片岡審議委員記者会見(2021年9月2日)要旨
全文
§1Question
二点質問させて頂きます。一点目は、本日の金融経済懇談会で、地元の経済界の方々とどのような意見交換がなされたのでしょうか。二点目は、長崎県の経済に対する印象や今後の先行きの課題について、どのようにみていらっしゃいますか。
§2Goushi Kataoka
本日の懇談会は、新型コロナウイルス感染症の影響が続く中で、オンラインでの開催になりましたが、長崎県の行政や金融経済界を代表する方々から、地域の現状や課題、あるいは日本銀行の金融政策運営に関する貴重なお話やご意見等を多数頂きました。大変有意義な意見交換ができたものと認識をしています。この場をお借りして、ご出席頂いた方々や、関係者の皆さま方に深く御礼を申し上げたいと思います。懇談会で伺ったお話やご意見、ご要望について、私なりに整理しながら、印象や感想を申し上げたいと思います。まず、長崎県の足許の景気については、新型コロナウイルス感染症の拡大により、宿泊・飲食をはじめとした対面型サービス業を中心に厳しい状況に置かれているほか、こうした影響が食品製造業など関連する産業にも波及しているといったお話や、造船業についても近隣アジア諸国との激しい競争に晒されており厳しい状況が続いているといった点を伺いました。その一方で、半導体関連企業ではデジタル需要への対応のため能力増強投資が進んでいるほか、その他製造業でも前向きな設備投資の意欲がみられているとの声が聞かれました。こうしたもとで、行政や金融界、経済界では、中小・零細企業の資金繰り支援や雇用維持に向けた施策を引き続きしっかりと行っているとのお話を伺いました。
§3Goushi Kataoka
また、長崎県では人口減少や若年層の県外流出が大きな課題となっていて、先行き、県内産業や雇用に大きく影響を及ぼし得るとの強い危機感が聞かれました。こうした課題への対応として、長崎市を中心とした大規模な再開発を通じた街の魅力の向上、半導体産業や航空機産業といった成長産業の振興や企業誘致による雇用機会の提供、西九州新幹線の開発など大型プロジェクトを契機とした国内人口の減少やアフターコロナといった構造変化も見据えた観光振興への施策など、産学官金といったものが緊密に連携し、様々な観点から前向きな取り組みを具体的に進められているという点が強く印象に残るとともに、大変心強く感じた次第です。金融面については、感染症の影響が長期化し、先行き不透明な状況が続くもとで、県内企業の資金繰りは落ち着いた状態が続いているとのお話が聞かれました。もっとも、制度融資の返済が始まるタイミングになりますと、企業の資金繰りは今後一層厳しくなるとの声や、前向きな設備投資を行ううえでの資金調達環境のより一層の充実・支援といったものが必要であるとの声が聞かれました。本行としては、当面、感染症の経済・物価への影響を注視し、必要であれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じていく方針です。今後とも長崎支店を通じて、長崎県の金融経済動向を丹念に調査し、政策運営に活かしてまいる所存です。
§4Goushi Kataoka
それから長崎県経済に関する印象や先行きの課題についてどう考えているのかといった点ですが、まず、長崎県経済の現状については、長崎支店で既に公表しているとおり、「緩やかに持ち直しているが、感染症の影響から引き続き足踏み感がみられている」と判断しています。より具体的な形で申し上げます。個人消費をみますと、感染再拡大の影響を受けて、外食などサービス消費に対する下押し圧力が強い状態となっています。長崎県経済への影響が大きい観光も低水準です。もっとも、製造業の生産は、半導体産業の受注好調を背景に、全体としてみると持ち直しています。設備投資についても、半導体関連企業の大規模投資に加え、長崎市内を中心に大型の建設投資が複数みられることもあって、製造業、非製造業とも増加しています。先行きについては、当面の間は、感染症を巡る不確実性が大きい状態が続くと想定されますが、ワクチン接種の進捗などから感染症の影響が徐々に和らぐもとで、経済は持ち直し基調を辿ると考えています。また、中長期的な観点からみますと、挨拶要旨でも申し上げたとおり、長崎県経済には、人口減少や造船を巡る事業環境の変化といった課題はありますが、将来の成長につながる前向きな動きがいくつかみられることも特徴です。
§5Goushi Kataoka
来年秋の西九州新幹線の開通に向けて、沿線の整備工事と開通工事が進んでいますし、長崎駅周辺では、商業施設やMICE施設、長崎スタジアムシティなど大型の再開発プロジェクトが進行中です。また、近年では長崎市を中心にIT関連企業の進出が相次いでいるほか、航空機産業を担う企業の裾野拡大や海洋産業のクラスター形成に向けた取り組みなども行われています。こうした動きは、長崎県経済の将来の成長力をより高める方向に働くと考えています。日本銀行としては、長崎支店を中心に、中央銀行の立場からこうした前向きな様々な取り組みをサポートしてまいりたいと考えている次第です。
§6Question
いま最後の方で長崎の経済の成長をよりバックアップしていく必要があるとおっしゃいました。長崎県は上場企業が一つもないという県です。そうした中で、スタートアップなどパワーのある企業を作っていこうという動きは県内であるのですけれども、なかなか今までのところは成果が出ていないようにみられます。そういった意味で、大きな会社、それから経済を引っ張っていくような企業を作っていくうえで、どのような施策が重要かとお考えでしょうか。
§7Goushi Kataoka
本日、懇談会で長崎県、長崎市の産学官金の連携の枠組みと、その中でのスタートアップ、ないしは長崎市自体は非常に人口減少が進む中で若者人口の流出が進んでいますので、そうした流出を止めるための色々な対策についてもお話を伺いました。現状なかなかその成果が上がっていないというお話もありましたが、私が本日伺った色々な政策、ないしは金融界・財界の皆さま方のお話を伺う限りでは、先行きに関しては非常に明るい展望を個人的には持った次第です。そうした意味では、今取り組んでおられる様々な産業施策というものが形になるよう、私ども日本銀行としては、日本経済全体をウォッチする観点から、政策をしっかり実施していきたいと考えている次第です。
§8Question
午前の講演で、コミットメントの強化に関しまして、財政と金融の更なる連携が必要であると、そういうご趣旨の発言をされておられました。これは具体的に、政府・日銀の「共同声明」の見直しというものを指しておられるのか、財政・金融の連携の内容と狙いを含めてコミットメントに関する片岡委員の具体的なイメージにつきまして、もう少しご説明をお願い致します。
§9Goushi Kataoka
私自身は、現状の金融政策よりも更に一歩緩和を進めるべきだと、そういう観点のもと、具体的には長短金利操作における金利操作の更なる金利低下促すということ、その一方で、コミットメントの強化を通じて、2%の「物価安定の目標」に対する信認をより強めると、そういうことが重要であると申し上げてまいりました。足許、先日のジャクソンホールにおける色々な金融政策に関する話題にも出ていますが、やはりECBやFRBの動きをみますと、金融政策に加えて財政政策との関わりというものが非常に重要になってきていると、こういう考え方がより浸透してきているのではないかと考えています。そうした文脈の中で、ご質問の更なる連携について、具体的にはどのような連携ができると考えているのかということですが、まず金融経済政策運営については、そもそも政府と日本銀行が十分な意思疎通を図ることが必要で、この点は日本銀行法にも明記されているとおりです。
§10Goushi Kataoka
具体的な点については、例えば、新型コロナウイルス感染症への対応で、現状、政府と日本銀行は連携しているわけで、こうした点についてももちろんですが、私自身は、感染症が落ち着いてからの日本経済を再び成長軌道に乗せて、低成長・低インフレ・低金利といった長年の課題を克服するうえでも、財政・金融政策、そして成長政策の連携を強化するとともに、それぞれが役割をしっかり果たしていくということが重要であると考えています。この際、その具体的な財政政策や成長政策については、政府・国会の責任において適切に行われるものと承知していますが、私どもとしては、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するという政府との「共同声明」のもとで、目標達成に向けて、強力な金融緩和を行っていきたいと考えている次第です。「共同声明」全般に関しては、この場ではなかなか申し上げられないわけですが、少なくとも、私どもとしては、「共同声明」のもとで、金融政策の観点から「物価安定の目標」をできる限り早期に達成する必要があり、その役割をしっかり果たしていくと。他方で、政府においても、自らのご判断のもとで、財政政策や成長政策については適切に判断されるものと期待していますので、そうした両輪の協力というものを、よりお互いが意識しあって行っていくというのが、更なる連携といったところのイメージです。
§11Question
本日午前の講演でも、それから従前から審議委員がおっしゃっているように、長短金利操作の引き下げ等を含む緩和を更に進めるべきだということをおっしゃっていたと思うのですけれども、足許ワクチンが進んでいるとはいえ感染が日本でも拡がっていて、かつ日本の企業を成長させていた世界経済もやや少し減速懸念が出てきている中で、国内の緊急事態宣言も一応いつ終わるかわからないという状況で、それをする緊急度というか、必要性が足許で更に高まっているとお考えでしょうか。
§12Goushi Kataoka
ご指摘のように、足許の経済動向、ないしは世界経済の動きというものをみていきますと、より思い切った政策をとっていく必然性というのは、私自身の中では増しているのではないかと思っています。
§13Question
今日の朝の講演の中で、今いくつかやりとりがありましたけれど、強力な金融緩和が必要であると従来のお考えをまた改めてご説明して頂いた中で、積極的に国債を買い入れると言及されています。例えば、積極的に国債を買い入れる部分ですけれども、量とかペースとか、何か定量的なイメージというか考え方がもしあれば教えて頂けますでしょうか。
§14Goushi Kataoka
定量的なイメージは、当然、私自身は持っていますが、金融政策決定会合の場で議論することになっていますので、具体的なお話は差し控えさせて頂きたいと思います。そのうえで、いくつか申し上げますと、私自身、イールドカーブ・コントロールのもとで金利をより低くする、全体的に低くすることが望ましいと申し上げているわけですが、そのイメージはひとえには政策金利の起点となる一番年限の短い部分について、よりマイナス金利の深掘りも含めた対応を取っていくことに加えて、10年債以降も含めて、より金利を低位に向かわしめると、そういう形の方策の一つとして国債買入れもあり得るということですので、そうした部分が望ましいと考えているとご理解頂ければと思います。
§15Question
大きく二点あるのですけれども、今回の午前中の講演の中で、輸出について中国含むアジアが堅調ということで、この先も全体的に強い基調が続くのではないかという見方を示されていましたけども、足許中国の民間の製造業PMIとかをみると、少し弱くなっていて、景気回復の鈍化傾向というシグナルが出ていると思うのですけれども、その辺りが日本の生産・輸出にどういう影響を与えてくるのか、ということが一点です。もう一点が、気候変動の問題について講演でも言及されていたと思うのですけれども、日銀は今年に入って地域金融機関の強化に向けた特別付利制度も始めたりしていて、物価目標が達成できてない中で、日銀のカバーする範囲が広くなっているのではないかという見方もあると思うのですけれども、その辺りのご見解についてお伺いできればと思います。
§16Goushi Kataoka
一点目の輸出の先行きですが、ご指摘のように中国のPMI等をみますと、先行きの景気に対してやや弱含みを示すようなシグナルがいくつか出てきているのは事実です。現状としては、そういったものをみて、すぐに景気後退かといわれるとそういう状況ではありませんので、その辺については実際の統計をみながら、今後先行きの輸出について判断していくということかと思います。それから、東南アジアの一部の国々についても足許で感染症が拡大しているという状況でして、この部分についても同様の認識を持っています。それから二点目のお話ですが、気候変動の問題については、金融経済学者の中でも中央銀行のマンデートとの絡みにおいて、色々なご意見があることは承知しています。一方で、物価安定を通じて、中長期的な経済の安定に資することを行っていくという日本銀行のマンデートと照らしてみますと、足許、様々な大雨や台風といった天変地異が具体的な被害として出ていて、それが経済動向や皆さま方の所得や暮らし向きにおいても影響が出てきている状況を踏まえれば、やはり日本銀行としても、微力ながらそうした気候変動問題に対してコミットしていく必要が幾ばくかあるのではないかと感じています。
§17Goushi Kataoka
2%の「物価安定の目標」がなかなか達成に向けた道筋が描けない中で、ご質問の地域金融機関や気候変動の話というものに手を出すのはいかがなものかと、そういったご指摘があるのは承知をしています。私どもとしては、あれもこれもやるつもりというよりは、色々な問題が重要なので、物価安定目標の達成と合わせて、様々な目標についてもしっかりと目配りをしていくと、そういう意識でやっていますので、その点はご理解頂ければと思います。以上