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日本銀行記者会見2020年11月16日政井貴子, 審議委員

政井審議委員記者会見(2020年11月16日)要旨

全文

§1Question

まず、本日の懇談会の模様について教えてください。次に、本日の懇談会を踏まえて、道東地域の経済情勢について、どの様な見解をお持ちか、お聞かせください。そして、釧路の基幹産業の一つである紙・パルプ事業を担ってきた日本製紙釧路工場が事業を撤退すると発表しました。懇談会でそれに対してどの様な意見や要望が出たのかお聞きしたいのと、こうした街の中核的企業が撤退するという時に、地元自治体、経済界として何をすべきなのかご意見をお伺いしたいと思います。

§2Takako Masai

本日の懇談会は、新型コロナウイルス感染症の影響が続く中で、オンライン形式での開催となりました。道東地域の行政や経済界、それから金融界を代表される方々から、地域経済の現状や直面する課題に関する貴重なお話を伺うとともに、日本銀行の金融政策運営に対する貴重なご意見も頂きました。大変有益かつ示唆に富む意見交換をさせて頂き、懇談会にご出席頂いた方々には、この場を借りて深く御礼を申し上げたいと思います。席上、色々なご意見を頂きましたので、私なりに四点ほどに整理してご紹介をさせて頂ければと思います。まず、道東地域の景気についてです。道東地域の景気は、感染症の影響により宿泊・飲食サービスを中心に大変に厳しい状況ですが、5月を底に持ち直しつつあるとのお話が聞かれました。こうした中、感染症の影響を緩和するため、行政、経済団体、それから金融機関の方々が、それぞれのお立場で企業や家計を強力にサポートされていると伺い、大変心強く感じたところです。ただ、足許の新規感染者数の増加によって、繁華街の人出が減少しており、サービス業に影響を与えているとの懸念の声も聞かれたところです。二点目は、第一次産業の動向です。当地の基幹産業ともいえる農業については、酪農が好調であるほか、畑作も平年並みであり、概ね順調であるとのお話がありました。

§3Takako Masai

他方、漁業関連では、サンマが今年も歴史的な不漁となっており、水産加工会社をはじめとする関連産業が厳しい状況にあると伺いました。このため、当地では、育てる漁業への転換を目的に 2020年3月に根室市栽培漁業研究センターを設立され、養殖の研究開発を進めたいとのお話も伺いました。三点目は、日本製紙釧路工場における紙・パルプ事業撤退の話題です。同工場は、100年前の大正 9年に富士製紙釧路工場として操業を開始し、釧路地域とともに発展を遂げた当地を代表する工場と承知しております。懇談会では、運輸業を中心とする当地の関連企業に対する影響や小売店・飲食店などに与える影響を懸念するご意見が多く寄せられました。最後に、日本銀行の金融政策運営に関する話題です。金融界の方々からは、感染症の影響を受けた地元企業の資金繰りを支えるべく、積極的な支援を行ったとのお話がありました。そのうえで、来年3月末が期限の本行の「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ」の延長を求めるご意見もありました。感染症の影響が長期化する可能性がある中、取引企業を支えるうえで、「特別オペ」が奏功しているとのお話を伺っています。それから、地域経済についての見方、印象ですが、私どもの釧路支店では、道東地域の景気について、「新型コロナウイルス感染症の影響から、厳しい状態にあるが、一部で持ち直しの動きがみられている」と判断しています。

§4Takako Masai

本日の挨拶要旨で述べましたように、道東地域については、感染症の影響を受けやすい宿泊・飲食サービス業の割合が全国よりも高く、9月の短観調査をみても、この業種の業況判断D.I.は▲79 と厳しい状況にあります。しかし、行政、経済団体、金融機関による経済支援策の効果もあって、一部で持ち直しの動きがみられています。コロナ禍における道東地域の強みとして、阿寒摩周、大雪山、知床、釧路湿原の 4 つの国立公園に代表される雄大な自然が挙げられると思いますが、実際、この道東地域の 3 空港の乗降客数は、緊急事態宣言下にあった 5月をボトムに徐々に持ち直していると伺っています。また、本日の懇談会では、農業や建設業は、感染症の影響が相対的に小さく、道東地域の経済を下支えしているとのご指摘もありました。道東地域の域内総生産に占める第一次産業の割合は 12.2%、全国では 1.1%です。建設業の割合は 8.1%であり、いずれも全国より高くなっています。私どもとしては、これらの産業が、コロナ禍の道東地域経済を下支えするものと考えています。先行きについては、今後の感染症の動向に大きく左右されるとみています。高頻度データをみても明らかなように、新規感染者数が増えると人出は減少する傾向にあるので、サービス消費の持ち直しの動きが続くかどうかは、今後の感染症の動向次第とみています。

§5Takako Masai

続いて日本製紙釧路工場に関する質問についてですが、今回の釧路工場での紙・パルプ事業撤退については、同工場の主力製品である新聞用紙の需要が、IT化の進展や感染症による経済活動の停滞により減少していることを受けての経営判断だと認識しています。一方、地元にとって同工場は 100年前の大正 9年、1920年に富士製紙釧路工場として操業を開始して以来、釧路地域の発展と共に歩み、釧路市民にも大変親しまれている工場であると認識しています。また、関連会社や取引先も多数あるので、報道をお聞きになった市民の衝撃は大変に大きかったのではないかと考えております。本日の金融経済懇談会では、釧路市長をはじめ関係者の方々から、同工場の紙・パルプ事業の継続を同社に要望されていると伺いました。私としては、道東経済に影響を与えることでもありますので、その帰趨を十分に注視するとともに、釧路支店と連携しながら今後の動向をしっかりと把握してまいりたいと考えております。

§6Question

講演の中で、緩和が長期化するのでその副作用にも配慮がますます必要になってくるという言及がありました。ETFの買入れについて柔軟化したり、市場育成のために何かできることがあるかといった点も含めて検討が必要とのことですが、具体的にどういった措置が追加的に必要になるのか、今の枠組みの中でもかなり柔軟に買入れを増やしたり減らしたりできると思うのですが、それでは不十分で、もう少し違う措置が必要ということなのかをお伺いします。あと、気候変動についての議論が世界的に活発化する中、日銀も議論に加わるべきとありますが、グリーンボンドのようなものを買うことに対しては、総裁はまだ慎重でいらっしゃいますが、日銀が買い入れるものの対象にそういうものを加えるということもできるのか、気候変動と日銀の関わりについてもう少し具体的なイメージがあればお願いします。

§7Takako Masai

ETFの買入れは、そもそも 2%の「物価安定の目標」を実現するための政策の枠組みの一つの要素として、株式市場におけるリスク・プレミアムに働きかけることを通じて、金融市場の不安定な動きなどが、企業や家計のコンフィデンスの悪化につながることを防止することにより、経済・物価にプラスの効果を及ぼしていくという観点から実施していることはご承知の通りだと思います。もっとも、挨拶要旨でも触れさせて頂いている通り、足許、物価のモメンタムがいったん損なわれている状態となっている中で、2%の「物価安定の目標」の実現にはますます時間がかかる可能性があり、実際、今回の展望レポートでお示しした物価の見通しの中心的な値でも、見通し期間の最後の2022年になっても、2%の「物価安定の目標」に到達する絵が描けていない状況です。そういった中で、更なる金融緩和の長期化を前提として政策運営に当たる必要があると認識しています。この点、低金利環境が長期化するもとで、政策金利を用いた伝統的な金融政策の波及経路を通じた緩和効果が弱まっているほか、自然利子率の低下により名目金利が実効下限制約にかなり近づいているという現実を踏まえると、ETFの買入れは、フォワードガイダンスなどとともに、緩和効果を高めるためのツールボックスの中に、当面、あり続けるのだろうと思っています。

§8Takako Masai

ETFの買入れについては、導入から 10年が経過する中で、保有残高が相応になってきているのも事実だと思っています。この間、日本銀行としては、強力な金融緩和を粘り強く続けていくという観点から、ETFの買入れ額が市場の状況に応じて上下に変動し得るよう、弾力的な買入れ方法に変更したほか、市場の流動性の向上を図る観点から、新たにETFの貸付制度を導入したりしています。ただ、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて更なる長期戦が見込まれる中で、金融緩和の長期化に伴う副作用に一層配慮しつつ、政策の持続性を高めるためには、更により幅広い観点から政策を検討していくことがますます重要になっていくと感じています。ETFの買入れについても、こうした観点から、今後も、更なる柔軟性向上や市場の育成といった観点を含めて、前広に議論を重ねていく必要があると考えています。それから、グリーンボンドが買入れの対象に入るのかどうかについては、おそらく欧州のECBの政策などを受けてのご質問なのだろうと考えています。日本銀行では、現在のところ、SDGsやESGと直接的には謳っていないものの、例えばETFの中で、成長に資する設備・人材投資に取り組む企業関連や、環境・エネルギー関連など成長に資する投融資を支援するための成長基盤強化資金供給を行ってはいます。

§9Takako Masai

私が就任してから、こうしたSDGsであるとか環境に配慮するといった流れがますます強まる傾向にあると感じていますし、その流れは、おそらく、逆行するというか流れが弱まる方向ではないのだろうと感じています。そうしたもとで、今後日本銀行としても、その流れの中で検討することになっていくのではないかと感じており、今回、発言要旨の中に追加したいと考えました。

§10Question

先ほどの質問に関連するのですが、緩和長期化の副作用への配慮ということですけれども、コロナの影響で、経済の先行きが依然として不透明な状況なわけですが、副作用等を勘案すれば、利下げ等の追加緩和を行う場合、一段と副作用を強める可能性があると思います。委員は、ウィズ・コロナの金融政策運営は、緩和強化よりも政策の持続性に重点を置いて考えるべきとお考えなのかをまずお伺いしたいと思います。そして、関連なのですが、先般決定した追加付利制度、これも先ほど言われた緩和長期化の副作用に配慮した面もあるのか、ご所見をお願いします。

§11Takako Masai

物価のこのところの状況をみると、やはり予想インフレ率も、長短含めて全体的に低下してきています。しかも、新型コロナウイルス感染症が急激に拡大した春先に関しては、物価について、急激に消費者の消費のバスケットが変わるなどして、一瞬ですが、短期的な家計の物価観が上がったこともあったのですが、足許にかけては、結局のところ需要ショックの側面が強いこともあり、原油が急落し、その後の戻りも大変鈍い状況になっています。最終的に足許のところでは、展望レポートでもお示しした通り、長短のインフレ予想、物価観みたいなものは、企業・家計ともに弱まっている状態が続いているという判断になっています。そのうえ、経済に関しても、今年、来年にかけて回復はするものの、その後の回復の足取りに関しては、発言要旨でお伝えした通り、いくつかの理由から、なかなか足取りも難しいと個人的に考えています。そのうえで政策を考えたときには、当然、この間、緩和的な金融環境を提供することによって、経済を下支えしていくことが必要であると思います。日本銀行においては、「量的・質的金融緩和」を 2013年から続けていますし、ETFについては今回の3月の決定で更に上限を引き上げるという政策になっているわけです。

§12Takako Masai

副作用に関して考えなければいけないのはETFだけではないのですが、今回 3月において、コロナ対応で上限を引き上げたETFに関しては、このところ色々なご意見も頂戴するところですので、特に申し上げた次第です。加えて、先ほどの繰り返しにもなりますが、名目の金利がいわゆる実効下限制約にかなり近づいている状況にあるもとで、わが国だけでなく、全般的に物価の上昇率は、先進国を中心に弱まっている状態ですので、いわゆる名目金利の上げ下げだけではなく、フォワードガイダンスなど様々なツールを使ってコミュニケーションを強化することで、緩和の維持に努めるという動きは、何もわが国だけに限ったことではないと思います。そういったことを行っていくもとで、さらにETFに関しても、あり方、やり方など工夫の余地がないかを前広に考えていく必要があると考えています。それから、先日 10日に、地域金融機関の強化のためのいわゆる特別当座預金制度を通常会合にて導入しましたが、これに関しては、金融政策ではなく、プルーデンス政策ということで導入を決定したということですので、副作用に何か配慮してということではありません。

§13Takako Masai

そのうえで申し上げると、この制度は、基本的に、地域金融機関が将来にわたって地域経済をしっかりと支えて、金融仲介機能を円滑に発揮して頂くための経営基盤の強化に資するという観点から、金融システムの安定確保のための政策ということで方針を決定したということを強調させて頂きたいと思います。市場の評価という観点からは、翌11日の株式市場において、地方銀行の株価が上昇したことなどをみますと、本制度について、ひとまず、市場からは好意的に受け止められたのではないかと認識しています。他方、報道等では、ご指摘のような金融政策とプルーデンス政策の棲み分けであるとか、本制度について様々ご意見があることも承知していますし、正直考えさせられる部分もあったことも事実です。そう申し上げたうえで、地域金融機関の置かれている現状について、私の見方を若干敷衍させて頂きますと、10月の金融システムレポートの現状評価にもある通り、わが国の地域金融機関は、資本・流動性の両面で相応に強いストレス耐性を備えている中で、金融システムは全体として安定性を維持している、直ちに金融システムが不安定化して地域経済に何か負の影響が出るような状況にはないと認識しています。

§14Takako Masai

とはいえ、もはやわが国だけの問題ではありませんが、自然利子率が趨勢的に低下傾向にあることや、地域の人口や企業数が減少することが、地域金融機関の収益性を低下させる構造要因にもなっていると思っています。また、足許、地域金融機関は新型コロナウイルス感染症の影響を強く受ける地域の企業や家計を積極的に支援しており、今後、感染症の拡大が想定以上に長期化する場合には、企業等の財務への影響が強まる可能性もあります。更に、先ほど申し上げた通り、SDGsとかESG、DXといった大きな環境変化に直面している企業等が、そうした変化に順応していくサポート役としての役割も期待されていますし、地域金融機関がそうした変化に対応していく必要もあります。こうした様々な問題や課題がある中でも、地域金融機関には、この先、地域の発展をしっかり支えていってもらいたいと考えていますし、そういうことが求められていると思います。そうした中で、今回決定した経営統合等を含めた付利によるインセンティブ付けといったものもありますが、地方出身である自分としては、地域によってソリューションは様々あるだろうと思っています。結局のところ、大事なことは、金融仲介機能の適切な発揮を通じて、顧客はもとより地域経済全体にプラスの影響をもたらすことなのかどうかを考えたうえで、こうした後押しする日本銀行の姿勢を感じ取って頂ければと考えています。

§15Takako Masai

「中央銀行としては、銀行合同および都市・地方両銀行の密接な連携を公平な立場から援助し、また相当の努力を払うことを厭わないつもりである。」これは、約 100年前の第一次世界大戦下──スペイン風邪が流行した時期とも重なるのですが──、日本銀行総裁を務めた井上準之助が 1919年4月の全国手形交換所連合会大会で述べた言葉です。もちろん時代背景や置かれている環境は当時と大きく異なりますけれども、ご紹介したのは、中央銀行が、やや先を見据えたうえで、地域経済の発展を支える地域金融機関を後押しする姿勢は、今も 100年前もあまり大きく変わっていないと考えているからです。

§16Question

今日発表のGDPが年率換算で 21%を超えました。コロナの影響からの経済の再開を示すような数字になりましたが、このことについて受け止め、金融政策への影響を教えてください。

§17Takako Masai

本日のGDPの年率換算では、非常に大きなプラスになったわけですが、これだけ大きいと、前期比で見ていくほうが、どれくらい回復しているのかを見やすいと思っていまして、そのベースで受け止めると、その前の期と比較してまだまだ完全に回復している水準にはなっていません。確かに返ってきているものの、まだまだ 2019年レベルに名目の水準でも戻っていませんし、まだまだ回復の過程であると受け止めています。そのうえで、7-9月とそれから10月、足許にかけて言えば、すごく良いニュースもミクロの話ではあって、全世界レベルでみた場合には、映画館などは苦戦をされているわけですが、わが国においては記録的なヒットが生まれたといった明るいニュースもあったと思います。他方で、まだまだ輸送関連で言えば、苦戦をしているというところもあって、徐々に新型コロナウイルス感染症の長期化が拡がるにしたがって、回復がみえている業態と、いまだになかなか回復の道筋と言いますか回復の軌道、角度がなかなか緩やかである業種が、はっきりと分かれてきていると感じています。そのうえで、金融政策に関して言えば、予断を許す状況にはなっていないと思っていますし、ひと月ひと月、ないしは感染状況によっては、例えば飲食関連であれば、日々によっても、顧客の入りも非常にボラティリティが高い状況になっているのではないかと拝察しています。

§18Takako Masai

そういったミクロの観点も含めて、ミクロ・マクロ両輪でしっかりと状況を確認したうえで、今後も判断していきたいと考えています。

§19Question

先ほど、委員が地銀の支援制度の関係で、「正直考えさせられる部分があった」と述べておられました。具体的に、金融政策とプルーデンス政策の棲み分けの、どういった観点から、引っかかるところがあったのか教えてください。

§20Takako Masai

本件については、金融政策決定会合で決定すべき事項であったのではないのか、とか、何故このタイミングなのか、といったご意見があるのは承知していますし、もっともだと思うものもないわけではないと思っています。ただ、政策委員会という合議体での議論等について、私からあまり子細なことを申し上げるのは適切ではないので、差し控えさせて頂こうと思いますが、本件についても、本制度の趣旨や目的、考えられる影響などをあらゆる角度から検討して、総合的に判断したと申し上げたいと思います。ただ、1点申し上げるとすれば、足許、グリーンにせよ、ESGにせよ、DXにせよ、今回の新型コロナウイルス感染症の影響にせよ、様々な変化がはっきりとみえている中で、少し先を見据えるという中央銀行としての視点から、地域金融機関へのインセンティブ付けをするという大きな考え方については、違和感は持っていません。以上