重点として、コロナ対応と並行する形で 2%に向けた政策対応を現段階から直ちに行っていくべきだとお考えかどうかをお聞かせください。また、中村さんは預金保険機構の運営委員会の委員をしていらっしゃいますけれども、特に地方銀行の財務健全性について、今どのようなご認識をお持ちかをお聞かせください。

§12Toyoaki Nakamura

今は相当な非常事態だと思います。政府の緊急事態宣言は終わりましたが、経済環境はかなりの非常事態だと思います。私の感覚からすると、経済は持続的な需要がないと続きませんが、今は需要が蒸発した状況になっていると思いますので、その間は何かつながなくてはなりません。ですから、今、2%の物価上昇を実現するような施策を新型コロナウイルス感染症対策と一緒に行ってはどうかということについては、企業や個人がそうしたムードになっていませんので、やや無理があるのではないかという気がします。需要が供給を上回らないとなかなかインフレになりませんので、今はむしろ普通のマインドに戻るところまでのことをまず行うということであり、私としては、今両方を並行して行うのはやや難しいという気がします。これは審議委員としての意見ではないかもしれませんが、企業の立場からいうと、今は売り上げが前年比で相当減少していますから、その中で物価が上がってもらっては困ると皆が思っています。むしろ健全に戻るまでの間は、サポートはいるだろうと思いますが、それを更に超えた 2%まではやや難しく、今は行っても効果は出ないだろうと思います。地銀の財務健全性については、様々な雑誌が定期的に百二十数行全てを表にして、ここが危ないとか書いています。私は表しか見ていないのですが、やはり厳しいところは厳しいだろうと思います。

§13Toyoaki Nakamura

預金保険機構の運営委員会委員は昨日までで退任しましたが、今の預金保険機構の考え方は、今すぐ何か起きるといったことではないと思います。地銀がこれからどうやって地方の経済に貢献できるか、彼らのビジネスモデルを変えていくことが必要です。そういうことを今しており、その効果がいずれ出てくると良いと思います。地方において在宅でできる仕事が相当増えるなど、新型コロナウイルス感染症はチャンスだと思います。今までは地方に人がいなかったのですが、今は地方に人がいるようになりつつあります。銀行が企業と色々つないだり情報を提供することで様々なチャンスが生まれ、これをしっかりと行うことで違う時代がくるのではないかと期待しています。

§14Question

金融システムについて、地銀も含めて、メガバンクから信金、場合によっては信組まで、広い意味での金融システムの現状をどうみていますか。また、金融機関の経営にも影響があると思いますが、現行のマイナス金利政策について、効果も含めた認識をお伺いできればと思います。

§15Toyoaki Nakamura

日本銀行が今回の対応にかなり早く動きましたので、金融システムの大きな混乱は現場で生じていないような気がします。資金が目詰まりを起こしていないように感じています。2008年のリーマンショック後、2009年の第2 四半期くらいまでは結構厳しい状況でしたが、今回はそれが起きていないので、あのときよりは良い状況だという気がします。ただ、需要が蒸発している中で、今度は金融システムではなく、生産ができないとか出勤ができない、買い物に行けないという状況が起きています。ここを早く直さなければいけないと思うのですが、そのためには、「耐性を作る」、「ワクチンを作る」の二つです。それまでの間は、金融システムに影響が出ないように支援をしていくことが日本銀行の大きな役割だと思っています。今のところ、リーマンショック時と比べると当時の経験が活かされていると評価しています。マイナス金利の政策については、イールドカーブからいうと短期金利がマイナスで、長期金利は若干のプラスとなっていますが、マイナス金利は結局、金融政策を行っても需要は増えないという流動性の罠に陥っているような経済状態となります。いつかはマイナス金利ではない時代にならないと、インフレにはなかなか戻らない気はします。ただ、今は需要が喪失している状況なので、ここで金利をプラスにしたら良くなるのかというと、これは逆効果になるのだろうと思います。

§16Toyoaki Nakamura

経済情勢がいかに改善するかということになりますが、新型コロナウイルス感染症がなくなってくると、人々は明るい気持ちになります。これが大事で、緊急事態宣言を解除したら、みんな買い物に行ったり、インタビュー記事をみると、とても幸せそうな表情が出ていました。経済というのは、そういう明るい気持ちが続くことが大事です。新型コロナウイルス感染症の対策が進んで、人々のマインドセットが変わってくれば、そのチャンスは来ると思いますが、なかなか直ぐには、とも思っています。国際的な人の移動が止まっていますので、これが元に戻るにはやや時間がかかります。当面、この状況は続き、それは世界も同じです。世界全体がこの経済環境を直そうとしているわけで、――日本銀行が金融政策面では先生をやっているような気がしますが――そのときに同じようにやっていくことが解ではないかと思っています。

§17Question

当面なかなか経済が厳しいのではないかとのご発言がありましたが、回復に向かうのは、今年度中はやはり厳しいという見方をされているのか、教えてください。

§18Toyoaki Nakamura

業種によると思います。Eコマースや運輸等は結構忙しいと思います。モノ作り、製造業はややつらいかなという気はします。ただ、例えば家電でいうと、政府が一人 10 万円を配付して、「みんなで毎日買い物に行かないでくれ」、「買いだめしてくれ」、「一人でスーパーに行ってくれ」といったことを言った結果、何が起きたかといえば、冷蔵庫の需要は、――私の出身の会社だけでなく――この状況で、4月、5月と前年比でものすごく増えました。従って、そういう面では需要はあります。ただ、気持ちが他のところにはいかず一点集中だったということはあるかもしれません。今回は、リーマンショックの時と違い、給付が貯金に回ったかというとそうでもなく、支出に回っている感じが私の実感としてはあります。他方、企業はどうかというと、設備投資は、大企業はやや行う計画が短観に出ていましたが、これが続くかは需要が沸いてくるか次第なので、もう少し様子をみないといけないと思います。従って、回復はいつかというと、回復が 2019年度のレベルに戻ることだとすると今年ではないだろうと思います。もっとも、底を打つのは上期であり、下期からは、前年比というより前期比で、均してみるとやや戻り歩調になるのではないかとの期待もあります。ただ、米国や欧州で経済活動の再開をやや急いでいる部分もあるので、第2 波が来るかもしれません。

§19Toyoaki Nakamura

今の日本は第2 波というほどの人数ではないと思いますが、南米辺りは第 2 波ではなく、第1 波が収まっていない状況ですし、米国と陸続きでもあるのでその部分は心配しています。回復への期待はありますが、いつかと言うのはやや難しい状況だと感じています。今は足もとを固めるときではないかと思います。

§20Question

今おっしゃったように厳しい状況が続くので、続く限りは対策を打たねばならないとは思います。一方で、政府の財政がどんどん拡張しており、これが一体どこまで持続可能なのかということについて、ちょっと心配にもなります。今のコロナ対策が一体いつまで続けることができるのか、状況が良くならなくても、持続可能でなくなってしまって日銀の打つ手がなくなってしまうという惧れはないのかということについてお伺いします。

§21Toyoaki Nakamura

経済がずっと回復せずに財政支援を国がずっと行っていくということは、無理がありますし、そのような経済はあり得ないと思いますので、それはないのだろうと思います。対策はやはり必要ですし、それには目標を定めて、今やるべきことをやり、そしてPDCAをきちんと回すのだろうと思います。今ご心配されたような、ずっと政府がお金を出し続けたら経済は戻るのかというと、こうしたマインドセットに陥ってしまったら、日本経済は元に戻らないと思います。経済は、国が運営しているのではなく、結局、企業が活動をすることによって付加価値を創出して成長していくものです。そうでなければ、お金をいくらヘリコプターマネーでばらまいても需要はそこまでにしかなりませんので、正の循環でスパイラル状に需要が増えていくことはありません。従って、企業のマインドセットを変えないといけないと思います。今、新型コロナウイルス対策を行って、人によっては再開が早かったのではないかとか、感染が拡大してしまうのが心配だという声があります。これもそうだと思います。一方で、新型コロナウイルス感染者がゼロ人という状況が一年間続くまで再開をしなくてよいのかというと、そうすると新型コロナウイルス感染症は克服できても、企業、ひいては経済が死んでしまいますので、頃合いをみながらやっていかなければいけないと思います。

§22Toyoaki Nakamura

従って、感染者が出た場合には、その方が回復するまで支援をするような医療体制を構築するとか、その際の医療の費用負担をどうするかということはあると思います。一方で、民間の企業活動が元へ戻るよう各企業自身が施策を考えて実行していくというマインドに早く戻るべきだろうと思います。こうした点は各経済団体も言っていますので、そのような順回転になっていくことを期待しています。いつまでかというのは、企業と個人のマインドセットをポジティブに変えていくというふうに、徐々にそうなってきていますので、未来永劫続くということはないと思います。

§23Question

今日発表の短観について改めて受止めをお伺いしたいのですが、大企業・製造業、大企業・非製造業ともにリーマンショック並みの数字になったのですが、この数字の受止めと、今後がV字回復なのかL字回復になるのか、どういうふうにみていらっしゃるかというのをお聞かせ頂けますでしょうか。

§24Toyoaki Nakamura

本日これが審議委員としての初めての活動なものですから、日本銀行としての回答にはならないと思いますが、私の個人的な印象で言うと想定通りネガティブな先行き見通しになっています。6月中旬頃に収集されたデータであり回答率もきわめて高いので、信頼のおけるデータだろうと思いますが、私の肌感覚で言うと、今の環境の中ではあのような感じかと思います。設備投資も、今はなかなか検討する段階にないということもあるような気がします。大企業は設備投資を行おうという気持ちが上回っており、中小企業はそうでもなかったということで、経済の実態を反映しているように思います。特に、非常に多額の投資を行っていた自動車関連はきわめて弱い状況が続いていますので、合計するとそうしたところかと思います。次の短観までの変化を 3 か月後に全部チェックするというよりも、月々のマインドの変化を把握しながら、金融政策につなげていくことになると思います。2 週間後に初めて金融政策決定会合に出席しますので、その議論を期待し、楽しみにしているところです。以上