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日本銀行記者会見2021年3月3日片岡剛士, 審議委員

片岡審議委員記者会見(2021年3月3日)要旨

全文

§1Question

まず、本日の金融経済懇談会で地元の経済界の方々とどのような意見交換をされたのか、教えてください。併せて、群馬県経済の印象、先行きの課題をどうみていらっしゃるか、現在続いている1 都3 県の緊急事態宣言の影響等もお伺いできればと思います。

§2Goushi Kataoka

本日の懇談会では、新型コロナウイルス感染症の影響が続く中でオンライン形式の開催となりましたが、群馬県の行政や金融・経済界を代表する方々から、地域の現状や課題あるいは日本銀行の金融政策運営に関する貴重なお話やご意見を多数頂きました。大変有意義な意見交換ができたものと認識しております。まずは、この場をお借りしまして、ご出席頂いた方々や、関係者の皆様方に厚く御礼を申し上げます。懇談会で伺いましたお話やご意見、ご要望について、私なりに整理をしながら、印象や感想を申し上げたいと思います。まずは足許の群馬県の景気についてですが、感染症の影響によって、宿泊・飲食をはじめとした対面型サービス業は大変厳しい状況にありますが、外需の回復を背景に自動車産業など製造業を中心とした持ち直しの動きが続いているとの声が聞かれました。こうした状況のもとで、行政や金融界、経済界では、中小・零細企業の資金繰り支援や雇用維持に向けた施策を引き続きしっかりと行っているというお話を伺いました。また、デジタル化や高付加価値化に向けた行政と産業が一体となった取組みについても伺いました。

§3Goushi Kataoka

特に、群馬県経済において大きな比率を占める製造業のデジタル化が課題であり、そのためには高スキル人材の育成、大都市圏で学ぶ大学生のUターン・地元就職促進、高スキル高齢者の活躍の場の拡大といったことに取り組むことが重要であるとの見方が幅広くありました。また、中小・零細企業の経営者が高齢化する中で、感染症によって影響を受けている企業も多く、円滑な事業承継に向けた支援が急務であるとの声も多かったように感じています。日本銀行に対しては、感染症の影響が長期化し、先行き不透明な状況が続くもと、「新型コロナ対応金融支援特別オペ」などを通じた企業・家計の資金繰り支援策が、地域経済の下支えとして効果を発揮しているとの声が聞かれました。また、金融機関の方々からは、低金利環境が長期化するなど、経営を取り巻く環境は厳しくなっているものの、先般開始された「地域金融強化のための特別当座預金制度」などを活用しつつ、経営基盤の強化を図っていきたいといった声が聞かれ、心強く感じた次第です。日本銀行としては、当面、感染症の経済・物価への影響を注視し、必要があれば、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じていく方針です。今後とも、前橋支店を通じて、群馬県の金融経済動向を丹念に調査し、政策運営に活かしてまいる所存です。

§4Goushi Kataoka

それから、群馬県経済に対する印象や先行きの課題ですが、まず、群馬県の金融経済の現状については、先日前橋支店が公表している通り、「県内景気は、感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している」と判断しています。製造業をみると、自動車関連では、海外販売の好調や国内の新車投入により、生産水準が引き上げられています。また、電気機械では、 5G基地局やデータセンター向けといったIT関連需要の拡大を受け、生産が増加しています。足許では、世界的な半導体不足により自動車関連で供給面の制約がみられていますが、生産全体として、振れを伴いながらも増加していると考えています。一方、サービス業については、巣ごもり需要を背景にスーパーや家電量販店は持ち直しているものの、去年の秋からの感染再拡大に伴うGo To トラベル事業の停止や先日まで要請されていた県内飲食店の営業時間短縮等を背景に、宿泊・飲食といった対面型サービス業は厳しい状況となっています。景気の先行きについては、感染症の影響に関する不確実性は大きいものの、総じてみると改善基調を辿ると考えています。内外の自動車需要は堅調に推移し、IT関連需要も拡大が続くとみられます。また、個人消費も、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、基調としては持ち直しが続くと考えています。

§5Goushi Kataoka

先行きの課題についてですが、アフターコロナを見据え、中長期的な成長に向けて取り組んでいくことが重要であると考えています。具体例として、金融経済懇談会では、現在の群馬県を取り巻く環境を踏まえて、二点ほど指摘させて頂きました。一点目は、テレワークの推進や首都圏への通勤者の移住促進といった取組みです。人口減少のインパクトを抑制し、地場経済を活性化することにもつながります。二点目は、県内総生産に占めるシェアが高い自動車産業で、産学官が連携して、安全・自動・電動といった次世代を見据えた取組みを進めることです。この点、関連企業では従来から積極投資が行われていますし、近年は、産学官が連携した自動運転技術の研究や実証実験が進められています。こうした動きは群馬県の成長力を大きく高める方向に働くと考えられます。私どもとしては、群馬県内の金融経済情勢について、前橋支店を通じて今後もきめ細かい調査、広報活動を続けるとともに、中央銀行の立場から経済の持続的成長の実現や金融システムの安定性確保を図ることで、群馬県経済を支える関係者のご努力がより大きな成果につながるようサポートしていきたいと考えています。

§6Question

講演の中で、金利の引き下げについての言及があったかと思います。委員は、かねてより金利の引き下げが必要であると主張されてきたようですが、一方で、マーケットでは、マイナス金利の深掘りというのは副作用が大き過ぎて実際には実行し得ないのではないかと、そのような見方が有力になっているように思われます。これは日銀と市場とのコミュニケーションが上手くいっていないことのあらわれではないかと思うのですが、この点についての委員のご意見をお伺いできればと思います。

§7Goushi Kataoka

私自身、直近の金融政策決定会合でも、金利を短期、長期の両方において、より低位に推移するような形で運営したほうが良いのではないかということを申し上げておりますけれども、これ自体は、現行のイールドカーブ・コントロールの枠組みのもとで、より緩和的な基調を強めた方が、2%の「物価安定の目標」を早期に達成できるのではないかという観点から主張しているということです。より具体的に申し上げますと、現行のイールドカーブ・コントロールの枠組みは、経済を加熱も停滞もさせない、という意味での均衡実質イールドカーブとの対比において、現状のイールドカーブがどの程度の形で推移するか、それによって緩和度合いを測るということなのですが、現状の均衡イールドカーブとの対比でいうと、実際のイールドカーブをより低位に推移させたほうが良いのではないかというのが、私自身の基本的な認識です。こうした低金利を続けるということになると、特に金融機関の方々にとってそれは貸出金利の低下につながりやすいということは、ご指摘の通りだと思います。こういう低金利環境が長く続けば、金融機関の利鞘縮小にもつながり、ひいては、金融仲介機能にも悪影響が及ぶのではないか、こういうご指摘があることは重々承知しています。

§8Goushi Kataoka

ただ、私自身は、そうした金融仲介機能が、近い将来、現行の日本銀行が行っている金融政策によって毀損されるのではないか、ないしは、私が主張しているような政策を行うことによって金融仲介機能が損なわれるのではないか、とは考えていないということです。先ほど、コミュニケーションという話がご質問として出ましたが、こうした認識に対して、それは民間ないしは市場の方々がそのように理解していないのだからコミュニケーションの問題であると言われれば、その通りと言わざるを得ないと思います。しかし、そうした、誤解というわけではありませんが、考え方に対して、日本銀行としての金融政策の考え方をしっかりと説明していくという趣旨も含んだ形で、今回、点検作業を行っていますし、その結果を次回の金融政策決定会合で公表していくという流れになると私自身は認識しています。

§9Question

先ほどの質問にも関連して二点ほどお伺いしたいのですが、まず点検のところで、委員がご指摘されている金利の引き下げということも含めて点検を、ということだったかと思うのですが、政策点検にあたっては、従来から金融政策の効果と持続性を高めるということが目的ということは、今回の講演のところで委員もご指摘されていたかと思います。改めて、今回の金融政策の点検と、委員がかねてより主張されてきた金利の更なる引き下げ、というところの考え方をどのようにご覧になっているのかを伺いたいのが一点目です。もう一点は、足許のマーケットで、今ちょっと落ち着いていますけれども、長期金利、米国金利も含めて海外金利が上昇する中で、足許国内の金利も上昇した場面もありました。金利が上昇していくと、なかなか緩和の効果が十分に発揮されないということも考えられると思うのですが、そうした足許のマーケットの金利水準に対してのご見解も、併せてお伺いできればと思います。

§10Goushi Kataoka

点検の件についてですが、講演でも申し上げた通り、私自身は、より効果的で持続的な金融緩和を実現するための点検は、これまで日本銀行が行ってきた政策の全てについて、経済や物価に与える効果をしっかり分析・検証していくことがまず大事であると考えています。点検をした結果次第ですけれども、その結果を受けて今後どうしていくかは、やはり考えていく必要があります。先ほどのコミュニケーションの観点からみても、足許物価が 2%になかなか届かないという現状を踏まえると、先々の動向について、どういうアウトライン、どういう形で金融政策を運営してくのか、そのことによって、マーケットの方々に対しても信認を勝ち得ていくというところは必要だと思います。そのための説明の素材になるようなものが出れば良いのではないかと個人的には考えています。そうした話と、実際私自身が主張してきた話とがどのように関係するのかということですが、私自身は常に足許の経済動向・物価動向、それから自分が考えている先行きの経済動向をみながら、そこを前提としながら、日本銀行として行うべき当面の金融政策はこれであるということで申し上げています。このため、その点検云々の内容や作業といったところとはあまり直接的に関係がないのではないかと思っています。

§11Goushi Kataoka

ただ、もちろんこれまで行ってきた金融政策が目標と照らしてどのような効果があり、それが 2%の「物価安定の目標」に対して有効なのかという観点に立ってみれば、やはり今行っている点検は有用であるという認識を持っています。そういう意味では、どういう内容であるかという話は申し上げられませんが、今行っている作業・議論は、私個人が今後の金融政策を考えていく上でも非常に有用であると感じている次第です。それから海外金利の話ですが、ご案内の通り、米国の長期金利が上昇し、そのことによって相場が変動しているところがあります。米国の長期金利が上昇していることの背景は、ひとえに米国の財政政策の影響、それから先行き財政政策ないしはワクチン等の導入によって景気が大きく浮揚し、物価上昇率も高まっていくのではないかという先々の期待が、長期金利上昇につながっているのではないかと思っています。わが国においても多少金利が上昇しているところはありますが、そうした要因によって海外の影響を受けて上がっている側面もありますし、国内では、政府の大規模な経済対策が行われる予定ですので、そうしたところも踏まえての動きだと思います。

§12Goushi Kataoka

こうした動きを踏まえて日本銀行の金融政策としてどうなのかということですが、ご案内の通り、日本銀行においては、長期金利について、ゼロ%を中心に±0.1%の概ね倍の範囲内まで許容するというスタンス、方針のもとで、実際金利をコントロールしていますので、その方針のもとで粛々と運営していくということだと思います。もちろん、突発的に金利が大きく上昇するような局面があれば、弾力的な措置を講じるということもあり得ますけれども、現行ではそこまでの状況とはみていません。

§13Question

現在出ている緊急事態宣言の影響の関係でお伺いします。現在首都圏の 1 都3 県に出ておりまして、今週末が期限になると思うのですが、この解除について慎重な声も出ている中で、もし延長となった場合には、経済あるいは物価に与える影響はどういったものが想定されるのか、というお考えについてお聞かせください。

§14Goushi Kataoka

先行きどうなるのかということは実際起こってみないとわからないところもありますし、実際、緊急事態宣言が延長されるかどうか不明なところもあります。このため、仮定の質問にはあまり答えたくはないところではあるのですが、仮に延長になると、現状起こっている、例えば飲食店等のサービス業、消費に絡むところへの業務の制限のような話が続くことが見込まれますので、そうしたところへの影響が持続することがまず考えられます。そうした話を経由して、例えば、家計消費への影響も出てくるのかもしれません。いずれにしましても、日本銀行では4月の金融政策決定会合後に展望レポートという形で、その辺りの状況も踏まえた形で別途経済見通しを提示する予定ですので、仮に大きな影響が出そうだとか懸念すべきことがあるということであれば、見通しを修正していく流れになるかと思っています。

§15Question

雇用関係のことでお伺いしたいのですが、足許これだけひどい経済の割に、非製造業、サービス業で厳しい状況が続いているにもかかわらず、マクロでみると失業率はまだそんなに上がっていません。政府の支援策が大きく影響しているというのは分かるのですが、サービス業がやはり厳しい局面が続く中で、マクロの失業率やマインド等が悪化するリスクについて、現状ではどのように見ていらっしゃるかお伺いしたいと思います。

§16Goushi Kataoka

非常に重要なポイントだと思いますけれども、現状やはり雇用市場に対してあまり波及していないというのはおっしゃる通りだと思います。こうした状況になっているのは、わが国の雇用市場で、足許の景気の動きに対して影響を受けるという要素以外にも、底流として人手不足の流れが持続しているところが、もう一つの背景にあるのかと思います。人手不足については、年を追うごとに高齢化も進んでいきますし、特に地方になればなるほどその影響が深刻になると思います。更に言えば、例えば情報化のような流れがコロナ後により進んでいくことになると、そうした人材へのニーズは、景気が良くなるないしは悪くなるという循環的な要因にかかわらず高く、人手不足ということになるので、そうしたところがある意味下支えの一つになっているのではないかと思います。足許の景気の動向についても、本日の群馬県の金融経済懇談会の中でも何人かの方から、リーマンショック前後の落ち込みと比べると、影響はあまり深刻ではない、甚大ではないというご指摘を頂いています。ある意味、そうしたところは、いち早く政府、日本銀行を含めて資金繰り対策に動いたり、企業の方の苦境に対して資金を提供して、実際に働いておられる人たちの雇用を守ろうとしているという点も、とても影響しているのではないかとみています。

§17Question

成長投資の関連で伺います。講演の中で、金融緩和によって成長投資を後押しすることは、感染の拡大と必ずしもトレードオフの関係にはないと言及されていると思うのですが、ここでおっしゃる成長投資のイメージをまずお聞かせ頂きたいのと、この成長投資の後押しに向けて更に取組みを模索する必要性についてどのようにお感じでしょうか。

§18Goushi Kataoka

成長投資云々について、現状がどういう局面にあるのかということをまず認識しておく必要がある気がします。特に、コロナの状況があり、そこから徐々に感染の状況が変わっていくという局面においては、やはり日本経済ないしは世界経済、社会といったものの様相がこれまでとは大きく変わってくるのではないかと認識しています。同じようなことは、例えば、スペイン・インフルエンザが蔓延した第一次世界大戦直後辺りでも、やはり日本の社会・風俗みたいなものは様相が大きく変わってきたということがあります。ですから、良くも悪くも状況が変わってくるということは頭に入れておく必要があると思います。そうした変化に経済として対応していくためには、私自身は、やはり設備投資が必要であるし、そうした新しいものに対応していこうという企業の方のマインドを、金融政策の側からしっかり後押ししていくことが必要であると考えています。もちろん、コロナ禍の状況においては、足許、資金繰り支援策を中心として、何よりも現状をどうしたら良いかというところに注力すべきなのは当然だと思います。しかし、段々新型コロナウイルス感染症の動向が長期化する中で、ワクチン等の導入も進み始め、先行きについても展望が少し見え始めてきているという状況においては、特に企業の方の前向きな設備投資の動きをサポートしていくことが必要であるという認識です。

§19Goushi Kataoka

ですので、あえて対象を絞るわけではなく、例えば、巷で言われている情報化といったものに対する投資もそうですし、その他、企業が新たな挑戦をしたいということであれば最大限それをサポートしていきたいということを申し上げている次第です。

§20Question

点検の話に戻るのですが、講演でも必要だと考えるものとしてリスク資産の買入れを挙げていらっしゃると思うのですが、 ETF等の買入れについては副作用を指摘する声もありますし、点検の重要な項目であると思うのですが、現状の買入れにもし問題があるとすれば問題点をどうお考えか、委員としてはどのように問題解消に向かうべきという視点を持っていらっしゃるか、お聞かせ頂ければと思います。

§21Goushi Kataoka

ETFの買入れについては、まず目的があるわけですが、その目的に照らして現状の買入れが目的を達成するような形になっているのかどうか、つまり市場のリスク・プレミアムを低下させるという役割があるのかどうか、というところをまず検討することが重要だと思います。その上に立って、日本銀行が行っている政策が株式市場を歪めているのではないかという指摘もあるかと思うのですが、私自身は、日本銀行が買い入れているETFの金額などを見る限りにおいては、懸念されているような話は当たらないのではないかと思います。いずれにしましても、現状の点検の中で、頂いているようなご指摘に対してはどのような回答があり得るのか検討している状況だと思いますので、そこは3月の金融政策決定会合後の発表をご覧頂きたいと思います。

§22Question

関連するのですけれども、講演でも、コミットメントに関して緩和を強化することが必要であると考えていらっしゃると、はっきり述べられています。一方で、この点検をめぐる議論では、副作用の話が必ず出てきていて、場合によっては緩和を抑制的にすると、必ずしも強化とは受け止められないような情報も出ています。この部分、懸念されていることがおありになるのかどうか、改めてご意見をお聞きしたいと思います。

§23Goushi Kataoka

点検でどういう議論をしているかという話は、繰り返しですけれども、次回の金融政策決定会合で公表される結果をご覧頂きたいと思っています。私自身は、自分の主張を、何か違う要因で、こっちの方向にしたほうが良い、あっちの方向にしたほうが良いなどと、そういう趣旨で今緩和をすべきだと申し上げている訳ではなく、あくまで足許の日本経済ないしは 2%の「物価安定の目標」との兼ね合いで今何をすべきかという視点で申し上げているということをご理解頂ければと思います。以上