櫻井審議委員記者会見(2020年10月21日)要旨
全文
§1Question
三点、質問させて頂きます。一点目、本日の会議の模様を教えてください。二点目、本日の会議を踏まえて、福井県の経済情勢についてどのような見解をお持ちか、お聞かせください。三点目、菅首相が、地方銀行の数が多過ぎるといった、地銀再編に関する言及をされてきたと思いますが、この点について、福井県の情勢を踏まえてご見解をお聞かせ頂ければと思います。
§2Makoto Sakurai
一点目の質問の会議の模様ですが、本日はやや通常と違う形式での懇談会という中で、皆様大変お忙しい中、経済界、金融界、行政、それぞれのお立場の方にお集まり頂き、現在の福井の状況について、貴重なご意見、あるいはご要望をお聞きすることができて、大変有益であったと思います。意見交換の内容については、三点にまとめられると思います。まず、福井経済全体が、今どうなっているかというお話がございました。皆様、殆ど異口同音に仰っていたのは、全体として、底打ちはしましたが、まだ非常に厳しい状態が続いているということが印象的でした。次に、福井の経済構造について、製造業が強く、中身をみると産業面でも特徴があり、ITや電子部品といった分野と、伝統的な繊維や眼鏡といった分野にはっきりと分かれており、それぞれかなり状況が違うようでしたが、全体としては、やはりまだ厳しい状況だといったお話がありました。それから、金融界の皆様から、日本銀行、政府の政策対応も含めて、これまで資金繰りを中心にしっかりと対応しており、非常に効果的であったというお話がありました。今後とも、政策対応に関しては迅速かつ必要なときに、しっかりと行って頂きたいというご要望がありました。
§3Makoto Sakurai
二点目は、ウィズコロナ、あるいはポストコロナという点で、前向きな取組みをどうやっていくか、といったお話があり、例えば、ITやAIを使って、どのように新しい産業構造を考えていくか、また、新しい産業をどうやって誘致していくか、そのようなお話も少し出ました。それから、中小企業の再編とか、そのようなことにも取り組みたいというお話が出ていたと思います。三点目は、これはご出席頂いた皆様が指摘された点ですが、福井はこれから交通のインフラが整備される、すなわち新幹線が 2023年に敦賀まで延伸されるということで、インフラに対する期待が非常に大きかったです。先ほど申し上げましたが、製造業のウエイトが非常に高いということは、現在のコロナの状況を考えますと、サービス業、すなわち宿泊、対面サービスといった苦戦している業種のウエイトが低いともいえるとの認識を持ちました。その点、今後の新幹線や高速道路網の整備によって、中部圏や首都圏も含めて便利になってくることが、新たな発展あるいは成長のチャンスになり得るといった、少し将来的なお話を伺うことができました。二点目の質問の福井県経済についての見解は、今申し上げたことで、ほぼ尽きていると思います。
§4Makoto Sakurai
三点目の質問の地銀の数の問題については、地方銀行の経営は、ここ数年間、――これは地方銀行に限らず金融界全体としてもいえることかもしれませんが――それなりに厳しい状況にあるということ、ただ現時点では自己資本等は潤沢にありますから、金融システムには問題はないのですが、トレンドとしてはやはり厳しい状況に直面しているということは事実で、ここ数年、金融システムレポートでも書かれてきたと思います。従って、総理の発言に対する私からのコメントは差し控えたいと思いますが、一般論としていえることは、コストを削減して、効率化を図っていくということに尽きると思います。また、現に福井でも、そうした努力をされているようですので、そのように理解されていると思います。
§5Question
本日の懇談会の中で、コロナの影響は、福井県の製造業に関して、多分中心だったと思いますが、もう少し詳しくコロナと経済について、どのような意見が交わされたのでしょうか。それから、日銀として、どのように福井県が今後コロナと闘っていけば良いか、ご見解をお聞かせください。
§6Makoto Sakurai
本日の懇談会での製造業の話は、全体として先ほどお話しした通りですが、例えば製造業の中でも、海外展開をしていたり、あるいはグローバルに競争力を持っていたりする産業、具体的には眼鏡については、コロナ禍のもとで国際的な展示会が開けず、ビジネスチャンスがなかなか出てこない中で、今後は少しずつ良くなってくるだろうが、当面は苦しい状況が続くといったお話がありました。それから、製造業以外ですと、サービス業を中心に福井の場合は大変苦しく、その回復も鈍いというようなお話がありました。まだまだ稼働率が低いということのようです。その点は、全国と同じですが、これからGоTоキャンペーン等が色々と出てきており、それに対する期待はあるとのことでした。それから、日本銀行に対しては、しっかりと今後もやってくださいということと、特に現在の措置の延長について、どのように考えているか、というお話がありました。これは当然のことながら、状況をみながら考えていくということだろうと思っています。3月以降の措置により、資金繰りは、基本的に今のところ特に大きな問題はなく、一服しているといったことを、出席者の皆様が異口同音に仰っていました。
§7Question
午前の講演では、実体経済と金融システムの双方をしっかり点検して必要な対応を迅速に準備しておくことが重要という発言をされました。このうち金融システムについて、先ほど、大きな問題は今のところないというご認識を示されましたが、今回のコロナの影響を受けて、櫻井審議委員は、金融システムの安定に対する警戒感について、ここは一段レベルが上がったとお考えなのでしょうか。また、金融システム面で必要な迅速な対応として、具体的にどのようなことをイメージされているか、現時点でのお考えをお願いします。
§8Makoto Sakurai
まず一点目について、現在は、先ほど申し上げた通り、金融システムに大きな問題があるというわけではないと思います。警戒感はどうかということですが、3月以降、一連の金融緩和措置により資金繰りを中心に大規模な緩和をしてきたわけで、これ自体は成果があったと評価して良いと私も考えています。問題は、その成功したということが、新たな問題を提起してきていると考えます。というのは、これだけ大きくなった中で、今後経済の回復が順調に進めば、あまり大きな問題になることはないとは思いますが、回復が微妙に遅れてくるとか、――特にコロナの感染状況は、かなり強弱を伴うようなので、一様に回復していくということはなかなか考えにくいということを踏まえますと――若干回復に時間がかかる可能性があると思います。その可能性が高まってくると、これまでの成功してきた効果が、逆に問題を提起するような可能性も出てくるのではないかと思います。当然返済の時期がやってくるわけであり、景気の回復が遅れれば、信用リスクの問題にもつながりやすくなるので、そのときにはかなり警戒をしなければいけないのではないかと思います。従って、現在警戒すべきということではないですが、将来の問題が提起されているだろうと私は考えています。
§9Makoto Sakurai
二点目の迅速な対応を具体的にどのように行うかということは、まだまだ先の話ではありますが、現在の段階で色々な工夫あるいは研究を地道に積み重ねておく必要があるだろうというのが基本的な見方です。
§10Question
次回会合の展望レポートの見通しについて、ご所見をお伺いしたいと思います。消費の方がまだ、伸び悩んでいるというか、戻りが鈍いと思うのですけれども、前回の見通しから下方修正があり得るのか、その辺りについてご見解をお聞かせください。
§11Makoto Sakurai
展望レポートに関しては、7月から現在にかけての実体経済あるいは金融上の展開があったわけですから、それを踏まえた形で修正すべきことはするということだと思います。ただ、実際 7月の時点で、もう既にほぼ底打ちに近いような状態になっており、ただハードデータがあまりないということだったと理解していました。その後、ハードデータが出てきたほか、短観、それから支店長会議もあったということで、これらを踏まえて今回考えるということだろうと思います。ただ、それほど大きな変化があるかというと、今は、回復には転じていることははっきりとしていますが、まだ全体としてそのペースは緩やかだということも大体の認識だろうと思います。その意味では、そこまで大きな変化がないと私は考えています。
§12Question
それは、景気・物価両面においてという意味でしょうか。
§13Makoto Sakurai
そうです。物価の方も少し弱めの動きが現に出ていますし、景気の方は経済活動が再開され、回復の動きが進んでいるということです。一方で、そこには紆余曲折があり、感染症の状況にも強弱がありますから、それによって、やはり回復ペースが多少緩やかになっていると思います。
§14Question
朝方の挨拶文の中で、今後、倒産とか雇用を引き続き優先課題としてみていく必要があると仰っていたかと思います。来週決定会合もありますが、目先必要な追加の政策対応ですとか、あるいは見直すべき点があるとお考えなのでしょうか。また、これはまだ少し先ですけれども、来年3月にいわゆるコロナオペの期限が迫っているかと思います。総裁はかねて、ぎりぎりまで待たずに判断する必要があると仰っていましたけれども、櫻井審議委員からみて、いつ、どういったタイミングで考えていくべきものなのか、ご所見をお伺いします。
§15Makoto Sakurai
まず現在の状況との関係で政策をどう考えるかということだと思いますが、現在の状況は、ほぼ第 2 四半期に底打ちし、経済活動が再開され、持ち直しが進んできていることが確認できているということは大きいと思います。その点、経済再開から持ち直しへのパスにおいて、何が効いたかというと、何といっても金融緩和と財政政策が支えてきて、かなり大きな効果を持ったのだろうと考えています。その点、現時点では、もう少しそこを見守ってもいいと考えています。特に何か支障が起きているわけでもないですし、大胆なことをこれからやっても、需要が出てくるのか。需要が出ても稼働率が上がらない状態となっていますので、今のところは、既存の政策効果を冷静に見守るというのが今の段階ではないかと私は考えます。それから、先行きについては、やはり時間の経過とともに、実体経済、あるいは金融の状況も変わっていく可能性もあります。問題は、その変わり方をしっかりと確認し、暫く慎重にウォッチするということだと思います。その点、大きな変化が出てくるとか、あるいはトレンドが変わる可能性が出てくれば、新たな判断をするということになると考えています。
§16Question
コロナオペについて、福井のお話の中でも結構資金需要に対するニーズが高いというようなお話もありまして、実際に、本日公表された主要銀行貸出動向アンケート調査をみても、中小企業を中心にそういった資金需要は相変わらず強い状況が続いています。コロナオペの延長といった前々からの強めの姿勢を更に明確化する必要性があるかどうかについて、どうお考えでしょうか。
§17Makoto Sakurai
コロナオペについては、福井の皆様からも異口同音にご意見を頂きましたし、また大変評価して頂いたと考えています。本日のお話ですと、福井の場合も、潜在的な資金繰りに対する需要はありますが、今の段階では一服状態というようなお話でした。従って暫くは若干様子をみる、それから経済回復の状況でも当然資金繰りは変わってくるので、そこもみながら対応するということでしょう。ただ、何人かの方々からは、必要なときには継続してほしいということで、是非よろしくお願いしますということでした。その点では、私どもも全く同様であり、やはり状況をみながら、必要性があれば、当然迅速に行動しなければいけないだろうと思います。ただ、現時点では落ち着いていますので、慎重にウォッチしていく、丹念に点検していくということで良いと考えています。
§18Question
午前の挨拶の中で、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」という、日銀法の第二条を括弧付で引用されてお話になっていたのが凄く印象的だったのですが、今、例えばCBDC、中銀デジタル通貨の関係で、例えば日銀法を改正する必要があるという意見が政界の中であったりですとか、あるいはFRBの平均インフレ目標というところでは、デュアルマンデートということで、雇用と物価安定というところを改めて強調されたりしていますが、改めてこの挨拶の中でこういう引用をされたということは、既存の枠組みで日銀としても金融政策を行っていくということなのでしょうか、それともフォワードガイダンスといったところで例えば雇用の目標を入れていくとか、そのことについてはどのようにお考えでしょうか。
§19Makoto Sakurai
大変重要な質問ですけれども、現実にコロナ対策ということで金融緩和政策を考えていくときに、物価と雇用の両方を重視してやっていることに変わりはありません。まさに倒産を防ぎ、雇用を守るということは非常に重要な課題だと考えています。ただ、本日も引用しましたが、現在の日本銀行法というのは、全体として基本法といった形でできていますから、かなり広く解釈できるのではないかと私は考えており、その中で実態としてしっかりと運用していけばいいのではないかと考えています。その点で、CBDCの話もありましたけれども、その点を含めて、実際の現在の日本銀行法の中で十分対応できるのかどうかは、今後の検討課題だろうと思います。いずれにせよ、改正された現在の日本銀行法は、幅広く基本法として語れるという印象を持っていますから、その中でしっかりと独立して金融政策ができるのではないかと考えています。
§20Question
午前中の講演では、マイナスの需給ギャップのもとでは物価上昇圧力がないことから当面物価は弱めの動きを続けると予想される、また、需給ギャップはなかなか戻らない、ということをいわれていますが、当面物価が弱い状態が続くとすれば、人々の成長期待とか、そういったところに下押しの影響が働くと思うのですけれども、それに関して日銀として対応することができるのかどうかをお伺いします。
§21Makoto Sakurai
ご指摘の点について、まさに私は物価上昇率がプラスに戻ることは戻っても、加速するかどうかなかなか見通しがたいとみています。その背景としては、一つは、――特にはっきりとしたのは 2016年頃からだと思いますけれども――構造が変化してきていて、物価のメカニズムが複雑化してきているということが大きな背景としてあるのではないかと思います。これは、日本だけではなくて、割と先進国に共通する面があると考えています。特に製造業は海外へ生産拠点が移せるということがあり、その点で財の価格が国際的に比較的低位安定化するという傾向が強くなってきています。もう一点は、日本経済を含めて先進国でサービス経済化といいますか、非製造業化がかなり進んできていまして、例えば製造業がGDPに占めるウエイトをみても、日本の場合には大体 20%ぐらいで、これはドイツでもそうだと思います。それから、米国や英国になると 10%以下ぐらいです。そうなると、サービス産業等の非製造業というのはコストに占める賃金のウエイトが比較的高いため、賃金が上がらないとなかなか物価が上がりにくくなる、というような背景があるのではないかと考えています。
§22Makoto Sakurai
ですから、こうした点についてしっかりと分析して、そういうことであれば、必ずしも物価上昇率が加速しないことが悪いことではないのではないか、とも考えられるので、経済回復の過程である今のうちから分析をしていくべきだと思っています。
§23Question
先ほどお話のあったところを重ねてお聞きしたいと思ったのですけども、これまで効果を発揮していたオペレーション、特別プログラムのことだと思うのですが、これが逆に問題を提起することも考えなければいけないというところがあったと思うのですけれども、これは、コロナオペ等が効果を発揮してきたけれども、返済のタイミングを迎えるにあたって、システム上のリスクになりかねないということなのでしょうか。だとしたら、コロナオペを延長するだけではなくて、別のことを金融政策としても考えないといけないというご趣旨なのか、それとは別の次元の話で、金融政策を離れたところも含めて対応が必要になるということなのでしょうか。
§24Makoto Sakurai
この点は、まずは短期的には、すなわち足許では、何といっても、倒産を防いで雇用を守らなければいけません。従って、資金繰りが非常に重要だということです。その点、少なくとも短期的には、政策は所期の効果を上げていると考えています。そこで回復が順調に進めば、当然企業収益も上がってきますし、売り上げも当然伸びてくるので問題がないのですが、問題は、想定通りに回復が進まない場合です。その場合、やはり問題になる可能性は出てくるだろうと思います。そこはまだ時間がかかると思いますので、この点はしっかりとウォッチしていかなければいけないと思います。問題が出てきたときには、やはり、それなりの対応は考えなければいけませんが、どのような対応ができるかという点については今後の検討課題であり、研究が必要だと思います。以上